主要人物は複数。作家志望の女、幼い愛娘を殺された母親、捕まった少年Aを崇拝する少女、そして今は社会復帰している少年A…。
「社会派小説というより、巻き込まれた人たちの感情のうねりと、彼女たちが語る彼を書くことで、少年Aとは何だったのかを浮かび上がらせようと思っていました」
本書はそれぞれの家族を書いた物語でもある。なかでも少年Aが母親に連れられてカルト教団にいた過去がある設定にしたのは、
「日本の‘90年代は、バブルの余韻に世の中が浮かれる中で、信仰や宗教を持って生きる人たちの気持ちもわかるよね、という風潮がありました。その感覚はカルト教団に入る人たちと表裏一体だったと思う。自分の神様を見つけようという気持ちから、少年の気持ちが転がっていくところは書いてみたかったですね」
作家志望の女性だけは当事者たちから遠いところにいる印象だが、後半にその存在の意味が判明する。
「少年Aを追ううちに、彼女は書く覚悟を決めていく。小説を書くのは楽しいだけじゃなくて、地獄を見ることもある。
彼女のあの覚悟は、私とシンクロするところがあります」
◇タイトルにある「ニルヴァーナ」はバンド名で、「涅槃」