日本の小説が海外でブームに!? 中村文則×村田沙耶香の対談から探る“海外翻訳”最前線
でも『掏摸〈スリ〉』の冒頭だけ比べてみたことがあって。僕は自分で書くとき、日本語のリズムにこだわっているんですね。その文体のリズムを翻訳者に感じ取ってもらって、翻訳者がそれを訳すと独特な英語のリズムが出る。絶妙なところで、キッド、アップと韻を踏んだり。逆で言えばカミュの『異邦人』の邦訳は翻訳ならではの魅力的な文体。日本語で書かれた僕の小説をそのまま読む人と、英語になった形で読む人とがいて、それも面白さだと思うのですが。
村田:私の著作の英訳はほぼ、翻訳家の竹森ジニーさんが手がけてくださっているのですが、以前、一緒にイベントに出たときに、お話を聞いてとても感動したんです。彼女はまず全体を通して訳し、その後、目をつぶって、小説中に流れているボイスがどうすれば忠実に伝わるかを考えて、もう一度ていねいに訳していくとおっしゃっていました。
ただ日本語を他言語に変換するだけではなくて、作品の声がしっかり伝わることを大切にしてくださっていると感じました。
中村:たとえば『コンビニ人間』だとどんな工夫があったんですか。
村田:日本のコンビニが舞台なので、「いらっしゃいませ」がよく出てくるんです。でも訳したときに「Welcome」