2022年8月20日 18:30
パリで絶賛! 仏で2つも勲章をもらった巨匠・長谷川潔の「ゾクゾクする版画」
なぜ、フランスに残り続けたのでしょうか。
滝沢さん彼はもともと裕福な家に生まれ、パリ滞在中も仕送りがあったので、戦前までは自分で稼ぐ必要はありませんでした。でも、戦争で仕送りが途絶えたこともあり、帰国したかったようです。
ただ、日本に家族を連れて帰るとフランス人の奥さまが敵国人になってしまいます。また、信頼できる専属の刷り師がパリにはいました。そういった事情があってフランスに残り、結局長谷川は在留邦人としてフランスの収容所に収監されました。
精神的につらい毎日を送るなかで実感したのが、万物はみな同じだということです。そうした考え方が深まって、60年代のマニエール・ノワール作品にたどりついたのです。
それらの作品は、彼自身の人生、生き方、モノの見方を描いている感じがします。
――フランスで高く評価されていますが、日本ではまだあまり知られていないような気がします。
滝沢さん特に戦後の日本には、ポップアートやコンセプチュアル・アートなど、アメリカを中心とした斬新な美術がどんどん入り、それらが注目されていました。そんな時代のなかで、残念ながら長谷川の版画作品は大きく取り上げられる機会が少なかったのです。