■架空の「庭」たちとの出会い
白状してしまうと、私はまだ香りについてはド素人なので、香水を選ぶときはボトルのデザインや出会ったタイミング、ひと吹きしてみた印象など、かなりの部分で直感に頼っている。
なにより気になるのは調香師がその香水をどんなイメージで作り上げたかで、香水の紹介文(説明書き)が魅力的なブランドばかり気になってしまう。
たとえば、定番中の定番だけれど、エルメスに「庭園シリーズ」という5つの“庭”をモチーフにしたフレグランスのシリーズがある。
これは2016年までエルメスの専属調香師を務めていたジャン=クロード・エレナが手がけたもので、「ナイルの庭」「地中海の庭」といった香りは日本でも知名度が高い。
この庭園シリーズの最後、5番目の香りとして2015年に発売されたのが、「李氏の庭」。この紹介文としてジャン=クロード・エレナが寄せた文章が、とにかくうっとりするほど美しい。以下、公式サイトより引用。
池の匂い、ジャスミンの香り、湿った小石の匂い、スモモや金柑の木、巨大な竹林の香りを、記憶をたどって思い浮かべました。
すべてがそこにありました。池の中でゆったりと百年の時を経てきた鯉までもが。