冬の光はきれい。私は寒がりだけれど、冬の夜をあるいて、街灯や信号機、カラオケやコンビニの看板などの光を眺めるのは好き。日本の冬は乾いていて、空気中の水分の乱反射が少ないから、光が遠くまで届くんです。だから、冬の光はきれいなんですね。昔好きだった人がそう教えてくれたのを思い出す。
特に、赤の光がきれい。黒やグレーをまとった冬のひとびとの往来のなかで、パァッと輝くのが赤だ。信号機が緑から赤に変わると、きれいだなあ、とぼんやりしてしまう。
雪の色にも映えるので、冬は赤がいい。
18歳の冬は寒かった。当時の恋人は出不精の私を連れ出したがったけれど、まだあまりお金もなかったし、遊び方も知らなかったし、セックスもうまくできなかった私たちは、いつもなんとなく池袋や新宿のファッションビルを上から下まで見まわって過ごしていた。
「初めてちゃんとしたバイト代が入ったから、冬を生きる服を買いましょう」と彼が言い出したのはたしか12月のはじめで、私が「寒くてここから出る気がしない」と池袋駅東口のマクドナルドでぼやいていたときだった。服の話につられて店を出るともう日が暮れていて、外はやっぱりとても寒かった。
冬の光はきれいです、と彼が言ったとき、私はそんなこと考えたこともなかったけれど、見渡せばたしかに世界はキラキラしていて、あ、こういうのってたぶん恋の現象だなと思った。