過去には考えられなかったほどの大量の情報に触れる現代社会において、さまざまな教育情報に触れるうち、たくさんの「こうしなければならない」「こうしては駄目」という思い込みを抱いている人も少なくないようです。そこで、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらいました。短期連載第2回目の「やらなくてもいいこと」は、「好き嫌いをなくさなくていい」「読み聞かせしなくていい」「子どもの問題に介入しなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと4】好き嫌いをなくさなくていい小学校での給食の時間、苦手な食べ物をなかなか食べられなくて苦しんだ経験がある人は多いでしょう。もちろん、健康な体をしっかりつくるためには、好き嫌いなくなんでも食べられることが大切です。ただ、小学校で子どもたちに給食を全部食べさせようとしたのは、「なんでも受け入れられなければいけない」とか「苦手なものも我慢できないといけない」といった、精神修業的な意味合いがあったように思います。そもそも、健康な体をつくるために必要な栄養を取ろうと思えば、無理やり苦手な食べ物から取らなくても、別の食べ物からだっていくらでも取ることができますよね。たしかに、好き嫌いなくなんでも食べられるのはとてもいいことです。でも、本当に苦手なものを無理やり食べさせるようなことをする必要はないはず。というのも、そういうことを繰り返せば、子どもにとって食事の時間が楽しいものではなく、つらいものになりかねないからです。その子が、食事に対して苦い思いを持ったまま成長したとしたらどうなるでしょう?家族団らんの場の中心は食卓ですよね。でも、その子は、大人になって家庭を持っても、家族と食卓を囲む時間を楽しいと感じられない……。そんな家庭では、どこでどう家族との絆を深めるというのでしょうか。無理をして苦手な食べ物を食べることなんかよりも、「家族との食事の時間は幸せだ」と思えることのほうが、その子の人生にとってはよほど重要であるはずです。【やらなくてもいいこと5】読み聞かせしなくていい絵本や本の読み聞かせについては、教育界においていまもむかしもとても重要なものだとされています。たしかに、幼少期の読み聞かせは、子どもの世界を大きく広げる可能性が高い、親子でできるおすすめのアクティビティです。でも、なかには読み聞かせに反応を示さないという子もいるでしょう。一部には、「ディスレクシア」という識字障害の子どももいます。そういう子どもに無理やり読み聞かせをしたとしても、そこから得られるものはそう多いわけではありませんし、読書が好きになるという可能性も低いでしょう。そして、時代はどんどん変化しています。これまで読み聞かせが大きな力を発揮したのは、ペーパーテストが人生の大半を決めるという時代だったからです。文字からなんらかの情報をインプットし、文字としてアウトプットするという力が問われたのがこれまでの時代でした。しかし、2020年の大学入試改革が象徴するように、ペーパーテストで高得点を取るという能力が人生に有利に働くということは、これまでよりも減っていくとも考えられます。また、いまはインターネットの普及やIT技術の進歩により、スマホやタブレット端末用のアプリなど、これまでになかったさまざまなメディアが生まれている時代です。つまり、文字だけに頼らずとも情報をインプットできる機会が増えているのです。いまなら「YouTube」をはじめとした動画共有サイトで情報を得ることもできるでしょう。もし、子どもが読み聞かせに反応を示さないのであれば、絵本や本にこだわらず、子どもに合ったメディアをチョイスしてあげることも、これからはひとつの方法だと思うのです。あるいは、小さい子どもに対してなら、そういったメディアに頼らずともできることがあります。それは、読み聞かせではなく「語り聞かせ」です。これは、有名なシュタイナー教育で行われるものです。シュタイナー教育では、子どもたちに絵本の読み聞かせをするのではなく、先生が子どもたちの目を見ながら、物語をそらで話して聞かせるのです。そうして言葉のシャワーを浴びせることも、十分に読み聞かせの代わりになる。それどころか、絵本ではなく先生の目を見て話を聞くことで、人の話をきちんと聞く姿勢を育むことになるのです。【やらなくてもいいこと6】子どもの問題に介入しなくていい親というのは、自分の子どものこととなると、ささいなことでも心配してしまうものです。子どもが幼稚園や小学校で友だちと喧嘩したとなったら、「早く解決してあげなければ」なんて考えて、つい介入したくなるものです。もちろん、子ども同士のトラブルが長引いて、いじめにつながるような危険性があるとか、子どもが本当に深く落ち込んで心が折れているような場合であれば、親が介入することも必要でしょう。でも、そうではない多くの場合においては、子ども同士に任せておくことが大切です。というのも、それは子どもにとって大きな学びの場面だからです。コミュニケーション能力が未熟な子ども同士は、小さなことでもトラブルを起こします。そして、コミュニケーション能力の未熟さゆえに、なかなか仲直りできないということもある。でも、時間が経てば、未熟ながらも子ども同士で折り合いをつけていく。それは、社会で生きていく大人になるための大事なステップであり、コミュニケーション力を向上させるための、最良の教材です。そういった大切な機会を、「子どもが心配だから……」と、親が簡単に奪ってしまわないように気をつけてください。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと(※近日公開)第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由(※近日公開)■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月07日「子どもの将来のために、いい親でありたい」と考える真面目な人ほど、「こうしなければいけない」「こうしては駄目」といった家庭教育に関する多くの情報にがんじがらめになっています。そこで、気鋭の教育ジャーナリスト・おおたとしまささんに、子ども教育において「やらなくてもいいこと」を、あえて逆説的に挙げてもらいました。短期連載第1回目の「やらなくてもいいこと」は、「ガミガミ叱らなくていい」「朝は起こさなくていい」「夫婦の意見はそろえなくていい」の3つです。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)【やらなくてもいいこと1】ガミガミ叱らなくていい真面目な人ほど、「きちんと子どもにしつけをしないといけない」と考えます。もちろん、それはそれで正しいことですが、注意してほしいのは「しつけ=叱る」ではないということ。どうも、厳しく叱らないと「しつけができない」と考えている人が多いようです。でも、ガミガミと叱らなくてもしつけはできる。だいたい、子どもができないことは、強い口調で伝えたからといってできるようになりません。どんなに親が「ああしなさい、こうしなさい」といってもできないのなら、「このことは、この子にはまだできないんだな」と考えるべきです。まさに成長の真っ只中にある子どもにとっては、いまはできなくても、そのうちできるようになることもたくさんあるのですから。そして、口で伝えることだけがしつけではないと思うのです。わたしが考えるいちばんのしつけとは、子どもに親が手本を見せること。あいさつなんてそれこそ手本を示しやすいものでしょう。たとえば、子どもと散歩中に幼稚園の先生など知り合いに会ったとします。子どもがあいさつをできなかったからといって、「ちゃんとあいさつしなさい」というのではなく、親が「こんにちは」と先生にあいさつをすればいい。そういう親を見て育てば、子どもは自然に「そういうものなんだな」と思ってあいさつができるようになるはずです。普段から親がそういう手本を示していれば、もし子どもがやるべきことを忘れたような場合にも、その親の手本を思い出せるはずです。あいさつのケースなら、普段からあいさつができているような子どもも、たくさんの人が集まっているような場では、その状況に驚いてあいさつを忘れてしまうこともあるでしょう。そういうときも、まずは親がまわりの人にあいさつをする。そして、「こういうときはなんていうんだっけ?」と子どもに伝えてあげれば、子どもは「そうだ!」と思い出して、あいさつできるでしょう。そういった経験の積み重ねこそが、子どもにとって最善のしつけになると思うのです。【やらなくてもいいこと2】朝は起こさなくていい「朝は起こさなくていい」といっても、誤解はしないでください。小さい子どもに、自分で目覚まし時計をセットさせ、ひとりで起きるようにしたほうがいいというわけではありません。自分ひとりで起きられるようになるのは、やはり思春期頃からのことでしょう。もちろん、小さい子どもなら親が起こしてあげる必要があります。でも、小学生にもなれば、子どもに何度声をかけても起きないのであれば、そのまま放っておいてもいいと思うのです。なぜなら、子どもに「失敗の経験」をさせることも重要だからです。ご自身がはじめて小学校に遅刻したときのことを思い出してみてください。廊下には誰もいなくて、もうすでに授業がはじまっている教室に入るだけでも緊張したものですよね。そして、教室に入ろうとしたら、友だちの注目を一身に浴びる……。その恥ずかしさといったらないでしょう。そういう失敗によって痛い目を見れば、その子は緊張感を持ってきちんと起きようとするはずです。もちろん、学校には親としてきちんと連絡しておく必要があります。まずは担任の先生に子どもが遅刻することを謝罪し、「あえて遅刻をさせるから、しっかり叱ってください」と、今後のために意図的に失敗をさせたい旨を伝えれば、先生もきっと理解してくれるはずです。【やらなくてもいいこと3】夫婦の意見はそろえなくていい夫婦というのは、とくに子どもの教育方針については互いの意見を一致させたいと考えるものです。でも、他の多くのこともそうであるように、それぞれ別の人間である夫婦の意見が完全に一致するということはあり得ないといっていいでしょう。そこで無理に意見をそろえようとすると、夫婦関係がうまくいかなくなるということにもなりかねません。もちろん、夫婦で話し合うことは大切。でも、夫婦円満のためにも、相手を論破してでも意見をそろえようとするのではなく、結論については「遊び」を持たせておくべきではないでしょうか。「こういう生き方をする人間に育ってほしい」というふうな、大まかな方向性が合っていれば十分だと思うのです。その方向性を考えるうえでのアドバイスとしては、固有名詞を使うなどあまり具体性を出さないようにすること。「東大に行くような人間に育ってほしい」「最低でも偏差値60以上の大学に行く人間に育ってほしい」といいはじめては、それこそ夫婦の意見はなかなか一致しません。そして、むしろ夫婦の意見に「幅」があることのほうが、子どもにとっては大切なことだとわたしは考えます。というのも、その幅のなかで子どもの個性が育っていくからです。実際にはあり得ませんが、仮に夫婦のあらゆる意見が一致しているという場合、子どもはその狭い価値観のなかでしか生きられないということになります。でも、夫婦の意見に幅があるほど、子どもは「このことに関しては、お父さんはこういうけど、僕の意見はお母さん寄りだな」といったふうに考えることができます。あるいは、人にはそれぞれ異なる価値観と意見があるということを知ることもできる。夫婦の意見の幅が子どもの視野を広げ、世の中の見方をつくっていくのです。そう考え、仮にシングルの人であっても、子どもの祖父母など自分以外の大人と接する機会をなるべく増やしてあげることが大切なのではないでしょうか。『大学入試改革後の中学受験』おおたとしまさ 著/祥伝社(2019)■ 教育ジャーナリスト・おおたとしまささん インタビュー一覧第1回:いちばんのしつけとは、子どもに〇〇を見せること。親はそんなに頑張らなくていい!第2回:いまの時代、「絵本の読み聞かせ」にこだわらなくてもいいんです。(※近日公開)第3回:才能さがしのための「たくさんの習い事」より、もっと大事にすべきこと(※近日公開)第4回:なんでも「自分で決めさせる」親が、子どもを追い詰めているかもしれない理由(※近日公開)■ おおたとしまささん 過去のインタビュー記事はこちら過当競争極まれり。難関中学への“逆転入学”が子どもに弊害をもたらしている「間に合わせの学力」では人生厳しい。「本質的な学力」を伸ばす“1日10分”の学び学力は人並程度あればいい。「新たな時代」を生き抜くためには“3つの力”が必要だ「教育虐待」のやっかいな実態。今の子どもには“決定的に足りない”時間がある教育虐待をする親とその学歴。その教育、本当に子どものためですか?教育虐待は教育という大義名分のもとで行う人権侵害。でも親の多くは無自覚である失敗経験から学ぶ、学力とは異なる力がものをいう時代。受験勉強で「失うもの」とは?心が折れて立ち上がれなくなってしまう、自信家なのに自己肯定感が低い人【プロフィール】おおたとしまさ1973年10月14日生まれ、東京都出身。教育ジャーナリスト。雑誌編集部を経て独立し、数々の育児誌、教育誌の編集に関わる。中学高校の教員免許を持っており、私立小学校での教員経験もある。現在は、育児、教育、夫婦のパートナーシップ等に関する書籍やコラム執筆、講演活動などで幅広く活躍する。『新・男子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『新・女子校という選択』(日本経済新聞出版社)、『世界7大教育法に学ぶ才能あふれる子の育て方 最高の教科書』(大和書房)、『いま、ここで輝く。超進学校を飛び出したカリスマ教師「イモニイ」と奇跡の教室』(エッセンシャル出版社)、『中学受験「必笑法」』(中央公論出版社)、『受験と進学の新常識 いま変わりつつある12の現実』(新潮社)、『名門校とは何か? 人生を変える学舎の条件』(朝日新聞出版)、『ルポ 塾歴社会 日本のエリート教育を牛耳る「鉄緑会」と「サピックス」の正体』(幻冬舎)、『ルポ 教育虐待 毒親と追いつめられる子どもたち』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)など著書多数。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2020年01月06日文・レシピ写真/栄養士・幼児食インストラクター笠井奈津子構成/岩川 悟おやつは単なるエネルギー補給ではない人間の体は、食べたものでできています。それはもちろん、脳だって同じこと。あらためていうまでもなく、体内に入れるものはとても大切です。しかし、3度の食事には気を遣う一方で、おやつの時間はスナック菓子やジュースなど、子どもが好きなものばかりあげていませんか?「集中力が続かない……」「やる気がない……」こんな様子が子どもに見られたとき、そこにはおやつの選び方が関係しているかもしれません。短期連載最終回は、安心して与えることができる、子どもの集中力をアップさせる良質なおやつについてのお話です。「集中力が落ちてきたな」と感じたとき、大人であるわたしたちは「なにか甘いものを食べて血糖値を上げよう」と考えます。実際、甘いものやジュースを飲むと血糖値が上昇するので、集中力や気分が快復したと感じるでしょう。だからこそ、子どもに対しても同じように考え、「おやつは食事とは異なるもの。エネルギー補給するだけで大丈夫」と思うこともあるかもしれません。でも、子どもの脳の発育を考えると、この選択は正解ではない。なぜならば、集中力を高めるために必要なのは、血糖値がただ「上がる」ことではなく「安定していること」であり、それによって脳に十分なブドウ糖が供給されるからです。甘いお菓子やジュースで血糖値を上げることを繰り返すと、インスリンやアドレナリンなどのホルモンが出すぎた状態になり、血糖値が不安定になるのと同時に精神的にも不安定な状態になってしまいます。応急処置的に急激に血糖値を上げるようなものを口にするのは、その場しのぎのやり方です。長期的に考えた場合、勉強面においても精神面においても、かえってマイナスに働くでしょう。「イライラしやすい」「怒りっぽい」という様子が子どもに頻繁に見られるとき、それは本来的な性格でも環境のせいでもなく、砂糖まみれのおやつで血糖値が不安定になったことによる自律神経の乱れが原因ということも考えられるのです。注意しなければならないのは、「イライラしやすい」や「怒りっぽい」ということ以外にも、「座っていられない」「状況に関係なくほかの子にちょっかいを出す」「騒ぐ」といった問題行動ともいえるようなことにもつながってくるという点。しかし、家や外出先で、子どもにだけ甘いものを禁ずることはできませんし、いきなり「食べてはダメ」といっても子どもは受け入れないでしょう。そこでまずは、糖分をとりすぎないようにすることからはじめてください。家庭によっておやつの量は異なりますが、ケーキやプリン、アイスクリームなどであれば、「半分こして仲良くふたりで食べようね」くらいの量で十分です。個装のお菓子であれば、子ども用のサイズでひとつ、ポテトチップスやチョコレート菓子など大人向用のサイズであれば家族でひとつと考え、それぞれの体の大きさに合わせての配分を目安にすると安心です。「おやつ」から「捕食」への底上げを意識するまた、糖分のとりすぎに注意するためにも、甘い飲み物は、それ自体をおやつとしてカウントしてください。ジュースを飲んでお菓子も食べるというのは、あきらかに糖分のとりすぎです。子どもが清涼飲料水やジュースを飲みたがったら、「ジュースを飲むなら、今日のおやつはそれで終わりね。お菓子を食べるなら、飲み物は水かお茶にしようね」と伝えましょう。ひたすらに「ダメ」というのではなく、そこに選択肢があれば子どもも納得しやすいものです。そのとき、温めてもいい飲み物であれば、温かくしたほうが満足度は高まります。ただ、子どもにも子どもの世界がありますよね。みんなで楽しむ誕生日会のようなときは例外としたほうがいいでしょう。「ハレの日」と「ケの日」では、おやつは変わっていいものだと思います。その次のステップでは、間食を「おやつ」から「補食」に底上げしていくことを考えたいものです。1日を通して血糖値を安定させた状態にして集中力を保つには、前提として、1日3度の食事を規則正しくとることが必要です。それにプラスして食べるおやつには、血糖値を大きく変動させて子どもの集中力を逆に下げるものではなく、栄養を補足できる良質なものを選びたいものです。お菓子として売られているものには、糖質や脂質以外の栄養素はあまり期待できません。また、糖質だけに偏ったおやつだと、ビタミンB1が不足してエネルギー代謝がうまくいかずにだるさを感じやすくなります。これでは、子どもが「疲れた」「やる気がでない」といい出しても仕方ないでしょう。集中力をアップさせるためには、なるべく食事に近いものを選ぶということがポイントです。糖質は大切! 「糖質=悪者」ではない糖質制限ダイエットがブームになり、「糖質=悪者」と考えて炭水化物をとらない人が非常に増えているようです。でも、脳のエネルギー源として利用されるのは、穀物や果物に多く含まれるブドウ糖です。ブドウ糖が不足すると、疲れやすさを感じるのはもちろん、脳へのエネルギー補給も滞ります。でも、「砂糖まみれのお菓子ではダメ」というのがむずかしいところなのですが……脳を安定的に働かせるためにも、比較的GI値が低い全粒粉を使ったお菓子や、今回わたしが提案するような乳製品を使ったお菓子、いちごやりんごなどの果物を間食に選ぶのがいいでしょう(GI値はブドウ糖を摂取したときの血糖値の上昇度を示す指標で、避けたいのは、血糖値が上がりやすい高GI値のものです)。そして、ときには親子で一緒におやつづくりも楽しんでほしいですね。「普段食べているおやつにはこんなに砂糖が入っているんだ!」という発見をしたり、作り手の手間や気持ちを知ったりすることで、感謝の気持ちが育つからです。最初のうちは、「ひとりでつくったほうが楽」と思うかもしれませんが、親子でするおやつづくりは、子どもの生きる力を育む大切な時間になるでしょう。最後になりますが、1児の母であり栄養士であるわたしが思うおやつの時間とは、3度の食事では補いきれない栄養をとる時間です。おやつは、おかしやジュースをただ与えればいいわけではないということを意識して、これからの子育てに取り組んでいただけたらうれしいです。レシピ◆混ぜてチンして冷やすだけ!簡単牛乳ゼリー【材料】小さな型4つ分牛乳240ccゼラチン6g砂糖大さじ1水80ccバニラエッセンス(お好みで)【作り方】耐熱容器にゼラチン、水、砂糖を入れ、600Wの電子レンジで1分加熱する牛乳とバニラエッセンスを①に加えてよく混ぜ、お好きな器に注ぎ入れ、冷蔵庫で1時間以上冷やしてできあがり【主な食材に含まれる栄養素】牛乳……不足しがちなカルシウムが豊富■ 栄養士・幼児食インストラクター 笠井奈津子さん 連載記事一覧第1回:子どもが食べやすく、親の準備もしやすい。勉強に集中できる「良質な朝ごはん」のつくり方第2回:“タンパク質不足”に要注意。子どもの頭をよくしてくれる、実は身近な「ブレインフード」第3回:脳を発達させる食材といえば、やっぱりコレ!苦手な子でも食べやすくなる、魚の調理法第4回:「子どもの集中力がない」それ、おやつのせいかも?甘いお菓子が脳に良くない理由とは
2019年12月28日文・レシピ写真/栄養士・幼児食インストラクター笠井奈津子構成/岩川 悟脳の約7割は脂質で構成されている前回のコラム(第2回参照)では、頭がよくなるために意識したいことや、避けたいことをお伝えしました。食への意識が高い方は、「でも、大事なものが抜けている」と思われたかもしれません。そう、「DHA」の話ですよね。DHAを多く含むものといえば、やはり魚です。しかし、「魚は食べるのが苦手」という子どもも多いですし、「魚料理をするのは苦手」という大人も少なくありません。そこで連載第3回目は、頭をよくするうえでどうしてDHAが欠かせないのかということにはじまり、魚嫌いでも食べやすくなる調理のコツや、DHAの摂り方について書き進めていきます。筋肉をつくるなら「タンパク質」というように、脳をつくるには「脂質」が必要となります。実は、脳の約7割は脂肪によって構成されているのです。でも、脂質だったらなんでもいいわけではありません。肉の脂身やバターなどの乳脂肪、揚げ物などの脂質では良質な栄養補給はできないからです。それどころか、摂取しすぎると生活習慣病のリスクを高めることにつながります。脂肪酸は脂質を構成する成分の一種ですが、その構造のちがいから飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸にわけられ、そのうち、健康にいいとされているのは植物油や魚の脂肪に多い不飽和脂肪酸です。そして、不飽和脂肪酸のうち、魚の脂に多く含まれるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)、くるみや亜麻仁油に多いα-リノレン酸は「オメガ3脂肪酸」と言われ、子どもの脳の発育を促し、アレルギーを抑える働きを持ちます。DHAを摂るためにできる工夫そのなかでも、DHAが頭をよくするものとして特に注目される理由は、脳に欠かせない脂質であり、神経伝達をスムーズにし、記憶や学習などの脳の働きを高めるからです。でも、魚のなかでも特にDHAを多く含む、ぶり、さば、サンマ、いわしといった青魚は、子どもが好みやすい食材ではないうえに、「料理法がよくわからない」「あまり日持ちがしない」といった親側の理由からも敬遠されがち。そんな背景もあり、「家で魚を食べる機会が少ない」という家庭は増えています。ですが、DHAの大きな供給源として魚の代わりになるものはありません。そこでおすすめするのは、味噌や塩麹などに漬けておいてから調理をすること。生臭さが取れると同時に、旨味も増し、しっとりやわらかに仕上がるなどいいこと尽くしです。こうした発酵食品は免疫力を高める働きもあるため、休まず学校に通える体をつくるためにも欠かせません。今回紹介するレシピのように、味噌とヨーグルトを1対1で割ったものに漬けておくのもお手軽です。漬け込んでおけば、買ってきた状態で冷蔵保存するよりも日持ちするので、「忙しくて買い物にいけなかった」というときでも心強いストックになるでしょう。DHAを効率よく摂取するには、脂が落ちないようお刺身のように生食でいただくのが理想です。でも、乳児期に生食を与えることはできませんし、お刺身で食べたときに家族みんなが「美味しい」というお魚を購入するのもハードルが上がります。そこで、お味噌汁やスープなど、煮汁もそのままいただけるような調理法にするのもいいでしょう。また、裏技になりますが、我が家では買ってきた生魚は一度脱水シートで包んで臭み抜きをしています。最初のコストこそ多少かかりますが、手頃なお値段のお刺身でもとても美味しくいただけるので重宝しています。干物は日持ちもして便利ですが、脂肪が酸化しやすいので、DHAの摂取を目的とするならば、早めに食べるようにしましょう。また、サバ缶やツナ缶、しらす干しなどを常備しておけば、ご飯と一緒に炊き込んだり、サラダに加えたり、トマト缶と一緒に煮込んでパスタソースにしたりといろいろな応用ができます。「魚が丸ごと出てくるのが苦手」という子どもには、こうした加工食品も上手に使ってください。炭水化物が太るのではなく、食べすぎたら太るそして、脳にいい食材を意識したら、その脳をちゃんと働かせることも意識したいものです。最近はダイエットの低年齢化が進み、小学生でも「炭水化物=太る」と考えている子どもたちもいます。でも、脳を働かせるためには糖分をしっかり摂る必要があるので、ご飯も欠かさないようにしましょう。炭水化物を食べると太るのではなく、食べすぎたら太るということ、炭水化物は三大栄養素のひとつで脳にとっても大事なエネルギー源であることをしっかり教えるのも、親が子どもにできる大事な「食育」です。「早く出かける準備をしないと」「早く寝かさないと」なんてことを思うと、つい「早く食べて!」とせかしてしまいがちになります。でも、しっかり食材を噛むことは、脳に刺激を与え脳の血流を増加させる効果があると言われています。子どもがよく噛んでごはんを食べることができるような「ゆとり」も意識したいものですね。レシピ◆あとは焼くだけ!1分で準備できるぶりの味噌漬け焼き【材料】ぶり(お好きな魚で)味噌大さじ1ヨーグルト大さじ1【作り方】ジップロックに味噌とヨーグルトを入れて混ぜたら、ブリを入れてからませる冷蔵庫で2時間以上おく(このまま2日程は冷蔵庫で保存できる)グリルで7分ほど加熱してできあがり【主な食材に含まれる栄養素】ぶり……冬に旬を迎える寒ぶりは脂が多いのでDHAを摂りたいときにはおすすめ味噌……腸内環境を整える発酵食品ヨーグルト……整腸作用がある乳酸菌が豊富■ 栄養士・幼児食インストラクター 笠井奈津子さん 連載記事一覧第1回:子どもが食べやすく、親の準備もしやすい。勉強に集中できる「良質な朝ごはん」のつくり方第2回:“タンパク質不足”に要注意。子どもの頭をよくしてくれる、実は身近な「ブレインフード」第3回:脳を発達させる食材といえば、やっぱりコレ!苦手な子でも食べやすくなる、魚の調理法第4回:「子どもの集中力がない」それ、おやつのせいかも?甘いお菓子が脳に良くない理由とは(※近日公開)
2019年12月27日文・レシピ写真/栄養士・幼児食インストラクター笠井奈津子構成/岩川 悟乳幼児期に脳はグッと成長していく身長は思春期にグッと伸びますが、気になる「脳」がグッと成長するのはいつなのでしょうか?実は、脳は3歳にして成人の約80%、6歳で約90%の大きさに達します。つまり、乳幼児期に大きな成長を遂げるということ。ほかの臓器と同じように、脳も食べものの影響を大きく受けますから、この時期になにを食べていたかはとても重要です。とはいえ、発育曲線がゆるやかになるだけで、脳はその後も成長していきます。ですから、食を改善するのに遅いということはありません。勉強や運動そのものは本人にしかできなくても、食事ならばわたしたち親がしっかりサポートできます。脳の働きをよくする食材や食べ方を、この機会に学んでいきましょう。近年、注目を集める「ブレインフード」近年、脳をよくする食べものとして「ブレインフード」が注目されるようになってきました。脳は神経細胞同士がつながって発達していきますが、その働きを担っているのは神経伝達物質です。そして、この神経伝達物質が食べたものからつくられるからこそ、食事をおろそかにはできないのです。たとえば、「幸せホルモン」とも言われる神経伝達物質「セロトニン」はアミノ酸を材料としますが、記憶力に関わる神経伝達物質「アセチルコリン」は「コリン」というビタミン様物質を材料とします。アミノ酸はタンパク質の構成成分なので、いわゆる魚や肉などのメインのおかずをしっかり食べていることが大切。「朝は時間がなくてパンだけ」「麺類などお腹を満たす炭水化物がメインになりやすい」という食生活は要注意ということになります。多くの方が、野菜をとることは意識しても、「タンパク質=筋肉」と思いがちで、積極的に摂る方はそう多くないように見受けられます。「タンパク質が不足すると、脳の神経伝達物質の原料も不足する」と認識しておいてください。では、「コリン」はどうでしょう?実は、コリンはとても身近な食材である卵に多く含まれています。卵の場合、卵黄に含まれるレシチンも記憶力や集中力の向上に役立つので、実に優秀なブレインフードです。「子どもが卵アレルギーで……」という方も安心してください。卵に続いてコリンを多く含むのは、日本人にはとても身近な食材である大豆です。大豆ならば、納豆、豆腐、豆乳、きな粉など様々な加工がされているので、毎日飽きずに食事に取り入れることができますよね。調理いらずでもっと手軽にとれるブレインフードと言えば、ナッツが代表的な食材です。くるみ、アーモンド、ピーナッツなど、種類によって栄養成分は異なるものの、これらに含まれるビタミンEは細胞膜の酸化を予防し、不飽和脂肪酸が脳の働きをサポートするという点は共通しています。ただ、ナッツ類はカロリーが高いので、食べすぎには注意したいところです。サラダやヨーグルトなどにトッピングする、または、少量ずつ食べることを推奨します。おやつは栄養を補う「補食」になる逆に、子どもの食生活から遠ざけたいのはお菓子とジュースです。単に「太るから……」「将来、生活習慣病になる可能性が高まるから……」という理由だけではありません。糖質はエネルギーになる一方で、その代謝の過程でビタミンB1を必要とします。ですから、ごはんとおかずを一緒に食べるならまだいいのですが、糖質だけを単品で食べるとビタミンB1が不足して、かえって疲労感を感じ集中できなくなってしまうのです。もちろん、「おやつは絶対に食べさせてはいけない」ということではなく、目的と量を間違えないようにすべきです。「甘いものを食べたら元気になって集中できる」という短絡的な考えは間違いであって、いいものを少量、時間を決めて食べるのがいちばんです。子どもにとってのおやつは、食事で不足しやすい栄養を補う「補食」の役割を果たすもの。ですから、具沢山のたきこみごはんをおにぎりにしたものや、むかしながらの焼き芋、ヨーグルトなどでいいのです。共働き家庭においては、どうしても夕食の時間が遅くなりがち。そうなると、お腹を満たすためにおやつを大量に食べてしまうということも起こり得るでしょう。その対策としても、食事の一部になり得るおやつのレパートリーを考えましょう。また、日々の積み重ねが子どもこれからの人生に大きな影響をもたらすことを考えると、「主食を見直す」ことも大切なポイントでしょう。脳のエネルギー源として炭水化物を摂ることは重要ですが、そこでもなにを選ぶかで差がつくからです。目安としたいのは、「GI(グリセミック・インデックス)値」。血糖値が上がりやすい食品は高GI食品、上がりにくい食品は低GI食品と言いますが、子どもの記憶力や集中力をサポートしたいなら、選ぶのは低GI食品です。朝、甘いシリアルを食べているのであればオートミールに、白いパンを食べているならライ麦パンや全粒粉パンに、白米を食べているならば雑穀を加えるなど、選択を変えていきましょう。高GI食品は、集中力を下げたり「もっと甘いものが食べたい!」という欲求を引き起こしたりしてしまうので注意してください。そして、頭をよくするためにも、日頃から子どもたちが楽しく食事をする環境づくりも心がけてほしいことです。楽しく食べると副交感神経が活性化し、消化吸収がスムーズになります。またなにより、神経伝達物質であるドーパミンが分泌されて脳の活性化にもつながります。子どもの消化能力は、大人ほどではありません。学習能力を上げるには良質な睡眠をとることも欠かせませんから、良質な睡眠を妨げる要因となる寝る直前の食べすぎや、遅い時間の夕食は避けたいものです。「ちゃんとごはんをつくると遅くなってしまいそう……」というときには、今回ご紹介するレシピのように、1品に栄養を詰め込んで、あとは具沢山お味噌汁を添えるだけというような組み合わせでもいいのです。「手抜き」と思わずに知識を上手に活用してください。レシピ◆5分でできる!ブレインフードチャーハン【材料】ひとり分卵1個納豆1パック(タレも使用)雑穀ごはん軽く茶碗1杯分小ねぎお好みごま油小さじ2水小さじ1鶏ガラスープの素小さじ1/2【作り方】フライパンにごま油をしいて火にかけるボウルにごま油以外のすべての材料をいれてかき混ぜ、1に入れる3分ほど、パラリとするまで炒めてできあがり(大人用には胡椒をふってもOK)【主な食材に含まれる栄養素】卵……免疫力を高めるビタミンAなど成長期にとりたい栄養が豊富納豆……ねぎとあわせると、納豆に含まれるビタミンB1の吸収が高まる雑穀……食物繊維■ 栄養士・幼児食インストラクター 笠井奈津子さん 連載記事一覧第1回:子どもが食べやすく、親の準備もしやすい。勉強に集中できる「良質な朝ごはん」のつくり方第2回:“タンパク質不足”に要注意。子どもの頭をよくしてくれる、実は身近な「ブレインフード」第3回:脳を発達させる食材といえば、やっぱりコレ!苦手な子でも食べやすくなる、魚の調理法(※近日公開)第4回:「子どもの集中力がない」それ、おやつのせいかも?甘いお菓子が脳に良くない理由とは(※近日公開)
2019年12月26日文・レシピ写真/栄養士・幼児食インストラクター笠井奈津子構成/岩川 悟子どもの発達過程において、食の影響は計り知れないはじめまして、栄養士・幼児食インストラクターの笠井奈津子です。「子どもの好き嫌いが多いのは、わたしの料理が下手だからですよね?」「子どもがよく風邪をひくのは、栄養が足りていないのでしょうか?」「普段の生活で落ち着きがないのは、食事が乱れているからでしょうか?」わたしのところには、子どもの食に悩むお母さんたちがたくさん相談にきます。言うまでもなく、子どもの体と脳は食べたものでつくられます。食事から摂取する栄養は、間違いなく子どもの体と脳の発達を担うもの。それが十分にわかっているから、お母さんたちは日々の食事づくりに悩みます。せっかくつくったごはんを食べてもらえなくてイライラしたり、子ども優先で自分の食事は後回しにしたり……なんてことは誰しもが経験していることはでないでしょうか。1児の母であるわたし自身も、もちろん経験済みです。子どもの発達の過程において、食の影響は計り知れません。集中力を上げるのも、免疫力を上げるのも、体力をつけるのも、そのベースには栄養が不可欠。ですが、ライフスタイルの変化とともに食生活が乱れているのは、いまや大人だけではありません。「高コレステロール」や「肥満」の子どもたちが増え、生活習慣病予備軍とされる子も増えています。それに、「うちの子どもは太っていないから大丈夫」とも言い切れません。日本では「痩せ」の子どもも多く、疲れやすいとか、学力が伸びないといったことの背景には、鉄が不足している可能性もあります。ここまで書いたように、食は生活の重要な一部です。でも、頑張りすぎてしまったら、お母さんたちの大事な睡眠時間や生活、仕事にも支障が出ます。最低限のポイントをおさえながら、食と生活のバランスを上手に取っていただきたいなと思います。朝ごはんをルーティン化することも一手たとえば、今回のテーマとなる朝ごはんがそう。「毎日同じものではいけない」と頑張っていたり、それに疲れ「もうパンと牛乳だけでいいや……」となったりしていませんか?書店に行けば、朝ごはんの内容が書かれたものだけでもたくさんのレシピ本があります。もちろんインターネット上にも情報があふれていますよね。選択肢が多いぶん、朝ごはんですら頭を悩ませてしまうもの。でも、料理は「つくる時間」だけではなく、「献立を考える」「買い物をする」という工程にも時間がかかります。ですから、時間との戦いになる朝は、思い切ってルーティン化するのもひとつの手ですよ。我が家のルーティンは次のようなものです。〈和食の場合〉ごはん+味噌汁+納豆/鮭/しらす/卵料理(単品もしくは組み合わせ)+温野菜+果物〈洋食の場合〉食パン+卵料理(チーズ、ソーセージ、ヨーグルトなどはその日次第)+温野菜+果物+牛乳ポイントは、朝も必ずタンパク質を摂取すること。「脳へのエネルギー補給で炭水化物をなにかしら食べさせればOK」と思われがちですが、朝からしっかり体温を上げるために、または、筋肉をつくる、鉄の大きな補給源としてもタンパク質が必要だからです。朝は忙しくてパンかおにぎりの二択という方は、ツナ缶を常備しておいて、パンの上にチーズと一緒にのせてトーストしたり、前夜にゆで卵を仕込んでおいたりして、なにかしらタンパク質を足すといいでしょう。朝から野菜もしっかりとれるとベストですが、子どもが小さいと朝は特に気分のムラがあって思うように食べ進めてくれないこともあるはずです。お味噌汁に入れたらなんでも食べてくれるという場合は、メインになるくらい具沢山にするといいでしょうし、ビタミン補給は果物を食べれば良しというくらいの気構えでもいいと思います。また、朝の洗い物があまり増えないように、納豆は深みのあるカップ入りのものにして廃棄しやすくしたり、魚はくっつかないシートを敷いて焼いたりと、できるだけ手間を省く導線を整えることもポイントです。ルーティンになると完成形がわかっているので、夫や子どもに盛り付けや配膳をお願いするということもしやすくなります。「ダメなものはダメ」と言える勇気も必要日々の食事(栄養)と同じくらい大事なのは、大人になったときに困らない食習慣をつくることです。将来、「お腹が満たされればなんでもいい」「お菓子を食事代わりにする」なんてことにならないように、子どもたちが食への興味関心を持てるような食事時間も大切です。そのためには、「急かしたり怒ったりしながら食べさせる」「ひとりで食べさせる」「朝から殺気だって支度をする」というような「食卓の戦場化」は避けたいものです。そして、子どもが将来ダイエットなどで悩まないように、食事と飲み物・嗜好品には一線をひきましょう。たとえば、「バターやジャムを毎朝のパンに添えるのは控える」「ジュースを買い置きしない」などです。食が細いと親は心配になって、パンをお菓子みたいに食べやすくアレンジしたり、せめてジュースや牛乳くらい飲ませようとしたりしがちですが、それで満たされてしまって食事をおろそかにするというパターンに陥っている子も少なからずいます。これでは栄養不足。子どもが本来持っている力を発揮できないばかりか、血糖値を上げようとアドレナリンやノルアドレナリンが分泌されることで興奮したり、感情コントロールが難しくなったりします。とはいえ、いきなり食事量を増やしたり、内容を思いっ切り変えたりというのも難しいもの。まずは、今回ご紹介するレシピのように、甘いだけのパンから、食事パンへの移行をはじめましょう。甘い朝食や夕食前のお菓子など、大人になったときに困る食習慣をつくってしまうことは避けるべき。おやつの時間以外にもおやつを欲しがるようになると、結果として食事量そのものが減ってしまうものです。「お菓子を食べるからごはんが食べられなくなるのよ!」などと怒るよりも前に、そうならなくていい環境を親が率先してつくってあげましょう。そして、要求に対して、「ダメなものはダメ」とはっきり言っていいと思います。子どもが小学生くらいになると、「パパが食べないから僕(わたし)も食べない」などと親の食べ方を真似するようになります。ダイエット目的などで朝ごはんを抜かれる方もいらっしゃると思いますが、朝ごはんを含めて3度の食事を規則正しくとることは、1日の血糖値を安定させて、太りにくい体や集中できるコンディションをつくります。子どもが元気に体を動かして遊び、または勉強にも集中できるように、ぜひご家族で朝ごはんを見直してみてください。レシピ◆のせて焼くだけ!和風チーズトースト【材料】全粒粉パン1枚スライスチーズ1枚海苔適宜しらす適宜ごま適宜【作り方】パンにそのほかの食材を好きな順に重ね、いつも通りトーストしたらできあがり【主な食材に含まれる栄養素】全粒粉パン……糖質をエネルギーにかえるために欠かせないビタミンB1を通常の白いパンより多く含むスライスチーズ……カルシウムやビタミンAの補給もできるタンパク源海苔……不足しがちな食物繊維を手軽に補給しらす……カルシウムの吸収を助けるビタミンDも多く含むごま……血中コレステロールの上昇をおさえる不飽和脂肪酸を多く含む■ 栄養士・幼児食インストラクター 笠井奈津子さん 連載記事一覧第1回:子どもが食べやすく、親の準備もしやすい。勉強に集中できる「良質な朝ごはん」のつくり方第2回:“タンパク質不足”に要注意。子どもの頭をよくしてくれる、実は身近な「ブレインフード」(※近日公開)第3回:脳を発達させる食材といえば、やっぱりコレ!苦手な子でも食べやすくなる、魚の調理法(※近日公開)第4回:「子どもの集中力がない」それ、おやつのせいかも?甘いお菓子が脳に良くない理由とは(※近日公開)
2019年12月25日子どもにはしっかり勉強をしてほしい――。ほとんどの親が持つ願望だと思います。ただ、その願望は実際には空回りしてしまうことも多いもの。常日頃、多くの子どもたちと接している一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希先生は、「勉強にしっかり取り組む子どもにするためにも、まずは子どもが好きなことを目一杯やらせることが大切」とアドバイスをしてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)好きなことを通じて学ぶ楽しさを知ることが最重要親として、子どもに勉強の大切さを理解してほしいと願うのは当然でしょう。でも、子どもにただ「勉強は大事だよ、勉強しなさい」といったところで勉強をしてくれる子どもは、そうはいないはず。子どものときに「きちんと勉強していい大学に入ったほうがいい」なんていわれても全然ピンとこないことは、自分が子どもだった頃を想像すればすぐに理解できるのではないでしょうか。そこで大切となるのは、やはり子どもが好きなことと勉強をつなげてあげることでしょう。ゲームが好きな子どもだったら、ゲームと勉強をつなげてあげる。いまなら、ゲーム感覚でできるさまざまな勉強アプリがあります。そういったものをやらせてみるのもひとつの手ですよね。2019年にはラグビーのワールドカップが大きな話題を集めました。もし、子どもがラグビーに興味を持ったのなら、そこから勉強に展開してみるのです。たとえば、日本代表の対戦相手が南アフリカに決まったときに子どもと一緒に地図で南アフリカを探してみたり、どんな国なのかを調べたりするのです。そうするなかで、子どもが楽しみを見出してラグビーを通じて自発的にいろいろなことを調べて学びはじめることが理想的なかたちでしょう。それは、学校での勉強とは少しちがうものかもしれません。でも、いろいろなことを調べて知識が広がることを楽しいと思えることこそが、学校での勉強にも通じる学びの姿勢をかたちづくっていくはずです。勉強することの大切さなんて、大人でもわかっていない人は少なくないでしょう。そんなことを無理やり頭でわからせようとしても無理というものです。子ども自身が体験を通じて知識を得ることの楽しさを知る――そういうことが大切なのではないでしょうか。むかしとちがい、個性を問われる時代になりつつあるもちろん、子どもにきちんと勉強してほしいと思う、つい学力主義に走ってしまう保護者の気持ちもわかります。そういう親御さんの多くは、人生を学力によって勝ち抜いてきた人でしょう。だからこそ、「学力は裏切らない」という思考が強く刷り込まれ、その人たちのアイデンティティーをつくっているのです。でも、いまとむかしとは時代がちがいます。大学入試にしても、2020年には大きな改革が行われます。これまでの認知能力を問うテストではなく、その子が生きてきた人生をプレゼンテーションして推薦で入学を勝ち取るといったことも出てきます。そう考えると、それこそ子どもの好きなことをきちんと見つけて、熱中させてあげることが大切なのではないでしょうか。それは個性を伸ばすといういい方もできるはずです。そういう意味では、アスペルガー症候群やADHD(注意欠陥多動性障害)もひとつの個性といえます。じつは、たくさんの子どもたちと接するなかで、そういった特徴を持つ子どもこそ将来は大物になるのではないかと感じることも少なくないのです。アスペルガー症候群の子の、ひとつの遊びだけをひたすらずっと続けられるという特徴からは、学者のようななにかを突き詰めていくような仕事への適性があると考えられます。ADHDの子のいろいろなことを並行して休みなくやれる力は、経営者に必要な力といえるでしょう。もちろん、そういった特徴を持つ子どもたちの親には、大変なことがたくさんあるはずです。でも、なるべくその個性が育つ芽を摘まずに見守って伸ばしてほしいと思うのです。これからのグローバル化社会に重要となる自己肯定感さて、これからはただの学力ではなく、子どもが好きなことや個性を伸ばすべきだと述べましたが、わたしのなかで「これだけはきちんと伸ばしてあげてほしい」と思うものがあります。それは、「自己肯定感」です。いまの日本は、グローバル化や少子高齢化がどんどん進んでいます。労働力不足が叫ばれるなか、外国人とも一緒に仕事をすることがあたりまえになっていくでしょう。外国人とチームを組んで、自分が持っているものとはちがう多様な価値観を受け入れ、しっかりと仕事を成功に導いていけるのか――そういう力が求められるはずです。そうなったとき、もし自己肯定感を持てていなかったとしたら……?自分とは異なる価値観に出会って、「これはちがうんじゃないか」と思うようなこともやらなければならないとき、自分に核となる部分がないとすごくつらいのではないでしょうか。そして、その核になるものこそ、「自分は自分であっていい」という揺るぎない気持ち、すなわち自己肯定感だと思うのです。そして、その自己肯定感を育むためにも、子どもが好きなことを見つけて、それを親が認めてあげることが大切です。親としては、その好きなことが勉強になったら安心なのでしょうけれど、そうではない場合が多いでしょう。そのときも、その好きなことを目一杯やっていくことを親が認めることが、子どもの自己肯定感という人生の土台をつくることになるはずです。■一般社団法人キッズコンサルタント協会■ 一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事・野上美希先生インタビュー一覧第1回:子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です第2回:「小1の壁」を乗り越えるために――子どもの言葉の裏にある本心とは?第3回:放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を第4回:自己肯定感も勉強への姿勢も“熱中体験”の先で生まれる【プロフィール】野上美希(のがみ・みき)1977年3月21日、千葉県出身。一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事。東北大学工学部卒業後、日本総合研究所にてコンサルティング、事業企画、採用、営業と多岐にわたる経験をした後、株式会社マイナビで人材紹介事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメント。その後、自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わり、産後母の孤独を解消すべく、子育てひろば開設を皮切りに、働く母の支援のため、幼児教育をベースとした民間学童や6つの認可保育園を開設。また、民間学童指導員資格であるキッズコンサルタント資格を認定する一般社団法人キッズコンサルタント協会を立ち上げ、代表理事を務めている。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月22日共働き世帯なら、子どもをいわゆる「学童」に通わせている家庭も多いでしょう。そんな学童について、ただ子どもを預かってもらうサービスのように考えている人もいるかもしれません。でも、民間学童であるアフタースクール久我山キッズの運営に携わる一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希先生は、「子どもの成長にとって、学童で過ごす時間は非常に重要」だといいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)小学校で過ごす時間以上に長い放課後と長期休みをどう過ごすか一般的に、子どもが小学校で過ごす時間は年間1,200時間くらいです。一方で、子どもが主に「学童」で過ごす放課後と長期休みを合わせた時間は約1,600時間。そう考えると、この1,600時間をどのように過ごすかは、子どもの成長にとって非常に重要だといえます。しかも、小学生の時期は、自分の強みを発揮する力や自発性、主体性など、いわゆる「非認知能力」に磨きをかける時期でもあります。でも、小学校でやっている勉強はどういうものかといえば、知識を得て、教えられたことをテストで再現する認知能力を高めるというものですよね。つまり、それこそ放課後や長期休みをどのように過ごして非認知能力を高めるかがとても大切だといえるのです。とはいえ、学童とひとことでいってもさまざまなタイプがあるのが現実です。わたしたちが運営する学童では、アフタースクールという呼称を使っていますが、学童保育や放課後児童クラブと呼んでいる自治体も。また、その内容もまちまち。その中には、非認知能力を高めるためのさまざまなイベントを行なっている民間の学童もあります。視野が狭い子どもだからこそ、さまざまな経験が必要ここでは、わたしたちが運営するアフタースクールで、子どもたちがどのような活動をしているのかをご紹介しましょう。たとえば、外国人の講師を招いてその時間は英語だけを使う活動や、料理体験、科学実験、造形教室、プログラミング教室、茶道など。3、4年生くらいになると、子ども新聞をスクラップして、その記事に対して自分がどう感じたのかをみんなの前でプレゼンテーションしたり、友だち同士でディベートをしたりすることもあります。そのテーマは本当に身近なもの。たとえば、「『ドラえもん』の主人公は、のび太君かドラえもんか」というものとか(笑)。そのテーマに対して、2チームに分かれて議論をするのです。子どもは、大人に比べると視野が狭いものです。だからこそ、たくさんのさまざまな経験をする必要がある。ですから、ここで紹介したようなイベントは、なにか特別なときに行なうものではなく、「今日は科学実験、明日は造形教室」というふうに、じつは毎日行なっているものなのです。とはいっても、そういったカリキュラムで子どもたちを縛りつけているわけではありません。子どもたちがアフタースクールで過ごす時間は、それらのイベント活動をする時間、学校の宿題をやる時間、自由に過ごす時間の大きく3パターンに分けられます。その自由時間には、元気にひたすら遊び回っている子どももいれば、テラスに椅子を持ち出して風を感じながら読書をしている子どももいます。そのように、自分が快適に過ごせるようにそれぞれが工夫をしているのです。学童の縦割り社会が子どもに与えるメリットまた、学童のメリットという点でいうと、縦割りというところも大きなものだと考えています。時期によって組み合わせを変えていくのですが、いま、わたしたちのアフタースクールでは、1、2年生と5、6年生が一緒に活動するようにしています。上の子たちは、下の子に遊びを教えてお膳立てをしてくれたり、ひとりでいる下の子に話しかけてくれたりします。季節の大きなパーティーのときには、上の子たちがダンスを披露しようと考えたのですが、すると、下の子たちも「わたしたちもやりたい」といって一緒に取り組むことになりました。そういったシナジーが起きて新しいイベントが生まれることもあるのです。いまはひとりっ子がとても多いですから、年齢がちがう子ども同士のかかわりが希薄です。でも、学童でなら、年齢がちがう相手とのコミュニケーションをしっかり学ぶことができるのです。また、大事に育てられている子はわがままがいえる環境にあることも多いのですが、自分の思いが必ず通るわけではないのが実際の社会です。そういった現実を小学生のときから学べるメリットもあるでしょう。学童に限らず、もっとさまざまな経験ができる放課後の居場所が増えて、そのなかで子どもたちが生き生き、伸び伸びと過ごせるようになることが理想です。いずれにせよ、小学生のときに小学校以外で過ごす時間の大切さ、その時間をどのように過ごさせるべきかということを、保護者のみなさんにはいま一度考えてほしいと思います。■一般社団法人キッズコンサルタント協会■ 一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事・野上美希先生インタビュー一覧第1回:子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です第2回:「小1の壁」を乗り越えるために――子どもの言葉の裏にある本心とは?第3回:放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を第4回:自己肯定感も勉強への姿勢も“熱中体験”の先で生まれる【プロフィール】野上美希(のがみ・みき)1977年3月21日、千葉県出身。一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事。東北大学工学部卒業後、日本総合研究所にてコンサルティング、事業企画、採用、営業と多岐にわたる経験をした後、株式会社マイナビで人材紹介事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメント。その後、自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わり、産後母の孤独を解消すべく、子育てひろば開設を皮切りに、働く母の支援のため、幼児教育をベースとした民間学童や6つの認可保育園を開設。また、民間学童指導員資格であるキッズコンサルタント資格を認定する一般社団法人キッズコンサルタント協会を立ち上げ、代表理事を務めている。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月21日3歳の壁、小4の壁、13歳の壁――。子育てにはいくつもの「壁」があるといわれます。なかでも、親にとっても子どもにとっても大きな壁とされるのが、「小1の壁」。その壁をどうすればきちんと乗り越えられるのでしょうか。民間学童であるアフタースクール久我山キッズの運営に携わる、一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希先生にアドバイスをしてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもの就学と同時に親の前に立ちはだかる「小1の壁」「小1の壁」という言葉は、ケースによってさまざまな意味が含まれますが、本来の意味でいえば、子どもが小学生になると同時に親の側がさまざまなことに適応できなくなることを指します。子どもが通う場所が、厚労省管轄の福祉施設である保育所から、文科省管轄の教育施設である小学校に変わる。すると、これは幼稚園にもいえることですが、それまでは「子育てって大変ですよね。一緒に頑張りましょう」と、福祉の観点から寄り添ってくれていた保育所の対応とは大きく変わって、たとえば平日の昼間からPTAの会合に出席しなければならないために親が無理をするということも出てきます。あるいは、いわゆる「学童」に子どもを入れることができなくて、共働き世帯の親が仕事と子育てを両立させることが難しくなるということも大きな壁のひとつ。これは、学童の需要に対して供給が足りていないことが要因です。いま、保育所は増えているのですが、学童は足りていません。というのも、子どもが就学前には専業主婦をしていた親のなかで、子どもの小学校入学と同時に働こうと考える人が多いために、学童の需要は保育所以上に大きくなるからです。この問題に関しては、親自身で解決できることではありませんから、国や自治体による整備を待たなければならないところであるのが難しい点です。環境の変化により子どもがぶつかる「小1プロブレム」一方、小学生になった子ども自身にも「小1の壁」はあります。これには、一般的には「小1プロブレム」という別の名称がつけられています。たとえば、子どもが学校に慣れることができなくて授業を抜け出したり、授業に集中できなくて騒いだりして学級崩壊が起こるというようなことがその内容です。親もそうですが、子ども自身も小学校に行くことになれば、当然、自分が身を置く環境は大きく変わります。幼稚園や保育所では元気に走り回って楽しく遊んでいられたのに、いきなり授業を1日に4コマも5コマも受けることになる。もちろん、それは子どもにとって大きなストレスとなり得ます。そのストレスは、個人的にはかつてより大きくなっているのではないかと感じています。なぜなら、集団でなにかをすることに抵抗を感じる子が以前より増えているように思うからです。最近、幼稚園や保育所でも、先生が課題を出して集団で活動に取り組む保育ではなく、自由保育という子どもが主体的に遊びに取り組む保育が増えてきています。個々が好きなことに没頭できる時間がたっぷり取れる良い面がある一方で、幼児の時期に座って先生の話を聞くことに慣れていないことが、集団でなにかをすることに抵抗を感じる子どもが増加している要因のひとつであると感じています。最初は戸惑いながらも徐々に小学校の生活に慣れていく子もいれば、なかなかなじめない子がいるのも事実です。ただ、そういう子たちがうまく学校生活を営めるように支援するための方法を、学校の先生たちも勉強しているので、いずれはそのストレスも軽減されていくのかもしれません。子どもの言葉を字面通りに受け取ってはならない場合もあるとはいえ、小学生になったばかりの子どもが大きなストレスを感じていることにちがいはありません。では、子どものストレスを少しでも減らすために、親としてできることはどんなことでしょうか。わたしは、まずは子どもの不安を受け止めることを考えてほしいと思います。1年生の子どもは小学校という新しい環境のなかに身を置くのですから、当然、たくさんの不安を抱えています。また、新しい環境に身を置けば、それだけ新しい出来事を経験する。それらの不安や経験を親がしっかり聞いてあげることが大切なのだと思います。そのときに注意してほしいのは、子どもの話を字面通りに受け取ってはならない場合もあるということ。幼いときには感じたことをそのまま口に出していた子どもも、小学生くらいになれば本当のことをいわないということも出てきます。悪くいえば嘘をつくということになりますが、子どもが成長して「心配させたくない」というふうに親に気を使ってうそをつくケースもあるのです。ただ、「心配させたくない」と感じるのは、たとえば友だちと喧嘩をしたとか、子どもにとってあまりいいことではない経験をした場合が多いものです。だとしたら、親として、やはり子どもの本心をきちんと受け止めてあげるとよいでしょう。子どもの言葉をそのまま受け取るのではなく、表情やしぐさなどもしっかり観察して、その子が本当はどんなことを感じているのか、なにを求めているのか――わたしも含めて、心の奥にあるニーズにしっかり気づいてあげる親になりたいものですね。■一般社団法人キッズコンサルタント協会■ 一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事・野上美希先生インタビュー一覧第1回:子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です第2回:「小1の壁」を乗り越えるために――子どもの言葉の裏にある本心とは?第3回:放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を第4回:自己肯定感も勉強への姿勢も“熱中体験”の先で生まれる【プロフィール】野上美希(のがみ・みき)1977年3月21日、千葉県出身。一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事。東北大学工学部卒業後、日本総合研究所にてコンサルティング、事業企画、採用、営業と多岐にわたる経験をした後、株式会社マイナビで人材紹介事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメント。その後、自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わり、産後母の孤独を解消すべく、子育てひろば開設を皮切りに、働く母の支援のため、幼児教育をベースとした民間学童や6つの認可保育園を開設。また、民間学童指導員資格であるキッズコンサルタント資格を認定する一般社団法人キッズコンサルタント協会を立ち上げ、代表理事を務めている。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月20日共働き世帯の増加に伴って利用者が増えている「延長保育」。延長保育に子どもを預けることに対して、子どもを心配すると同時に、「申し訳ない」という気持ちを持っている親も少なくないようです。ただ、東京・久我山幼稚園の運営に携わる一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事の野上美希先生は、「心配する必要も『申し訳ない』という気持ちを持つ必要もない」といいます。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)延長保育にもいろいろなケースがあるひとことで延長保育といっても、じつはいろいろなケースが考えられます。幼稚園で通常保育が終わるのは13時半頃ですが、保育所の場合は18時半頃。終了時刻が5時間ほどちがいますから、延長保育の時間も大きく異なります。また、延長保育を常時利用する共働き世帯もあれば、外せない用事があるときにときどき利用するというケースもあるでしょう。それぞれに対応はちがいますが、子どもに与える影響が大きいということで、ここでは幼稚園で延長保育を常時利用するケースを想定してお話しましょう。幼稚園の延長保育は通常保育が終わる13時半頃からはじまります。延長保育の時間はそこから4、5時間にもなりますから、同じ年齢の子どもでも、延長保育に預けられる子どもとそうではない子どもでは、まったくちがう毎日を送ることになります。もちろん、とくに年少など幼い子どもの場合は、延長保育を嫌がるケースもあります。13時半になると友だちはお迎えに来たママと一緒に帰るのに、自分はそこから5時間もママを待たなくてはいけない。幼い子どもなら、自分も家に帰ってママと一緒におやつを食べてほっとしたいと思って当然でしょう。そういうふうにナイーブになる子がいるのも事実です。子どもは親が考えている以上に延長保育を楽しんでいるとはいえ、子どもの順応性は親が思う以上に高いですから、それも最初だけというケースがほとんどで、たいていは慣れていきます。もちろん、園としても、子どもが楽しめるように、そしてより有意義な時間を送れるように工夫をしています。通常保育の時間には自由時間もあるとはいえ、基本的には園が決めたカリキュラムをこなしていくことが多くなるものです。子どもとしてはある程度緊張している時間といえるかもしれません。一方の延長保育はというと、時間はたっぷりあるのですから、子どもたちが自分で選んだ遊びを徹底的にやり込んだり、積み木を使ってみんなで大きな城をつくるようなダイナミックな遊びをしたりすることができるのです。ほかには、わたしが運営に携わっている久我山幼稚園の場合なら、季節のイベントも積極的に行なっています。たとえば、年長さんなら冬に向けてマフラーを編むということもします。これは、時間がたっぷりある延長保育だからできることでしょう。このような、通常保育の時間とはまったくちがう活動を経験するなかで、子どもたちは延長保育をどんどん楽しめるようになっていきます。延長保育が持ついくつものメリットまた、延長保育には延長保育だけが持つメリットがあるとわたしは考えています。たとえば、延長保育の特徴である縦割りのコミュニティーに身を置くということもそう。同い年の子どもと過ごすことの良さと、年齢のちがう子どもがいる縦割り社会で過ごすことの良さの両方を味わうことが、子どもの幅を大きく広げることになるはずですからね。また、先のマフラーをつくる例なら、自宅でマフラーを編もうとした場合には、幼い子どもならすぐに飽きてしまうかもしれません。でも、友だちが頑張っているから頑張れるということもあるのではないでしょうか。そして、友だちがつくっているマフラーがすてきに見えたら、真似したり自分で工夫をしたりすることもあるでしょう。そうして、ひとりだったら手を出さないような遊びや活動も、友だちがやっているからとやってみる。やってみて楽しかったら「もっとやってみたい」と新しいことに対する意欲を持つということにもつながるはずです。毎日早くに家に帰っていると、テレビを観たりおやつを食べたりと、ついだらだらとなにもしない時間を過ごしがちです。それはそれで子どもにとって大事な時間だとは思いますが、延長保育のなかで友だちと遊びながらさまざまな経験を得られることは、子どもにとって非常に大きな意味があるのではないでしょうか。また、通常保育と延長保育では担当する先生が変わることもメリットのひとつでしょう。子どもというのは、環境によってまったくちがった一面を見せるものです。通常保育の時間に決められたことをするのはすごく苦手なのに、延長保育の時間に自由に遊びを見つけて発展させることはすごく得意だという子どももいます。通常保育と延長保育、両方の先生に子どもの様子をヒアリングして子どものさまざまな面を知れることは、親からすれば子どもの見方が変わり、安心できるということにもつながると思います。親子一緒に過ごせる時間が短いから強い絆を築けるここまで、延長保育のメリットばかりを挙げてきましたが、もちろんデメリットもあります。ひとついえるのは、子どもが幼いほど身体的なストレスになるということ。年少など幼い子どもの場合、どうしても体力がありませんから、長い時間、家ではない場所で過ごすことは大きなストレスになります。疲れが残って、午前中に眠くなってしまったり集中力がなくなったりということがあるのです。ですが、そういうことも体が成長するにつれてなくなっていきますから、あまり心配しすぎる必要はありません。延長保育を利用している保護者の多くが、子どもを心配すると同時に、子どもに対して「申し訳ない」という気持ちを持っています。でも、子どもは親が思う以上に延長保育の時間を楽しんでいます。そしてなにより、親が「申し訳ない」なんて気持ちを持っていれば、せっかく子どもと過ごせる大切な時間もいいものにはなりづらいのではないかと思うのです。変に心配したり「申し訳ない」気持ちを持ったりするのではなく、延長保育のなかでしか味わえない経験や気持ちを、子どもからどんどん聞き出してみてください。そうすれば、一緒に過ごせる時間がたとえ短くても、あるいは短いからこそ大切な時間としてとらえられ、親子の絆をより濃密なものにできるのではないでしょうか。■一般社団法人キッズコンサルタント協会■ 一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事・野上美希先生インタビュー一覧第1回:子どもの順応性は親が思う以上に高い。「申し訳ない」という気持ちは不要です第2回:「小1の壁」を乗り越えるために――子どもの言葉の裏にある本心とは?第3回:放課後や長期休みに「非認知能力」を高めよう。学童でさまざまな経験を第4回:自己肯定感も勉強への姿勢も“熱中体験”の先で生まれる【プロフィール】野上美希(のがみ・みき)1977年3月21日、千葉県出身。一般社団法人キッズコンサルタント協会代表理事。東北大学工学部卒業後、日本総合研究所にてコンサルティング、事業企画、採用、営業と多岐にわたる経験をした後、株式会社マイナビで人材紹介事業部の立ち上げに従事。営業部長として複数の部下をマネジメント。その後、自身の妊娠を機に久我山幼稚園の運営に携わり、産後母の孤独を解消すべく、子育てひろば開設を皮切りに、働く母の支援のため、幼児教育をベースとした民間学童や6つの認可保育園を開設。また、民間学童指導員資格であるキッズコンサルタント資格を認定する一般社団法人キッズコンサルタント協会を立ち上げ、代表理事を務めている。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月19日親であれば、誰もが子どもには幸せになってほしいと願っています。では、その幸せとはどんなことであり、どうすれば子どもは幸せになれるのでしょうか。イタリア生まれの教育手法「レッジョ・エミリア・アプローチ」をベースとするインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」の伊原尚郎理事長は、「幸せは他者とのかかわりのなかでこそ生まれる」といいます。その真意を聞く前に、東京チルドレンズガーデンの1日のスケジュールについての話からはじめてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)決まった1日のスケジュールは存在しない「レッジョ・エミリア・アプローチ」では、誰かが指示をしたり目標を与えたりするのではなく、基本的に子どものなかから湧き出る興味に従って活動します。ということは、決まった1日のスケジュールもないということ。当校のホームページには、登園から降園までのスケジュールを掲載していますが、それも便宜上のものであり、だいたいの目安でしかありません。決まっているのは、8:30の登園時間くらいのものでしょうか。もちろん、なにをやるかは子どもたち次第。たとえば、明日(取材日の翌日)は、わたしにはあるひとりの子どもとの約束があります。それは、電車に乗ってふたりで上野の博物館に行くこと。いま、その子がいちばん興味を持っているのが博物館だからです。帰りの予定も、「だいたいお昼頃には帰ってこようかな」くらいのものです。理想は、子どもたちみんなが自分なりの課題を持った独立系研究者のようになることです。朝、登園してきて「おはようございます」といったら、「それでは、研究をはじめます」という感じで、なにかをやらされるのではなく、自分の興味を持っていることに没頭してほしい。そして、わたしたちの役割は子どもの研究のサポートです。自分の子どもがアインシュタインだったとしたら、研究中の彼に向かって「はい、時間がきたから研究はやめて散歩に行きましょう」なんてことをいう人はいないでしょう?やることは、「なにか必要なものはある?」と聞いて、研究のサポートをすることしかありません。子どもを信じることが、子どもの本来の力を引き出すこの自由度の高さは、GoogleやYahoo! などに見られるフリーアドレスのオフィスに通じるものがあると思います。フリーアドレスは、チームのメンバーの誰もが自発的に仕事をすることが前提となっているシステムです。「ちょっとカフェで仕事をしてきます」というメンバーに対して、マネジャーが「あいつはちゃんと仕事をしているのか」と考えていたら成立しません。同じように、「子どもにはすごい能力がある」という観点に立って子どもたちを信じることこそ、子どもが本来持っている能力を引き出し、伸ばすことになるのです。でも、残念ながら多くの親は子どもに対して「この子はなにも知らないから、わたしが教えてあげなければならない」と思い込んでいます。少し話はそれますが、このことの要因のひとつは、「教育」という言葉そのものだとわたしは考えています。教育を意味する英語の「education」の語源は「educe」。本来、その意味は「引き出す」です。ところが、福沢諭吉は、「education」を「教え育てる」として「教育」と訳してしまった。このことに対して、福沢諭吉自身ものちに「誤訳だった」と振り返っています。でも、日本では「教育」という言葉が浸透してしまいました。漢字は表意文字ですから、わたしたち日本人は漢字を見るだけで意味を受け取ります。そうして、「education」は、本来の「力を引き出す」ではなく「教え育てる」という意味として日本人には感じられるようになりました。このことの影響は非常に大きいとわたしは見ています。親であるみなさんには、「子どもは教えてあげなければならない存在だ」という思い込みをもう一度見直してほしいのです。もともと有能な子どもが集まれば、素晴らしいものができる!話を戻しましょう。わたしの理想は子どもたちが独立系研究者のようになることだと述べました。でもそれは、自分勝手な人間になるということではありません。優れた研究者――つまり子どもたちが集まれば、それぞれが持っている力を結集して思いもよらない大きな成果を生むということもあります。たとえば、絵を描く場面もそうです。子どもたちが絵を描くとき、一般的な幼稚園では、子どもたちそれぞれに1枚の紙を用意します。一方、わたしたちの学校では、大きな紙にみんなで絵を描くのです。すると、友だちの描き方を見て「あれ、いいな」と思った子が、その描き方を真似するということもあります。一方、真似された子も別の子の絵を見て、「あの色ってどうやってつくっているんだろう」なんて思って真似しようとする。こうして、互いに影響を与えたり与えられたりしながら、それぞれが学び、壮大なコラボレーションともいえる絵ができ上がります。そして、それこそが人間の社会にとって大切なことです。他人を出し抜いた誰かひとりがお金持ちになればいいということではないでしょう?わたしは、子どもたちみんながそれぞれに自分なりの幸せを手にしてほしいと願っています。その幸せとは、愛する人と出会っていい家庭を築くことかもしれないし、気の合う同僚とやりがいのある仕事をすることかもしれません。いずれにせよ、幸せというものの多くは、他者とのかかわりのなかで生まれるものであるはずです。そして、少なくともわたしたちの学校を巣立った子どもたちなら、そういう幸せな人間になってくれるのではないかという期待を抱いているのです。■東京チルドレンズガーデン■ 東京チルドレンズガーデン・伊原尚郎理事長インタビュー一覧第1回:いまの時代にマッチする「レッジョ・エミリア・アプローチ」の教育第2回:もしも子どもがアインシュタインだったら?子どもに対して親が取るべき姿勢第3回:グローバルな人間に――生まれ育った地域や国を知る「レッジョ・エミリア・アプローチ」第4回:信じることで本来の力を引き出す。すごい能力を持つ子どもたち【プロフィール】伊原尚郎(いはら・ひさお)東京チルドレンズガーデン理事長、共同創設者。米国ニューヨーク州立大学メディアアート科修士課程修了。ビデオアーティストとしてニューヨークで多方面に活躍。約20年の在米ののち帰国し、幼稚園の園長に就任。国際幼児教育の理解を深め、クリエイティブ思考を育てるための研究に従事。2017年に共同創設者の西ヶ谷アンとともにレッジョ・エミリア・アプローチをベースとするインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」をオープンし、理事長に就任。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月18日イタリアで生まれ、欧米はもちろん日本でも注目度が上がっている教育手法「レッジョ・エミリア・アプローチ」。その教育手法をベースとしたインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」の伊原尚郎理事長は、「子どもをグローバルな人間に育てるためにも、地域を大事にすることが大切」と語ります。一般的な幼稚園や学校にはいない、レッジョ・エミリア・アプローチの学校に特徴的な専門的な先生の存在意義と併せて、その言葉の真意を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもたちの活動や考え方を広げる「アトリエリスタ」当校のような「レッジョ・エミリア・アプローチ」の学校には、一般の先生とは別に、ちょっと特殊な専門の先生がかかわるという特徴があります。そのひとつは、「アトリエリスタ」と呼ばれる先生。言葉の響きからなんとなく想像できるかもしれませんが、アトリエリスタは芸術の先生です。とはいっても、一般的な学校における美術の教科を担当する先生とはちがって、絵を専門にしている人もいれば、音楽家もいますしダンサーのアトリエリスタもいます。アトリエリスタがかかわる目的は、学校教育の幅を広げるということ。いくらレッジョ・エミリアが通常の教育とはちがうといっても、教育というものをバックグラウンドにしている先生だけだった場合、どうしてもその考え方は狭まってしまいます。そこにアトリエリスタという芸術をバックグラウンドにした異質の人間を入れることで化学反応を起こし、学校における活動や考え方を広げようというわけです。つまり、芸術の先生だといっても、アトリエリスタは子どもたちに絵の描き方を手取り足取り教えたり、楽器の演奏やダンスを教えたりするわけではありません。あくまでも、子どもたちを一般の先生とはちがった芸術家らしい視点で見て、子どもたちの活動や考え方の幅を広げていくための存在なのです。子どもの活動や考え方に意味づけをする「ペダゴジスタ」子どもたちにとって、一般の先生に加えてアトリエリスタがいることは、ビジネスパーソンにたとえれば、まわりにいろいろな同僚がいるような状況といえます。ひとつの考えに凝り固まった同僚ばかりがいるような状態だと、本人もその考えに染まってしまいますよね。でも、タイプが異なるいろいろな同僚がいたらどうでしょうか。ある仕事に対して、「それ、いいね!」といってくれる同僚もいれば、「こういう考え方もあるんじゃない?」と指摘してくれる別の同僚もいる。そういう状況なら、本人の自分の仕事に対する視点や考え方は大きく広がっていくはずです。ただ、アトリエリスタはあくまでも芸術家。そのため、教育の理論にはそれほど詳しくないという場合もあります。そこで活躍するのが、また別の専門的な先生である「ペダゴジスタ」です。ペダゴジスタは教育理論の専門家です。アトリエリスタによって広がった活動も、そのままではぼんやりしたものになるということもある。そこで、それらの活動に、ペダゴジスタが教育的な意味づけをするのです。アトリエリスタやペダゴジスタは、一般企業におけるアドバイザーやコンサルタントのようなものといえます。なにかのプロジェクトを進めるというとき、メンバーがその企業で育った社員ばかりでは、同質すぎて目新しい内容にすることはそう簡単ではありません。そこで、ちがった観点でものごとを見られるアドバイザーやコンサルタントをメンバーに入れるということがありますよね。こうして、子どもたちの活動やその見方を広げ、一方できちんと意味づけをしていく。子どもたちにとっても、一般の先生にとっても、アトリエリスタとペダゴジスタの存在は大きな意味があるものなのです。本場では先生と保護者がワインを飲みながら語り合うこのように、さまざまな人とかかわるということもレッジョ・エミリアの特徴です。そのかかわりは、学校の外にも向かいます。たとえば、保護者とのかかわりもそう。一般的な幼稚園やそれこそ保育所には「子どもは守られるべき存在」という認識があり、子どもの安全を確保していくというような、「サービスを提供する」という考え方があります。でも、レッジョ・エミリアには「子どもたちはものすごく有能な存在だ」という認識があるのです。そして、どうすれば「この有能な人のサポートをできるのか」と、保護者と一緒に考えます。もちろん、サービスを提供する場合と比べれば、保護者とのかかわりは濃いものになります。本場のイタリアでは、夜の9時くらいから深夜2時くらいまで、先生と保護者たちがワインを飲みながら語り合うということもあるようです。しかも、その場には地域の代表も同席している。というのも、レッジョ・エミリアは基本的にローカルの教育だからです。そういう意味では、わたしたちの学校にも「どんどん地域に出て行く」という特徴があります。たとえば、人がたくさんいる状況に子どもが興味を持ったなら、学校を飛び出して雑踏を観察しに行くわけです。いま、教育現場では「グローバルな人間を育てることが重要だ」と盛んに叫ばれていますが、ただ英語を学んでもグローバルな人間になれるわけではありません。そうではなくて、まずは自らが生まれ育った地域や国のことをよく知る必要があります。そうでなければ、外の世界とのさまざまなちがいを感じることもできないのですから、グローバルな人間になれるわけもないのです。■東京チルドレンズガーデン■ 東京チルドレンズガーデン・伊原尚郎理事長インタビュー一覧第1回:いまの時代にマッチする「レッジョ・エミリア・アプローチ」の教育第2回:もしも子どもがアインシュタインだったら?子どもに対して親が取るべき姿勢第3回:グローバルな人間に――生まれ育った地域や国を知る「レッジョ・エミリア・アプローチ」第4回:信じることで本来の力を引き出す。すごい能力を持つ子どもたち【プロフィール】伊原尚郎(いはら・ひさお)東京チルドレンズガーデン理事長、共同創設者。米国ニューヨーク州立大学メディアアート科修士課程修了。ビデオアーティストとしてニューヨークで多方面に活躍。約20年の在米ののち帰国し、幼稚園の園長に就任。国際幼児教育の理解を深め、クリエイティブ思考を育てるための研究に従事。2017年に共同創設者の西ヶ谷アンとともにレッジョ・エミリア・アプローチをベースとするインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」をオープンし、理事長に就任。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月17日東京の高級住宅街・池田山に、イタリア発祥の「レッジョ・エミリア・アプローチ」という教育手法をベースとしたインターナショナルプレスクールがあります。その「東京チルドレンズガーデン」の伊原尚郎理事長によると、レッジョ・エミリア・アプローチの大きな特徴として「プロジェクト活動」が挙げられるそう。いったい、どんな活動なのでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「プロジェクト活動」の具体的手法とその目的わたしたちの学校で行っている「レッジョ・エミリア・アプローチ」の特徴的なものに、「プロジェクト活動」があります。たとえば、散歩中に道端の石に興味を持った子どもがいたなら、石を集めたり観察したりすることがプロジェクトになります。一方、先生は子どもが石のなにに興味を持っているのかということをつぶさに見ていく。それは、石が地面に落ちたときの音なのかもしれないし、石の手触りや色、重さかもしれません。そして、子どもが石を拾ってなにをしていたのか、その様子をドキュメント――記録していくのです。これは、保護者と情報を共有するということもありますが、それよりもコラボレーターとして子どもに対して働きかけることが最大の目的です。日々、どんどん成長している子どもというのは、前の日のことをすぐに忘れてしまうものですよね。そこで、翌日に先生がドキュメントをもとに子どもに語りかけるのです。「昨日のこと、覚えてる?」「あなたはこの石を拾ってずっと見てたよね」「『この模様が面白いんだよ』って言ってたよ」「わたしにはこう見えたよ」といった具合です。このことにはさまざまな目的があります。たとえば、その語りかけによって、言語を手渡していくということもそのひとつ。まだ語彙が少ない子どもに対して、「あのことはこう説明すればいいんだ」「あの感情はこういう言葉で表現するんだ」というふうに、子ども自身の体験や感情の言語化を助けてあげるのです。あるいは、「こういう見方をしても面白いかもしれないよ」というふうに、子どもは気づかなかったものごとの別の見方を提供することもドキュメントの目的のひとつです。そのようにして、子ども自身の学びを深めていくことがプロジェクト活動なのです。プロジェクト活動を通じて身につける自ら学ぶ姿勢プロジェクトと聞くと、なにか大きなテーマがあり、ある程度の長い期間にわたって行うようなものをイメージした人もいるかもしれません。もちろん、そういうプロジェクト活動をする教育手法もあります。でも、いろいろなものに次々に興味を持っていく子どもにとっては、そういうプロジェクト活動をすることはなかなか難しいですよね。しかも、大人が設定したなんらかの「正解」を求めるというようなものは、子どもには面白く感じられません。そこで、レッジョ・エミリアにおけるプロジェクト活動では、決められたゴールがあるようなテーマを与えることなく、子どもの興味から発するものをプロジェクトにします。ですから、大人からすれば、無謀と思えるようなものも出てきます。たとえば、過去には「影をつかまえる方法を考える」というプロジェクトもありました(笑)。その子どもは、最初は影に布をかけてみた。当然、影はつかまえられません。すると、友だちが「布をかけるのが遅いから逃げちゃうんだよ」といって今度は素早く布をかけてみる。今度はまた別の子が「布は軽過ぎるんだ」といって石を使ってみる。もちろん、失敗の連続です。でも、このプロジェクト活動においては、影をつかまえることやその過程で得る知識が重要なのではありません。友だち同士で相談してアイデアを出し合いながら、子どもたちが自ら学ぶ姿勢を身につけていくこと――それこそが重要なのです。その学ぶ姿勢は間違いなく次の学びに生きてきますし、友だちとの話し合いを通じて身につけた他者とのかかわり方は、社会に出たときにも強力なスキルになるはずです。親こそ思い込みを捨てて子どもの本当の声を聴いてほしい先に、レッジョ・エミリアの先生は子どものプロジェクトをしっかりと見て記録すると述べました。その際、もっとも大切となるのは、子どもがなにを考えているのか、なにに興味を持っているのか、たとえそれを子どもが言葉にできなかったとしても感じてあげる力です。では、どうすればそうできるようになるのでしょうか?このことは、学校の先生だけではなく、子どもたちの親にこそ身につけてほしい姿勢です。それは、「子どもに対して尊敬の念を持つ」ということ。子どもは子どもなりに自分で学んでいく力を持っています。それなのに、親は子どもに対して「教えてあげなければいけない」「指示してあげないといけない」という思い込みを持ちがちです。でも、もし子どもではなくアインシュタインが相手だったらどうですか?「あれをやりなさい」なんていったり、まして「教えてあげよう」なんて思ったりしないでしょう。代わりに「なにを考えているんだろう」「絶対にすごいことを考えているぞ」と思って、じっくりその様子を観察するのではないでしょうか。それと同じ姿勢で子どもに接してほしいのです。そうすれば、子どもがいままさに学んでいることをしっかりと感じることができるはずです。■東京チルドレンズガーデン■ 東京チルドレンズガーデン・伊原尚郎理事長インタビュー一覧第1回:いまの時代にマッチする「レッジョ・エミリア・アプローチ」の教育第2回:もしも子どもがアインシュタインだったら?子どもに対して親が取るべき姿勢第3回:グローバルな人間に――生まれ育った地域や国を知る「レッジョ・エミリア・アプローチ」第4回:信じることで本来の力を引き出す。すごい能力を持つ子どもたち【プロフィール】伊原尚郎(いはら・ひさお)東京チルドレンズガーデン理事長、共同創設者。米国ニューヨーク州立大学メディアアート科修士課程修了。ビデオアーティストとしてニューヨークで多方面に活躍。約20年の在米ののち帰国し、幼稚園の園長に就任。国際幼児教育の理解を深め、クリエイティブ思考を育てるための研究に従事。2017年に共同創設者の西ヶ谷アンとともにレッジョ・エミリア・アプローチをベースとするインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」をオープンし、理事長に就任。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月16日「レッジョ・エミリア」という言葉を耳にしたことがある人はいるでしょうか。本来、レッジョ・エミリアはイタリアの都市の名前です。レッジョ・エミリアは、町を挙げての幼児教育と芸術教育により、欧米はもちろん近年は日本でも注目度が上がっており、その教育手法は「レッジョ・エミリア・アプローチ」として広まりつつあります。レッジョ・エミリア・アプローチをベースにしたインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」の伊原尚郎理事長に、その教育の特徴を聞いてみました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)子どもには子ども自身で学べる力が備わっている当校の教育について具体的にお話する前に、先にお伝えしておきたいことがあります。読者のみなさんのなかには、わたしたちの教育が「子どもにどんな効果を生むのか」という「答え」のようなものを求めている人がいるのではないでしょうか。取材を受けるときにも、「どのように創造性を高めているのか」「どうすれば勉強ができるようになるのか」といった質問をされることがとても多いものです。でも、わたしたちは基本的に、そんな大人の意志で子どもを誘導するようなスタンスを取っていません。なぜかというと、子どもには子ども自身で学べる力が備わっているからです。その力がしっかり発揮できるような環境を整えることが、わたしたちの役割なのです。ですから、先のような質問に対して、求められているようなわかりやすい答えを提示することはできないということを、まずはお断りしておきます。さて、当校の教育のベースにあるのは、イタリア発祥の「レッジョ・エミリア・アプローチ」です。その特徴というと、「子どもは有能で知的な学習者」ということを前提としていることがまず挙げられます。これは、「構成主義」と呼ばれる考え方です。みなさんのなかにも、「モンテッソーリ教育」について聞いたことがある人は多いでしょう。モンテッソーリなど、いま注目されているほかの新教育なども、同様に構成主義の教育手法です。ただ、レッジョ・エミリアは、構成主義のなかでも「社会構成主義」だという点で、ほかの新教育とは異なります。同じ構成主義でも、レッジョ・エミリア以外の多くの教育手法は、「人間が個人としてどのように学んでいくのか」という観点で研究がされてきました。でも、人間はひとりで生きていくわけではないですよね?なにかを学ぶ場面というのは、ひとりで机に向かって勉強するときだけではありません。人間は周囲のさまざまな他者とかかわり、影響を受けたり与えたりしながら学んでいくもの――。そういう考え方から出発しているのが、レッジョ・エミリアの中核的な考え方である社会構成主義なのです。大人が決めた分野に縛られず、子どもは広く学ぼうとするその他にも、レッジョ・エミリアには他の新教育と異なる点があります。多数の他の新教育は、さまざまな教具を用意しておき、「この教具を使えばこういう学びが深まる」というようなメソッド方式をとっています。でき上がっている教具などの学びの条件を用意し、環境から引き離し、学びは直線的に獲得されるとの観念のうえに実践があります。学びは、教科・発達分野というかたちの分類をされ、理解されています。しかし、人間の学びというものは、そんな教科・発達分野に縛られないもっと広い興味からはじまり、もっといろいろな可能性を秘めたもののはずです。それがレッジョ・エミリアの考え方なのです。レッジョ・エミリアの実践は子どもの興味・関心からはじまり、ゆっくりとジグザグに、ときには後退などしながらも学んでいくという考え方を大事にするアプローチ方式で行われます。それだけに、少しわかりにくいということころもあるのですが……(苦笑)。子どもには、大人が考える教科のような分野に縛られることなく、あらゆることを学びたいという欲求があります。それは、本能的に持っている欲求です。たとえば、いまなら『パプリカ』という子どもに人気の曲を聴けば、子どもたちは自然に歌ってダンスをはじめます。子どもたちはなにも意識的にアートを学ぼうとしているわけではありませんが、大人の目には、先の教科のように、それがアートという分野を学んでいるように映るということに過ぎないのです。子どもたちは、ごく自然な欲求として歌って踊っているだけのこと。だったら、そうできる環境を用意していくというのが、わたしたちの考え方です。指示や目標を与えないからこそ、社会で活躍できるようになるわたしたちは、一般の学校のように「あれをしなさい」「これは駄目」というふうな指示は極力しません。もしかしたら、わたしたちの学校で育った子どもたちが一般の学校に行くことがあれば、ちょっと変わった子どものように見られてしまうかもしれません。でも、実社会に出たときのことを考えてみてください。誰かから指示をされたり目標を与えられたりしなければ行動できない人間が社会で活躍できるでしょうか?いま、世界を牽引しているGoogleのような企業の場合、基本的にはなにをつくるといった目標はありません。社員の自由な発想により、これまでになかった画期的なサービスをいくつも生み出しているのが、新しい時代の企業です。そして、それらの発想は、他者との関係性のなかから「こういうサービスがあったら、すばらしい社会になるにちがいない」と生まれてきます。当校の子どもたちがやっていることも、それと似ているかもしれません。誰かから指示をされたり目標を与えられたりすることなく、友だちや先生など他者とのかかわりのなかで自由な発想で学んでいきます。そういう点で、いまの時代とレッジョ・エミリアの親和性は非常に高いと思うのです。■東京チルドレンズガーデン■ 東京チルドレンズガーデン・伊原尚郎理事長インタビュー一覧第1回:いまの時代にマッチする「レッジョ・エミリア・アプローチ」の教育第2回:もしも子どもがアインシュタインだったら?子どもに対して親が取るべき姿勢第3回:グローバルな人間に――生まれ育った地域や国を知る「レッジョ・エミリア・アプローチ」第4回:信じることで本来の力を引き出す。すごい能力を持つ子どもたち【プロフィール】伊原尚郎(いはら・ひさお)東京チルドレンズガーデン理事長、共同創設者。米国ニューヨーク州立大学メディアアート科修士課程修了。ビデオアーティストとしてニューヨークで多方面に活躍。約20年の在米ののち帰国し、幼稚園の園長に就任。国際幼児教育の理解を深め、クリエイティブ思考を育てるための研究に従事。2017年に共同創設者の西ヶ谷アンとともにレッジョ・エミリア・アプローチをベースとするインターナショナルプレスクール「東京チルドレンズガーデン」をオープンし、理事長に就任。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月15日親であれば、自分なりの「理想の子育て」というものを考えているでしょう。もちろん、それぞれにちがっていいものですが、子育てには不安がつきものです。自分の理想に自信を持てない人もいるかもしれません。そこで、著書の『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)で注目を集める脳科学者・西剛志先生に、先生ご自身の「理想の子育て」とはどんなものなのかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/和知明(インタビューカットのみ)自立するために必要な「困難を乗り越える力」脳科学をベースとして子育ての研究を続けるなかでわたしがいきついたのは、子育ての最終目標は「子どもを自立できる人間に育てること」です。どんなに勉強ができても、どんなにスポーツで優れた力を発揮できても、他人に依存しなければならない人間は、将来的にしっかり生きていくことができないからです。では、自立するためにはなにが必要なのかというと、そのひとつは「困難を乗り越える力」だと考えています。人は人生を歩むうえでいくつもの困難にぶつかります。それらを乗り越えられなければ、その先の人生を歩むことができません。ところが、いまの子育てを見ていると、その大切な「困難を乗り越える力」を育む場面をわざわざ奪っているように思えるのです。それはきっと、子どもに対する愛情からなのでしょう。子どもがつまずく前から困難を排除する――。そういう親が増えているのではないでしょうか。その場合、子どもは、親のそばにいるときには一度も挫折を味わうことなく成長していきます。でも、その子どもが親元を離れて社会に出たとしたらどうなるでしょうか。人生には困難にぶつかる場面が必ず訪れます。それが人生ではじめての困難だったとしたら……?過去に困難を乗り越えた経験が一度もないのですから、たった一度の挫折で心が折れてしまうということになりかねません。チャレンジに対してしっかり褒めることが大切子どもの「困難を乗り越える力」を育むには、大ケガをするといった本当に危険なこと以外の小さな困難を乗り越える経験を、小さい頃からどんどんさせてほしいと思います。そして、そのチャレンジに対してしっかり褒めてほしい。わたしには幼い息子がいます。わたし自身は子どもの頃からチャレンジ精神旺盛なタイプでしたが、息子は不思議なほど慎重派でした。そこで、妻とも話し合って水泳教室に通わせることにしたのです。通いはじめたばかりの頃、教室の先生は息子を抱いて5秒間くらい水のなかに潜らせました。もちろん、水から顔を出した息子はすごくびっくりしている。じつは、先生はちょっとこわもて……(笑)。でも、その先生が、息子が水から顔を出した瞬間、「すごいね!」「よく我慢できたね!」と、こわもての見た目からは考えられないくらいに褒めちぎってくれたのです。すると、息子はいまでいう「ドヤ顔」というか、まんざらでもない表情を見せました。おかげさまで、それ以降、すごく慎重派だった息子は新しいことにチャレンジしていくようになったのです。夫婦喧嘩が絶えなければ、子どもの対人スキルが育たないでも、いくら自立できる人間に育てることが大切だといっても、人はひとりでは生きていけません。他人の心がわかり、周囲といい関係を築いていけることも大切な力です。子どもをそういう人間に育てるには、なによりも夫婦関係を良好なものにすることを心がけましょう。それには、脳科学的なエビデンスがあります。どんなエビデンスかというと、人間の脳にあるミラーニューロンという神経細胞の働きです。みなさんの目の前に笑っている人がいたらどんな気持ちになるでしょうか。あるいは怒っている人ならどうでしょう。前者なら幸せな気持ちになって、後者なら嫌な気持ちになるはずです。つまり、目の前の人間の行動を見て、自分も同じ行動を取っているかのように反応するわけです。これがミラーニューロンの働きです。では、両親が子どもの前でつねに喧嘩をしていたとしたら?子ども自身は喧嘩をしていなくとも、心はつねに誰かと喧嘩をしているときと同じ影響を受けるのです。そして、その子どもは、将来的に人間関係の問題を起こしやすくなるというわけです。また、ニューヨーク大学の研究によれば、両親が暴力的な家庭に育った子どもは、他人の感情を読む力が衰えるということもわかっています。心を閉ざし、暴力的な親など他人の感情を読まないことで自分を守ろうとしているのです。これでは、大人になったときに周囲と良好な関係を築けるはずもありません。子どもの長所に目を向けて自信を持たせるそれから、夫婦喧嘩をしないことのほかに、子どもの長所に目を向けてあげることも親の大切な役割です。謙虚であることがいいとされる日本文化の影響なのか、「うちの子はなにをやらせても駄目で……」といったことをいう親も多いものです。でも、考えてみてください。あなたの目の前につねにあなたに駄目出しをする人がいたらどうでしょうか。嫌な気持ちになるし、どんどん自信を失っていくでしょう。「うちの子はなにをやらせても駄目」という親は、自分の子どもに対してそれと同じことをしているわけです。そうではなく、子どもの長所に目を向けて、その長所を子どもに伝えてあげる。それこそが、親がやるべきことです。わたしが講演会で親御さんたちによくやってもらうのが、「10分間で20個の子どもの長所を書き出す」ということ。これをやると、子どもの見方がまったく変わります。最初は、勉強やスポーツに関することなど、わかりやすいところに目が向くのですが、20個を書き出すとなると、「嫌な顔をせずにお手伝いをしてくれる」「友だちと仲良くできる」というふうに、普段はあまり意識していない点についても目を向けることになります。そして、その長所を子どもに伝えてあげるのです。直接話してもいいですし、書き出したものを子どもの目につくところに貼ってもいいでしょう。それを見た子どもは、それこそ自立して生きていくために必要な自信を身につけてくれるはずです。『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』西剛志 著/ダイヤモンド社(2019)■ 脳科学者・西剛志先生インタビュー一覧第1回:家のなかに生活感を!子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること第2回:お手伝いで子どもの「自制心」が育つ“脳科学的メカニズム”第3回:集中力がない、聞き分けがない、内気。子どもの性格の「困った」はどうする?第4回:子どもを自立できる人間に育てる――脳科学者が考える「理想の子育て」【プロフィール】西剛志(にし・たけゆき)1975年4月8日、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、(一財)知的財産研究所に入所。2003年に特許庁入庁。大学非常勤講師を兼任しながら、書籍出版、雑誌掲載、ノーベル賞受賞者との対談、世界旅行、結婚、当時日本に1100人しかいない難病の克服など、多くの夢を実現。その自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、いい人生を歩むための脳科学的ノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は、脳科学を生かした子育ての研究も行う。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月12日子どもが成長するにつれ、徐々にそれぞれの性格がはっきりしてきます。でも、なかには、親からすれば「困った」と思うような性格もあるでしょう。そんな子どもの性格の「困った」に答えてくれるのは、著書の『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』(ダイヤモンド社)で注目を集める脳科学者・西剛志先生です。「集中力がない」「聞き分けがない」「内気」という3つのケースについて、親がどうするべきかというアドバイスをしてくれました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/和知明(インタビューカットのみ)脳が未発達の子どもは集中力がなくてあたりまえ多くの親御さんから寄せられる悩みとして、「子どもの集中力がない」というものがあります。集中力を司る脳の前頭前野という部分は28歳くらいまでの長い時間をかけて発達していくものですから、子どもの前頭前野はそもそも未発達です。つまり、子どもは集中力がなくてあたりまえなのです。でも、そうはいっても、すごい集中力を発揮する子どももいますよね?電車が好きな子どもなら、飽きずにずっと電車を眺め続けます。そういう子どもがなにに集中しているかというと、間違いなく自分が好きなことなのです。つまり、たとえ前頭前野は未発達の子どもでも、自分の好きなことならしっかり集中できる。そうして集中することが、集中力を育む最適なトレーニングとなります。であるならば、親としては子どもの好きなこと、やりたいことをきちんと見つけて、没頭させてあげることが大切になります。逆にいうと、子どもがやりたくもない習い事を親のエゴで無理やりやらせるようなことはNGだということです。それから、親のNG行為としては、子どもにむやみに介入することも挙げられます。せっかく子どもが自分の好きな遊びに集中しているのに、つい「面白そうだね」なんて一緒に遊ぼうとしてはいませんか?その都度、子どもの脳の集中は途切れますから、これは、わざわざ親が子どもの集中力を育む邪魔をしているということなのです。子どもがなにかに黙々と取り組んでいるときは、親はそっと見守るように心がけてください。また、集中力がなく飽きっぽい子どものなかには、単純に頭がいいという可能性もあります。おもちゃを与えてみてもすぐに飽きてしまう。それは、頭がいいためにそのおもちゃでの遊び方をすぐに学習してしまうからということも考えられるわけです。聞き分けがない子どもほど社会的に成功しやすいまた、「うちの子は聞き分けがない」というのもよく寄せられる悩みです。親の立場からすれば、聞き分けがない子どもはわがままに映って困ってしまうものですよね。ですが、ちょっと意外な研究データがあります。ドイツのヘッツァーという心理学者の研究なのですが、「聞き分けがない子どもほど社会的に成功しやすい」というのです。親の目にはただのわがままに映っているような子どもも、子ども本人からすればそうではない場合もあります。それは、子どもが自分の考えをきちんと持っていて、親の話に納得していないという場合です。自分でしっかり考えることができるのですから、将来的に成功を収める可能性が高いというのも納得できる話ですよね。そういう子どもに対しては、親の考えをしっかり伝えることが大切です。なにかを禁止するにしても、「○○しちゃ駄目」というだけではなく、なぜ駄目なのか、その理由をきちんと伝える。そうすれば、自分の考えを持っているような頭のいい子なのですから、しっかり理解してくれるはずです。とにかく、「聞き分けがないことは悪いことだ」と決めつけてはいけません。ただ、そうはいっても、聞き分けがないことで家族以外の他人に迷惑をかけるようなことは問題ですから、その点だけはきちんとしつける必要があるでしょう。もうひとつの注意点は、先の話を受けて、「うちの子は聞き分けがないから成功する」と早合点してはいけないということ。聞き分けがない子どもになることの要因として、カロリー不足、睡眠不足、愛情不足の3つの不足が挙げられます。もしかしたら、自分の考えをしっかり持っているのではなく、それら3つが不足しているだけかもしれません。しっかりご飯を食べさせて、睡眠時間を確保し、親子のスキンシップを取ってください。内気な子どもほど内的なエネルギーに満ちている最後に、「内気な子ども」のケースを取り上げておきましょう。いつからか「明るいことがいい」「ポジティブであることがいい」という時代になったことで、子どもが内気なことを心配している親は意外なほど多いものです。ただ、これも聞き分けがないことと同じように、心配しすぎる必要はありません。内気な子どもは、「内面的才能」が高い可能性が考えられるからです。内面的才能とは、「自分の心を深く掘り下げる能力」のこと。そんな子どもは、幼少期のときには口数も少なくてひとりで遊ぶようなことが多いという傾向があります。そして、そのなかで高い創造力を身につけ、将来はクリエイティブな仕事で力を発揮するということもある。あるいは、自分の心を深く掘り下げられると同時に他人の気持ちもわかるので、カウンセラーなどの仕事に向いているということもあります。また、内気な子どもほど内的なエネルギーが強いという研究もあります。ひとりで遊んでも十分に楽しめるというのは、エネルギーに満ちていると見ることもできます。一方、明るく外交的な人はどうかというと、他人と会って他人からエネルギーをもらってはじめて楽しいと思える。自分自身で楽しみを生み出すような強いエネルギーを持っていないのです。たとえ内気であっても、そんなエネルギーに満ちた子どもなら、内面的才能によって自分の心を掘り下げ、「これだ!」と思う目標を見つけたときには、それに向かって力強く進んでいけるでしょう。いずれにせよ、「内気なことは良くないこと」という先入観を親はいますぐに捨てるべきです。内気な子どもには内気な子どもだからこそ持つ力があるのです。『脳科学的に正しい 一流の子育てQ&A』西剛志 著/ダイヤモンド社(2019)■ 脳科学者・西剛志先生インタビュー一覧第1回:家のなかに生活感を!子どもの「創造力」を伸ばすために親ができること第2回:お手伝いで子どもの「自制心」が育つ“脳科学的メカニズム”第3回:集中力がない、聞き分けがない、内気。子どもの性格の「困った」はどうする?第4回:子どもを自立できる人間に育てる――脳科学者が考える「理想の子育て」【プロフィール】西剛志(にし・たけゆき)1975年4月8日、鹿児島県出身。脳科学者(工学博士)、分子生物学者。T&Rセルフイメージデザイン代表。LCA教育研究所顧問。東京工業大学大学院生命情報専攻修了。2002年に博士号を取得後、(一財)知的財産研究所に入所。2003年に特許庁入庁。大学非常勤講師を兼任しながら、書籍出版、雑誌掲載、ノーベル賞受賞者との対談、世界旅行、結婚、当時日本に1100人しかいない難病の克服など、多くの夢を実現。その自身の夢をかなえてきたプロセスが心理学と脳科学の原理に基づくことに気づき、いい人生を歩むための脳科学的ノウハウを企業や個人向けに提供するT&Rセルフイメージデザインを2008年に設立。現在は、脳科学を生かした子育ての研究も行う。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年12月11日「星のカービィ」とコンバース スターズ(CONVERSE STARS)、イラストレーターの関根正悟のコラボレーションによるアイテムが登場。2020年3月6日(月)から15日(日)までの期間、大阪・ヘップファイブ(HEP FIVE)にオープンする限定ショップ「プレイフル カービィ(PLAYFUL KARBY)」で発売される。星のカービィ×コンバース スターズ「星のカービィ」とコンバース スターズのコラボレーションでは、両者共通のシンボルである“星”をメインモチーフにした、Tシャツやフーディ、ソックスなどをユニセックスで展開。中でもロングスリーブTシャツは、「星のカービィ」のタイトルフォントでコンバーススターズのネームをデザインした、アイコニックなフロントプリントが目を惹く。ポップな「星のカービィ」の英字ロゴをあしらったソックスやiPhoneケースにも注目。iPhoneケースでは、カービィがモノを吸い込む顔を大胆にプリントした、キュート&インパクト大のデザインも登場する。星のカービィ×関根正悟ファッションアイテムと英語のメッセージを掛けわせたタイポグラフィーが人気のイラストレーター・関根正悟が「星のカービィ」とコラボレーション。カービィの名前やグラフィックを用いたオリジナルアートのTシャツやバッグをはじめ、ぬいぐるみ、ノート、キーホルダーなどの雑貨をラインナップする。デザインのテーマは、“PLAYFUL”。パステルカラーで彩られた、明るい雰囲気アイテムが並ぶ。TシャツやiPhoneケースは全9種類、デザインバッチは全13種類と、豊富なラインナップも魅力。カービィをモチーフにしたアイテムはついつい集めたくなってしまうキュートなものばかりだ。【詳細】「星のカービィ」×コンバース スターズ、関根正悟販売期間:2020 年3月6日(金)~15日(日)販売時間:11:00~21:00販売場所:ヘップファイブ 1階 アトリウム催事スペース住所:大阪府大阪市北区角田町5-15※コンバース スターズコラボレーションアイテムの一部については、コンバース スターズ店舗でも取り扱いあり。<コンバース スターズコラボレーションアイテム>Tシャツ(M/L) 各6,500円+税、ロングTシャツ(M/L) 各7,800円+税、フーディ(2種) 各9,800円+税、キャップ 5,800円+税、ソックス(2種) 各1,800円、ソックス(ロング) 2,000円+税、スマホケース(2種) 各3,800円+税、サコッシュ 2,800円+税、ハンドタオル 1,200円+税、トートバッグ 3,800円+税■大阪会場開催記念アイテムロングTシャツ(M/L 2種) 7,800円+税※コンバース スターズ店舗でも取り扱いあり。<関根正悟コラボレーションアイテム>Tシャツ(M/L 9種) 各3,900円+税、フーディ(2種) 各6,000円+税、サコッシュ(2種) 各2,300円+税、キャンバスランチトート(2種)各1,250円+税、トートバッグ 1,500円+税/2,800円+税、スマホケース 各2,500円+税、キャンバスポーチ(2種) 各1,800円+税、ぬいぐるみ 2,300円+税、マグカップ(2種) 各1,800円+税、タンブラー 3,500円+税、B5リングノート(3種) 各750円+税、サガラキーホルダー(4種)各1,500円+税、アクリルキーホルダー(2種) 各800円+税、ハンカチ(3種) 各1,000円+税、クリアファイル(2種) 各450円+税、デザインバッジ(13種)各350円+税、パスケース(2 種) 各1,800円+税、クラッチバッグ 2,500円+税、ブランケット 3,800円+税
2019年12月08日“パンケーキ王子”杉本悟プロデュースのパンケーキショップ「ベリーファンシー(VERY FANCY)」が表参道に新店を2019年9月11日(水)オープンする。なお、同店舗は2020年5月までの期間限定店となる。日本全国から海外まで、年間200軒以上のパンケーキを食べ歩き、“パンケーキ王子”の愛称で知られる杉本悟。パンケーキの魅力を知り尽くした彼がプロデュースするパンケーキ専門店「ベリーファンシー」では、自家製チーズを練りこんだ風味豊かな生地を1枚1枚丁寧に焼き上げた、ふわふわ半熟の新食感パンケーキを味わえる。メニューは、既存のパンケーキメニューをベースに表参道ならではのオリジナルレシピメニューを追加。さらに様々なコンテンツとのコラボレーションも展開予定だ。オープンに際して、9月26日(木)から10月15日(火)まではMILKFED.と、10月17日(木)から11月10日(日)まではSUPER☆GiRLSとコラボレーションする。なお、表参道店では、「ベリーファンシー」初の事前予約制のオンラインシステムを導入し、“行列の出来ないパンケーキ店”を目指す。【詳細】ベリーファンシー 表参道オープン日:2019年9月11日(水)※2020年5月までの期間限定店住所:東京都渋谷区神宮前5-3-8 AF Lohas St.Bidg 2FTEL:080-3113-5135営業時間:11:00〜22:00定休日:不定休価格帯:1,000~1,999円席数:46席
2019年09月08日「マネー教育」が遅れていると指摘されることもある日本の教育ですが、間もなくはじまる新学習指導要領による公教育において、ようやくマネー教育が取り入れられる予定です。とはいえ、それもまだ先の話。グローバルに活躍する人の目には、現在の日本人のお金に対する姿勢はどのように映っているのでしょうか。お話を聞いたのは酒井レオさん。ニューヨークで生まれ育ち、アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカでは歴代最年少で全米営業成績1位となった、それこそグローバルに活躍する日系アメリカ人です。酒井さんが考える、家庭でできるマネー教育とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)人生をうまくコントロールするにはお金の知識が必要ようやく日本でも「マネー教育」という言葉が聞かれるようになりましたが、それでもやはり日本人のお金に対する知識はまだまだ足りていないように思います。人生においてお金という存在は欠かせないものですから、もう少し自分の人生をうまくコントロールするためにも、お金や経済の勉強をしっかりしてほしいですね。これはもちろん、子どもに限った話ではありません。そもそも、親世代のお金に関する知識が乏しいのです。「あなたが加入している保険はどんなプランですか」。――そう聞かれて、すぐに答えられないという人も多いのではないでしょうか。子どもをきちんとお金とつき合える人間に育てるためにも、まずは親がお金というものに対してもっとアンテナを張る必要があるように思います。もしかしたら、子どものほうがお金に対しては敏感かもしれませんね。僕はコーチとして子どもたちにサッカーを教える活動もしているのですが、そこで教え子からこういう話をされたことがあります。「コーチ、ビル・ゲイツってどれくらい稼いでいると思う?」「1秒で5万円なんだって!」。数字というものはすごくわかりやすくて、なにかと比較するにも使いやすいものですよね?せっかく子どもがお金に興味を持って、そういったお金に関する会話を持ちかけてきてくれたのなら、「ふーん、そうなの」なんて返答で終わらせるのではなく、親もその会話に乗ってあげてほしいのです。子どものまえに親自身がお金の知識を高めるでは、マネー教育が足りないまま大人になると、どういうデメリットがあると考えられるでしょうか。それは「自分の価値を表現できない」ということです。日本では、就職活動をする求職者は「仕事をください!」「お願いします!」という姿勢で面談に臨みますよね?それに対して雇用する側の会社が「うちの給料はこうだから」と提示する。求職者はその提示をただ飲み込むだけ……。それでは、自分の人生をコントロールしているとはいえません。そうではなくて、「自分にはこういう経験やスキルがあるから、給料をいくらにアップしてほしい、こういう部署に配属してほしい」というふうに、自分の価値を売り込めなければならないのです。もしそういう売り込みがきちんとできたのなら、就職初年度から年収が550万円になったかもしれないのに、そうしないがために年収が350万円になったとしたら……悲しいと思いませんか?そういう自分の売り込みをきちんとできる人間に子どもを育ててあげるため、まずは親自身がお金の知識を高めましょう。それも、つねに最新の状況を知り、最新の知識を身につけることが大切でしょう。それはもちろん、お金をめぐる状況というものは、時代によってどんどん変わっていくものだからです。日本だけでなく世界のお金事情にも目を向ける数十年前の日本なら、普通預金でも金利が7%、8%というケースもありました。ところが、いまは0.001%といった超低金利の時代です。子どもの頃に親にいわれたそのままに、いまもただ普通預金にお金を預けているだけという人がいるなら、お金とうまくつきあっているとはいえないでしょう。きちんといまのお金をめぐる状況を知り、親自身の知識を高めるために、自分で勉強したり、あるいはファイナンシャルアドバイザーに相談してみたりすることを考えてみましょう。それも、できれば日本だけじゃなく、世界のお金事情を知ってほしい。お金をめぐる状況というのは、それぞれの国で別々のものだと思われがちですが、実際にはすごく似ているという面があるからです。そして、それぞれの国ではどんな政策を取っているのか、その国の人々はどんな資産管理をしているのか。そういったことにも興味を持ってほしいと思います。その際、海外メディアの記事を読んで勉強することになるかと思いますが、注意してほしいのは、日本人が訳した情報はあまり見ないようにしてほしいということ。翻訳するときには、どうしても元の記事が持っているエッセンスが抜け落ちてしまうからです。そういう翻訳記事を読んでいるだけでは、自分の思考を変えることはできません。思考を変えるためには、現地の思考をそのまま頭に入れることが大切です。家庭でのマネー教育では「コスト」を意識するそして、子どもに対して家庭でできるマネー教育というと、なにより「コスト」というものを教えてあげてほしいですね。そうすることで、ものの価値、お金の価値を子どもは理解していきます。たとえば、子どもがなにかを壊してしまったとします。「大丈夫?」とけがをしていないか心配し、確認してあげることは当然のこと。加えて、それがいくらしたものなのかを教えてあげるのです。小学校中学年になれば四則計算ができます。食事やおやつの時間にただ食べるのではなく、「今日のおやつはいくらかかっていると思う?」と子どもに考えさせてみてください。あるいは、普段から身につけている服や靴下がいくらなのか、そういう身近なものを通じてものの価値を教えてあげましょう。その頃になれば、子どもは新聞の求人欄を見て内容を理解することもできるはずです。アルバイトの時給は1000円程度のものでしょう。求人欄を見て、子どもは自分が欲しいものを買うにもどれだけの労働が必要かということも理解し、数字にうるさい人間に育つはずです。数字にうるさいというと、ケチというか、あまりいいイメージを持たれないかもしれません。でも、お金を適切に扱えるということを思えば、間違いなく、数字にうるさいほうが将来的にちゃんとした人間に育つと思うのです。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月04日子どもには大きく世界に羽ばたくような人間になってほしい――。子どもを持つ親なら、どこかでそんな期待をするかもしれません。そんなスケールが大きな人間になるには、いま、どんなスキルを身につけるべきなのでしょうか。過去にはアメリカの大手銀行で全米営業成績1位となり、現在はグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関・PYD JAPANの代表である酒井レオさんにお話を聞きました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)脳全体をバランス良く鍛えるSTEAM教育わたしが代表を務めるPYD JAPANでは、「STEAM教育」を推し進めることにも注力しています。STEAM教育という言葉をはじめて耳にするという人に少しかいつまんで解説しましょう。そもそも、STEAM教育以前に「STEM教育」というものがあります。STEMは「Science, Technology, Engineering and Mathematics」の頭文字。つまり、STEM教育とは「科学、技術、工学、数学の教育」であり、ITやAIがどんどん身近になっているいま、とても重視されている教育です。でも、一見してわかると思いますが、どうにも分野が偏っていますよね?すべてが理系のロジカルな分野です。そこで、STEM教育に、まったく異なる分野の「Art(アート)」を取り入れたものが「STEAM教育」と呼ばれ、注目を集めているわけです。STEM教育にアートを取り入れると、どんなメリットがあるのでしょうか。それは、使う脳の偏りをなくすということです。ロジカルな分野のSTEMに使う脳は左脳、一方でアートに使う脳は右脳です。つまり、STEAM教育は脳全体をバランス良く鍛えることができる教育といえるのです。子どもになにかを学ばせるには親が一緒に体験するわたしたちが行っているSTEAM教育をテーマにしたセミナーやイベントで重視していることは「まず親にわかってもらう」ということ。STEAM教育とはどんなものなのか、その良さはどこにあるのか、親が理解してはじめて子どもに伝わるのです。小学生の算数の勉強なら、親も教えることができますよね?でも、子どもが中学生になって、算数から数学になると……。当時の記憶があいまいで、親は「もう子どもに教えることができない」と、急に塾に頼ったり、子どもに家庭教師をつけたりするケースが大半だと思われます。これをいまのSTEAM教育に置き換えてみましょう。たとえば、子どもにプログラミングを習わせるとします。おそらく、そのスキルを身につけているという親はごく少数のはずです。そのため、子どもをプログラミング教室に通わせるにも、どんな教室がいいのか、どんな先生がいいのかという判断基準を親は持っていません。であるのならば、親もそのプログラミング教育を実際に受けてみればいい。そうして、「これだったらわかりやすい」「簡単にプログラムを書けそう」と思えたなら、親も子どもを教室へ送り出しやすくなるはずです。プログラミングに限った話ではありませんが、子どもになにかを学ばせたいと思うのなら、親自身がまずは体験するべきなのです。実際にこのような考えから、PYD Japanでは今年の4月から、FLAP&PLAYという親世代や社会人向けのプログラム講座を開講しました。わたしが耳にしてびっくりしたのは、日本では大学生の就職活動に親がついていくケースもあるという話……。そうではなくて、自分ひとりでは外に向かって出ていけない、ものごとを決められない子どものときにこそ、親がついて行って一緒に体験してあげるべきです。「いますぐはじめる」から将来に余裕が生まれる先にSTEAM教育の一例としてプログラミングを挙げましたが、これからの時代に間違いなくもっとも重要な教育のひとつになるのがそのプログラミングです。というのも、これからいわゆるエリート層のトップに立つのは、エンジニアなどプログラミング技術を身につけた人間だからです。『Google』や『Apple』が世界のトップ企業になっていることを思えば、それはすでに現実になっていますよね。わたしのまわりでも、その潮流は見て取れます。わたしが生まれ育ったのはニューヨークのタイムズスクエア地区で、そこは基本的に裕福な人たちが住んでいるエリアです。じつは、少し前にわたしが35年間住んだ家を売りに出したのですが、購入を検討するために家を見に来る人たちはエンジニアばかりでした。わたしが子どもの頃というと、そのエリアに住んでいたのは、弁護士、医師に会計士といった職業の人たちでした。それだけ、いまはエンジニアの地位が上がっているということです。でも、プログラミングを学ぶ必要があるのは、エンジニアを目指す子どもだけではありません。これからは、あらゆる分野の仕事にAIやIT技術が取り込まれます。弁護士も医師も会計士も銀行員も、どんな職業に就く人間でも、一流になろうと思うのなら、プログラミングのスキルを身につける必要があるでしょう。それはもはや時代の潮流であり、避けられない道といえます。いい見本となる人がいます。それは、わたしの母です。母はファッションデザイナーなのですが、いまから15年前の50歳のときに突然プログラミングの勉強をはじめました。2年間ほど毎晩ひたすら勉強をして、いまはそれがしっかり仕事につながっています。時代の先になにが必要とされるのか――。自分を進化させていこうと必死に考えている人には、そういうものがしっかり見えているものなのです。「いますぐには必要ないものだから」「いまはなんとかなっているから」なんていっている場合ではありません。いまからはじめるからこそ、10年後、15年後の自分にある程度の余裕が生まれる――。そういうふうな発想を持って、子どもの教育について考えてほしいですね。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方(※近日公開)【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月03日「7ORDER project」メンバーの萩谷慧悟が1日、アメーバオフィシャルブログで舞台「7ORDER」東京公演千秋楽を報告した。「7ORDER project」は、安井謙太郎、真田佑馬、諸星翔希、森田美勇人、萩谷慧悟、阿部顕嵐、長妻怜央の7人による新プロジェクト。5月22日にプロジェクトが始動し、第1弾として8月22日から東京と神戸で舞台「7ORDER」(全27公演)上演がスタートした。7人は、それぞれが、音楽、演劇、アート、ファッションなどジャンルレスに挑戦し、その経験を混ぜ合わせ、多彩なエンターテインメントを届けるという。萩谷は1日に「東京公演終了!」と題してブログを更新。「お疲れ様です! 本日、舞台『7ORDER』東京公演が千秋楽を迎えました。」とファンへ報告し、「応援して頂いてるたくさんの方、サポートしてくださったスタッフの皆様、ありがとうございました!」と感謝を述べた。続けて、「無事に東京公演を終えましたが、まだ神戸公演が待っています! 最後まで頑張ります!」と神戸公演への意気込みを綴り、「天王洲銀河劇場の皆様、ありがとうございました!!」と東京公演を行った劇場へも感謝を述べ、ステージに立った後ろ姿を公開しブログを締めくくった。この投稿には、舞台を観劇したファンから「沢山の幸せをありがとう」「お疲れ様でした」「体調には気をつけてかけぬけてください!」「7人でずっと夢を見せてくれるなんて、それこそまさに夢みたいで幸せな日々です…!」「公演中、キラキラしている7人とてもかっこよかったし、生き生きしててよかった」「東京最終公演、とても感動して泣いちゃったよ」「最高の日になりました」「7人それぞれの魅力に溢れた素敵な舞台を観劇できて、とても幸せな夏でした」「色んな感情が混じりあって、泣いて笑って、凄く素敵な舞台でした」などの声が寄せられ、神戸公演を楽しみに待つファンからは「ステージに7人揃った姿が見られること、楽しみで楽しみで仕方ありません!」「神戸に来てくださるの本当に嬉しいです…」「爪痕残してきてください!」などの声が相次いだ。さらに、投稿した写真にも「後ろ姿カッコいい、、!」「頼もしい」「後ろ姿もかっこいい」「素晴らしいお写真ありがとうございます!」と歓喜の声が多く寄せられている。
2019年09月02日島国である日本においても急激なグローバル化が進む現在、できることなら海外で力を発揮できる人間に育てたいと考え、幼いときから英語教室に通わせているという親も多いことでしょう。では、世界で活躍できる人間にはどんな力が必要なのでしょうか。お話を聞いたのは酒井レオさん。酒井さんはニューヨークで生まれ育ち、アメリカの大手銀行であるバンク・オブ・アメリカに勤めていたときには、歴代最年少で全米営業成績1位となった、それこそエリート中のエリートです。意外なことに、酒井さんによれば、「極端な話、英語力は必要ない」とのことですが、その理由はなぜでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/玉井美世子(インタビューカットのみ)かつての日本人エリートは本物のエリートだったいまでこそ、日本には世界で活躍できるエリートが育たないといわれますが、以前は全く違いました。戦後、経済大国・日本の基礎をつくった70代、80代くらいの日本人エリートは本当のエリートだったように思います。彼らは、英語をしゃべることはそれほど得意ではなかったかもしれませんが、読み書きに関してはネイティブの人よりもできるほどでした。ただ、残念なのがその少し下の50代や60代の世代。年功序列制度もあったうえに、いわば上の世代のおこぼれにあずかって、大した苦労や努力をしなくてもある程度の成果を挙げられました。だからこそ、経済が低迷しはじめても立て直す手立てがわからない……。そのことが、この30年間ほどの日本経済の低迷を招き、日本という国を苦しめてきた原因だとわたしは見ています。また、その世代による不利益をこうむっているのが30代や40代の世代でしょう。50代、60代に本当の意味でのエリートが少ないがために、きちんと支えてくれ、導いてくれる上司も少ないからです。日本人は日本人の良さを忘れかけているいま、エリートといわれる人たちも含め、日本のビジネスパーソンを見ていて思うのは、「日本が大切にしてきたものや日本人の良さを忘れかけているのではないか」ということです。たとえば感謝の気持ちや礼儀がそうですよね。それこそ、日本人がずっと大切にしてきたものではありませんか。でも、いまはそれらを軽視している日本人が多いように思うのです。でも、世界のトップレベルに上り詰める人間に必要なものは、時代によって変わるものではありません。いまもむかしも、世界で活躍する人間は、生まれた国はどこであれ、きちんと感謝の気持ちや礼儀を持ち合わせているものです。それらがあったうえで、実力が問われるのですから。いま、日本人は「アメリカの個の強さ」だとか「中国のアグレッシブさ」を身につけようとしています。でも、日本の良さをなくしてしまってそれらで補おうとするのは間違いです。どんなに外国文化の長所を身につけても、日本人は日本人なのです。その事実は変えられませんし、変わる必要もない。だとしたら、「ハイブリッド」になるということを考えるべきではないでしょうか。どちらかではなく、日本の良さと他国の良さを結合することが必要なのだと思います。ニューヨーカーの目に映る日本人の長所と短所先に感謝の気持ちや礼儀を日本人の良さとして挙げました。でも、本来の日本人の良さはそれだけではありません。たとえば、「あうんの呼吸」なんて言葉があるように、なにもいわなくても目で空気を察する力は非常に優れていると思います。ニューヨークで生まれ育ったわたしからすれば、「日本人が宇宙人にいちばん近い」なんて思うほどです。それだけでなく、たいていのことの基礎能力に関しても日本人は秀でています。ただ、基礎能力が高いがゆえに、基礎に縛られているのでしょう。「ルールにのっとったこと」しかできない側面もあることが残念なところです。それこそ、クリエイティビティーという部分では、世界と比べれば見劣りするように感じます。さらには、自分なりにものごとをとらえて解釈することも苦手なようです。たとえば、「今日、日経平均株価がいくら下がった」という事実をいくら頭に入れてもなにも生まれません。「なぜ下がったのか?」ということを自分なりに考え、自分の意見を述べるということができないのです。「意見を述べる」という点では、「察する力」に長けている反面、アウトプット能力に劣っている印象です。多くの日本人に、自分が伝えたいことをきちんと伝えられないという特徴が見られます。日本の教育に取り入れるべき海外の価値観ここで、みなさんにひとつ質問をしましょう。子どもを世界で活躍するような人間に育てたいと思った場合、次のふたつの人物像のうち、どちらの人間になってほしいと思いますか?A:英語力がすごく高くて、プレゼン力がすごく低い人材B:プレゼン力がすごく高くて、英語力がすごく低い人材日本人には英語ができないことをコンプレックスに思っている人が多いですから、もしかしたら「A」を選ぶ人が多数派かもしれませんね。でも、世界で活躍するのは間違いなく「B」です。考えてみてください。周囲の誰もが英語圏出身の人たちだったとして、そのなかで秀でた存在になろうと思えば、突出したプレゼン力は大きな武器になります。英語なんて通訳に任せればいいのです。ただ英語が話せるだけの人が注目を集めるわけがありませんよね。日本人に限らないことかもしれませんが、人はつい自分のコンプレックスにばかり捉われてしまうものです。そうではなくて、子どもを世界で戦える一流の人間に育てたいと思うのなら、そういう人間に本当に必要な力はなにかと考え、ゴール設定をもっと大きくしなければなりません。そのためにも、ゴール設定が小さくなるような教育は見直すべきでしょう。日本のほとんどすべてのテストは、正解がひとつだけというものです。「1+1=□」と問題が出されれば、「2」以外の正解はありません。正しいレールから外れてはならないという教育です。一方で、海外の多くの国では「1+□=□」といった形式の出題もされます。正解はひとつではない。それだけ、「自由に考える力」を身につけられるわけです。そう考えると、子どもがお絵描きをするというときに、見本を渡して「この通りに描きなさい」なんてことは間違ってもいってはいけないとわたしは思います。自由に描かせて、それこそ紙からはみ出すようなことがあっても、「クリエイティブだね!」と褒めてあげればいいのです。日本の教育だけではなく、海外の教育にも目を向けて、日本とはちがう価値観を取り入れる――。それこそ、「ハイブリッド」の考えが教育にも必要なのではないでしょうか。『全米No.1バンカーが教える 世界最新メソッドでお金に強い子どもに育てる方法』酒井レオ 著/アスコム(2019)■ 全米No.1バンカー・酒井レオさん インタビュー一覧第1回:「極端な話、英語力は必要ない!」我が子を“世界レベル”に育てるために本当に必要なもの第2回:子どもの教育に「いまはまだ必要ない」は禁句。「いますぐはじめる」のが成功への道!(※近日公開)第3回:「数字にうるさい子ども」は将来明るい!全米No.1バンカーが教える“コスト意識”の育み方(※近日公開)【プロフィール】酒井レオ(さかい・れお)アメリカ・ニューヨーク出身。NPO法人Pursue Your Dream Foundation創業者。Advanced Millennium Consulting Inc.代表取締役。Little Monster Inc.共同経営者。ワシントン大学を卒業後、JPモルガンを経てコマース銀行にてマネージメント・デベロップメント・アソシエーツプログラム(MDA)を取得。管理職に就く。その後、バンク・オブ・アメリカに転職し、2007年に歴代最年少で全米営業成績1位となる。同年、アメリカンドリームをつかむために渡米するすべての人を応援するNPO法人Pursue Your Dream Foundation(PYD)を設立。2010年には日本にグローバルスタンダードを獲得するリーダー人材育成のための教育機関PYD JAPANを設立。2018年、ニューヨークを本拠地とする、最新テクノロジーを切り口に、教育支援、メディア運営、投資事業を通して若者を応援するLittle Monster Inc.の共同経営者として始動。著書に『全米No.1バンカーが教える 最強の気くばり』(サンマーク出版)、『NY式「超一流の営業」の基本』(朝日新聞出版)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年09月02日親であれば、まずは子どもが健康であることを願うものです。全身運動である水泳は、それこそ体全体をバランス良く鍛えてくれるものですから、子どもをスイミングスクールに通わせている人も多いでしょう。せっかく通わせるのなら、体を鍛えるだけではなく、「もしものとき」に溺れないようにしっかり泳げるようになってほしいものです。でも、なかには子どもがなかなか上達しないことを不安に思っている人もいるかもしれません。そこで、アドバイスをお願いしたのは、運動が苦手な子どもを対象にした体育指導のプロフェッショナルである西薗一也さん。西薗さんは「スイミングスクールの指導には問題点もある」と語りますが……。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)スイミングスクールの規定が子どもの邪魔をしている?いま、スイミングは習い事のなかでいちばんの人気を誇ります。全身運動ということや、学校の体育の授業での狙いのように「もしものときに溺れないために」と親が考えていることもありますが、水のなかでフワフワと浮かぶことが脳の発達を促すといわれていることも大きく起因しているように思います。じつは、東大生が小学生のときにしていた習い事のナンバーワンがスイミングだというデータもあるのです。そういう背景もあって、いまはどこのスイミングスクールもキッズクラスは満員という状態です。ただ……すべてのスイミングスクールを非難するわけではありませんが、その指導には首を傾げるような部分も。なかなか上達しないという子どもの場合、1年経っても2年経っても25メートルを泳げないというケースも珍しくないからです。これには、スイミングスクールのシステムが大きくかかわっています。ひとつはインストラクターと子どもたちの人数の問題です。20人のクラスで60分のレッスンを受けるとしたら、ひとりの子どもがインストラクターから直接指導を受けられるのは単純計算でわずか3分です。それでは一人ひとりにいき届いた指導ができるはずもありません。ほかには、たとえば「バタ足のテストに合格しないと次の級に進めない」といったことも問題点として挙げられます。もしかしたら、その子どもは手で水をかくことはすごく得意かもしれません。でも、バタ足のテストで引っかかってしまうがために先に進めないということがあるのです。将来的にスイマーを目指すというならともかく、「25メートルを泳ぐ」ということが目標なら、どんなかたちであれプールの底に足をつかずに25メートルを泳ぎ切ることができればいいわけです。しかも、その目標をより早く達成できれば、それだけ子どもの自信にもなる。むしろ、スイミングスクールのシステム、規定が子どもたちの成長の邪魔をしているように感じることも多いのです。酸素を浪費させる「バタ足信仰」とNGの声かけ泳ぐ距離にもよりますが、きちんと息継ぎさえできれば水泳というものはそれほど苦しいものではありません。でも、たとえ息継ぎができる子どもでも、スイミングスクールでは多くの子どもたちが苦しんでいます。なぜかというと、先にも少し触れたバタ足に対するこだわりが強過ぎるからです。激しくバタ足をすれば、どんどん酸素を消費することになります。しかも、まだ体の使い方がうまくない子どもたちがバタ足をすると、どうしても膝が曲がり過ぎてしまう。すると、脚が沈んで頭が上がり、どんどん体が立ってきて前に進めなくなるのです。また、息継ぎと同時に膝が曲がってしまうので、体が一気に沈んでしまいます。加えて「もっと頑張れ!」というような声をかけて指導をしていたら、それも問題といえます。子どもたちは素直で必死ですから、「頑張れ!」といわれると「頑張らなきゃ!」と思う。つまり、その声かけが緊張を生むわけです。緊張すると、今度は脳でも酸素をどんどん消費することになる。バタ足でも脳でも酸素を浪費して、本来の能力でいえばもっと泳げるはずの子どもでも、その距離に達する前にギブアップしてしまうということになるのです。プールがない自宅でもできる水泳の練習法これらのことを踏まえると、まずは「バタ足信仰」ともいえる考え方を捨てる、それから子どもに「緊張させない」ことが大切になります。そもそも、クロールの推進力でいえば、手で水をかくことが7、バタ足が3くらいの割合です。つまり、推進力の弱いバタ足をがむしゃらに練習させるより、手による推進力をもっと増すために「上半身をできる限り伸ばす」練習をさせてあげるべきなのです。まずは、しっかり体を伸ばせば水の抵抗が減るということを感じさせてほしい。僕の場合、プールの壁から少し距離を置いたところに立ち、僕の胸に指先を突き刺すようなイメージで子どもに蹴伸びをさせます。その際、「槍のように」「ロケットのように」と子どもたちがイメージしやすい言葉をかけてあげれば、そのイメージに自分を重ねてしっかり体を伸ばすことができるようになります。最初からクロールをさせると「かく」イメージが強すぎて肘が曲がってしまいますので、まずは「指先を奥に伸ばそう」という意識が必要。そのために、槍やロケットをイメージして全身を伸ばそうという意識を持たせるのです。これに近い練習は家庭でもできます。むしろ、プールがないという環境を生かしましょう。うつ伏せで寝た状態でまっすぐに手と脚を伸ばし、蹴伸び姿勢をつくらせてみてください。そして、本人に客観視させるために、スマホやカメラで撮影して見せてあげるのです。水のなかではないからこそ撮影するのも簡単です。本人はしっかり体を伸ばしているつもりでも、そうできていないことが視覚的にわかれば、修正することができます。また、子どもに「緊張させない」ということでいえば、その逆に「安心させる」ことが大切。そのためには、子どもが少しでも頑張れたら褒めることを心がけましょう。ありがたいことに、水泳には距離というわかりやすい指標があります。泳げる距離が1メートルでも伸びれば「すごいじゃん!」と褒めることができるわけです。もちろん、細かいテクニックについてはここでは伝えきれませんが、もっとも重要となるのは、この「褒める」こと。先に触れたように、「もっと頑張れ!」「あとちょっとだよ!」といった言葉かけでは、子どもはプレッシャーを感じて緊張するだけです。そうではなく、いまできたことを「すごいぞ!」と褒めてあげてください。そうすれば、子どもは「これでいいんだ!」「自分はできる!」と安心して成長をしていくでしょう。『『うんどうの絵本 全4巻セット(ボールなげ・かけっこ・すいえい・なわとび)』』西薗一也 著/あかね書房(2015)■スポーツひろば代表・西薗一也さん インタビュー一覧第1回:運動神経は成功体験で伸びる!運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い第2回:どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること第3回:「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法第4回:子どもが泳げるようになる魔法の言葉。酸素を浪費する「バタ足信仰」は捨てるべし【プロフィール】西薗一也(にしぞの・かずや)東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月29日小学校の体育での定番の運動というと、「縄跳び」が挙げられます。縄を回して跳ぶだけ――。大人からすればごく単純な運動に思えますが、縄跳びが苦手だという子どもは意外なほど多いといいます。その苦手意識をきっかけに運動自体を敬遠するようにさせないためにも、人並みに縄跳びができる子どもにしてあげたいものです。そのための方法を、運動が苦手な子どもを対象にした体育指導のプロフェッショナルである西薗一也さんに教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)基本の前跳びが1回もできないという子どもも珍しくないそもそも、なぜ小学校の体育で縄跳びをよくやらせるのかというと、まずは縄跳びが全身運動だということが挙げられます。体全体の筋肉を使う縄跳びはバランス良く全身を発達させることができるわけです。また、片脚跳びや二重跳び、腕を交差させるあや跳びなどとなると、かなり細かい体の動作が要求されますから、小さい子どもが体の使い方を学ぶにも最適な運動でもあるのです。加えて、単純に手っ取り早く体を温められるということもあるでしょう。体育の授業で縄跳びをやるのは基本的に冬ですよね?暑さの厳しい夏にはまずやりません。代わりに鉄棒を冬にやらせるとしたらどうですか?そもそも鉄棒自体が冷たいうえに、順番を待つ子どもは凍えながら待機しなければなりません。一方、縄跳びなら全員が一斉にはじめられて、すぐに体も温まる。縄跳びをすることには冬場のウォーミングアップという意味もあるのです。それだけ定番の運動であるにもかかわらず、なかには基本の前跳びすらもまともにできないという子どもも少なくありません。それは、やはり授業できちんと跳び方を指導しないからでしょう。インターネットなどで調べてみても、たとえば二重跳びの上達方法といった記事や動画はいくらでも見つかります。でも、「前跳びで1回跳ぶ」ための方法を解説するような情報はどこにもないのです。誰も教えてくれないうえに、自分で学ぶこともできないのですから、前跳びができない子どもはずっとできないままということになります。そんなものに対して向上心が湧くわけもありません。でも、1回でも跳ぶことができれば、その子どもの縄跳びに対する認識は大きく変わります。その1回が成功体験となって自己肯定感を高め、どんどん新たな挑戦していくようになるでしょう。そうさせるためにも、子どもが「前跳びで1回跳ぶ」ための方法を僕は研究してきました。縄跳びが苦手な子どもが少なくない理由とは?まずは、その前提にある話をしましょう。発達段階の途中にある子どもは、まだ自分の力の出力をうまくコントロールできません。「ゼロか100か」というような力の使い方しかできないことが子どもにはよくあるのです。よく見られるパターンが、必要以上に大きく膝を曲げて高くジャンプをするという跳び方。この跳び方を体重の重い大人が続ければ、すぐにバテてしまうでしょう。でも、縄の太さが5ミリだとすれば、縄跳びに必要なジャンプの高さは6ミリで十分です。そういう跳び方を教えてあげる必要があるのです。また、子どもによっては「発達性協調運動障害」という障害を持っているケースもあります。「協調運動」とは、ごく簡単にいうと手脚で別の動きをするという運動のこと。つまり、発達性協調運動障害の子どもは、手脚をバラバラに動かすことがとても苦手なのです。なぜこんなことが起きるのかというと、赤ちゃんのときの反射が残っているからです。赤ちゃんは手を開けば足も連動して開きます。これは「原始反射」と呼ばれるもので、反射ですから自らの意志でそうしようとしているわけではありません。でも、本来は成長するにつれてその反射が減っていき、協調運動ができるようになります。ところが、病気などで幼児期に運動ができなかったというような場合、原始反射が残ってしまうことがあるのです。では、縄跳びの動きとはどういうものでしょうか。ふつう、ジャンプをするときには手を後ろに引いて膝をぐっと曲げ、手を上に振り上げながら跳び上がりますよね?それが自然な動作です。でも、縄跳びのときはどうかというと、通常のジャンプとは真逆で、手を下に振り下ろしながら飛び上がらないといけません。じつは、縄跳びにはかなり高度な協調運動が必要とされるのです。一つひとつ段階を追って縄跳びの動作を体に染み込ませる自分の力の出力をうまくコントロールできないうえに、なかには協調運動が苦手な子どももいる――。そう考えれば、一つひとつの段階を追ってじっくりと縄跳びの動作を体に染み込ませてあげるしかありません。そもそも、最初から縄を飛ぼうとするからできないのです。であるならば、まずはジャンプをせずに縄を回すことから練習すればいい。まだ力の出力をうまくコントロールできない子どもに多く見られるのは、縄を床にたたきつけるような回し方です。それでは、縄が高く跳ね上がりますから、縄が足に引っかかる可能性が高まります。そうではなく、自分のつま先にゆっくりと縄をあてることからやらせてみてください。そして、今度は先にお伝えしたように「6ミリのジャンプ」を教えてあげる。もちろん、最初は縄を飛び越える必要はありません。つま先に縄があたったらゆっくり6ミリのジャンプ。今度はつま先に縄があたった瞬間、その次は床に縄があたった瞬間というふうに、徐々に正しいタイミングでジャンプができるように誘導してください。そして、それらの過程で何度も褒めてあげてほしい。縄を優しくゆっくり回すことができれば褒める、つま先に縄があたったときに6ミリのジャンプができれば褒めるという具合です。そのうち偶然でも、はじめてきちんと跳べる瞬間が訪れるはずです。そのときは、それこそ褒めちぎってください。その強烈な印象が子どもにとっては成功体験になるわけですからね。逆に焦らせるような言動は絶対に避けましょう。「前跳びなんてできてあたりまえ」などと考え、鼓舞するつもりで「なんでできないの!」なんて言葉を子どもにかけることはご法度です。その言葉が、子どもの向上心を奪ってしまうことになるでしょう。また、焦らせることも禁物です。僕のような立場の人間なら、限られた指導時間でなるべく早く成果を出す方法も知っていますし、そうすることを求められます。ですが、つねに子どもといる親がそうしようとする必要はないのです。ゆっくりじっくりと時間をかけて、子どもが一つひとつステップを上がっていくたびに褒めてあげてください。そうやって成功体験を積み重ねていくことが大切です。『『うんどうの絵本 全4巻セット(ボールなげ・かけっこ・すいえい・なわとび)』』西薗一也 著/あかね書房(2015)■スポーツひろば代表・西薗一也さん インタビュー一覧第1回:運動神経は成功体験で伸びる!運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い第2回:どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること第3回:「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法第4回:子どもが泳げるようになる魔法の言葉。酸素を浪費する「バタ足信仰」は捨てるべし(※近日公開)【プロフィール】西薗一也(にしぞの・かずや)東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月28日運動が苦手だという人が抱える悩みやコンプレックスは、運動が得意な人には想像もできないほど深いものです。自分の子どもが運動を苦手としているなら、「なんとかしてあげたい」と思うのが親心でしょう。ただ、親自身も運動が苦手だという場合、子どもに運動のコツを教えるのは簡単ではありません。そこで、アドバイスをもらったのは「スポーツひろば」代表の西薗一也さん。運動が苦手な子どもを対象にした体育指導のプロフェッショナルは、「まずは子どもと『できない』ことを共有してほしい」と語ります。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)「運動が苦手な子どもを救いたい」という思い僕がいまの仕事をするようになった理由のひとつとして、弟がいたことが挙げられます。僕自身がもともと「お兄ちゃん気質」なのです。また、高校を卒業したタイミングで、出身中学のバスケットボール部の監督になった経験も大きかった。後輩を指導していくなかで、体育教師になるという目標が定まっていったのです。でも、日本体育大学在学中の教育実習直前に父親が倒れてしまった……。当時はすでに母親が亡くなっていましたから、教育実習はキャンセルせざるを得ませんでした。幸い父親は一命をとりとめたのですが、教員免許を取れないまま卒業して、一時は一般企業に就職しました。その父親も亡くなって、日常的に世話をする必要がなくなったとき、あらためて「自分の夢はなんだったのか」と考えた。もちろん、それは体育の先生です。そこで、「教員免許がないのなら民間でやろう」といまの事業を立ち上げたわけです。ただ、当初から運動が苦手な子どもを対象に考えていたわけではありません。もともとは、運動が得意な子どもにもっと幅広い運動を経験させることで運動能力の底上げをするような事業を考えていました。ところが、いざ体育の家庭教師事業をはじめてみると、依頼のほとんどが運動を苦手としている子どもの親からのものだったのです。そういう子どもというのは自己肯定感がすごく低いし、なかには運動が苦手なことでいじめに遭ったり不登校になったりしている子どももいました。僕自身は、運動で人生を変えることができたと思っている人間です。ぽっちゃり体形で運動が苦手だったのに、バスケットボールに全力で打ち込むことで体形も性格も変わり、スポーツ推薦で高校に進学することができた。そして、最終的には体育の先生になることもできました(第1回インタビュー参照)。その経験があるからこそ、運動が苦手で悩んでいる子どもたちをどうにか救ってあげたいと思い、現在の方向に事業をシフトさせたのです。子どもだけにやらせるのではなく親も一緒に運動をする依頼者である親の願いはなかなか切実です。「うちの子は運動が本当に苦手で……」という認識を持ちながら、「せめて平均的に運動ができるようになってほしい」と思っている。もちろん、なかには親自身も運動を苦手としているというケースも珍しくありません。子どもに運動を得意になってほしいと願いながら、自分自身も運動が苦手だという親の場合であれば、まずは「子どもと一緒に運動をしてみる」ことをおすすめします。わたしの指導理念は、「褒めて伸ばす」ことが基本です。ところが、運動が苦手な親の場合だと、子どものどこを褒めていいのかがわからないのです。サッカーでゴールを決めたというようなわかりやすい「褒めポイント」があれば問題はありませんが、速く走るために子どもがいくら頑張って練習をしていても、どこがいいのか悪いのかということはそうはわかりませんよね。そうであるならば、まずは「子どもと一緒に学ぶ」ということを大切にしてください。そこで意識してほしいのは、どんな運動にもクリアしていくべき「段階」があるということ。この意識が学校の体育の授業にも欠けているように思うのです。算数の場合であれば、1年生で足し算と引き算を勉強して2年生になると掛け算、3年生は割り算というふうに、前に学んだことを生かして段階を踏んで勉強していきます。でも、体育となるとどうでしょうか?ドッジボールをやるときに、事前にボールの投げ方や受け方をしっかり教えてもらったという経験がある人はほとんどいないはずです。なにも学んでいないのに、突然「ドッジボールをやろう」と現場に放り込まれる。そういう状況では、運動が苦手な子どもはうまくプレーできるわけがないのですから、ますます運動を毛嫌いするようになっていきます。大人だからこそつかめるポイントを子どもに教えるボールをきちんと投げるという運動を細かく分解してみると、体重移動や腰の回転、手首の返しなど、本当にさまざまな動作によって構成されています。もちろん、これらの動作や段階を親が事前に勉強しなければならないというわけではありません。親が子どもと一緒に運動をしてみて、自らが学ぶことが大切なのです。親子そろって運動が苦手なら、まずは「できない」ということを共有し、共感してあげる。親だって苦手なことがあっていいし、それがふつうなのです。すると子どもは、「お父さんもできないんだ」と思う。それこそが、安心感を生んでいくことになる。運動が苦手な子どものなかにあるのは、「失敗したくない」という気持ちです。でも、「お父さんだってできない」「失敗してもいいんだ」と思って安心感を得られれば、練習を何度繰り返してもいいと思えるようになる。また、大人であれば、子どもが気づかないような運動のポイントに気づくこともあります。先に挙げたように細かい動作に分解して考えるような必要はないにしても、親自身が子どもと一緒に運動をするなかで「たまたまうまくいった」というとき、大人なら「いまのはなにがよかったのか」というポイントが見えるわけです。そのように、自らの体験を通じて学んだことを子どもに教えてあげればいい。「お父さんはむかしはできたからやらなくていいんだ」なんていって自分は子どもの動きだけを見ているだけでは、うまくいったポイントをつかむことはなかなかできません。繰り返しになりますが、子どもの運動能力を高めてあげたければ、まずは親が子どもと一緒に運動をしてみること。わたしのような第三者の力を借りることがあってもいいと思いますが、親ができる最良の方法を実践してみてください。『『うんどうの絵本 全4巻セット(ボールなげ・かけっこ・すいえい・なわとび)』』西薗一也 著/あかね書房(2015)■スポーツひろば代表・西薗一也さん インタビュー一覧第1回:運動神経は成功体験で伸びる!運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い第2回:どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること第3回:「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法(※近日公開)第4回:子どもが泳げるようになる魔法の言葉。酸素を浪費する「バタ足信仰」は捨てるべし(※近日公開)【プロフィール】西薗一也(にしぞの・かずや)東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月27日全国的なスポーツの大会で好成績を残すほどではなくとも、子どもには「せめて平均的な運動能力を身につけてほしい」と願うものです。お話を聞いたのは「スポーツひろば」代表の西薗一也さん。運動が苦手な子どもたちを対象にした体育の運動教室を営んでいます。そもそも、運動が得意な子どもと苦手な子どもにはどんなちがいがあるのでしょうか。そんなことから聞いてみました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)運動神経がいい子どもはいつでも「全力」を出すよく知られている話でもありますが、「運動神経」という神経は存在しません。でも、「運動神経がいい、鈍い」といった言葉は頻繁に使われます。では、「運動神経がいい、鈍い」といわれる子どもたちには、どこにちがいがあるのでしょうか。結局のところ、「運動が好きかどうか」だと僕は考えています。ですが、自分自身が子どもの頃を思い出してみれば、クラスにひとりやふたりはスポーツ万能の友だちがいたはずです。「好きかどうかでは埋まらないような差だった」と思う人もいるでしょう。でも、そんな子どもでさえも、運動が好きだったということに過ぎないと僕は思っています。そんな子どもが他の子どもとなにがちがうかというと、運動自体が好きな子どもの場合、「いつでも全力を出す」のです。たとえば足が速い子どもというのは、「いちばんになって気持ちが良かった」という成功体験をまた味わいたいがために全力で走るもの。一方、成功体験がない子どもは、「自分なんてこんなものだろう」というふうに、どこかで力を抜いているのです。その意識の差が、何度も走るうちにトレーニングの負荷のちがいとなって足の速さの差をさらに広げることになるわけです。しかも、走るという行為は運動の基本です。走ることで鍛えられる筋肉は、幅跳びなどに使われる筋肉でもあります。すると、全力で走る子どもは跳躍力も上がっていく。また、速く走れるようになるということは、体全体を大きく使えるようになるということにもつながります。そうして、いわゆるスポーツ万能といわれるような子どもになっていくのです。運動が苦手でぽっちゃり体形だった子どもがスポーツ推薦!?もちろん、子どもの運動能力の差には遺伝的な要素も影響しています。でも、プロのアスリートを目指すというのなら話は変わってきますが、平均的な運動能力を身につけるという観点で見れば、その影響はみなさんが思っているほど大きいものではありません。事実、僕の両親も運動はまったく得意ではありませんでしたし、僕自身もそうでした。小学生までの僕はぽっちゃり体形の泣き虫の子ども……。いまでも運動センスがあるかというと、ないほうだと思います。それを、運動が好きだということと努力でカバーしてきたのです。僕が変わるきっかけになったのは、小学6年の頃に読んだバスケットボール漫画『スラムダンク』でした。それ以前は『キャプテン翼』がはやっていて、みんなサッカーに夢中だった。ただ、なかなか点が入らないサッカーでは、僕のような運動が得意でない子どもは簡単にはヒーローになれません。でも、得点が多いバスケットボールなら僕にだって目立てるチャンスがある。そうして、中学生になるとバスケットボール部に所属したのです。1年生のときはまず体力づくりからで、とにかく走らされました……。すると、小学生のときまでのぽっちゃり体形がウソのように痩せた。しかも、もともと運動が苦手だったこともあるのか、まわりの誰よりも運動能力の伸びが大きく、成長速度が速かったのです。そのうち、顧問の先生から「そのまま練習すれば、ダンクシュートもできるようになるよ」といわれました。その言葉が僕の頭に強烈に刻まれ、ジャンプをするときにはそれまで以上に全力で跳ぶようになりました。すると、中学3年のときに本当にダンクシュートができるようになったのです。僕の身長は180センチですから、バスケットボール選手としては大きいほうではありません。それでもつねに全力を出してダンクシュートができるような跳躍力を身につけたことで、高校にはバスケットボール推薦で入学することになりました。小学校のときの同級生に会うと、いまでも「西薗ってそんなキャラだったっけ?」といわれます。僕は、運動によって体形だけでなく、泣き虫でどこか控えめだった性格まで変わった。いわば、人格すらも変える力が運動の成功体験にはあるのです。いまは遊びを通じて運動能力を獲得しづらい時代残念ながら、いまの子どもたちには僕のように自分を変えるような体験をするケースが減っているように思います。その理由を説明するために、ちょっと衝撃的な数字を紹介しましょう。これを読んでいる親御さんも小学生のときに体力テストを経験したはずです。そのなかの「ソフトボール投げ」の平均記録を見てみると、ほんの20年くらいのあいだになんと7メートルほども数字が落ちているのです。その要因を僕なりに考えてみると、いまの子どもたちが体を動かす遊びをあまりしていないということにいき着きます。むかしはいまのように娯楽があふれていたわけではありません。だから子どもたちは、学校のグラウンドや公園を走り回り、木に登り、野球やサッカーなどのスポーツをする、あるいはベーゴマ、メンコといったもので遊んでいました。そういう遊びを通じて、子どもは基礎的な体力をつけ、体のメカニズムをうまく利用した体の動かし方も身につけたわけです。メンコ遊びをするには、指先に体重をしっかり乗せて下に向けてたたきつけなければなりません。ベーゴマを回すには、手首のスナップといったかなり高度な運動が求められます。それらができなければ子どもは遊びの輪に入れないのですから、それこそ必死に練習をする。そうして、自然と運動能力を高めていったのです。でも、いまはというと、公園では野球などの球技は禁止されていますし、ベーゴマも「現代版ベーゴマ」といえるような、誰でも簡単に回せるものになりました。また、遊びの輪に入ろうと思えば、ゲーム機を親に買ってもらうだけ済んでしまう。そのなかで頑張ることというと、いかにお金をかけるかというだけです。僕自身もゲームは大好きですが、子どもたちのためになっているかというと、そこは否定せざるを得ません。一方で、子育てに関しては「習い事至上主義」ともいえる状況ですから、野球やサッカーのチームに所属している子どももいます。すると、チームに所属していて運動ができる子どもはどんどんできるようになり、そうではない子どもとの格差が開いていく。これが、子どもの運動能力をめぐる現状といえます。でも、僕自身がそうであったように、とくに運動が苦手だと思い込んでいるような子どもたちには運動を通じて自分自身が変わるという体験をしてほしい。子どもたちが遊びを通じて日常的に運動ができるという時代ではないのですから、それこそ親のリードやサポートの重要性が増しているように思います。『『うんどうの絵本 全4巻セット(ボールなげ・かけっこ・すいえい・なわとび)』』西薗一也 著/あかね書房(2015)■スポーツひろば代表・西薗一也さん インタビュー一覧第1回:運動神経は成功体験で伸びる!運動が「得意な子」と「苦手な子」の違い第2回:どんな運動も“細かく分解”できる。子どもの運動能力を高めるために親ができること(※近日公開)第3回:「跳べた!」という強烈な体験が自己肯定感を押し上げる。“プロ直伝”縄跳び練習方法(※近日公開)第4回:子どもが泳げるようになる魔法の言葉。酸素を浪費する「バタ足信仰」は捨てるべし(※近日公開)【プロフィール】西薗一也(にしぞの・かずや)東京都出身。株式会社ボディアシスト取締役。スポーツひろば代表。一般社団法人子ども運動指導技能協会理事。日本体育大学卒業後、一般企業を経て家庭教師型体育指導のスポーツひろばを設立。運動が苦手な子どもを対象にした体育の家庭教師の事業をはじめとして、子ども専用の運動教室の開設や発達障害児向けの運動プログラムの開発など、新たな体育指導法の普及に幅広く取り組む。著書に『発達障害の子どものための体育の苦手を解決する本』(草思社)がある。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月26日「思う存分、子どもを遊ばせられない」と、いまの禁止事項だらけの公園に不満を抱いている親もいるかもしれません。でも、親自身も子どもに禁止事項を押し付けているということはないでしょうか。そのことが子どもに与える悪影響を心配するのは、子どもたちの自由な遊び場である「プレーパーク」のエキスパート・嶋村仁志さん。果たして、その悪影響とはどんなものでしょうか。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人子どもはもっと「聞き分けが悪く」てもいいさまざまなところで指摘されていることでもありますが、いまの公園はとにかく禁止事項のオンパレードです。ただ、それは管理責任が過度に追及されがちな社会の風潮やクレームの多さが背景にあるので、単純に行政を責めるわけにはいかないものです。その一方で、かつては、他人に迷惑をかけるようなことや危険なことを「やらかしてしまった」子どもがいて、「さすがにそれは駄目だろう」ということで禁止看板ができたのだと思いますが、いまは誰かがなにかをするまえから禁止看板が立っているので、経緯を知らない子どもは禁止事項に無条件に従っていることの方が多いように思います。そんな時代にあっても、子どもこそ、自分の内から湧き出る欲求というか、勝手に体が動いてしまうようなことをもっと大事にしていいと思うのです。もちろん、大きな事故につながるような危険は避けなければなりませんが、子どもなら子どもらしく、もっと「聞き分けが悪く」なってもいいんじゃないかとも思いますね。聞き分けが悪くなるというのは、ある意味では自立の証です。子どもが大人に向かって正しく成長する過程では必ず反抗期を迎えます。それは、親に守られながらも、その大きな存在から離れ、自分の人生を歩みだそうとしていることの表れなのです。トラブルから子どもが学べることもあるそういう禁止事項を素直に子どもたちが守っていることには、もちろん、大人の姿勢も大きくかかわっているのでしょう。いまは、子どもにとって危険だからとか、倫理的に許されないことだからということ以上に、「トラブルを招いてしまいそうだから」という理由で子どもたちの先回りをしてしまうことが多いように感じます。最近では、幼い子どもたちが水鉄砲で遊ぶとき、「お友だちに水をかけちゃ駄目よ。誰もいない方向に向けてやりなさい」という声が聞こえてくることもあります。本来であれば、友だちと水を掛け合うことが最大の楽しみでもある水鉄砲ですが、大人同士の関係が緊張しているほど、それが子ども同士の遊びにも大きく影響してしまうのです。もちろん、なにかの理由があって濡れたくないという子どももいるかもしれません。でも、少し乱暴ないい方かもしれませんが、それはやってみて相手が嫌がってはじめて本当の意味でわかることでもある。そういう実感があって、「悪いことをしちゃった」「気をつけなきゃ」「謝ろう」と心から思うものであるはずです。一方、濡れたくないのに水をかけられてしまった子どもにとっても、「嫌だ!」と主張できる機会はとても大事なものではないでしょうか。最初からその可能性を取り除いてしまうと、自分の心の底から「嫌だ」と思うチャンスがなくなってしまいます。そう思えたのなら、自分が「嫌だ」と思ったことをちゃんと表現して的確に相手に伝える、あるいは「嫌だ」と思った心をコントロールするということも学べるでしょう。そういうことも成長過程においては重要だと思うのです。遊びというのは、子どもたちそれぞれの「やりたい!」という気持ちが本心から出るところです。もちろん、それらがぶつかってトラブルを招くこともあるでしょう。でも、そのトラブルがあるからこそ、子どもたちはたくさんのことを自然に学び、育っていくのです。写真提供:嶋村仁志言葉で言い聞かせるだけではレジリエンスは身につかないもし、子どもにとってトラブルになりそうな芽をすべて親が摘み取ってしまうとどうなるでしょうか。そもそも、一切のトラブルなく人生を歩むことは、どんな人間にも絶対に不可能です。そうすると、その子どもは大人になって親元を離れてはじめてトラブルに接することになる。それでは、トラブルにまともに対処できるはずもありません。人生において何度となく降りかかるトラブルに対処するには、そうできる「心」が必要です。それは、最近は「レジリエンス」という言葉で表現され、一般的に「回復力」「復元力」というふうに訳されますが、もっとわかりやすくいえば「折れにくい心」です。わたしがかかわっているIPA(International Play Association)という国際NGOの大会でも必ず出てくる言葉で、それだけ世界的な注目度が増しているのでしょう。ただ、なぜレジリエンスがそれほど注目されるようになったかといえば、単純にいまの子どもたちがレジリエンスを身につける機会が大きく失われてきているからなのではないでしょうか。そして、その原因は、子どもが遊ぶ機会、時間が激減したことにあるのではないかとわたしは考えています。いくら子どもたちにとってレジリエンスが重要だといっても、「うまくいかなくても、また頑張らないといけないよ」と言葉でいい聞かせるだけでレジリエンスが育つわけもありません。だからといって、限られた子どもだけが、用意されたコミュニケーションのワークショップやプログラムで学ぶものでもないと思うのです。やはり、日々の生活のなかで豊かに遊べる機会をつくり出すしかないと思うのです。自分がやりたいことを目いっぱいやって失敗した。でも、やりたいことなのですから、子どもはあきらめずに再び立ち上がって挑戦するはずです。遊びのなかで子どもは勝手にレジリエンスを身につけていくのですから、親からすればこんなに楽なことはないのではないでしょうか。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:「本当に自由に」試行錯誤する機会を子どもたちに――“本気の遊び場”プレーパーク第2回:危険にも種類がある。挑戦が達成感に変わる「リスク」と「ハザード」はどう違うのか?第3回:火を使う、泥だらけになる、びしょ濡れになる。子どもたちの自由な発想と独創的な遊び方第4回:やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月22日一般的な公園とはちがって、「禁止事項は基本的になし!」というプレーパーク。それだけに、未経験者からすれば、「子どもたちが実際にどんな遊びをしているのか」ということが気になるのではないでしょうか。お話を聞いたのはプレーパークのエキスパート・嶋村仁志さん。20年以上にわたってプレーパークにかかわってきた嶋村さんは、子どもたちの自由な発想が弾ける独創的な遊びをいくつも目撃してきました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人他の子どもの遊び方を見ているだけでもいいプレーパークというと、基本的には一般的な遊具は少ないものですが、それでも、ブランコやすべり台などの遊具を設置しているところもあります。というのも、はじめて遊びに来た子どもからすれば、なじみがある遊具があれば、それだけすんなりと遊びはじめることができるからです。いわば、自由な遊びへの「入り口」として設置しているわけです。そうしてブランコやすべり台で遊んでいるなかで、他の子どもたちの遊びを観察することになるでしょう。見たこともない遊びなら、当然、好奇心がくすぐられることになる。そうして未経験の遊びの世界へ進んでいくのです。また、すべり台で遊ぶにも、プレーパークに何度も通っているような子どもなら、普通の使い方ではないオリジナルの遊び方をしているという子どももいます。それを見てすぐに真似をする子どももいれば、後日、友だちを連れて来て、さも自分が考えたかのように「面白い遊び方があるんだぜ」なんていって遊ぶ子どももいますね(笑)。そういうふうに、年齢や経験がちがう子どもたちが集うところがプレーパークの面白いところです。ちっちゃい子どもたちからすれば、年上のお兄さんやお姉さんの遊び方はそれこそアイデアの宝庫のような存在ですから、そういう年上の子どもの遊び方をずっと観察しているような子どももいますよ。それはそれで、その子どもにとってはなにかを学んでいる、考えている瞬間ですから、なにも元気良く走り回っていることばかりがいい遊びというわけでもないのです。プレーパークならではの火を使った遊びそれから、プレーパークの特徴として大きいのは「火を使える」ということ。もちろん、そのことが遊びにも大きな影響を与えます。火の扱いに慣れている子どもの場合、最初の着火するところからやりたいという気持ちが強いものです。やっぱり、火というのは人間の本能を刺激するのでしょうね。ただ、プレーパークにはいわゆる「チャッカマン」などのライターは置いていません。使うのはマッチと新聞紙です。ですから、それなりの熟練が求められます。最初はうまく火をつけられなかったのに、子どもたちは徐々にコツをつかんでいく。そういう自分の成長を感じること、そして火というものを自分でコントロールできているということ、それらが子どもを夢中にさせるのです。でも、火を使えるといってもバーベキュー場ではありませんから、たき火ができるのはせいぜい2カ所くらい。ですから、親も含めて見ず知らずの人たちが同じ火のまわりに集うことになります。そうすると、マシュマロを焼いていた子どもが他の子どもにもマシュマロをわけてあげたり、親同士で互いにお裾分けをしたりということがはじまります。そういうふうに持ち寄りの文化を大切にしているというのもプレーパークの特徴といえますね。それから、小学生も高学年くらいの子どもになると、なかなか高度な遊びもしています。たとえば、「鍛冶屋遊び」がそう。火に入れて真っ赤になった釘を金づちで打ってなにかをつくろうというわけです。他には「キラビー」というものをつくる子どももいます。ビー玉を熱してから水に入れて急激に冷やすと無数の細かいヒビが入ってキラキラと輝くようになります。キラキラのビー玉だからキラビーというわけですね。子どもたちの独創的な遊びの数々大人には考えつかないような遊びに興じる子どももたくさんいます。ついこのあいだ、衝撃を受けたのは小学2年生の子ども。なにをしていたかというと、自転車に乗ってわざとうまく倒れるという遊びです。しかも、「けがをせずになるべく格好良くこけたい」という。いわば「スタントマンごっこ」ですね。「どうすればいい?」と聞かれましたが、さすがにまともなアドバイスをするのは難しいですよね。それから、地面を掘っていた子どもになにをしているのかと聞くと、彼の答えは「温泉を掘りあてるんだ」。ずいぶん大きく出ましたよね。しかも、それだけでは終わりません。掘る手を止めて「設計図、書くわ」というと、「ここが大浴場で……」「料金は大人1500円、いや2000円で……」と、つぶやいていました(笑)。秘密基地づくりはいまもむかしと変わらず人気です。基地だけに、もちろんボスがいます。そのボスになった子どもは、普段は口が悪いといったことはまったくないのに、ボスになった途端に口調が変わるのです。プレーリーダーに向かって「しょうがねえな、おまえもあとからうちに来いよ」なんていっていましたよ(笑)。子どもってほんとうに面白いですよね。他にも「化石を探している」という子どもにその辺で拾った石を見せて、「隊長、これはなんでしょう?」と聞くと、「これはトリケラトプスの化石ですね」と秀才キャラっぽい口調で答えるなど、「ごっこ遊び」に天才的な才能を発揮する子どもたちも多くいます。とにかく肩肘張らずに楽しむここまで紹介してきたように、プレーパークでの遊び方は子どもの意志が赴くままにどんどん広がります。子どもが水を使って遊びたいとなったらびしょ濡れになりますし、泥を使って遊びたいとなったら泥だらけになるでしょう。ですから、プレーパークのビギナーのみなさんには、子どもの着替えを少なくとも2着は用意しておくことをおすすめしたいですね(笑)。親自身も1着分の着替えは用意したほうがいいかもしれません。子どもが「一緒に遊ぼう!」と誘ってくれることもあるでしょう。そのときに、「服を汚せないから」とちゅうちょしてはもったいないですから。そして、成長が早い子どもは、あっという間に「一緒に遊ぼう!」なんて言ってくれなくなってしまいます……。とにかく肩肘張ることなく気軽に行ってみてください。たしかに、プレーパークでの遊びは子どもに多くのものをもたらしてくれるでしょうけれども、それらは遊びのなかで自然に身につけていくものです。ですので、「子どもに○○力を身につけさせよう」などと考えずに、ただただ子どもがプレーパークという場所でどんな発見をしてどんな遊びをするのか、それを楽しんでもらいたいと思います。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:「本当に自由に」試行錯誤する機会を子どもたちに――“本気の遊び場”プレーパーク第2回:危険にも種類がある。挑戦が達成感に変わる「リスク」と「ハザード」はどう違うのか?第3回:火を使う、泥だらけになる、びしょ濡れになる。子どもたちの自由な発想と独創的な遊び方第4回:やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる※近日公開【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月21日ヨーロッパで生まれ、日本でも広まりつつある「プレーパーク」。禁止事項だらけの一般的な公園とちがって「子どもたちの自由な遊び場」であるだけに、事故やトラブルから子どもを守る人間が欠かせません。その存在が、「プレーリーダー」です。「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトに東京でさまざまな「遊び」を仕掛けている一般社団法人TOKYO PLAYの代表理事であり、プレーパークのエキスパートでもある嶋村仁志さんに、プレーリーダーの役割を教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人さまざまなバックボーンを持つプレーリーダープレーリーダーには、学校の教員のように決まった採用試験があるわけではありません。そのため、子どもの自由な遊びや居場所づくり、住民参加のまちづくりといったものに関心を持っているという共通項はあっても、その背景は人それぞれ。たとえば教育や福祉、保育、まちづくり、社会的企業など、さまざまなバックボーンを持つ人たちが集まってきます。また、真夏でも真冬でも屋外で過ごすことや、子どもたちと走り回ったり建築作業をしたりすることもあって、比較的若い世代の人が多いのも特徴です。ただ、保護者支援や児童福祉、地域におけるさまざまな関係調整にも深くかかわることから、最近ではもっと上の世代のプレーリーダーも増えていますね。そんなプレーリーダーにとってまず重要となるのは、「子どもとのかかわり方」といえます。というのも、プレーパークというものが、「子ども」がそれぞれの興味関心に従って「子ども」が自由に遊ぶための場所であり、つねに「子どもが中心」にあるからです。それぞれの子どもに合わせてかかわり方を変えるそのかかわり方というと、それこそさまざまとしかいえません。「こんなことをやってみたい」という子どもに必要な道具を貸すこともあれば、ふつうの公園とちがって自由度が高いがゆえに遊び方自体がわからないような子どもには遊びの見本を示すということもあります。もちろん、「こんなふうに遊びなさい」というような見せ方ではありません。自分で遊びをコントロールできることが子どもにとってはいちばん面白いに決まっているのですから、「あ、そんなふうに遊んでもいいんだ!」と子どもに気づかせるような見せ方をするのです。そうして子どもが遊ぶきっかけをつくれたら、気づいたときにはいなくなっている――。そういう在り方がプレーリーダーには大切です。イメージとしては、ときには前に出ることもあるけれど、子どもからは直接見えない少し後ろに控えている感じでしょうか。そもそも、子どもが自由に遊ぶというときに、プレーリーダーも含めて大人はかかわり過ぎるべきではありません。「この子は自分で遊べる」と思う子どもには、まず任せるというかかわり方をします。そういう意味では、それぞれの子どもをよく観察する必要があります。いってみれば、風邪をひいている子どもに対するお医者さんの見立てのようなものかもしれませんね。「温かくして寝ていればいいよ」という子どもには、とくになにもする必要はないのです。でも、「薬を出したほうがいいな」という子どもにはなんらかの助け舟を出す、という具合です。一方で、保護者とのかかわりもプレーリーダーにとって欠かせない役割です。子どもだけでなく、保護者の人たちにも安心してもらうことが大切だとわたしは考えています。わたしもそうですが、親というのはいつでも子どものことが心配なものです。ついつい「あれは駄目、これは駄目」といいたくなるものなので、子どもが遊んでいる姿を一緒に見ながら、保護者に「大丈夫ですよ」と声をかけることもありますね。ちがったパターンとしては、親自身にも遊んでもらうようすすめることもあります。というのも、親も一緒にその遊びを楽しんでいれば、子どもは親の目を気にすることなく思い切り遊べるものだからです。徹底的に排除すべき「選びようがない危険」また、「危険のコントロール」もプレーリーダーの重要な役割となります。プレ―リーダーは、どんな危険も排除するわけではありません。危険にも種類があって、ひとつは「リスク」と呼ばれます。これは、子どもが自分にとってちょっとハードルが高い遊びに挑戦するときに伴う危険です。でも、もしその挑戦が成功したら、達成感を得られるなど大きなリターンを得ることができる。ですから、よほど無理な挑戦をしようとしていない限り、子どもが自分の意志でリスクを冒すことを止めることはありません。一方で、子どもが自分の意志で「選びようがない危険」もあります。たとえば、子どもの顔の高さに突き出ている針金や、結び目が緩んだロープなどがそれに該当します。それらは「ハザード」と呼び、できる限り排除するようにしています。また、のこぎりなどの道具を子どもが使うときにも危険が伴います。親の立場からすれば心配になるのも当然です。もちろん、その使い方が明らかに危険だというときにはプレーリーダーが子どもに声をかけて正しい使い方を教えますが、大人のほうがやきもきしてしまっているような場合には「心配しちゃいますよね」と声をかけつつ、「こういうところだけ気をつけていれば大丈夫ですから」と話をすることもあります。危険とはちがう話になりますが、そういうふうに子どもが道具を使うケースに時々見られるのが、心配することとは別に、子どもに頑張らせようとし過ぎてしまうこと。はじめてのこぎりを使うという子どもなら、集中力を切らさずに最後まで太い木材を切れる子はあまりいません。そもそも、子どもは「ちょっとやってみたかっただけ」ということも多く、木が簡単に切れないとわかればすぐに別の遊びをしようとします。すると、子どもに「ほら、よそ見しちゃ駄目!」「集中!」なんて声をかけてしまう親もいるのです。それでは、遊びというよりも、作業になってしまいますよね。そうではなく、途中でやめたくなった気持ちも含めて、子どもがやりたいこと、やりたい気持ちの応援をしてあげてほしいのです。少なくとも、「工具に触ってみた」ということが、大きな一歩になるのですから。個性が表れる初体験時の子どもの姿に要注目プレーパークに興味を持ち、はじめて行くというときには、ぜひ、子どもの様子をじっくり見てほしいですね。というのも、とくに初体験のときには、子どもの個性が行動にはっきり表れるからです。最初から「天国だ!」というふうに遊びまわる子どももいれば、どうしたらいいのかわからなくてじっくりと周囲を観察する子どももいる。また、同じように戸惑っているのに、プレーリーダーに「なにをすればいいんですか?」と素直に聞いてくる子どももいますし、いろいろな遊びを全部試したうえで、最終的にいちばん気に入ったもので遊びはじめるようなマメな子どももいます。もしかしたら、このようなプロセスを通して、子どもは親も見たことのないような姿を見せてくれるかもしれません。プレーパークは子どもが自由に遊ぶための場所ではありますが、親自身も楽しんでもらえたらと思います。プレーリーダーはたしかに、子どもにとっての危険を管理するなど、重要な役割を担っています。でも、子どもをお預かりして、一から十までお世話するといった存在ではありません。ママ友同士のおしゃべりの時間も大切ですので、そこでも満足してほしいと思いますが、それと同時に、子どもが生き生きと輝く姿もぜひ逃さずに見てあげてください。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:「本当に自由に」試行錯誤する機会を子どもたちに――“本気の遊び場”プレーパーク第2回:危険にも種類がある。挑戦が達成感に変わる「リスク」と「ハザード」はどう違うのか?第3回:火を使う、泥だらけになる、びしょ濡れになる。子どもたちの自由な発想と独創的な遊び方※近日公開第4回:やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる※近日公開【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月20日「プレーパーク」という施設を知っているでしょうか。「パーク」というだけに公園のようなものなのですが、わたしたちの街に点在する一般的な公園とはまったくちがうものです。お話を聞いたのは、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトに東京でさまざまな「遊び」のプロジェクトを仕掛けている一般社団法人TOKYO PLAYの代表理事・嶋村仁志さん。「StudyHackerこどもまなび☆ラボ」には以前にも登場してくれましたが、あらためてプレーパークとはどんなものなのかを教えてもらいました。構成/岩川悟取材・文/清家茂樹写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)禁止事項がほとんどない自由な遊び場日本で「プレーパーク」という名で呼ばれる施設は、ヨーロッパ発祥の「冒険遊び場」というものがベースになっています。このプレーパークが日本に広まりはじめたのは1970年代。いまもそうですが、当時でもすでに一般的な公園には禁止看板が増えはじめていたようです。その頃、東京のある公園の噴水池のなかに割れたガラスが入っていたということがあったといいます。そんなことがあれば、住民のなかから「けがをしたら誰が責任を取るんだ?」という意見も出てきます。そうした経緯から、行政としては公園に禁止看板を立てざるを得ないような状況が生まれはじめたのです。そういう時代のなか、「自分たちが子どもだった頃はもっと自由に遊べたのに」という想いを持っていた都市計画家・大村虔一さんたちが、当時のヨーロッパ各地の冒険遊び場を参考にして、プレーパークづくりに取り組むようになったのです。その過程で、子を持つ親のなかからも「禁止事項ばかりでは子どもは育たない」という考えに賛同する人たちが増えていきました。そういう経緯がありますから、公園とのいちばんのちがいは、プレーパークが持つ「できる限り、禁止事項を少なくして、自由な遊び場をつくろう」という想いの部分ではないかと思います。ちなみに、いまにつながっている日本初のプレーパークは、1975年の夏休みのあいだだけ開設された「経堂こども天国」。写真提供:大村璋子でも、子どもが遊ぶのは夏休みだけではありませんよね?そういう声が子どもからも上がるようになり、今度は15カ月にわたって「桜丘冒険遊び場」が開設されました。その後、日本初の常設施設として1979年にオープンしたのが、わたしのかつての職場でもある「羽根木プレーパーク」です。子どもの興味関心によって「かたち」を変えていく公園とプレーパークのちがいは、「用意されているもの」を見るとすぐにわかるでしょう。公園では、遊び方が決まっている遊具があって、それを使って遊びますよね。もちろん、公園の「かたち」を変えることなんてありません。ところが、プレーパークでは遊具の代わりに「道具」や「材料」があって、プレーパークそのものも「かたち」を変えていくのです。たとえば、マッチと新聞紙、薪を使ってたき火をしてもいいし、シャベルを使って地面に穴を掘ったり川をつくったりしてもいい。廃材を使って、むかしから人気の秘密基地をつくる子どもたちもいます。つまり、子どもは自分の興味関心に従って新しくなにかを生み出し、それに合わせてプレーパーク自体も「かたち」を変えるというわけです。イメージとしては、公園にもある「砂場」が近いかもしれませんね。砂場では、子どもたちは山をつくったりトンネルを掘ったり川をつくったりと、比較的自由に遊べますよね。その高い自由度が施設全体に広がっているのがプレーパークといっていいでしょう。先にいくつか挙げましたが、道具と材料はほかにもいろいろなものが用意されています。道具ならシャベルにのこぎり、金づち、バケツ、ほうき、ネコ車など。材料なら材木にロープ、ご近所から頂いてきたさまざまないらないもの……(笑)。近隣の人や、利用する子どもの保護者に内装業者、解体業者、工務店の人などがいると、「どうせ捨ててしまうものだから」と、いろいろな廃材を譲っていただけることもあります。つまり、プレーパークでは、利用者が訪れるたびに利用できるものが変わっていくわけです。プレーパークのつくり手側であるわたしたちは「未完成をデザインする」といいますが、プレーパークとはいつまでも完成することがない場所といえます。そこが子どもたちにとってはたまらなく面白い。子どもは遊びが好きだといっても、完全にお膳立てされた場所で「はい、どうぞ」といわれて遊んだところで、面白さは限られてしまいます。子どもたちが最大限に面白がれるように、いろいろな可能性や隙間をあえて残しておく――。それが、プレーパークの目指している遊び場づくりです。いまの子どもは自由に試行錯誤する機会を失いつつあるそんな遊び場にいる「プレーリーダー」の存在も、公園と比較した場合のプレーパークの特徴といえるでしょう。ただ、親はもちろん、プレーリーダーも含めて大人がいるということは、ある意味で危険をはらんでいるとも思っています。というのも、子どもの遊び方次第では、大人はどうしても止めたくなったり教えたくなったり誘導したくなったりするからです。そんな大人が増えてしまっていることが原因なのか、いまは、子どもが本当に自由に試行錯誤するという機会が徐々に失われてきているように感じます。そういう背景もあって、プレーパークも含めて、わたしが子どもの遊び場づくりにかかわることで目指しているのは、すべての子どもが子ども時代に自分の人生を手づくりできる機会をきちんと持てるようにすることだと思っています。そして、できれば親御さんたちにもそのマインドを理解してほしいですね。子どもというのは、親がいちいち教えて導いてあげなければなにもできないという存在ではありません。子どもは子どもなりに「こうしたい!」という気持ちを持っています。その気持ちに素直に従って自分らしく夢中になって遊ぶ子どもを、親は見守る存在であってほしいのです。『子どもの放課後にかかわる人のQ&A50 子どもの力になるプレイワーク実践』嶋村仁志 他 著/学文社(2017)■ TOKYO PLAY代表理事・嶋村仁志さん インタビュー一覧第1回:「本当に自由に」試行錯誤する機会を子どもたちに――“本気の遊び場”プレーパーク第2回:危険にも種類がある。挑戦が達成感に変わる「リスク」と「ハザード」はどう違うのか?※近日公開第3回:火を使う、泥だらけになる、びしょ濡れになる。子どもたちの自由な発想と独創的な遊び方※近日公開第4回:やりたいことを目いっぱいやって失敗した。その経験が「折れない心」を育てる※近日公開【プロフィール】嶋村仁志(しまむら・ひとし)1968年8月6日生まれ、東京都出身。子ども時代は野球と自転車と缶けりざんまいの日々を送る。英国・リーズ・メトロポリタン大学社会健康学部プレイワーク学科高等教育課程修了。1996年に羽根木プレーパークの常駐プレーリーダー職に就いて以降、プレイワーカーとして川崎市子ども夢パーク、プレーパークむさしのなど各地の冒険遊び場のスタッフを歴任。その後フリーランスとなり、国内外の冒険遊び場づくりをサポートしながら、研修や講演会をおこなう。2010年、「すべての子どもが豊かに遊べる東京」をコンセプトにTOKYO PLAYを設立。2005年から2011年までIPA(子どもの遊ぶ権利のための国際協会)東アジア・太平洋地域副代表を務め、現在はTOKYO PLAY代表理事、日本冒険遊び場づくり協会理事、大妻女子大学非常勤講師。【ライタープロフィール】清家茂樹(せいけ・しげき)1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
2019年08月19日