愛美には、大事にしている指輪があった。
出張で行ったイタリアの、ほんのわずかな空き時間にアンティークショップで見つけたその指輪は、ベネチアンガラスでできていた。光を透かし、反射して輝くその指輪は、愛美には宝石の指輪よりずっと魅力的に見えた。
勧められるままつけてみると、左手の薬指にぴたりとおさまった。愛美は、結婚指輪でもないものをこの指につけていいものかとためらったが、そんな愛美の思惑を知ってか知らずか、店主の、少しふっくらした年配の女性は、こんなことを言う。
「ガラスの指輪は、サイズの調節がきかないの。合わなかったらそこでおしまい。どんなに気に入っても、入らないものは入らないでしょ? 気に入って、それが指にぴったりだったら、運命なのよ」
百合の刺繍の入ったストールを纏った店主にそう言われると、愛美はまるで占い師に運命を言い当てられたような気持ちになった。
指につけてみると、指輪はなおさら綺麗に見えた。これを手に入れなければ後悔する、とはっきり思い、それを買うと言った。店主はわずかに微笑み、指輪を入れるための箱を用意してくれたが、愛美はこのままつけていくと言い、空の箱だけをバッグに入れた。