2021年7月5日 21:10
相模原の殺傷事件から着想 “社会の闇”を描くミステリー小説
だからこそ事件の核心に迫るうち、自分自身を見つめ直すことになる。
「大学時代、障碍者の弟さんを持つ友人がいたんです。彼は“将来自分が弟を養わないといけない”とさらりと言っていた。卒業後も、ふっと彼のことを思い出すんです。二十歳前後の学生がああ考えているなんて重いことだな、って。そういう家族を持ち、若いうちから一生単位で生き方を考えているけれど、口にしない人は現実にたくさんいる。浩明は、まさにそういう人なんです」
やがて浮かび上がる真実は予想外のもの。ミステリーとしても、幻想小説としても超一級の読み心地だ。
「今回はスピーディに話を進めようとしたので滴原兄妹のことはそこまで細かく書けなくて(苦笑)」
と言うが第1弾で夏、第2弾で秋、今作で冬が描かれたのだから、第4弾もあるはず…と、期待が高まる。
倉数茂『忘れられたその場所で、』東北の田舎町・七重町に暮らす高校生の美和は、ある雪の日、下校途中に道に迷った末、老人の他殺死体を発見。刑事の浩明は殺された男の過去を探るうちに、町の意外な歴史に行き当たるのだった。ポプラ社1870円
くらかず・しげる2011年『黒揚羽の夏』でデビュー。