2020年12月30日 20:50
心中未遂から70年…恋人同士だった女性たちの人生描くコミック『夢の端々』
そしてミステリーのような雰囲気を漂わせながら、ふたりの間に何が起こり、どんな思いで心中に至ったのかが少しずつ語られていく。
「認知症の方は最近のことから忘れていき、昔のことは比較的覚えているといわれるので、忘れる順に描きたいという思いもありました」
時代を遡って描くにあたり、須藤さんは最初に年表を作成。彼女たちが出会った戦後間もなくから現代までに日本で起こったことと、ふたりの人生を一覧にしてプロットを組んだ。内気でどことなく影のある貴代子と、快活で男勝りなミツは、月と太陽のように呼応し合うキャラクターだ。女性は学校を卒業したらほんの少し外の世界を見て、ほどよい頃に結婚して家庭に入るのが一番の幸せと考えられていた時代。女性同士の恋愛はおろか、自立して生きることさえ大きな困難を伴う時代に、貴代子とミツはお互いを思い続けながらそれぞれの人生を選択していく。
「未来を先に描いているので、過去をどう描くかかなり悩みました。心中するまでは、夢の中というか幻覚のようなイメージで、心中未遂後は社会に出て、現実が少しずつ見えてくるイメージで描いています」
ふたりが見ていた長い夢と現実から、こぼれ落ちる記憶の断片。