性欲が愛する人を無意識に追い詰めていた…男性性に疑問を抱く主人公の心理を描く『一番の恋人』
長く付き合ってきた恋人に、「好きだけど、愛したことは一度もない」と言われたら……。君嶋彼方さんの『一番の恋人』は、この告白を機に自身の男性性に疑問を抱く主人公の心理を、生々しく描いている。
男性だって苦しんでいる!? 「男らしさ」の功罪とは。
「女性性の苦しみを描いた作品が最近増えていますよね。大事なことですし、それだけつらさを感じている女性がいるからなのでしょうが、同時に男性も苦しんでいないわけじゃないよなとずっと思っていました。デビュー作『君の顔では泣けない』でも、女性の大変さに共感するような感想を結構いただいたのですが、そこを強く意識して書いたわけではなかったので、意外だったりもしました。それもあって今回は、自分のためというよりも大切な人のために、男であることを嫌だと感じてしまう人物を描こうと思ったのです」
名は体を表すとはいうが、まず父親に付けられた「一番」という名前から、主人公がどんな人生を歩んできたのか興味が湧いてくる。男らしさを重視して育てられ、その期待に応えられなかった兄を傍らで見てきた一番は、それなりにうまく人生を送ってきたはずだった。
しかし2年の交際を経て千凪(ちなぎ)