テーマが衝撃的。最低で最高なトラウマ体験を。【TheBookNook #27】
不倫がテーマとはいえ、重さや不快感はさほどなく、いや、あるのはあるのだけれど、その言葉から連想される嫌悪感やドロドロ感、悲劇的なものは全くなく、恐ろしいほど読みやすい。
強いてあげるとすれば、ここまで登場人物の誰にも共感できない物語は他にないかもしれないということくらい。共感も理解も納得もできない、できないけれど、憎めない。だって私も……。
不倫が良くないということは言うまでもありませんが、道徳に外れたことをうっかりしてしまうのが人間というもの。作中にでてくる“自分はすっかり古くなってしまった鍵穴”この表現にグッときてしまった私は道徳から外れている人間なのかもしれません。正義を振りかざさない三者それぞれのモラル。敏感に感じ取ってしまうのも、近すぎる距離と愛のせいなのだろうか。
心が搔きまわされ、自分でも分からない感情の沼に沈んでいきます。不思議なもので、読んでいる間はあらゆる感情がたくさん浮かんでくるのですが、読み終えた瞬間に雑念がすっと消え、頭の中に何もなくなる感覚を味わいました。あんなにざわついていた筈なのに……。
これぞ、山田詠美。
倉井眉介 『怪物の木こり』
出だしから主人公が平然と人殺しをしていくこの作品。