2021年2月9日 20:10
『化け物心中』の意味とは? 江戸の芝居小屋で起きた怪異と役者の深い闇
江戸随一の大きさを誇る芝居小屋、中村座。ここで起きた怪異に、日本橋で鳥屋を営む藤九郎(ふじくろう)と元女形の魚之助(ととのすけ)がある謎に挑む『化け者心中』。その著者が、蝉谷めぐ実さん。
芸に生きる役者たちが覗いた深い闇。お江戸のバディが挑む、鬼の正体とは。
「中学、高校と演劇部だったんです。演劇でも、どこまで役になりきれるかというのが作品や役者の評価にもかかわりますよね。大学で受けた児玉竜一教授の講義をきっかけに、性別をも乗り越えて役になりきっていくという女形に強く惹かれるように。
『女形という存在をぜひ知って!』という推しみたいな気持ちが、書く出発点にはありました」
中村屋の小屋で、6人の役者が次の芝居の本読みをしていたときのこと。薄暗闇の中、車座の真ん中に転がり落ちてきたのは人の頭。ところが再び行灯が灯ったときには誰一人欠けていないのに、血だまりと肉片が遺されていて…。藤九郎と魚之助は鬼退治を請け負い、鬼に取って代わられたのは誰なのかを探り始める。
本書は怪異をモチーフにした歌舞伎ミステリーでもあるが、物語が進むにつれ、芸事に生きる人々の心情を掘り下げる芸道小説にもなっていく。