女の節目~人生の選択 (10) vol.10「初めての、バイト」【17歳】
せかせかするな、ゆっくり動いてテキパキやれ。「ありがとうございます」に過去形を使うな。見えない場所でも指先まで神経を張り詰めろ、お客様の口に入るものに「これでいいや」はない。不用意な言動がお客様の大切な時間を台無しにすると心得て、絶対にそれをするな。「ただ皿を運ぶためだけにおまえを雇っているんじゃない」と言われた。私こそがこの店のホスピタリティそのものである、という立ち居振る舞いを心がけ、理念の体現者たれ、と。
平日ランチタイムはいつも百戦錬磨のパート主婦が陣頭指揮を執り、平日夜は若いスタッフが中心でサークル風、ロングシフトの週末は昼も夜も同じ釜から賄い飯を食いつつ、ぶっ続けで働いた。時給が上がり、レジを任され、先輩から「あなた、動ける子ね」と言われると嬉しかった。
たまに失敗すれば死ぬほど落ち込んだ。こんなふうに誰かに背筋を伸ばされたことはなかった。こんなふうに己の行いやその成果を誇らしく思い、責任を感じたこともなかった。
両親はまたしてもよい顔をしなかった。大学進学を控えた娘が鉄板とパン窯の焦げた匂いにタバコ臭がまじったねばつく空気をまとって帰宅し、800円の時給が30円上がったと喜んでは、頬を上気させながら「お客様の喜びが私どもの喜び」