テーマが衝撃的。最低で最高なトラウマ体験を。【TheBookNook #27】
莫大な時間を削ってでも誰かを殺めたい気持ち、少子化対策のため……? 読者という俯瞰的立場だからこそ気づけるメッセージがこの作品にはたくさんあります。
誰かにとっては都合がよくて、誰かにとっては受け入れたくない世界。これは私達の現実でも同じなのではないでしょうか。そんなことを考えながら読み進めていると、自分が今、なんの疑問ももたずに生きているこの現実の世界は本当に正しいのだろうかとハッとさせられました。
本作品は表題の「殺人出産」のほか、カップルではなくトリプルで交際する人々、性行為をしないことを前提とした夫婦、自然な死が無くなった世界、の3つの短篇で構成されています。そう、4篇すべてのテーマが衝撃的。生と死、性と史。
読者の常識や価値観、正義をあざ笑うかのように、村田沙耶香氏は物語を淡々と紡ぎます。
どうしたらこんな歪んだテーマが思いつくのか。彼女の頭の中を一度でいいから覗いてみたい。
山田詠美『血も涙もある』
「私の趣味は人の夫を寝取ることです。」
ギョッとする一文から始まるこの作品。不倫をしている男女と、されている妻の三人の視点が、それぞれ切り替わりながら物語は進んでいきます。