読む鉄道、観る鉄道 (14) 『皇帝のいない八月』 - ブルトレブームの子供たちを怖がらせた陰謀物語
前回はヨーロッパ特急を舞台に政府の陰謀を描く『カサンドラ・クロス』を紹介した。
ならば次は、『皇帝のいない八月』に決まりだ。
同作品は「和製カサンドラ・クロス」と称され、原作を書いた作家の小林久三氏も、『カサンドラ・クロス』を意識していたという。
物語の結末は、『カサンドラ・クロス』と同じかそれ以上に不条理だ。
当時の日本映画としては珍しい結末といえる。
1975年頃から始まったブルートレインブーム。
映画『皇帝のいない八月』は盛り上がりが最高潮に達した1978年に公開された。
寝台特急「さくら」が舞台とあって、多くの鉄道ファンが映画館に訪れたが、その内容はシリアスで壮絶。
自衛隊のクーデターと政治家の陰謀を描いた硬派な物語だった。
皮革製品業界紙の記者、石森(山本圭)が、福岡の取材を終えて東京に帰る。
最終の新幹線に間に合わず、キャンセル待ちで寝台特急「さくら」のきっぷを買った。
その石森に怪しい男たちが近づき、きっぷを譲れと脅す。
その態度が気に食わない石森は職業柄、男たちの靴を見て正体を察知。
そのとき、かつての恋人、杏子(吉永小百合)の姿を見つけ、彼女を追うように立ち去る。