すべての服がすこしずつ大きいこの世界を、1日でも多く好きでいたい
という数字と素材の表記がかすれていた。これは古いものなんですか、と聞くと、ドイツの1950年代のワンピースです、と店主がレジから返事をしてくる。狭い店なのに、こちらから言わない限りは立ち上がって服を薦めたりしてこない店主のスタンスを好きだと思った。
40、ということは日本のサイズで言うと11号とか13号にあたる。ふだん5号か7号を着ている私には、服を体にあててみるまでもなく大きすぎた。けれどなぜかその日は、「これ私が着たら大きいですよね?」と聞く勇気があった。たぶん、その前に変な色のスカートを買っていった客として認知されているから大丈夫だ、という妙な自信がついていたのだと思う。
店主は洋服や骨董品でいっぱいになったレジのスペースから顔を覗かせるみたいにして、私をじっと見た。
見られている、と思って体がこわばる。店主はすこし考えて、「めちゃでかいですね、たぶん」と言った。
そうかめちゃでかいよな、と笑ってしまって、笑った勢いで試着させてもらった。13号サイズの人が着たらおそらく膝下丈になるであろうワンピースの裾はほとんど床につきそうで、鏡に向き合いながら、でか、と思わず口に出した。
けれど大きすぎることはわかりきっていたから、試着室から出ていくのはそんなに恥ずかしくなかった。