「ワンピースに決まってるでしょ」
祝賀会のために着るものがない、と告げると母はそう言った。わたしには年に3回ほど、ホテルの大きな宴会場で行われる式典に出る用事があった。ひとつは、高校時代にもらった随筆賞の祝賀会(大賞を取ると殿堂入りとなってその後毎年呼ばれるのだ)。もうふたつは、俳句結社の集まり。わたしは18歳の大学1年生だった。いままでは何に出るにも制服で間に合ったが、これからは着るものを自分で考えないといけない。私服ならまだしも、パーティーに出るための洋服を選ぶことはとても難しかったし、わたしにはお金がなかった。
そんなあんたにこそぴったりなのがワンピースではないか! と母は息巻いた。
わたしと同じく背が低く、脚の太い母はお嬢さん時代本当はモードな服を着たかったのだという。いろいろ試した結果、ワンピースが最もお嬢さん扱いしてもらえて上品な気持ちになったらしい。
お嬢さんに見えるように、と母はよく言う。それは背が低く顔が童顔でいまいち垢抜けない娘への叱咤激励であり、若い頃相当貧乏だった母の「育ちがよさそうに見えてほしい」という切実なる子孫への希望かもしれない。わたしもわたしで「お嬢さん」