止まらない物価の上昇。さらに老後の頼みの綱である年金は6月の支給分から減額になった。このことによって、すでに年金をもらっている人も、これからもらう人も大きく老後資金が“減った”のだーー。「6月支給分から、年金が前年より0.4%減となりました。夫が一般的な収入のサラリーマンとして40年働き、妻が専業主婦という“モデル世帯”が受給する年金は、月額22万496円から219593円へと、903円も引き下がりました。年間では10836円ものマイナスです。しかも、急激な物価上昇により、年金は額面以上に“減っている”状態です」こう語るのは、年金博士こと、社会保険労務士の北村庄吾さんだ。そもそも、物価が高騰するなか、なぜ年金が減額されたのだろうか。「少子高齢化で現役世代の人口は減っているのに、寿命が延びたことで年金受給者は増えていきます。現役世代の負担を軽減するため、2016年の年金改定で、現役世代の賃金が下がれば、その分、年金受給額も下げるというルールになったのです」コロナ禍による景気の落ち込みなどで、過去3年の賃金変動率などが0.4%減ってしまったことで、年金額も同じように減額されてしまったのだ。■1万品目超の値上げ…政府の対策は期待できず年金減額だけではなく、急激な物価の上昇も家計に大きな影響を与えている。生活経済ジャーナリストの柏木理佳さんは言う。「2019年10月に消費税の増税、2020年の新型コロナによる景気の低迷で、企業の業績が悪化しました。一時期、コロナ禍で世界的に物流が滞りましたが、2021年に入り欧米諸国で輸出入が急激に再開されたことで、原油の需要と供給のバランスが崩れるなどして原油価格が高騰。大豆や小麦などの穀物の価格にも反映されました。昨年末からは、ロシアとウクライナの緊張が高まり、原油と小麦価格がさらに値上がっています。そして、この数カ月の急激な円安も家計に影響を与えています。麺類やパンなどの小麦粉商品をはじめ、輸入される牛肉や魚介類、さらにスーパーの総菜、ペットボトル飲料、お菓子など、1万品目以上が値上がりするのです」6月24日に発表された最新の「消費者物価指数(全国2022年5月分)」によると、総合的な物価は昨年と比べて2.5%上昇している。生魚や生野菜などの生鮮食品は12.3%、水道光熱費に至ってはなんと14.4%もの上昇だった。これを昨年5月の「家計調査」にあてはめてみると、この1年で月の支出額は214961円から220335円と、5374円も増えたことになる。年間だと64488円の上昇だ。「年金も減額されているので、年金世帯がこれまでと同じ生活をするだけで、年間75324円も負担が増えることになります。平均寿命の延びも加味し、老後を30年として計算したら2,259,720円の負担増になります。老後の計画が狂ってしまう人も多いはずです」(柏木さん)つまり、現在の状況は本来使えるはずだった老後資金が226万円も減ったのに等しい。政府はこの物価上昇をある程度容認すると、柏木さんはみている。「政府や日銀は長く続くデフレを脱却することを目標にしてきました。日本銀行のが『国民が値上げを受け入れている』と口走ったのも、そんな本音の表れでしょう。そもそも企業が、値上げした商品の価格を再び下げるとは、考えにくい。ウクライナ情勢も長引けば、さらなる値上げもありえます」岸田政権下で急激に目減りしていく老後資金。政治がそれに歯止めをかけない以上、生活を貧しくしていくしかないのかも……。【図解】昨年と今年の月の消費支出比較と物価上昇率
2022年06月30日老後資金に不安を抱える方が過半数を超える結果に(※画像はイメージです)50歳を過ぎると気になってくるのが老後のこと。そこで改めてわが家の口座を見てみたら全然足りない気が……。ひょっとして、私の老後生活は絶望的!?50代からでも遅くない!老後資金貯蓄テク「老後資金のセミナーをやっていて気になるのが、『もう50代だから今さら老後資金を貯めようと思っても遅い』という諦めモードの人が多いこと。それは大きな間違いです」そう話すのは、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さん。「50代でも諦める必要はまったくありません。もちろん1億円は貯まらないかもしれませんが、数百万円なら全然難しくありません。そして、その数百万円の差というのは老後の大きな差になるんです」(山崎さん、以下同)例えば夫婦で旅行をするにしても、現役時代なら移動も宿泊も高くつく時期しか行けないが、老後なら平日プランで国内の世界遺産を巡る2泊3日旅行が10万円でできたりする。55歳から65歳までにプラス200万円貯めることができたら、そんな旅行が20回できる計算に。「50代60代のちょっとした貯金の積み重ねが、そのあとすぐやってくる老後に大きな豊かさとして返ってくるんです」王道ワザで増やす!山崎さんのおすすめは、まずは王道ワザ。1日でも長く働いたり、国の節税制度を最大限に利用したりして、大きな効果を狙うこと。そのうえで、もっと増やしたい人には裏ワザも。保険料や車の維持費や光熱費といった「当たり前」に使っていたお金を見直すというものや、いったん始めてしまえばあとは放っておいていい投資なども。こうした、多少面倒でもがっつり貯まるテクニックを10個ご紹介。全部実行すれば、たとえ55歳からでも貯金を10年間で数千万円に増やすことだって夢じゃない!すぐに始められる10個の裏ワザはコレ!まずは王道ワザで確実に増やす!低リスクで貯まる・節約できるのがこちらの王道ワザ。イデコなど、貯め方を変えるだけで大きな節税効果が得られるものも。まずは確実に老後資金を増やすべし!■1 夫は「継続雇用」で、妻は「非正規」で1日でも長く働く妻が月10万円のパートを10年続けると…月10万円×10年=1200万円+年金が約6万円増公的年金をもらい始める65歳まで稼げるだけ稼ぐことが大事。さもないと、年金をもらう前に貯金を取り崩す最悪の状況に。「会社員なら継続雇用制度を利用して、65歳まで働くのがキホン。今は同一労働同一賃金の原則が浸透し始めていて、定年後も年収がさほど下がらないケースが増えています」専業主婦も、子育てが終わったら働きたい。「今は人手不足で、特に介護関係、飲食業などの非正規雇用なら、職歴や年齢を問わず働き口はありますよ」せっかく働くなら夫の扶養の範囲は気にせず、厚生年金をもらえるように月10万円くらい働くのがおすすめ。例えば55歳から働けば、65歳までの10年間で1200万円になり、たとえ税金を引かれてもかなりの蓄えになる。しかも、厚生年金が年約6万円、25年もらうと仮定すると150万円も増えるのがうれしい!■2 年金は妻だけ70歳に繰り下げて年32万円アップ!妻の年金受給開始を5年繰り下げると…年金が78万円×42%=年32万7600円公的年金の受給スタートを遅くする「繰り下げ受給」。遅らせるほどに年金額が増え、その額は生涯続くというからお得!増額率は、本来は65歳からの受給開始を1か月遅らせるごとに0.7%ずつ。5年遅らせたら42%アップする。「特に女性は平均寿命を考えると、増えた年金額を長くもらえる可能性が高い。専業主婦は老齢基礎年金のみでもともとの額が少ないので、もらうのを5年待って年金を増やす価値はあります」満額の約78万円もらえるとして、5年繰り下げると年32万7600円も増えることになり、これが一生涯続く。一方、夫については平均寿命を考えて繰り下げをためらう人も多い。「もし65歳以降も働けるなら、受給スタートを遅らせて年金額を増やし、働けなくなってからの安心を手に入れることもおすすめです。働けるうちは年金をもらわずに働く、が基本です」繰り下げると年いくらに?65歳…約78万円66歳→約85万円67歳→約91万円68歳→約98万円69歳→約104万円70歳→約110万円■3 来月変わる「イデコ」を利用して65歳までがっつり節税!年収500万円の人が月2万3000円を10年掛けると…積立金276万円+所得税&住民税が10年で55万2000円イデコとは、自分で積み立てる任意の年金のこと。自分で申し込んで掛け金を出し、自分で運用方法を選んで、掛け金とその運用益を老後に受け取る。注目すべきは、税制上のメリット。投資で得た利益が非課税になるだけでなく、毎月の掛け金すべてを所得控除できるため、節税効果がとても大きい。所得税を納めている人はぜひ利用したいところ。「50代の人にうれしいのが、今年5月から一定の条件を満たせば65歳まで積み立てできるようになったことです。従来は10年積み立てないと60歳から受け取れないため、50代での加入はおすすめされませんでしたので、朗報といえるでしょう」老後資金を投資にまわすことにためらいがある人は、投資をしない「定期預金口座」を選んで、いつもの口座からイデコ口座に毎月移すだけで所得税&住民税の節税効果を享受することも可能!■4 自営業なら「小規模企業共済」で税金を一気に減らす課税所得300万円の人が年84万円を10年積み立てると…積立金840万円+税金が約17万円×10年=170万円自営業や小規模な企業の経営者に見逃せないお得ワザがこの「小規模企業共済」。廃業や退職時に備えて積み立てをする制度だ。最大のメリットは掛け金すべてが所得控除されること。年に最大84万円を掛けられ、例えば課税所得300万円の人なら年約17万円の節税に。もし10年間積み立てたら170万円もの税金を減らすことができる。「イデコに似ていますが、途中で掛け金を引き出せないイデコと違って、手持ちのお金がなくなったときは積み立てた掛け金を担保に借り入れもできる点がありがたい制度です」自営業者ならではの税金優遇策、使わない手はない。やらないとソンする3つの理由1 最大年84万円の掛け金全額が所得控除の対象に2 自営業者にとって退職金代わりになる3 資金繰りに困ったら貸付制度もあるので安心裏ワザでガッツリ増やす!王道ワザだけでは物足りない人におすすめなのが、こちらの裏ワザ。株式投資などはリスクもあるけれど、老後資金を爆増させたいなら面倒がらずに検討すべし!■5 これまでの保険を解約して「共済」に乗り換える月3万5000円の保険を解約して月1万円の共済に乗り換えると…保険料が月2万5000円×10年=300万円生命保険文化センターの調査によると、50代の世帯が払っている生命保険料は月平均3.5万円。これはけっこうな負担!「老後資金が不安なら、不要な保険は解約して、これから払うはずだった保険料を貯蓄にまわすことを考えてもいいですね」もちろん、やみくもに保険の解約を、というわけではない。「まず夫婦それぞれがどんな保障をつけているのか、その保障は本当に必要なのかチェックしてみてください」例えば子どもが社会人になっているのなら、いざというときの高額な死亡保障は必要ない。「ただ、老後は医療費の負担が増えていくのが心配ですよね。日本は公的な医療制度が充実しているとはいえ、医療保障を少しは残したいという人もいるでしょう。その場合は、掛け金が夫婦2人で1万円くらいですむ都道府県民共済に乗り換えて、高い保険料の民間保険は解約するのもおすすめです」共済は全47都道府県にあるので、一度、ホームページなどを見てみてはどうだろう。なお、健康状態によっては乗り換えできない場合もある。共済への加入が確認できてから元の保険の解約をすること!調査によると、平均で年38万2000円の生命保険や医療保険などを払っているが、年12万円未満=月に1万円未満しか払っていない人も15%近くいることがわかる。■6 「週末しか乗らない車」を手放して老後資金にまわす車を手放してカーシェアを月4回利用の場合…維持費月3万円×10年=360万円&売却額50万円思い切って車を手放し、その維持費を老後資金にまわす方法もある。「手放せるかどうかの鍵は、車の利用頻度と、近くにカーシェアがあるかどうかです。あるいは、バスやタクシーを利用した場合の費用と比べて検討してもいいでしょう」週1回の利用ならカーシェア代は月2万円弱ですむ。都市部で駐車場代が高くついている人は特におすすめだ。「車検前なら手放す決心もつきやすいのでは?実は私もそのタイミングで手放しました。月5万円くらいかかっていた車関連費用が月1.5万円くらいになりましたよ」月4回利用した場合のカーシェアリング代(タイムズカーの場合)4290円×4回=17160円(ベーシッククラス6時間まで)■7「ボーナスで家族旅行」はスッパリやめる!年に2回のボーナスごとに10万円ずつ貯めると…10万円×2回×10年=200万円普段はぜいたくしていないつもりでも、ボーナスが出るとドーンと高額出費をしてしまう家庭は多いもの。特に山崎さんが気になっているのが、家族旅行。家族のためによかれと思って10万円単位で奮発する人が多い。「ただ、子どもが大きくなると、家族旅行なんて楽しんでくれないんですよ。それならスパッとやめたらどうですか」旅行に限らず、家電や車の買い替えなど、ボーナスが出たら何か大きいことをしようという発想は50代になったら捨てること。「ボーナスは貯めておいて、旅行は“リタイア記念”にとっておくんです。そういう名目で1度きりなら、子どもはきっと喜んで参加してくれると思いますよ」■8 固定費を一気に見直して浮いたお金を貯金にまわす「40~50代は所得も上がるし、子どもも大きくなってきて生活水準が上がりがちです」だからこそ、たとえ今が黒字家計でも、老後に備えて日々の支出を見直すこと!「特に毎月決まって出ていく固定費は、子どもが独立したタイミングなどで徹底的に見直しましょう。クレジットカードや銀行口座から自動引き落としされているもので、いらないものは止めるんです」インターネットの接続料金、衛星放送の料金、スポーツジム代などは削減効果が高い。「スマホ料金は格安スマホに乗り換えると大幅に減らせますが、サポート体制がいまひとつ。スマホの設定に自信がない人は従来のキャリアのままにして、ギガ数の少ないプランに見直す程度にとどめましょう」電気代を削る方法もある。例えば子どもが独立したら、契約アンペアを小さくしてもらうと、基本料金が安くなる。また、電力自由化によって誕生した新しい電力会社に乗り換えると1割程度安くなる可能性が。「エネチェンジ」など比較サイトを利用して、わが家に合った電力会社をリサーチしてみよう。見直すべきはこの3つ!1光熱費新電力会社への乗り換えで電気代が約1割ダウンする可能性が。年約10万円の電気代の家庭が新電力会社に乗り換えると…電気代が年間1万円×10年=10万円2スマホ代自分でスマホの設定ができるなら、夫婦で格安スマホに乗り換えを。スマホ代月8000円の夫婦が格安スマホに変えると…スマホ代が月5000円×10年×2人=120万円3インターネットや衛星放送などの料金不要な衛星放送などを解約して、Amazonプライムビデオなどを利用する。衛星放送から格安動画配信サービスに乗り換えると…動画視聴代が月3500円×10年=42万円■9 「ほったらかし投資」でお金をがっぽり増やす!夫婦で年40万円ずつ10年積み立てて利回り3%の場合積立金800万円+運用収益約66万円×2人分=132万円新型コロナやウクライナ情勢。予測不能な出来事が次々と起きて、株式相場は上がったり下がったり。株をやっていると「あのときに買えば儲かったかも」などと考えてしまう。「この先、株価が上がるか下がるか、売りどきや買いどきがいつかは投資のプロにさえわかりません。ただ、長期的にみて社会は必ず成長すると思えるのなら、目の前の株価が上がろうが下がろうが、愚直に積み立てを続けることが大事です。運用をプロに任せる投資信託なら少額ずつの積み立てコースがありますし、いろいろな銘柄に分散して投資ができますから、初心者におすすめです」投資信託で積み立てるとなると、おすすめは国が投資を支援する制度「つみたてニーサ」を利用すること。運用益が非課税になるメリットも。「つみたてニーサは1人当たりの積立額の上限が決まっていますから、たくさん投資したいなら、夫婦それぞれの名義で口座を作るといいですね」初心者におすすめの投資信託・日経平均(またはTOPIX)連動型インデックスファンド・世界株式連動型インデックスファンド■10 個別の株を買って配当&株主優待でトクするニーサで100万円相当・配当利回り1%の株式を5年持ち続けた場合…1万円×5年=5万円自分でいろいろ企業の業績をチェックして、個別株に投資して、もっと老後資金を増やしたいという人もいるだろう。「初心者は、短期的な売買で値上がり益を狙うよりは、長く持ち続けてこつこつ配当金や株主優待を受け取るのがおすすめ。収支が黒字になっていて、株価の変動が少ない会社を狙えば、平均で1.9%程度の配当をもらい続けられます」例えば、イオン株式会社の場合、4月1日現在の配当利回りは1.39%。さらに、株主優待で毎日の買い物額に応じたキャッシュバック(100株保有で3%)が受けられる。近所にイオンがある人はねらい目だ。ただ、どんな企業でも、株価が大きく下がることはある。「一時的に株価が3割くらい下がることはあります。ですから、“3割下がっても持ち続けられる金額”を投じるようにしましょう。そして、1社が値下がりしても耐えられるよう、複数の企業に分散して投資することも大事です」教えてくれたのは山崎俊輔さん●ファイナンシャルプランナー、消費生活アドバイザー。お金に詳しくない人にもわかりやすく、親しみやすい老後資金の増やし方を解説するエキスパート。著書に『日本版FIRE超入門』などがある。<取材・文/鷺島鈴香>
2022年04月26日※写真はイメージですどれくらいの金額があれば老後生活を送れるのかーー気になりだす50代後半。漫画家・青沼貴子さんは夫婦とも自営業、「もらえる年金額の少なさ」に大きな危機を感じた。意識を変え、年間100万円貯金に成功。「60歳前」は家計を見直す大きなチャンスだと語る。50代で老後資金の不足に気づく「漫画家の私は“今日、仕事をしなくても、締め切りにはきっと間に合うさ”と考える、なりゆき任せなところがあって。働けなくなったあとにもらえる年金や老後資金について、50代後半になるまで考えていなかったですね」と話すのは、青沼貴子さん。青沼さん夫婦は青沼さんが漫画家、夫は建築関係で2人とも自営業。年金は国民年金(老齢基礎年金)のみの加入だ。国民年金は、保険料を40年間支払うことで、満額が支給される。けれど、2人とも保険料を支払えなかった時期があり、実際に支払った年数は、青沼さんが約25年、夫は約15年だという。「50代のときに送られてきた『ねんきん定期便』を見たら、なんと1か月の年金支給額が私が4万円ちょっと、夫はなんと3万円ちょっと!2人合わせても1か月で約8万円にしかならないとわかって、夫婦で焦りました」(青沼さん、以下同)もともと夫が固定費、青沼さんが生活費を出し、別財布でやり繰りしながら生活していた。年金額が少ないとわかったときに、2人とも年金を補うための預金もないことも判明する。「心機一転、60歳になる前に貯金体質になれるように、夫婦でお金との向き合い方を真剣に考え始めました」お金の勉強のために、50代でファイナンシャルプランナー3級の資格を取得。老後に年金だけで生活しようとすると、30年間で老後資金が約2千万円不足するといわれている。仕事を辞める予定の70歳までに、2千万円の預金をどのように貯めたらいいのか計画を立てた。「59歳から1年間に100万円ずつ預金すれば、70歳までに2千万円の半分にあたる1千万円が貯まります。まずは生活費のやり繰りから手をつけました」節約意識を高めて100万円預金に成功出費を管理するため、わかりやすい家計簿のつけ方を考案した。生活費を10項目に分け、予算も明記し、1項目1ページを使うことにした。ページに使った金額を記入したり、レシートを貼ることで、使ったお金がひと目で確認できるようになった。各項目の予算を意識するようになって、自然と出費が抑えられた。この家計簿がきっかけで、節約への意識が高まり「節約脳」になったという。「1か月の生活費はそれまで約21万円でしたが、約13万円の予算でやり繰りできるように。浮いた8万3千円をすべて貯金に回し、年約100万円の預金に成功したのです」ほかにも「ふるさと納税」もスタート。自分が選んだ自治体に寄付をすると、寄付額から2千円を引いた金額が、所得税や住民税から控除される。さらに、自治体によっては寄付額の30%以内の返礼品がもらえるのでお得だ。返礼品にはさまざまな品物があるが、牛肉や鶏肉などを選び、食費節約に役立てていると話す。生活費のほかに、固定費として負担が大きい住宅ローンの返済も見直す。「60歳を過ぎても住宅ローンが残っていては家計に響いてしまいます。銀行に相談すると審査が必要でしたが、金利を下げることができ、ローンの支払い期間を3年短縮できました」60歳を目前にして、夫婦で心を入れ替えて家計や暮らしのダウンサイズに励み、見事、成功できた青沼さん。「老後資金としていくら必要かを把握しておけば、焦らずにすみます。年金や預金を増やすためにできることはまだある。老後資金に不安を感じるなら家計を一度、見直してみてはいかがでしょうか」カンタン家計簿で生活費を把握1か月の生活費10項目(予算13万円)食費60,000円日用品10,000円交際費10,000円娯楽費5,000円通信費5,000円洋服代10,000円美容費15,000円雑費10,000円医療費5,000円教育費0円※※青沼さん宅では子どもが巣立っているため教育費はなし月8万円貯めるために……家計を見直し!●光熱費を下げるため家電の買い替えトイレのリフォームと家電の買い替えにより毎月の光熱費が5千円安くなった。トイレは節水型に替えて、台所のガス台は新機能の付いた製品に交換。水道代とガス代を合わせて毎月約2千円が抑えられた。エアコンは省エネ型に替えたら、電気代が月に3千〜4千円下がった。買い替えにはお金がかかるが、光熱費を減らす効果があるため、長い目で見ると節約になる。「家も家電も年数を経ればガタがきます。コストパフォーマンスを考えるなら早めに替えたほうが長い目で見るとお得な気が」(青沼さん)●断捨離をして買わない体質に60歳を前に、身の回りを断捨離。最初は洋服から。以前は長く着るつもりで高価な服を買うこともあったが、結局、数年しか着ないでタンスの肥やしに。そこで、安い服を毎年、買い替えるようにしたら、毎月の洋服代を約半分に減らせた。また、あまり使わなくなった健康グッズなども処分し、少しずつ身軽になった。「断捨離を意識することで、余計なものを買わないクセが自然と身につきました」●先取り預金で老後資金を貯める銀行の口座を「日常用」「予備用」「老後用」の3つに分けた。「日常用」の口座に原稿料が振り込まれたら、生活費とともに貯金分も下ろし、先取り預金として一定の金額を「予備用」の口座に移す。予備用の口座は臨時出費に使うが、この口座にある程度の金額がたまったら、さらに「老後用」の口座に移して、下ろさないお金にすれば、預金ができるように。「お金が入ると使ってしまう私のようなタイプは“余ったら預金する”のではなかなか貯まらない(笑)。先取り預金なら必ず貯まります」効率よく増やす!老後資金UP術●つみたてNISAとクレカのポイントを活用貯蓄以外に、少額から投資信託の「つみたてNISA」を開始。元本保証ではないが、年間40万円までの運用利益が非課税なので、夫婦で行えば80万円になり、10年間で800万円。運用利益に預金1千万円(予定)を足せば、老後資金の目標額2千万円に近づく。投資信託が不安な人は、ポイント投資という方法もある。「クレジットカードによっては、ポイントを使って投資信託が始められるので、まずはお試しから」●年金の支給額を増やす国民年金基金国民年金の手取り額を増やす方法として、40代から実践しているのが国民年金基金。国民年金に上乗せができる制度で、自営業の人などが入れる※。例えば40歳で加入して毎月掛け金を一口分支払うと、国民年金に1万5千円の上乗せが終身でつく。年金の未納期間がある人は、60歳から65歳になるまで保険料を払えば、年金額を月に約8千円増やせる。「国民年金は支給開始年齢を70歳に繰り下げると42%アップします。無理のない範囲で増やしましょう」※国民年金基金は自営業・フリーランス等の国民年金の第1号被保険者の方、任意加入されている方のみ加入できる教えてくれたのは…青沼貴子さん ●漫画家。自営業(建築関係)の夫、社会人の長男、長女と4人暮らし。ファイナンシャルプランナー3級の資格を持つ。著書は『59歳、最後の貯めどき 70歳までに貯金1000万円』(竹書房)ほか多数。〈取材・文/松澤ゆかり漫画提供/竹書房〉
2022年02月26日牧師ミツコさん撮影/林ひろし「年金だけで1人で生活していけるだろうか」という不安を抱く人は多いかもしれない。しかし、月に7万円の年金でも満足しながら生活しているのが牧師ミツコさん。食卓には9~10品のおかずを並べて健康管理をしつつ、教会への献金を欠かさない充実の「おひとりさま」暮らしを追った。■お金がない状況を自分なりに楽しむ「子どものころから貧乏には慣れています。牧師だった父は家にお金がなくても、もっと困っている人にお金を分け与えようと考える人だったので。夫も同じようなタイプでした」と、現在74歳のミツコさん。「必要があれば神様が必要な分だけ与えてくださる」と考えて生きてきた。ミツコさんは長年、牧師の夫と2人で、教会を運営してきたが5年前に夫を亡くした。70歳からは公営住宅でひとり暮らしをしている。「いまは月約7万円分の年金が主な収入。これは、国民年金、厚生年金、夫の遺族年金を合わせた金額です。ひとりで7万円のお金を使えるので、昔に比べて『私ってお金持ちよね』と感じて生活しているんですよ」(ミツコさん、以下同)夫が主任牧師として新しく教会を立ち上げたとき、3年ほど無給だったこともあった。その時代と比べれば今は豊かだという。お金がないことを嫌だと思うことはなく、その状況を楽しむクセがついている。「例えば、花は好きですがたまに1本しか買いません。でも時々しか買えないからこそ、1回の感動が大きいし、ものすごくうれしい。お金がなくても幸せは感じられるのだと思えるようになりました」■家計管理に時間をかけないミツコさんの家計管理の方法はいたってシンプルだ。家計簿はつけずに買い物時のレシートを手元に残し、臨時の出費はメモしておく。「今日使いすぎたな、と思ったら2~3日は締めるようにし、メリハリをつけます」毎月、食費と雑費で約4万円の出費に抑えている。普段の買い物にはクレジットカードや電子マネーを活用し、ポイントをためて有効利用する。また、収入が少ないので公営住宅の家賃や健康保険料、介護保険料は減額されている。ひとりの食卓はというと、1日3食の食事を自分で作るようにしている。「病気にかからないことがいちばんの節約なので、食事はおろそかにできません。それに生活費の中で工夫次第で最も節約できるのが食費です」食材は安売り店ではなく、品質がよくて信頼できるスーパーや生協で購入。材料費が少し高くても、自炊なら外食したりお惣菜を買うよりも節約になるためだ。また、食事では節約を意識しつつ、健康面も考えて次の3つに気を配っている。1つ目は野菜や大豆をとること。味噌汁は具だくさんにして、蒸し大豆や納豆、手作りのぬか漬けも欠かさない。2つ目は、栄養バランスを整えるため、1食で9~10品を少量ずつ食べること。「副菜を多めに作り、数日かけて食べれば、簡単に品数を増やせて経済的です」3つ目は、2食続けて同じメニューにしないこと。「例えば、昼食がビーフシチュー、夕食がのり巻きなら、翌日の昼に残りのビーフシチューとのり巻きを食べます。同じメニューが続くと飽きるし栄養も偏るので、少し配慮するだけで全然違いますね」■シルバー人材の仕事で不足を補う生活は年金の7万円で成り立つが、ミツコさんは毎月、教会への「献金」をしている。「クリスチャンにとって献金は、生活費よりも優先すべきものです。毎月の献金は、私の中で絶対に譲れないこと。牧師を引退しても働く必要があるだろうと、以前から覚悟をしていました」引退後、2015年から地元の自治体が運営するシルバー人材センターに登録。「自分に何ができるかを考えたところ、4人の子どもたちを育てながら担ってきた家事ならできるのではと思いました。いまは掃除や料理のため、3軒のお宅に火曜日と木曜日、金曜日にそれぞれ通っています。いずれも子育てをしながら共働きをしているご家庭。若いころの自分と同じような状況のママたちのサポートができるのはうれしいですね」時給は1時間約千円。週3日働いて月に2万~3万円の収入に。そこから献金や美容院に行ったりするときの臨時出費を出している。「身体を動かして働くと若さも元気も保てるので、私は仕事があること、働かせていただけることはとてもありがたいことだと思っています。出かける用事があることで生活リズムも整います。働かせていただける限り、この先も続けたいですね」■お金をかけずに楽しむおうち時間「夫を亡くしたときは寂しい気持ちもありましたが、子どもと暮らすことは考えませんでした。子育ての最大の目的は自立。娘たちには『18歳までは面倒をみるけど、あとは自分でどうにかして』と言ってきたので、私が自立しないわけにはいきません。自分のことには責任を持ちたい」子どもから金銭的な援助はしてもらっていない。「いまの生活は、好きなときにご飯を食べたり、昼寝をしたりできて、自由を満喫しています」ひとり暮らしでも少しの工夫で生活に彩りを添えれば、心が安らぐ。子どもや孫と撮った写真は、しまい込まないで玄関に飾っている。遊びに来た孫が昔の写真を見て喜ぶ姿を見ることが、ミツコさんの楽しみだ。ただ、病気になるとお金がかかるし、家族に迷惑がかかるので普段から健康でいることを意識している。「死ぬのは怖くはありませんが、介護で迷惑をかけるのは避けたいですね。朝起きたら30分ほど、筋トレやストレッチをします。テレビや本で紹介された健康法はどんどん取り入れています」なるべく“笑顔になること”も心がけている。台所や机の上に小さな鏡を置いて、常に自分の表情をチェック。「笑顔で過ごせば免疫力が上がると聞いて実践中。気持ちも上向きになれます」牧師の活動から、介護や福祉の現場を知っているので老後への過度な不安はない。「老人ホームや病院にいる親族、教会員を訪ねることも多いんです。私もひとり暮らしが難しくなったら、老人ホームのお世話になるつもり」■人との交流を大切に毎日過ごす「万が一のために貯めているのは、自分のお葬式代にする少額のお金だけ。クリスチャンのお葬式は質素なのでお金もかかりません。それよりも、生きている間に人との交流に、お金を使いたいから」ミツコさんは、人に手料理をごちそうするのが好きだ。特に、お世話になった人を自宅に招くときは心を込めた手料理でおもてなしをする。「食材費は少しかかってしまいますが、こういうときはケチケチしません。来月節約すればどうにかなるもの。また少額ですが、娘たちがうちに来てくれたときには駐車場代として千円を渡しています」それも亡くなったクリスチャンの叔母の「気は心」という教えから。「人のためにお金を使うと不思議と臨時収入があるものなんです。よいお金の使い方をすれば、心も豊かになる。人にもお金にも感謝する気持ちは忘れたくないですね」1か月の収支●収入国民年金などの年金約7万円●支出住居費 約6000円社会保険料など 約4000円水道光熱費 約8000円通信費約1万円食費、雑費、その他約4万円計約7万円※シルバー人材センターの仕事の収入は、教会への献金、臨時出費(美容院代)などに充てている教えてくれたのは…牧師ミツコさん ●プロテスタントの牧師の家庭で育ち、神学系の大学を卒業。牧師の夫と結婚後、自らも牧師に。夫婦で47年間教会を運営しながら4人の娘を育てた。孫は16人。著書に『74歳、ないのはお金だけ。あとは全部そろってる』(すばる舎)。〈取材・文/松澤ゆかり〉
2022年01月30日老後の暮らしを支えてくれるものといえば「年金」だが、その年金の仕組みが’22年春から大きく変わる。少しでも多くもらい、取りこぼしを極力なくすためにも、今からキッチリ予習しておこうーー!’22年4月に制度の一部が変わる年金。高齢化真っただ中での今回の“年金大改正”は、長生きを前提に、年金をできるだけたくさん増やせるようにするというもの。「人生100年時代を迎えて、夫の定年退職時が“人生の折返し地点”という人たちが多くなります。長い老後を安心して過ごすためにも、受け取れる年金収入がいくらなのかを、まずは『ねんきん定期便』で確認しましょう。長生きすることを想定して、年金をどれだけ増やすことができるのか。夫の定年前に把握することが大切です」そうアドバイスするのは、社会保険労務士でファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さん。今回の年金大改正で得するための条件として、井戸さんが教えてくれたのが次の3つ。【1】受給開始年齢を遅らせる受給開始を遅らせると最大84%もお得。【2】なるべく長く働き続ける健康なうちはリタイアなんかしない!【3】できるだけ収入を増やす納付金額が増えれば受給額もアップ。「誰でもできるのは『年金の繰り下げ』ですが、その前に必ず、夫婦で年金収入がいくらになるのかを調べておきたいですね。『まだ先のことだからいいや』といって放置している人も多いようですが、遅くとも50代のうちに、年金収入だけで生活が成り立つのか、家計の見直しをしておきましょう。老後のお金がどれくらい足りなくなるのかがわかれば、いつまで働けばいいのか、いつまで年金受給を繰り下げればいいのか、といった方向性も見えてきます」(井戸さん・以下同)「ねんきん定期便」は毎年、誕生日の月に届くが、夫と妻それぞれに届くので夫婦合わせていくらもらえるのか計算しよう。また、その際に覚えておきたいのが、加入実績に応じた年間額(年額)から、社会保険料、所得税、住民税などを支払わなくてはならないということ。実際には1割ぐらい差し引いた金額が手取りの額になるという。そこから、生活費を差し引いてみると、年金の範囲内で生活が成り立つかどうか判断できる。退職金や貯蓄を取り崩す生活を続けると、あっという間に資金が底をつく恐れがあるので、介護や医療費など“もしもの時”にも備えておきたい。「たとえば、夫の退職金が少なかった、住宅ローンの支払いが退職間際までかかってしまった、などの理由により、老後の貯蓄ができなかったという話もよく聞きます。老後の終身の収入は公的年金だけで、それだけでは生活費が足りない場合は『元気なうちはなるべく外に出て働く』という選択が現実的。その間、年金を繰り下げて受給額を増やすこともできます」年金の繰り下げは、今回の大改正で受給開始年齢が70歳から75歳まで広がる。受給額は最大で84%アップし、たとえば65歳で年間約78万円もらえる人は、70歳まで繰り下げると約110万円に増やすことができる。さらに75歳まで繰り下げれば約143万円にも!ただし、むやみに繰り下げると、受給額が目減りするケースもあるので注意しよう。■厚生年金に加入し、長く働けばメリットは大短時間のパートやアルバイトでも、厚生年金加入のチャンスが生まれたのも特筆すべき点だという。社会保険の加入要件のハードルが下がり、週20時間、月8.8万円の収入の人でも加入対象になったのだ。また、65歳以降も厚生年金に加入して働くと、毎年年金額が増える仕組みなのでやりがいもアップ。「改正前は、65歳以上で老齢厚生年金をもらいながら働いていた人の年金受給額は、退職してからか、70歳を迎えるまでは再計算されませんでした。それが、毎年再計算されることになり、厚生年金の保険料を納めた分、すぐに翌年から受給額がアップしていきますので、働く意欲につながるでしょう」いずれにしても「働き続ける」ことが大切なのだ。さらに、個人が任意加入する私的年金を使って年金を増やす、という方法にも変化がある。個人型確定拠出年金のiDeCo(イデコ)は、これまで加入できる年齢が60歳未満だったのが、65歳未満に引き上げられるのだ。「老後資金が足りない」という人は、仕事を続けながら、厚生年金に加入して、かつiDeCoにも加入すれば、もらえる年金の倍増も夢ではない。
2022年01月19日「老後2,000万円不足問題」「長生きリスク」など、老後資金への不安が一向に解消しない。50代は“老後資金の貯めどき”といわれるが、それどころではない日常に追われ、さらに不安が募る。「晩婚化の影響で結婚・出産が30代だと、住宅購入は40代になるでしょう。50代は役職定年などで収入が減るのに、子どもは大学生で住宅ローンはまだ半分。そんな状態で、老後資金まで手が回らない人が増えています」そう話すのはファイナンシャルプランナーの長尾義弘さんだ。60歳の人に今の貯蓄額を聞くと、3人に1人が300万円未満というデータも(PGF生命「2021年の還暦人に関する調査」)。「貯蓄ゼロというのも珍しい話ではありません。でも『もう手遅れだ』と悲観しなくても大丈夫。老後資金づくりは60歳からでも間に合います」(長尾さん・以下同)心強い言葉だが、もしや運用を勧めるのでは?「初心者が運用に手を出し、大切な老後資金を減らしては元も子もありません。運用はいっさいせずに、老後資金を増やしましょう」どんな方法だろう。「実はとてもシンプルで、〈1〉長く働く、〈2〉公的年金の活用、〈3〉節約の3つを組み合わせるものです。『なんだ、年金か』と思うかもしれませんが、年金制度は複雑でうまく使いこなせない人が大半です。公的年金制度をフル活用して、年金額を最大化させましょう」年金額が多少増えても、老後の厳しさに変わりないのでは?「たとえば夫婦2人分の公的年金が月20万円で、2人の生活費が月25万円なら、毎月赤字で貯蓄を食いつぶすことになります」年金生活が65〜95歳の30年間続くとすると、月5万円の赤字×12カ月×30年分=1,800万円が老後資金として必要になる。「ですが、公的年金を月25万円に増やせれば生活費月25万円とトントン。貯蓄ゼロでも生活できます。また、生活費を1万円節約できれば、貯金もできますよ」公的年金の受給は65歳からが原則だが、今は60〜70歳までもらい始める時期を選べる。ただ、65歳より早くもらい始める「繰上げ」は受給額が減らされるが、遅くする「繰下げ」を選べば受給額が最大42%増えるのだ。「公的年金の受給は一生涯です。しかも使っても使ってもまた振り込まれる“減らない財布”です。これを生活費がまかなえるくらい大きくできれば、お金の心配がないバラ色の老後になりますよ」■長く働く、年金の繰下げ、節約で90歳で貯蓄1,000万円会社員のAさん(60)を例に年金の活用法を見ていこう。Aさんは同い年夫婦で、退職金で住宅ローンを完済し、貯蓄はゼロ。「貯蓄ゼロだと日々の生活に困りますから、まず働きましょう。また60歳以降も厚生年金に加入すれば、退職後の年金も増やせます」Aさんが70歳まで働く場合の貯蓄額の推移が、グラフ1(画像参照)だ。Aさんは年収360万円、妻は年収180万円で働き、支出が年400万円だと140万円の黒字だから、貯蓄が増えていく。65歳でAさんの勤務日が減り妻は退職するが、年金受給が始まり、さらに貯蓄は増える。だが、70歳でAさんが退職すると赤字生活に陥り、83歳で貯蓄が尽きてしまう。「長く働くだけでは無理があるので、年金を繰り下げましょう」年金の繰下げは先述のとおり年金受給を65歳より遅らせること。1カ月遅らせるごとに受給額が0.7%アップするので、最長70歳までの5年間で0.7%×12カ月×5年間=42%増額になる。「ただAさん夫婦は70歳まで繰り下げると貯蓄が底をつくので、夫婦とも69歳までにしました」こうした見直しで、貯蓄推移はグラフ2(画像参照)のように変わる。「年金は4年間の繰り下げで33.6%アップ。Aさんの年金は216万円→287万円に、妻は85万円→114万円に増えました。あわせて節約にも取り組みました。Aさんが70歳で退職したら、生活費を1割カット。年間支出を400万円→360万円にします」65〜69歳は収入も減り年金もないため赤字で貯蓄を減らすが、年金受給が始まる69歳以降は黒字が続く。70歳でAさんが退職しても、節約効果もあって年41万円の貯蓄ができるのだ。「この生活を続けると90歳で貯蓄が1,000万円を超えます。介護などがあっても心配ないでしょう」70歳以降も夫婦2人で月30万円なら、それほど厳しくないだろう。「少しずつでも貯蓄が増えていく暮らしは、とても安心ですよ」
2022年01月11日コロナ禍となり、離れて暮らす親となかなか会えない、孫に会わせたくても会わせられない…といった切ない日々がしばらく続きました。今年の年末年始は、電話やオンラインで互いに元気な様子を確認する予定という方もいれば、様子をみつつも「久しぶりに実家の親と直接会う予定」といったご家族もいることでしょう。そんな子育て真っ最中のパパママたちに知って欲しい数字があります。離れて暮らす母親と話せる「人生の残り時間」は約26日間「老後の不安をゼロに」を提唱する株式会社LIFULL senior(ライフル シニア)が今年9月に実施した調査によると、2020年4月以降「離れて暮らす親と会っていない」という方は67.8%という結果に。親と離れて暮らす約7割の人が対面で会えておらず、今年の年末年始が約2年ぶりの親と会うことのできる帰省シーズンになるのでは、と予想されています。もうひとつ気になる調査データがあります。「セイコー時間白書2019」によると、35~39歳の人が別居している自分の母親と生涯会って一緒に話せる時間は、626時間(26.1日)と、1か月を切る残りわずかな時間であるということが調査結果で判明しています。新たな変異ウイルス「オミクロン株」が世界的な拡大を見せ始めている現在、年末年始以降も親と会って話すことのできない日々がまだまだ続く可能性もあり、予断を許さない状況です。今後も親子で対面して話す貴重な時間が、さらに失なわれる可能性があるかも? しれません。今年の年末年始に帰省される方にとっては、約2年振りに親と直接会ってさまざまなことを話し合う「大切なタイミング」となるわけです。帰省時にこそ、介護や生前整理を話し合うキーワードは「親子でオープンな終活」!年々老いていく親のことは、頭の片隅で気になりつつも「元気だし、まだ大丈夫」と思っていませんか? 「親の介護」はいつ何時必要となるかわかりません。30代40代のうちから「知る」「備える」こと。そして、元気なうちに親としっかり話し合うことが何よりも大切です。今回の帰省タイミングだからこそ、思い切って親御さんと「介護や生前整理」について話し合いを始めてみてはいかがでしょうか。…とはいえ「かなりセンシティブなテーマだし、親もこの話は嫌がりそう…」となかなか踏み切れない方も多いはず。そこで、親子で終活をスタートするためのシンプルな【3つのポイント】をご紹介します。【親子で終活をスタートする 3つのポイント】・子から話を切り出す、肝心なスタートをポジティブなものにする・お金の話はプロにも相談・リサーチし、オープンに親子間で話し合う・介護保険サービスや介護施設を利用することに負い目を感じない親とのコミュニケーション問題はそもそも悩ましいテーマ。さまざまな専門サイトがあるので、まずはネット上で情報収集することから始めて、「わが家の場合」のイメージをしてみても。LIFULL介護の「tayorini~介護が不安な、あなたのたよりに~」()というサイトには、 #親とのコミュニケーション にまつわる記事も多いので、のぞいてみるのもおすすめです。介護費用は平均約500万円!親から発されるSOSはギリギリ株式会社LIFULL senior(ライフル シニア)の調査によると、平均的な介護期間は4年7カ月、総介護費用は約500万円と、子のリタイア後に多額のお金が必要になることが予測されています。さらに、子の約6割が「親の状況を本人以外から把握する方法」が特になく、また「自分の体調についてすべてを伝えた」と思っている親が31%もいる一方で、「すべて伝えてくれた」と思っている子は9.3%と、親の伝達と子の理解に乖離が発生しています。こういったコミュニケーション問題に加えて、多くの親は「子どもに迷惑をかけたくない」という思いから、ギリギリまでSOSを出さないのが現状のようです。久々に会って話すことができる今回の貴重な帰省タイミング。ぜひ、互いの体調を思いやり、楽しく語らう時間を過ごしつつ、現在の親御さん様子も把握した上で、「これからの親の暮らし方」についても話し合ってみましょう。久々の親子の対話の機会で確認すべき重要なテーマのひとつは、「介護」と「生前整理」の準備です。大切な家族だからこそ、明るく前向きに「親子で始めるポジティブな終活」をオープンに提案してみませんか?取材協力:LIFULL senior参考:LIFULL介護
2021年12月29日「老後をどうしたいのか方向性を決めていくと、蓄えておくべきお金がわかってきます」そう話すのは、『こんな時代でもラクラク貯金ができる!○×でわかるお金の正解』(KADOKAWA)の著者で、家計再生コンサルタントの横山光昭さん。人生100年時代、想像以上に長い老後が待っている。その長い老後を乗り切るには、まずは年金生活に入った後、年金収入だけで生活が成り立つのかをシミュレーションしてみよう。受け取れる年金の額は「ねんきん定期便」で確認できる。住宅ローンを払い終わっていれば住居費はなくなり、現役時代と違い毎日通勤しなくてもいいのであれば、夫のスーツ代やワイシャツのクリーニング代などは少なく見積もれるだろう。ただし、月々の生活費に不足分が出るようであれば、「不足分は仕事を続けて収入を得る」という選択肢を視野に入れなくてはならない。「仕事を続けて収入を得るということは、年金や貯蓄を使い尽くさないという生活防衛策でもあり、健康をキープすることにもつながります。とりわけ夫にいつまで働いてもらうのかは、老後資金をいくら貯めるかを考えるうえでも大切なポイントになってきます」(横山さん・以下同)いずれにせよ退職金は病気や介護が必要になったときのために備えておくのがベター。そのほかにどれだけのお金が必要となるのかの「ライフプランニング(人生設計)」を立てておくことが必要だという。年金生活に入ってからの「ライフイベント」には具体的にどんなものが想定されるのだろう。たとえば、子どもたちがすでに独立していれば、教育費などの大きな支出はなくなるが、まだまだ動けるうちは新車の購入費や、旅行、親が健在なら帰省などの費用も見積もっておく必要がある。それらはすべて貯蓄でまかなわなくてはならない費用だ。具体的なライフイベントには表れてこないが、病気になったり介護が必要になったときのお金も想定しておきたい。「若くて健康なうちは気付かないのですが、老後生活の最大のリスクは病気です。『高額療養費制度』を使えば医療費はかなり抑えられますし、介護にかかる費用も、一定金額を超えた場合には『高額介護サービス費』を利用することで、払い戻しを受けられます。ですが、医療や介護でお金が戻ってくるこうした制度については、誰も教えてくれませんので、知らないと損をしてしまいます。お住まいの自治体に問い合わせるなどして確認しておきましょう」さらに、医療保険と介護保険のサービス両方を利用している世帯であれば、1年間(8月から翌年の7月まで)の負担額が一定額を超えた場合に、申請すると超過分が戻ってくる「高額医療合算介護サービス費」も受けられる。また、女性の場合、気をつけたいのは、夫に先立たれた後の生活のこと。たとえば、夫と妻の分を合わせて毎月約23万円の年金を受け取っていたとしたら、夫の死後、妻がそのままの金額を受け取れるわけではなく、約14万円(妻の老齢基礎年金6万5,000円+遺族厚生年金7万5,000円)までダウンしてしまう。夫の死後、受け取れる年金額は把握しておこう。【想定しておきたい老後のライフイベント例】〈60歳・夫の定年退職〉定期的な収入が大きく減ってしまうポイント。これを機に身の丈に合った支出に見直そう。〈65歳・夫が脳卒中〉日本人の死因の約52%を占める三大成人病。リハビリが必要になることも想定しておこう。〈75歳・夫と死別〉葬儀にかかる費用以外に、今後もらえる遺族年金の額も把握しておく必要がある。〈85歳・要介護状態で施設に〉終(つい)のすみかを確保するにもやっぱりお金が必要。入居する施設は元気なうちに探しておきたい。 男性よりも平均寿命が長い女性にとって、「長生きリスク」への備えは、より切実なのだ。
2021年12月24日老後資金問題に、まさに青天のへきれきともいえたコロナ禍。いつの間にやら家計は火の車!そんな状況の人でも、焦って投資や保険に手を出すのは悪手かも。甘い言葉につられないよう、経済ジャーナリストの荻原博子さんが解説してくれました――。■金利3%以上ならインチキを疑う目を持つ’19年に「老後2,000万円不足問題」が注目されました。これは総務省の家計調査(’17年)から、高齢世帯の平均収入と平均支出を抜き出し、その差額、月約5万5,000円×12カ月×30年を単純に計算し、「公的年金だけでは2,000万円不足する」と指摘するものでした。これらはあくまでも平均値で、しかも高齢になるほど支出が減ることなども考慮されていない、ひとつの目安にすぎません。当てはまらない方も多いのですが、数字だけが独り歩きし、投資の必要性をアピールするために利用されてきました。いまも「投資は必須」と語る専門家もいますが、だれがコロナショックを予測できたでしょう。それほど現代は、先行き不透明で予測不可能です。そんななか、リスクのある投資で虎の子の老後資金を失わないように『「コツコツ投資」が貯金を食いつぶす』(大和書房)を書きましたが、本誌では、特にだまされやすいセールストークの裏側を考えていきましょう。【分散投資で、リスクは回避できます】分散投資はよく卵にたとえられます。「ひとつのカゴに入れておくと落ちたら全部割れてしまうが、いくつかに分けておけば落ちるカゴも残るカゴもある」から安心だというのです。しかし、リーマンショック級のリスクが来たら、分けたカゴすべてが落ちてしまうことも。卵を守りたければ、落ちても割れないゆで卵にしておくことです。つまり、現金化して貯金すること。キャッシュがいちばん強いのです。【特別な高金利商品です】いまの時代、高金利には注意が必要です。1%以上の金利がつく商品には“カラクリ”があり、3%以上なら“インチキ”だと疑う目を持ちましょう。たとえば「定期預金金利が1%」という商品はほとんど、同時に投資信託を契約することが条件。つまり、投資信託と定期預金のセット商品です。しかも、1%の定期預金金利は1カ月だけということも。100万円預けて利率1%なら利息は1万円ですが、それは1年ものの場合。1カ月ものなら利息はわずか800円余りで、2カ月目からは通常の金利に戻る、これがカラクリです。■保険の契約にも罠が。堅実な貯金が安心【保険のご相談は無料です】ショッピングモールなどにある保険ショップは「相談無料」がウリですが、その実態は“相談”ではなく“セールス”です。そう考えると、無料は当然でしょう。保険ショップはボランティアではありません。無料相談の人件費や保険ショップの店舗費用、相談に行けばもらえるノベルティグッズなど、多くのコストを無料相談でまかなえるはずがありません。それらは保険ショップの売り上げ、つまり、契約した方の保険料から捻出されているのです。“無料”につられると、本当に必要な保険料にそうしたコストが上乗せされた“高い買い物”をさせられるかもしれませんよ。【貯金するより賢いですよ】大手銀行の普通預金は0.001%の超低金利。それに対して、貯蓄性保険なら運用利回りは0.3%。300倍ですから「お金を増やしたいなら、銀行預金より貯蓄性保険のほうが賢い選択」というのです。しかし保険の場合、契約者が支払う保険料から事務手数料など保険会社の経費を差し引いた残金が運用に回ります。保険料を資産づくりの元金と考えると、手数料が引かれたマイナスからのスタートになりますが“賢い”でしょうか。表面的な言葉だけで信用すると、痛い目にあうかもしれません。セールストークの裏側にあるカラクリを見逃さないでください。
2021年11月26日草笛光子撮影/佐藤靖彦「今までにいろんな映画に100本以上出ましたが、こういう役は初めて」映画『老後の資金がありません!』(10月30日[土]全国公開)で草笛光子が演じているのは、姑・芳乃役。主婦・篤子(天海祐希)は慎ましい生活を送っていた中、舅が亡くなる。葬儀代は、姑の見栄により400万円!娘(新川優愛)は年収150万円のバンドマンとの結婚を決め、派手な披露宴を希望。さらには夫(松重豊)も自分もリストラの憂き目に。姑への仕送り(月額9万円)がきつすぎて同居を開始するも、姑は湯水のごとくお金をジャブジャブと……。「(演じた芳乃は)天真爛漫と言えば言葉はいいですけど、周りに迷惑をかけても平気な女性。不安に思い、“どうやってこの役を演じたらいいでしょうか?”と監督に伺ったら、“変に演じず、どうぞ草笛さんのままでやってください”と。何をやってもいいと言われることほど、困ることはないですよ。だから、この役がよかったら監督のおかげ。悪かったら……監督のせいね(笑)」■役への思いとセリフへのこだわり“老後資金は2000万円”といわれる昨今、お金を通じて家族のあり方と幸せの形をポジティブに問う本作。生活費に四苦八苦する篤子に、“人間、わがままに生きたほうが勝ちよ”と言い放つシーンには、たまらぬ爽快感と説得力が。「あのセリフ、人生が楽になりますね。人生、もちろん苦しいこともいっぱいあるけれど、大らかに楽しくできる人間でいたいですから。実は、最初は別のセリフだったけれど“書き換えてください”と頼みました。そうしたら、監督と脚本家でいい言葉を探してくださって。やっぱり私たち女優はお客様に言葉を伝える立場。いい言葉をいただくほどに、自分が感動する。そして、その感動をお客様に伝える。私にとってこれはとても大事なんです」そのひとつのセリフを言いたいがために、仕事を引き受けていると笑う。■クレジットカードで払うのは、つまらない「お金の使い方は芳乃さんほどじゃないけれど、多少は似ていますね」大女優のお金の使い方を聞いてみると……?「浪費家ではないけれど、仕事をした後は“お疲れさま!さぁ、ゴハンに行きましょう!”って言うタイプ。その後で“お財布にいくらあったかしら?”って思います(笑)」草笛を慕う女優は多いが、中でも中谷美紀(45)からは“お母さん”と呼ばれるほどの間柄。「美紀さんと一緒に一昨年、ウィーンにニューイヤーコンサートを見に行きましたが、私、あの街がとても気に入ったんです。美紀さんも住んでいらっしゃるし、年に1度は行きたいと思うけれど、飛行機代が高いんです。“困ったわ。お金を貯めなきゃ”と美紀さんに言ったら“お母さん、クレジットカードを使ってマイルを貯めればすぐよ”って教わりました」しかしながら、お支払いはもっぱらの現金主義。「カードで払うのって、なんだかつまらないのよね。小切手を書いて渡すのも嫌い。お札を数えながら渡すのが気持ちいいのよね(笑)」ゆえに、マイルは全然貯まらないのだそう。■朝、目覚めないような死に方をしたいなと思う10月22日に米寿を迎えたばかり。88歳で第一線で輝き続ける女優は、もちろん稀有だ。「米寿ってそんなに大変なことですか?そこまで生きてきちゃっただけ。だんだん自分の周りにいた人が亡くなっていくでしょう。昔は近所に、池内淳子ちゃんも住んでいたんだけど、早くに亡くなってしまって……。でもね、いいの。楽しく生きていれば、いつお迎えが来たっていいじゃない?明日の朝、目が覚めないような死に方をしたいなと思うわね。人に迷惑をかけないように」死生観にも、その快活な人柄と威厳が感じられる。草笛のように素敵に年を重ねたい──。そう憧れる女性は多い。「そうですか?“素敵に”じゃなくて“元気に”でしょう?元気がいちばん、楽するな!その心は、やっぱり身体を動かしていなきゃダメってこと。自宅は3階建てですが、毎日の階段の上り下りで自分の今の体力がわかる。上るときより、下りるときのほうが股関節のためになるのよ」その若さの秘訣も、ぜひ知りたい!「物事は面白く考えたほうがいいんじゃないかしら?私、バカばっかり言ってますから(笑)。だから、一昨年『ゆうもあ大賞』をいただいたのかも」大御所なのに威圧感はまったくなく、上品でユーモラス。表情豊かで、機知に富んだ人柄は、話すほどに親しみが湧く。「そうかしら?でも、本当は明るさも包容力もないのよ。夜になるとひとりで泣いてるし……な〜んてウソばっかり(笑)」■老いへの嫌悪感? しょっちゅう思っています誰もが時間の経過とともに感じる老い。ずっと美しい草笛でも、老いへの嫌悪感を感じたことはあるのだろうか?「それは、しょっちゅう思っています。朝、目が覚めたときから老いとの戦いですもの。私は朝起きると、仏様と自分とお手伝いさんのために美味しいお煎茶を淹れるの。そこに梅干しを入れて飲む。“朝茶は難を逃れる”という祖母の教えをずっと守っていて、身体も頭もスーッとします。たとえ出かけない日でも、家の中でケガをしたり、物を落として壊すことがないように、毎日飲んでいます。ただ、そのお煎茶を淹れるためには、準備が必要。朝、目が覚めると、まずこわばっている指を1本ずつほぐす。その後は耳を引っ張る……そんなオリジナルのエクササイズで身体を温めて、ベッドの中で動ける身体にしてから起き上がるの。ゆっくりと、用心深くね」お風呂では、のどの筋肉を鍛える独自エクササイズを。「誤嚥性肺炎にならないために。そして1日の終わりには、補聴器を入れているから耳もちゃんと揉みほぐす。誰に言われたわけでもないけれど、けっこう細かいことをやっていますね」日々の努力を欠かさぬ草笛に、目標や夢を尋ねてみると、「何もないです(笑)。ただ、できる限りのことはしたいと思っています。毎日、天国の両親に話しかけていますが、今は“まだもう少し私をそっちに誘わないで”って言っています。だって来年、舞台が決まっているから。詳細はまだ言えませんが、私にとって“生まれて初めて”ともいえる役で。この話はまた今度、じっくり」その陽のエネルギーに圧倒されるばかりだった。●草笛光子、毒蝮三太夫になる!?劇中で、篤子(天海祐希)の友人(柴田理恵)の家のトラブルを救うべく、芳乃(草笛光子)が、友人の父親(毒蝮三太夫)に扮する場面がある。「女性版・毒蝮(笑)。なかなか、あのお顔に似せるのは難しかったです。でもやっぱり女優ですから、扮することが嫌いじゃないの。その場面でハプニングがあって、前歯が取れてしまって。これが大きなスクリーンでアップになるのか……と思うと、ゾっとします。“これからお仕事なくなるな”って(笑)」<ヘアメイク/中田マリ子(ヘアーベル)スタイリング/市原みちよ>
2021年10月30日天海祐希“人生100年時代”“老後資金2千万円問題”なんて他人事だとうかうかしてはいられない時代になった日本。10月30日から公開される映画『老後の資金がありません!』は、現代社会が抱えるこうした問題に、ごくごく普通の主婦が体当たりで立ち向かう─涙あり笑いありのコメディー作品。主人公の主婦を演じているのが天海祐希だ。「“宝塚史上最高”とまで言われた元男役トップスターです。1995年に女優転身後も『離婚弁護士』『女王の教室』『緊急取調室』をはじめ、存在感のある演技で主演作をヒットさせているのはさすが」(スポーツ紙記者)21日に行われた完成披露イベントでは「少しでも、みなさんの役に立つ映画に」と、映画の出来栄えに自信を見せた天海だが、この映画、彼女自身にとっても“役に立つ”のかもしれない。来年には55歳“アラ還”になる天海だが、いまだに独身。おひとり様生活を貫いている。「天海さん、雑誌のインタビューやトーク番組で“結婚しない”と何度も公言しちゃってますからねぇ(苦笑)。なんでも“男性と友人として仲よくするのはいいけれど、そこから私の時間に入ってほしくない”んだそうで……」(前出・スポーツ紙記者)もちろん、これまで恋の話がなかったわけではない。Jリーガーや共演俳優との熱愛が報じられたこともあったが、「“もっともゴールインに近づいた男”といえば、吉川晃司さんですね。30代半ばだった天海さんと吉川さんは“結婚目前”とまでいわれていましたけど、結局別れてしまって。それ以来、浮いた噂もほとんどないんじゃないですかね?“ひとりの時間が本当に幸せ”って本人は言ってるそうですから」(当時を知る情報番組スタッフ)■「老後にずっと1人は寂しい」だが最近、そんな心境にも変化が表れているという。「“老後、ひとりでずっと暮らしていくのは寂しい気もするの”って、仲のいい人たちにポロッとこぼしているって。コロナで誰にも会えない時間が長かったせいなのかもしれません。去年は毎日のように実家のお母さんに電話をしていたっていいますから。人肌恋しくなってきたのかも」(テレビ局関係者)東京の下町風情が色濃く残る天海の地元を訪ねた。「天海さんはどんなに忙しくても、毎年かならず5月のお祭りと正月にはこっちに帰ってくるんだよ。実家にはまだ部屋が残してあるんだって。お父さんはもう10年以上前に亡くなったんだけどお母さんはお元気だよ。天海さんそっくりのスラッとした美人でね。“足腰は使わなきゃ!”って近所のコンビニに毎日、顔を出しているよ」(近所の住民)そんな母も“おひとり様”を続ける娘のこれから先を心配しているそうで、「この間も“あの子は色気がないからねぇ……”ってため息ついていましたけどね(苦笑)」(別の住民)かつて、あるインタビューで“将来のビジョン”を尋ねられた天海はこう答えていた。《将来の目標点をあげるならば『豊かな老後』。それは大きな家があって財産があってという外観的なことじゃなくって精神的な問題》いつでも帰れる地元があれば老後は大丈夫、か。
2021年10月29日老後に2000万円不足するという*、いわゆる「老後資金2000万円問題」が話題になって約2年。コロナ禍もあり、老後のお金について不安を抱えている人は少なくないのでは?天海祐希さんがお金の災難に見舞われる主婦をコミカルに演じた映画『老後の資金がありません!』(前田哲監督)が10月30日に公開されます。ある家族が直面する切実なお金の問題をユーモアを交えて描いたコメディで、経済ジャーナリストの荻原博子(おぎわら・ひろこ)さんが天海さん演じる主婦・篤子に老後資金の大切さを突きつける本人役として出演しています。老後は何となく不安だけど、具体的にどんな対策をとればいいのか分からない……。そんな老後資金に関する疑問を荻原さんにぶつけてみました。前後編。*総務省統計局による2017年「家計調査報告」に記載されていた「高齢夫婦無職世帯の家計収支」をもとに、毎月の実収入額と実消費額から生じた不足を、単に30年分計算した数字。映画『老後の資金がありません!』に本人役としても出演している経済ジャーナリストの荻原博子さん家庭の悩みの7割はお金のこと——天海さん演じる篤子は会社員の夫の給料と、自分のパート代で家計をやり繰りしています。節約を心がけ、自分にかけるお金といえば、ヨガ教室の月謝5000円程度。そんな篤子に、夫の失業、義父の葬儀代、浪費癖のある義母との同居、娘の派手婚費用など、次々と“お金の災難”が襲いかかります。お金のトラブルのオンパレードですが、デフォルメではなく、実際このような家庭は多いのでしょうか?荻原博子さん(以下、荻原):もっと大変なご家庭はいっぱいありますよ。今の家庭の悩みの、だいたい7割くらいはお金ですね。逆に言うと、お金の問題をしっかりクリアしておけば、いつまでも仲よく暮らせる家庭が多いのだと思います。老後を考えるのは50歳からでOK——荻原さんは映画の中で、夫婦2人では老後資金が2000万でも足りないと警鐘を鳴らします。それを聞いた篤子は慌てるわけですが、「不安だけど具体策は考えたことがない」という人は30代、40代の読者にも多いと思います。まず、何から家計を見直せばいいでしょうか?荻原:見直すというより、老後のことを考えるのは50歳になってからでいいと思います。老後のことって、すごく先の話じゃないですか。30代、40代で考えなければいけないのは、住宅ローンや教育資金のことです。35歳くらいでマンションを買って、35年ローンを組むとすると、返済する頃には皆さん70歳になりますよね。70歳になると年金生活になっています。年金で暮らしながら住宅ローンを払っていくなんてムリですよ。そこで破綻してしまう。だから、住宅を買った人は繰り上げ返済に専念すること。これは映画の中の展開とちょっと違うのですが、とにかくお金ができたら繰り上げ返済して、住宅ローンを減らす。そうして、50歳で返済してしまうのです。借りた金額により異なりますが、例えば100万円繰り上げ返済すると、平均的に140万円くらい総返済額が減るんです。今100万円を投資して、必ず140万円になる投資先はないですよ。だったら、100万円あれば繰り上げ返済するのが最良の策だと思います。——まずは住宅ローンを片づけるのですね。荻原:あとは教育費を貯めておくことです。今は子供1人に1千万円くらいかかります。若い親御さんは子供がかわいいあまり、小さい頃にお金を使ってしまい、高校、大学に行かせる資金を貯めていない人が多いんです。いざ進学させようと思った時には、奨学金を借りたり、その他いろいろ借金をしなければいけない。奨学金が原因で自己破産する親子もたくさんいます。もし、50歳の時点で子供が社会人になり、住宅ローンの返済が終わっていれば、それまで払っていたローン代と子供にかかっていた教育資金を貯金できます。ローンと教育費で年間100万円くらい払っていたなら、それをそのまま貯金に回せる。さらに子供が手を離れて共働きであれば、その収入も貯金できます。それで年間200万円から300万円貯金できるとして、60歳まで続けたら老後資金2000万円は楽勝です。65歳まで働ければ3000万円も夢ではない。お金にまつわる三つのハードル——篤子の家庭は長男が大学生で長女はフリーター。いくら切り詰めても支払いにばかり追われ、「なぜこんなにお金が出ていくの……?」と頭を抱えています。住宅ローンの問題はとてもイマドキの方法で解決されるのですが、まずは払うべきものを払ってしまうことが大事なのですね。荻原:人生にはお金にまつわる3つのハードルがあります。住宅ローン、教育ローン、老後資金。この3つは順番に越えていかなければいけません。そうすると、最初にするべきことははっきりしていて、まず住宅ローンを全力で返せばそれでいいんです。賃貸派はとにかく現金を貯める——私の場合、今も、おそらくこれからもずっと独身。住まいは賃貸マンションです。荻原:賃貸の人は現金でひたすら貯めておけばいいですよ。今はデフレで貨幣の価値が高いので、全力で貯めておけば、あとは何にでもなります。住宅を購入した人は全力でローンを減らすこと。まずはここから始めましょう。——独身の場合、資産としてマンションの購入を考える人も多いと思うのですが……。荻原:買わないほうがいいですよ。将来老人ホームに入る資金も必要ですから、ひたすら現金で貯めておきましょう。マンションを購入しても、賃貸でも、最終的にトータルは変わらないんです。マンションは30年、40年たつと資産としての価値がなくなりますから。建て替えもできないし、どこかに移り住むということもできない。最終的に賃貸のほうがローンより身軽かもしれません。ローンと賃貸、それぞれ月に10万円払うとします。マイホームの場合は、その他にも管理費や修繕積立金、固定資産税などがかかってきます。賃貸の場合、多少の管理費は必要かもしれないけれど、それらの必要がありません。しかもボーナス払い分も貯金できます。それに、せっかく買っても隣人トラブルなどで引っ越すという事態もあり得ますよね。そうすると、3000万円で買った物件も1500万円くらいで売ることになり、借金だけが残る。これから不動産価格はそんなに高くならないです。東京都内の空室率は1割くらいですが、対策を講じなければ2040年には約4割が空室という予想まであるくらい。空室が山のようにあれば、物件価格は上がりません。マイホームを買ってもいいけれど、資産にはならないので、無理して買う必要はないと思います。■映画情報『老後の資金がありません!』公開日:10月30日(土)全国公開(C)2021映画「老後の資金がありません!」製作委員会出演者:天海祐希/松重豊/新川優愛、瀬戸利樹/草笛光子(聞き手:新田理恵)
2021年10月26日評論家・樋口恵子さん(89歳)誰もが「ピンピンコロリ」を望むけれど、実際はそうもいかない。身体は徐々に弱っていき、最後は寝たきりになるのだ。老いを思い悩むのではなく、高齢期を明るく生き抜くにはどうしたらよいのか?「人に頼る」「料理をやめる」……評論家・樋口恵子さん(89歳)に12の心づもりを聞いた。■50代~70代は“老いの働き盛り期”「とうとう平均寿命よりも年をとってしまいました」とにっこり笑うのは、NPO法人『高齢社会をよくする女性の会』理事長も務め、評論家としても活躍中の樋口恵子さん。はつらつとした姿が印象的だが、御年89歳!「厚生労働省の集計によると、2021年発表の日本人の平均寿命は女性が87・74歳、男性が81・64歳でいずれも過去最高になりました。全人口に対する65歳以上の割合も、日本は28・7%と世界1位。2位のイタリアの23・3%とは大きく水をあけています。高齢化オリンピックがあるとしたら、日本は堂々の金メダルなんです」(樋口さん、以下同)。日本女性の平均寿命は8年連続で記録更新をし続けていて、今後も伸びる可能性は大。「老いた身体でそんなに長く生きるのか…」と思わずタメ息が出てしまいそうだ。けれども樋口さんは、「本当に老いを感じるのは80歳から。それまでは不調はあるものの、まだまだ元気です」と。多くの高齢者と接してきたことに加えて、ご自身を振り返っても、50代~70代は“老いの働き盛り期”だと言う。「もちろん人生の働き盛りは40代、50代です。けれども70代は元気な人がとても多い。私自身、70歳のときに東京都知事選挙に立候補したくらいですから。30年以上ある高齢期の中で50代~70代はまだまだ動ける世代なんですよ」それゆえ、50歳になって「あと40年近く生きるのか…」とタメ息をつくのではなく、「あと40年あるんだから、何かやってみよう」と前向きに捉えるのが高齢期を楽しく生きるコツに。パートなどの仕事を頑張るのもいいし、習い事やボランティアなど新しいことを始めるのもいい。「50代60代は後半の人生を設計して実践する最後の時間。何かを始めることに貪欲になって、高齢期をムダにしないで過ごしてほしいです」77歳のとき、胸腹部大動脈瘤を患い、大手術を経験した樋口さん。手術は無事に成功したものの、その3年後くらいから、身体のあちこちに違和感が生じるように。「朝の寝覚めも悪いし、起き上がるとあちこちきしむ。視力も聴力も低下して、何をするにもヨタヨタヘロヘロになってきたんです」自嘲ぎみに名づけたのが“ヨタヘロ期”。「誰もが“ピンピンコロリ”を望みますが、長生きをすれば、それはめったにありません。大抵、ピンピンスタスタからヨタヨタヘロヘロ、そしてドタリ。このヨタヨタヘロヘロの時期を、私は“ヨタへロ期”と呼んでいるんです」平均寿命と健康寿命の差は男性が約9年、女性が約12年もあり、女性のほうが男性よりヨタヘロ期が3年も長い。「老後を考えるうえで、このヨタヘロ期があることを忘れてはだめ。寝たきりになれば、ちり紙ひとつ落としても拾えなくなる。住まいは2階よりも1階にしておくなど、事前の準備をおすすめします」健康寿命が尽きてからのヨタヘロ期をどう生きるか。「倒れたら子どもがなんとかするだろう」なんて、丸投げはできれば避けたいもの。今から何をすべきか、どう心づもりをしておくべきか…『転ばぬ先の杖(知恵)』として樋口さんの体験を参考に、自分なりのよりよい人生100年時代を設計していきたい。■“樋口流”老いを生き抜くヒント実際に年を重ねての困りごと・トラブルからトホホにならない解決法を伝授。樋口さんならではの知恵とユーモアで“老いの不安”を乗り越えよう!【1】「孤食」にならないように「トモ食い」仲間を確保しよう65歳以上の高齢者のうち6人に1人は単身者と言われている現在、高齢者の「孤食」が問題になっている。「誰とも話さずに食事をするのはやっぱり寂しいし、うつうつとしてくるもの。そのうち食欲もなくなり、低栄養や食べる筋力の低下、うつ病などを引き起こしてしまいます」。コロナ禍のため今は容易にできないものの、樋口さんがおすすめするのは『トモ食い』。「お弁当を買って自宅で一緒に食べたり、外食できる友達をみつけておいて。定期的に会う友達がいれば、『やせたんじゃない?』なんてお互いに健康チェックもし合えますよ」■人生に“調理定年”があってもいい【2】外出先を楽しむためにトイレだけは必ずチェック!認知症や歩行困難の予防のためにも、「高齢者よ、町へ出よう」と日ごろから提唱している樋口さん。けれども外出時には安全・安心なトイレのチェックだけは必須と言う。「京都駅で、和式の公衆トイレに入ったのですが、用をすませたら、なんと立ち上がれなかったのです。そんなバカな……と思いましたが、壁には手すりもなく、もがいても立ち上がれずパニックに。ぬれた床にティッシュを敷いて手をつき、なんとか立ち上がりましたが、まさに死闘でした」。そんな経験から、外出先ではまずは洋式トイレの場所をまっさきに確認。その後、心置きなく楽しむという。【3】ひところび100万円?転ばないことを心がける2016年の厚生労働省の発表によると、65歳以上の女性が要介護となった原因は、1位が認知症、2位が衰弱、3位が骨折・転倒となっている。「私も転ばないように相当気をつけていましたが、筋力の衰えには逆らえず、この1年で3度ほど転びました」。幸い骨折はしなかったが、骨折すれば医療費もかかるし、家に手すりをつけるなどの工事も必要になる。「高齢者は“ひところび100万円”などという脅し文句もあるくらい。転ばないことは最重要課題のひとつなんです」【4】堂々と胸を張って“調理定年”を迎えて「80を過ぎてから、好きだった調理がおっくうになって」と樋口さん。お友達も「夫に先立たれてからは、好きだった料理も面倒になった」という声が上がったそう。「そこで、人生に“調理定年”があってもいいと、ある本に書いたんです。すると『すごく気持ちが楽になった』と予想以上に反響がありました」。まじめに食事を作ってきた人ほど惣菜を買ってくるのに罪悪感を覚えがちだが、ひとり分の食事は手を抜きがちになって、栄養バランスも偏ることが。市販品や宅配サービスの利用など、しんどくならない工夫をして。【5】予定を入れておっくうを撃退ヨタヘロ期ともなると何をするにもおっくうになりがちだが、「おっくう」に身を任せていると筋力や体力、精神力も衰えてしまいがち。「そうなると”老っ苦う“の負の連鎖に突入です」。おっくうとの戦いに負けないよう、樋口さんはできるだけ予定を入れて多忙老人になるのを心がけているそう。「習い事でもボランティア活動でも何でもいい。予定があれば、毎朝『エイッ、やあ!』と起き上がれることができるんですから」■家の中で没頭できる趣味を持とう【6】「あなたの世話にならない」は絶対に口にしてはいけない「親が気軽に『子どもの世話にはならないわ』なんて言うのは避けて。だって、誰かの世話にならずには死ねないんですから」。介護のすべてを子どもに担わせようと思っているわけではない。介護保険や他人の力を借りるのが今の介護の前提。「でも命を与えて育てた親の最期の後始末くらいして当たり前でしょう。息子のお嫁さんにも『○○子さん、あなたが頼りなのよ。おっほっほ』とにこやかに言っておきましょう」【7】警察沙汰になりたくなければかかりつけ医の登録を日本では誰かが亡くなると「死亡診断書」が必要となる。「病院で亡くなったなら、医師が死亡診断書を作成しますが、自宅で亡くなった場合は書いてくれるのはかかりつけ医。自宅でひとり急死した友人は、警察に届け、検案のため解剖されました」。お葬式もすぐにあげられず、遺族はとても悲しんだそう。「ひとり暮らしの高齢者は“かかりつけ医”を登録しておくといいです。かかりつけ医が、持病や老衰による自然死だと判断すれば、死亡診断書を書いてくれるからです」【8】どこでも楽しめるインドアの趣味を持とう足腰が弱ると、お友達と連れ立って気軽にお出かけ、ということもままならなくなってくる。そこで、ある程度年がいったら家の中で没頭できる趣味を持ったほうがいい。「私もいまだに模索中です。“昔取った杵柄”で麻雀でもやろうかと思うけれど、人数がそろわないとできないし。なんて思っていたら“麻雀教室を開いて”という人が。コロナが収束したら、始めてみようかしら、と。手と足を両方使うピアノなんかも老化防止になって、魅力的ね」■高齢期にはお金より、人の貯金が大切【9】ガタがきたら冷蔵庫を人に見せなさい「理学療法士の方が、『介護をされるのをいやがる方も多いんですよ』とおっしゃっていました。プライドや体裁を気にし、人の世話になりたくない、他人には家に入ってほしくないという方もまだ多いようですね」。とはいえヨタヘロ期を快適に安全に過ごそうと思ったら自分のプライバシーを開いていくしかない。「女性のなかには年をとっても、台所は自分のテリトリーという感覚の方も多いのでは。でも、お世話になるとなったら、他人に冷蔵庫を明けてガサガサされても、家事のやり方が自分と違ってもムカッとしない度量の広さが大切。食事や排泄が自分でできなくなったとき、『やってください、ありがとう』と率直に言える“ケアされ上手”になりたいものです」【10】おひとりさまの老後に人間保険のすすめ「妻を亡くし、おひとりさまとなった男性が3つの保険に入ったと教えてくれました」。保険とは金融商品ではなく、人間関係の保険。1つ目はマンションの自治会の役員を引き受けたこと、2つ目は市民講座運営委員の委員になったこと、3つ目はカラオケサークルに入ったこと。「“保険先”にはひとり暮らしであることを公表したそう。倒れたり亡くなっていたとしても誰かが見つけてくれるはずだからです。高齢期にはお金より、人の貯金が大切なのです」【11】グリーフケアができる家族や友人を持って家族や友人、ペットに先立たれたとき、ひとりの時間が多い高齢者ほど、深い悲しみから立ち直れず、日常生活が送れなくなってしまう人が少なくないのだそう。「私の友人は、悲しみを癒すためのグリーフケアとして、お友達同士でLINEのグループを作りました。それぞれ言葉をかけあうことで、生きる力に結びつくと思います」。電話でやりとりするのもいい。何かあったら、お互いに話ができるような、家族や友達の存在を大事にしたい。【12】終活である断捨離はいっそあきらめる一般に子どもというのは老いた親に「片づけろ」と言いたがる。「高齢者にとっては昔のものを手放すことはつらいし、思い出がつまった物は見ているだけでも幸せな気分になれるもの。物を選別する気力も体力も乏しく、意外と重労働なのです」樋口さんは、ガラクタも残すが、遺産も残すと宣言。「処理費用は残すから、私が死んだあとに捨ててちょうだいと子どもに伝えています」。心苦しく思うより、毅然として片づけを拒否してもよいのだ。お話を伺ったのは……樋口恵子(ひぐち・けいこ)さん1932年生まれ。評論家。NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」理事長。東京家政大学女性未来研究所名誉所長。『老いの福袋』(中央公論新社)など著書多数。《取材・文/樫野早苗》
2021年10月17日「老後資金は2,000万円必要」との趣旨の報告書が金融庁から提出されるなど、お金の不安が増すばかりの人生100年時代。楽しい老後を過ごすために必要なお金はいくらなのか。そこで、プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さんが提案するのが自分の老後のお金回りを知るための4つのステップだ。【ステップ1】「老後に受け取れるお金」を計算する「老後の収入の柱は公的年金です。まずは自分たち夫婦が65歳以降、どれくらいの年金を受け取れるかを把握しましょう」(三原さん・以下同)これに退職金や個人年金保険などの私的年金を加えた金額が、老後を支える収入になる。【ステップ2】「老後の生活費」を見積もる「老後のお金の“入り”がわかったら、つぎは“出”のほうです。これは大きく、毎月の生活費とそれ以外に分けられます」老後の生活費の目安は現在、毎月どのくらいの出費をしているかを計算して判断する。「家族構成、マイホームの有無、子どもへの教育費のかけ方などによって生活費のかかり方はさまざまですが、老後は子どもの独立などから、現役世代のいまの生活費の7〜8割が目安になります」【ステップ3】「老後の特別費」を見積もる「老後、必要になるお金は生活費だけではありません。忘れてはならないのが、医療費や介護費用。また家の修繕費など、思いがけない出費を合計すると、数百万円単位のお金が必要。その予想額も見積もってみてください」【ステップ4】「あなたの老後資金」を計算する「最後に【ステップ1】の金額から【ステップ2】【ステップ3】のお金を引いてみると、あなたの老後資金の過不足金額がわかります」■あなたがすべき“老後資金対策”、教えます「正直なところ、多くの人が90歳になったときの老後資金の金額は残念ながらマイナスになったと思います。でも心配することはありません。どのくらい足りないかがわかれば、あとは対策を立てて、お金の“入り”を増やしたり“出”を減らしていけばいいんです」三原さんが老後資金の過不足金額に合わせ、あなたがすべき“老後資金対策”を教えてくれた。【ケース1】老後資金が「プラス」になった場合「すでに老後資金を十分に用意。素晴らしいです。この調子でさらにプラス額を増やしていきましょう。資産運用をする場合、必要以上のリスクをとってまで増やさなくてもOK。当面使う予定がなくて、絶対に減らしたくないお金は「個人向け国債 変動10年」で安全に運用しましょう。またリスクのある運用に回して増やしたいときは、毎月減っても大丈夫な額に平均余命年数を月数に直した数を掛けた金額までを運用に回すことをおすすめします」【ケース2】「0〜マイナス100万円」の場合「家計の見直しに取り組み、収支のプラスを大きくするように改善していきましょう。具体的には、生活費の中で毎月あるいは毎年決まって出ていくお金(固定費)の見直し。継続して支出を減らせるので効率的で、精神的にも楽です。まずは通信費。夫婦で毎月1万5,000円ほどのスマホ代を月5,000円に減額できれば、年間12万円、10年で120万円の削減に。また、つみたてNISAを活用し、いまある資産を長持ちさせる運用の検討もしてみてください」【ケース3】「マイナス100万〜1,000万円」の場合「家計、とくに固定費の見直しに取り組み、収支のプラスを大きくするように改善していくことが必要。生命保険は、子どもの独立後に大きな死亡保障は必要ありません。更新型の生命保険で毎月4万円以上の保険料を払っている人は10年間で500万円程度削減することも可能。固定費の削減だけで足りないときは、特別費の内容を削減することや、夫のリタイア年齢を延ばしたり、妻のパート収入を増やしてカバーしていくことを考えましょう」【ケース4】「マイナス1,000万〜2,000万円」の場合「家計の見直しにプラスして勤労収入を得ることを考えましょう。夫が会社員であれば、継続雇用の65歳まで勤め上げ、それ以降も働き方のペースを落としながらなるべく長く働いて収入を得ましょう。夫だけでなく妻もパート収入を得て協力態勢で臨めば1,000万円以上の不足額も埋められます。なお戸建てに住んでいる人は家の修繕費が100万円単位でかかることもあるので、現在の家が終のすみかになりえるかを含めての検討が必要です」【ケース5】「マイナス2,000万円以上」の場合「夫婦でなるべく長く働いて勤労収入を得るのがいちばんの得策です。また働いて収入を得ている間は公的年金を受け取らずに繰り下げしましょう。たとえば70歳まで5年間繰り下げをすると65歳時の受給額の1.42倍に増額。国民年金の満額受給が約78万円ですから約110万円に増えます。90歳まで生きれば総受給額は約265万円多くなります。夫婦の年金を繰り下げ、70歳まで働くことで2,000万円以上のマイナスをプラスにすることも可能に」老後資金の過不足金額に合わせた“老後資金対策”を参考に、豊かな老後のための万全の準備をしておこう!
2021年10月01日「いまから2年前“老後資金には2,000万円の貯蓄が必要”と金融庁が出した数字がメディアで大きく報じられました。それをきっかけに、自分の老後資金は本当はいくら必要なのかと、不安を抱いた人が多いのではないでしょうか」そう話すのは、プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さん。「もともと金融庁が出した『老後資金が2,000万円不足する』という試算のモデルは、高齢夫婦無職世帯(夫65歳以上、妻60歳以上)が、毎月の赤字額平均約5万5,000円で30年生きた場合の赤字総額。参考にはなりますが、果たして、自分に当てはまるかは別問題です」では、実際、自分の場合の老後のお金回りはどうなっているのか?そのガイドブックとして、三原さんが著したのが『書けば貯まる!今から始める自分にピッタリな老後のお金の作り方』(翔泳社刊)だ。「私のところに相談にくる方も、いちばん肝心な自分たち夫婦が将来もらう年金額や夫の退職金の額を知らないケースも。まず自分たち夫婦の家計の一生の出入りを計算して、対処法を考えることが大切だと思います」そこで、三原さんが提案するのが自分の老後のお金回りを知るための4つのステップだ。【ステップ1】「老後に受け取れるお金」を計算する「老後の収入の柱は公的年金です。まずは自分たち夫婦が65歳以降、どれくらいの年金を受け取れるかを把握しましょう」これに退職金や個人年金保険などの私的年金を加えた金額が、老後を支える収入になる。「毎年、誕生月前後に郵送されるねんきん定期便のハガキを見れば、将来受け取る年金額の見通しを知ることができます。ただしハガキの内容は、今年50歳以上になる人と50歳未満の人で異なります」まず50歳未満の人の場合は少し面倒。ハガキには、加入実績に応じた現時点の金額が記されている(1)。65歳での受取額は、現在から退職までの見込み受取額を自分で計算して、これに足す必要がある。一般企業の会社員の場合、「老齢基礎年金」(個人事業主はこちらのみ)と「老齢厚生年金」の両方が受け取れるので、まず老齢基礎年金については、今から60歳までの年数×2万円として計算(2)。老齢厚生年金については、今後の平均年収を想定し、その金額×0.55%×現在から退職までの年数が今後の見込み受取額になる(3)。この(1)と(2)と(3)を合わせた(A)が65歳以降に受け取れる年間見込み年金額だ。50歳以上の人は、ねんきん定期便の年間見込額の右下に記されている金額がそのまま65歳以降で受け取れる年間見込み額(B)になる。【ステップ2】「老後の生活費」を見積もる「老後のお金の“入り”がわかったら、つぎは“出”のほうです。これは大きく、毎月の生活費とそれ以外に分けられます」老後の生活費の目安は現在、毎月どのくらいの出費をしているかを計算して判断する。「老後の生活費といっても、なかなかイメージしづらいでしょう。そこで、ひとつの目安として示したのが、『高齢者無職世帯の平均生活費』です(総務省家計調査年報の’19年家計の概要をもとに三原さんが作成)」■高齢者無職世帯の平均生活費〈夫婦〉夫65歳以上、妻60歳以上食費:6万6,000円住居費:1万4,000円光熱・水道費:2万円家具・家事用品:1万円被服・履き物:6,000円保険医療費:1万6,000円交通・通信費:2万8,000円教養娯楽費:2万5,000円交際費:2万6,000円その他支出:2万9,000円合計(月額):24万円合計(年額):288万円〈単身〉60歳以上食費:3万6,000円住居費:1万3,000円光熱・水道費:1万3,000円家具・家事用品:6,000円被服・履き物:4,000円保険医療費:8,000円交通・通信費:1万3,000円教養娯楽費:1万7,000円交際費:1万5,000円その他支出:1万5,000円合計(月額):14万円合計(年額):168万円夫婦の場合、総額月24万円程度の支出となっている。「ただこれはあくまで総務省の統計の平均値。たとえば住居費が夫婦で1万4,000円となっていますが、賃貸に住んでいる人はまったく足りません」では自分にとって老後の生活費にはいくら必要なのか?高齢者無職世帯の平均生活費の項目を参考に、「あなたの『老後の生活費』の見積もり」で知ろう。「まず、おおまかでかまいませんから、現在使っている月の生活費を項目別に表に書き込んでください」老後の生活費は現役世代のおおよそ7〜8割と言われているので、「食費は7割でやれそう」「交際費は8割くらいかかりそう」など、自分で判断し、現在の生活費にそれぞれ0.7〜0.8を掛けて算出。「家族構成、マイホームの有無、子どもへの教育費のかけ方などによって生活費のかかり方はさまざまですが、老後は子どもの独立などから、現役世代のいまの生活費の7〜8割が目安になります」項目の数字をすべて足して月額を出したら、それに12をかけて年額を算出したものが、老後の生活費の年額(C)になる。【ステップ3】「老後の特別費」を見積もる「老後、必要になるお金は生活費だけではありません。忘れてはならないのが、医療費や介護費用。また家の修繕費など、思いがけない出費を合計すると、数百万円単位のお金が必要。その予想額(D)も見積もってみてください」【ステップ4】「あなたの老後資金」を計算する「最後になりましたが、老後の収入として、退職金の金額も確認しましょう。これは勤務先の人事・総務部など担当部署や労働組合に問い合わせたり、就業規則や福利厚生制度の冊子などで調べることができると思います」退職金の金額(E)、また生命保険の個人年金保険や終身保険の受取金の金額も確認し、「iDeCo」などの積立金も合わせる(F)。これで、あなたの老後のお金の出入りの見積もりは完了。あとは、次の「あなたの老後に必要な金額は?」の計算式に、これまで算出した(A)〜(F)までの数字を書き入れ、計算するだけだ。〈「あなたの老後に必要な金額は?」の計算式 〉公的年金の受け取り見込み額(A)もしくは(B)−老後の年間想定生活費(C)×65歳以降、何年生きるかの想定年数=老後期間の生活費過不足額老後期間の生活費過不足額−特別費合計(D)+退職金(E)、私的年金など(F)の合計額=90歳になったときの老後資金4つのステップを参考に、老後に入ってくるお金と出ていくお金の目安を書き出し、自分の老後資金の現実を把握しよう。
2021年10月01日「老後資金は2,000万円必要」との趣旨の報告書が金融庁から提出されるなど、お金の不安が増すばかりの人生100年時代。楽しい老後を過ごすために必要なお金はいくらなのかーー。「老後に必要なお金は生活費だけではありません。毎月の生活費以外に、数年ごとや不定期に出ていくお金があります。これを老後の特別費と、私は呼んでいます」そう話すのは、プレ定年専門ファイナンシャルプランナーの三原由紀さん。三原さんが特別費としてあげるのは次の9項目だ。ひとつずつ、くわしく解説してもらおう。【1】医療費「厚労省が公表している年齢別の国民一人当たりの医療費をもとに試算すると、70歳以上が窓口で支払う金額の合計は概算で140万〜400万円になります。おおよそ夫婦で500万円程度と見積もってはいかがでしょうか」(三原さん・以下同)【2】介護費「生命保険文化センターの調査によると、介護を受ける期間は平均約4年7カ月。介護費の合計は494万円。介護代は夫婦で1,000万円用意したいところです」【3】居住費「老後30年以上暮らすことを考えると、戸建て、マンションいずれもリフォームの必要が出てきます。その平均額は戸建てで約620万円、マンションで約540万円と試算されます」【4】車買い換え費「車の買い換えも大きな出費になる可能性があります。中古車を選択したり、軽自動車にしたりすることなども考え、その費用を書いてみてください」【5】家電買い換え費「エアコン、冷蔵庫、洗濯機、テレビなど、5万円を超える家電の買い換えは特別費。買い換えの目安はエアコン13.6年、冷蔵庫12.2年、洗濯機10.8年、テレビ9.5年とされます」【6】趣味費「趣味は内容によって費用もさまざまですが、趣味仲間との食事や旅行なども含め、これくらいに抑えるという上限額を決め、それを書き出しましょう」【7】ペット費「いまやペットも大切な家族の一員ですが、ペットにかける年間の支出は、犬で約34万円、猫で約16万円(アニコム損保調査)。とくにペットが高齢になると医療費も多くなることを念頭に算出してください」【8】終活費「これは葬儀やお墓のお金です。葬儀代の全国平均金額は経産省の調べでは’20年度は約117万円。お墓については、継承するお墓の有無などを含め、いまから費用を確認しておきましょう」【9】子ども援助費「親や祖父母などの親族の約8割が子どもの結婚費用を援助。その金額は平均200万円(ゼクシィ首都圏調査)。ほかにも孫の教育費の援助など、想定される出費の合計を算出しましょう」“老後資金対策”を考える際には、見落としがちな特別費を忘れずに。
2021年10月01日子あり夫婦に比べ経済的負担も少なく、趣味を優先させたり2人の生活を満喫しやすい子なし夫婦。心配なのは、老後のことです。今回は、子なし夫婦の抱える老後に心配な5つのことと、そのために準備しておけることをご紹介します。こちらの記事も参考に子なし夫婦が抱える老後の心配5つパートナーに先立たれた老後の寂しさ子どもがいない夫婦にとって、身近な家族はパートナーひとりです。パートナーが先に亡くなってしまった場合、兄弟姉妹がいる方もいるとは思いますが、その方々に家族がいる場合もあります。そうなると、残されたパートナーは突然孤独な生活になります。老老介護パートナーと長年連れ添うと、どちらか、あるいはお互いに介護が必要な状態になってしまうこともあります。老後の生活資金もし老後に働けなくなってしまった場合、収入がなくなります。また、一度仕事をやめてしまうと高齢になればなるほど新しく雇われることが難しくなってしまうという問題もあります。遺産相続の問題老後にどちらかが亡くなってしまった場合、パートナーの親や兄弟姉妹などと遺産相続の問題が生じる場合があります。楽しみが減る歳を取ると、子あり夫婦には子どもの結婚によって新しい家族が増え、孫が生まれるとさらに喜びや楽しみが広がりやすいですが、子なし夫婦の場合は家族という人間関係が広がっていきません。子なし夫婦が老後のために準備しておきたいことパートナーがいなくなったあとの生活を考えておくとても悲しいことですが、パートナーが亡くなってしまうと、子なし夫婦の場合、残された方はひとりになってしまいます。人の死はいつ訪れるかわかりません。老後に活動範囲が狭くなっていたり日常的に付き合う人が少なくなっていると、パートナーが先立ってしまったショックを強く感じてしまう場合もあります。必ず訪れるいつかのことまで考え、お互いに趣味を増やしておいたり、お稽古やグループに参加したり、自分に合うことや、仲間、居場所を作っておくことはその後の人生を支えます。まだ若い夫婦の場合は老後のイメージが湧きづらいと思いますが、自分の傾向や住んでいる地域にどんなサークル、高齢者向けイベントがあるかなどを確認しながら老後の生活プランを立てていきましょう。老老介護に備える長生きできるほど起こりやすい老後の問題が介護です。子どもに必ず頼れるというわけではありませんが、少し助けてもらえることもあります。ですが、子なし夫婦の場合は老後の面倒を誰かに見てもらうことが難しいことがあります。老老介護に備え、介護ヘルパーを利用する場合はどれくらいの介護を頼むことができるのか、また費用としてどれくらい必要かを調べておくといいでしょう。それよりも、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅などがいいかなど、夫婦の希望も含めて話し合い、比較検討しておきましょう。老後に必要な生活資金を貯金する生命保険文化センターが実施した意識調査によると、夫婦2人で老後生活を送るために必要と考える最低日常生活費は月額で平均22.1万円です。また、旅行やレジャー、趣味や教養、日常生活費の充実など、ゆとりのある老後生活に必要だと考えられるのは最低日常生活費に14万円上乗せした月額平均36.1万円が必要となります。何歳から老後生活となるのかを考え、貯められるうちに生活資金を貯金していきましょう。遺産相続のため遺言書を作成しておく子どもがいない夫婦の夫か妻、どちらかが亡くなった場合、相続人は配偶者のほかに両親や兄弟姉妹になります。兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、その子どもである甥や姪が相続人となる場合もあります。残されたパートナーが遺産相続のトラブルに巻き込まれないようにするために、遺言書を作成しておきましょう。例えば、夫が亡くなった場合の相続人が妻と夫の兄弟姉妹である場合、「妻にすべての財産を遺す」という遺言書を作成しておけば、妻はすべての財産を相続できます。ただし、相続人が配偶者と父母の場合は、相続財産の一定割合を受け取ることを保障する遺留分に配慮する必要があるため「配偶者にすべての財産を遺す」と遺言書を作成しても、遺産の6分の1の金額を請求できます。そのほかにも、配偶者に生前贈与をする、生命保険の受取人を配偶者にするなど、遺産相続でトラブルが起きないよう準備しておきましょう。持ち家でなく賃貸の場合は、家はどうするかということも話し合っておきましょう。楽しみ、好きなものを増やしておく老後に仕事を辞めると、急に時間が増え暇を持て余してしまうことがあります。お金がかかる旅行などは頻繁に行けるものではありません。小さな楽しみや夢中になれるもの、毎日心地よさを感じられるものを見つけていきましょう。好きなものに囲まれて暮らすのも、楽しみのひとつです。お気に入りの食器を少しずつ買い足していって、老後に夫婦で好きなものばかりの空間で暮らすのもいいですね。老後に備え、子どもがいない夫婦生活を楽しもう子どもがいない夫婦の場合、いざというときに頼れる大人が減ってしまうことがあります。ぜひ若いうちから老後に備え、末永く幸せな夫婦生活を楽しみましょう。
2021年09月07日天海祐希主演の痛快&最高のお金のコメディ・エンターテインメント映画『老後の資金がありません!』より、ユーモアがたっぷり詰まった予告映像が公開された。本作は、34万部突破のベストセラー小説「老後の資金がありません」が原作。天海さんがどこにでもいる普通の主婦を演じ、現代日本が抱えるお金の問題に立ち向かっていくストーリー。到着した映像では、貯金ほぼナシ、パート先をリストラになり収入0円、夫の失業で収入0円、娘の結婚資金でー300万円、親の葬式でー330万円…と、次々お金の問題が出現。さらに、浪費家の姑が追い打ちをかけ、絶体絶命の大ピンチ!またラストには、天海さん演じる篤子と草笛光子演じる姑・芳乃の2人によるまさかのジョークも飛び出す。そんな天海さんの明るくコミカルな演技も相まって、現代日本が抱える問題を吹き飛ばすかのような仕上がりとなっている。『老後の資金がありません!』は10月30日(土)より全国にて公開。(cinemacafe.net)■関連作品:老後の資金がありません! 2021年10月30日より全国にて公開©2020映画『老後の資金がありません!』製作委員会
2021年08月30日※写真はイメージです「定年前後の世代は、住宅ローンや教育費の支払いが終わるころ。株の投資を始める際、大きな儲けを求めなくてよいので、自分の好みで投資先を選びやすく、株主優待をより楽しめる世代だと思います」■支出を抑えたい年金暮らしの潤いにそう話すのは、ベテラン優待主婦のまる子さん。特に定年後は“生活に潤いを与えるもの”を株主優待に選ぶと楽しみが広がるとおすすめする。「新商品の調味料の優待で新しい料理に挑戦したり、外食の割引券で友人や家族とちょっとリッチな食事を楽しんだり。優待が楽しい時間を演出し、年金生活の刺激になると思います」(まる子さん)さらに、日ごろから利用している店の割引券や日用品の優待なら、年金家計の支えになってくれる。■なるべく損は回避! 賢い銘柄選びとはいえ、株主優待はあくまで投資。なるべく損をせず優待を楽しみたい。ファイナンシャルプランナーの大山弘子さんは、“下落リスクが少ない株”を選ぶことが大切だと指摘する。最低限チェックすべきは3つ。「PER(株価収益率)」、「売上高と営業利益、純利益」、「配当金」。Yahoo! ファイナンスなど無料で確認できるサイトがあるので、株を買う前に見ておきたい。「PERは、企業の利益に対して株価が割高か割安かを表す指標。数値が高すぎると業績に対して株価が“割高”だと判断されるため、優待目当てでない投資家に売られて、株価が下落する可能性があります。株主優待がある株(優待銘柄)は、株価が下がりにくい傾向があるといわれていますが、安定した老後を過ごすためにも、現役世代よりシビアに選ぶ必要があります」(大山さん)営業利益と純利益は、黒字のものを選ぶことが鉄則。さらに、売上高、営業利益、純利益がいずれも右肩上がりのものが望ましい。コロナ収束後の株価上昇を狙って赤字企業に手を出すのは控え、堅調な企業を選ぶのが無難だ。また、配当金の有無も業績のよしあしの目安になるので、“配当利回り3%”を基準に選びたい。■株価で右往左往しない株の見直し基準「投資額は、最大でも1か月の家計の余剰金額×12か月程度に。退職金での投資は、気持ちが大きくなり、投資先の選出も雑になりがちなのでやめておきましょう」(大山さん)投資の練習という意味でも、定年前から少しずつ株の購入を始めておくほうがよいが、優待目当てなら、購入後の株価の上下にそれほど一喜一憂しないこと。「配当金がグッと下がったときは、そうとう業績が悪くなっている証なので、見直しを検討してもよいですが、それ以外はゆったりと構えて優待を楽しみましょう。株主優待は、株を買うためにいろいろ調べるだけでなく、優待をどう使うか考えることも必要なので、頭の運動にもなると思います。定年後は儲けより、楽しみの1つとして捉えると精神的にもラクですよ」(まる子さん)■株主優待を受け取るまでの流れ【1】証券会社に口座を作る〜ネット証券会社を利用して手数料を節約〜大手証券会社で数千円の取引手数料がネット証券会社なら数百円。「サイトで優待銘柄の情報を提供するネット証券会社も多いので、便利です」(まる子さん)【2】優待銘柄を選ぶ〜優待廃止リスクが低いのは自社製品や割引券〜「自社関連の優待は廃止になる可能性が低い。コロナ禍の外食産業などは優待を使って来客増を見込んでいるので、優待をやめる企業は少ないはず」(まる子さん)【3】優待銘柄を買う〜株主優待が受けられる“権利確定日”を確認〜優待を得るには企業ごとに定められた権利確定日に株の保有が必須。「その日に向かって株価が上昇する傾向があるので、早めに購入の準備を」(大山さん)【4】優待品が届く〜忘れたころに到着することも。気長に待って〜権利確定日後、多くの会社は2~3か月後に優待品を発送。半年ほどかかる場合も。「株主優待は雑所得になります。念のため、税金の専門家にご確認を」(大山さん)■20万円台以下の注目銘柄10選※株価は8月16日現在、価格は100株単位、優待内容は基本的に1単元(100株)のもの※(1)は証券コード、(2)は優待対象最低投資額、(3)は権利確定日です長期保有で優待もランクアップ『オリックス』(1)8591 (2)20万525円 (3)3月末日◯カタログギフト「ふるさと優待」全国の厳選商品から好きな商品を1点。3月、9月末には自社サービスの割引カードも発行。「カタログの内容が充実。全国のグルメのほか、水族館の年間パスなどレジャーも」(まる子さん)。「贅沢気分を味わえる優待に加え、配当利回りが4%程度あるのが魅力」(大山さん)アパレルメーカーで洋服ゲット『クロスプラス』(1)3320 (2)9万8600円 (3)1月末日◯自社グループ商品または株主優待券婦人アパレルメーカー。3000円相当の自社グループ商品かオンラインストアで使える3000円分のクーポン券「洋服代の節約に。商品や優待券とは別に30万円相当の旅行券が当たる抽選も行っているので楽しいです」(大山さん)ティッシュなどの生活必需品が便利『日本製紙』(1)3863 (2) 12万8500円 (3) 3月末日◯自社製品詰め合わせティッシュペーパーやトイレットペーパーなど、自社グループの家庭用品を1セット。「あって困らない生活必需品は、誰もがもらってうれしい優待だと思います。配当利回りも3%超え」(大山さん)化粧品・食品など自社商品をお得に『スクロール』(1)8005 (2)8万7800円 (3)3月末日、9月末日◯株主優待券カタログ&ネット通販の会社。年2回500円分の優待券を発行。1年以上の長期保有で追加提供もあり(9月のみ)。「優待の有効期限が1年なので、年2回分をまとめて使える。グルメやコスメなど商品も豊富!」(まる子さん)ヤマダ電機でお得に買い物『ヤマダホールディングス』(1)9831 (2)4万9500円 (3)3月末日、9月末日◯株主優待券500円分の優待券を3月末に1枚、9月末に2枚発行。買い物1000円ごとに1枚利用可。「今年2月に優待内容が変更されましたが、日用品などもそろうので近所にあるなら保有の価値あり」(大山さん)丸亀製麺など外食を楽しめる『トリドールホールディングス』(1)3397 (2)21万2900円 (3)3月末日、9月末日◯株主優待券自社店舗で使える100円割引券を30枚。200株以上を1年以上の長期保有で追加提供あり。「運営する丸亀製麺などは全国展開。誰でも使いやすいし、100円割引券なので少額の食事にも便利」(まる子さん)充実のご当地グルメを満喫『ひろぎんホールディングス』(1)7337 (2)6万700円 (3)3月末日◯カタログギフト+美術館招待券広島銀行を中核とする金融機関。地元グルメが詰まったカタログから選択(2500円相当)。「ひろしま美術館」の招待券も。「昨年、優待を新設。投資額もあまり高くなく、現状では高配当なので、おすすめの1つです」(まる子さん)長期保有で優待額がアップ!『ビックカメラ』(1)3048 (2)10万8500円 (3)2月末日、8月末日◯株主優待券2月に2000円分、8月に1000円分を発行。1年以上の保有で優待券追加(8月のみ)。「家電だけでなく、日用品や食品、おもちゃなども扱っているので、家族で使いやすい優待券です」(まる子さん)飲料水や食事券などから選択『TOKAIホールディングス』(1)3167 (2)9万円 (3)3月末日、9月末日◯飲料水やQUOカードなどエネルギーや電気通信事業を展開する会社。飲料水やQUOカード、レストランでの食事券など5種類のコースから1つを選択できる。「投資のしやすさに加え、5種類の優待から選べるのも楽しいです」(大山さん)、「おすすめはペットボトルの水。重たい水を届けてくれるのがありがたいです。配当利回りも3%超えです」(まる子さん)デパート商品でリッチな気分を♪『三越伊勢丹ホールディングス』(1)3099 (2)7万3600円 (3)3月末日◯株主優待カード店舗およびオンラインストアで10%割引となる優待カードを発行(利用限度は30万円)。※新規株主は9月末日にも権利確定日が設定「食品やセール品も割引対象。オンラインストアでも割引になるので、近くに店舗がなくても大丈夫」(まる子さん)教えてくれたのは……●大山弘子さん●ファイナンシャルプランナー。AllAbout「新興国投資・ETF」ガイド。ビジネス誌、マネー誌などで、貯蓄のために役立つ情報や海外投資でお金を増やす方法など幅広く執筆する。●まる子さん●株主優待歴は約15年。250銘柄ほどを保有するベテラン優待主婦。ブログ「株主総会お土産日記」や楽天証券のネットメディア「トウシル」で株主優待の情報を発信している。(取材・文/河端直子)
2021年08月29日老後は悠々自適のはずが、人生の最後にこんな大誤算が待っているなんて!そんなふうに嘆かないで済むように、老後破綻の落とし穴を知っておこうーー。「老後資金『2,000万円足りない』問題が金融庁の報告書で指摘されたのが2年前(’19年6月)のこと。多くの人が不安に陥れられましたが、やりくり上手の人のなかには『どうにかなりそう』と安心していた人もいるのでは?しかし、油断をすると、瞬く間に貯蓄は底をつくんです」こう警告するのは、マネー管理術に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。老後には“落とし穴”がたくさん。実例を見ていくとともに、専門家に対処法を聞いていこう。【落とし穴1・がん治療】薬にお金を費やしたが「3年前に夫の悪性リンパ腫が発覚しました。標準治療である抗がん剤治療と放射線治療を行いましたが、なかなか効果は見えず……。いくつかの病院をまわったところ、ある医師に日本では承認されていない新薬をすすめられました」(60代主婦)夫は70代前半で、夫婦には十分な貯金はあった。保険適用外の治療はすべてが実費となる。「夫に治ってほしい一心で、すぐに標準治療から切り替えて、新薬を試すことに。出費は1,500万円近くにのぼりました。しかし、特に効果がなく、すぐ亡くなってしまって……。財産も半減してしまいました」夫を思う妻の気持ちを考えると、一概に無駄と切り捨てられないこの出費。病気とお金の関係をどう考えるべきだろうか。「貯蓄がある人のなかには『お金をかければいい医療を受けられる』と信じている人が多い印象があります。でも、日本は国民皆保険制度が整備された国。効果のある医療はかなりの確率で保険適用になっているんです」(加谷さん)この場合、医師の提案に飛びつかず、標準治療を続けるのもひとつの選択肢だった。〈対処法〉高額医療=いい医療ではないことを肝に銘じよう。【落とし穴2・相続】家もらえず老後設計が狂う「私は同居する父の介護を10年近く続けてきました。施設への送迎から食事の世話。働いている時間以外は、父に尽くしました」そう語るのは60代独身女性。父も娘の献身ぶりに感謝。唯一といっていい父の財産は一緒に住んでいた実家だったが、生前から「自分が亡くなったあとはお前が住み続けなさい」と言ってくれた。そんななか、父は風邪をこじらせ肺炎となり、急死してしまう。それまで元気だったことから、遺言書は作成していなかった。「疎遠になっている弟と妹がいるんですが、2人は財産を3等分にすることを要求してきました。遺言書もなく、私は『寄与分』を主張したのですが、ほとんど認められず。財産を分割するために家は売却することに。持ち家があれば、少ない年金でもやっていけると思っていたんですが……」この女性は年金生活に入った今も仕事を続けている。「故人への貢献度に応じて相続分を増やすことができる制度である『寄与分』は証明が難しいんです。介護にかかった時間を時給換算し、施設や移動にかけた費用などとともに記録しておくべきでしょう。そして、やはり遺言書に勝るものはありません」(加谷さん)〈対処法〉口約束はNG!遺言書の作成を。【落とし穴3・住宅】“終の棲家”と思ったのに「自宅を売って、温泉付き大浴場や24時間のコンシェルジュなどがついた『シニア向け分譲マンション』を3,000万円で購入。夫婦で引っ越しました。しかし夫に認知症の症状が出始め、さらに転倒して体が不自由に。マンションには介護サービスはついていなかったので、マンションを売って、介護付き有料老人ホームに引っ越すことにしました」(70代主婦)問題はここから。入居条件が60歳以上となっている同マンション。なかなか買い手がつかない。「息子夫婦に住んでもらおうにも、年齢制限があって住めません。新しく引っ越した老人ホームの月20万円の費用に加え、いまもマンションの管理費月9万円を払い続けています」資産家のこの夫婦も、このままの支出ではいずれ破綻するという。介護・医療ジャーナリストの長岡美代さんはこう指摘する。「富裕層に人気のシニア向け分譲マンションですが、重度の介護が必要になった場合には、自宅と同じで、住み続けられないこともあります。管理費は通常のマンションより高めの設定で、修繕積立金と合わせて月10万円くらいかかる例も少なくありません。さらに、一般マンションと比べて販売・流通ルートが確立しておらず、なかなか売れないという問題も起きているようです」重度の介護が必要になると住めなくなる事例は「サービス付き高齢者向け住宅」でもあるという。「入居を検討する際には、5年後、10年後に自分がどうなっているのか、そのとき、対応してくれるのかを、あらかじめ確認してからにしましょう」(長岡さん)〈対処法〉そこが「終の棲家にはなるか」、考えてみよう。
2021年08月20日「老後資金2,000万円問題」のニュースを涼しい顔で見ていたあなた。落とし穴にハマれば、一気に困窮することも。危険がわかれば、回避法も見えてくるーー。「老後資金『2,000万円足りない』問題が金融庁の報告書で指摘されたのが2年前(’19年6月)のこと。多くの人が不安に陥れられましたが、やりくり上手の人のなかには『どうにかなりそう』と安心していた人もいるのでは?しかし、油断をすると、瞬く間に貯蓄は底をつくんです」こう警告するのは、マネー管理術に詳しい経済評論家の加谷珪一さん。老後には“落とし穴”がたくさん。実例を見ていくとともに、専門家に対処法を聞いていこう。【落とし穴1・投資詐欺】“高額配当”に騙されて「『500万円で健康器具を買って、レンタルに出すと年6%の利益が出る。いざとなれば器具を売ればいいからリスクもない』。そんな甘言につられて老後資金を投入。でも、実際は、器具は存在しておらず、数回のレンタル料が払われたあと、その会社は潰れてしまった。これは実際にあった例です」そう解説するのは全国紙記者。’17年12月に倒産したジャパンライフ。被害総額はおよそ2,000億円、被害者の多くは高齢者だったという。’20年9月、同社の元会長らは詐欺容疑で逮捕、起訴された。「同様の事件は多いんです。ケフィア事業振興会という会社が、年利10%超の高額な配当をうたって、食品事業などの“オーナー”を募集。結局、’18年に1,300億円超の負債を抱えて倒産してしまいました」(前出・新聞記者)自分は甘い話に引っかからないと思っている人も、退職金が入った後には、「気持ちが大きくなる傾向がある」と加谷さん。「投資の初心者であればあるほど、退職金で得たお金を『すべて資産運用に回そう』と考えてしまう。知識がないから、騙されるんです」〈対処法〉甘い話には裏がある。特に退職直後には注意。【落とし穴2・投資で失敗】銀行を信じたばかりに時に、銀行に“騙される”ことも。「夫が定年退職した2年前、2,000万円の退職金が出ました。すると銀行員から『金利7%の高利回りの新興国債券』をすすめられ、飛びついてしまって……。しかし、債券は急落。1,000万円投資して、200万円の損失に」(50代主婦)“銀行がすすめるものだから”と安心してしまう人も多いという。「銀行に言われるままに買ったことがいちばんの失敗です。顧客が損をしても売れば手数料が銀行に入る。すすめてくる商品のなかにはリスキーなものも。外貨建てというのは難易度が高く、プロでも尻込みするものなんです」(加谷さん)一方、「投資ばかりが運用ではない」と説くのは、ファイナンシャルプランナーの中村薫さんだ。「私は、貯蓄に回すことをおすすめします。家族や夫婦の今後を考えれば、退職金は堅実に預金しておくべき。減ったり、騙されませんし、『預金も立派な運用』です」〈対処法〉銀行の言いなりにならない。理解できないものに手を出さない。
2021年08月20日新橋演舞場、大阪松竹座にて上演される、『喜劇 老後の資金がありません』。垣谷美雨の小説を原作に、平凡な主婦に襲い掛かる仕送り、年金、葬式資金と、誰にも覚えがある「老後の資金」問題を、脚色・演出にマギー、主演に渡辺えり、高畑淳子を迎え、喜劇として描き出す。渡辺が演じるのは主婦の後藤篤子。夫は家計に無頓着、姑へは仕送りがあり、さらに長女の派手婚と、様々な問題が降りかかる自身の役について、普通の人などいないとしながらも「地味な、目立たない、普通の人になりますね」と話す。「派遣の契約社員として働く中で、娘が派手婚を決めて、急に出ていくお金が増え、自分を犠牲にして夫や娘のために尽くしてしまう。家計をやっていくというのは難しいんだな、というのを再認識させられる」と、自身の役を現代社会が抱える延長にいる人物と捉えたコメント。高畑演じるのは、夫と小さなベーカリーを営む神田サツキ。「基本たくましそうな人に見えるけど、そういう自分になりたかったというセリフがあって」と高畑が語る通り、年金を当てにしていたが姑が認知症になり……とサツキもまた問題を抱える役だ。お互いの色々な作品を観ていたというが、意外にも二人は舞台初共演。しかし、老後資金問題について「話題になった当時、周りの演劇人で2000万の貯蓄がある人なんていなかった」と渡辺が話せば、「貯金額を言わなきゃいけないみたい……」と高畑が返し、二人で笑う姿は息ぴったり。劇団3〇〇の女優と仲が良く、渡辺について「天才だ」と長らく聞いていたという高畑は「やっぱり話がすごく面白くって」と渡辺について語る。「私は稽古自体をやるというよりも、余計なことを考えたり喋ったりすることで作品の根っこが深くなると思うタイプ。こういう考え方もあるんだとか、そういう時間がふんだんに持てることが楽しみですよね(高畑)」と話すと、渡辺も「いろんな話をしながらやっていけるだろうということは、楽しみでしょうがないです」と初共演に期待を寄せた。「老後の資金がないことを、暗く演じても仕方がないので、明るくやりたい。こんな時代だからこそ、楽しいお芝居を、力をあわせてがんばって行きたいと思います」と意気込んだ渡辺。誰にも降りかかる問題を解く本作、喜劇だからこそのパワーをぜひ劇場で感じてほしい。公演は8月13日(金)8月26日(木)まで東京・新橋演舞場、 9月1日(水)~ 9月15日(水)まで大阪・大阪松竹座にて。チケットは発売中。
2021年08月18日渡辺えり、高畑淳子のダブル主演の「喜劇 老後の資金がありません」が8月13日、東京・新橋演舞場にて開幕した。本作は、垣谷美雨による大ベストセラー小説「老後の資金がありません」をマギーの脚色・演出で、初の舞台化となる。初日前会見では渡辺、高畑が登壇。渡辺は「コロナ禍で色々大変な世の中ですが、歌って陽気にがんばっておりますので、ご声援の程どうぞよろしくお願いいたします」と挨拶。続く高畑も「できる限りの力を出して努めさせていただきたいと思います。その力が不安定な状態ではございますが(笑)」と話し、笑いを誘った。今回は「喜劇」だが、劇中に歌やダンスのシーンが盛りこまれ、物語が進んでいく。歌、ダンスについて「えりさん、とても歌が上手いですよ。『天使にラブ・ソングを…』という感じです(高畑)」「ダンスは複雑な振り付けがあるのですが、66歳で私たちよくやっていますよ!(渡辺)」と話すが、さらに高畑にはラップという大きな見どころが。ラップについて、本当に毎晩夢に見る、という高畑に、渡辺は「お上手ですよ。私が感動したのは『もう一回お願いします!』と必ず率先して稽古をするんですよ、18歳の新人みたいに」と話す。高畑は「お客様はお金を払っていらしてくださるわけですから。でもラップは難しい、10回に1回くらい間違えるんですよ、本当に頑張らないと」と意気込んだ。「老後の資金」をテーマに、誰にでも訪れる介護、葬式、子どもの結婚、雇用、年金と、様々な問題に普通の主婦が四苦八苦する姿を描く本作。ゲネプロでは一幕が披露された。結婚が決まった娘の派手婚にかかる費用を計算し、夫・章(羽場裕一)のいう通り援助していったら老後の資金がなくなることに篤子(渡辺えり)が叫ぶと、「老後の資金がありません」と歌い上げる歌唱シーンに突入。篤子の息子・勇人役・原嘉孝、篤子とサツキ(高畑淳子)が火曜生花教室の先生 城ケ崎役・松本幸大もジャニーズならではの華やかなダンスで場を盛り上げ、様々なシーンで活躍。またベーカリーを営むサツキの夫でパン職人の克也役・宇梶剛士のダンスにも注目だ。誰にでも起こりえる問題だからこそ、立ち向かっていく篤子、サツキの姿に勇気をもらえる本作。笑って泣ける喜劇は、ぜひ劇場で。公演は8月26日(木)まで東京・新橋演舞場にて、また9月1日(水)~9月15日(水)まで大阪・大阪松竹座にて上演。チケットは発売中。
2021年08月18日※画像はイメージです長い老後の強い味方である年金。年金を増やすには「繰り下げ受給」がおすすめだとテレビや雑誌などでいわれているのを目にした人もいるだろう。繰り下げ受給とは65歳からもらえる年金を65歳で請求せずに、例えば70歳に遅らせて受け取ること。この方法を使うと受給額が最大で42%も増額されるため注目されている。ただ、繰り下げ受給には注意も必要だという。■ボーナス年金もらえる対象者は?「たしかに、受給開始年齢を繰り下げると受給額が増えますが、なかには繰り下げようとすると、うっかりもらい損ねてしまいかねない年金もあります」と言うのは、ファイナンシャルプランナーの山崎俊輔さんだ。その年金、正式には「特別支給の老齢厚生年金」という名前で、ある年代より上の人たちが特別にもらえる厚生年金のこと。その年代は、男性が今年61歳以上、女性が今年56歳以上(詳しくは下囲み)。厚生年金を1年以上払っていて、かつ、公的年金に10年以上加入していたらもらう資格がある。金額は人によって違うが、ごく大ざっぱにいうと、仮に在職期間にもらっていた給与の平均額が35万円だとすると40年加入で年間約120万円、最長の5年間もらうと約600万円になる。限られた年代の人だけがもらえる、まるで「特別ボーナス」のようなうれしい年金だが、実はもらい損ねている人もいるという。なぜだろうか。「一般的な年金が基本的に65歳からもらえるのに対し、この特別支給の厚生年金は60〜64歳の間に受け取れる少し特殊な年金です。それを知らずに年金は65歳からと思い込み、書類が届いても詳しく見ない人もいるようです。また、年金を繰り下げ受給しようと考えている人がこの年金も繰り下げようとして請求していないケースも」(山崎さん、以下同)重要なのはこの年金は一切繰り下げられないということ。もらえる時期がきたら何も考えずにもらうべき年金なのだ。また、寿退社した主婦がもらい忘れているケースもあるという。「例えば結婚する前に何年間か会社に勤めていた場合です。いまとなっては自分が厚生年金に加入していたことを自覚しておらず、請求し忘れていることも。せっかく受給資格があるのなら、しっかりもらっておきましょう」もともとこの特別支給の厚生年金は、1986年の年金制度の改正によって厚生年金の支給開始が60歳から65歳に引き上げられたことによってできたもの。「突然、来年から65歳にしますというのは不公平なので、段階的に60歳から65歳に引き上げていくために作られたのがこの制度です。制度が作られてから35年がたち、今年65歳への切り替えが完了しました。今年以降に60歳になる男性は対象外で、この年金はもらえません」■女性は男性よりも早くから受け取れるところが、女性は事情が違うという。以前は定年になる年齢が男性より女性のほうが早く、それに伴い年金も早く支給されていたため、男性より5歳早く受け取れるように設定されているのだ。そのため、女性は今年56歳以上の人ならもらえる。また、その年代の女性にはさらに年金を増やすいい方法が。60代前半に受け取るこの年金を65歳からの生活費に充て、そのかわりに65歳からもらえる一般的な年金を繰り下げるのだ。すると、繰り下げた分、受給額が増えるので老後資金を確実に増やすことができる。この年金は60歳から64歳の間にもらえるのだが、ちょっと複雑なのは、その人が何年に生まれたかによって受け取り開始の年齢が変わってくる。60歳からもらえる人もいれば、64歳にならないともらえない人もいる。ただ、いずれにせよ、自分がもらえる年になると必ず日本年金機構から「年金請求書」が入った書類一式が送られてくる。それが手続きスタートの合図。男性でいえば、今年63歳の人に誕生日の約3か月前に書類が届くはずだ。それより下の61歳と62歳の人は来年以降に書類が届くので、それを待っていればOK。女性は今年62歳の人に去年書類が届いているはず。今年56歳から61歳の人は62歳以降の受給開始なので、来年以降に順次届く。私、もしかしたらもらい忘れてるかも……と思ったあなた。あきらめる必要はない。「たとえ請求し忘れていても5年を経過していない分なら遡って支給してくれます」男性64歳以上、女性63歳以上で、厚生年金に1年以上入っていて「特別支給の厚生年金」を受け取った記憶がなければ、もらい忘れているかもしれない。まずは「ねんきん定期便」を確認したい。「ねんきん定期便が手元にある人は『老齢年金の種類と見込額(1年間の受取見込額)』の左から3番目を見てみてください。そこに金額が印字されていて、もらった記憶がないなら請求し忘れている可能性があります」あるいは最寄りの年金事務所や年金相談センター、ねんきんダイヤルに問い合わせて、未受給の年金があれば早めに請求を行おう。限られた年代の人だけがもらえる「年金の特別ボーナス」をもらい損ねるなんて、なんとも悔しい。ぜひこの機会に確認を。教えてくれたのは……●山崎俊輔さん●ファイナンシャルプランナー、消費生活アドバイザー。お金に詳しくない人にもわかりやすく、親しみやすい老後資金の増やし方を説明するエキスパート。(取材・文/濱田麻美)
2021年08月13日2011年に刊行され34万部を突破した垣谷美雨の同名ベストセラー小説を天海祐希主演で映画化した『老後の資金がありません!』より、本ポスターとコメントが到着した。日本最強のコメディエンヌであり、バリバリの仕事人間を演じることの多かった天海さんが本作で演じるのは、身近な主婦。子育ても落ち着き老後は安泰のはずが、親の葬式、子どもの派手婚、夫の失職、セレブ姑との同居と、あらゆるお金の災難に立て続けに襲われてしまう。監督は『こんな夜更けにバナナかよ愛しき実話』で、ユーモアを交えた秀逸な演出で観客を魅了した前田哲。映画主題歌は、アーティストとして音楽ジャンルを超えて進化し続ける氷川きよしが担当している。今回解禁された本ポスターでは、いつもクールでかっこいい姿が記憶に残る天海さんには珍しい困り果てた表情を披露。天海さんの顔の周りには彼女を困らせるバラエティ豊かな面々が大集結しており、いまにも彼女の心の叫びが聞こえてきそうなインパクトのあるビジュアルに仕上がっている。また今回のビジュアルについて天海さんは「10月30日公開の映画『老後の資金がありません』の新ビジュアルが出来ました!私、頭に乗られ、髪やほっぺたを、引っ張られてますね(笑)そして!ご出演の皆様の、なんと魅力的な事か!一悶着では済まされそうもないでしょ?この作品、どなたにも起こり得る、数々の出来事に立ち向かい、それぞれの生き方を見つける、ハートウォーミングな映画です。1年の公開延期をし、お待たせしましたが、やっと皆様にお届けできます。ぜひご一緒に、笑い、泣き、怒り、そして良かったなぁと楽しんで頂けたら嬉しいです」とコメントを寄せている。『老後の資金がありません!』は10月30日(土)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:老後の資金がありません! 2021年10月30日より全国にて公開©2020映画『老後の資金がありません!』製作委員会
2021年08月04日入っておけば安心だからと、なんとなく生命保険や医療保険に入っている人も多いのでは(写真はイメージです)お金のかかる子どもたちもようやく大学生になり、ホッとしたのもつかの間、血圧やコレステロールの値が……と、今度は自分の健康の心配事が増えはじめる今日このごろ。老後資金も潤沢とはいえず、もし大病してしまったらと不安が膨らむ人も多いだろう。万が一のときのことを考えると保険には入っておいたほうがいいと考えがちだが、実はそこにこそ、第二の人生で「しなくてもいい損」をしてしまう非常にモッタイナイ落とし穴があるという。■冷静に考えるといらない保険もある「これまで何年もの間、保険に入っていようが、これ以上損をしたくなければ一日でも早く解約することをおすすめします」と話すのは、大手生保と代理店で15年間保険営業を経験し、オフィスバトン「保険相談室」を立ち上げた後田亨さん。ある50代女性の実例をもとに、保険を早く解約したほうがいい理由を後田さんから教えてもらおう。「入っておいたほうが安心かなと思って、保険にはもう20年近く入っています」と話すのは今野千代美さん(仮名・51歳)。今野さんの契約の主な内容は、500万円の死亡保険に加え、入院したときに給付金がもらえる医療保険をオプションで付けていて、月々の保険料は1万635円。これを60歳まで払う契約だ。まず死亡保険について、今野さんに話を聞いた。「30代前半くらいのとき、自分にもし何かあったら親など周囲の人に迷惑がかかるかもしれないと思って、死亡保険に入りました。若いうちに契約したので、月5500円ほどの保険料にしては割のいい保障が受けられると聞いています」それを受けて後田さんが説明する。「たしかに、この保険料でこの額の保障がもてるというのは悪くないかもしれません。しかし、ご夫婦ふたり暮らしで貯蓄もそれなりにあるとのこと。もし奥さんが先に亡くなった場合でも、旦那さんはこの保険金がなくても暮らしていけますよね?」(後田さん、以下同)「そうですね。子どももいないですし、何のために死亡保険をかけているのかと言われると、はっきりとは答えられないかも……」と今野さん。死亡保険の意義について、後田さんはこう話す。「まだ自立していないお子さんがいるケースでは、自身が亡くなったとき、その後の養育費や教育費が賄えなくなるリスクがあります。ですが、今野さんのケースではそうしたリスクはありません。不要なものにお金をかける必要はないと思います」ちなみに、と後田さんはつけ足す。「この死亡保険は保険料が運用される『変額保険』です。運用や貯蓄を兼ねて利用する人もいますが、高額な手数料が取られていて、さらに運用結果によっては払戻金が減ることも。保険での運用や貯蓄は一切おすすめしません」一方、今野さんは医療保険には入っていたほうがいいのではないかと考えている。「私が気になっているのは、持病があるため、遠くないうちに予防のための手術で数日間入院する可能性があることです。いま解約してしまうと入院時の給付金がもらえなくなってしまうので、もったいないかな……と」■貯金で払えるなら保険はいらない!?後田さんは、医療保険についても「お金のリスク」で見るべきだと解説する。「これまで20年近く保険料を払ってきたこともあり、途中で解約するのはもったいないと感じる気持ちも当然です。では、入院したときのことを考えてみましょう。まずこの保障では日額5000円のお金がもらえます。もし1週間入院すると3万5000円ですね。そのために毎月3000円ほど支払っているわけです。入院費の自己負担額は1日1万~2万円程度ともいわれますが、5000円をもらわないと払えない額ではないですよね」入院1日で5000円をもらうために、年間3万6000円を30年近く払い続ける必要はないということだ。「たしかに貯金で払えない額ではないですね。でも女性の病気への備えはあってもいいですよね……?女性特有の病気にかかるリスクに備えておけると安心かなと思ったのですが」と今野さん。「もちろん女性特有の病気にかかるリスクはありますが、先ほどの話と同様、貯蓄でまかなえるような日額5000円の入院給付金のためだけに、わざわざ2000円ちょっとを毎月払い続ける必要はないと思います」女性特有の病気などの医療特約に入る理由としては、医療費が高額になるのでは、という不安がいちばんだろう。「女性特有の病気だからといって、治療に特別にお金がかかるわけではありません。今野さんはもちろん公的な健康保険に入っていますよね。なら、自己負担は抑えられるようになっています。実は、日本の公的な健康保険は世界でも類を見ない優秀な医療保険といえます。その理由を挙げてみましょう。(1)自己負担の割合が決まっている(2)基礎疾患や年齢など関係なく誰でも加入可能(3)保障はもちろん一生涯(4)基本的にどんな疾病も対応(5)老齢者や疾患のある人などの負担が軽い(6)高額療養費制度で負担の上限アリこう整理すると、民間の保険に比べて公的な健康保険がいかに優れているかがおわかりだと思います」特に注目したいのが、(6)の高額療養費制度だという。この制度によって高額な医療費の自己負担の上限が決まっており、平均的な収入のケースだと1か月9万円ほど。それ以上は負担する必要がないのだ。年間で数十万円ほども公的な保険料を払って手厚い保障を受けているのに、このうえさらに民間の保険に入る必要があるのかということだ。■「不要な保険」解約で高額の“埋蔵金”が!「公的な保険って思ったより手厚い保障なんですね。自己負担の上限が月9万円程度なのであれば、貯金でカバーできる範囲ですし、健康保険だけでも十分かも……と思えてきました」と、今野さん。さらに後田さんは、この契約を解約すべきもっとも大きな理由が別にあるという。「それは、いま解約すると137万円の払戻金が受け取れるということです。この払戻金は自身の見えない貯蓄でもあるので、“埋蔵金”と私は呼んでいます。この137万円を将来の医療費として持っておくと考えてみてください。最大でも自己負担が月約9万円なので、十分対応できるのではないでしょうか」でも、満期まであと8年なら最後まで払ってもいいということはないだろうか?「満期まで払うと500万円の死亡保障を受けとる権利を得ますが、その代わりに埋蔵金は一切なくなります。死亡保障がいらないなら、さらに約102万円のお金を払って、しかも埋蔵金を失うより、いま解約して埋蔵金を入手したほうがいいと思います。保険の契約でポイントなのは『給付金を自分で用意できるかどうか』に尽きます。自分で用意できる金額のために保険料を払うメリットはないと考えてください」後田さんの助言を受けて、今野さんは最終的に保険を解約。今野さんに、保険を解約した感想を聞いてみた。「保険に入ってないと不安というフワッとした気持ちだけで契約していたみたいです。公的な保険があるので、自分では用意できない金額が必要になることはあまりなさそうです。月々の余計な支払いがなくなりスッキリしました。まったく当てにしていなかった“埋蔵金”も手に入ってかなり得した気分です!」■人気のがん保険も冷静に見直しを!幅広い世代で根強い人気のがん保険。「うちはがん家系だから心配」と、がん保険に入っている人も多いだろう。「がん保険は医療保険の一種ですので、実例でふれた入院日額のケースと同じく、給付金が自分で用意できる額かどうかを考えるといいと思います。もし自分の貯蓄でまかなえる額なら、解約をおすすめします」(後田さん、以下同)しかし、保険パンフレットの表で「入院120日」「手術一時金」などの言葉を見ていると、やはり不安な気持ちが勝ってしまうが……。「そんなときには、表の左側の給付条件の部分を隠して、右側の給付金額だけを見るという方法があります。5000円や10万円という額だけが目に入ると、払えなくて破産するような額ではないとわかるでしょう。自分の身体のこととなるとつい冷静さを欠いてしまいますが、金額だけをドライに検討することが大切です。『がんは2人に1人がかかる』などと聞けば、誰もが不安になります。しかし、不安だから保険に入るのではなく、落ち着いて実際の給付金額を確認することです。公的な保険で負担の上限も決まっています。不安をあおるようなテレビCMを真に受けるのではなく『この広告費も保険料から出てるんだな』と一歩引いてみる心の余裕がとても大切ですね(笑)」「もちろん、民間の保険がすべてよくないと言いたいのでは決してありません」と、後田さんは念を押す。「子育て真っ最中の世代については、死亡保険に入る大きなメリットがあります。大黒柱の人に万一なにかあったとき、残されたご家族の生活費や教育費などのまとまったお金を用意することができるからです。また、ある程度まとまった貯蓄がない人も保険に頼っていいと思います。病気でしばらく仕事ができないときに、貯蓄がほぼないとすぐに困ってしまいますから」では、自己負担に備えた貯蓄は、具体的にどのくらいあると安心なのだろうか?「いくらあると安心なのか、というのは正直わからないです。『安心』は気持ちの問題なので。ただ、医療費で全財産を失って破産する人はいないですよね?高額療養費制度もあるので、10万円単位の支出が何か月も続く事態は考えにくく、ざっくり100万円くらいの貯蓄があれば、多くの病気やケガの医療費は賄えるのではと思っています。ただ、お守り代わりにどうしても何かに入っていたいという人には、ほかに比べて加入者の負担も少なく良心的な『都道府県民共済』をおすすめしています」漠然とした不安にかられてムダな保険の契約を続ける前に、「いま自分で対応できる金額かどうか」をもう一度具体的に検討しよう。そして、ムダな保険を解約し、その分のお金を老後資金に充てるというのが、保険とのもっとも賢い付きあい方なのだ。後田 亨(うしろだ・とおる)さん●オフィスバトン「保険相談室」代表。15年間、大手生保と代理店営業職を経験したのち独立。著書に『生命保険は「入るほど損」?!〈新版〉』(日本経済新聞出版)ほか。(取材・文/高宮宏之)
2021年07月31日※画像はイメージです「老後資金について、万全な対策をとっている人は、かなり少ないんです」というのは、老後問題解決コンサルタントの横手彰太さん。老後に必要とされる自己資金は、生活費だけではない。■自分は大丈夫と思っている人ほど危ない「自分は絶対に病気になる!と思って生活している人はあまりいませんよね。なので、実際に病気になったときの治療費や入院費などは本人にとって“思いがけない”出費となります」(横手さん、以下同)加えて苦労して確保した老後資金を、大きく減らしてしまうこともある。「退職金を投資にまわし、減らしてしまう人は意外と多い。さらに、家族間のコミュニケーションが減っていたり、認知能力が下がっていると、詐欺にあってしまうことも」自分は大丈夫と思っている人ほど、意外な落とし穴にはまってしまいがちなのだ。「老後に仕事第一だった夫がうつ病を発症したり、熟年離婚をしてしまうなど人生は本当にいろんなことが起きますよね。100年と考えると、老後は非常に長い期間。どんなトラブルが想定されるのか、事前に対策を練っておくことをおすすめします」■お金がなくてもトラブルを回避!老後資金を確保するだけでも大変なのに、あらゆるトラブルを想定しておくなんて……。考えただけでもサジを投げたくなるが、お金が少なくても、乗り切れる方法があるのだとか。それは、今まで以上に、自分の心と身体の健康を大切にすること。「食事は腹八分目にして、早寝早起き、適度な運動を心がけること。当たり前の健康習慣を大切にすることが、何より大切です。何を当たり前なことを、と思うかもしれませんが“病気になったらいくら必要”と考えるより、病気にならない工夫をしたほうがずっと安くつきますから」次のページから、各年代で起こりうるリスクと、その回避策を紹介する。■【50歳】現在の収入がなくなり、自分の老後資金も激減!「親の介護では2つのリスクが発生します。1つは仕事と介護の両立。もう1つは、周囲の協力が得られず、介護うつになる可能性です」総務省の「就業構造基本調査」によると、介護離職者の年齢は50歳前後がピークで、そのほとんどが女性。50歳というと、子どもがいる家庭であれば、大学進学などで教育費が最もかかる時期。子育て、家事、仕事と非常にハードな世代だ。ここに突如として降りかかる介護問題。施設を利用するなどして乗り越えたいが、「公的施設は入所待ちがほとんど。さらに介護レベルに応じて入所順位も決まるので、早く申し込みをしていればいいというものでもありません」となれば、民間の介護施設にお世話に……といきたいが「首都圏だと一時入所金が数百万~1000万円のところが多い。さらに月々20万円ほどの費用がかかるなど、総じて高額です」費用の面だけでなく、親が自宅介護を望むケースも多く、介護離職を選択する人が多いのだ。「とはいえ、介護離職は極力避けてほしいです。現在の収入がなくなるだけでなく、年金も減り、自分の老後の生活が危うくなります。介護の心労に加えて、自身の金銭不安も重なり、さらに精神的に追い込まれてしまいます」●横手’sアドバイス『チーム思考で介護離職を回避して』ひとりで抱え込まず、家族や公的機関、会社の制度を利用するなど、“チームで介護”をするのがベストです。介護認定を受けたらケアマネジャー(介護支援専門員)に相談し、どのような介護サービスが受けられるのか相談を。会社には事情を説明して、介護休業などを積極的に利用して。親の資産がいくらあるのか棚卸ししておくことも必須。資産が十分なら、介護施設や民間のサービスを選択することもできるからです。■【56歳】予想よりもグッと少ない財産分与にガク然離婚したら、夫の財産すべて半分もらえるわけではない。「貯金も年金も、婚姻期間のみが対象となります。例えば夫が40歳のときに結婚したなら、40歳から離婚する年齢までに支払った年金分のみが対象。当然退職金も同じ考え方になります」。さらに夫が親にもらった相続や贈与は対象外。「離婚での財産分与は、思ったよりももらえないケースが多い。離婚を考えるならば、弁護士などに相談をし、十分な財産が得られるか確認をしておきたいですね」●横手’sアドバイス『ペットが夫婦関係のよいクッションに』財産分与がたとえ2000万円ほどあったとしても、老後を乗り切るのは困難なことも。離婚を考えるよりも、おすすめはペットを飼うこと。共通の話題が生まれてコミュニケーションのきっかけになること多し。■【62歳】銀行のすすめを鵜呑みにし老後資金がみるみる減額「投資経験がない人が、退職後にあわてて投資に手を出すのは非常に危険です」“退職金特別プラン”などという金融商品は特に要注意。顧客より銀行が儲かりそうな投資信託を売っていることもあり、増やすどころか大きく減らすことになりかねない。「実際に私が相談を受ける80代の方は、かなりの割合で銀行に紹介された投資信託を持っていて、そのほとんどが下落し塩漬け状態のもの。仮に退職金の2000万円を投資し、30%目減りすると600万円も減ってしまいます」●横手’sアドバイス『早い段階で金融リテラシーを身につけて』遅くても退職する5年前から、退職金の使い道の検討を。「お金のことは夫が」と任せず、中立的な運用アドバイスをしてくれる金融セミナーなどに、妻も足を運んで勉強することが肝心。夫にそれとなくアドバイスできると理想的。■【66歳】先進医療を選択すれば費用はなんと300万円日本医療政策機構のアンケート調査によると、がん治療にかかる費用は保険適用なしで年間平均115万円。「実際は高額療養費制度という公的補助もあるので、費用はだいぶ抑えることができます。ただし、標準治療ではなく、先進医療を希望するなら話は別です」先進医療は保険適用外なので高額療養費制度が適用されず、重粒子線と陽子線治療であれば年間約300万円かかり、すべて自己負担となる。「とはいえ、先進治療をすれば必ず治るというわけでもありません。病気になったとき、あらゆる可能性に賭けてみたいと考えるなら、健康なうちにがん保険に加入を。“先進医療特約”や、がんの診断で一時金が300万円くらい給付されるものを検討しておくといいでしょう」また、がんの発症タイプは年代ごとに変化している。「昔は肺がんと胃がんが多数でしたが、今は胃がん、乳がん、前立腺がんの順。特に女性は12人に1人が乳がんと診断されています」乳がんは欧米病とも言われ、食事で乳製品を多くとる人は気をつけたいところ。「がん細胞は誰もが持っていて、免疫力が低下すると“がん”になる。喫煙、過度な飲酒、肥満、ストレスなど生活習慣に気をつけ、定期的に検査を受けるのも大切です」●横手’sアドバイス『早期発見できれば標準治療で十分!』がん対策で何より重要なのは、検診を毎年受けて、早期発見、早期治療をすること。早期発見できれば、9割が治るといわれているのに、日本のがん検診受診率は、先進国の中でも最低水準です。早期発見できれば、先進医療を考える必要性も減り、莫大な治療費に悩まされることもない。繰り返しますが、治すコストよりも予防するコストのほうがずっと安いし効果もあります。検査と生活習慣が、何よりのキーワードです!■【70歳】後期高齢者になる前に資産の棚卸しを金融広報中央委員会の調査によると、70歳の平均貯蓄額は1314万円(2人世帯以上)。けれどもこれは富裕層も含めた平均値。「富裕層など、極端な数字の影響を受けにくい値である中央値を見ると460万円。その額しか貯蓄がない人が多いというのが現状です」この金額は、現金預金だけでなく有価証券や保険も含むので、実際に使えるお金はもっと少ない人がほとんど。また総務省「2019年家計調査報告(家計収支編)」によれば、高齢夫婦無職世帯の可処分所得は約21万円。一方、支出は約24万円で、普通に生活するだけでも月3万円、年間で平均36万円の赤字となる。資産が460万円あったとしても、およそ12年程度で資金ショートに!「たとえ70歳時点で1000万円の現金があったとしても、病気や介護が必要になれば、月の赤字が10万円以上になることも珍しくない。そうなると10年もたないのです」生活費が予算オーバーしていないか、含み損を抱えた投資信託を見るのが怖くなっていないか……しっかりと家計を振り返ろう。「70歳を過ぎるころから医療費や介護費が一気に押し寄せてきます。その前に、今ある資産をすべて棚卸しし、換金できるものがあれば現金にかえて。現状をしっかりと把握しておくことが肝心です」●横手’sアドバイス『健康&労働で老後破産を回避!』ほとんどの70歳が資金不足。自宅を売ればいいと考えている人も多いが東京以外は買い手がつかず、希望価格に満たないことが多いそう。おすすめはアルバイトです。時給が1000円だとすると、毎日5時間×20日間で月10万円の収入を得ることができます。健康に気をつけ、無理のない範囲で働き続ければ資金プランはかなりよくなります。適度な労働は運動不足の解消や認知症予防にもなり、一石二鳥です。■【75歳】要介護認定者となり介護施設へ入所も65歳から74歳までの前期高齢者のうち、要介護を申請する割合はわずか4・3%。けれども75歳以上の後期高齢者になると、実に3人に1人が要介護認定者に。「1つのがんを治療したら他のがんが発症したり、認知症や心不全といった別の病気を近づけてしまったり……。もぐらたたきのように病気が続くことも多いのです」後期高齢者となり、医療費が2割から1割負担に減っても、全体の医療費が高くなることは十分にありえる。「個人が一生涯でかかる医療費は平均して2724万円。そのうちの半分は70歳以上になってからのものです。実際には保険があるので、自己負担として約200万円ほどはかかると考えてよいでしょう」さらに介護費用も大きな負担に。平均的な家庭で自宅介護を5年間するだけで、約500万円が必要といわれる。面倒をみてくれる子どもがいなければ、民間施設に入る必要が出てくるので、さらに1000万円かかることも。「とはいえ高齢者の約10%は、亡くなる間際まで元気な状態で過ごしています。多少の病気は抱えつつ、健康寿命を延ばす生き方を目指したいものです」●横手’sアドバイス『フレイルにならない生活を心がけて』フレイルとは、身体機能や認知機能の低下が見られるものの、要介護にまでは至らない状態のこと。医療費と介護費を抑えることは、余裕のある老後を送るためのキーポイントですからフレイルにならない生活を心がけるのが何より大切。タンパク質などの栄養をしっかりとり、筋肉を鍛え、質のよい睡眠をとるようにしてみて。今から生活習慣を見直し、介護予備軍となるフレイルを少しでも遅らせるようにしましょう。■【80歳】1度だまされると何度でもやられる!令和元年の詐欺による被害総額は約316億円。10年前と比べて約3倍にも増加。「被害者のうち60歳以上が約88%で、このうち3人に2人が女性です。80歳になると判断能力が低下。さらに目や耳も機能が衰えてきますから」さらに、1度だまされたら複数回だまされる可能性が。「例えば“送りつけ商法”。ある日突然、注文をしていないものが送られてきて、不当な金額の請求書が入っている。うっかり代金を振り込むと、次々と詐欺商品が送られてきます」。私はだまされない、という人ほどご注意を。●横手’sアドバイス『家族に資金管理を依頼して徹底ガードを』不審な着信は、家族や友人に相談を。また自動通話録音機を使うのも手。自治体によっては高齢者に無料で貸し出しをしています。また、信頼できる子どもに資金管理をお願いしておけば、振り込むことができません。■【82歳】銀行から引き出せず生活困窮!?高齢化とともに認知症患者数も増えており、80歳を越えると有病率が24・4%、85歳を越えると55・5%に。「認知症状ばかりに目が行きがちですが、お金の面でもかなり深刻な問題が出てきます」まず、銀行の預金が下ろせなくなる可能性が。「ATMなどで暗証番号が思い出せず、自分で引き出せなくなることがあります。そして窓口に問い合わせをした場合、行員と簡単な受け答えができないと、払い出しを断られることがあるんです」生活費はおろか、施設に入るための預金も引き出せない……なんてことが起きる。また不動産を売って老後資金にしようと考えていた場合も、「認知症になると法律上“意思無能力者”となるので、不動産売却も不可能に。いつかやろうと思っていた贈与や遺言といった相続対策もできなくなり、遺産をめぐるトラブルが起きることも多いんです」■【90歳】途中でやめられない“延命治療”女性の2人に1人が90歳以上生きる時代。「90歳を越えると寝たきりリスクが格段に上がってきます。病気で入院したのをきっかけに、回復することもなく、延々と治療がほどこされるケースが多々あります」自分で治療をやめたいと申し出ない限り、家族や医師の判断だけで、延命治療を中止することは難しい。また2007年の日本医師会資料によると、死亡前1か月間にかかった医療費を終末期医療費として捉えた場合、1人当たりの終末期医療費の平均額は112万円という報告が。実際には数か月と長引くケースが多いのです。「生涯にかかる医療費の多くが、この終末期医療費と捉えてもいいほど。ずっと病院で、死ぬまで苦痛に耐え続けなければならない。当然、治療費もかさむ。残された家族への負担も大きくなります」●横手’sアドバイス『80歳を過ぎたら自分の最期を考えて』意思能力があるうちに、延命治療や看取り方について示しておきましょう。公証役場で手続きをする“尊厳死宣言公正証書”や、日本尊厳死協会に会員登録をしておくと、延命中止の効力が高いです。■認知症で起こりうるお金トラブル認知症で財産凍結になると……・遺言書が作れない・不動産や株式の売買ができない・定期預金、保険が解約できない・介護資金が出せない・生活費が出せない●横手’sアドバイス『元気なうちに対策をして穏やかな晩年に』認知症による財産凍結を回避するには、任意後見制度か家族信託がおすすめ。任意後見制度は、後見人を自分で選び、認知症になった後の生活をどうしてほしいかなど事前に契約してお願いすることができる。家族に依頼するのが一般的ですが、おひとりさまや子どものいない夫婦なら、信頼できる人に頼むことができます。さらに、財産の種類が多岐にわたるなど、相続方法が複雑な場合は合法的に円滑な財産管理ができる家族信託の利用を。いずれも認知症になってからでは利用できないので、元気なうちに検討を。教えてくれたのは……横手彰太さん老後問題解決コンサルタント。不動産会社の日本財託に勤務し、数多くの老後問題に遭遇、解決に導いてきた。特に相続、家族信託のアドバイスに定評が。講演会やテレビ出演など多方面で活躍中。著書に『老後の年表』(かんき出版)など。(取材・文/樫野早苗)
2021年06月20日※画像はイメージです 「夫婦で旅行」「趣味を見つけよう!」なんて一般常識にとらわれているとつらい老後に!? 人生100年をできるだけ楽しく生きるためのノウハウを紹介!教えてくれたのは大江英樹さん経済コラムニスト。オフィス・リベルタス代表。大手証券会社で個人資産運用や企業年金制度のコンサルティングなどに従事。定年後は「サラリーマンが退職後、幸せな生活を送れるように支援する」という理念のもと、講演執筆活動を精力的に行う。著書に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)世の中の「定年準備」は不安をあおる、実体のないことも多いもの。振り回される前に「不安にかられてやらないほうがいいこと」、逆に「やっておくといいこと」を把握。まずはいちばん気になるお金に関しての“to do”を知っておきましょう。■お金に関してしなくていいこと・すべきこと夫や自分の定年後のことを考えると、不安がいっぱい。特にお金のことを考えるといてもたってもいられない! 株で儲けた人もいるみたいだし、投資でも始めようかな、なんて気持ちに、ふとなることも。ところが、そうした漠然とした不安にかられてやってしまうあれやこれやが、自分の首を絞めることになりかねない。【1】年金が心配だからと慣れない投資を始める→×「まず、経験もないのに『年金では足りなそうだから、退職金などのまとまったお金を投資にまわす』ということは、いちばんやっちゃいけないことなんです」そう警告するのは、経済コラムニストの大江英樹さん。「投資自体が悪いわけじゃありませんよ。でも、経験もないままいきなり大金を投じると、コロナ禍初期のように急激に相場が下がったときにあわてて売ってしまって大損をする……ということになりかねません」投資をするなら、少額で早いうちから始めるのが理想。【2】医療や介護が心配で保険に入りまくる→×「保険でお金を増やそう、医療や介護に備えようとするのも間違いです」日本の公的な年金・医療・介護保険制度は充実しているので、さらに、民間の保障をプラスするより、その保険料分を貯金にまわすのがおすすめだ。「民間の保険で備えるとしたら、『めったに起きないけど、いざそうなったら莫大なお金がかかる』リスクに対してですね。火災や自動車の対人賠償、個人賠償などです。それ以外は“ひとまず現金を蓄えておくこと”。保険金は保険会社が定めた状況にならないと支払われませんが、現金は使い道を選びませんからね」【3】年金見込額と家計簿で収支を把握→○「そもそも『老後が不安』と言っている人に、退職金はいくら出るか、年金はいくら出るか、生活費はいくらかかっているか聞いたら、把握してないことがほとんど。老後生活費の入りも出もわからず心配だけしているんです」そう大江さんは肩をすくめる。ちなみに退職金は勤め先の総務、年金見込額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」、年金事務所の窓口などで確認できる。老後の生活費については、今から家計簿をつけておくと、だいたいの額は把握できるはず。「入りと出を把握したうえで、老後の出費は3つに分類して考えるといいでしょう。まず日常生活費は年金でまかなう。趣味や旅行などの自己実現費や家の修繕などの一時出費は定年後に働いたお金でまかなう。医療や介護は貯金や退職金でまかなうと決めるんです」このお金の3分法を決めておくと、今の貯金や老後の仕事に張りが出そう!〜お金の3分法〜●日常生活費→公的年金●一時出費・自己実現費→老後、働いて得る収入●医療・介護費→貯金や退職金■仕事に関してしなくていいこと・すべきこと60歳で定年を迎えた場合、公的年金受給が始まるまで5年間のブランクがある。その間、男性の約8割は働き続けている。「元の会社で再雇用してもらう」というのが一般的なようだけど、はたして正解は?【4】再雇用制度にこだわり今の会社にしがみつく→×定年を迎えても、本人が希望すれば65歳まで雇い続けることが企業には義務付けられている。これを会社によって「再雇用制度」「継続雇用制度」などと呼んでいる。妻としては、夫には定年後も再雇用制度を利用して、給料が減ったとしても元の会社に居続けてほしいと思いがち。「でもね、私は再雇用で働くのはあまりおすすめしません。定年後も同じ会社に残ると、それまでの資格や立場を奪われ、給料も減るから、あまり面白くないんです。転職か起業を考えてみるのも一案」夫婦でよく話し合って、今の会社にしがみつく必要があるのかどうか、検討したいところ。「私は人に仕えるのはこりごりだったので、定年後、起業しました。その際は、貯金や退職金、家計出費を計算して『このくらいの期間は収入なしでもなんとかなる』と妻を説得しましたね。ただ、それができたのは子どもも独立していて、住宅ローンも払い終わっていたから。定年後もそうした出費が残っていた場合は会社勤めを続けたほうが安心でしょうね」【5】次の仕事をハローワークで探す→×「ハローワークって、あまり親身になって相談にのってくれないケースも。今までの仕事内容について話しても会社員などは特に『それじゃこれといったスキルがないんですね』という感じで……。それよりも取引先や友人知人、親類縁者のつてやコネを使ったほうが、いい仕事が見つかる場合もあります」【6】50歳過ぎたら“成仏”する→○50歳になったら、男性でも女性でも、自分が出世コースに乗っているか、そうでないかは、わかるはず。そしてたいていは出世コースからはずれているわけで……。「がっかりすることはありません。出世していても、勝ち組でいられるのはあと10年。それよりも、60歳以降の残り人生のほうが長い。だから、私は『1日も早く“成仏”しなさい』と言いたい。“成仏”とは、会社の中での地位なんてものにこだわるのはやめて、定年後に向けて、設計図を描き準備をすることです」でも、準備するといっても具体的に何をしたらいいのだろうか。「今の仕事を頑張ることを大切に考えたいですね。会社の中で出世するためじゃない、自分の次の仕事、定年後の未来につなげるために頑張るんです。頑張っていれば、同業者や取引先に名前が知られて、それが転職の足掛かりになったりすることもあります。ごく狭い範囲でいいから、『この仕事に関してはこの人だよね』と言われるような力をつけるといいと思います」【7】専業主婦も子育てが終わったら働く→○ずっと専業主婦だった場合、もらえるのは老齢基礎年金のみで、最大月6万5075円(2021年度の場合)。夫の年金があるにしても、正直、心もとない。「妻も子育てが落ち着いたら働いたほうがいいですね。106万円の壁や130万円の壁に一切こだわらず、どんどん働く!そうすれば収入も増えるし、妻も厚生年金がもらえるようになります」そして、老後も働き続けるのがおすすめだそう。「お金の3分法のうち、生活費は年金でなんとかなるにしても、一時出費や自己実現費を増やしたいと思いませんか? 遊んだり、美味しいものを食べたり、旅行に行ったり……。例えば夫と妻がそれぞれ5万円ずつでもいいんです。合計10万円稼げば、年間120万円。けっこう余裕が出ると思います。1人5万円ずつぐらいなら、パートやアルバイトで働き口が比較的簡単に見つけられますよ。そのかわり、夫も家事ができるようにしておきたいですね」〜定年前後の働き方5か条〜一.今の会社にしがみつかない一.転職先探しでハローワークに頼らない一.50歳になったら出世にこだわらずセカンドライフを考える一.今の仕事は頑張る一.専業主婦も子育てが落ち着いたら働くことを考える■夫婦や家族に関してしなくていいこと・すべきこと家事もしない、これといった趣味もない夫が、会社を辞めたらずっと家にいる……。「申し訳ないけど、それはしんどいかも」という妻、けっこういるのでは?長い老後を気持ちよく過ごすためのリストを次に挙げる。【8】夫婦間のソーシャルディスタンスを保つ→○夫婦が家で顔を突き合わせている時間が増えると、「価値観の違いや相手の嫌なところが目につくように」「妻の家事負担が増える」「妻が昼間自由に使えていた時間が制限される」といった問題が出てくる。それが原因で夫婦仲が険悪になることも……。「模範解答は『夫婦でよく話し合いましょう』なんでしょうが、それができる人は少ないですよね。だったらいっそ、物理的に離れるようにしたらいいんです。お互いが働く、別々の趣味を持つなどして、夫婦間のソーシャルディスタンスを保つよう心がけてはどうですか」妻が夫に願うのは「放っておいてほしい」ということ。会社という「居場所」をなくしたからといって、いきなり“密”になられても困る、というのがホンネだろう。【9】夫を家庭人として独立させる→○妻が仕事や趣味で心置きなく家から離れるには、夫の家事能力を育てることが必要。「夫の家事能力を育てるにはコツがあります。夫のやり方がまずくても小言は言わない。『ありがとう、助かるわ。ただ、これはこうしたほうが後々やりやすいの』とお礼と理由をつけて、『次は気がついたらやってね。とにかくやってくれてうれしい』とお願いする感じで言うんです。そうしたら男はうれしくてすぐやるようになりますよ。『子どもじゃあるまいし』と腹立たしいかもしれませんが、自分が楽になるためのテクニックとして使ってください」【10】親の介護費用を子が持つ→×「大原則は、介護費用は介護される本人のお金でまかなうこと。親の介護は親のお金でやってもらい、自分の介護ではわが子に負担をかけない。それにはまず、親が元気なうちにいろいろ話し合っておくことです。親が突然倒れると、通帳のありかがわからない、わかってもお金が引き出せなくて困ることが実に多いんです。だから、『介護のこと考えておこうよ』と、お金について聞いておくんです」もちろん自分の介護費用の準備もお忘れなく。「一般的に1人500万円かかるといわれています。それを民間の介護保険とかではなく、現金で用意しておく。そうすれば、介護が必要になっても、ならなくても使えますからね」熟年離婚で老後ビンボー!?「金銭面でいうと、離婚はなるべくしないほうがいいですね。『年金分割』があるといったって、たいした金額にはなりません」年金分割とは、結婚期間に応じて、厚生年金部分を分け合う制度。年金分割は夫婦の合意による「合意分割」と専業主婦が対象の3号分割がある。基礎年金部分は分割の対象外なので、場合によっては「夫の年金のうち半分をもらえる」わけではないので注意して。また、共働きで妻の厚生年金見込額のほうが多い場合は、妻の分を夫に分けることに……。「夫の死後の遺族年金ももらえなくなるわけですから、女性にとっては、経済的には損です。ただ、損得以上に、『この人といるのが、これからの残りの人生で本当に幸せなのか』考えて、NOなら離婚してもいいのではと思います。お金の損得じゃない。楽しいか楽しくないか。幸せか幸せじゃないかで考えたらどうでしょう。だって、お金持ちになるのではなく、幸せになるのが人生の目的ですからね」■日々の生活に関してしなくていいこと・すべきこと日本人の平均寿命はどんどん延びていて、今の50代の人たちなら、女性は95歳、男性は87歳くらいに。女性の半分は100歳まで生きる、まさに「人生100年時代」がやってくる!定年以降は「余生」というより、「もうひとつの人生」として充実させたいもの。新たな人生を楽しむにはどうすればいい?【11】老後いきなり趣味を見つけようとする→×女性は年を重ねても、日々の中で喜びや楽しみを見つけながら生きている人が多い。心配なのは仕事一筋の夫。いきなり老後「そば打ち」を始めて、結局挫折……なんてよくあるパターン。「定年前後で急に人にすすめられるままに何かを始めるからいけないんです。人がすすめるものが自分に合うとは限りませんから。自分に合った趣味を見つけるのって、けっこう時間がかかるんです。だから先を見すえ、定年を意識したら、いろいろなことに挑戦してみては?やってみたかった趣味、かつて好きだったスポーツもいいですね」【12】会社の人間関係や血縁をあてにする→×老後は人とのつながりが大事と聞いて、一生懸命に会社の人を飲みに誘う。あるいは逆に、「子どもやきょうだいがいるから大丈夫」と付き合いを広げようとしない……。これらはいずれもNG!「会社の人間関係なんてあてになりません。定年後は年賀状さえ来なくなります。定年が近づいてきたら、会社の人となるべく付き合わないこと。それから、血のつながりもまったくあてになりません」つまりは、それ以外の人間関係をつくることが大事。「学生時代の友人とのやりとりを復活させたり、趣味の付き合いを広げたりするといいですね。SNSを利用すると、人脈を広げ、深めるのにいいですよ」ただし、これまでの社会経験をかさに「マウンティング」に走らないよう注意。「定年したら会社の上下関係、経験は過去のもの。横の付き合いを大切にすることで人生後半の充実度が変わってくると思います」〜日々の生活に関する3か条〜一.老後を見すえ、いろんなことにチャレンジして、自分に合った趣味をリサーチ一.会社の人間関係や血縁をあてにしない一.「マウンティング」はご法度構成・文/鷺島鈴香
2021年06月09日※イラストはイメージですイラスト/水口アツコ寿命が延び、60代、70代はまだまだ元気な世代。一方で、長くなった老後の家計も心配……だからこそ、「60歳以降も働く」という選択肢を考えておきたいもの。そこで、よりよい「OVER60の働き方」を見つけるために専門家のアドバイスと、リアルな実例を編集部が徹底取材!■働き続けるメリットは収入だけではない「今の時代、年齢を重ねても仕事を持ち続けることは、収入面はもちろん、さまざまなメリットがあります」そう語るのは、今回お話をうかがった松本すみ子さん。シニアの生き方や働き方のアドバイザーとして、講座の運営や企業のコンサルティングなどを手がける、いわばセカンドキャリアづくりのプロフェッショナル。松本さんが挙げる「シニアが働くこと」の具体的なメリットは次のとおり。■年金の補填・余裕収入面では、年金だけでは足りない部分の補填になることが第一。金銭的に余裕がある人も、お小遣いを増やせる。■新たな生きがい発見に誰かのためになると思えば、使命感、達成感もあり、生きがいを持てる。■健康づくりになる通勤や仕事で運動量が増え、自然に体力維持に。生活のリズムもキープでき、仕事があると思うと健康管理を心がけるようになる。■社会とつながり成長へどんな仕事も社会と関わっているので、社会勉強になる。また、年代や立場が異なる人との会話も脳への刺激になる。社会参加が高齢者の心身の健康につながっているというデータもあるほど。●「なんのために働くか」を考えることが第一歩よいことばかりに見えるが、「ほんとうに満足できる働き方を見つけるには、早いうちから準備したほうがいいです」(松本さん、以下同)と釘を刺す。「第一歩として重要なのは、自分はなんのために働くのか、一度じっくり考えること。もうひとつは、家計簿をつけて支出を把握し、年金額も確認して、今後の収支を試算してみることです」家計の補填が必要なのか、夢を追うのか、あるいは離婚を視野に自活したいのか。たしかに目的によって仕事の選択肢は変わってくる。年金も貯蓄も、その額は人それぞれだ。「目的の優先順位も見極めておきたいですね。仕事内容も勤務条件も希望どおりなら理想的ですが、実際には、どの仕事も一長一短あり選択に迷うもの。でも重視したい目的がブレなければ、目指す働き方に近づけるはずです」■地域の仕事に注目、人生経験も生かせるここで知りたいのは、どんな仕事がオーバー60世代に向いているのか。それをどうやって探せばよいかというアドバイスだ。「まず、お住まいの地域に目を向けてみてください。そのメリットは、1つは通勤がラクなこと。満員電車は体力的にきつくなってきますからね。また、地域には、人生経験を積んだシニアが求められている、さまざまな職場があります」例えば、保育や介護・福祉・医療施設など。資格を問わない補助職の求人も多いうえ、専業主婦だった人も、家事や育児、介護などの経験を生かせる。「その地域の仕事をどうやって探すかですが、地域の情報は地域にあります。お店に張ってある求人広告も立派な情報。なじみのある商店街に、働いてみたいと思えるすてきなお店がオープンするかもしれません」また、意外に有用だと、松本さんがすすめるのが口コミ。友人知人に、こんな仕事がしたい、こんなふうに働きたいと、ふだんから話しておくのもいい。求人側も人づてに人を探すことも多いので、口コミと口コミがマッチして、よいご縁につながることも多いという。●こまやかな気配りも熟年女性の強み松本さんは仕事柄、求人側の要望を聞く機会も多い。その際によく話に聞くのは、店頭販売や飲食などの接客でも、熟年女性は頼りにされているということだ。「例えば、ベビーカーの扱いに困っているお母さんを助けたり、高齢の方に椅子をすすめたり。こまやかな気遣いが評価されるんです」人生経験を生かせる職種としてはカウンセラーなどの相談業務も向いているとか。もちろん、人それぞれの資格や経験、趣味や興味を生かせることを条件に探すのも、満足度の高い選択になるだろう。「すでに勤めている人が新しいことに挑戦するなら、定年まで待たず、50代で転職するのもおすすめ。50代のうちなら、求人の選択肢も多いからです。子育てや会社のしがらみがなくなるシニア世代は、実は挑戦を楽しめる世代でもあるんですよ」力強いエールをいただいたが、さて、あなたの選択やいかに?最後に、楽しく働き続ける秘訣を聞いた。「若いときと違うのは、体力の問題。健康を害さないように無理をしないことです。また、年下の同僚に先輩風を吹かすのは禁物。謙虚でいることも大切ですね」◆オーバー60で働くために必要なこと・必要な支出と年金支給額を確認し、老後の収支をシミュレーションしてみる。・自分が働く目的を、じっくり考えておく。・地域の仕事、人生経験を生かせる仕事に注目してみる。・いくつになっても謙虚さを忘れない。■【働くシニアの星】人気ブロガーショコラさん〜自分らしく働き、月12万円で暮らしを楽しむ〜ショコラさんは現在65歳、ひとり暮らし。ブログに綴られる暮らしぶりが人気を呼び、著書も好評だ。多くの女性がひかれたのは、無理なく働き、月12万円で、おしゃれも部屋づくりも楽しむ充実のシニアライフ。その働き方、暮らし方には、どのような秘密があるのだろうか。◎第一の転機「社会に出て働きたい」ショコラさんは高校卒業後に就職し、24歳で結婚、退社。2人の息子に恵まれたが、32歳のとき、次男が小学校に上がったのを機にパートで働き始めた。これが最初の転機になったという。「結婚当時は寿退社は当たり前の風潮でしたし、将来のことなど考えていませんでした。でも徐々に、社会で“お母さん”だけでない場を持ちたいと思うように。そして何より、自分で稼いだお金が欲しかったんです」(ショコラさん、以下同)◎第二の転機「別居→ひとり暮らし」42歳のとき、最大の転機を迎える。夫と別居して、ひとり暮らしを始めたのだ。「ひとりで生きていくには、何がなんでも社員にならねばと奮起し、化粧品メーカーに契約社員として就職。のちに正社員になりました」46歳で離婚。友人から、老後のためにとマンション購入をすすめられ、1LDKの新築物件を約2000万円で買う。給料の半分とボーナス、慰謝料がわりの遺産で繰り上げ返済し、10年で完済した。「今住んでいるこの部屋があることは、何よりの老後の安心材料になりました。仕事もお金のやりくりも、がんばってきたかいがあったと実感しています」◎第三の転機「仕事をシフトダウン」55歳で所長に昇進するが、定年を前に57歳で退職を決心。パート勤務に。「やりがいのある仕事でしたが、ストレスのせいか帯状疱疹になり、身体は限界でした。退職金は半減。でも、これまでの家計簿と、今後の年金収入を確認して、なんとかなると見通せたのです」64歳のときには、体力の衰えを感じて、週5日のフルタイム勤務から週4日勤務に、1年後時短勤務に2度目のシフトダウン。収入は減るが、65歳から支給される国民年金で補えるとの判断だった。◎そして65歳の今「自分らしく日々を楽しむ」転機を迎えるごとにシフトチェンジしてきたショコラさん。その生き方だけでなく、ブログで注目されているのは、何よりも出費を抑えながら日常を楽しむセンスだ。「服もバッグも器も好き。でもモノは増やさず、本当に気に入ったものだけを、メルカリやネットオークションで安く手に入れます」スキンケア用品もコスパのよさで厳選。100円均一ショップも重宝するが、“安物買いの銭失い”はしない。「月初めに食費用の財布と、“そのほか”の財布に予算額だけ入れます。日用品や外食費は“そのほか”から。残額がひと目でわかり、自然に予算内に収まるんです」休日には、ママチャリで遠出して喫茶店巡りをしたり、銭湯の露天風呂でのんびり過ごすことも。「インテリアの工夫も楽しい。家具や小物など好きなものに囲まれて過ごす“おうち時間”は、至福の時です」ブログは本の感想も多く、かなりの読書家。心豊かな暮らしぶりが伝わってくる。「すべてが計画どおりだったわけではなく、今後も何が起こるかわかりません。でも、無理せず自分らしく、暮らしていきたいと思っています」◆ショコラさんに聞く、自分らしく働くために役立ったこと・そのときどきで必要な収入額を見極めて仕事を選択。・パートでも社会保険に加入でき、年金額を増やせた。・体力に合わせて仕事をシフトダウンした。◆ショコラさんの1か月の支出額・食費20,000円・日用品4,000円・衣料・美容関係12,000円・趣味・外食15,000円・医療費5,000円・交際費4,000円・水道・光熱費9,000円・携帯・通信費8,800円・保険料5,800円・その他(マンション管理費、税金など)30,000円合計113,600円※マンションは頭金100万円、月々6万5000円にボーナス払いの35年ローンを組み、10年で完済。◆切り詰めるばかりでなく、楽しみをつくる旅行費用は予備費から支出して贅沢に。写真は一昨年、山形の温泉宿とさくらんぼ狩りを楽しんだときのもの。「山形牛と露天風呂を満喫。大好きな佐藤錦も思う存分いただきました」(ショコラさん)■実録! 私たちもオーバー60で仕事をしています!(1)働くシニアのみなさんに、仕事を始めたきっかけや仕事の内容、やりがいなどをリアルに語っていただきました。《福祉》◯NPO非常勤職員(76歳)〜第2の人生と思い、障がい者を支援〜16年前、60歳で図書館職員を定年退職。その後、友人から障がい者と共に働く福祉事業所でボランティアをしないかと誘われたんです。働き続けてきたので、社会的人間関係を持ち続けたかったし、障がい者支援にも関心があったので引き受けることに。週に3、4日、家から徒歩30分の事業所に通い始めました。いわば、「第2の人生へのソフトランディング」とでもいいましょうか。やがて、きちんと仕事をしたいと思うようになり、その福祉事業所を運営するNPO法人の非常勤職員になりました。職場は、近隣にある自然食品の店と古本と雑貨の店、公民館内の売店の、3店舗です。私の仕事は、自閉症や車いす生活の人などと一緒に店を運営すること。給料計算や仕入れ商品の支払い事務も担当しています。障がい者のみなさんが、時間はかかっても、確実によい方向に変化していく様子を目の当たりにすると、うれしくなりますね。◯福祉事業の運営(64歳)〜コロナ禍を見かねて福祉の仕事に復帰〜福祉の現場で30数年働いてきましたが、60歳の定年を期に退職。その後は福祉を離れ、パートで働きながら、のんびり過ごしていました。ところが、コロナ禍の現状を見るにつけ、いまこそ福祉の力が必要だと痛感。「私も力になりたい」という、自分の本心に気づき、福祉の世界でリスタートしようと決心したのです。関係者やまわりの人に、自分の気持ちを伝えるには勇気がいりました。また、時を待つことも必要でしたが、再びフルタイムで福祉の現場に立つことができました。子育ても介護も終えた今、何の足かせもなく仕事に集中できることに、あらためて生きがいを感じています。《医療》◯診療所の受付(68歳)〜患者さんとのふれあいにやりがい〜忙しくしていた地域活動に区切りをつけ、「これからはゆっくり老後を過ごそう」と思っていました。ところが、友人に頼まれて、近所の診療所で受付の仕事をすることになりました。診療所には毎日さまざまな患者さんがいらっしゃいます。みなさんとのふれあいを通して、人それぞれに人生模様があるのだと実感。自分が意外に世話好きなことも、この年になって発見できました。少しでも患者さんの助けになればと思い、やりがいを感じています。■実録! 私たちもオーバー60で仕事をしています!(2)《販売》◯子ども服販売員(76歳)〜好きなブランドで売り上げに貢献できた! 〜専業主婦で、子どもたちも独立し、孫の送り迎えなども一段落したのが65歳のとき。空いている時間に何かできないかと考えていたところ、孫の服をよく買う外資系カジュアルブランドの店で、同年代の女性が接客しているのを見かけたんです。自分もやってみたいと思い、問い合わせると、年齢制限も定年もないとのこと。面接に合格し、ベビー&トドラー売り場に配属。週に1、2日通っています。同年代のお客さんは話しかけやすいようで、孫へのプレゼントを相談されることも。若いお母さんからは子育ての相談を受けたりして、何度か売り上げトップで表彰されました。850円の時給も今は1250円に。一度、頼まれて勤務を増やしたところ体調を崩し、元のシフトに戻してもらいました。やはり体力は以前のようにはいきませんね。1日に数時間の仕事なので収入は多くはありませんが、もともと子どもも洋服も好きなので楽しいです。職場には若い人も多いので、こちらの気持ちも若々しく元気でいられるような気がします。◯古着リフォーム店の販売員(63歳)〜初めての仕事も楽しく続けています〜知人が古着や着物で作った洋服を販売するショップをオープンしたのですが、店頭に立ってもらえる人がいないとのこと。それで、お願いできないかと頼まれたんです。古着のリフォームには関心があったので、手伝ってみることにしました。店頭販売の経験はなかったので、最初は不安もありました。でも、もともと興味があった分野でもあり、思っていた以上に楽しんでいます。《観光》◯観光ホテル客室係(62歳)〜アパレルから観光業へ〜服飾デザインの仕事をしていましたが、体力の限界を感じてやめることに。その後、10年ほど前に観光ホテルの客室係に転職をしました。コロナ禍の前は海外からのお客様も多く、なかなか国際色豊かな職場でした。この仕事を始めて、語学をもっと勉強したいと思うようにもなりました。コロナが収まり、また海外のお客様を迎える日のために、勉強を続けています。いくつになっても何か新しいことを始めるのは、楽しみでワクワクしますね。●シニアワーカーの落とし穴に注意《自分の健康は自分で守る!》加齢による体力の衰えは、個人差はあるにせよ、だれもが逃れられないもの。体力に応じて仕事を調整したり、食事や睡眠、運動といった生活習慣を見直すなど、健康管理にはこれまで以上に気をつけたい。松本すみ子さん(前出)も、シニアが働くためには「健康が最も大切」と強調する。「社員時代は会社で健診を受けていた人も、退職後は自分で積極的に受けるようにしてください」(松本さん)。教えてくれたのは……松本すみ子さん1950年生まれ。シニアライフアドバイザー、キャリアコンサルタント、産業カウンセラーとして、セカンドライフの提案や情報提供を行う。著書に『55歳からのリアル仕事ガイド』(朝日新聞出版)、『定年後も働きたい。人生100年時代の仕事の考え方と見つけ方』(ディスカヴァー21)など。教えてくれたのは……人気ブロガーショコラさん1956年生まれ。60歳から始めたブログがPV数ランキング上位になり話題に。著書に『58歳から日々を大切に小さく暮らす』(すばる舎)『65歳から心ゆたかに暮らすために大切なこと』(マガジンハウス)がある。ブログ「60代一人暮らしたいせつにしたいこと」URL:《取材・構成/志賀桂子》
2021年05月22日「皆さんが考えている以上に、老後生活は長いのです。’25年に65歳を迎える女性の64%、’35年に65歳を迎える女性の67%が、90歳まで生存すると予想されています。100歳まで生存する割合も、それぞれ17%、19%です。老後資金はそれまで持ちますか?」このような長生きリスクに警鐘を鳴らすのは、『人生にお金はいくら必要か』(東洋経済新報社)などの共著があるファイナンシャルプランナーの岩城みずほさんだ。「“老後2,000万円問題”が話題となりましたが、ご家族ごとの収入・生活レベルはそれぞれなので、一概にはいえません。かといって専門家などにライフプランの作成を依頼すると、手間も費用もかかる。しかも、せっかく作ったプランも、夫の給料の減少や子の就職の失敗などによって、変化がつきものなのです」そこで岩城さんが経済評論家の山崎元さんと共同作成したのが、状況の変化に合わせていつでも自分で計算できる、老後資金にまつわる穴埋め式計算法だ。「資産額や、今後の予想手取り年収などから、安心な老後を迎えるには、65歳までに年収の何%を貯めればいいか導き出す計算式です」岩城さん運営のホームページ「オフィスベネフィット」にて、6つの数字を入力すれば、自動的に「必要貯蓄率」を計算してくれる。それでは、空欄に入れるべき数字の解説をしてもらおう。■老後生活費率現役時代の生活費に対する、老後の生活費の割合。「一般的に老後生活に入ると、食費や交際費なども減り、生活費が安くなります。家計調査などでは、生活費は現役時代から3割減。具体的にイメージがつかない人は0.7と書き込みましょう」■平均手取り年収ポイントは“これまで”ではなく“これから”の平均手取り年収。「手取り額は健康保険料や所得税、住民税などがあるため、額面の75%ほどです。55歳から役員定年で2割減、60歳からの再雇用でさらに3割減ほどになることも考えて計算します。妻が正社員などで、今後も安定的に働く場合は、夫婦で合算した額を書き込みます。フリーランスやパートの方の収入は、不安定な要素もあるので、現在の年収よりも1〜2割少なく見積もっておくといいです」■年金額終身でもらえる年金の額。「50歳以上の人は『ねんきん定期便』の数字を参照。また50歳未満でも『ねんきんネット』に登録すれば、年金予想額がわかります。公的年金以外にも、終身で受け取れる企業年金、民間の終身年金などもあれば、合算してください」■資産額おもに現在の預貯金、株、債権、投資信託(時価)などの合算。「iDeCoや個人年金保険など有期で受け取れる年金もこちらに計上。たとえば“年間120万円を10年間受け取れる”保険商品の場合は、1,200万円を加算。退職一時金や、売却予定の不動産の評価額、親の遺産も計上します」反対に、将来予想される大きな支出はマイナスにする。「住宅ローンの残債を退職金で一括返済する場合や、家のリフォーム費、車の買い換えの費用などです」■老後年数いまの時代は95歳まで生きることを前提にするべき。「65歳でリタイアすれば、老後年数は30年。年の差夫婦で妻が若い場合は、老後年数を35年と少し増やしてみましょう」■残りの現役年数リタイアするまでの年数。「50歳の人の場合、会社員なら65歳までが一般的なので15年、自営業で70歳までは現役を続けられそうなら20年と記入します」現在の家計状況と、現実的な未来を見据え、老後設計をしよう。「女性自身」2021年6月1日号 掲載
2021年05月21日