そのマグネットを見つけたのは、美術館の地下のミュージアムショップだった。最初は何かわからなかった。小さな鉱石の形をしたものが三つ、箱に入っていた。手に取ってみると、鉱石にしては軽い。けれど、プラスチック素材にしては少し重い。
蓮実はポップに書かれている小さな文字を目で追い、それがマグネットだと知った。
「ねえ、これ見て」
離れたところで食器を見ていた亮二に声をかける。「マグネットなんだって」。
亮二がほめるのを待つ。蓮実はあまり、こうした無駄なものは買わない。亮二がほめて、背中を押してくれるのを待っていた。
「なんか、飴みたいだね」
亮二の言葉に気勢を削がれ、蓮実は「でも、綺麗じゃない?」とだめ押しをする。亮二の返事を待たずに、むきになってこのマグネットを買おうと決めていた。
その日は、亮二の家に泊まった。亮二の家でシャワーを使わせてもらってから、キャミソールにショーツという姿で真っ白なバスタオルを肩にかけ、蓮実は冷蔵庫からミネラルウォーターを出した。亮二がシャワーを浴びている水の音が聞こえる。
ふといたずら心であのマグネットを取り出し、冷蔵庫にひとつ、貼り付けてみる。ペパーミントグリーンの、きれいな、模造品の石。