2020年6月4日 19:00
小説家・中村文則、過去の凄惨な出来事を“あえて”書く理由とは
お前が悪い”と個人批判する社会になってしまう。だから、僕の中には、みんなが求めている安心できる物語を提供することが本当にいいことなのだろうかという根本的な問いがあります。僕はあえて、知りたくないような事実も書きながら、いかに物語として面白いものにするかを考えている。それが物語を作る側の姿勢だと思っているんです」
これまでに描いてきたモチーフや問題意識も盛り込んだ今回の大作。
「『教団X』よりももっとグラデーションを持たせて、いろんな問題を詰め込み、僕の集大成的な作品になったと思います。普段社会問題に興味のない人でも読めばいろんなことが分かるだろうし、保守的な人でも読めば“ああ、そういう考えもあるのか”と分かってもらえると思う」
いつでも人間社会への警鐘を鳴らし続けている中村さん。
「以前から、これからの世の中はどんどん悪くなっていくと感じていましたが、新型コロナウイルスの影響でその速度は上がるでしょうね。差別をする傾向や、責任を困窮する個人に転嫁する動きがさらに強まっていくと思います。
そういうタイミングで、この本を世の中に出すことは意味があると思っています」
中村文則『逃亡者』人生に倦んでドイツのケルンに流れついたジャーナリストの山峰。