テレビ・ワンシーン考現学 (19) 「ここからはカメラ止めてください!」の仕組み
は、彼女によって提起された名台詞だが、物事を提起する際に自分の身を汚しても構わないとする姿勢は勇ましい。嫌われないようにするという前提を自ら踏み外すのは、なかなかのたくましさだった。
○「カメラ止めて下さい」の有無が意味するところ
誰かに密着取材をすると、その被写体は、撮影初日に必ず「私なんかを追いかけても、なんにも面白いことは起きませんよー」とカメラに向けてポップな笑顔を向ける。その笑顔は本編の冒頭で流れるが、こちらは事前に、告知映像などで「カメラ止めて」に端を発する撮影陣とのトラブルが起きたことを知らされている。ホラー映画のイントロが穏やかなのと同様に、そんなこと言ってけど、あとで大変なことが起きるんだよね、とこちらは優位に立つ。しかし、冷静に考えてみれば、その優位性はこちらが作り上げたものではない。編集する側が、まずは牧歌的な映像を差し込むことで、こちらに「いいや、ホントはこのままいかないって知ってるんだぞ」と優位性を投与しているだけだ。いや、その優位性を投与しているのは、編集する側ではなく、被写体側かもしれない。
こんな感じのものを入れこんでおけば使えるでしょ、という策略。
「カメラ止めて下さい」