アナ・ケンドリック初監督『アイズ・オン・ユー』にある真実…違和感が恐怖に変わる決定的瞬間をとらえる
実際の被害者数は推定130件あまりにも上るという。
そんな殺人犯が何食わぬ顔で、全国放送の人気デート番組に出演していたなんて…。
このにわかには信じがたい驚きの事実に迫りつつも、アナ・ケンドリック自身の聡明な語り口と同様に軽快なテンポの編集と好奇心を刺激するカット、70年代のレトロポップに彩られて95分に収められた映画は、当時から蔓延っていたハリウッドの性差別や女性蔑視を詳らかにし、女性がある人物に対して違和感を覚え、警戒心や恐怖が芽生え始める瞬間をとらえていく。
小賢しい女性はいらない…デートゲームが浮き彫りにするもの
まずは冒頭から、人気のない砂漠に被害者を連れ出し、身の上を尋ねて油断させるロドニー・アルカラの巧妙で残忍な手口を見せつける。『ヴァチカンのエクソシスト』でトーマス神父を演じたダニエル・ゾヴァットが穏やかな物腰から一気に豹変し、緊張と恐怖を煽る。
コーエン兄弟の『ノーカントリー』を参考にしたというアナ・ケンドリック監督は、性暴力を直接的には描かない。見せる必要など一切ないからだ。ただ、襲われる直前まで確かに自分の人生を生きていた女性たちのありのままの姿だけが鮮明に残る。