2022年5月27日 19:00
居場所がない…耳が聞こえない親を持つ子どもたちの「知られざる現実」【映画】
特にナイラの最初のインタビューで「わたしはろうになりたかった」という一連の感情の流れが撮れていなかったら、僕はこの映画を途中で辞めていたかもしれないと思います。あのときに一度しか撮れない圧倒的な語りでした。
―制作するうえで、気をつけていたこともありましたか?
監督コーダのみなさんからは「シンパシー(同情)はいらない。エンパシー(共感)がほしい」と言われたので、そのあたりも考えました。特に、近年アメリカでも“感動ポルノ”と言われるような作品は、障がいを持った人の物語を健常者が消費しているとして問題になっていますが、取材者が当事者のように語ってしまうことはすごく危険なことでもあります。マジョリティ側にいる自分は、何が差別なのか気づかない、その認識すらないので、自分自身の言動に気をつけました。
実は、この作品も当初は聴者の視線で編集していました。手話のシーンがほとんどなく、言語優先の構成になってしまい、完成しませんでした。
その構成自体が聴者による差別的な態度になっていることに気がついたので、全部イチから作り直すことにしました。そのあとに出来上がったものでは、言語は詩のように凝縮された断片として使い、手話を入れ、観た人が目で読むことで完成する映像を目指しました。