2015年7月3日 08:00
スクールカーストの呪縛も 奥田亜希子『透明人間~』の魅力
実緒はあるとき、駅ビル内の大型書店で自分の本に手を伸ばした大学生風の男を見かける。後をつけ、彼のマンションの部屋番号と名前を突き止めると再び物語が書けるようになった実緒。その掌編を彼の住む204号室のポストに届け始めるが…。
自分のことを透明人間だ、見えない存在だという思いに駆られている実緒は、家では全裸で過ごし、妄想の中では彼・春臣の住む204号室へ入り込み大胆な行為に及ぶ。
思えば、処女作『左目に映る星』も、小学生時代の初恋が忘れられないこじらせ女子の恋愛小説だった。
「初恋というより、片思いに思い入れがあるんだと思います。両思いなんて錯覚だし、そんな不確かな関係になりたいと願ってしまう心の動きを不思議なものに感じます。『左目~』は私の実体験がもとになっていて、約15年間、結婚した後もずっと忘れられない人がいたのを、書くことで浄化できたんですよ(笑)」
ラスト近くで実緒と春臣の間に起きた出来事により、物語は急展開。
「結末に対してはさまざまな反応がありました。それは実緒がポストに掌編を入れ続けていたあの行為への審判ですよね。思いがけず人によって読後感の異なる話になったなと思っています」