「本と店主」の表紙の絵から
清冽なイマジネーションが湧きあがる銀座の片隅にある“一冊の本を売る書店”というコンセプトの
森岡書店の店主、森岡督行さんは文章の名手でもあり、今まで彼の著した「写真集 誰かに贈りたくなる108冊」(平凡社刊)や「東京旧市街地を歩く」(エクスナレッジ刊)を愛読してきました。
新著「本と店主」は、森岡さんが人気のカフェや雑貨店などの店主12人に、彼らの
“人生にかかわった本”について聞き出す対談インタビュー集。森岡さんらしい地に足の着いた日常感覚とメタフィジカルな魅力が交錯する内容も素敵ですが、本を描いた表紙の絵に一目惚れ。
「本と店主 選書を通してわかる、店主の原点。店づくりの話」(森岡督行/著、誠文堂新光社/刊)。お店を開きたい人にもお薦めです。写真奥、左が森岡書店店主の森岡督行さん。右が、表紙の絵を描いた画家の平松麻さん。
2015年12月、この絵を描いた画家の
平松麻さんの個展が森岡書店で催されたので、お邪魔して、後日お話も伺いました。もともと本が大好きで、本の表紙に作品を使ってもらうことが夢だったとか。ブックデザインを担当したsmbetsmbの新保慶太さん、新保美沙子さんと相談しながら、表紙だけでなく、裏にも続く絵にしたかったので、新たに描き下ろしたそうです。
平松麻/画家。1982年東京生まれ。この写真は、写真家・Eric(エリック)が、「麻ちゃんは中性的なところがあるから、半分は光、半分は影に」といって撮影したものだそう。
―― 本が並ぶだけの静謐な絵なのにインパクトが強いです。麻さんにとって絵とは?
「暮らしの中でいうと、野菜やパンのように生活必需品です。
暮らしの中になくてはならない存在。絵の具の物質感、運筆を追う高揚感、作者が過ごした時間の積層、そういったものを近く感じていたいと思っています。
種をまいて野菜や果実が育っていく過程と、わたしが経る絵の制作過程も重ねて考えることが多いです。芽が出て水をやったら茎が枝になって、枝分かれして実ができてくる。実が大きくなったら収穫して、展覧会という場所で観てもらう。実がなくなったら、次はまた、種植えから…。そんな制作姿勢が理想です」
―― きれいに飾っておくものというより、生活の中で一緒に暮らしてほしい?
「はい。だから、本の表紙に使われてすごく嬉しいのは、本はカバンの中に入れて持ち歩かれて、
生活の一部になるでしょう? もちろん美しく飾って対峙する絵との時間も濃密だし、この本のように持ち運んだりする絵の在り方も濃密だと思っています。
作品を求めてくださった方の中には、出張に絵を持っていってくださる方もいらっしゃって、本当に嬉しかったです」
森岡書店での個展で展示された、表紙の原画と本書。
そんな平松さんの絵を起用した森岡さんにも、彼女の絵を選んだ理由を伺ってみました。
「麻さんの絵は、キャンバスとか伝統的な画材でなく、フローリングの板とか、より生活に近い素材を用いているため、雑貨とか古物に近い趣があって、それは自分にとってとても魅力があります。自分の周りにもそういうものが多いので、調和しますし。
それに、絵というのは普通、経年変化を嫌うものだと思うのですが、彼女の絵は
ともに時間を経ていくというか、それを楽しめる作品だと思います」
森岡書店の個展では、購入者の許可を得て、絵に触れてみてほしいという麻さんの希望が叶えられました。「自分にとって、絵肌に触れることはあまりに自然なことでした。絵は平面に見えても、絵の具の物質感に画家の気持ちが現れるので、そこも感じていただきたかった」と麻さん。撮影/白石和弘
お二人の感性がスパークした本書を手元に置いて、イマジネーションの幅を広げてみませんか? 生き生きとした絵がいつも語りかけてくれるので、前向きでいられますよ。
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