林屋先生の現代茶会にはよく作品を掛けさせていただき、「自分についてきてくれるか」と言われ、作品を仕上げたことは光栄なことでした。またの機会に林屋先生のお話をしたいと思います。
■顔真卿「争座位稿」(がんしんけい)
顔真卿(709-875)は晩唐の文化が成熟した時代の政治家、書家でもありました。
その書「争座位稿」は、前にも述べた王羲之の「蘭亭序」とともに行書の双璧をなすものであります。
書を始めるにあたり、最初の手本として私はまず、この顔真卿の書をおすすめします。東晋の時代の王羲之の書体をさらに深め、唐の成熟した文化がこの顔真卿の書体には感じられます。
縦のラインに見られるフォルムは、エンタシスのような美しさがあります。エンタシスとは、古代ギリシャのパルテノン神殿などの柱に見られる建築様式で、柱の下部から上部にかけて徐々に細くした形状を指します。
柱を下から見上げると真っすぐに安定して見える錯覚を生みます。巨大建築に見られる成熟した文化の匂いを顔真卿の書体からも感じ取ることができます。
「争座位稿」(764)
顔真卿55歳のときの書です。右僕射(うぼくや)の任にあった人物に送った抗議文の下書き(草稿文)