くらし情報『失恋の残りもの (11) マグネット』

2014年11月27日 07:00

失恋の残りもの (11) マグネット

亮二の冷蔵庫には何も貼られていない。インテリアにも、持ち物にもこだわる亮二は、すぐに気づくだろう。蓮実が肩にかけているバスタオルだって、オーガニックコットンの良い品だ。

この部屋に合うような、亮二の目にかなうような良いパジャマを選べず、蓮実はそんな姿で亮二の家で時間を過ごしている。その亮二の家に、ちょっと邪魔なアクセントを加えてやりたくなった。この家に滞在している自分のように。

亮二と別れることになったのは、それから八ヶ月後のことだった。春が来ようとしていた。


亮二の「仕事が忙しい」「疲れている」という言葉を、聞き飽きるほど聞いていた。お互いに休みである土日に会えなくなると、会う回数は驚くほど減った。平日の夜は亮二の帰りが遅く、夕食だけ一緒にとることもできなかったし、疲れているのに泊まりに行ったり、出かけようと誘うのもためらわれた。亮二からは誘ってこなかった。

本当に疲れているのだろう、と思ったが、だんだん「いつまでこんな生活が続くのだろうか」と不安になった。ずっと、月に一度とか、多くても二度ぐらいしか会えないまま、恋人と呼んでいいかわからないような関係が続いていくのか、と。

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