くらし情報『ミムラが敬愛してやまない“向田邦子”という人』

2016年10月1日 22:00

ミムラが敬愛してやまない“向田邦子”という人

向田さんとの出逢いは中学生、国語の教科書の中だった。毎年配布されたその日に全編読む習慣だったが、向田さんのエッセイ「安全ピン」だけは三度も読んだ。題材とされている日米安全保障条約は、平成の日常には滑らかに組み込まれきっており、“一昔前の昭和的な内容”と言えた。なのにどうして、この文章はこんなにも面白く読めるのか?不思議な満足感で眠りに落ちた春の夜が懐かしい。

その後、二十代頭にかけて向田さん関連の主だった出版物はほぼ読み、一冊読み終える度、ファンになっていった。そうして自分でも執筆するようになったある日、前述の「安全ピン」を何気なく再読し、その凄さに打ちのめされたのだ。

居並ぶ言葉達は高級な寄木細工のようであり、固すぎず丸すぎず、丁度良い大きさでぴたりと居場所を得て、重みをもって収まっていた。これがつまり「文章がうまい」ということだと、まだ気づけなかった十代。
知って衝撃を受けた二十代。その強烈な感慨を今なお噛み締めている、三十二歳の現在なのである。
◇むこうだ・くにこ1929年、東京都生まれ。実践女子専門学校卒。映画雑誌編集を経て放送作家に。ラジオ番組『森繁の重役読本』、テレビドラマ『寺内貫太郎一家』など、脚本を1万本以上手がけ、次々とヒットさせる。

関連記事
新着くらしまとめ
もっと見る
記事配信社一覧
facebook
Facebook
Instagram
Instagram
X
X
YouTube
YouTube
上へ戻る
エキサイトのおすすめサービス

Copyright © 1997-2024 Excite Japan Co., LTD. All Rights Reserved.