『ドクター・スリープ』が描き直すことに成功した 「シャイニング」の本当の意味
《text:宇野維正》
スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』(1980年)といえば、映画ファンなら誰もが知っているホラー映画の名作中の名作とされている作品だ。しかし、タイトルの「シャイニング」という言葉が意味するものについては、作品の序盤にダニー少年とオーバールック・ホテルの料理長ハロランとの会話の中で触れられるものの、物語が進行するにつれて主題からは離れて、ホテルの呪いと、ダニーの父であるジャック・トランスの狂気に作品の焦点が絞られていく。
(同作のポスターやソフトのパッケージ写真にもなった)ジャック・ニコルソン演じるジャックの形相。彼のタイプライターに残された文字。ホテルの廊下に立つ双子の少女。237号室の女。映画『シャイニング』は、後世まで語り継がれ、オマージュやパロディの対象にもなってきた数々のインパクトあるビジュアル・アイコンを生み出すことになったが(それらのほとんどは映画『ドクター・スリープ』にも登場する)、原作者スティーブン・キングが小説『シャイニング』のタイトルに込めた主題は、キューブリックによって生み出されたビジュアルのインパクトによって忘れ去られてしまったかのようだった。