2020年7月30日 19:40
アルコール依存の父、過剰飲酒の夫…“リアルすぎて痛い”一木けいの最新小説
宇太郎も同じで、飲まなきゃ仕事にならないなどというのは異常だと思う。日本社会の働き方については、すこし疑問があります」
千映にとって、酔うとダメになる父親も不可解だったが、そんな父をいつまでも受け入れてしまう母親の気持ちも簡単には理解できない。だが、父と母の夫婦の間にも、両親と千映の家族の間にも、美しい瞬間があったことがわかり、なお切ない。
「許す、諦める、見捨てる。それは近くて遠いなぁと感じるんですよ」
許すだけが愛ではない。諦めたら愛がないわけでもない。許していなくても見捨てないのなら、愛かもしれない。一木さんが描く世界では、そんなふうにかすかな光が差し込む。
「自分が許すか許さないかを迷っているときに、他人が簡単に『許したら楽になるよ』とか言うのは違うなと思う。〈全部ゆるせたらいいのに〉は、この物語全体で書きたかった祈りのようなものかもしれません。誰の心にもいい形で心の平穏が訪れるといいなと思います」
いちき・けい作家。1979年、福岡県生まれ。「女による女のためのR‐18文学賞」読者賞受賞作品を含むデビュー作『1ミリの後悔もない、はずがない』(新潮社)で読者の心を鷲掴みに。