2020年9月14日 19:00
“推しメン”探しがコツ? 文楽にハマるにはこれがおすすめ
しかもそこに楽譜はない。アンサンブルという概念もない。三者が互いの息ひとつで合わせるところに、芸の神髄があるという。
「三味線の名人、二代目豊澤団平は『浄瑠璃は語らず語れ、三味線は弾かずに弾け』という金言を残しました。西洋音楽では無音は空白で、それも楽譜で時間が決められています。日本の音楽は、そこは決めない。決めないからこそ、合わせるだけでなく、合ったことが倍増して無限の効果になっていく。そして、主役はむしろその音のない部分であって、音は脇役。
何も音のしない部分が、語り手の、弾き手の魂を、観客にストレートに渡す瞬間になるんです」
三者それぞれの芸から出る電波が、双方に飛び交って別の空間が生まれる。最初はピンとこなかったそんな解説が、最後の「山の段」を読み終えるころになると、少しずつ目の前に立ち上がってくる。
そして巻末に「名人が教えてくれたこと」と題して、文中に登場した往年の名人たちが、カーテンコールのように登場する。太夫、三味線、人形遣い、芸に人生を捧げた人々のドキドキするようなエピソードが語られる。その芸は現代に引き継がれ、江戸の、明治の人たちと同じように、いま私たちも古典の世界に遊ぶことができる。