明日は荷物の少ない日だ、と気がついて、穂のかは仕事用の大きなバッグから、ひと周り小さなバッグに中身を入れ替え始めた。もう夜中だったが、明日の朝になって慌てるのも嫌だったし、穂のかはそういうことが気になると眠れなくなるタイプだった。
いつもバッグに入れている仕事用のファイル、ペンケース、読みかけの本、手帳……。化粧ポーチを取り出したとき、何か小さな白いものが手元から舞い上がり、ひらひらと回るように、落ちた。
何だろう? と拾い上げてみると、それは桜の花びらだった。いったいいつから、バッグに入っていたのだろう。会社のお花見があった四月の上旬からだろうか。だとしたら、だいぶ長いことバッグの中で眠っていたことになる。
一カ月も気づかずに過ごしていたんだな、と、穂のかは花びらをつまみ眺めるともなく眺めた。桜はピンク色だとみんな思っているけど、実際はかなり白いんだな、と凡庸なことを考えた。なぜピンク色に見えるのだろう。白さのどこかに、淡い桃色が隠れているのだろうか。
そして、その花びらが穂のかのバッグに舞い込んだあと、同じ社内で付き合っていた男に、別れを告げられたことを思い出した。
会いたいときに、会ってくれない。