くらし情報『すべての服がすこしずつ大きいこの世界を、1日でも多く好きでいたい』

すべての服がすこしずつ大きいこの世界を、1日でも多く好きでいたい

1年くらい前、いろんなブランドの香水が一堂に会する百貨店の催事に行ったとき、あるブランドの調香師がそこに来ていた。彼は、自分のブースを訪れた客のファッションや雰囲気を見て、その人のイメージにいちばんぴったりの香水をその場で調香する、と言った。

どきどきしながら私も調香をしてもらった。スパイシーなレザー、白檀、ジャスミンの混ざりあった香りにうっとりとしていたら、彼が注意喚起をするみたいに指を振って、こんな言葉を何度か口にした。「でもこれは僕から見た今日のあなたであって、あなたのすべてではありません」。

その日は、ちょうど例のワンピースを着ていた。私はその服を大きいままで着こなすことにもう慣れていたし、ときどきは人に「似合いますね」と言ってもらえることすらあった。家に帰って服を脱いで、ユニクロで買ったXSサイズの部屋着に着替えるとそれは自分にぴったりで、けれど私はそのどちらの服がより似合うとか似合わないとか、そういうことを考えるのはもうやめていた。
少なくともその日は、そういうことは考えなかった。

すべての服がすこしずつ自分には大きいこの世界を、そして大きな服を着たときに私の肌と布のあいだに生まれるいびつな隙間を見て、ふざけやがって、と思うこともいまだにある。

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