女の節目~人生の選択 (10) vol.10「初めての、バイト」【17歳】
楽勝である。
でも、エプロンの腰紐をコルセットのようにきつく締め上げて背筋を支え、皿が冷めることを断固許さないキッチン勢にどやされながらフロアを駆けずり回るあの興奮は、そこにはなかった。私はもっと、不特定多数のお客様と一期一会の勝負を切り結ぶような仕事がいい。毎日毎日、新しい相手に新しいパンを焼き新しい皿を供して、次に何が起こるのかまったく想像のつかない職場がいい。
一方で、収入源を一つの職場に頼り、毎日みっちり勤めるのも好きではなかった。ウェイトレスの後はバーでギャルソンを始め、家庭教師は予備校のチューターと個別指導塾の講師に切り替えて、クレジットカードの営業や、スーパーの実演販売、シンクタンクの調査員、ウェブサイトのコピーライターもした。大学へ上がると学業が忙しくなったので、月数日の拘束で数万円、と基準額を決めてそれだけ稼ぐようにした。
たとえば家庭教師のバイトだけを週何コマも回していたら、まさか自分がアボカドの実食販売にあれほどの才覚を発揮するとは知らずに一生を終えただろう。
東中野のスーパーの片隅で、もしかしてこれが天職か、とさえ考えた。でも、きっとまだまだ、そう思える仕事が世界中にたくさん転がっているのだろう、オラ、ワクワクしてきたぞ、とも考えた。