1990年ショパン国際コンクールに歴代日本人として最年少で入賞。以来、クラシック界のトップアーティストとして常に注目を浴び続けるピアニスト・横山幸雄。彼が「自分にとってショパンと並ぶ、演奏活動の柱の一つ」と語るのがベートーヴェンだ。5月21日(日)、福岡シンフォニーホールで行なわれる「ベートーヴェン 5大ピアノ・ソナタ」は、2017年に同ホールで行なわれ大絶賛された公演の再演。今回は、スペシャルゲストにヴァイオリニストの千住真理子を迎え、 夢の共演による『クロイツェル』が実現する。「ベートーヴェンは子どもの頃から好きでした。彼が作品番号を付けて発表した全楽曲を約10か月にわたるシリーズで演奏した20代後半が、演奏家として彼の作品に集中的に取り組んだ最初。以降、2020年の生誕250年に向け、2013年から年1回のベートーヴェン・シリーズを始め、通常のリサイタルでも度々演奏してきました。コロナ禍と重なった2020年の年末にベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲を2日間にわたり連続演奏した事で、より深く凝縮してベートーヴェンと向かい合うことができたように感じます。彼は耳が聞こえなくなった音楽家として超人的なエピソードも多い人物。20代の頃は同じ人間とは思えない存在でしたが、公演の準備期間約3カ月を経て、『ベートーヴェンもやはり人間。彼がもつあらゆる人間的な側面が、様々な楽曲の端々に全て現れている』と捉えられるようになったのは大きかったです。今は、ベートーヴェンの人生と彼が創った芸術作品を、いかに磨いて、伝えていけるかを考えながら演奏しています」。千住と共演する『クロイツェル』の披露も今回のコンサートの見どころだ。「ピアノとヴァイオリンが対等に対峙するこの楽曲は、彼の金字塔のひとつ。その後“ヴァイオリン・ソナタ”と呼ばれる形式を確立した歴史的な曲でもあります。今回のプログラムは3部構成で、第1部最初の『悲愴』から第3部最後の『熱情』まで全て、28歳から34・5歳までの約7年間に書かれたもの。聴力を失いながら作曲家として生きる決意をし、私たちもよく知る名曲を次々と生み出していった時期で、『クロイツェル』は作曲順でもちょうど真ん中にあたるため、千住さんに登場頂く第2部で演奏するにもぴったりだと考えました」。プログラムには、耳の病を乗り越えていったベートーヴェンと、コロナ禍を乗り越えていかなければならない私たちという現代のテーマも重ね合わせたという。「演奏会にもようやく心置きなく足を運べるようになり始めたこの時期に、人間が持っている潜在的な能力やエネルギーをひしひしと感じさせてくれるベートーヴェンの作品群から何かを感じ取って頂き、明日への活力につなげていただけたら」と力強く締めくくった。公演は5月21日(日)福岡シンフォニーホール(アクロス福岡)にて。チケットは発売中。
2023年04月26日ピアニスト横山幸雄が2013年にスタートした「ベートーヴェン・プラス」のシリーズ8回目[9月18日(日)東京オペラシティコンサートホール]。ベートーヴェンを軸に、他の作曲家とのさまざまな接点を探る旅だ。午前中から夕方まで続くボリュームたっぷりのコンサート。今回は「変奏曲」をテーマに弾く。「ベートーヴェンのソナタをおおむね時系列に並べて弾いてきました。前回で全32曲を弾き終えて、でもまだ《ディアベリ変奏曲》が残っている。それで今回は変奏曲がテーマというわけです」《ディアベリ変奏曲》とJ.S.バッハの《ゴルトベルク変奏曲》を軸に、ベートーヴェンからは《エロイカ変奏曲》や、ソナタの中に変奏の楽章を持つ第23番《熱情》と第32番、さらにハイドンとモーツァルトの変奏曲を一挙に弾く。「《ディアベリ》と《ゴルトベルク》を組み合わせるのは、プログラムとしてはとてもきれいなのですが、とてつもなく大変で、発表するのをためらったぐらいです」《ディアベリ》と《ゴルトベルク》は変奏曲の歴史の金字塔。そこに《エロイカ変奏曲》も加えて変遷を語る。「《ゴルトベルク》は、バロックの時代にバッハが一人でやり遂げてしまった、芸術的な変奏曲の完成品なんですね。彼の前後にそういう作品はなく、ハイドンやモーツァルトの時代には、即興演奏の一つとして変奏が存在していた。若い頃のベートーヴェンもそういう変奏曲をたくさん作っていますが、ソナタのような真剣勝負の芸術作品としては捉えていなかった。それが《エロイカ変奏曲》で芸術作品としての変奏曲の可能性を切り開いたんです。ベートーヴェンのエネルギーが変奏曲の世界を大きく広げた。そしてあまりにも巨大な《ディアベリ》に到達する。そんな歴史がわかる、非常に良いプログラムだとは思うのですが、弾くのがめちゃくちゃ大変(笑)。これまでのシリーズの中で、間違いなく最も過酷なプログラムです」当初は作曲家生誕250年の2020年で完結予定だったシリーズ。ソナタもディアベリも弾き終え、もしかしてこれで終了?「そういうつもりではないです。終わりにしなくちゃいけない理由もない。ベートーヴェンと何かを関係づける形を見いだしながら、しばらく続けていきたいと思っています」となればゴールは没後200年の2027年か。ともあれ、横山幸雄とともに辿る「ベートーヴェン+音楽史」の旅はまだまだ続く。ご安心を。(宮本明)
2022年08月24日1999年に野田秀樹が蜷川幸雄に書き下ろし2つの劇場で同時上演された戯曲『パンドラの鐘』が、WOWOWで放送されることが決定した。野田秀樹が演出を手がけたNODA・MAP版では、天海祐希がヒメ女役、堤真一がミズヲ役を演じ、東京・世田谷パブリックシアターで上演された。また東京・Bunkamuraシアターコクーンで上演された蜷川幸雄演出版は、大竹しのぶがヒメ女役、勝村政信がミズヲ役を務めた。放送は今秋を予定しており、詳細は後日アナウンスされる。<作品情報>NODA・MAP『パンドラの鐘』(1999年)1999年世田谷パブリックシアター収録作・演出:野田秀樹出演:堤真一 / 天海祐希 / 富田靖子 / 古田新太 / 松尾スズキ / 銀粉蝶 / 入江雅人 / 八嶋智人 / 明楽哲典 / 春海四方 / 戸谷昌弘 / 野田秀樹 / 張春祥 / 堀朋恵 / 豊川栄順 / 音室亜册弓蜷川幸雄演出『パンドラの鐘』(1999年)1999年Bunkamuraシアターコクーン収録作:野田秀樹演出:蜷川幸雄出演:大竹しのぶ / 勝村政信 / 生瀬勝久 / 松重豊 / 壌晴彦 / 宮本裕子 / 高橋洋 / 井手らっきょ / 大富士 / 大石継太 / 森村泰昌 / 沢竜二 ほか番組公式サイト:
2022年06月23日2006年、彩の国さいたま芸術劇場芸術監督に就任した蜷川幸雄が立ち上げた高齢者演劇集団「さいたまゴールド・シアター」。日本を代表する演出家が、55才から80才までのメンバーによる劇団を立ち上げたニュースは当時、大きな話題に。あれから15年が経ち、66.7才だった団員の平均年齢は81才となり、団員数も発足時の48名から33名に減少。そして2020年コロナ禍に突入したことで、惜しまれながらも今年解散が決定。その最終公演が12月19日(日)より彩の国さいたま芸術劇場大ホールにて開幕する。最後の作品となるのは、太田省吾の代表作『水の駅』だ。太田が生み出した“沈黙劇”の1作として知られる同作は、これまで国内外で高い評価を得て上演が重ねられている。その内容は、中国で生まれた太田が幼少期に迎えた敗戦と引き揚げの体験、その時目にした大きな荷物を担いで延々と歩いていく人々の姿が根源になったという。舞台上には、取っ手の壊れた水道から水が細く流れ続けている。静寂の中、蛇口から滴り落ちる水の音だけが聞こえる。ここを通り過ぎて行った無数の人々が捨てていった投棄物が山をなしている。荷物を抱えたさまざまな人が、この水場を訪れる。人目もはばからず水を奪い合う人々、水をじっと見つめる人、身体を洗い流す人。近寄り、水に触れ、やがて水飲み場を後にしてそれぞれの場所に向かっていく……。杉原邦生撮影:細野晋司一切のセリフを排し、完全な沈黙のまま極端にゆっくりとしたテンポで進む劇の世界。今回は、2019年に自身のカンパニーKUNIOでも同作を上演した杉原邦生の構成・演出・美術で上演される。杉原は「蜷川さんや太田さんのレガシーを未来へ繋いでいくことも含め、さまざまな演劇史上の意義と真摯に向かい合い、意味ある作品にしたい」とコメント。プロの俳優とは異なる生活者としての存在感を武器に、人生のリアルを背負って舞台に立ち続けてきた面々が挑む最後の舞台をぜひ。なお、さいたまゴールド・シアターのメンバー以外に、KUNIOでの公演で少女役を演じた井上向日葵、小田豊も出演する。文:伊藤由紀子さいたまゴールド・シアター最終公演 『水の駅』2021年12月19日(日)~2021年12月26日(日)会場:彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
2021年12月15日日本を代表するピアニスト横山幸雄が、デビュー30周年を迎えたオンライン記者会見を開催した。横山幸雄といえば、今年の秋に開催が予定される世界最難関のコンクール「ショパン国際ピアノコンクール」に歴代の日本人として最年少での入賞(1位なしの3位)を誇る名手だ。1990年の同コンクール入賞を期にデビューを果たした逸材は、今やクラシック界のトップアーティスト。その活動が常に注目を浴びる存在だ。コンクール入賞後に消えてゆく音楽家も多い中、期待通りの活躍を展開する横山幸雄に拍手喝采だ。コロナ禍で迎える30周年においても、旺盛な活動ぶりにはいささかの揺るぎも感じられない。9月に開催される「横山幸雄〈デビュー30周年〉ピアノ・リサイタル ベートーヴェン・プラスVol.7」などを軸に、圧倒的なピアニズムが体験できるに違いない。会見では「ピアニストとしてキャリアの折り返し地点にも達していない」と語るだけに、今後のさらなる“太く長い”活躍に期待したい。健康維持の秘訣は「美味しいワインを飲むこと」というのも“ワイン通”として有名な横山幸雄ならでは。そういえば、横山がショパン国際ピアノコンクール入賞を果たした1990年は、ワインの世界に於いても偉大なヴィンテージイヤーとして記憶される年だ。ワイン同様、30年の歳月を経ていよいよ熟成の時を迎えつつある横山幸雄の芳醇な演奏を味わう喜びに乾杯!●横山幸雄のコンサート情報: 横山幸雄(ピアニスト)1990年ショパン国際ピアノコンクールにおいて歴代の日本人として最年少入賞を果たし、文化庁芸術選奨文部大臣新人賞など数多の賞を受賞。 ポーランド政府より「ショパン・パスポート」を授与。自ら企画する「入魂のショパン」はギネス世界記録に認定され、2019年には3日間でショパンの全作品を演奏しその記録をDVDとしてリリース。継続的に開催される意欲的な企画は常に高く評価される。パリにてラヴェルの全ピアノ独奏曲演奏会、ポーランドリサイタルツアーなど海外にも活躍の場を広げる。これまでリリースされたCDは、文化庁芸術祭レコード部門優秀賞、国際F.リスト賞レコードグランプリ最優秀賞等栄えある賞を受賞。コロナ禍にいち早く取り入れたインターネットライヴ配信「横山幸雄マイハートピアノライヴ」を現在、月に1~2回のペースで開催している。エリザベト音楽大学客員教授、名古屋芸術大学特別客員教授、日本パデレフスキ協会会長。2021年はデビュー30周年の節目を迎える。
2021年04月28日公益財団法人ソニー音楽財団による、第19回(2020年度)「斎藤秀雄メモリアル基金賞」のチェロ部門受賞者は、新倉瞳(チェロ)に決定した。※指揮者部門の該当者はなし。若手チェリスト、指揮者を顕彰することを目的とした「斎藤秀雄メモリアル基金賞」は、チェリスト・指揮者として高名な故・斎藤秀雄(1902-1974)氏に因み、2002年に創設された。過去の受賞者には、第1回(2002年度)植木昭雄、第2回(2003年度)古川展生等、日本を代表するチェリストが受賞している。一方、今回は該当者がなかった指揮部門においては、第1回(2002年度)大野和士、第2回(2003年度)広上淳一など、こちらも現在、第一線で活躍する指揮者を輩出。若手チェリスト・指揮者を世に送り出す重要な機会を提供し続けている。●新倉瞳/Hitomo Niikura(チェロ)幼少期をアメリカとドイツで過ごし、8 歳よりドイツでチェロを始める。桐朋学園女子高等学 校音楽科を経て桐朋学園大学音楽学部を首席で卒業、卒業時には皇居桃華楽堂新人演奏会に出演、御前演奏を行う。その後、バーゼル音楽院ソリストコース・教職課程の両修士課程を最高点で修了。これまでにJan Vymyslicky、毛利伯郎、堤剛、Thomas Demenga、Martin Zaller (バロ ック・チェロ) の各氏に師事。室内楽を徳永二男、原田幸一郎の各氏に師事。 2014 年より Camerata Zürich のソロ首席チェリストをつとめている。2003年いしかわミュージックアカデミーにてIMA音楽賞を受賞し、アメリカ/アスペン音楽 祭に奨学生として参加。2007年第28回霧島国際音楽祭にて霧島国際音楽祭賞を受賞。2009 年ル ーマニア国際音楽コンクール室内楽部門にて第1位を受賞。2015年スイスのベルンで開催されたOrpheus Kammermusikwettbewerbにて入賞。同年、ポルトガルのリスボンで開催された Internacional Verão Clássico 2015 チェロ部門にて第1位を受賞。2016年5月スイス/ルツェルンの高級時計ブランド Carl.F.BuchererよりPathos Woman Awardを受賞。2017年第18回ホテルオークラ音楽賞受賞。2006年8月桐朋学園大学在学中には、EMI Music Japan(現ユニバーサル・ミュージック)よ り「鳥の歌」をリリースし、紀尾井ホールにてデビュー。これまでにEMI Music Japanから3枚のアルバム、Live Notesよりピアニスト佐藤卓史とのライヴCD「ブラームス&ラフマニノフ:チェロ・ソナタ」、F.S.L.レーベルよりアコーディオニスト佐藤芳明とのDuo「魂柱と鞴」、ア ールアンフィニ・レーベルより、最新CD「ダンツァ」や高橋多佳子、礒絵里子との「椿三重奏団」を含む4枚のアルバムが発売されている。今年秋には5人の作曲家に新曲を委嘱した「委嘱作品集」が同レーベルより発売予定。また、チューリッヒを拠点の人気クレズマーバンドCheibe Balaganのメンバーとして2014年から参加し、様々な音楽祭に招かれ、音楽の幅を広げている。現在はCamerata Zürichのソロ首席チェリストとしてスイスを拠点に活躍する中、ソリスト、室内楽奏者として全国各地でリサ イタル、オーケストラとの共演を重ね、司会、番組ナレーション、音楽劇、演奏家のためのドレスM Maglie le cassettoのプロデュース等、活動の幅を広げ音楽の素晴らしさを広く深く伝えようとする姿勢は多くの共感を集めている。使用楽器は、宗次コレクションより貸与されたGiovanni Grancino(1694年製)。
2021年03月03日ショパン・コンクール入賞から30年のピアニスト横山幸雄。ショパンの全曲演奏でギネス記録(24時間でもっとも多い曲数を演奏したアーティスト)を持つ彼が、またも驚きの企画を発表した。ベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲を、2日間で一気に弾き切るという連続演奏会を敢行する[12月5日(土)、6日(日)・東京文化会館大ホール]。【チケット情報はこちら】「僕自身、ベートーヴェン全曲を1日や2日で弾くなんて、絶対やるものじゃない!と言ってきたんです。ショパンは文学でいえば詩のような感じですが、ベートーヴェンは非常にメッセージ性が強くて、いわば演説。それを一日中弾くなんて、普段だったらありえない」それが一転。一大決心に至ったのは、音楽界の現状への憂慮からだった。ベートーヴェン生誕250年の今年、予定されていた関連コンサートが次々に延期・中止。横山自身、7年かけて進めてきた「ベートーヴェン・プラス」の最終回を来年以降に延期した。「このままいくと、本来なら《第九》一色になるはずの12月もどうなるか。ベートーヴェンは12月生まれなので、本当の生誕250年は12月なんですね。このまま2020年を終わらせてしまっては、あまりにもベートーヴェンに失礼じゃないか。海外アーティストの入国規制でホールに空きも出て、やるべき企画さえあれば今からでもできる。そう考えていたら、この演奏会が誕生してしまいました(笑)」全32曲を番号順(作曲順)に弾く。2日間という短時間で向き合うことで、ベートーヴェンの人生と作風の変遷を、より凝縮して俯瞰できるはずだという。「そもそもソナタ第1番は、作品2として、26歳の年に出版されました。モーツァルトだったらすでに相当の数の曲を書いていた年齢です。フランス革命後の混沌とした時代。作曲家デビューしたくてもできなかったという事情もあったのではないでしょうか。音楽家がなかなか音楽をできない現在の状況に、どこか似ている。その後も、ようやくデビューして順風満帆かと思ったら、今度耳が聞こえなくなったりと、いろんな苦難に立ち向かい、それを全部克服していった。やっぱり、いまの状況とすごく重なる部分があるような気がするんです」それを聞くと、ベートーヴェンを象徴する「苦悩を突き抜けて歓喜へ」というモットーが思い浮かぶ。「その性格は、作品のなかにも、そしてベートーヴェン自身のキャラクターや人生にもあると思います。でも聴き手がそこから何をどう受け取るかは、まったく自由です。誰もやったことがない企画だと思いますので、それを聴いたことがある人もいない(笑)。どんな感じで聴くことになるのかを体験するのも面白いと思いますよ」全2日間11部構成・14時間半(休憩含む)というマラソン・コンサート。聴くほうも万全の体調で出かけないと。残念ながら直接足を運べないという方には、オンライン配信(有料)も検討中との事。取材・文宮本明
2020年09月14日CS放送局「衛星劇場」にて5月17日(日)に故・蜷川幸雄が手掛けた彩の国シェイクスピア・シリーズ第24弾「アントニーとクレオパトラ」をテレビ初放送することが分かった。2011年10月に上演された本作は、カリスマ的なローマの武将アントニーが、巨大な権力と地位を犠牲にしてまでエジプトの女王クレオパトラに愛をささげる物語。多くの海外公演を手掛けてきた蜷川さんが、初の韓国公演に挑んだ本作。アントニー役には、彩の国シェイクスピア・シリーズ2代目芸術監督の吉田鋼太郎。クレオパトラ役には、元宝塚歌劇団トップスターの安蘭けいが抜擢され、初めての蜷川作品、そして初めてのシェイクスピアに挑戦。ほかにも、池内博之、橋本じゅん、中川安奈、熊谷真実らが出演している。さらに、吉田さん、松坂桃李らが出演、蜷川さん演出による2013年の彩の国シェイクスピア・シリーズ第27弾「ヘンリー四世」も放送される。「アントニーとクレオパトラ」は5月17日(日)17時15分~CS衛星劇場にて放送。「ヘンリー四世」は5月23日(土)23時~CS衛星劇場にて放送。(cinemacafe.net)
2020年04月21日蜷川幸雄がこの世を去って早3年。2016年には、マームとジプシーの藤田貴大が蜷川の半生を描いた戯曲を、蜷川、藤田両者が演出する公演『蜷の綿 -Nina’s Cotton-』が予定されていた。蜷川の体調不良によって延期されたこの作品が、本日10月13日より彩の国さいたま芸術劇場 大ホールにてリーディングという形で披露される。その舞台に立つのは、さいたまゴールドシアターとさいたまネクストシアターの面々。主宰の蜷川と共に長い年月を過ごしてきたふたつの団体から総勢44人が彼の半生を紡ぐ。演出は、こちらも長く蜷川の片腕として演出助手を務めてきた井上尊晶が担当する。蜷川はその最晩年、50歳年下の藤田に新作戯曲を依頼した。藤田はその要請を受け、蜷川自身を描くことに決めた。彼の少年時代から俳優をやっていた頃、アングラ時代、そして誰もが認める日本トップの演出家として活躍する姿……。彼の死によって一度は途切れたそのバトンを受け取り、蜷川に対する並々ならぬ思いをもったメンバーが、彼のベースであった彩の国さいたま芸術劇場で上演をする。ここはかつて、蜷川のライフワークとも言えるシェイクスピアシリーズをはじめとして、彼の演出作が数え切れないほど生まれた場所だ。わずか3日間の公演だが、改めて蜷川幸雄という演出家の遺したもの、失った存在の大きさに気づく作品になることだろう。同時期にこの公演の関連企画として、藤田自らが演出を手がける『まなざし』も上演される。こちらは蜷川が演出家として見つめ続けてきたもの、その「まなざし」を藤田が探る作品となりそうだ。出演者にはマームとジプシーの俳優である成田亜佑美、吉田聡子のふたりがクレジットされている。その名もNINAGAWA STUDIOと名付けられた大稽古場で上演されるこの作品で、藤田から見た演出家・蜷川の姿が垣間見えるだろう。文:釣木文恵
2019年10月13日村上春樹の長編小説が原作の脚本を蜷川幸雄が演出するという、世界が認める日本の才能の“コラボレーション”によって2012年に初演され、以来世界各地で上演が重ねられてきた『海辺のカフカ』。今年2月のパリ公演も好評のうちに幕を閉じた作品の、およそ5年ぶりとなる東京公演が明日5月21日(火)、TBS赤坂ACTシアターにて開幕する。「世界で最もタフな15歳になる」と心に誓って東京の家を飛び出し、分身ともいえるカラス(柿澤勇人)に導かれて旅を始めた「僕」。田村カフカ(古畑新之)と名乗ることにした「僕」は、四国・高松の甲村記念図書館で、司書を務める大島(岡本健一)と管理をしている佐伯(寺島しのぶ)と巡り合う。一方、猫と会話ができる不思議な老人ナカタさん(木場勝己)もまた、何かに導かれるように東京から四国へ。カフカが長距離バスの中で出会う美容師さくら(木南晴夏)、ナカタさんと道中をともにするトラック運転手の星野(高橋努)、星野と高松で出会うポン引きのカーネル・サンダーズ(鳥山昌克)。重なるはずのない時間、出合うはずのない人々は、いつしかひとつの点を結びつつあった――。独特の春樹ワールドを、度肝を抜く視覚的な仕掛けと繊細な演技で描き出す舞台は、今回が“ラストステージ”とのこと。心して目に焼き付けたい。文:町田麻子
2019年05月20日世界的なピアニスト・横山幸雄とデザイナー・コシノヒロコの「平成」から「令和」をまたぐ、歴史的なコラボレーションがスタートした。アマゾンファッションウィーク東京(AFWT)の公式スケジュールとして3月22日に行われたヒロココシノの2019-20年秋冬コレクションは、会場となった恵比寿ガーデンホールの中央にスタインウェイのピアノ1台が置かれ、横山幸雄のソロピアノの生演奏でショーが進行。ランウェイはフロアへのプロジェクションマッピングとシンクロして、演奏する横山を中心にモデルがウォーキング。フィナーレにはコシノと横山が大きな拍手に包まれた。「時代が変わろうとするなかでの新しい挑戦。ショーを見るのと同じ次元で音を聴く。その場で得た即興的インスピレーションによる生演奏」とコシノヒロコは説明しており、最近のモードのトレンド“アートとのコラボレーション”をリアルな形で演出した。これは今シーズンのコンセプト「3D→2D→3D」とリンクしており、今回のコレクションの制作工程が演出にもディレクションされたもの。リブ、プリーツ、ダーツ、シャーリングなど最先端の技術で立体感を描きつつ、デザインはミニマム。ドット、アートプリント、タペストリーなどモチーフを2Dと3Dにシンクロさせ、クチュールテクニックをスニーカーで軽やかに表現した。ピアノの生音とラバーソールの静寂のなか、デジタルカメラの無遠慮な連続シャッター音が“時代が変わろうとする”ショーを感じさせた。世界的なシャパニストとして知られる横山幸雄と普段からプライベートでも交流する縁で実現した今回のコラボは、元号が新しくなるゴールデンウィークに第2章が用意されている。5月3、4、5日に東京オペラシティで行われるショパン全作品を演奏する「横山幸雄 “入魂のショパン”」で、横山が着るすべての衣装を、コシノヒロコが新たにデザインすることが発表された。同公演のために約20体のデザインが用意される予定だ。2010年にショパンの166曲を演奏し、同公演はギネス世界記録が認定された同氏は、第10回目となる今回の記念公演はピアノソロだけではなく、オーケストラを含め室内楽、歌曲、ピアノデュオなどショパンが39年に書き残した全240曲を一気に演奏。世界でも初めてといわれる企画に本人も、「僕にとっても初めての企画で、おそらくもう二度とやることはないのではと思う」とコメントしている。コシノヒロコの創作活動はこれにとどまらない。4月末に自身も演奏する歌舞伎座で開催される長唄杵勝会全国大会「抄曲集」に使用される舞台背景画を担当。4月2日より銀座のKHギャラリーでは、その原画となる墨絵の展覧会「コシノヒロコ展 伝統芸能の新たなる創造」がスタートした。同展では自身が直筆で絵付けした着物、漆器なども出展されている。「デザイナー、アーティストとしてわたしはずっと文化の底上げに貢献したいという強い願いと情熱をエンジンに走り続けてきた」というコシノ自身の言葉通り、今年82歳を迎えたそのエネルギーは昭和から平成を超えて、令和の時代を迎えるにあたって勢いを増している。Text by Tatsuya Noda【イベント情報】全240曲・3日間にわたるショパンの全作品演奏会~10周年記念特別公演「ショパン全作品演奏会」3日連続公演横山幸雄“入魂のショパン”会期:8月9日~9月1日会場:東京オペラシティ コンサートホール住所:東京都新宿区西新宿3-20-2時間:5月3日 14:305月4日 13:00、15:30、18:005月5日 9:00、13:00、18:00料金:3日間通し券2万4,000円(5月3日はS席)5月3日S席:1万円 / A席:7,500円 / B席:4,000円5月4、5日の1日通し券1万円、各部券4,000円【展覧会情報】コシノヒロコ展 伝統芸能の新たなる創造~長唄杵勝会第十二回全国大会歌舞伎座公演「抄曲集」舞台背景画制作記念会期:4月2日~6月8日会場:KHギャラリー銀座住所:東京都中央区銀座4-3-13 和光並木通ビルB1F時間:10:30~19:00(4月27日は13:00~)休廊日:日曜日、5月1日料金:無料
2019年04月05日ピアニストの横山幸雄が、3月12日(火)東京・サントリーホールで「東芝グランドコンサート2019」に出演。ファビオ・ルイージ指揮デンマーク国立交響楽団との初共演で、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番《皇帝》を弾く。【チケット情報はこちら】ピアノ協奏曲第5番はナポレオンがウィーンを占領した1809年に完成、1811年にドレスデンで初演された、ベートーヴェンの最後のピアノ協奏曲。「ベートーヴェンのピアノ協奏曲といえば《皇帝》でしょ?というぐらいの代表作。若い頃から書き始めて、ついにここに到達したと言える作品だと思います。ベートーヴェンが自分でこれを最後にしようと思っていたかどうかはわからないですけれども、ひとつの到達点として意識して書いたのではないかという感覚は、僕の中にはあります」私たちの持つ「ピアノ協奏曲」のイメージを決定づけたのがこの作品だという。「バロックの時代に、チェンバロとアンサンブルというところから始まって、ベートーヴェンの時代にピアノが飛躍的に発達したことで、ピアノという楽器がソロ楽器として前面に出てくるようになった。ベートーヴェンのピアノ協奏曲の中でも、特にこの第5番で、楽器としてのピアノの扱いがかなりスケールアップしています。この曲によって、ピアノ協奏曲のあり方、スタイルが確立したと言えるのです」ソナタ全曲演奏や、ピアノ協奏曲全5曲の一挙上演など、ベートーヴェンへのリスペクトをエネルギッシュに解放する横山が、ベートーヴェンと最初に出会ったのは、まだ物心がついたばかりの子供時代だったという。「家にレコードがあって、よく聴いていたのがベートーヴェンでした。だから僕の、音楽との最初の意識的な出会いというのはベートーヴェンが非常に大きかったんですよ。ピアノ協奏曲はブレンデル。ソナタはバックハウス、ときどきリヒテルという感じで。朝起きて、寝る前に、食事のとき……。1日に何度も聴いていました」。まさに「三つ子の魂百まで」!趣味の域を超えたワイン通としても知られる横山。《皇帝》をワインにたとえると?「それは変なことは言えませんね(笑)。どんな演奏かによっても違ってくるかもしれませんし。でもお遊びとしてオーバーラップさせるならば、輝かしさと力強さがあって、わかりやすい。だからといって飽きることもない。でも第2楽章の天国的な美しさがあるので、単純に“力強い”“わかりやすい”だけでもない。いろんな素晴らしさを持ち合わせているということで……。うーん。やっぱり非の打ちどころがない、ロマネ・コンティでしょうか。でも、《皇帝》は演奏される機会も多いから、その意味では、なかなか口にできる機会がないロマネ・コンティとは違うかもしれませんけれども(笑)」軽く100万円を超える最高峰ワインにはなかなか縁がない私たちも、横山幸雄の《皇帝》は聴きに行ける。力強く、高貴なベートーヴェンの最高峰を味わいに出かけよう。取材・文:宮本明
2019年02月18日「蜷川(幸雄)さんには容赦ない厳しさの中にも人の温かさがありました。蜷川さんが呼吸器をつけてまで車いすで稽古場に来てくださるありがたみも胸に迫りましたし。『ムサシ』の初日閉幕後、『溝端で正解だったな』という言葉のうれしかったこと!あの経験は宝物です」 こう語るのは、ジュノン・スーパーボーイ・コンテストでグランプリを受賞したのをきっかけに、デビューして12年目の俳優・溝端淳平(28)。現在は、故・井上ひさし原作、’16年に亡くなった蜷川幸雄演出の舞台『ムサシ』(2月11~25日/Bunkamuraシアターコクーン、3月3~11日/彩の国さいたま芸術劇場大ホール、3月16~21日/梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、3月29~4月1日/上海文化広場)の稽古に余念がない。 本作は宮本武蔵(藤原竜也)と佐々木小次郎(溝端)の「巌流島の対決」の後日談。生き延びた小次郎が武蔵に果たし状を突き付け、再対決に挑む姿を描く。溝端は本作に’13年の再々演時から参加し、今回は2度目の出演。最初にオファーが来た5年前を思い返す。 「初の侍役でしたし、厳しいと聞いていた蜷川さんの演出だけに、不安でした。武蔵役の藤原竜也さんをはじめ、達者な先輩たちの中に飛び込むんですから。でも、プレッシャーに潰されず、集中あるのみでした」(溝端・以下同) とはいえ、先の見えない長いトンネルから抜け出せない時期もあったようだ。その後の蜷川シェイクスピアでは……。 「蜷川さんに『ヘタクソ、おまえなんかやめちまえ』とボロカスに言われ、自信をなくしました。俺、何やってるんだろ、と落ち込んで。千本ノックで鍛えられながら心が折れそうに。でも、いつも諸先輩の支えで乗り越えてきました。吉田鋼太郎さんは、ご自宅で稽古をつけてくださって」 加減や限界を知らずに懸命に声を張り上げ、喉にポリープを作り病院に通いながらも、がむしゃらに立ち向かった溝端。味わった挫折感は確実に武器になっている。 「板の上では先輩も後輩もない。今回も竜也くんを本気でぶっ倒す気で挑みます(笑)」
2018年01月22日昨年逝去した蜷川幸雄さんが率いていた高齢者劇団、さいたまゴールド・シアター。巨星を失った劇団の新たなスタートとなる次回作さいたまゴールド・シアター第7回公演『薄い桃色のかたまり』は、過去に2作の戯曲を書き下ろした岩松了さんが作・演出を手がける。「台詞をスラスラ言うのだけが演劇の面白さじゃないと思う」「蜷川さんという人は、演劇のなかで、人がどの立場に立っているかという“場”を重視していた方だと思います。僕はこれまで家庭の中のいびつな世界を描いてきましたが、蜷川さんに託す戯曲に関しては、あえて社会的な問題を意識して書いてきました。そこでなら、お互いが繋がれるような気がしていたんです」その蜷川さんと話していた次回作のモチーフが福島だったという。「いま避難指示解除地域では、家の中にイノシシが入り込んでいるっていう状況があるんですよね。福島が抱える一番の問題は放射能だと思うのですが、放射能を直接的に描くのではなく、イノシシの問題に置き換えて物語にできたらと思ってます」福島を舞台に、住民と、東京から恋人を捜しに来た女、事故を起こした会社側の人間…さまざまな立場から震災後の様子が描かれていく。「今回は、被害者を中心とした話ではありません。被害者側から書けば、どうしたって善悪の話になりますが、それは演劇の役目じゃない。あくまで演劇として、被害者、加害者双方を等価に書くことで、渦中で軋轢を感じている人たちの間に起きているドラマを表したいんです」取材前、稽古を見学させてもらった。言葉の一文字一文字に含まれた微妙なニュアンスが対話に緊張感をもたらしていく岩松戯曲は、台詞を覚えるのもままならないゴールドのメンバーにとってかなり手ごわい。それでも何度も根気強く丁寧に演出をつける姿が強く印象に残った。「確かに台詞を覚え切れないことにジレンマは感じますが、スラスラ言えれば面白いかといったら、そうじゃないですよね。いろんな要素が絡み合って、ある空気が醸し出される。それが演劇だと思っています」いわまつ・りょう劇作家、演出家、俳優。今年5月に上演した舞台『少女ミウ』でも福島をモチーフに。「ひとつの世界をふたつに分けて書いたつもりです」’06年創設時の平均年齢は66.7歳。フランス、香港でも公演し、高い注目を集めた。現在平均年齢78.0歳。『船上のピクニック』(’07年)、『ルート99』(’11年)。共に岩松さんの脚本。さいたまゴールド・シアター第7回公演『薄い桃色のかたまり』9月21日(木)~10月1日(日)与野本町・彩の国さいたま芸術劇場 インサイド・シアター(大ホール内)作・演出/岩松了全席自由4000円(税込み)SAFチケットセンターTEL:0570・064・939※『anan』2017年9月27日号より。写真・土佐麻理子(岩松さん)インタビュー、文・望月リサ(by anan編集部)
2017年09月26日東京・品川の「原美術館」では、5月10日(水)~5月19日(金)まで、蜷川実花の個展「蜷川実花 うつくしい日々」を開催する。本展は、蜷川実花が、父・幸雄の死に向き合う日々を撮影した写真約60点で構成されている。「うつくしい日々」が撮影されたのは昨年の春。本展は同じ季節に開催される10日間という絶好のタイミングでの展示となる。原美術館では、2015年に蜷川実花の個展「Self-image」展を開催した。あれから1年の間に写された蜷川幸雄と蜷川実花の“うつくしい日々”は、作家本人が「どうしてこんな写真が撮れたのかわからない」また「逝く人の目で撮った写真」と表現するように、彼女のこれまでの作品とは一線を画すものとなった。人の生死、喜びと悲しみが共存する個人宅であった原美術館が、作品世界とリンクし、その公開に相応しいという思いから、スケジュール上、たった10日間の展示となるが、開催することが急きょ決定された。ぜひこの機会をお見逃しなく。開館時間は、11時~17時。水曜は20時まで。入館は閉館時刻の30分前まで。関連イベントとして、5月14日(日)11時半~13時に「対談 蜷川実花×飯沢耕太郎」を開催。会期中無休。(text:cinemacafe.net)
2017年05月08日小栗旬や藤原竜也をはじめ、現在第一線で活躍する俳優・女優たちを厳しくも愛を持って育ててきた故・蜷川幸雄。多種多様なキャスティングと独創的で強烈な演出で“世界のニナガワ”としてその名を轟かせた蜷川さんの傑作舞台「彩の国シェイクスピア」シリーズ全22作品が、映像配信サービス「dTV」にて独占配信中だ。去る5月12日、惜しまれつつも80歳でこの世を去った世界的な演出家、蜷川さん。“演劇界の革命児”とも呼ばれ、国際的にも高く評価された舞台演出家として文化勲章も受賞するなど、数々の功績を残してきた。現在、dTVの「シアターチャンネル」では、そんな巨匠による傑作舞台「ロミオとジュリエット」をはじめとした名作を配信中。さらに、映像配信サービスでは初めてとなる「彩の国シェイクスピア」シリーズ全22作品を独占配信がスタートしている。現在は夫婦となった市村正親と篠原涼子が初共演した名作悲劇「ハムレット」をはじめ、小栗さんが主演を演じ、男性俳優のみが集結した“オールメール・シリーズ”の名作「お気に召すまま」や「間違いの喜劇」、阿部寛、藤原さんらが出演し、シェイクスピア作品の中でも特に人気が高いローマ悲劇「ジュリアス・シーザー」、唐沢寿明、田中裕子、長谷川博己などによる「冬物語」など、数々の名作を名優たちの演技と共にもう一度楽しむことができる。<配信タイトル>(全22作品)「十二夜」「リチャード三世」「ハムレット」「ペリクリーズ」「タイタス・アンドロニカス」「間違いの喜劇」「マクベス」「お気に召すまま」「コリオレイナス」「恋の骨折り損」「オセロー」「リア王」「から騒ぎ」「冬物語」「ヘンリー六世」「じゃじゃ馬馴らし」「アントニーとクレオパトラ」「シンベリン」「トロイラスとクレシダ」「ヘンリー四世」「ヴェニスの商人」「ジュリアス・シーザー」蜷川幸雄「彩の国シェイクスピア」シリーズはdTVにて配信中。(text:cinemacafe.net)
2016年06月16日元AKB48で女優の前田敦子(24)が16日、自身のツイッターを更新し、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんへの思いをつづった。2014年に蜷川さん演出の舞台『太陽2068』で舞台に初挑戦した前田は、「2年前に私を新しい世界に優しく手招きして導いてくださった蜷川さんには、一言で言えないくらい本当に感謝しています」と追悼。そして、「教えて頂いた言葉がずっと巡っています。文章には書き表せられない心のなかにだけ止めて置きたい感情も沢山あります」とつづり、「教えて頂いた全てをずっと大切にしていきます」と誓った。
2016年05月17日演出家・宮本亜門が、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんに対して、所属事務所を通じて追悼のコメントを発表した。宮本は「日本の創作力をこれほど世界に知らしめた演出家はいません」と蜷川さんの功績に触れた。更に、蜷川さんから「俺はこんな苦労してモノクロで革命を起こしているのに、なんで亜門はカラフルにそれをできるんだ」と言われたエピソードを明かしながら、蜷川さんこそが「日本の魅力を力強く、大胆に、美しい革命を世界に魅せつけたクリエーター」だったと語る。そして、同じ演出家として「蜷川さんが全身全霊で伝えてくれた、生きるパッションとクリエーションの力を、自分なりに精一杯受け継ぎたいと思います」と決意を表明した。■宮本亜門コメント日本の創作力をこれほど世界に知らしめた演出家はいません。「俺はこんな苦労してモノクロで革命を起こしているのに、なんで亜門はカラフルにそれができるんだ」とおっしゃっていましたが、これほど見事に日本の魅力を力強く、大胆に、美しい革命を世界に見せつけたクリエーターはいません。心からご冥福を祈ると共に、蜷川さんが全身全霊で伝えてくれた、生きるパッションとクリエーションの力を、自分なりに精一杯受け継ぎたいと思います。
2016年05月13日俳優・藤原竜也が、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんに対して、所属事務所を通じて追悼のコメントを発表した。藤原は「最期に会えて良かったです」と、蜷川さんが亡くなる前日、病院にお見舞いに行ったことを明かした。1997年、蜷川さんの舞台『身毒丸』主役オーディションで抜擢されてデビューした藤原は、「僕を産んでくれたのは蜷川さんです。沢山の演劇人生をありがとうございました」と感謝の言葉を捧げ、「真面目に突き進んでいきます」と思いを表した。藤原の代表作となった舞台『身毒丸』は1998年、2002年、2008年と再演。藤原は更に『ハムレット』(2003年、2015年)、『ロミオとジュリエット』(2004年~2005年)などのシェイクスピア作品や、『唐版 滝の白糸』(2000年)、『下谷万年町物語』(2012年)といった唐十郎作品など、多くの蜷川演出作品に携わっていた。■藤原竜也コメント最期に会えて良かったです。僕を産んでくれたのは蜷川さんです。沢山の演劇人生をありがとうございました。真面目に突き進んでいきます。
2016年05月13日俳優の吉田鋼太郎が、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんに対して、所属事務所を通じて追悼のコメントを発表した。吉田は「偉大な演出家であり、最大の恩師であった蜷川さんの訃報に言葉が見つかりません。今はまだこの現実を受け止められておりません」と悲しみを綴った。吉田はシェイクスピア劇、ギリシア悲劇など広く舞台俳優として活動しており、近年はNHK連続テレビ小説『花子とアン』(2014年)、テレビ東京系ドラマ『東京センチメンタル』(2016年)など、映像での活躍も注目されている。蜷川作品においても常連であり、『タイタス・アンドロニカス』(2004年、2006年)、『オセロー』(2007年)、『アントニーとクレオパトラ』(2011年)、『ヘンリー四世』(2013年)などの作品で主演を務めていた。
2016年05月13日俳優の市村正親が、12日に亡くなった演出家の蜷川幸雄さんに対して、所属事務所を通じて追悼のコメントを発表した。現在67歳の市村は「50歳でリチャード三世で初めて演出して頂きました」と、蜷川さんとの初タッグ作品を挙げる。その後、53歳で演じたハムレットについて「イチ(市村)でハムレットをやりたいと言われ、こんなに光栄な事はありませんでした」と綴った。更に市村は「蜷川さんの代表作NINAGAWA・マクベスをやらせて頂きました」と2015年に出演した蜷川作品に触れ、「最後の演出でしたが、ニーナと出会う事が出来て本当に役者としてシェークスピア俳優にさせて頂きました。感謝してもしきれません」と故人への謝意を表しながらも、「悔しいです! 淋しいです!」と思いをにじませた。■市村正親コメント50歳でリチャード三世で初めて演出して頂きました。その後ハムレットを53歳。イチでハムレットをやりたいと言われ、こんなに光栄な事はありませんでした。そして蜷川さんの代表作NINAGAWA・マクベスをやらせて頂きました。渾身の魂からの演出に心から感謝です。最後の演出でしたが、ニーナと出会う事が出来て本当に役者としてシェークスピア俳優にさせて頂きました。感謝してもしきれません。運命を呪います。しかし現実を受け止め、これからは天国からの演出に心を傾けたいと思っています。悔しいです! 淋しいです!
2016年05月13日写真家で映画監督の蜷川実花氏(43)が12日、自身のインスタグラムを通じ、父で演出家の蜷川幸雄さんが同日に亡くなったことを明かした。80歳だった。実花氏は、格子越しに桜が映し出された写真を投稿。「今日、父が逝ってしまいました」と報告し、「最期まで闘い続けたかっこいい父でした。父の娘でいられたことを誇りに思います」とつづった。ファンからは700件を超える追悼コメントが続々と寄せられている。蜷川さんは昨年12月に軽度の肺炎で入院。今年2月から舞台を上演予定だったが、十分に回復しなかったことから延期が発表されていた。
2016年05月12日蜷川幸雄さんや野田秀樹さんからその才能を高く評価され、“演劇”の枠を超えた人気を獲得しているマームとジプシー。いま最もホットな劇団が、新たに誕生するホール「LUMINE 0」のオープニングを飾る。主宰であり作・演出の藤田貴大さんが上演作に選んだのは、「海外に持っていくことを念頭に」作った『てんとてん…』と『カタチノチガウ』、そして「思い入れがある」という『あっこのはなし』の3作。「演劇って、どこか高尚で敷居が高いイメージがありますよね。それをもっとカジュアルにできないかというのが今回のテーマなんです。セレクトショップみたいに、服や化粧品を買ったり、CDを選ぶのと同じ線上に演劇を並べることができないかと思うんです。そういう軽やかさが新しい時代に行く演劇なのかなと」(藤田さん・以下同)近年、東京芸術劇場や彩の国さいたま芸術劇場と組んだ作品づくりなどもおこなっている藤田さん。しかしその一方で、「小さな空間で、かぶりつきで観る演劇ならではの質感とか尊さも大切にしたい」と話す。「正直、3作品を同時に稽古しているわけで、それはすごく大変なことではあるけれど、それと同時に面白さもあるんですよね。ツアー公演の時に、僕らが持っていくのって、せいぜいスーツケースひとつぶん。役者さんが床に線を引いて荷物を広げたら、すぐに芝居が始められるんですよ。今回も、同じ舞台に物が少し置かれただけで作品が変わるわけです。展示替えのように、3日おきに新作が入荷しました、みたいに見えたらいいですよね」◇4月28日(木)~5月8日(日)ルミネ ゼロ4月にオープンしたJR新宿駅直結の複合施設、NEWoMan内。東京都渋谷区千駄ヶ谷5‐24‐551作品4000円マームとジプシーTEL:070・5454・7311mum_gypsy@yahoo.co.jp◇ふじた・たかひろ1985年、北海道生まれ。'07年にマームとジプシーを立ち上げ、全作の作・演出を担当。'11年に岸田戯曲賞受賞。'14 年に野田秀樹作『小指の思い出』を上演し話題に。※『anan』2016年5月4日‐11日合併号より。写真・小笠原真紀インタビュー・文・望月リサ
2016年05月02日初演から36年が経った伝説の名作『元禄港歌―千年の恋の森―』に、宮沢りえが挑む。『近松心中物語』で知られる秋元松代の戯曲を初演と同じく蜷川幸雄が演出するこの舞台。許されない恋を抱えた瞽女を演じる宮沢は、情感あふれるこの物語にどう命を吹き込むのか。舞台『元禄港歌 -千年の恋の森-』チケット情報物語の舞台となるのは、江戸は元禄の時代の播州の港町。秘密を背負った母子、結ばれない男女など、瞽女の一行と大店の人々をめぐる幾重にも重なった宿命が、哀しく切なく描かれる。「野田秀樹さんや唐十郎さんといった、自分がこれまでやってきた舞台とはまったく異なる世界観の作品。女の情念みたいなものをそのままさらけ出すような、演じたことのない役でもあるので。蜷川さんがまた私にハードルを与えてくださったなと受け止めています」。演じる瞽女の初音は、これまでに太地喜和子や富司純子が演じてきた役。盲目の女芸人として生きる純粋な覚悟や女性としての激しさ、さまざまな情感を体現することを求められる。「目が見えない人間には何が見えるのか。目に映らないものが心にどう映るのか。そういう探求がこれから待っているかと思うとすごく楽しみなんです。深く考えれば考えるほど見えてくるものがあると思うから、その思索を大事にしたいですね」。瞽女一行をまとめる母のような存在を市川猿之助が演じるが、女方の共演はかつて坂東玉三郎と経験している。「女方の表現とどう交われるのかっていうのは、今度も緊張しますけど、だからこそ楽しみです。学ばせていただくこともきっといっぱいあるだろうなと思いますし、私も私なりにお返しできるような表現ができたらいいなと思いますし。ただ、お芝居というのは肉体ではなく魂の問題だと思うから。男性の猿之助さんも女性の私も同じところにいるんじゃないかなと思っています」。まさしくその魂が自由な人なのだろう。「お芝居のなかでは、誰を愛しても殺してもいい(笑)。不思議な仕事だなと思うけど、そういう意味では、お芝居をしているときがいちばん、身も心も自由になれて、深く呼吸ができる気がします」。今の時代にはない人間の関係や感情が描かれるこの舞台でもきっと、自在にあふれるものを見せてくれるはずだ。「今この作品をやる意味、私が参加させてもらう意味というのがあると思うので、それをちゃんと自覚しながら、この時代の人たちの思いを伝えることに試行錯誤したいです」。伝説の舞台は、心震わせるものをもたらしそうだ。公演は2016年1月7日(木)より東京・シアターコクーン、2月6日(土)より大阪・シアターBRAVA!にて上演。現在、ほぼ完売状態の東京公演は、チケットぴあにて立見券を発売中。取材・文:大内弓子
2015年12月11日7月、東京・Bunkamura シアターコクーンで上演する蜷川幸雄演出舞台『盲導犬』に、古田新太、宮沢りえ、小出恵介の出演が決まった。1973年に唐十郎が櫻社のために書き下ろし、蜷川幸雄が初めて唐戯曲を手がけた記念碑的作品。石橋蓮司、蟹江敬三、緑魔子が出演した伝説の舞台だ。蜷川は1989年に再び同作を手がけ、この時の出演者にはまだ年若かった木村拓哉も名を連ねた。そして今回、人気・実力を兼ね備えた3人の俳優を得て、24年ぶりに同作を再演する。舞台は新宿。盲人の影破里夫(エイ ハリオ)は、伝説の“不服従”の盲導犬・ファキイルを探し求めている。新宿にもうひとり、開かずのコインロッカーと格闘する女、奥尻銀杏(オクジリ イチョウ)がいる。ロッカーの中には、初恋の人タダハルの手紙が入っているのだが、南国で殺害された夫が鍵を持ったままなのだ。盲人と女、ふたりの魂は自ら求めるもののため、新宿をさまよう。はたして銀杏はタダハルと再会できるのか。そして、破里夫はファキイルに出会えるのか。破里夫に古田新太、銀杏に宮沢りえ、そして破里夫とともにファキイルを探し歩くフーテン少年に小出恵介。3人の舞台巧者がスペクタクル性と繊細な叙情性をあわせ持つ唐十郎作品に挑む。舞台は7月に東京・Bunkamura シアターコクーン、8月には大阪でも公演予定。
2013年02月05日イスラエルのユダヤ系とアラブ系、そして日本という異なる文化が集まり、演出家・蜷川幸雄のもと3年前からプロジェクトが進められてきた舞台『トロイアの女たち』。奇襲作戦“トロイの木馬”で知られる、ギリシャ軍に敗れたトロイアの王妃と娘たちの行く末を描いたギリシャ悲劇だ。しかしそこに綴られた“憎しみの連鎖”は、2400年前に書かれたとは思えないほど現代社会にも通じる生々しさをもつ。まずは日本で、その後はイスラエルにあるテルアビブ市立カメリ・シアターで上演予定の本作。11月下旬、クリエイトの現場となっている稽古場に立ち会うことができた。『トロイアの女たち』公演情報稽古前、いつものようにさりげなく歩き回り、キャストに声をかけていく蜷川。王妃ヘカベを演じる白石加代子を始め、ユダヤ系とアラブ系のメインキャスト、そして各人種混合のコロスまで、全員がすっかり打ち解けている様子だ。台本を見せてもらうと、右ページにはヘブライ語とアラビア語のセリフが、左ページには日本語と、右ページのセリフをカタカナに直したものが記されている。演者は馴れない外国語のセリフに注意深く耳を傾けなければならず、さらにひとつの動作でさえ、同じ国の人間なら察することが出来るものも、すぐに理解できるとは限らない。この日は地面にひれ伏す動きを見たユダヤ系キャストが「疲れて倒れたのか?」と身体的な質問をし、「哀しみに暮れている様子を表しているんだ」と蜷川が精神的な面を説明するひと幕も。稽古は続けて終幕の部分。夫も息子も殺されて自らも奴隷となることが決まったヘカベが、惨殺された孫アステュアナクスの亡骸をかき抱く場面だ。白石が能を思わせる言い回しで嘆き悲しむと、周囲の空気が一気に張り詰める。取り囲む15名のコロスもそれぞれの文化のリズムで鎮魂歌を歌い出すのだが、和を重視する日本側と、個々で見せようとするイスラエル側との動きが違いすぎて、まとまりを欠くことに。蜷川から「コロスは無名な人たちだけれど、だからこそある意味でこの物語、この歴史の主役。それを意識してほしい」と鋭い声が飛ぶ。うなずいたり考え込んだりといった表情の面々だったが、再びその場面を返すと、今度は個の動きを保ちつつ、少しずつ互いを見合うなどの変化があった。予定調和ではないヒリヒリとした現場の熱に、思わずこちらも引き込まれた瞬間だった。本作の会見で“演劇を通して世界にコミットしたい”と改めて語った蜷川にとって、宗教的・民族的な紛争を今も抱えるイスラエルとの共同制作は特別な意味をもつ。ヘカベ役の白石に向けた、「一元的な悲しみで演じないでほしい。世界にとってこの悲劇がどういう意味をもつかが重要なんだから」という蜷川の言葉。それは演劇と、この普遍的な物語がもつ力を信じる彼の、覚悟の表明でもあるのだろう。公演は、本日12月11日(火)から20日(木)まで東京芸術劇場プレイハウス(中ホール)にて。チケットは発売中。取材・文:佐藤さくら
2012年12月11日鬼才・橋本治が約40年前、作家デビューする以前に書き下ろしたという幻の戯曲『ボクの四谷怪談』。偶然、戯曲を目にした蜷川幸雄が長らく上演を温めていたというその舞台が、豪華な役者陣と、音楽監督に鈴木慶一を迎え、9月17日に東京・シアターコクーンにて初日の幕を開けた。“騒音歌舞伎(ロックミュージカル)”と銘打つ通り、鶴屋南北の有名な歌舞伎『東海道四谷怪談』をベースに、ファッションや風俗を執筆当時の1970年代に置き換え、随所にロックなど多彩な音楽を散りばめた異色作。開演前には、フォトコールと記者会見が行われた。ネオンサインがきらめく舞台に大音響でロックが流れ、ヒッピー風の男や着物姿の女、テキ屋風のオヤジに通りすがりの商売女など、雑多な登場人物が次々に現れては歌うオープニング。次に場面は飛び、「御休処」と書かれた小屋の前。後ろには書き割りの松が立ち、セットは歌舞伎の舞台さながらだ。Tシャツにジーパン姿の伊右衛門(佐藤隆太)が地面に売り物を広げていると、友人の直助(勝地涼)がやってくる。セーラー服が可憐なお袖(栗山千明)を紹介されて直助は喜ぶが、リーゼント姿の直助にお袖は気のない様子。ふたりが去ると、今度はスーツ姿の与茂七(小出恵介)が現れ、「お前、生きてて面白いか?」と伊右衛門を挑発する。敵討ちの計画を得意げに語る与茂七と、「どうだっていいじゃねぇか」とぶっきらぼうに返す伊右衛門。両者の掛け合いはそのまま歌につながり、「生き甲斐」と「死に甲斐」をそれぞれに主張する歌声が交差して広がる。会見では、「伊右衛門はずっとモヤモヤを抱えているので、僕も初めはどう演じたらいいか迷ってしまって。(蜷川と何度も仕事をしている)小出くんにはだいぶ助けられました」という蜷川作品は初参加の佐藤に、隣で小出が照れくさそうにするひと幕も。「蜷川さんは稽古でOKだった演技も、初日でやっぱりダメと言い出したりするから」と暴露する小出に、いつの間にか後ろから見ていた蜷川が「うるさいよ!」と突っ込むなどチームワークは万全の様子。「舞台上でパワーを放出していきたい」(勝地)、「台本がブッ飛んでいるので、驚きつつ楽しんでもらえたら」(栗山)と語るふたりも笑顔だ。その他、尾上松也(お岩役)や三浦涼介、谷村美月ら若手実力派の熱量を、麻実れい、勝村政信らベテラン勢がしっかりと支える本作。高揚感と共に伝わるその面白さは、ぜひ劇場で体感してほしい。騒音歌舞伎(ロック・ミュージカル)『ボクの四谷怪談』は、10月14日(日)までシアターコクーン、10月19日(金)から22日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。取材・文佐藤さくら
2012年09月18日ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下KERA)の新作『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』が12月にKERA自身の、そして来年1月に蜷川幸雄の演出でシアターコクーンにて連続上演される。この一大プロジェクトに先駆けて某日、都内スタジオで行われたKERAバージョンの宣伝写真撮影現場に潜入した。『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』KERAバージョンのチケット情報スタジオでは生瀬勝久が撮影中。口に綿を含み、恰幅の良い姿で登場すると、「太った役をすると急にお腹が減る」と軽口をたたいて場を和ませていた。「写真は苦手」といいつつも次々とユニークなポーズをとる生瀬に、KERAからも笑いがこぼれる。本作では横暴で独裁的な市長を演じる生瀬。「たくさんのキャストが出ていても人間関係がつながっていて、それぞれ想いの輪郭が非常にはっきりしたキャラクターが描かれている。今回は僕自身知り合いが多いので、楽しみです」とKERA作品の魅力を語ったかと思うと、「(蜷川バージョンで同じ役を演じる)勝村政信には負けません! 投票してもらって決着をつけたい」と声を張り、スタジオは笑いに包まれた。今回が初舞台となる夏帆が撮影に入ると「あんまり純粋可憐になりすぎないように」とKERAが声をかける。役をイメージして細部にも気を配るKERA。次に撮影したのは2度目のKERA作品参加となる小出恵介。貧しい青年を演じる小出は「もっとおびえている感じだとどう?」というKERAの注文に瞬時に応え、順調に撮影が終了。小出は「出演者の波長が合ってひとつのメロディを奏でるような状態になれば、戯曲が観る方に伝わるはず。いまは何も予想できないし、KERAさんの作品はふたをあけてびっくりすることが多いから、こちらはなるべく柔軟にやっていかなくちゃと思っています」と意気込みを語る。現在、脚本執筆中のKERAに話を訊くと、「この脚本を蜷川さんにも演出していただく、という意識はやっぱりずっとある。実は一度蜷川さんとお会いして話したんだけど、その時の話は申し訳ないことに全く活かされてない」と苦笑。「いつもならこのセリフはこの役者ならこんな言い方をするだろうというシミュレートが頭の中にできているけれど、今回はあて書きをしていない。たとえば犬山イヌコが演じる役を蜷川さんバージョンでは伊藤蘭さんが演じる。そういう全然違うタイプの人が発するセリフをどちらにも寄せ過ぎず、ということをずっと考えていますね」と話す。まだ全貌の見えないこの作品がどんな形で目の前に現れるのか、年末が楽しみだ。KERAバージョン『祈りと怪物~ウィルヴィルの三姉妹~』は12月9日(日)から30日(日)まで東京・Bunkamura シアターコクーンにて上演。その後、2013年1月11日(金)から14日(月・祝)まで大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!にて公演が行われる。チケットは東京・大阪公演ともに10月6日(土)より一般発売開始。なおチケットぴあではインターネット先行抽選・プレリザーブの申し込みを9月19日(水)11時まで受付中。取材・文:釣木文恵
2012年09月12日蜷川幸雄演出による〈彩の国シェイクスピア・シリーズ〉の第26弾として『トロイラスとクレシダ』が上演される。本作はシェイクスピアが戯曲を書いた時代のスタイルそのままに、全キャストを男優が演じる「オールメール・シリーズ」の6作目にして初の悲劇。主演の山本裕典をはじめ、月川悠貴、細貝圭、長田成哉、佐藤祐基、塩谷瞬、内田滋ら若い俳優が多く出演する。7月下旬、熱気溢れる稽古場を訪ねた。『トロイラスとクレシダ』チケット情報物語は古代ギリシアのトロイ戦争が舞台。トロイの王子トロイラス(山本)は、神官の娘クレシダ(月川)に狂おしいほど思いを寄せていた。クレシダの叔父パンダロス(小野武彦)の取り持ちによってふたりは永遠の愛を誓い合い結ばれるが、捕虜交換によりクレシダは敵国ギリシア軍へ送られる。時がたち、軍使としてギリシア陣営に訪れたトロイラスが見たものは、新たな恋人と抱き合っているクレシダの姿だった。「勇気もって、言葉で言葉で!」蜷川の声が、エネルギッシュに鋭く、テンポよく次々と飛んでいる。気持ちの乗っていないセリフには「うそつき!」、手を抜いて演じているとみれば「省エネ!」と厳しい言葉も浴びせるが、そのスピードに役者は落ち込んでいる暇はない。蜷川には今回、若い世代を育てたいという思いがあり「最近の若い俳優たちは、自分の日常生活に近い芝居はできるけれど、シェイクスピアやギリシア悲劇のような、縦軸としての教養を必要とする戯曲は、違和感があってできない。今回のセリフは特に論理的。彼らにとって異質な言語をぶちこむ」と実に意欲的だ。厳しい言葉の裏には若い俳優たちへの愛情と優しさが透けて見える。気になるセリフには一つひとつ、どこを強調するのか、語尾の言い方などを具体的に演出していく。「屁理屈を言うよりもね、具体的で早いでしょ」と話すように、指示は的確で明快だ。稽古場を訪れた日は、トロイラスとクレシダがふたりで初めて朝を迎えたシーンの稽古中。やっていて難しいところはと山本に訊くと「ヒロインとは言え、相手は男性。いちゃつくところは抵抗がないと言えばうそになりますね」と照れ笑い。蜷川とは2回目のタッグとなるが「自分は無知なところがすごくあるので、今回は1から100まで鍛えてもらう感じで挑みます。毎日大変ですが、これを乗り越えれば役者としてまた一歩成長できるのかな」と話していた。稽古を終えた蜷川は「よし、ここは明後日くらいには熟成してくるだろう」とぼそり。多くの俳優を育ててきた蜷川には、すでに完成形が見えているようだ。強い言葉を浴びせながらも、期待に応えようと四苦八苦する若手俳優たちの姿に、蜷川が嬉しそうな表情をみせるのが印象的な稽古場だった。公演は8月17日(金)から9月2日(日)まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場にて上演。その後、大阪、佐賀、愛知を巡演する。取材・文:大林計隆
2012年08月06日作家・橋本治が東大在学中に書いた幻の戯曲が、蜷川幸雄の演出で上演される。その名も『ボクの四谷怪談』。鶴屋南北の怪談をベースに、生きる目的を求めて右往左往する若者たちの姿を描く“騒音歌舞伎(ロックミュージカル)”だ。橋本ならではのポップな現代語で綴られたセリフに加え、鈴木慶一によるオリジナル・ロックナンバーが随所で炸裂する。物語を担うのは橋本が「七人の侍」と名づけた若者たちで、民谷伊右衛門を演じる佐藤隆太は、今回が蜷川演出初挑戦となる。騒音歌舞伎(ロック・ミュージカル)「ボクの四谷怪談」 チケット情報「蜷川さんから声をかけていただけるとは思ってもいなかった」と率直に驚きを語る佐藤。近年では映像での活躍が目覚ましいが、「自分を試される場」という舞台への思い入れは深い。「役者として今まで何を積んで来たのか、あらわになるのが舞台だと思う。その怖さを感じているからこそ逃げたくないし、出来るだけ舞台に立ちたいと願い続けています。でも、ここまで大きな山に向き合うことになるとは(笑)」。共演陣には小出恵介、勝地涼、栗山千明ら、蜷川演出を経験済みの若手も多く、「一番の後輩のつもりでアドバイスをもらいたい」と笑う。「第一線を走りながら、なお挑戦を続けられる蜷川さんのパワーを感じたい。コテンパンにやられる可能性も含めて、楽しみです」。伊右衛門は病身の妻お岩を持て余し、職も生きがいも定まらず運命に流される。しかし女にはモテる、やっかいな色男だ。映像作品での「熱く真っ直ぐな男」像から、人生に戸惑い、真摯に悩む男性像へと表現の幅を広げている佐藤にとって、さらに新境地を拓く役柄でもある。「自分が思う以上に“熱い男”というイメージを抱いている方も多くて、驚くことはありますね。そう思っていただくのは光栄な一方で、役者としてどんな役にも挑戦したい。絶好のチャンスをいただきました」。今回は「ロックミュージカル」だけに、伊右衛門が歌うナンバーもしっかりある。実は1999年、佐藤が俳優デビューを飾ったのもミュージカルの舞台(宮本亜門演出『BOYS TIME』)だったが、「僕は歌が決してうまくないんです」と告白するのがこの人らしい。「目指すところは“魂をガツンと届けられる”歌と芝居です。思えば初舞台の時は、歌も芝居もダンスもピカイチで下手なのに、よくもあれだけ堂々としていたなと(笑)。10年以上役者をやってくると、どんどん芝居することが怖くなってくるんです。何も恐れずにハチャメチャをやっていた、あの時の自分も無くさずにいたいですね」。共演は小出恵介、勝地涼、栗山千明、三浦涼介、谷村美月、尾上松也、勝村政信ほか。公演は9月17日(月・祝)から10月14日(日)まで東京・シアターコクーン、10月19日(金)から22日(月)まで大阪・森ノ宮ピロティホールにて上演。チケットは東京・大阪ともに7月21日(土)より一般発売開始。なおチケットぴあではインターネット先行抽選を東京は7月11日(水)11時まで、大阪は7月10日(火)11時まで受付中。取材・文:市川安紀
2012年07月03日