2022年3月16日 17:30
【カツセマサヒコのショートショート】32歳・女性会社員の“人生最大級の恥”話
いつも日替わり定食を頼んで魚の種類に一喜一憂する佐藤くんは可愛い。しかし、その佐藤くんが私の野菜定食を毎日見ているなんて、流石にそんな都合の良いことは起きない。はい、考えすぎ。ここは忘れよう。いきますよ、一、二、ポカン!
と、脳内で一人首脳会議を開いていて、気付かなかった。いま、目の前に、あの佐藤くんがいる。
「あの、降りないんすか?」
そう声をかけられた。佐藤くんが、エレベーターの開くボタンを押したまま、私に向かって話しかけたのだ。
だふぇwhふぉあじゃfじゃおふぁ。言葉にできなかった。佐藤くんが、私が同じフロアの人間であることを、知ってくれていたのだ!なんで!どうして!ああ!いい匂い!
そうして舞い上がった私は、やってしまったのだ。本当に、なんでそんなことを、と思うのだけれど、その時は佐藤くんの匂いにあてられて、もう何も冷静な判断がつかなくなっていたのだ。
「この中に!野菜定食を毎日食べてる方は!いらっしゃいますかー!」
私は、六十人はいるフロアに向かって、思いきりそう叫んでいた。
*
「流石にウケすぎるんだけど、それ、本当の話?」
私の全てが無事に崩壊したあと、一人で家に帰るのが耐えきれなくなって、カヨコを居酒屋に呼び出した。