すべての服がすこしずつ大きいこの世界を、1日でも多く好きでいたい
「実はヴィンテージの服を初めて着たんですけど」と言うと店主はちょっとうれしそうにして、「ヴィンテージはいい」と言った。それは目の前の客に対しての助言というよりも、頭に浮かんだ言葉をそのまま言ってみたという感じだった。それでも私は臆病だから「似合ってなくはないですかね?」とおかしな質問をして、「いいと思いますよ」と言われてホッとし、流れるようにその服を買った。
■どちらが似合うとか似合わないとか、考えるのはやめた
たぶん、なにかをきっかけに物事が劇的に変わるなんていうことはほとんどなくって、私が平気でオーバーサイズの服やメンズの服を着たり、絶対に必要のない箇所に変なびらびらがついていたりする服をおもしろがって買ったりできるようになったのも、別にそのワンピースが直接的なきっかけだったわけではないと思う。けれど、今年28歳になる私にはいまでも人の視線が怖くて外に出られない日がある一方で、20代前半の頃よりも服を着るのが楽しい日がはるかに多い、というのは本当のことだ。オセロを1枚1枚ひっくり返すみたいにそういう日をすこしずつ増やしていくことができたのは、いろんな人やファッションとの出会いと、あのワンピースを買ったときの記憶があるからだ、と素直に思ったりもする。