2021年12月12日 18:00
あのジョブズも購入! “心に響く”美しい日本を描いた川瀬巴水の新版画
もともと浮世絵商だった渡邊は、大正期に、芸術性の高い木版画「新版画」の制作を開始。才能のある絵師と彫師、摺師と組んで制作を進めていました。巴水も渡邊のもとで、さまざまな作品を生み出していきます。
巴水が描いたのは、日本の名所だけではありません。江戸情緒が残る街並みや、ガス燈や電柱など近代化しつつある日常風景など、彼の心に響く場面が題材に選ばれています。
例えば、現在の浅草・駒形橋あたりを題材にした《こま形河岸》は、竹屋の情景を巴水独自の視点で切り取り、味わいのある構図で描かれています。竹の間から見える夏空もポイント。場面の空気感までも伝わってくるようです。
震災ですべて焼失…
風景画の絵師として注目され、創作活動に打ち込んでいた1923年9月、関東大震災が発生。巴水の自宅は全焼し、家財だけでなく、写生帖188冊と画業の成果もすべて失います。
しかし巴水は版元の渡邊に励まされ、同年10月から長期の写生旅行に出発。諏訪から木曽、富山、城崎、出雲、瀬戸内、近畿などをめぐる102日間の旅で制作した写生帖をもとに、新しい作品を生み出していきます。
巴水版画のなかで最も売れた作品《芝増上寺》も、震災後の写生をもとに誕生。