くらし情報『テレビ・ワンシーン考現学 (19) 「ここからはカメラ止めてください!」の仕組み』

テレビ・ワンシーン考現学 (19) 「ここからはカメラ止めてください!」の仕組み

にしてもその延長である。つまり、被写体が、ドキュメンタリーとはどのようなものかを察知し、既存の映像を頭に浮かべながらドキュメントの転換点を義理堅く提供する。喜怒哀楽の針を振らなければドキュメントにはなりにくい。その針を普段は動かさない方向にも動かさなければならないとなったときに、自分から動かすか、外から動かしてもらうかは、その本人の特性を定める行為にもなる。自分から揺らしに行くか、揺らされるのを待つか。その一つの争点が「カメラ止めて下さい」の有無である。

○雑踏に消えていくエンディング

人物ドキュメンタリーの最後は、カメラに背を向けてどこかへ歩いていくシーンが多い。その後ろ姿を映しながら、「○の挑戦は今、始まったばかりだ」と宣言を代弁したり、「○はそう言い残し、雑踏に消えていった」と何らかを漂わせたり、「○は、その事を私たちに伝えたかったのかもしれない」と雑に推察したりする。
冒頭の「私なんか撮っても」と、中盤の「カメラ止めてください」と、エンディングの「雑踏へ消えていくシーン」は3点セットである。象徴的な物事を興すというのは、そう簡単なことではない。今、パソコンの前で腕を組んでこの数年を振り返ってみても、その場で声を荒げるほどの予想だにしなかった唐突なトラブルに見舞われたケースを思い起こせない。

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