若いころに比べて疲れやすくなった、なかなかやる気が出ない、肌の衰えが気になる……。『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』が話題の精神科医の和田秀樹先生は、心身ともに揺らぎがちな更年期の時期を「思秋期」と呼んでいます。今回は、思秋期の人間関係とお金に関することについて解説をしていただきました。教えていただいたのは…和田秀樹先生(精神科医)1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹心と体のクリニック院長などを務める。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。思秋期からは気の合う人とだけ付き合っていく――『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』では、思秋期の人間関係に関するアドバイスもなさっています。和田先生思秋期は人間関係が大きく変わる時期です。例えば、子どもが小さいうちはママ友、会社員の方は上司や部下、取引先など、どうしても義務的な付き合いの人間関係が生じます。しかし、思秋期になって子どもの手が離れたり仕事を辞めたりすると、それまでの義務的な人間関係から解放され、人間関係を楽しめるようになります。――人間関係を楽しむとは、具体的にはどのようなことなのでしょうか?和田先生嫌な人や苦手な人とは付き合わず、好きな人や気の合う人とだけ付き合うということです。年齢を重ねれば重ねるほど、ストレスというのは心身に悪影響を及ぼしますから、ストレスの少ない人間関係を楽しむことは大切です。――思秋期から新しい人間関係を築くのは大変なようにも思えるのですが……。和田先生女性は思秋期の時期から男性ホルモンの分泌量が増えるので、やる気や元気が出るようになり、人付き合いが億劫(おっくう)ではなくなっていくんですね。実際、私が診てきた患者さんの中には、思秋期以降にスポーツクラブに通って友だちができたり、趣味を通して仲良くなった人と一緒にバス旅行に出かけたりなど、新しい人間関係を楽しんでいる方がたくさんいらっしゃいます。金があるのなら将来ではなく、今の自分に使う――思秋期のころになると、老後のお金のことが気になってきます。和田先生子どもの教育にお金を使ったり、将来のことを考えてお金を貯めたりなど、自分のためにお金を使ってこなかった人は少なくないように思います。ただ、自分にかけられるお金があるのなら、思秋期の今こそがかけるべき時期です。――それはなぜなのでしょうか?和田先生例えば、「老後に旅行をしたりして人生を楽しもう」と思ってはいても、思秋期に我慢を重ねて脳も体も早く老いてしまったら、いざ高齢になったとき、お金はあるが体力も気力もない、となってしまうこともあります。また、若いころは健康や見た目に無頓着で、60代を過ぎてから高価なサプリメントや化粧品を使うようになる高齢者はたくさんいますが、正直なところ、高齢になって美容にお金をつぎ込んでも効果はそれほど期待できないものです。それよりも、思秋期のころから少しずつお金を使って小出しにメンテナンスをしていくほうが若さを長く保てますし、病気や老化も防げるんです。――老後のためのお金を今の自分に使ってしまってもいいのでしょうか?和田先生老後のお金の心配はしなくてもいいというのが、私自身の考えです。というのも、日本という国は老後にはほとんどお金がかからない仕組みになっているんです。例えば、介護保険を使って特別養護老人ホームに入居した場合、三食の費用込みで年金の範囲内で収まります。ですから、使えるお金があるのなら、意欲も元気もある間に自分のために使うことをおすすめしたいですね。思秋期の過ごし方が残りの人生を左右する――和田先生の思秋期の過ごし方を教えてください。和田先生2007年に47歳で初めて映画を撮りました。『受験のシンデレラ』という作品です。ずっと映画監督になりたいと思っていたのですが、それまでチャンスがなかったんです。――そのころの和田先生は、すでに精神科医や受験アドバイザーとして地位を築いてらっしゃいました。和田先生それなのになぜ、お金をつぎ込んで映画を撮ったりするのか、不思議に思われる方もいるでしょう。しかし私は、「今、行動しなければ、もう一生行動できない」と考えて『受験のシンデレラ』を撮りました。商業的には成功したとはいえませんが、第5回モナコ国際映画祭でグランプリを獲り、2作目の『「わたし」の人生(みち)・我が命のタンゴ』へとつながりました。思秋期は、これからの残りの人生をどう過ごすかを決める重要な時期です。思秋期を迎えている人たちには、自分の生きざまを振り返り、今後の人生の組み立てを改めて考えてみてもらえればと願っています。※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。<著書>『差がつく「思秋期」の過ごし方50歳の分岐点』和田秀樹著大和書房/1300円+税※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。取材・文/熊谷あづさ(50歳)ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。著者/和田秀樹先生1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。
2023年09月19日若いころに比べて疲れやすくなった、なかなかやる気が出ない、肌の衰えが気になる……。『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』が話題の精神科医の和田秀樹先生は、心身ともに揺らぎがちな更年期の時期を「思秋期」と呼んでいます。今回は、老けないための食事について解説をしていただきました。教えていただいたのは…和田秀樹先生(精神科医)1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹心と体のクリニック院長などを務める。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。細胞の炎症を防ぐ食材を食べて老化予防――老けないために食事で心がけたほうがいいことを教えてください。和田先生私自身は、食べたいものを食べればいいと考えています。ただ、食べる際には“細胞の炎症を防ぐ食材”をできるだけ摂取するようにしています。――“細胞の炎症”とはどのような意味なのでしょうか?和田先生アンチエイジングの権威として素晴らしい実績を挙げているフランスのクロード・ショーシャ博士は、「老化の原因とは、“細胞の炎症”である」と述べています。私たちの皮膚や髪、内臓、脳、骨など体のすべては細胞からできています。その細胞が傷ついてパフォーマンスを下げることがあらゆる老化の原因となる、という考え方です。――細胞の炎症を防ぐ食材として、どんなものを摂取していらっしゃるのでしょうか?和田先生例えば、同じ脂肪でもオリーブオイルなどに含まれるオメガ9脂肪酸や、脂ののった魚に含まれるオメガ3脂肪酸は細胞レベルで必要な脂肪です。一方で、マーガリンやマヨネーズに含まれるトランス脂肪酸、肉の脂身やバター、ラードなどに含まれる飽和脂肪酸は細胞の炎症を引き起こしてしまいます。ですから、ドレッシングの代わりにオリーブオイルとレモンを絞ってサラダにかけたりなど、できるだけよい脂を摂取するようにしています。肉を食べないと老化が進む――要介護状態にならないために、たんぱく質の摂取が大切というお話をよく聞きます。和田先生たんぱく質は筋肉や皮膚を作る材料となり、体にとっては欠かせない栄養素となります。ですから、たんぱく質をしっかり摂取することが必要です。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」によると、『サザエさん』の連載が始まった1946(昭和21)年当時、日本人が1日に摂取する肉類はわずか5.7gでした。そのころの日本人は1日に肉を1口かそれより少ない量しか食べていなかったんです。しかし、2019年時点で103gにまで増加しています。日本人の平均寿命は年々伸びているのは、栄養状態の改善が大きく貢献していると推測できます。私自身、肉を食べないことが老化の大きな原因の一つではないかと考えています。体格の差を考慮に入れても、日本人は1日120~150gくらいまで肉の摂取量を増やすべきだと思います。――お肉が苦手な人はどうすればいいでしょうか?和田先生魚を食べればたんぱく質はもちろん、オメガ3脂肪酸も摂取することができます。豆腐や納豆など大豆食品にも良質なたんぱく質が含まれていますし、ミネラルや食物繊維も含まれています。女性ホルモンと似た働きをするイソフラボンも含まれているので、女性にうれしい食材といえるでしょう。必要な栄養素を摂取するためにバランスよく食べる――一般的には、食事はバランスよく食べることが大切だといわれています。和田先生その考え方は大事です。体にいいからといって1つの食品ばかりを食べていても健康にはなるのは難しい。体にはいろいろな栄養素が必要で、特に年齢を重ねるにつれて足りない栄養素による弊害が現れやすくなるんです。そうした弊害をできるだけ少なくするためには、たくさんの種類のものを食べたほうがいいですし、場合によってはサプリメントで補うことも有効です。――和田先生は普段からバランスのいい食事を心がけてらっしゃるのでしょうか?和田先生私はほぼ毎日、ワインを飲むのでワインに合わせた食事をするようにしています。赤ワインを飲む日はお肉、白ワインの日は魚という具合で、肉と魚を交互に食べています。結果的に、肉と魚を交互に食べることで栄養のバランスが取りやすくなっていると思います。――和田先生の健康状態についてもお聞きしたいです。和田先生私は最大血圧が170mmHgくらいでコントロールしていて、朝の空腹時血糖値は300mg/Dl程度です。高血圧や糖尿病を放っておいたツケともいえる心不全という病気も患っていて、検査データだけを見たらボロボロです。でも、食べたいものを食べていますね。ですから、栄養は十分に足りていますし、精神的にも満たされているんです。※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。<著書>『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』和田秀樹著大和書房/1300円+税取材・文/熊谷あづさ(50歳)ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。著者/和田秀樹先生1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。
2023年09月17日若いころに比べて疲れやすくなった、なかなかやる気が出ない、肌の衰えが気になる……。『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』が話題の精神科医の和田秀樹先生は、心身ともに揺らぎがちな更年期の時期を「思秋期」と呼んでいます。思秋期に起きる心身の変化について解説をしていただきました。教えていただいたのは…和田秀樹先生(精神科医)1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師、和田秀樹心と体のクリニック院長などを務める。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。思秋期は大人から老人へと変化する時期――和田先生が提唱している「思秋期」とはどのような意味なのでしょうか?和田先生子どもは思春期を経て大人になり、大人は思秋期を経て老人になっていきます。思春期は子どもから大人への通過点です。男性は男性ホルモン、女性は女性ホルモンの分泌が増大し、生殖が可能な男らしい体つき、女らしい体つきへと変化していきます。また、脳も発達して物事に関する興味や好奇心などが高まっていきます。体も脳も大人へと移り変わっていくのが思春期です。一方、思秋期は大人から老人へと変化していく時期です。年齢でいえば40歳から60歳あたりの更年期の年代に訪れます。思秋期になると、自分の性とは反対の性ホルモンの分泌が増えていきます。男性であれば男性ホルモンが減って女性ホルモンの影響が増し、女性は女性ホルモンが減って男性ホルモンの影響が増すということです。年を取るとは、このようにして中性に近づいていく過程でもあります。――和田先生はなぜ、今、「思秋期」を提唱されているのでしょうか?和田先生かつては更年期が終わってから命が尽きるまでの時間はそう長いものではありませんでした。しかし、日本人の平均寿命は延びています。更年期の後も20年、30年と生きる可能性があるとすれば、思秋期のうちから自分がどんな老人になっていくかを考えていたほうがいいと思うんです。そうした思秋期を過ごすことで、老いを遠ざけ、老後を健やかに生きられると私は考えています。「若々しくいたい」と思うことが若さにつながる――思秋期の年代になると、同じ年齢でも若々しく見える人もいれば老けて見える人もいます。その違いはどのようなところにあるのでしょうか?和田先生一つは「若々しくいたい」という意欲を持っているかどうかです。思秋期のころに始まる老化の一つに「前頭葉の委縮」があります。前頭葉は大脳の前方に位置する部分で、思考や意欲、感情、性格、理性などをつかさどっています。衰えを放っておくと前頭葉はどんどん老化して、意欲や好奇心などが衰えていきます。「若々しくいたい」という意欲があれば、それにつながる新しいことを試してみることもあるでしょう。そうして前頭葉を刺激することは、衰えを防ぐために非常に有効です。また、若々しさには肌の状態を保ち、シワが目立たないようにすることも大切です。――そのためには、どのようなことを意識すればいいのでしょうか。和田先生思秋期やそれ以降の年代で若々しく見える方というのは、どちらかというとぽっちゃりしている人が多いんです。そのために必要なのが栄養です。例えば、筋肉や皮膚を作る材料となるたんぱく質をしっかり摂取しないと肌にハリは生まれません。昨今は脂肪が忌み嫌われていますが、脂肪も体に必要な栄養の一つで、足りないとカサついて老け込んだ容姿になってしまいます。太り気味の人のほうが長生きをする――栄養の大切さは実感しつつも、更年期になると体形が気になってしまいます。和田先生「中年太り」という言葉があるように、ダイエットを心がけている思秋期世代は多いものです。2006年ごろから「メタボ」という言葉が使われるようになり、今ではすっかり定着してメタボ健診がおこなわれるようになりました。実際、厚生労働省のホームページには、メタボになると心臓病や脳卒中のリスクが高くなる旨が書かれています。こうした理由から、見た目に加えて健康上の理由からもダイエットを意識している人はかなりの数にのぼるでしょう。しかし、実はこれを覆す統計データが厚生労働省によって発表されています。宮城県の40歳以上の住民約5万人を対象に、12年間にわたって「体形別の平均余命」を調べたところ、一番平均余命が長かったのは40歳の時点で太り気味だった人なのです。――ということは、無理にダイエットをする必要はないということでしょうか?和田先生私はダイエットをすると老けると考えます。なぜかというと、必要な栄養を十分に摂取することができないからです。例えば、一般的には高めの血圧やコレステロール値はよくないといわれています。でも、私がこれまで医師として多くの患者さんを診てきた経験からいうと、血圧はやや高めのほうが頭がさえる方が多い。年齢とともに動脈の壁はどうしても厚くなりますから、血圧が高いほうが脳に酸素が送られやすいんです。また、コレステロールの大半は体内で作られるので意外と食事の影響を受けないんです。コレステロールはホルモンや神経伝達物質の材料となったり、血管の弾力性を上げたりする働きがあり、体に欠かせない成分です。私個人としては、メタボ対策で食べたいものを我慢してストレスをためるよりは、好きなものを食べて充足した気持ちでいることのほうが健康面では重要なのではないかと思っています。※記事の内容は公開当時の情報であり、現在と異なる場合があります。※本記事の内容は、必ずしもすべての状況にあてはまるとは限りません。必要に応じて医師や専門家に相談するなど、ご自身の責任と判断によって適切なご対応をお願いいたします。<著書>『50歳の分岐点差がつく「思秋期」の過ごし方』和田秀樹著大和書房/1300円+税取材・文/熊谷あづさ(50歳)ライター。1971年宮城県生まれ。埼玉大学教育学部卒業後、会社員を経てライターに転身。週刊誌や月刊誌、健康誌を中心に医療・健康、食、本、人物インタビューなどの取材・執筆を手がける。著書に『ニャン生訓』(集英社インターナショナル)。著者/和田秀樹先生1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在は精神科医、ルネクリニック東京院院長、立命館大学生命科学特任教授、川崎幸病院精神科顧問、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。著書にベストセラーの『80歳の壁』(幻冬舎)など多数。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたって現場に携わっている。
2023年09月15日10代の“思春期”が大人になるためのステップだとしたら、“思秋期”は高齢期に入る前の準備段階。脳で一番に萎縮していく前頭葉をこの時期に鍛えて、老化を遅らせようーー!「40~50代くらいから、脳の中にある前頭葉の劣化が始まります。人間の脳は年をとると萎縮し、老化していきます。その脳の中で最も早く萎縮するのが前頭葉。この前頭葉を高齢になる前の“思秋期”に鍛えることで、ボケを遅らせることができるのです」こう語るのは、『医者が教える50代からはじめる老けない人の「脳の習慣」』(ディスカヴァー携書)の著者で、老年医学の専門家である和田秀樹先生。超高齢化社会へと突き進む日本。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、’25年には日本の総人口に占める高齢者(65歳以上)の割合が30%に達するという。また、厚生労働省の推計では、現在65歳以上の認知症の人の数は約600万人だが、’25年には約700万人となり、高齢者の約5人に1人が認知症になると予測している。超高齢化による認知症対策は、すでに待ったなしの状態だが、前出・和田先生は“思秋期”に前頭葉を刺激することで、老化の始まりそのものを遅らせることができるというのだ。■“思秋期”の過ごし方で老化を遅らせられる「私が考える“思秋期”というのは、中年と老人の間の時期。年齢でいうと、男女共に50~70歳ぐらい。これから高齢期をどう迎えていこうかと考える期間です。たとえば、70代になってもバリバリ働いていてリタイアしない人は、日常的に前頭葉が活発に機能しているので、若々しい。80歳になっても“思秋期”が続く人もいます。いっぽう、定年後に何もせず、60代で“思秋期”を終えて、早く老化してしまう人もいます」(和田先生・以下同)前頭葉の機能が落ちると、自発性や意欲が減退し、感情のコントロールが利かなくなる。また思考の切り替えが悪くなり、新しい発想や創造性がなくなるそうだ。「たとえば、外食は行きつけのお店しか行かない。あるいは同じ著者の本しか読まなくなる。料理のレシピが増えない。会話もワンパターンのことしか言わなくなる。さらに、“あれ” “それ”と、人や物の名前が出てこなくなったり、一度怒りだしたらブレーキが利かなくなるような症状があれば、前頭葉が衰えてきていると自覚したほうがいいでしょう」【“思秋期”チェックリスト】□ 人・物の名前がなかなか出てこない□ 行く店がいつも決まってきた□ 同じ著者の本ばかり読む□ 料理のレシピが増えない□ 似た服ばかり着てしまう□ 同じことを繰り返して言いがち□ 怒りだしたら止まらない□ 全体的に意欲が落ちたでは、どのようにすれば前頭葉が鍛えられるのか。和田先生によると、いつもと違うことに挑戦することが最も効果的だという。そこでボケないための“思秋期”の8つの過ごし方を、和田先生にアドバイスしてもらった。■前頭葉を鍛えてボケないための8のルール【1】週3回は初めての店に入る「飲食店や買い物に行く場合、いつも決まったなじみの店に行くのではなく、話題の店や行ったことのない店に入ってみる。脳に日常の変化を経験させると、活性化につながります」【2】服はなるべくこれまでと違ったものを着てみる「たとえば、いつもワンピースを好んで着ている人は、まったく別の服に挑戦してみる。これも日常生活にメリハリをつけることで前頭葉が刺激され、脳の若さを保つことができます」【3】毎日食べ物の種類を変える。5~7品に食材を増やす「毎日食べ物の種類を変える。そしてこれまで3~4品だった食材を5~7品に増やす。年をとればとるほど栄養が足りなくなるので、食材は多ければ多いほどいい。老化予防になりますから。また、これまで使ったことのない食材で料理を作ってみる。あるいはいつもと違うレシピで、新たに料理のレパートリーを増やすのも効果的です」【4】散歩をしたり運転したり、目の前の景色の変化を楽しむ「歩くことは足腰を鍛える基本的なトレーニングになると同時に、前頭葉にもいい刺激を与えます。それは、目に映る景色がどんどん変わっていくからです。たとえば、ふだんあまり使わないルートをあえて選んで歩いてみる。そうすると、これまで気づかなかった新たな発見ができるかもしれません。車の運転も景色の変化を楽しめるので、脳のいい刺激になります」【5】SNSで人とのキャッチボールを楽しむ「ブログやTwitterなどをはじめると、見知らぬ人からさまざまなリアクションが来ることがあります。脳というのは、他人とのネットワークから大きな刺激を受けます。ただここで大事なのは、“いいね”を求めないこと。相手に媚を売るような投稿ばかりだと、前頭葉はあまり働かない。相手と議論になってもいいから、キャッチボールを楽しむことです」【6】少額で投資をしてみる「リスクがあって、アクシデントが起こるようなことをあえてやってみる。たとえば、節度を持ってやるということを前提に、少額でいいので投資をしてみる。世の中には予定調和を望む人たちが多いですが、予定どおりにいかないことをやったほうが、脳が刺激され、ボケ防止にもつながります」【7】恋をする「恋愛は投資やギャンブルと同様に、前頭葉にかなりの刺激を与えます。人間の脳は、年をとればとるほど“ときめき”を必要とします。女性が“思秋期”に恋をすると、男性よりも一気に若返ります。魅力的な異性にときめくだけでも、脳を刺激し、快感を得られます」【8】肉を食べる「“思秋期”になると、オトコは男性ホルモン、オンナは女性ホルモンが減っていきます。これを維持するためには、ホルモンの材料となるコレステロール、つまり肉類を取ることが重要なのです。さらに、“思秋期”ぐらいから、脳の神経伝達物質であるセロトニンが減少し、鬱になりやすくなるため、脳の老化を早めます。肉にはセロトニンの材料となるトリプトファンという必須アミノ酸が豊富に含まれているので、食べたほうがいいです」初めての飲食店に入ろうとしたときに“まずかったらどうしよう”、新しい服に挑戦したときに、友人から“似合わない”と言われたらどうしよう……と、躊躇した場合はどうすればいいのか。「失敗を恐れずに毎日が実験だと思って生活することが、前頭葉を鍛える一番のポイント。実験が失敗したら、次の実験をすればいい、そう思うことです。失敗というのは実験の結果なので、失敗しても意欲的にチャレンジを繰り返す。毎日が実験だと思いながら生活すると、年をとってからも退屈しなくなります。実際、年をとっても元気な人、頭がしっかりしている人は、意欲的な人ばかりです」ボケ対策は、すでに50代からはじまっている!
2022年08月31日