『翔んで埼玉』の世界はこうして作られた! 美術・あべ木陽次氏の秘話
仕事に向かうときに思うのは、美術は監督や撮影監督と全体を調整する係だということです。監督のビジョンを聞いて、カメラや照明といったスタッフの考え、自分の考えを加えて、「こういう世界観ですか」と絵や図面で示す。
――作品の共通認識を明示するわけですね。
今回は特にやってみないと分からない作品だったので、それが大切だったと思います。美術という仕事でいうと、普通はセットだと気づかれないほうがいいんですよ。「あれ、セットだったんだ!」と驚いてもらえると嬉しい。普段はそこを大切にしています。それが今回は真逆で、作り物ですというところが売りなんですよね。
たとえば『マスカレード・ホテル』なんかは、リアルに豪華なホテルに見えなきゃいけないという任務がある。『記憶にございません!』はファンタジーですが、でもこういう建物もあるかもと見せたい。
――作品ごとに、監督が目指す世界観をキャッチして、その世界に観客を自然に誘っていくわけですね。
そうです。ただ、今回は美術がちょっと前に出る必要があった。すごく楽しかったんですけど、普段大切にしているところとはまた違う、この物語は都市伝説で現実ではないですよと主張するための美術なので新しい挑戦でした。