はじめに「NOGUCHI -酒造りの神様-」より農口さんが杜氏を務める「農口尚彦研究所」は、石川県小松市観音下(かながそ)という小さな里山にあります。米と水だけでつくる日本酒は、水が要。霊峰・白山に降り積もった雪が、長い年月をかけて地層の奥深くに浸透して生まれる清らかな伏流水を見つけた農口さんは、この水を使うためにこの場所を選びました。「NOGUCHI -酒造りの神様-」より“あと何年酒造りができるかわからない”“酒は飲んだらなにも残らない、口笛のように消えてしまう。私は後世になにを遺せるのか”引退と現役復帰を三度繰り返し、”引退を諦めた”91歳。16歳から75年間、その人生のほとんどを日本酒に注いできた農口さん。日本酒に関わる人にとって、彼は永遠の憧れであり伝説であることは言うまでもないですが、常に前を見据えて高みを目指す生き様は、誰が見ても尊敬の念を抱かずにはいられないでしょう。“わしが残していくものは、ここにあった”あらすじ「NOGUCHI -酒造りの神様-」より2020年10月、例年通り農口尚彦さんの酒造りが開始します。蔵入から半年間、蔵人たちは共同生活を送りながら、全ての時間を蔵で共に過ごし、酒造りに没頭します。この年に集まった蔵人は、8名。半数は、酒造りとは全く異なる経歴を持ち、初めて酒蔵に入る方です。農口さんは、一度見どころがないとみなせば二度とその蔵人を呼ぶことはありません。「NOGUCHI -酒造りの神様-」よりそんな中、生産計画の中には「20BY山廃純米大吟醸」の文字。「世界の人たちの価値観が変わるような酒を造りたい」という農口さんの想いからつくられる酒です。山廃純米大吟醸は、大吟醸の淡麗さと、山廃の芳醇さという反対の性質を持つ、難しい酒造りです。さらに通常より仕込みに時間がかかり、蔵人たちにも大きな負担がかかります。蔵入りから3ヶ月目を迎え、いよいよ山廃純米大吟醸の仕込みが開始。果たして、この蔵人たちの手で最高の「山廃純米大吟醸酒」は無事に完成するのでしょうか……?「NOGUCHI -酒造りの神様-」より映像のなかで、農口さんや蔵人たちが日本酒に向き合う姿には目を見張るものがあります。「酒造りは繊細だ」と分かってはいても、実際に時間は秒単位、温度も1度単位で調整をしながら、まとまった睡眠は取らずに「生き物」を扱う、そのまっすぐな姿勢を目の当たりにして、大きく心が動きました。詳しい内容は実際に映画を見ていただきたいのですが、必ず何か得るものがあると思います。「NOGUCHI -酒造りの神様-」より酒造りでは“鬼の農口”さんですが、散歩と銭湯を愛する“好好爺”の日常も写されています「NOGUCHI -酒造りの神様-」より日本酒の知識が全くなくとも、日本酒の造り方や構造、種類についても簡単にまとめられていてとても勉強になります農口さんにインタビュー――今回が初の長編ドキュメンタリー映像とのことですが、実現するまでの経緯や、受けられた理由を教えていただけますか?農口さん:良いお酒を造るために、どれだけ一生懸命に努力しても、皆様に知っていただかなければ意味がないと考えております。以前もいくつかのテレビドキュメンタリーに出たことがありますが、その経験から、お受けすることになりました。今後は、ドキュメンタリーを通じて海外の方にも知っていただけたらと期待しているところです。――実際に映像をご覧になって、いかがでしたか?農口さん:ちょうど酒造り期間中でありましたので、まだ完成品を見ておりません。終わったらゆっくり視聴する予定です。――この映画を通して視聴者に最も伝えたいことは、どのようなことですか?農口さん:一人でも多くの方に、私が人生を捧げた日本酒造りの奥深さや、世界に誇れる日本文化を再認識していただけるきっかけになってくれたらと思っております。――1月の能登半島地震。「農口尚彦研究所」や能登にいらっしゃる農口さんのご家族はご無事だったと伺い、ホッとしました。当時の様子はどのようなものだったのでしょうか。農口さん:地震があった時は、杜氏室で酒造りの経過簿をまとめる事務作業中でした。机の前の窓ガラスが飛んでくるかと思うくらいの揺れでした。頭をよぎったのは家族のこと。幸いにも妻は、元旦を長女、孫と過ごすために、白山市に住む娘の家に出てきていたので、すぐに連絡が取れました。能登に嫁いだ次女とは4日間連絡が取れませんでしたが、避難しており無事でした。走って蔵中を確認しましたが、奇跡的にお酒も割れておりませんし、設備も無事でした。たくさんの方からご心配のご連絡をいただきましたが、酒造りに影響はありませんでした。――能登半島は農口さんのご実家も含め日本有数の酒造りの地で、多くの酒蔵に被害が出ました。現在の想いをお聞かせいただけますか。農口さん:地元能登にあるいくつかの酒蔵は、建物が崩壊し再建も困難な状況と聞きます。また能登外に出ている能登出身の杜氏や蔵人も、正月休みに帰省した能登で被災して酒造りに復帰できない者や、被災を免れても、酒造りが終わった後に帰る家がなくなってしまった者もいると聞いており、心配しております。――「世界の人たちの価値観が変わるような日本酒をつくりたい」という、農口さんの30年来の夢は「20BY山廃純米大吟醸」が叶えていくのだと思います。農口さんの現在の夢を教えてください。農口さん:やはり、世界中のお客様に「美味しい」と言っていただけるお酒を造ることです。原料の酒米は、気候によって状態が毎年変わります。毎年造り始めは初心の気持ちで原料米と向き合います。ですので一生かけても「酒造りはわかった」ということはありません。それがやりがいでもあります。「NOGUCHI -酒造りの神様-」より「NOGUCHI -酒造りの神様-」“酒造りの神様”の異名を持つ、日本で最も有名な日本酒醸造家の1人・農口尚彦。彼がこれまで誰にも見せなかった仕事の神髄と“NOGUCHI”の酒の秘密に迫る。2023年/77分
2024年03月19日日本有数のアニメ都市・新潟にて、アジア最大規模の「第2回新潟国際アニメーション映画祭」が3月15日(金)より開幕する。本映画祭の長編コンペティション部門で審査員長を務めるのは、アカデミー賞ノミネートの『ブレンダンとケルズの秘密』(共同監督)や『ブレッドウィナー』、Netflix映画『エルマーのぼうけん』を手掛けた世界的アニメーションスタジオ「カートゥーン・サルーン」のノラ・トゥーミー監督だ。昨年3月に初めて開催された新潟国際アニメーション映画祭(NIAFF)は、世界で初の長編アニメーション中心の映画祭として、また多岐にわたるプログラムとアジア最大のアニメーション映画祭として各国で大きな反響を呼んだ。今年はレトロスペクティブ部門にて長編映画全作品ラインアップの高畑勲特集ほか、イベント上映では世界を舞台に活躍する湯浅政明監督の貴重な短編の特集上映、『機動戦士ガンダム』シリーズの富野由悠季監督の来場などを予定。長編コンペティション部門には、『アリスとテレスのまぼろし工場』(監督:岡田麿里)、『クラユカバ』(監督:塚原重義)といった日本作品をはじめ、29の国と地域の49作品から選りすぐった12作品が集結する。ノラ・トゥーミー監督といえば、アイルランド・キルケニーにある「カートゥーン・サルーン」にて初期から受賞歴のある短編映画やコマーシャルの監督を務め、アカデミー賞にノミネートされた『ブレンダンとケルズの秘密』ではトム・ムーア監督と共同監督、同じくアカデミー賞ノミネートの『ソング・オブ・ザ・シー 海のうた』ではストーリーとボイスのディレクターを担当。タリバン政権下のアフガニスタンを舞台にした『ブレッドウィナー』ではアカデミー賞とゴールデン・グローブ賞にノミネートされたほか、アヌシー国際映画祭で最優秀インディーズ長編映画賞、観客賞、審査員賞など数々の国際賞を受賞。最近では、ルース・スタイルズ・ガネットのベストセラー児童文学にインスパイアされたNetflixオリジナル長編アニメーション『エルマーのぼうけん』を監督した。今回の初来日では、時間が許せば、小泉八雲として知られるアイルランド系ギリシア人のラフカディオ・ハーンの記念館を訪れ「彼の人生や彼の見た日本に思いを馳せてみたい」というトゥーミー監督。自身や「カートゥーン・サルーン」のクリエイティブにおいて大切にしていることや、アニメーションの未来についてたっぷりと語ってくれた。高畑勲監督の『火垂るの墓』は「美しい傑作」ーー「カートゥーン・サルーン」のアニメーションは日本でも大変ファンが多いです。ご自身が作品を作るときに心がけていることは?ノラ・トゥーミー(以下、N・T)「カートゥーン・サルーン」では私たちも常に自問自答しています。何が「カートゥーン・サルーン」作品たらしめているのか? アニメーションにして語るだけの価値があるものとは何か?なぜなら、アニメーションはフィルムとしてつくるのに驚くほど手間がかかるので…手描きの2Dアニメーションは特にそうです。アイディア出しの段階から劇場で上映されるまで5年、10年かけて制作されるものもザラにあります。そのため、本当に語るだけのストーリーである必要があります。私たちは「勇気」を「美しい語り口」で、と自分たちによく言い聞かせています。この2つがとても大切なのです。まずは、私たちが語らなければ、おそらく決して語られることのない物語をやろう。そして、語るにしても私たちだからこその語り口でやっていこう、と。そしてこの「美しい語り口」ですが、決して砂糖をまぶしたような歯が浮く甘いお話、というわけではなく、アニメーションというメディア表現の可能性をさらに広げるようなものを指しています。高畑勲特集『かぐや姫の物語』©2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTKそれも必ずアニメーターの手によるものを見せる。業界でこれまで20年30年と経験を積んだ人たちと一緒にスタジオで働いているのですが、同時に業界入りしたばかりの新しい才能や学生たちとも一緒に仕事をしています。彼らが一丸となって、「最も優れた完璧なもの」を目指すわけですが、そこに人間味のあるというか、人間だからこそのミスや間違い、というのも当然混ざってくるわけです。そこがアニメーションの良さといいますか、どうしてそうなるかというと、アニメーターによるテーマやキャラクターへの思い入れが強いため、なんですね。まさに「カートゥーン・サルーン」が目指しているところはそこにあるのです。ちょっとした間違い、人間であるからこそ起こり得るミス…それこそがメディアの可能性をさらに高めるものなのです。高畑勲監督の傑作『火垂るの墓』は、2人の子どもが過酷な状況を生きのびようとする物語で、とても難しいテーマを扱っています。映画の中では、兄妹の互いの温かい思いやりの心が描写されており、それは決して他の手法では描けない。絶対にあのアニメーション表現でなくてはならなかったのです。高畑勲特集『火垂るの墓』©野坂昭如/新潮社, 1988監督や各アニメーターがキャラクターに心を寄り添わせながら(他人事ではなく自分のことのように愛情を込めて)描いているのがわかります。それがこの作品を唯一無二のものにしています。美しい傑作であり、監督から世界への贈り物だと感じています。人は誰しも困難に直面します。個人的であったり、より大きな国や世界規模ででも。いま、世界中がそのような状況となっていますよね。そんなとき、こうした作品は私たちを助けてくれる。これまでの歴史を振り返り、未来がどうなっていくのかを考えさせてくれると思うのです。「自分たちの声を見つけること」それがスタジオの真髄ーーご自身が作品を作られる場合、マーケットについてはどのように意識されていますか?N・Tマーケットについては必ず意識しています。アニメーションのビジネスマーケットにはサイクルがあって、活発に作品を求めている時期とそうでない時期があります。いまはちょうど活発でない時期。もともとアイルランドは500万人の小さな国なので、自分たちだけで映画をつくることはできません。国内の観客動員数の規模は小さく、上映できる映画の本数も少ないからです。そのため常に国外に目を向けているのですが、そうなると自分たちの声(語り口)を失くしてしまうリスクも生じます。アメリカやよその国でつくられるようなフィルムになってしまう可能性もある。何年もかけて学んだのは、人々が私たち「カートゥーン・サルーン」独自の「声」を求めていること。必ずしも主人公がアイルランド人でなければならない、ということはなく、ときにはアフガニスタン人やアメリカ人の男の子だったりするわけです。スタジオが独特な感性をしっかり持つことの意味を理解するようになりました。長編コンペティション部門『深海からの奇妙な魚』(ブラジル)「カートゥーン・サルーン」がつくった初めての映画『ブレンダンとケルズの秘密』のプロデューサーはフランス人のディディエ・ブリュネール氏だったのですが、彼から教わったことはディズニーや他のスタジオに倣うのではなく、「自分たちの声(語り口)を見つけること」でした。それがスタジオの真髄として、当初からずっと貫いてきたスタンスであり、これからもそれを目指していきます。そういった意味でも、マーケットは意識しており、どういう状況であろうとも、自分たちを失わずに突き進めるように頑張っています。正直、未来を見据えて正しい判断をいつも下すのは難しいです。そこでやはり重要になってくるのが、映画祭などでスタジオが専門知識や経験を持ち寄り人脈をつくることです。そうやってアニメーションビジネスがどんな状況であろうと、力を合わせてしのいでいけるのです。AIがアニメーションに与える影響、そして未来は…?ーー制作を取り巻く環境はご自身が始められた時からどのように変化していると感じていますか?一番変化が大きいと感じた点はどのようなことでしょうか?N・T25年前に「カートゥーン・サルーン」がスタートしたわけですが、それがもう少し前であったら、スタジオ設立にはお金がかかりすぎて無理だったでしょう。アイルランドやヨーロッパではそれまでアニメーションはすべて手描きでしたが、ちょうどその頃、徐々にデジタル処理を制作プロセスに導入しつつあったのです。そのため2Dアニメーションでも、スキャナーで手描きの絵を取り込んでいましたので、とても高価な撮影機材を設置しないですみました。デジタル革命の技術をうまく取り入れながら、私たちにとって一番大切なことにはとことんこだわりました。例えそれが紙の上であってもモニターの上であっても、いままでと変わらずに水彩絵の具などのブラシタッチで絵を描く、ということ。以降、様々な変化がありますが、やはり3Dアニメーションの進歩が大きいでしょう。ですが「カートゥーン・サルーン」としては、あくまで2Dにこだわることにしたのです。手描きが私たちの一番得意としているところですし、古くならないもの、私たちの紡ぐ物語が一番確実に伝わる方法だ、と信じているので。本当に多くの変化が起きました。仕事があったり、なかったり…そういった中、なんとかやりくりしてきて。長編コンペティション部門『クラユカバ』(日本)©塚原重義/クラガリ映畫協會将来的には様々な問題が起こりそうですよね。AI、機械学習などがそうです。頻繁に議論されてはいますが、それがどういった影響を業界に及ぼすのか、まだ誰にもわかりません。昨年末にはアメリカの脚本家と俳優が自分たちの知的財産の権利を守ろうとストライキを起こしましたが、様々な問題がある中、私自身もこの先どうなるのか、まったく読めません。それでもアニメーションにおいては、人間によるストーリーテリングが求められる、と信じています。「私はつらいこんな経験をしたが、あなたにも共感してもらえるだろうか?」と実際にあった経験を他者に語りかける。そして「この共有した経験を活かしながら、未来に向かって一緒に歩んでいけるだろうか? あなたはいつも心にとどめておいてくれるだろうか?」と問いかける。これが実体験に基づくのではなく、以前あったストーリーを断片的によせ集めるだけのAIができるとは思えません。実際にAIが経験したり、本当の喜びや苦しみを味わったりしたわけではないですから。そういったものに耳を傾ける人は世の中にいるのでしょうか?私はいないと思います。長編コンペティション部門『アリスとテレスのまぼろし工場』(日本)©新見伏製鐵保存会結局、人々が物語を欲するのは、単なる娯楽(エンターテインメント)だけでなく、そこから何かを学ぶためで、そこが私たちを人間たらしめている部分です。私個人はそのように考えていますが、この先どうなるかはわかりません。それでも私はこれからも人々の「勇気」ある「本当の声」に耳を傾けていきます。1人の観客としても。人類をそれくらいには信頼しています。ーーこれから5年後、10年後、20年後、アニメーションはどのように変化していくとお考えでしょうか?N・Tいまの時代、半年の間でも大きな変化はありえます。将来アニメーション業界に大きな影響を与えると思えるのは、やはりAI。AI技術が業界全体に与える影響が気になります。ただ、AIの専門家で今後の可能性について知っていようと、従来の手法で紙と鉛筆で仕事をするアニメーターであろうと、誰一人として未来がどうなるかは予測できないのではないでしょうか。AIが私たちの活動にどんな影響を与えるのか?これはアニメーション業界だけにとどまりません、創作活動を行う業界すべてに同じことが言えます。本当に目を見張るような状況が続いていて「もうすぐこんなことができるようになる!」といった将来性についてもよく耳にします。アニメーションスタジオを運営する事業主として、また監督としては、これからも人間の手によって生み出されるものへの尽力は惜しまないつもりです。決して量産されたものではなく、人間の体験を下地にした唯一無二の「声」の持つ力、それが人々が欲するものだと信じています。長編コンペティション部門『マントラ・ウォーリアー ~8つの月の伝説~』(タイ)一方で、ポジティブに作用するテクノロジーを見極めていって、自分たちも納得のいく方法で使っていくべきだとも思います。アーティストやストーリーテラーの生み出すものの価値を下げるのではなく、映画のストーリーテリングが伝わり、受け入れてもらえるような形で導入するのです。繰り返しますが、アニメーション業界には昔からよい時期もあればよくない時期もあります。どんな経済状態に晒されても、アニメーションスタジオは歯を食いしばって状況を乗り越えなければなりません。今後もかつてなかった問題に直面するでしょう。これから10年後、業界がどうなっているかは本当に予想がつかない。それでも人間とは太古の昔から常に表現したがっている生き物です。すべてのストーリーテラーが持つ「物語を語りたい」という欲求、それは未来永劫変わることはないと思います。長編コンペティション部門『アザー・シェイプ』(コロンビア)「第2回新潟国際アニメーション映画祭」は3月15日(金)~3月20日(水・祝)、新潟市民プラザ、新潟日報メディアシップ(日報ホール)、だいしほくえつホール、シネ・ウインドなどにて開催。(シネマカフェ編集部)■関連作品:アリスとテレスのまぼろし工場 2023年9月15日より全国にて公開(c)新見伏製鐵保存会クラユカバ 2024年4月12日より全国にて公開©塚原重義/クラガリ映畫協會
2024年03月14日ハリウッドで活躍する。言葉にすると簡単だが、もちろん容易なことではない。それを誰よりも知る1人が、真田広之だろう。『ラスト サムライ』でのハリウッドデビュー以来、彼は世界の第一線で戦ってきた。そんな真田さんが主演を務め、プロデュースも手掛け、ディズニーが持つ製作会社の一つ「FX」が制作するスペクタクル時代劇、「SHOGUN 将軍」が全世界で配信中。天下人が死去し、その座を狙う武将たちの思惑が入り乱れる戦乱の世界を、真田さんはハリウッドでどう作り上げたのか。そこには、細やかな気配りと揺るぎない信念があった。ハリウッド作品でリアルな日本を描く――長年にわたり、このプロジェクトに関わってきたそうですね。当初は(主人公の)吉井虎永役のオファーをいただくところから始まったのですが、紆余曲折あって企画の立ち上げから何年か経ち、プロデュースも兼ねることになりました。虎永役をお引き受けした一番のモチベーションは、虎永のモデルが徳川家康であること。家康は戦乱の世を終わらせて平和な時代を築き上げた人物ですが、まさに今この大変な時代に求められているヒーローだと思います。――その虎永は大局を見ているからこそ、なかなか真意を見せません。ミステリアスであり、策略家であり、ファミリーマン。敵にはポーカーフェイスで接しながら、身近な者には弱みも見せる人です。ある意味、非常に人間らしいですよね。そういった人間性を見せながら、視聴者の皆さんの理解力と想像力を信じ、遠い球を投げる気持ちで。最終話までご覧いただき、ようやく見えてくる部分もあると思います。――日本の戦国ドラマとはいえ、ハリウッドで製作されたドラマの日本人が日本語を話していることに驚いてしまいました。目指したのは、あくまでもオーセンティックなもの。それには日本人が日本語を話し、字幕をつけるのがいいだろうと、製作陣の間では意見が一致していました。ですがその分、台本作りには時間がかかりましたね。何度も何度も書き直し、調整して。あの時代の言葉を重視しつつ、あまりに分かりづらいものは多少シンプルに。ただし、現代っぽくしない、西洋化しない、ステレオタイプの描写は排除するというスタンスは貫かれていました。キャストへの細やかなケアも――キャスティングにも関わっていらっしゃいますか?各役の最終候補が2~3人に絞られてきたところで、エグゼクティブ・プロデューサーのジャスティン(・マークス)から意見を聞かれていました。キャラクターに合った配役にするため、かなり意見を申し上げましたね。別の役を演じるはずだった方に関し、「こちらの役のほうが合うのでは?」といったことを申し上げて採用されるパターンもありました。――旧知の方々との再会もあったようですね。樫木藪重役の(浅野)忠信くんは、彼が10代の頃からの付き合いです。忠信くんの薮重はもう、最高ですよ!すばらしい方々が出演してくださっていますが、戸田広松役の(西岡)徳馬さんはかなり強く推薦させていただきました。広松は虎永にとって非常に大事なパートナーですから、徳馬さん以外は考えられなかった。虎永と広松の友情を台詞ではないところで伝えるには、30年以上の付き合いとなる徳馬さんと僕の関係性が必要でした。――バンクーバーの撮影現場では、キャストのケアもなさったのでしょうか?日本の現場とは撮影のシステムも違いますから。1日の流れを説明したり、時には通訳をしたり。監督の指示を通訳さんが伝えるわけですが、(キャストが)戸惑っているような場合は補足をして。言葉を通訳するというよりは、演出意図をそれぞれに合った言い方で伝えていきました。台詞だけでなく、動きに関しても。着物の着こなし、刀の抜き方、鞘への納め方、寸止めの仕方など、慣れない方にはコツをアドバイスさせていただいて。皆さんが不安なく演じられる状態にまでリハーサルで持っていき、本番はモニターで見守っていました。――長期滞在となりますが、皆さん、お食事などは大丈夫そうでしたか?なんと、撮影現場には和食と洋食、両方のケータリングが用意されていて(笑)。バンクーバーには美味しい日本食のレストランもたくさんありますし、むしろ食事には恵まれていました。なかには炊飯器を持ち込まれていた方もいましたけど(笑)。――食事だけでなく、撮影現場の設備も豪華そうですね。セットのスケールがとにかく大きくて。嵐のシーンでは、実物大の船が用意されていました。船を自動操縦で揺らしつつ、ウォータータンクから水をダーッと流して。そんな中で芝居する役者を、カメラマンが手持ちカメラで撮っていきます。ディズニーシーみたいでしたね(笑)。藪重が崖の下の海で溺れそうになるシーンが序盤にありますが、あの崖もまるごとセット。ここでもウォータータンクが活躍し、大量の水で波を作りました。忠信くんは溺れそうになっていましたね(笑)。橋渡しとなった役柄と自身の存在「オーバーラップしているかも」――真田さんが通訳を務めることもあったとのことですが、劇中では戸田鞠子(アンナ・サワイ)が通訳の立場にあります。異なる者同士の橋渡しとなる鞠子と、この作品を作る真田さん自身に通ずるものを感じました。言われてみれば、そうですね。そういう意味ではストーリーの中の虎永の立ち位置も、プロデューサーとしての僕の立ち位置とどこかオーバーラップしているかもしれません。謀反人の父を持ち、キリシタンとなり、2つの主に仕える鞠子もまた非常に複雑なキャラクター。虎長はもちろん、そういった人々の繊細な心情をダイナミックなスケールの中で描けたことにも満足しています。――この作品でやりたかったことはすべてやれましたか?まだまだ完璧とまでは言えません。ですが、たとえすべてが揃わなくてもその中でやりくりし、折衷案を生み出すことをこの20年間で学んできました。スタジオが満足し、日本人として許せる範囲を見出す術とも言えますね。しかも、限られた時間の中で。それを踏まえたうえで言うなら、ベストは尽くせたかなと思います。――改めて、ご活躍の中でモットーにしていることは?より良いものにするための努力を惜しまない。ギリギリまで諦めずに粘る。そして、勇気を持って意見を言う。そんなところでしょうか。相手のプライドをなるべく傷つけないよう、けれども守らなければいけないところは死守して。それって、コミュニケーションの取り方次第で可能だと思うんです。一俳優としても、コンサルする立場としても。そういった学びが、今回の経験でも生かせたんじゃないかなと思っています。※西岡徳馬の「徳」は旧字が正式表記ヘアメイク:高村義彦(SOLO.FULLAHEAD.INC)(text:Hikaru Watanabe/photo:You Ishii)
2024年02月29日【音楽通信】第153回目に登場するのは、10歳の頃からライブ活動を展開し、SNSでも話題を呼んだシンガー、三阪咲(みさかさき)さん!コンテストで優勝したことで歌手を目指す【音楽通信】vol.153幼少の頃から音楽に親しみ、11歳の頃に歌手を目指すようになって以降、路上ライブやライブハウスなどでも積極的に音楽活動を行なってきた、シンガーの三阪咲さん。路上ライブなどの音楽活動の様子がYouTubeやSNSなどを通じて徐々に広がり、TikTokでは「三阪咲」関連の動画再生数が約6億回と爆発的に視聴され、YouTubeの歌唱動画も関連動画は合計約6000万再生を超えるほど注目を集め、2021年にデビューしました。そんな三阪さんが、2024年2月16日にデジタルシングル「tamerai」を配信リリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――幼い頃はどのような音楽環境でしたか。父は高校生の頃からバンドをしていましたし、母も音大を卒業していてピアノをやっていたので、音楽が身近な家庭に育ちました。父が車の中でSuperflyさんやコブクロさん、宇多田ヒカルさんなどの曲をよくかけていたため、4歳ぐらいの頃にはそういった曲を覚えて全部フルで歌っていたらしく、自然と音楽が好きになりました。――お母さまの影響で、三阪さんも習い事としてピアノを始めたんですよね。そうです。小学生の頃から、姉と一緒にピアノを習っていました。小学校ではアフタースクールでダンスもやり始めました。そこでは外部からダンスの先生が来て、週に一度何かを習う場になっていて。その後、その先生が別で行なっているダンススクールに誘ってくださって、友達と一緒に通うようになり、ヒップホップやタップダンスを習っていたら、いつの間にかダンスが好きになっていました。――習い事が増えていったのですね。はい。小学校4年生ぐらいで、納戸に眠っていた父のギターを引っ張り出して弾いてみたり。最初は独学で練習していましたが、父から「習いに行ってみたら?」とすすめられてギターを習うようになって。その後、小学校6年生の頃にはドラムにも興味を持ったので、習うようになりました。――音楽的なことにご興味があるというのは、もともと環境が整っていたのも大きかったのでしょうか。私が「やりたい」と言ったことに関して、とても協力的な両親だったので、いろいろなことができましたね。小学生の頃は、親から誕生日プレゼントに毎回違うアーティストのアルバムをもらったりと、音楽に触れる機会がたくさんありました。――歌に興味をお持ちになったのはいつ頃でしょうか。通っていたダンススクールの先生に、ダンスだけではなくボーカルも習うスクールを紹介されて。ボーカルとダンスを一緒にやると半額になると言われ、歌もやるようになりました。そのボーカル&ダンススクールでは、全国の生徒たちが受けるコンテストがあったのですが、出場したら優勝したんです。習い始めてから3か月ぐらいのことだったので、「もしかして才能があるんじゃないかな」と、そこから真剣に歌をやるようになりました。最初は歌の練習ばかりしていたんですが、小学校5年生の頃には「もっとたくさんの人に歌を聴いてもらいたい」と、ライブハウスでのライブにカバー曲を歌って出るようになって。でも、ライブはチケットを買った人じゃないと来られないので、もっと拡散力のあるものをやりたいなと思い、路上ライブを始めて、オリジナル曲も作るようになりました。――そういったご活動の末、2021年11月にデジタルEP「I am ME」でデビューされました。デビュー以前と以降で心境の変化はありましたか。ちょうどコロナ禍でデビューが延期になってしまった経緯がありまして。そうしたこともあり、当時からいまに至るまでメジャーやインディーズというスタイルにはこだわっていません。でも、時期としてはそれが高校生から20歳になったあたりだったので、自分自身の考え方や、ライフスタイルの中で大事にしているもの、聴く音楽などに変化はあったと思います。昭和歌謡のいなたさを大事にした新曲――2024年2月16日にニューシングル「tamerai」を配信リリースされました。昨年の10月ぐらいにはできていた曲なのですが、これまで連続で楽曲をリリースしていたなかで、この曲は連続リリースの最後に持ってこようとあたためていたものです。歌詞については、1週間で仕上げました。――歌詞を書かれる際、どのように形作っていきますか。夏の終わりぐらいに私が昭和の歌謡曲にハマり、そんなテイストの曲を歌おうとなって。デモを聴いた瞬間に「この曲だ」と即決しました。曲が先にあるので、歌詞はどうやって書いていくか決めていなかったんですが、昔の曲はストレートでどこかいなたさ(素朴な印象)があると感じたので、そのいなたさを大事にしたいと思って書き上げていきました。――いつも曲を選んでから、歌詞をご自身で書かれるそうですが、すぐに言葉は浮かんでくるものでしょうか。いや、全然浮かんでこないです(笑)。歌詞を先に書いているわけではないので、曲が先にあると、メロディに合わせて文字数も決められてくるんですよね。いままで書き溜めたものがハマるわけではないので難しいのですが、そのぶん歌詞が完成したときの達成感や愛着はすごいです。――昭和世代だと、この曲のシンセサイザーの響きなども懐かしい感じがすると思いますが、いまの10代や20代の方には新鮮で耳に残るサウンドと歌詞ですよね。ありがとうございます。もともとこの曲のデモのタイトルが「ためらい」でした。その言葉を入れるつもりはなかったんですが、歌詞を書いていると、いろいろと試行錯誤することがけっこうあって。あらためて「ためらい」という言葉を見るとすごくいいなと思い、歌詞の頭に持ってきたら、ストーリーが自然と広がっていきました。恋愛において相手の言葉や仕草ひとつで、ためらうことや躊躇することは多いので、そんな世界観を歌詞にして、昭和っぽいサウンド感で表現しています。――歌唱面について、意識して歌われているところは?いままでは力強く歌うことが多かったんです。でも今回は、歌う前に松田聖子さんをはじめとした昭和歌謡を聴き込んでいたら、柔らかさの中に力強さや意志みたいなものがある歌声をしている方が多いなと気付いて。なので、私もそういったことを意識して歌いました。――いつもそうやって曲には研究してから入っていくのでしょうか。そうですね。歌声も楽器だと思っている部分があるので、曲によって歌声を変えたり、ちょっと癖をつけてみたり。いつもある程度、歌い方の方向性を決めています。今回はとくに現代っぽくないけど現代の曲という、難しい感じもありました。昔の曲は、歌もいまほど修正していませんし、しかもテンポもけっこう個性があって。たとえば松田聖子さんの「赤いスイートピー」は、頭の「春色の汽車に~」のところはオンテンポではなかったりするんですよ。いま聴くとちょっと遅いように思うところもあるんですが、それが逆に、私たちに余白を与えてくれているように思えて。いまはすごくはやいサウンド感で、楽器もぎゅうぎゅうに入っていたりと、完璧さのある曲が主流であるように思いますが、あえてそうではなく、昭和歌謡のようにちょっとルーズな曲のほうが逆に切なく感じるんじゃないかなと。いろいろと意識してレコーディングしました。――2024年3月31日に東京のEX THEATER ROPPONGIでワンマンライブ「SAKI MISAKA ONE MAN LIVE 2024 “一心同体メモリーズ”」を開催されます。どのようなステージに?セットリストも決め終わって、やりたいことはチーム内で話しました。会場となるEX THEATER ROPPONGIは、もともと新型コロナウイルス感染拡大の影響で全公演中止になった、高校2年生のときにまわるはずだったツアーのファイナル予定の場所で。また、その後、無観客ライブと言う形で、初めて立ったステージでもあるんです。だからこそ、いつものライブ会場とはまた違う、悔しい思い出がたくさんある場所。今回“一心同体メモリーズ”というタイトルにしたのは、これまでライブができなかったり、無観客だったりしましたが、ここでようやくファンのみなさんと一心同体となって、良い思い出を共有したいという思いからなんです。音楽が好きというパッションで取り組んでいく――お話は変わりますが、音楽活動以外のときは、どんなふうに過ごしていますか?以前、趣味と特技はお菓子作りとおっしゃっていましたが、最近は何を作りましたか。バレンタインにチョコを作りました。お世話になっているスタッフの方に渡そうと思っていたのですが、結局、持ってくるのを忘れてしまい、そのままになりましたが(笑)。最近引っ越して、家にいることが大好きになって、料理も毎日していますね。あとは、こねるところからパン作りもしていて。小学校の頃に料理教室とパン教室に通っていたぐらいパン作りが好きなんです。――小学生のときは、楽器もダンスも習って、さらに料理教室とパン教室にも通ってと、アクティブですね!振り返ってみれば、アクティブな小学生ですね(笑)。――得意料理はなんでしょうか?私は基本、和食しか作らないんです。肉じゃがが得意ですね。――和食はヘルシーな印象ですが、健康面も意識しているのでしょうか。ダイエットなど気をつけていることはありますか。ダイエットといえば、昨年の夏、5キロぐらい体重を落としました。その頃は食事や運動にすごく気をつけていて、毎日、朝昼晩の食事内容をアプリに記録して1日の摂取カロリーを計算していたこともあります。さらになわとびなどの運動もして、トレーニングの先生にも見てもらって。一度5キロ落とすと、以降はそこまで増えなくなったので、いまはあまり気にしていませんが、「いつまでに何キロ落とす」など、目標を掲げるのは大事だと思います。でも私の場合、食事を減らしすぎると筋力が落ちるようで、そうならないためにトレーナーさんと一緒にダイエットしていました。――ではファッションでは何か普段意識して取り入れているものはあるのでしょうか。ファッションのメインになるのは、だいたい靴ですね。あとは帽子。上と下の色合いをそろえたりはしています。サッカーのプレミアリーグが好きで、イングランドの好きなチームのニットをかぶったり、マフラーをしたり。そういう感じでコーディネートを組んで楽しんでいます。――いろいろなお話をありがとうございました。最後に、アーティストとしての今後の抱負を教えてください。ひとまず3月31日のワンマンライブを成功させたいです。このライブは私の中でのひとつの区切りでもあり、大事なステージになるので、そこをめがけて頑張りたい。さらに、今年は音楽に対して、ポジティブな気持ちを大事にしたいですね。10歳の頃からライブをしているので、知らない間に、音楽が好きということよりも「やらなきゃいけない」という思いが上回る瞬間があって。そうではなく、純粋に音楽が好きというパッションで取り組んでいきたいですね。取材後記幅広い楽曲を歌いこなしパワフルな歌声を聴かせてくれる、シンガーの三阪咲さんがananwebに登場。小さな頃から音楽に触れる環境で育ち、さらに現在はお菓子作りもお料理も得意だという、魅力にあふれた三阪さんは快活にインタビューに応えてくださいました。そんな三阪さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり三阪咲PROFILE2003年4月23日、大阪府生まれ。SNSをきっかけに注目を集め、高校サッカーのテーマソングや、恋愛リアリティーショーのテーマソングを担当するなど、Z世代や若年層を中心に注目を集める女性シンガー。2021年11月、デビューEP「I am ME」を配信リリース。2022年3月、高校生最後のライブ「Saki Misaka LJK GRADUATION LIVE ~夢のZeppで卒業式するってよ~」を神奈川・KT Zepp YOKOHAMAにて開催。2024年2月16日、デジタルシングル「tamerai」配信リリース。3月31日、東京・EX THEATER ROPPONGIにてワンマンライブ「SAKI MISAKA ONE MAN LIVE 2024 “一心同体メモリーズ”」を開催。InformationNew Release「tamerai」2024年2月16日配信リリース取材、文・かわむらあみり
2024年02月28日取材・文:ねむみえり撮影:渡会春加編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部20代後半から30代になると、自分のこれからのキャリアをどうしていくか、現実的な悩みに直面する人も多いのではないでしょうか。ロイヤルカナン ジャポンに勤める獣医師の平瑛美さんは、キャリアについて「長期的に絶対にここを目指すという風にはあまり考えていない」と言います。2人の子どもを育てながら臨機応変に働く平さんのお話しを聞いていると、これから先のキャリアを考える自分の背中をポンと押して貰えた気持ちになりました。■製品に込められた情報を適切に伝達していく初めに、改めてロイヤルカナンという会社についてお聞きしたいです。ロイヤルカナンは、1968年に南フランスでジャン・カタリーという1人の獣医師が設立した会社です。以来、50年以上にわたって一貫して「Dog & Cat First」という理念のもと、栄養学に基づいたプレミアムペットフードと食事療法食を展開しています。「Dog & Cat First」というのは素晴らしい理念ですね。これはずっと変わらずに、私たちの会社の真髄にある言葉です。私たちはそれぞれの犬や猫のきめ細やかな栄養ニーズに対応したペットフードを開発し、彼らを食事を通じて真に健康な状態にしたいという思いがあります。これは、創立者のジャン・カタリーの思いでもあって、それが私たちの原点になっています。薬だけではなく食事の面から病気にアプローチするというのは、犬や猫の体に対して優しいような感じがします。今、平さんはどのようなお仕事を担当されているんですか?私はロイヤルカナンの日本支社、ロイヤルカナン ジャポンで、コーポレートアフェアーズという部門の中の、サイエンティフィックコミュニケーション&アカデミックアフェアーズというチームに所属しています。平たく言うと、学術部です。私たちの製品は全て栄養バランスを考えるところから設計されており、それぞれが違った特徴を持っています。その製品に込められているサイエンス的な情報を伝えたり、犬や猫についてレクチャーを行ったりするのが、獣医師でもある私の大切な仕事です。■大好きな食と動物に同時に関わりたい思いでペットフード会社へ以前は街の診療所で獣医師として働かれていたそうですね。大学を卒業してすぐの頃には、ペットのかかりつけとなるような動物病院に勤めていました。 大学付属の病院に比べてより飼い主さんとの距離が近い環境でしたね。そこから、ロイヤルカナン ジャポンさんに入るきっかけは?もともと食や栄養には興味があったんです。大学受験でどの学部に行こうかと考えた時に、小さい頃から好きだった動物と関わる方面か、自分が好きな食の方面か、どっちに行こうか迷ったぐらいなんです。なので、自分の最終的な仕事としては、食事を通じて好きな動物の健康に関わっていきたいという思いがあり、ペットフード会社というのは自分の中ではすごく自然な選択でした。お話を聞いていて、辿り着くべきところに辿り着かれた感じがします。ちなみに何年ぐらい前から、今のお仕事をされているんですか?今の部署に所属したのは2020年です。それまではカスタマーケアという、お客様からのお問い合わせに対応する部門に所属していました。そこで日々、お客様からのお問い合わせを受けていた中で、本当に多くの学びがありました。ペットオーナーのリアルな声に触れられたのは、今でも私が一生懸命仕事をしようと思う糧になっています。■目の前の課題に取り組むことで、自分の進む道が確立されていく今されているお仕事で、難しかったり苦労したりする部分はありますか?入社してくる社員たちはロイヤルカナンの理念に共感して入ってくるんですが、どうしたら彼らにより分かりやすく製品情報や犬や猫の知識を届けられるかは、いつも苦労しています。相手の目線に立てているかということは、 新入社員のトレーニングをする時でも、外のお客様に向かってセミナーする時でも悩みながら大切にしているポイントで、そこにはカスタマーケアでの経験が大きく役立っているなと感じます。しっかりと前のキャリアを活かして、今のお仕事をされているんですね。ありがとうございます。でも実は、当時この部署でこんな風に役立つということは、全く想像もしなかったです。キャリアというのは、後から振り返ると、頑張ってきたことがうまく線になってつながっているなと感じるので、長期的に絶対ここを目指すという風にはあまり考えていないんです。目の前にある課題に一生懸命取り組むことで、長い目で見た時に自分の進む道というのが確立されていくのかなと思っています。自分がこれから働いていく中で大切にしたい考え方だと思いました。平さんが働く上で大切にしている軸はありますか?私は子どもが2人いるんですが、母親や妻としての自分だけじゃなくて、働く自分というものも大切にしたいと思っています。子どもがいるということを、仕事の上で何かをやらない理由にはしないというのは、1つ軸としてあります。もちろん、子どもが小さい時は物理的に手がかかるので、できない仕事もあるんですが、それでも目の前に成長の種って落ちていると思うので、その時にできることを一生懸命やるというのは、自分の中でルールとして定めています。すごくすてきな軸ですね。でも20代の頃は、この先自分はどういうキャリアを築けるのか、子どもを産んで働き続けられるのか、みたいな部分はすごく不安がありました。育休が空けた時に1度フルタイムで職場に戻ったのですがその後、子どもが小学生にあがるタイミングで時短勤務に変えました。保育園に預けている時と違って延長保育がなく帰宅が早まったということもあり、そんな子どもの生活スタイルの変化に合わせて自分の働き方も変えたんです。昔の自分は、仕事時間を短縮することにネガティブな気持ちがあったんですけど、その時に初めて“そういうものだから”と受け入れることできました。それができたのは自分の中でもとてもいい経験だったと思います。読者世代も自分のキャリアに悩む年代でもあるので、そういう壁にぶち当たった時の柔軟な向き合い方はすごく良い視点になると思います。働くお母さんってみんな一生懸命じゃないですか。絶対それって後から活きてくるから、大丈夫だよって思うんです。多くの女性の背中を押してくれる大きな言葉だなと感じました。最後に、平さんの今後のビジョンについてお聞きしたいです。後悔はしたくないので、カスタマーケアで得た経験も含め、自分の目の前にあることを一生懸命取り組みながらも、将来的には日本のお客様の声を上手く製品開発につなげられるような仕事ができたらいいなとは思っています。これまでのキャリアを取り入れた目標なんですね。プライベートの方でも、こういう生活をできたらいいなみたいなものってありますか?2年前に保護犬を迎えたんですけれども、ちょうどその子との生活が落ち着いてきたので、もう1頭お迎えしたいなというのを思っています。この会社はペットフレンドリーオフィスと言って、自分の犬や猫を連れて一緒に出社ができるというスタイルなので、犬を2頭連れてオフィスで働いてみたいですね。ペットと一緒に出社ができるなんてすてきな会社ですね。ありがとうございました!
2024年02月22日2023年秋にブランド生誕30周年を迎えたレディスブランド「23区」。そのアンバサダーを務める女優・杏さん出演の新CM動画が3月14日より全国のTVでオンエアスタート。TVでの放映に先駆け、新CM動画と杏さんのインタビュー動画が「23区」30周年特設サイトと公式YouTubeで公開されました。■杏さんが語るパリでの生活と40代へのビジョン杏さんへのインタビュー動画では、パリでの休日の過ごし方や来たる40代に向けての抱負などが語られています。インタビュー中の杏さんは穏やかでナチュラルな雰囲気。 ▼最近の杏さんのお休みの過ごし方は?ここのところはやはり子ども優先で行きたいところに一緒に行ったりして、私も一緒に楽しんでいます。なるべくいろんなところに行ってみたりとか、普段できないちょっと時間のかかるお料理を作ってみたりとか、そういったふうに過ごしています。一緒に餃子を作ったりみたいな感じですね。▼最近お出かけして楽しかった場所は?ノルマンディーの方に車を借りて行きました。自然があって気持ちよかったです。▼現地の方との会話も勉強になりますか?話す機会は本当に自分から作らないと、日本もですが今はセルフレジも増えてきて、お話ししなくても買い物ができちゃったりするので、自分からいろいろ、生きたものに触れていかないとなっていうふうに思っています。▼来たる40代をどのように過ごしたいですか?どんなに健康であっても、からだを能動的にメンテナンスしていかなければいけない年齢にも差しかかってきているなと思います。とにかく元気いっぱいで過ごすために、栄養や運動はいっそう気をつけて、あとは何よりたくさん楽しんで過ごしたいなと思っています。新CMでは最新春コーデに身を包み、5変化を披露。東京を舞台に、美術鑑賞やカフェ、東京タワーやオフィスビルなどの日常的なシーンの中で、知的好奇心あふれる、美しく洗練された女性の姿を杏さんが表現。東京の街を颯爽と歩く杏さんはさすがトップモデルの風格。ファッションの着こなしや身のこなしもお手本にしたい。▼運動で意識していることは?背が高いぶんかがむことが多く、けっこう猫背の癖がついちゃっているので、なるべく背中や腰のストレッチは意識的にしていきたいなって思っています。▼食事の面で気をつけていることは?旬のものを食べて、体を温める、冷やすとか、きちんと美味しいものを美味しく食べたいと思います。▼50歳を迎えるときの理想像はありますか?私の50歳だとちょうど子どもたちがだんだんもう自立してきているような段階だと思いますので、そのときにきちんと子どもたちと並べるような人間でありたいなと思います。教えられることも増えてくるとは思うんですけれども、尊敬できる余地が残っているような人間でいたいなと思います。女優として美しく強く、また母親として優しくたくましく、自分らしくステキに年を重ねている杏さん。2023年は出演映画「キングダム 運命の炎」や「翔んで埼玉〜琵琶湖より愛をこめて〜」に加え、女性の社会問題をテーマにした7つの短編からなるアンソロジー映画「Tell It Like a Woman[私の一週間]」に主演し話題に。今年は主演映画「かくしごと」(6月7日公開予定)も控えており、女優としての活躍もますます楽しみですね。新TVCM「23区 JAPANESE WOMAN’S STANDARD Anne in TOKYO」(15秒・45秒 ※45秒ver.はWeb上のみで公開)Webで先行公開中、3月14日(木)より全国にて順次オンエア開始15秒: 45秒: 杏さん インタビュー動画公開中 お問い合わせ:「23区」
2024年02月20日【音楽通信】第152回目に登場するのは、椿の花のように愛らしく、個性豊かなメンバーが集まるハロー!プロジェクトのアイドルグループ、つばきファクトリー!みんなで素敵なグループを作っていきたいリーダー 新沼希空。1999年10月20日、愛知県生まれ。O型。趣味は洋服屋巡り、アイドル鑑賞。【音楽通信】vol.1522015年4月に結成され、2017年にメジャーデビューした、つばきファクトリー。同年には第59回『輝く!日本レコード大賞』最優秀新人賞を受賞するなど、名実ともにパワーアップし続けている、ハロー!プロジェクトのアイドルグループです。2021年7月には4人のメンバーが加入。2023年4月には浅倉樹々さんが、11月には初代リーダー山岸理子さんと岸本ゆめのさんがつばきファクトリーとハロー!プロジェクトを卒業。新沼希空(にいぬま・きそら)さんが2代目リーダーとなりましたが、今春のコンサートツアーをもって卒業と芸能界の引退を発表。新体制の9人グループとして活躍していたところ、2月初旬に3人の新メンバー加入が発表されました。そんなつばきファクトリーが、2024年2月21日に約2年9か月ぶりとなる3rdアルバム『3rd Moment』をリリースされるということで、メンバーを代表して新リーダーの新沼さん、河西結心(かさい・ゆうみ)さん、福田真琳(ふくだ・まりん)さんにお話をうかがいました。※ananwebの取材は2024年1月下旬に行われました。――まずはお名前と座右の銘など、自己紹介からお願いします。新沼つばきファクトリーのリーダー、新沼希空、24歳です。座右の銘は「誠心誠意」です。河西河西結心、20歳です。座右の銘は「七転び八起き」です。福田福田真琳、19歳です。座右の銘は「置かれた場所で咲きなさい」です。河西結心。2003年7月30日、山梨県生まれ。O型。趣味は踊ること、寝ること。――2023年は3名の卒業がありました。あらためてみなさんの現在のお気持ちから教えてください。新沼昨年卒業した3人は、結成当初からずっと一緒に活動してきたメンバーだったのですが、まさか1年で3人も卒業すると思っていませんでした。最初に(浅倉)樹々ちゃんの卒業があったときに悲しい気持ちもありましたが、それでももっと大きいグループになりたいと思いながら活動していたら、また2人の卒業が決まって…。私自身も昨年の春ツアーを経て、メンバーそれぞれに個性が出てきて、頼もしいと感じられる”シュンカン”が増えてきました。そのことから、新しい道に進もうと決意しました。3人が大切に守ってきてくれたこの「つばきファクトリー」というグループをみんなで大切に作り上げていきたい気持ちがあって、ずっと続いていくグループになれるように卒業まで限られた時間になりますが、全力で取り組んでいきたいと思います。河西先輩方に比べると私はグループ歴が浅い中での3人の卒業だったので、最初に浅倉さんが卒業したときは初めての卒業者だったこともあり、どうグループが変化していくのか不安でしたね。それでも、好きな浅倉さんが私たちに教えてくれたことを、卒業されたあとにもいかせるようにと前向きな気持ちになれた部分もあったのですが、その後に岸本さんと山岸さんの卒業となり、驚きのほうが勝って。すごく変化がある1年でした。リーダーが新沼さんになって、グループの雰囲気も変わった感じもありますし、先輩方に教えていただいたことを忘れずにつなげていきたいです。福田真琳。2004年10月18日、長崎県生まれ。AB型。趣味は食べること、バイオリンをひくこと。福田「つばきファクトリー」は一人ひとりの個性が違っていて、違っているからこそ、それぞれの持っている役割みたいなものが大きい気がしていて。なので、3人の先輩方が別の道に進まれたことは心の中にすごく大きな穴があいたような出来事でしたが、御三方は新たに自分がやりたいことを見つけて卒業されたので、そういう自分がやりたいことを追求する姿勢はすごくかっこいいなと。私にとっては、いまやりたいことが「つばきファクトリー」なので、卒業された先輩方のように、大好きなこのグループに貢献できるよう頑張りたいです。――「つばきファクトリー」結成時から在籍の新沼さんが新リーダーとなりました。今春のコンサートツアーをもって卒業と芸能界引退を発表された新沼さんですが、それまでグループをまとめるリーダーとしてのお気持ちはいかがでしょうか。新沼いままで(山岸)理子ちゃんがリーダーとして私たちを支えてきてくれたので、私のなかではまだリーダーは理子ちゃんのような感覚があるんです。だから、いまはリーダーという名前をいただいていますが、理子ちゃんみたいなことができているかと思うと、まだまだなのかなと。卒業まで、できる限りのことに挑戦していって、グループを盛り上げていきたいと思います。あとはリーダーといった立場などは関係なく、「つばきファクトリー」や活動に対して強い気持ちを持っているメンバーが多いので、それぞれが率先して動いてくれたり、いろいろなことをしてくれたりしています。みんなでグループを作っている、という感じが私は好きなので、一緒に素敵なグループを作っていきたいです。「つばきファクトリー」の歴史も感じるアルバム写真左から、河西結心、福田真琳、新沼希空。――2024年2月21日に3rdアルバム『3rd Moment』をリリースされます。8thシングルから最新シングルまでのシングル全12曲と、浅倉さん・山岸さん・岸本さんの卒業曲やライブで披露している曲の初音源化や新曲など盛りだくさんな内容ですね。新沼そうなんです。まず“リトキャメ”(2021年加入の河西、福田、八木栞、豫風瑠乃の4名を指す言葉「リトルキャメリアン」の略)がグループに入ってから、まだアルバムを発売していなかったので、いまの体制で発売できることがすごくうれしくて。さらに、アルバムのために新曲をたくさんいただいたので、多彩なジャンルの楽曲を歌えることもすごくありがたいです。河西私たちが加入してからの初めてのアルバムで、新曲をいただく度に振り幅が広がるように感じましたし、今回も初めて挑戦するような楽曲が多かったので、成長を感じることができるアルバムになっています。3名の卒業曲も収録されているので、「つばきファクトリー」の歴史も感じていただけると思います。福田私たちが入ってからのライブの新曲だったり、シングルの曲が入っていたりと、楽しんでいただけるアルバムです。私個人としては、「つばきファクトリー」の最初のアルバム『first bloom』(2018年発売)と2枚目のアルバム『2nd STEP』(2021年発売)をファンの立場として買っていたのですが…。新沼え~!知らなかった(笑)。河西そうなんだね。福田はい(笑)。車の中で曲をかけたりしていたので、そんなグループのアルバムに自分の声が入るんだなって、加入してからけっこう経つんですが、あらためて「やったー!」という気持ちになって(微笑)。また卒業された御三方の曲もあるのですが、卒業されても私自身ファンとしていまも応援しているので、ファンという立場からしたら、すごくうれしい特典だと思いました。このアルバムひとつで、「つばきファクトリー」の成長もわかりますし、さまざまな色に染まれるのだという魅力を感じていただけるはずです。――では続いて4曲ある新曲のうち、まず「Power Flower ~今こそ一丸となれ~」の聴きどころから教えてください。新沼湘南乃風のSHOCK EYEさんに作詞作曲していただいた楽曲です。最初に聴いたときは、ラップが入っていて、パンチのきいた楽曲だなと思ったんですが、歌詞を読んでみると「つばきファクトリー」をこれからどんどん世界に向けて大きくしていくぞ!というようなSHOCK EYEさんらしい熱い思いが書かれている歌詞だなあと。SHOCK EYEさんから楽曲を提供していただくのは3曲目になるのですが、私たちのことをすごく考えて書いてくださった歌詞で、愛を感じたので大切に歌っていきたいです。今回、私は初めてラップパートがあるのですが、イメージ的に私がラップを歌うようには見えないと思うんですよね(笑)。そういう面でも、新しい自分も出せる楽曲になるんじゃないかなと、披露するのが楽しみです。ライブに欠かせない1曲になっていくといいなと。――では新曲「Stay free & Stay tuned」は?河西この楽曲は「つばきファクトリー」にたくさんの楽曲を提供してくださっている中島卓偉さんの作詞作曲で、いまの「つばきファクトリー」にぴったりな印象の曲。歌詞には「不揃い過ぎると わかっているけど それが魅力 それがむしろ うちらのストロングスタイル」とあって。個性あふれるメンバーがいるからこそ、それが魅力的だよということを書いてくださったのかなと。前向きな歌詞ですし、聴いていても「頑張ってやるぞ!」という気持ちになれる、アップテンポで楽しい楽曲なので、コンサートで盛り上がりたいです。そして私の好きな部分があって、それは歌詞にはないんですが、新沼さんがあおりで「カモンエブリバディ!」と言うところがあるんですよ。そこが好き!新沼そこ(微笑)。この楽曲の序盤に入るあおりのレコーディングがあって、そのパートを録音したときに、普段ライブでも私はあおり担当ではないので、絶対自分の声が使われないと思ったんですよ。その様子を見ていたほかのメンバー数人も、私があおっているなんて「面白い~」みたいな感じで(笑)。すると、まさか私の担当に決まったので、全力でやってやろうと(笑)。河西ここが好きなんです(笑)。意外性があるところも、聴きどころだなと思います。――さらに新曲「EZPZ!!」はいかがですか?福田すごく軽快で爽やかな曲調で、これまでありそうでなかったような楽曲です。失恋ソングなんですが、これまでも失恋の曲はあったもののどちらかというと歌詞の女性像がちょっと大人の女性が多かったような印象があって。でもこの楽曲では、学生ぐらいの女の子の失恋曲になっています。同世代の方にも聴いてほしいですし、失恋したけど頑張ろうというポジティブな気持ちになれる楽曲です。――では、もうひとつの新曲「雨宿りのエピローグ」は?新沼こちらは女性の奥底の気持ちを歌詞に書き写すイメージのある山崎あおいさんの作詞なのですが、私はすごく山崎さんが作る楽曲が好きなんです。これも恋愛の楽曲で、少しアニソンっぽい印象も。私がハロー!プロジェクトに入ったきっかけとなったオーディションの課題曲が℃-uteさんの「悲しき雨降り」という楽曲で、その曲に少し似ている感じもして、懐かしくなりました。とくに女性に聴いてほしい楽曲ですね。――アルバムや新曲のお話をありがとうございました。ちなみに現在は年初から「Hello! Project 2024 Winter ~THREE OF US~」と題した全国ツアーで各地をまわっていますが、手応えはいかがですか。河西「THREE OF US」とあるように、モーニング娘。さんとBEYOOOOONDSさんと3グループで各地をまわらせていただいています。ほかのグループの方のいいところを吸収できるいい機会になるんじゃないかなとも思うので、私たちを初めて観る方にも「つばきファクトリー」を知っていただけるように頑張っていきたいなと。この冬で団結力も強くなったことを感じとれるので、さらに全員で成長していきたいですね。新沼2グループのファンを奪うぐらいの気持ちで、ツアーをまわっていけたらなと思っています。――3月10日には、千葉県の市川市文化会館で「つばきファクトリー メジャーデビュー7周年記念ライブ『ReALIZE』」も開催されますが、どのようなステージになりますか。新沼私たちはメジャーデビュー日が2月22日なんですが、ありがたいことに毎年ファンのみなさんと一緒にデビューをお祝いするイベントをやらせていただいていて、今年もお祝いイベントを行います。昨年は、ファンのみなさんにはサプライズで、生バンド体制でのコンサートを行いました。今年の内容はまだ話せなくて……ですが、今回もすごくスペシャルなライブになると思うので、喜んでいただけるのではないかなと。昨年来てくださった方にも、この1年の成長を感じてもらえるようなライブにしたいですね。それぞれも活動して素敵なグループになる――お話はかわりますが、おやすみのときはどのようにお過ごしですか。新沼神社やパワースポットに行くことがすごく好きなので、おやすみがあればひとりで気になる神社に行って、御朱印をいただいたりして、リラックスしています。あとは最近、サウナも好き。もともと暑いのはあまり得意ではなかったのですが、試しにサウナに行ってみたら、ひとりでぼーっと入っているだけでリラックスできて、自分には合っているなと感じたので、個室サウナとかに行ってみたり。そこで、ライブツアーの歌詞を覚えることもあります(笑)。――いいですね。神社などに行かれるというお話もありましたが、今年は初詣も行かれましたか?新沼自分の住んでいる地域の神社に行きました。違う日には、(河西)結心ちゃんと一緒に鎌倉のほうの神社に行って、人がすごかったですが素敵な景色や建物を観ることができて、よかったです。河西ふたりで鎌倉の鶴岡八幡宮や長谷寺などをまわって楽しかったですね。東京でおやすみを過ごすときは、神社仏閣を訪れたりします。長いおやすみがあるときは、山梨県の実家に帰って、愛猫のみみちゃんと遊ぶことが多いかな。あとはひとりで最近、近所のおいしいご飯屋さんを探して行ってみようかなって。いろんなことに興味があるので、人におすすめされたこともすぐやってみます。福田私はおやすみの日といえば、のんびりしていますね。ひとりで好きな食べ物を食べながら、ゆったりと映画やドラマやテレビを観たりしています。あとは連休があったら、私も結心ちゃんと同じく、実家へ帰りますね。長崎なのですが、学生時代に行っていた場所にもう一度行ってみて、その魅力を再度味わうことにも最近ハマっていて、それをブログで書いたり発信したりするのが小さな楽しみになっています。――ちなみに好きなドラマやお気に入りの映画などはあるのですか?福田ドラマは、「相棒」シリーズや「BORDER」といった刑事ドラマが好きですね。映画だと「ハリー・ポッター」シリーズは何回も観てしまいます。――では、2024年が始まったばかりなので、まず個人的な抱負をおひとりずつ聞かせてください。新沼個人の目標は、笑顔でいることです。普段ずっと口角が下がっているタイプなのですが、やはり口角が上がっていたほうがまず可愛いですし、印象もいいでしょうし、笑顔でいるといろんな運気が上がって幸運がやってくると思うので、どんなときでも笑顔でいるようにしたいです。河西私は“自称”ではない、観光大使になりたいです。地元の山梨県の観光大使を目指して、自称をつけて活動し始めたんですが、昨年は地元のラジオやテレビなどに出演することができて、夢のような出来事でした。もっと山梨県にも「つばきファクトリーを」知っていただけるように、さらにファンのみなさんにも山梨県の良さをたくさん伝えたいので、今年は脱・自称観光大使を頑張りたいです。福田私は初心を忘れずに、応援してくださっているファンの方を逃がさないことと、新たなファンの方を獲得したいという思いがまずあります。あとは、発信する力を伸ばしていきたい。いつも興味があることがあっても、自分にはできないんじゃないかな、とネガティブな気持ちになってしまって、心の中でやりたいことを止めてしまうことが多いので、今年は自分からもどんどん動いて、グループのために頑張れる1年にしたいです。個人的には、いま手をつけている語学や少し弾ける楽器が中途半端なままなので、腕を磨いて極めていきたいですね。――最後に、リーダーの新沼さんから「つばきファクトリー」としての今後の抱負をお願いします。新沼今年もそうですが、今後もずっと、「つばきファクトリー」というアイドルグループをもっとたくさんの方に知ってもらいたいです。3月のメジャーデビュー7周年記念ライブは“ReALIZE”というタイトルがついているんですが、単語に「気づく」という意味もあるので、世界中の人に「つばきファクトリー」のことを気づいてもらいたいですし、そんな存在になるのが夢。きっとメンバー一人ひとりがもっと大きいグループになりたいと思っているはずなので、それぞれもグループのために活動して、素敵なグループになっていきたいです。取材後記今回、「つばきファクトリー」の新沼希空さん、河西結心さん、福田真琳さんの3名がananwebに登場。取材中も和やかな空気に包まれながら、楽しく撮影とインタビューをさせていただきました。新たな門出となる新沼さん、これからもグループを支えていく河西さん、福田さんをはじめとした「つばきファクトリー」のニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね!写真・大内カオリ取材、文・かわむらあみりつばきファクトリーPROFILE2015年4月、小片リサ、山岸理子、新沼希空、谷本安美、岸本ゆめの、浅倉樹々でハロー!プロジェクト研修生内ユニットとして結成。2016年8月、小野瑞歩、小野田紗栞、秋山眞緒の3名が加入。2017年2月、シングル「初恋サンライズ/Just Try!/うるわしのカメリア」でメジャーデビュー。同年、第50回日本有線大賞 新人賞、第59回『輝く!日本レコード大賞』最優秀新人賞受賞。2021年7月、河西結心、八木栞、福田真琳、豫風瑠乃の4名が加入し、新体制となる。2023年4月に浅倉樹々が、11月に初代リーダー山岸理子と岸本ゆめのが卒業。山岸卒業後、リーダーは新沼希空、サブリーダーは谷本安美が務める。2024年2月21日、3rdアルバム『3rd Moment』をリリース。3月10日には、千葉の市川市文化会館大ホールで「つばきファクトリー メジャーデビュー7周年記念ライブ『ReALIZE』」を開催。InformationNew Release『3rd Moment』(Disc1 収録曲)01.涙のヒロイン降板劇02.ガラクタDIAMOND03. 約束・連絡・記念日04.アドレナリン・ダメ05.弱さじゃないよ、恋は06.アイドル天職音頭07.間違いじゃない 泣いたりしない08.スキップ・スキップ・スキップ09.君と僕の絆 feat.KIKI10.勇気 It’s my Life!11.妄想だけならフリーダム12.でも…いいよ(Disc2 収録曲)01.Power Flower ~今こそ一丸となれ~02.Stay free & Stay tuned03.七分咲きのつづき04.EZPZ!!05.サマー・チャレンジャー06.雨宿りのエピローグ07.アタシリズム08.君と僕の絆09.You’re My Friend feat.KIKI / 浅倉樹々10.かっちょ良い歌 / 山岸理子11.BE / 岸本ゆめの2024年2月21日発売*収録曲は全形態共通。*全種CD2枚組。(通常盤A)EEPCE-7820~1(2CD)¥3,850(初回生産限定盤A)EPCE-7814~6(2CD+Blu-ray)¥7,700*初回生産限定盤AのBlu-rayには8~11枚目シングルのMV、収録されていない別バージョンMV、岸本ゆめの歌唱動画、アルバムジャケット写真メイキング映像等を収録。(初回生産限定盤B)EPCE-7817~9(2CD+Blu-ray)¥7,700*初回生産限定盤BのBlu-rayには2023年8月24日に河口湖ステラシアターで行われた「つばきファクトリーの夏祭り2023 ~灼熱~」を収録。写真・大内カオリ 取材、文・かわむらあみり
2024年02月17日取材・文/ameri撮影:大嶋千尋編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部2024年がどんな1年になっていくのか、気になりますよね。少しでも良いことが起こる1年にしたいと思っているはず。今回は、アダストリア公式Webストア「.st(ドットエスティ)」にて12星座別毎日占いを連載しながら、アパレルブランドとコラボレーションした開運アイテムを発売している占星術師MageCさんに、今年全体の流れと星座別ランキング、開運のポイントを教えてもらいました!MageCさんって?前回のインタビュー「アパレル店員から占いの道へ。占星術師MageCに聞いた“占い師としての生き方”」をチェック■実はまだ“風の時代”のプレタイム。判断力をつける準備を2024年は、“風の時代”の準備段階。「今は風の時代だ」と2〜3年前からよく言われていますが、実はまだプレタイムなんです。というのも、惑星が行ったり来たりしながら順番に風の時代になっていくため、惑星が逆に進むこともあり、まだ完全には風の時代とは言えません。2026年までに徐々に風の時代へと移行していきます。2024年に関しては、1月21日に、時代を創ると言われる冥王星が次の星座のみずがめ座に入りました。そして、5月26日に幸運の星である木星がふたご座に入ります。このみずがめ座とふたご座は「風の星座」と言われていて、これまでの常識が覆ったり、今までやってきたことが普通ではなくなったりということが起こりやすくなる時期になっていきます。なので、今まで大丈夫だったことが大丈夫ではなくなり、逆にやった方が良いことが出てくるようになります。風の時代は個の時代とも呼ばれていますよね。個人が尊重され、自由な時代になっていきます。この時代は、やった方が良いこととそうでないことの判断が自分の中でできないとどうしたらいいか分からなくなってしまうので注意が必要です。具体的には、すでに「あれをやらなければ」と心に浮かんでいる方は、今のうちに進めておくこと。もし思い当たらない場合は、2024年の上半期は、特に身近な人を大切にするようにしてください。自分をしっかり持つためにベースを整えるのが2024年です。身近な人を大事にしたり、部屋の掃除をしたり、自分と向き合う時間を作ったりすることが開運の鍵です。■変化を恐れすぎるのはNG。少しでも良いから違うことを取り入れてみて一方で、注意したいのは、変化を恐れすぎてしまったり現状キープを希望しすぎてしまったりすること。もちろんキープは難しいことなので大切ですが、維持しながら一つでも良いから変化を取り入れるのがポイント。例えば、香水を変えてみるとか、いつも履いている靴や飲み水の銘柄を変えるとか、そういったことをしてみるのがおすすめです。2024年上半期は時代を創ると言われている天体が動くので、準備期間だと思って自分のベースを作ることに注力しましょう。ただし、下半期も穏やかかというとそうではなさそう。下半期も天体が星座を行ったり来たりする期間があるので「今までやってきたことがまた違っていたかも……?」と迷ってしまうかもしれません。2026年まではまだまだ忙しく変化が起こると思います。■2024年の運勢は?星座別ランキングここからは、2024年の運勢ランキングと、星座別に開運のヒントをお伝えしていきます!◇1位おうし座おうし座の方は、12年に1度の幸運期。追い風が吹いているので、人脈を広げたり新しいことに挑戦したりするのに適した時期です。特に前半、5月末まではじっとせずに積極的に行動するとより運気が上がります。◇2位ふたご座ふたご座はおうし座とは反対に、下半期の運勢が抜群です。現状に対して停滞していると感じている方が多いかもしれませんが、後半になると流れが変わるので、しっかりと切り替えてグイグイと挑戦していくのがおすすめです。◇3位やぎ座周りから注目され、恋愛運も上がり、人気者で楽しい1年になるでしょう。ただ、欲張りがちになる時期でもあるので、欲張らないように意識することが重要です。◇4位うお座周りからの評価が良い時期のため、やってきたことが身になることが多いと思います。逆に何も評価されなかった場合は、自分の行動を見直すべきという合図です。周囲の評価に満足できないのであれば、違う行動を取ってみることをおすすめします。◇5位おひつじ座物事が軌道に乗りやすい1年です。特に2023年上半期でやってきたことが具体的に進んでいきそうです。◇6位さそり座さそり座の方は、周りの人たちが助けてくれるなど、人のご縁に恵まれます。元々がすごく優しい性質なので大丈夫だとは思いますが、調子に乗って人への感謝を忘れると一気に運気が下がるので、注意しましょう。◇7位おとめ座憧れていることに近づきそうな1年。今までは無理かもと感じていたこともかないやすく、視野が広がっていくでしょう。ただ、人間関係で悩んでしまうことがありそうなので、人との距離感などを勉強する時期になると思います。◇8位いて座忙しい1年になります。仕事運が良い時期なので、楽しくやりがいを感じながら過ごせそうです。ただし、働きすぎてプライベートがおざなりになってしまうので、オンとオフの切り替えを意識することが大切です。◇9位かに座何か邪魔が入ったり、今までやってきたことに横から入られたりと、予想外の出来事が起こりやすいでしょう。ただし、自分のために何かをしてしまうとネガティブな出来事が起こりやすいので、誰かのためにと思って行うことで成功に近づきやすくなります。◇10位しし座大きな決断を迫られる年になるので、悩むことが多くなりそうです。しし座の方は基本的に勢いで進められるタイプが多いのですが、怖くなったり自信が無くなったりすることがある1年なので、そういった時には「どちらがワクワクするか」を考えて選択するのがおすすめです。◇11位てんびん座ひとりの人に執着しやすく、尽くしすぎてしまう時期です。都合の良い人になりがちなので、仕事や趣味など、他にも没頭できることを探してみましょう。◇12位みずがめ座周りの状況、環境に振り回されやすい1年です。一番星の影響を受けやすい時期なので、驚くような出来事やアクシデントが起こってしまう予感。良い意味でいうとターニングポイントになるので、目の前のことに一喜一憂せず、自分をしっかりと持ち、最終的なゴールを見据えて大きい目で見ると良いと思います。■開運のポイントは「質にこだわること」2024年の運気を上げるポイントは、特に上半期においては「質にこだわること」。良いものを食べたり美術館へ行ったり食材にこだわったりなど、五感を磨くことを意識しましょう。◇ラッキーカラー「ゴールド」また、ラッキーカラーはゴールドです。アクセサリーなどもゴールドを選ぶと運気アップに繋がります。◇ラッキーアイテム「シルクのパジャマ」ラッキーアイテムは、シルクのパジャマやカシミヤのマフラー。こちらも質の良いものとつながっています。◇ラッキーフード「紅茶」生活のなかにゆったりとした豊かな時間を取り入れるのもおすすめ。「紅茶」などを飲んでリラックスする時間を取り入れてみてください。マカロンなどを用意して、ゴージャスな雰囲気で楽しむことでより開運につながります。
2024年02月16日取材・文:瑞姫撮影:佐々木康太編集:松岡紘子/マイナビウーマン編集部※このインタビューは『LOVE CATCHER Japan』エピソード1~8のネタバレを含みます。「真実の愛」を求めるラブキャッチャーか、「賞金500万」を求めるマネーキャッチャーか。本能のままにどちらかを選択した参加者たちが、欲望を叶えるために参加するABEMAの恋愛番組『LOVE CATCHER Japan』が最終回を迎えました。参加者の一挙手一投足に注目してもなお、予想のつかない展開の先にあったのは、まさに“トラウマ級のどんでん返し”。まるでジェットコースターのように感情を揺さぶられ続け、大きな衝撃を与えた最終回の裏側では、一体何が起こっていたのか。今回は本編では語られなかった最終回の裏側、“マネーキャッチャー”と“ラブキャッチャー”それぞれの葛藤と苦悩、メンバーが過ごした8日間のラブマンションで起こっていた知られざるエピソードを、瞳、美良、雪乃、美沙紀、初音の女性メンバー5人にたっぷり語っていただきました。◇プロフィールひとみ(井上瞳)イラストレーター・24歳ゆきの(海津雪乃)グラビアタレント・25歳はつね(矢ヶ部初音)ゲームストリーマー・30歳みさき(谷岡美沙紀)Sサイズモデル・22歳みら(ヴァッツ美良)経営者・24歳※年齢は番組参加当時の年齢を記載しています。■参加者すら予想外すぎた正体――『LOVE CATCHER Japan』に参加しようと思った理由と、マネーキャッチャーとラブキャッチャーを選択するまでの経緯を教えてください。私は経営している会社で新しく始めた事業の資金がちょうど500万必要だったので、マネーに決めました。2023年は恋愛より仕事を優先すると決めていたので、迷いはなかったです。ルールも楽しそうだし参加してみたいなと思ったことがきっかけです。私は元々恋愛をする気がなかったので、マレーシアで8日間の短い恋愛をしてマネーを獲得して、その恋愛を置いて日本に帰ってこようと思っていました。私は正直ノリで(笑)。マネーを選んだ理由は、今まで恋愛で培ってきたテクニックやあざとさを発揮できるかなと思ったからです。ゲームとして試してみたかった。賞金は結果についてくるものとして考えてましたね。私はまずインドアなので、参加することによって色々な人と関われるし、さまざまな価値観に触れられると思って参加しました。マネーを選んだ理由は、今の私が恋愛もお金もどちらもすごく欲しいものじゃなかったので、恋愛をすごくしたいスタンスではないのにラブで挑むのはよくないんじゃないかな?と思ってマネーにしました。普段全く恋愛体質じゃなくて、プライベートでも友達を優先してきたタイプだったのですが、恋愛したいという気持ちは持っていたんです。この番組を知った時、8日間デジタルデトックスして男女で過ごしたら、もしかしたら恋愛モードになれるんじゃないかなと思って、私はそれを期待してラブで参加しました。――最初の時点では、女性メンバーの中で瞳さんだけがラブキャッチャーだったということになりますが、それを知った時はどういうお気持ちでしたか?視聴者の方は誰がマネーかラブか話数が進むにつれて少しずつ分かってくる部分もあるかもしれないんですが、実際に参加していると本当に分からないんですよ。結果的に男性は5人中4人がラブだったけど、男性の方がマネー多いんだろうなと思っていたし……。しかも、唯一のラブだった私が帰ってしまったので、知った時は本当にびっくりしました(笑)。――実際に参加していると分からないっていうのは、他のみなさんも同意見ですか?それこそ、私以外全員ラブで、男性メンバー4人がマネーだと思ってました。美沙紀が「身内からだます」って言ってたんですけど、本当にだまされてて(笑)!カメラが回っていないところで、友貴とカップルYouTube作るとか言ってたんですよ。だから本当にラブだと思ってました。カメラが回ってない着替え中に言うから、私、夏輝に言ったもん。「美沙紀カップルYouTubeやるって言ってるからラブだと思うんだよね」って……(笑)!本当に天真爛漫なラブだと完全に思ってました。自分で末っ子、天真爛漫、小悪魔みたいなキャラ設定をしてたので(笑)。美良もラブとして誠実な人だと思っていたので、最終告白の時にカップルが成立せずに1人で帰ってきた時は夏輝がマネーだったから不成立だったんだと思ってたんです。だから「夏輝やりやがったな……!」って気持ちだったんですが、美良がちょっと余裕そうな顔をしていたので、それで初めて「え……?そういうこと……?」と気づきました。――参加していると本当に分からないものなんですね……!私は確実に美沙紀がラブで、友貴とカップル成立すると思っていたので予想外の展開びっくりしました。1人で笑顔で帰ってきたから?笑顔と言うより、悪魔の表情(笑)。■最終告白前の選択に隠された想い――最後にマネーかラブか再選択できるというルールが発表されましたが、その時の気持ちを教えてください。また、マネーを突き通したおふたりは、告白後もその選択に後悔はありませんでしたか?私の場合は、会社のためのお金を獲りに行ったので、夏輝とか亞門くんに対して気持ちがいったのも事実で、選択を変えたいなと迷ったりもしたんですが、人に会社を任せて来ている以上、自分都合で「ごめん!やっぱり恋愛してきた!」と、最初の選択を変えることはできませんでした。自分の選択に、今も後悔はないです。――正直、最後は亞門さんに行くのかなともちょっと思ったんですけど……。私は夏輝のことをマネーだと思っていたので、それだったら、夏輝を選んで2人ともマネーで破綻する方が“まだいいな”って思ったんです。――逆に、あれだけラブっぽい亞門さんにマネーの方々が最初から行かなかったのが謎なんですが、それは何故なんですか?私の場合は自分の恋愛テクニックを試したかったので……。亞門くん本当にピュアだから簡単にだませてしまうし、それだと私なりのゲームにならない。――やめて!!!!!これ見てたら亞門さん泣いちゃいます!!!!!(笑)あと、マネーはラブに行けばいいじゃんって言われるんですけど、それはちょっと違うんですよ。恋愛をした先に、お金か愛かがあるという感じ。そういう人も今後出てくるかもしれないんですけど、私達はまだシーズン1で、何が起きるかもよく分かってない。恋愛をした先に、相手がどういう選択を最後にするかで行動していました。私も韓国の『ラブキャッチャー』を見ていたので、“もしかしたら今回も最後に最初の選択が変えられるかもしれない”と思っていたんです。その可能性を信じて行ったので、私は「相手がマネーだろうとラブに変えさせる」「そのためならキスも涙も全然使う」と決めていました。――それは、最終日前夜の自分からしたキスも……?はい。友貴がラブかマネーかは分からないけれど、限りなくマネーに近いと思っていたので、涙も使ってキスもしておいて、“それでもマネーでいるメンタルはあるのか”っていう。男の人にそこまでのメンタルはないだろうなと思っていたので、涙とキス、その2つは絶対やろうと決めてました。――……!!!!!(声にならない衝撃)この子、こんなもんじゃないですよ(笑)全員だまそう。誰も信用しない。って決めてました。■全てが終わった後に見せた最初で最後の本音――美沙紀さんは最終告白後に友貴さんからの手紙を読んで泣いてましたが、番組で3度目の最後の涙だけは、本当だったりするんでしょうか。あれは本当の涙です。正直キツすぎました。――あの涙すら嘘だったら、本当に何を信じていいのか分からなくなっているところでした……。私はマレーシアにいる間に毎日ノートを書いていたんですが、初日にみんなに会う前「最終日の私へ 多分選択は変えられるけど、このページを絶対に見てください」って自分に手紙を書いていたんです。“絶対にラブを選ぶな、後悔する”って。私はそれを見なかったら、ラブに変えてたかもしれないけど、その初日の自分からの手紙を見て、変えなかったです。正直精神的にもキツかったし、気持ちも動いてたし、危なかったんですけどね。正直、終わった後に後悔もしましたけど、今はあの選択に後悔はないです。――なるほど。ちなみに、最後にお金より愛を選んでカップルになった初音さんはどうでしょうか。私は“8日間の恋愛しよう”と思って来ていたので、自分の選択が変えられるとなった時に、このままマネーのまま帰国したら、自分が自分を苦しめるなと思ったんです。自分が最初にした選択にどんどん苦しくなっていってたので、変えられるって分かった時はすごくすっきりしたし、しがらみがなくなって自由になれた気がしたので、自分の選択に後悔はないです。――雪乃さんも、最後はラブに変えていましたね。変えられると知った時、「唯一の救いの手だ」と思いましたね。私は2日連続選ばれなくてデートに行けなくて泣いていたんですが、選ばれなかった悲しみももちろんあるんですけど、どちらかというと、覚悟がない上に目的をやり通せない自分と、相手をだますことへの罰が当たったんだと思ったからの涙というのが大きくて……。自分にはマネーの鎧が重すぎたので、最後に変えられると分かった時は本当に救われた気持ちでした。真っ直ぐすぎる亞門くんにすごく影響を受けたので、感謝の気持ちを込めて、亞門くんにラブのコインを渡しました。――瞳さんは途中で脱落してしまいましたが、マネーで参加したい気持ちは少しでもあったりしましたか?確かに500万という数字は大きいし、マレーシアに行く直前まで自分の意思でどちらか決めて参加できるので、迷った部分もあったんですけど、自分がラブで参加したことに後悔はないです。――最後に、最終回まで見届けた方にメッセージをお願いします。見終わった後にもう1回見て欲しいなと思います。その人が何の目的で来たのか分かった上で見ると、些細な表情の変化や言葉の意図など、色々な気づきがあると思うので、2回目、3回目と見ても楽しんでいただけるかなと。小さい世の中の仕組みを見たなと思ってもらえたらいいですよね。色々な価値観や目的があって参加しているので、その中で人生の一つのヒントにしてもらえたら嬉しいです。テーマが愛とお金という結構深いテーマなので、人の価値観の部分で考えさせられるし、ただ単に“人だまし合いゲーム”として見ても面白いし、どっちの目線で見ても楽しめると思います。みんな目的や価値観が違うので、誰か1人に共感してもらえることが多分にあると思います。これからのお金や恋愛の考え方のヒントになってくれたら。一般的に見たらマネーの人は批判を受けがちだと思うんですけど、私はラブを選んだけれど、愛とお金って究極の選択のだと思うし、私も本当に「奨学金を返したい!」とか目的があれば、マネーを選んでた可能性もある。ラブの人でもマネーになりうるから、マネーだから悪いとか、ラブだから良いとか、そういうことではない。そういうことを考えながら、もう1回見てほしいですね。――みなさん、ありがとうございました。◇『LOVE CATCHER Japan』(ラブキャッチャージャパン)番組概要配信URL:
2024年02月06日高橋文哉は、俳優デビューして5年。主演ドラマ、映画、CMなど、その快進撃はとどまるところを知らない。当の本人はと言うと、「まだまだ」といった鋭い表情ではるか先を見据えていた。満足をしない自分への飢餓がガソリンとなり、次の大きな道を拓いているのだろう。こうした進化に、観る者も惹きつけられるわけだ。2024年の最初の出演作は、竹内涼真主演による『劇場版 君と世界が終わる日に FINAL』となった。高橋さんは、竹内さん演じる間宮響と終末世界で行動を共にすることになる柴崎大和役として登場。喧嘩っぱやく、熱い側面を持つ元とび職人の大和は、いつも無我夢中で考えるより先に行動するタイプで、どこか初期の響を彷彿とさせた。何よりも、大和は高橋さんがこれまで演じることのなかった役柄となり、まさに新境地を踏んだといえる。劇中で大和が宿した「愛する人を必ず助けたい」という一途な想いは、俳優業にメラメラと全身全霊を傾ける今の高橋さんの真っすぐさに通じるよう。その想いをインタビューで聞いた。本格的に挑戦したアクションシーン「グッときました」――高橋さんは「君と世界が終わる日に」Season1をリアルタイムで視聴されていたそうですね。人気シリーズの劇場版に、ご自身が足を踏み入れた感想からまずは教えてください。現場に入った瞬間に、涼真さんやスタッフの皆さんがこれまで培ってきたものが、すごく見えたような印象を受けました。現場がかちっと固まっている感じがしたんです。それは4年という長い期間をずっと一緒にやってきているからこそ生まれる環境なんですよね。自分もこのパワフルさに負けないように、しっかりと熱量を持ってエネルギッシュにやっていきたいと奮い立ちました。――演じた大和は派手なアクションシーンも多く、特に窓を突き破るシーンは衝撃的な格好よさでした。ありがとうございます!窓を突き破るところは自分で観ていても格好いいと思いました(笑)。撮っているときは、まさか曲に載ってガラスを突き破るとは想像していなかったので、あそこはゾクっとしましたしグッときました。大和は自分としてもやっていてすごく面白い役だったので、その魅力が出ていたシーンだったのかもしれません。――本格的なアクションに挑戦してみて、実際に身体を動かすと気持ちも乗ってくるなど、新たな気付きはありましたか?アクションシーンで転がるようなときでも、例えばちょっとくらい痛いほうがその世界にぐっと入れるのは発見でした。物理的なことが影響することを、この作品ではすごく体感しました。涼真さんとのアクションシーンも、涼真さんが本気の力で耐えてくださったので、なるべく力を抜かないように、本当に首を絞めさせてもらったりもしましたし。常に危険はないように、けど本気で、いい塩梅を二人で探りながらやっていました。竹内涼真との共演が「何よりも大きかった」――竹内さんとの初共演は刺激的でしたか?はい、すごく。僕は『きみセカ』撮影のときまで、映画では『仮面ライダー』シリーズ以外で主演をやったことがなかったんです。今回の現場に入って、僕からすると涼真さんが“まさしく”という主演像でした。涼真さん自身は意識していないそうなのですが、全キャストに気を遣って話しかけたり、現場をなるべく揉んでゆるくできるようにしてくださっていて。それでもいざ本番になった瞬間は、きゅっとしめてくださって、すごくメリハリがあるんです。それでいて包み込んでくれるような雰囲気もあって…。もう、涼真さんのことは語り尽くせないです!映像に映っていない、残っていないところでの涼真さんの現場での振る舞い、立ち回り、現場での“いかた”が本当にすごいなと思いました。先日、連ドラの主演をさせていただいたときにも意識して思い出したのは、やっぱり涼真さんの姿でした。――“竹内涼真”という俳優の魅力、高橋さんの想いを強く感じるエピソードの数々ですね。この作品で得たものはアクションの経験ももちろん大きいですが、涼真さんのもとでお芝居ができたことが何よりも大きかったです。もう1回すぐに涼真さんとお芝居をさせていただきたいと思いましたし、今でも変わらず涼真さんと一緒にやりたい…。また会える日のために頑張れることも、この作品から受け取ったものなのかなと思いました。――今後、竹内さんと共演するならどんな役柄でご一緒したいですか?兄弟役をやりたいです!涼真さんは僕のお兄ちゃんと同い年ですし、年の差的にも絶対いけると思うんです。こうした生死に関わるようなハードな作品ではなく、ほんわかしたものがいいです(笑)。家のセットでずーっと撮っているような作品で、いつかご一緒してみたいですね。「相手の役者さんから吸収してお芝居をするタイプ」――高橋さんの俳優としてのキャリアは現在5年になります。急成長を遂げているイメージもありますが、ご自身としての手ごたえはいかがでしょうか?よくこうした取材で、「役でどういうことを受け取りましたか?」とか「どういう成長ができましたか?」と聞いていただくのですが、いつもわからなくて(苦笑)。まだ気づいていないんですよね。成長や自分が大きくなったという瞬間は、自分では気づかないものかもしれないな、と今は思っています。でも、例えば、『きみセカ』を応援してくださる方に見てもらって、「高橋、芝居うまくなったな」とか「いい顔するようになったね」と思っていただけたら、それはすごくうれしいです。――本作での大和は、ファンの方以外からもそうした声が届きそうです。もしも僕のお芝居がいいなと思ってくださるなら、それは共演の皆さんのおかげが本当に大きいと思っています。何というか…自分なりに分析したのですが、どうやら僕は相手の役者さんから吸収してお芝居をするタイプなんです。『きみセカ』だと涼真さんの声やセリフの言い方ひとつで自分の芝居が変わりましたし。なので、皆さんとのお芝居のおかげで、たくさん知らない自分のいい顔が引き出されていたのかもしれない、とも思います。――ありがとうございました。最後に、劇中では「ユートピア」と呼ばれる希望の都市にある高層タワーが舞台となっています。高橋さんにとってユートピア(=架空の理想世界)とはどのようなものでしょう?僕のユートピアですか?え~…ないですね。現実でいいです。――現実がいいんですね。はい。あとは僕、寝ているときに夢を見ることが大好きなので、そういう話ならあります。――夢の内容を覚えているんですか?覚えています。しかも「これ、夢だな」と思いながら夢を見られるという特技があるんです(笑)。それがすごく楽しいです。最近で言うと…でっかい石に追いかけられる夢を見ました。下に土を掘って逃げましたけど(笑)。たまに空を飛んでいたりもするんですよね、最高です!最近は見たい夢を見られるようにと、寝るときに「空飛びたい、空飛びたい、空飛びたい」と念じながら寝るようになりました。そうすると本当に高確率で空を飛べるんですよ!僕にとってのユートピアかもしれないですね。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:劇場版 君と世界が終わる日に FINAL 2024年1月26日より全国にて公開ⓒ2024「君と世界が終わる日に」製作委員会
2024年01月31日『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が本年度の米アカデミー賞を席巻し、絶対的な存在へと上り詰めた感のあるアメリカの映画会社A24。そのA24の初公開作品計11本を上映する「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」が、12月22日より全国5劇場で開催中。ホラー、コメディ、ドキュメンタリーと多彩な作品が入り乱れる本企画の実施を記念し、『ミッドサマー』や『aftersun/アフターサン』ほかA24作品の日本版ポスターやパンフレット等を多数手がけるグラフィックデザイナーの大島依提亜と、A24のクリエイターに多数インタビューしたSYOの対談を実施。「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」のラインナップを中心に、A24の今後についても考察していく。大島依提亜映画のグラフィックを中心に、展覧会広報物、ブックデザインなどを手がける。A24の日本版担当作は『パーティで女の子に話しかけるには』『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』『ミッドサマー』『Zola ゾラ』『カモン カモン』『X エックス』『LAMB/ラム』『MEN 同じ顔の男たち』『エブリシング・エブリウェア・オール』『Pearl パール』『aftersun/アフターサン』『ボーはおそれている』など。SYO1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。A24好きが高じて『インスペクション ここで生きる』日本公開時のオフィシャルライターを務めたほか、『アフター・ヤン』『X エックス』『Never Goin' Back/ネバー・ゴーイン・バック』等のパンフレットに寄稿。アリ・アスターやマイク・ミルズほか、多数のA24系クリエイターにインタビューを行う。「A24の知られざる映画たち」ではケリー・ライカート監督のオフィシャルインタビューを担当。『エターナル・ドーター』© ETERNAL DAUGHTER PRODUCTIONS LIMITED/ BRITISH BROADCASTING CORPORATION MMXXIISYO:最初に簡単な流れを話すと、元々僕たちが「A24の知られざる映画たち」のセンチュリーシネマさんでのイベントに出ることになっていて。そこでは『エターナル・ドーター』を中心に話す予定なのですが(本対談は12月中旬に実施)、先日シネマカフェさんのポッドキャスト番組「ツクリテラジオ」に依提亜さんに出ていただいた際に「今回の特集上映についてもっと語りたいね。時間足りないね」という話になり、今回の対談につながりました。大島:「A24の知られざる映画たち」で上映されるのは11本ですが、個人的に5つ星の作品が半分以上あって、これはぜひじっくり話したいなと。最初は「未公開のやつだからどうかな」と思っていたのですが、まだまだこんなに傑作が揃っていたのか!と驚きました。SYO:全作観て思ったのは、「これもA24なんだ!」と。自分の中のA24のイメージから外れたものもあって面白かったです。それこそ「未体験ゾーンの映画たち」(ヒューマントラストシネマ渋谷で開催される劇場未公開作品一挙上映イベント)を全部A24作品でやったみたいな。大島:そうそう。SYO:個人的に意外だったのは『ゴッズ・クリーチャー』です。これA24よりNEONなんじゃない?(『パラサイト 半地下の家族』『PERFECT DAYS』等の米国配給を手掛けるスタジオ)と思うような、それこそ賞を獲りに行く系の渋~い作品で。『ゴッズ・クリーチャー』© A24 DISTRIBUTION LLC, BRITISH BROADCASTING CORPORATION, NINE DAUGHTERS, SCREEN IRELAND 2022大島:もしくはサーチライト・ピクチャーズとか。SYO:そうそう(笑)。ろくでなしの息子を守るために母親がついた嘘が波紋を呼んでいく…というような話なのですが「日本でも置き換えられるよな、エミリー・ワトソンの役をやるのは吉永小百合さんか?いや、田中裕子さんかな」などと思いながら観ていました。息子役のポール・メスカルは『aftersun/アフターサン』で日本でも認知が広がりましたね。大島:ポール・メスカル、ハマっていましたよね。僕の今回のイチオシは『ファニー・ページ』です。これは傑作だった。『ゴーストワールド』のイーニドとレベッカの出てこないモブキャラだけで成立しているような作品で、ダメダメな人たちしか出てこないんだけど(笑)、16mmフィルムで撮影していることもあるけど、愛に溢れた視点で汚いものも美しく見えてくる。『ファニー・ページ』© 2022 A24 Distribution, LLC. All Rights Reserved.SYO:漫画家に憧れる男の子を中心にした、才能の話なんですよね。持っていない人たちや、持っているけど続けられるほどではなかった人たちが登場して「この部屋にいる奴らは全員才能がない」と自嘲するシーンなど、切なかった…。大島:そして、出来がものすごくいい。『グッド・タイム』『アンカット・ダイヤモンド』のサフディ兄弟がプロデュースをしているのですが、彼らがコメディを撮ったらこうなるのかなというような、あまり観たことのない感じがありました。主人公が下宿する先が、地下の温室みたいなところじゃないですか。あのシチュエーションを撮りたかったんだろうなと思いました。SYO:なんでわざわざここに!?と思うような場所ですよね。住人みんな汗かきまくってるし、眼鏡も曇っていて(笑)。自分がプロデュースする立場だったら「ここにする必然性は何?」と聞いてしまいそう。だからこそそこに、作家性が出ますよね。大島:監督は撮影中、もっと汗を!と演出してたみたいです(笑)。カンヌ国際映画祭の監督週間に出品されてA24が買い付けたみたいなんだけど、凄い才能ですよね。監督・脚本のオーウェン・クラインは、『イカとクジラ』に出演していた俳優で本作が監督デビュー作。今後がすごく楽しみです。主演のダニエル・ゾルガードリは、『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』今回の特集上映のラインナップにも入っている『ロー・タイド』とA24御用達の若手俳優ですね。ダニエル・ゾルガードリ縛りで観てもいいかもしれません(笑)。SYO:僕のイチオシは『アース・ママ』です。良すぎてびっくりしました。先日発表された英国インディペンデント映画賞2023でダグラス・ヒコックス賞(新人監督賞)を受賞したのですが、納得です。『アース・ママ』© 2023 Earth Mama Rights LLC, Channel Four Television Corporation. All Rights Reserved.大島:これは最高でしたね。『aftersun/アフターサン』と『Zola/ゾラ』を足したような撮り方も良かったし、本作でデビューしたサバナ・リーフ監督がバレーボールの元オリンピック選手というのもびっくりしました。SYO:短期間に11本一気見したことで、ファーストカットで大体いい作品かどうかがわかるようになったのですが、本作はちょっとレベルが違いましたね。大島:わかる。主演のティア・ノーモアはラッパーなのですが、『アース・ママ』を見た後に即Apple Musicで彼女の曲を探して聴きまくっています。SYO:そうなんですね!僕も聴かなきゃ。『アース・ママ』は育児の資格がないと判断され、子ども二人が児童養護施設に収容されてしまった妊婦が主人公なのですが、貧困や有害な男性性といった問題や文化的なアイデンティティについても触れられていて見ごたえが凄まじい。大島:生まれてくる子どもを養子縁組に出すかという部分で、人種のアイデンティティと実生活のせめぎ合いが描かれていくのも上手いですよね。離ればなれになった子どもたちに電話でお気に入りの曲を流すシーン、グッと来ませんでした?SYO:あれは泣きました…。僕自身が親になったことで共感ポイントが増えると同時に、厳しい目で見てしまうことも出てきましたが、本作はノイズを全然感じなくて。先ほど有害な男性性の話をしましたが、加害者であろう男性がほぼ全く出てこない・意図的に登場させていないというのも特徴だなと。大島:確かに、出てこないですね。僕はへその緒の描写も印象に残りました。現実問題を描きながら、新しい映像を撮ろうとする野心もちゃんとある監督だなと。『カモン カモン』のようなドキュメンタリー的な取材シーンと創作の物語をミックスさせているから、深みも出ていたし。SYO:そしてヴァル・キルマーのドキュメンタリー『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』。これは感動しましたね…。幼少期からヴァル・キルマーが撮りためていた日常の記録が1本の映画になっていて。『ヴァル・キルマー/映画に人生を捧げた男』© 2020 A24 DISTRIBUTION, LLC. All Rights Reserved大島:エディットがうまいですよね。素晴らしかったです。これを観た後に『トップガン マーヴェリック』を観たら、感動がものすごいんじゃないかな。しかし、A24のドキュメンタリーはハズレがないですね。『AMY エイミー』に『ボーイズ・ステイト』『オアシス:スーパーソニック』とみんな面白い。SYO:今回のラインナップの中で一番「劇場で観たい人が絶対いるはず」と思った作品かもしれません。彼の演技に対する想いや、完璧主義すぎて敬遠されてしまう苦しみ、ナレーションを息子が担当しているところ等々、見どころが多すぎました。大島:ドキュメンタリーはその人のどこを切り取るかによって180度イメージが変わるし、自分がプロデュースしている作品だからいい人に見せすぎてしまうきらいはあるけど、本作は一歩手前で止まる冷静さがあるのが素晴らしい。SYO:「過去の栄光にすがっている俺はダサいだろ?」と自嘲しつつ「でもこういう機会がないとファンと交流できない」と告白するシーン等々、全部を開示してくれる感じがありましたよね。大島:そして『ショーイング・アップ』も最高でした。ケリー・ライカート監督は日本でも人気だし本作は今回の特集上映の顔になっていますが、観たら作品自体が素晴らしくて顔になる理由がよくわかりました。しかし、ホン・チャウは素晴らしいですね。『ザ・メニュー』『ザ・ホエール』『アステロイド・シティ』そして本作と、いい作品に連続して出演していて凄いなと。『ショーイング・アップ』© 2022 CRAZED GLAZE, LLC. All Rights Reserved.SYO:本作は2人のアーティストの対立構造になっていて、芸術系の一家に育ったけどなかなかブレイクしきれない主人公(ミシェル・ウィリアムズ)と、自分ひとりで道を切り開いていく野心家のアーティスト(ホン・チャウ)の衝突も描かれるのですが、そこにお互いに認めているシスターフッド感があって心地よかったです。大島:ミシェル・ウィリアムズとホン・チャウが並んで歩き去っていくシーンでクリント・イーストウッドがよくやるエンディングショットというか、ふたりの遠ざかる姿をクレーンが上がっていく方法で撮影されていて、「ケリー・ライカートがこれをやるんだ」と思ったらハト目線だったのか!と気づいて面白かったです。あのシーンの演出はちょっと『フェイブルマンズ』を思い出しました。ミシェル・ウィリアムズ、ジャド・ハーシュとキャストもかぶっているし。あと僕は、映画に出てくる現代美術のコレクターなんです。例えば『ザ・スクエア 思いやりの聖域』などもそうだけど、『ショーイング・アップ』に出てくるアートも素晴らしいものばかりでした。SYO:今回の特集上映に際してケリー・ライカート監督にインタビューさせていただいたのですが、ミシェル・ウィリアムズとホン・チャウが演じたキャラクターは「どんな作品を作るか」から生み出されていったようです。実際にアーティストのもとでレクチャーを受けてから撮影に臨んだとか。大島:そうだったんだ。あとは、『ザ・ヒューマンズ』も良かったですね。『WAVES/ウェイヴス』のトレイ・エドワード・シュルツ監督の長編デビュー作『クリシャ』は、ホラーテイストに見せかけた家族の話という仕掛けですが、本作はその逆。最初から「家族の話ですよ」といいつつ、撮り方がホラー的でめちゃくちゃ上手いし、凝っている。『ザ・ヒューマンズ』© 2021 THE HUMANS RIGHTS LLC. All Rights Reserved.SYO:舞台となる家が怖いんですよね。壁の汚れとか、割れたトイレとか。そしてそれをじっと見ている父親がいて…。その中で展開していく会話が、聞かせようとしていない家族の内々の日常会話だから独特の居心地の悪さを感じました。それでいて、キャストが異常に豪華。『シェイプ・オブ・ウォーター』のリチャード・ジェンキンスに『ミナリ』『BEEF/ビーフ ~逆上~』のスティーヴン・ユァン、ジェイン・ハウディシェルは『その道の向こうに』に出演しているんですね。大島:『レディ・バード』のビーニー・フェルドスタインのシリアスめな演技が見られるのもいいですよね。本作はピュリッツァー賞に2度ノミネートされた劇作家スティーヴン・カラムが、トニー賞を受賞した自身の戯曲を映画化した作品だそうですが、映画としての完成度が非常に高い。いわゆる「劇作家の人が映画を撮りました」的な癖がないんですよね。演劇で出来ることをやり尽くしたから、映画ならではのことをやるんだという意志を感じました。SYO:エイミー・シューマー演じる姉が、妹カップルが仲良くしているところを見ちゃって「あっ」となるシーン等々、映像的な視点を感じました。大島:日常のディテールを強調することで醸し出される気持ち悪さが上手いですよね。ちょっとアリ・アスター監督の来年2月公開の『ボーはおそれている』にも通じるところがあるかもしれない。冒頭の建物で切り取られた空を映したカットもカッコよかったですよね。SYO:かなりじっくり見せていましたよね。ちょっと十字架に見える意味深なカットもあって…。僕は『アフター・ヤン』や『ブレードランナー 2049』のような“家映画”が好きなのですが、そうした方にもハマる気がします。大島:『フォルス・ポジティブ』も面白かったです。マタニティホラーなんだけど、こういう映画にピアース・ブロスナンが出ているのが新鮮だった。『フォルス・ポジティブ』© 2019 FP RIGHTS, LLC. All Rights Reserved.SYO:『007』のイメージを効果的に使っていましたよね。ファーストカットがラストカットと一緒で「なぜこうなったのか?」が明かされる構成の上手さ、そして床に垂れてしまった血が胎児の形になるなど、魅せ方も印象的でした。『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』『アース・ママ』含めて妊娠を描いた作品も今回多かった印象です。ここまでバーッと話してきましたが、こうやってA24縛りで様々な作品を観られるのは楽しいですね。A24にも色々な作品があるし、個人個人で最高!と思うものや微妙…と感じるものもあるでしょうが、本数が増えていくと「A24」というレーベルに対する解像度も上がっていきますし。大島:僕はA24全作品鑑賞マラソンを続けていますが、すごく楽しいです。観続けていくと「この監督は絶対に追っていこう」という人に出会えるし、青田買い的な楽しみ方もできる。新人・ベテランにかかわらず、A24は気に入った監督と継続的に組む特徴がありますから。『エターナル・ドーター』のジョアンナ・ホッグとは『スーヴェニア私たちが愛した時間』でも組んでいるし、『ショーイング・アップ』のケリー・ライカート監督とは『ファースト・カウ』もやっていますしね。SYO:『ファニー・ページ』はサフディ兄弟、『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』はバリー・ジェンキンス(『ムーンライト』)プロデュースですしね。『オール・ダート・ロード・テイスト・オブ・ソルト』© 2023 CARDINAL RIVER LLC. ALL RIGHTS RESERVED.大島:とはいえ監督を追いかける観賞スタイルって、やっぱりその人の作家性があるからあまり広がっていかない部分もあると思うんです。じゃあもっと広い意味で色々な映画を観てみようといっても、多すぎて何を観たらいいかわからない方もいるはず。そんなときに、制作・配給会社縛りで観てみるのは効果的ですよね。映画の多様性も味わえるし、一貫した自分の好みにフィットする映画を観ることもできる。「ホラーだったらブラムハウス」みたいなブランド感ってあると思いますが、A24の場合はひとつのジャンルによらず様々な作品が観られるから面白いですよね。SYO:しかも最近、A24自体も次なるフェーズに入ろうとしていますよね。先日情報解禁された『MEN 同じ顔の男たち』のアレックス・ガーランド監督の新作『Civil War(原題)』なんて、IMAX専用映画ですから。A24史上最高の製作費らしいのですが、まさかIMAX映画を撮るとは思わなかった…。大島:ロック様(ドウェイン・ジョンソン)が伝説のレスラーを演じた『The Smashing Machine(原題)』をサブディ兄弟の弟、ベニー・サフディが監督するのも驚きですし、『セイント・モード/狂信』のローズ・グラス監督の新作『LOVE LIES BLEEDING(原題)』等、アクションの方にかじを切ってきた?と思うようなところもありますよね。明らかにこれまでとは違う動きだなと。SYO:確かに、来年日本公開が発表された『アイアン・クロー』もプロレスラーの映画ですしね。主題は違っていても、アクション要素はあるでしょうし。小島秀夫監督のゲーム『DEATH STRANDING』実写化も発表されましたし、アートフィルムと並行して大きめなバジェットの作品もどんどん作っていくのかな、とは感じています。大島:今後の戦略として、アートフィルムを撮っている監督にエンタメやアクション映画を撮らせて、毛色の違うものを作ろうとしている感じはありますよね。アレックス・ガーランド監督は『アナイアレイション -全滅領域-』も撮っているけど、『Civil War』はもっと現実的な話でしょうし。SYO:個人的には政権がひっくり返るディストピア映画『ニューオーダー』的なテイストの話かなと思っています。依提亜さんと話していて思ったのですが、こうした新たな動きは劇場体験を追求した結果なのかな?と。これまでは『ミッドサマー』だったり『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』のヒットもあってA24の武器の一つにホラーがあったように思いますが、劇場に呼び込むさらなる施策として臨場感や肉体性を感じられるアクション映画の比重を増やしているのかもしれませんね。「A24の知られざる映画たち presented by U-NEXT」12月22日(金)より、ヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷ほかにて4週間限定ロードショー。2024年1月26日(金)よりU-NEXTにて独占配信。※『ロー・タイド』『ファニー・ページ』『スライス』はPG-12作品。(SYO)
2023年12月29日「悪との距離」「次の被害者」「模倣犯」など話題の台湾ドラマを次々と世に送り出し、台湾の映像業界で一目置かれる名プロデューサー・湯昇榮さん。製作の舞台裏を聞くと、見えてきたのはグローバルに展開するための脚本開発へのこだわりと、ローカル色を取り入れたストーリーの多様化だった。配信サービスの普及でグローバル化に方向転換――近年の台湾ドラマは飛躍的にクオリティが上がったと感じます。その背景には、文化コンテンツの産業化や国際化を促進する「台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー 」(以下、TAICCA 読み:タイカ)や台湾政府によるサポートがあるとうかがっています。現場で感じる変化があれば教えてください。まず、これは世界的なトレンドですが、Netflixのようなストリーミングプラットフォームの台頭によって視聴者の鑑賞スタイルが変わりました。テレビと違い、見たい時に、見たい速度で見られる。こうしたビジネスモデルによって、好まれるジャンルが明確になったと思います。台湾のドラマはここ10年間で大きな変化を遂げました。とりわけこの5年間で、さまざまなジャンルの作品が作られるようになったと思います。約5年前にTAICCAのような機関ができてからドラマ製作へのサポートが強化されましたし、政府も政策面の改善を進めています。――最近の映画やドラマのヒット作を見ると、ホラーや社会派ドラマ、LGBTQ+など、ジャンルが多岐にわたっています。台湾の市場でうけるジャンルと海外展開を狙ったジャンルに違いはありますか?まず映画に関していえば、台湾の観客に人気のジャンルはホラーです。ラブストーリーも人気ですね。次にドラマの話をすると、台湾ならではのジャンルとしては、BLドラマがあります。ニッチな視聴者層ではありますが、世界的に関心の高いテーマでファンも多く、LGBTQ+の要素がある作品は海外市場をさらに開拓できる可能性のあるジャンルだと考えています。海外向けでいうと、クライムサスペンスですね。手ごたえを感じたのは、私が代表を務める製作会社・瀚草影視が6年前に手掛けた医療サスペンス「麻酔風暴2」のあたりから。この作品はヨルダンでの撮影を敢行し、海外にも版権が売れました。もともと台湾の人も、日本や米国のクライムサスペンスはよく見ていたのですが、製作会社には予算がないし、撮影手法やストーリーの語り方もよく分からなかった。そこで私たちは何年もかけて研究を重ね、「次の被害者」(2020年)、「模倣犯」(2023年)の2作で自信を深めました。Netflixシリーズ「模倣犯」独占配信中もう一つ大事なジャンルは、社会的テーマを取り上げた作品です。「悪との距離」(2018年)を製作した時から、ああいう社会の一面を切り取った作品は台湾の視聴者にうけると信じていました。台湾ではケーブルテレビがほぼ全家庭に普及しており、ニュースチャンネルだけでも10数チャンネルある。ニュースを視聴する習慣があるので、社会の動きを追うことに関心が高いのです。ですから「模倣犯」にも社会的テーマを盛り込みましたし、こうした作品を製作することで、世界中の人に台湾の姿を見てもらうチャンスが生まれると信じています。脚本家の創作活動を支える取り組み――TAICCAとの協力で実現した作品の例と、TAICCAによる支援の意義や成果についてどのように考えていますか?韓国のKOFIC(韓国映画振興委員会)のように、TAICCAは台湾において大事な存在で、瀚草影視はTAICCAとファンドや脚本開発で協力関係を結んでいます。2022年には台湾の新進監督や作品を支援するファンド「合影視」(Tomorrow Together Capital)を設立しました。今年金馬奨にノミネートされたホウ・シャオシェン監督のプロデュース作『老狐狸』(『Old Fox』のタイトルで今年の第36回東京国際映画祭で上映)はこのファンドを使って製作した作品です。『老狐狸』(文策院提供)もう1点、TAICCAがすばらしいのは脚本開発をサポートしてくれることです。最近では「次の被害者2」で協力をいただきました。ほかにも脚本開発が進んでいる映画やドラマの企画がいくつもありますが、まだお話できる形にはなっていません。TAICCAは、台湾のクリエイターが生活に困らず、よりよい環境で創作に臨めるように、まず脚本開発費を提供してくれるので非常に助かっています。TAICCAとは脚本家のワークショップも行っています。昨年、一昨年は、Netflixのオランダの脚本家にご協力いただき、台湾で初めて大規模なワークショップを行いました。台湾の脚本家が大勢参加し、米国ドラマの脚本執筆のノウハウを学びました。――「模倣犯」についてうかがいます。原作自体は少し前に書かれた小説ですが、今の時代に合った巧みな改編をされていたと思います。脚本開発には、どのくらいの時間をかけたのですか?原作に書かれている事件について、設定されている当時の時代背景をいろいろ調べる必要がありました。そして得られた結果を分析し、取り込める要素は今回の脚本にも取り込み、キャラクター設定やストーリー構成も再考したのです。脚本完成までに約2年半の時間をかけ、今の台湾にローカライズした「模倣犯」を作り上げました。台湾のクリエイターたちに宿る日本の“養分”――日本のコンテンツのどんなところに魅力を感じますか?かつて台湾では日本漫画などを原作にしたドラマが数多く制作されていましたが、今では台湾における影響力を見ても、韓国のコンテンツに押されています。漫画やアニメ、小説など、日本は世界で最も重要なクリエイティブの発信地だと思っています。私は日本のドラマを見て育ちましたし、推理小説や漫画など、日本のコンテンツは今も魅力的です。「おしん」の大ヒット以降、大勢の日本のアイドルやドラマが私たち台湾のクリエイターの養分となっています。ここ10年ほどで皆、韓国ドラマを見るようになりましたが、日本から吸収した養分は今でも生きていますし、日本にはまだまだ大勢のクリエイターがいる。「模倣犯」も宮部みゆきさんの過去の小説ですが、物語の核となる部分は、改めてドラマにする価値が十分あると思いました。ドラマ化の機会を下さった宮部さんには、とても感謝しています。現在も、複数の日本とのプロジェクトが進行中です。日本と台湾だけではなく、世界中の視聴者にも理解してもらえるようなテーマの作品を発信していきたい。日本と台湾でヒットすれば、世界でも通用すると思っています。実は私が小さい頃、母が10年間、日本で働いていたことがあるんです。兄も日本の大学を卒業しました。家族が長い間日本にいたので、私も80年代、90年代の日本をよく知っています。ローカルの多様なストーリーを生む背景――湯さんのプロフィールを拝見すると、以前はテレビ局で客家や原住民に関する番組などを製作されていたそうですね。その経験も今のドラマ制作に活かされていますか?私自身、客家人なので、自分のルーツには非常に関心があります。学生時代は原住民のサークルに入っていましたし、母はホーロー語(台湾語)を話す所謂“本省人”。私にはいろいろな背景があるのです。小さい頃は「眷村」(戦後、中華民国政府とともに大陸から台湾に渡った軍隊とその家族が住んでいた集落)に住んでいたこともあります。こうした経験や背景から刺激を受けましたし、移民や外国人労働者の問題、民族といったテーマに関心を持つようになりました。2021年に製作した「茶金 ゴールドリーフ」は、改めて客家というルーツを見つめて製作したドラマです。多額の予算をかけた作品で、台湾で大きな反響を得ました。日本でも美術家の奈良美智さんがTwitterで言及してくださいました。世界共通で視聴者が見たいのは物語に流れる感情やキャラクターです。そこにローカル色ある独自の背景を加えると作品が多様になって面白くなります。ストリーミングサービスが普及し、ローカルの視聴者のニーズも増えているので、もっと多くのジャンルのストーリーを打ち出していきたいと思っています。――日本では映画やドラマの制作現場の労働環境の厳しさやハラスメントの横行が問題になっています。台湾ではいかがですか? プロデューサーとしてどんな取り組みをされているのか教えてください。この業界で長く働いていますが、ここ3~5年で大きく変わったと思います。既定の労働時間内に作業を終えることや労働環境の安全を保つためにも、撮影に入る前にスタッフ全員が講習などを受けなくてはなりません。我々のチームは女性が多いので、女性が働きやすい環境づくりにはとても気を配っていますし、いつでも訴えを聞ける体制にして、対処するようにしています。映像業界の仕事はハードです。時間的にも、集中力が必要という点でも、生活面でも十分な目配せが要る。産業の健全性を保つため、しっかり取り組まなければなりません。こうした対策をしっかり行って初めて、スタッフ一同が共通認識を持ってグローバルに展開していけると思います。このインタビューは、台北で開かれた文化コンテンツ産業の大型展覧会「2023 TCCF クリエイティブコンテンツフェスタ」(Taiwan Creative Content Fest)の合間に行った。TCCFを取材して感じたのは、台湾の文化コンテンツ産業にとってグローバル化は、市場という意味だけではなく、国際社会に台湾の存在感を示すためにも非常に重要な意味を持つということ。エンターテインメント性と台湾ならではのローカル色を両立させたドラマ作りにおいて、湯さんの脚本へのこだわりと、公的機関からの手厚いサポートが印象的だった。やはりTCCFに参加していた深田晃司監督にもお話をうかがうと、「日本の場合は脚本開発への助成が少なく、安価に抑えられてしまいがち。少ない報酬や短い期間で脚本執筆を迫られることも多い」といい、経済的に一番リスクの高い脚本開発の部分をサポートすることの重要性を指摘。「たとえば韓国のエンターテインメント作品の粘り強さというか、脚本上の練り込まれ方を見ると、実はエンターテインメント作品こそ、脚本開発って重要なのかもしれませんね」と語ってくれた。台湾から今後、どんな厚みのあるドラマが生み出されるのか、これからも注目したい。プロフィール湯昇榮(フィル・タン)プロデューサー、監督、記者など、映像業界で25年以上のキャリアを持つ。プロデュースした「次の被害者」「悪との距離」「火神の涙」「茶金 ゴールドリーフ」はいずれでもネットフリックスで数10週にわたりランキング1位に輝いたほか、「模倣犯」は台湾ドラマ史上初めて世界の非英語作品ランキングで2位に入った。〈協力:台湾クリエイティブ・コンテンツ・エイジェンシー〉(新田理恵)
2023年12月25日韓国を代表する俳優であるに止まらず、NETFLIXのドラマ「Sence8」(15~18)や是枝裕和監督と組んだ『ベイビー・ブローカー』(22)などの海外作品にも積極的に出演し、独自のキャリアを築いてきたペ・ドゥナ。『アーミー・オブ・ザ・デッド』(21)のザック・スナイダー監督が長年にわたって温めてきた構想を映像化したSFスペクタクル大作『REBEL MOON』では、主人公と共に戦う人物ネメシスに扮し、華麗なアクションを披露。俳優としての可能性をさらに広げた。国境と言語を越えて表現できること――宇宙を支配する巨大帝国マザーワールドに挑む戦士コラと彼女の仲間たちの戦いを描く『REBEL MOON』への出演を決めた理由を教えてください。私は基本的に規模の小さい映画や、人間の内面を描くような映画が好きですが、ファンタジーもとても好きです。それまで誰も見た頃もない、想像の中にしかなかったイメージを具現化して見せるというのも、映画というジャンルの持つすばらしい特徴のひとつだと思うからです。自分がその世界の中にいるのもとても楽しいです。『REBEL MOON』へ出演することは、SF大作を作ってきた歴史の長いハリウッドのCGI技術を自分の体で感じることができるチャンスだと思いました。いったい、どんなふうに撮っているのだろうか、それを学んでみたいという気持ちが強かったんです。好奇心を刺激されたのが大きかった気がします。――日本では今年、実際に起きた事件をモチーフとし、ペ・ドゥナさんが刑事役を演じた韓国映画『あしたの少女』(22)も公開されました。『REBEL MOON』とは規模もジャンルもまったく違う作品ですが、俳優として撮影に臨む際に違いはあるのでしょうか。演技をする時、特に国境を越えて何かを伝えようとする場合に大事なのは、すべての人間が持っている“心”というものが通じ合えるかどうかだと思います。もちろん、言語も大事ですが、心を伝えられるキャラクターかどうかを第一に考えます。日本の監督と組んだ『空気人形』(09)や『リンダ リンダ リンダ』(05)のときもそうでしたけれど、日本語があまりうまくなかったとしても、なんとか自分の気持ちを日本の観客に伝えようとしました。今回も、国境と言語を越えて自分がうまくできるところがあると思ったので選びました。もし、「感情のない役をやってほしい」と言われたり、ワンシーンにしか登場しないような役をオファーされたりしたら、やらなかったと思います。私が演じたネメシスの物語は、『REBEL MOON パート1:炎の子』よりも4月から配信される『REBEL MOON パート2:傷跡を刻む者』の方でより詳細に描かれていきます。あと、基本的に、静かで憂鬱な役を演じると、次の作品ではより活動的で楽しいものにひかれます。キャラクターを考え、衣装に自ら意見も――『REBEL MOON パート1:炎の子』の中でネメシスは、卓越した戦闘能力を発揮しますが、同時に、自らが倒したモンスター、ハーマーダの死を悼むような言葉を口にするような人物でもあります。彼女の背景をどのように理解して演じましたか。上半身が女性で下半身が蜘蛛の姿をしたハーマーダは、人間たちのせいで子どもが産めず怒りを抱いていますが、ネメシスはそんな彼女に母として共感しているんです。なぜなら彼女自身も母親で、傷を抱えた人物だからです。パート1だけだと少し背景がわかりにくいのですが、パート2を見ていただくと、彼女にとって母親としてのアイデンティティがどれだけ大きく、ハーマーダになぜそこまで同情したのかという理由もわかると思います。――ペ・ドゥナさんが韓国人であることは、ネメシスというキャラクターにどれくらい反映されていますか。特に意識して演じたことはありません。映画をご覧になって韓国っぽさを感じるとすれば、それは衣装のせいかもしれません。ネメシスが被っているつばの広い帽子は、韓国の伝統的な帽子“カッ”をもとにデザインされたものです。衣装合わせに行ったときに、すでに部屋に置かれていたので聞いてみると、私がキャスティングされたと聞いて衣装デザイナーのステファニー・ポーターが「韓国的なものを衣装に取り込もう」と考えて調べ、帽子に興味を持ったそうです。この帽子は朝鮮時代に両班(ヤンバン)と呼ばれた支配階級の男性が被っていたものです。私が出演したドラマ「キングダム」でも、王の息子が被っていましたね。あのドラマではとても低い身分の女性を演じていたこともあり、今回、この帽子を被ったときにはすべてを超越したような爽快感がありました。そのほか、上着も伝統的な韓服の上着チョゴリに似ています。私が意見を出したのは、ボトムスについてです。もともとは裾が短く、足首が見えていましたが、ネメシスが剣を使うキャラクターなので、剣道着のように裾を長くしてはどうかと言いました。足が見えないほうが、動きがわかりにくくなり、より高段者のように見えるのではないかと思ったので。――完成された映画を観てどのように感じましたか。本当にびっくりしました。私たちはロサンゼルスのスタジオを中心に撮影していましたが、スクリーンに映し出されたものはまったく違いました。CGも加わっていたし、背景の描写もすばらしく、脚本を読んだり撮影をしたりしていたときには想像できなかった映像でした。自分の格闘シーンを見ても「こんなことをやっていたのかな?」と驚いたほどです。監督のザックがポストプロダクションで工夫してくれたおかげでとてもかっこよくなっていました。みなさんに観ていただくのが待ち遠しいです。(text:佐藤結/photo:You Ishii)■関連作品:【Netflix映画】ブライト 2017年12月22日よりNetflixにて全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】マッドバウンド 哀しき友情 2017年11月17日よりNetflixにて全世界同時配信【Netflixオリジナルドラマ】オルタード・カーボン 2018年2月2日より全世界同時オンラインストリーミング2月2日(金)より全世界同時オンラインストリーミング【Netflix映画】レボリューション -米国議会に挑んだ女性たち-
2023年12月22日【音楽通信】第151回目に登場するのは、TikTokに投稿した楽曲が大バズりし、音楽シーンに彗星の如く現れた20歳のシンガーソングライター、なとりさん!高校卒業間際から音楽活動をスタート【音楽通信】vol.1512021年5月から音楽活動をスタートした、現在20歳のシンガーソングライター、なとりさん。エレクトロミュージックから和楽器、バンドサウンドまで取り入れた楽曲を、独自の艶やかなウィスパーボイスで歌っています。2022年5月に投稿した楽曲「Overdose」はTikTokでの関連動画が約500,000個、総再生回数は20億回を超える大反響。Billboardのストリーミングソングチャートでは、歴代6位タイの速さで1億回突破を達成し、国外まで知名度を広げました。さらに今年、Adoさんが「Overdose」をカバーしたYouTubeも話題に。素顔を明かしていないため、なとりさんの音世界を表現するイラストがキービジュアルとなっているミステリアスなところも、惹きつけられる要素のひとつです。そんななとりさんが、2023年12月20日に、1stアルバム『劇場』をリリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――小さい頃に音楽に出会ったきっかけや、よく聴いていた音楽から教えてください。物心が付く前から、ひとまわり上の姉がORANGE RANGEが大好きで、家でずっと曲をかけていたことを覚えています。母も音楽が好きで、アカペラグループに入って歌っていたこともあって、ゴスペラーズをよく聴いていました。姉や母の好きな音楽が、僕の音楽的なルーツとなっているといえそうです。音楽を始める前、いまのネット発の音楽の入り口は、米津玄師さんでした。米津さんから影響を受け、いろいろな音楽を聴いていくようになりました。その後、高校2年生の時に、キタニタツヤさんの音楽を聴くようになって。きっと僕の曲の中にも無意識のうちにそのエッセンスが入っているだろうなと思うほど、キタニさんの曲を聴き込みました。そしてキタニさんの音楽に出会ったことで、音楽を始めました。――キタニさんの影響で、現在のようにご自身で作詞作曲されるようになったのですか。もともと「音楽がしたい」と思うようになったときに、キタニさんのYouTubeを観ていたんです。パソコンの画面を映しながら、打ち込み、DTMで作曲をするというライブ配信があり、スマホでも作曲ができることを知って。それが高校卒業間際ぐらいの時期だったので、そこから自分でも曲を作るようになりました。――とくに楽器に触れる機会はなく、最初から打ち込みでの曲作りとなったのですね?そうです。中学2年生ぐらいのときに、母親がギターを始めたこともあり、僕も褒められたいがために始めたことがあって。そのタイミングで米津さんの音楽を聴いていたので「この曲を弾いてみたい」と思って弾いたこともありましたね。――活動開始から1年後にTikTokに投稿された「Overdose」が大反響を呼び、大きな手応えを感じたのではないかと思うのですが、いつ頃から将来は音楽の道でやっていく、と決意されましたか。実は活動開始のときに、僕は就職していました。働きながら好きな音楽をやって、「ちょっと売れればいいな」ぐらいに思っていて。そのぐらいのテンションで投稿した曲がバズり、急にいろいろなところから反響がきたため、自信を持つよりも、むしろ自信をなくしてしまったんです。「僕は音楽的な下積みがないのに、こんなにすごいところにいていいのか」と。音楽を作るモチベーションが下がるきっかけにもなって、これだけ反響のある曲をこれから作り続けないといけないのか、とものすごく怖くなって悩むようになりました。ただ、活動を始めて1か月ぐらいで、運良く反響をもらった曲があって。そのときにいくつかのメジャーレーベルの方からお声をかけてもらったことがきっかけとなって、今年の3月に「フライデーナイト」という曲をソニーから配信しました。この曲は、SpotifyブランドCMソングにも起用していただいたのですが、初めてのCM曲だったので「めっちゃ仕事してる~!」という感覚にもなりました(笑)。――「フライデー・ナイト」のミュージックビデオは、現在700万再生となっていますし、なとりさんの勢いを感じます。とはいえ、音楽活動でやっていくとなると大変なことも。当時、ご家族やまわりの方から何か反応はありましたか。最初はとても心配されましたね。家族に「『Overdose』がバズってる」という言い方をしても、「なんかちょっと聴いてもらえたんだね」というぐらいの反応でした(苦笑)。その後、本当に「Overdose」を配信することになって、家族からようやく認めてもらえましたが、ずっと音楽を仕事として続けていけるかはわからないからいろいろ考えてね、とも言われて。理解されるまではしんどかったですが、音楽活動一本でいきたいと押し切りました。1stアルバムは「つくづく良い作品になった」――2023年12月20日に1stアルバム『劇場』をリリースされましたが、仕上がってみていかがでしょうか。自分を褒めるようで気恥ずかしいのですが、よく頑張ったなあって(笑)。つくづく良い作品になったな、と心の底から感じていますね。ほかに今年の思い出がないぐらい、ずっとアルバムの作品作りに没頭していました。僕のこの1年の音楽がたくさん詰まっている作品なので、たくさん聴いていただきたいですし、ヒットしてほしいと思っています。――タイトル曲の1曲目「劇場」に込めた想いから教えてください。この曲は「Overdose」がバズる前に作ったので、まだ僕の曲がほとんど聴かれていない時期だったんです。ちょうど仕事でも上司に腹が立っていて、私生活もうまくいかなくてものすごく悩んでいた時期に、デモとして作った曲。本当に僕のもっともパーソナルな闇の部分を凝縮して作った曲なんですよ。“闇を書く”というのは、「なとり」という音楽の中で、すごく大事にしている部分でもあって。その一番濃いものをたくさん聴いてほしいと思ったんです。さらにアルバムを作るとなったときに、「劇場」というタイトルはひとつの作品としてまとまりがいい。なので、これを1曲目に選ぶことで、これから「なとり」の劇場が始まるよ、という意味合いも込めています。――先ほどもお話を聞いた3曲目「Overdose」は、ご自身にとってどんな存在でしょうか。まったく僕の曲を聴いてもらえていない時期に、自分のやりたい曲はいったん置いておいて、まずは入り口になる曲がないといつまでも聴いてもらえないと考えました。そこで、自分のやりたいことを無視して、当時一番TikTokで受けている層に対してアプローチした楽曲が「Overdose」です。自分の中でトレンドを分析し、出てきた4つのキーワードを全部踏襲しようと意識して作っていったところ、想定以上の反響があって。人生を変えた曲になりました。――作られたときは19歳ぐらいですか?19歳です。ふっとメロディが降りてきた感覚があって、新鮮なうちに届けたいと、一気に作っていったことがすごく印象に残っている曲でもありますね。――ということは、曲を作られる際に冷静に分析する視点と、ぱっと湧いたイマジネーションとのかけ合わせのような感じで、曲作りをすることが多いんですか。この曲は特殊です。僕の曲の中では新しいジャンルといいますか、作り方も、楽曲の雰囲気も、いつもとは違いますね。通常は、日頃から映画やドラマや漫画などの作品から着想を得ることが多くて。または影響を受けた楽曲からエッセンスを取り入れることがスタンダードな作り方なので、「Overdose」はとにかくバズを狙って作るという新しい作り方をしました。――リードトラックの6曲目「Sleepwalk」は耳馴染みがいい曲ながら、ときどき鳴る違和感のある音にハッとするユニークさもあります。ときどきミュージックビデオを作るときに、この曲のイメージがどうやったら伝わるかな、と考えると「ホラーゲームの世界観は伝わりやすい」と思ったことがありました。さらに自分のルーツはホラーゲームだと気づいて。そんなホラーゲームをコンセプトにした曲が、この「Sleepwalk」です。キャッチーなメロディの中に、ちょっと不穏な音をところどころに配置して、ホラーゲームのような違和感があるものをポップスとして消化させながらまとめました。――7曲目「金木犀」についても教えてください。この曲は人生で初めて作った曲です。曲作りをしながら「なんかめちゃくちゃいい曲だな」と自分でも手応えがあって、みんなに聴いてもらいたいという気持になりました。そこで「音楽を作りたい」という思いが鮮明になっていって。曲が完成してからは、信頼できる友達や母親に聴かせてみるとみんな良い曲だと言ってくれて、さらに音楽を作りたい気持ちが強くなりました。この1ヵ月後に、初めてネットに曲を投稿して公開に踏み切った思い出深い曲です。――8曲目「夜の歯車」は、シンプルでいて胸に染み入るバラードですね。兄の結婚式に向けて作った曲です。家族で夜ご飯を食べているときに、父親が冗談半分に「兄夫婦のために曲を作ったら」と言ってきたのですが、そういう形で曲を作ったことがなかったので、作ってみようかなと。アコースティックな曲で胸があたたかくなるような歌詞になりました。――もちろん、お兄さんは曲を聴いて感動されましたよね?いや、結局、聴かせてないですね(苦笑)。あまり兄に向けた曲だと言うのも、恥ずかしくなってしまって……。――なんと!もったいないので、お兄さまにはぜひアルバムを聴いてほしいです。では続いて、9曲目「エウレカ」は、ほかとは毛色が違う、アグレッシヴなロックサウンドです。受ける層に向けて作った曲のあとに、この「エウレカ」以降、いまも自分がやりたい曲を作らせていただいていて。僕はボカロを通ってきた人間ですが、ロックサウンドが大好きなので、なとりはこういう曲もできる、ということを聴いてほしいと思って作ったんですよね。曲作りの際お話ししましたが、たぶん好きな映画や漫画から着想を得てできた曲。僕の厨二病のような部分をそのまま表現していて、音作りにもこだわって作りました。――ちなみに歌唱面では、何か意識されていることはあるのでしょうか?僕のボーカルで一番の武器は、たぶん音域だと思っていて。かなり低いところにあるので、ほかのアーティストとどう差をつけるか、違いを見せるかを意識しています。そして息の成分がたっぷりの歌声なので、このふたつの特徴を持つアーティストは、いまのポップス界には僕しかいないのかなと。この点を重点的に出せるように楽曲を作ったり、レコーディングでもより良くなるようディレクションをしてもらったりしています。――2024年2月にはシクレットショー、3月には東京のZepp Haneda、4月には大阪のZepp Osaka Baysideで『“なとり”1st ONE-MAN LIVE「劇場」』と題した初ワンマン公演がありますが、どんなステージになりますか。まだどれも構成中なのですが、シークレットショーは3月からのワンマン公演の前に、アルバム『劇場』を少し披露するような短い時間でのショーになる予定です。3月と4月のワンマン公演は、バンドメンバーと一緒に『劇場』の世界を濃縮した演奏と演出をしたステージになるかなと。いまは音楽以外の余計な情報を出したくないので、顔を出していないのですが、そこはライブでもやはり軸に置くかもしれないですね。あとはアルバムと同じく、ステージでも『劇場』というコンセプトは壊さないようにしたいと思っています。もっとたくさんの人にいろんな曲を聴いてほしい――お話は変わりますが、おやすみの日はどんなふうに過ごしていますか。漫画が好きなので、いま漫画アプリ「マガポケ」(少年マガジン公式無料漫画アプリ)をすごく推しています。この漫画アプリの作品は、だいたい読んでいますね。あとは古着も見に行くことがあります。音楽活動に通じているんですが、新しく買った服を着て曲を作る、というのが日課になっていますね。――では、アルバムだと収録曲数ぶんの新しい服があるという?どうだろうなあ(笑)。着こなし方にもよるんですが、曲ごとに服を変えると、わりと気持ちが入るといいますか。ある種、それが仕事着のような感覚で着ているかもしれないです。――気分によって服を選ぶのか、クールな曲を作ろうと思ったらクールな服など、そのテイストのファッションに身を包み…ということでしょうか。「この曲のミュージックビデオはこういう服で出たい」というイメージが浮かびやすいんですよね、イラストなので実写では作っていないんですけど(笑)。たとえば「Overdose」のときは、もしも実写を撮るなら、僕は黒のセットアップを着て出たいというイメージがあって。わざわざ黒のセットアップを着て、わざわざネクタイを付けて、「Overdose」を作っていました。だから、実家のクローゼットの中には、服がたくさんあります。――曲作り以外では、どんなテイストのファッションが本来お好きなんですか。きれいめ系ですね。スラックスをよくはきますし、レイヤードの服もすごく好きです。お気に入りの水色のシャツがあるので、その水色のシャツに合わせていろいろな組み合わせをしています。――18歳から音楽活動されて19歳で転機が訪れ、現在20歳になったということで、10代を振り返ってみて、そして20代でやってみたいことは?10代であまり音楽理論などを知らないまま活動を始めましたが、自分の音楽が形になってきたいま、改めて音楽の勉強をするようになりました。これからもさまざまな音楽をたくさん吸収していきたいです……って、ちょっとかたいかな(笑)。10代は、無駄なところで生意気な部分がすごくあって、変な自信を持っていました。これからは変な自信ではなく、ちゃんと中身を濃くして、本当の自信を身につけたいですね。――では最後に、シンガーソングライターとしての今後の抱負を教えてください。もっとたくさんの人にいろんな曲を聴いてもらいたいので、これからもずっと音楽を届けていきたいと思っています。取材後記TikTokへの投稿から一躍脚光を浴びたシンガーソングライターなとりさんがananwebに初登場してくださいました。SNSから誕生したニューカマーとして、多くのリスナーを魅了するなとりさん。初めてのアルバムに込めた思いをたっぷりと聞かせてくれました。時に冷静にシーンを分析し、時に音楽的な欲求のままに曲作りをし、20代もたくさんの楽曲を聴かせてくれることでしょう。そんななとりさんの1stアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみりなとりPROFILE2021年5月より活動開始。2022年5月、投稿した「Overdose」はTikTok上の関連動画が約500,000個、総再生回数は20億回を超え、“歌ってみた”などのカバーで若年層からの支持を集めている。Billboardのストリーミングソングチャートでは、歴代6位タイの速さでの1億回突破を達成し、国外まで知名度を広げた。2023年3月、SpotifyブランドCMソングに「フライデー・ナイト」が起用され、ミュージックビデオは700万再生を突破。12月20日、1stアルバム『劇場』をリリース。InformationNew Release『劇場』(収録曲)01.劇場02.食卓03.猿芝居04.Overdose05.フライデー・ナイト06.Sleepwalk07.金木犀08.夜の歯車09.エウレカ10.Cult.11.ラブソング12.ターミナル13.カーテンコール2023年12月20日発売(完全生産限定盤)SRCL-12665¥5,500 (税込)*ジャケットアートボード仕様+ブックレット+オリジナルトランプ+CDほか。取材、文・かわむらあみり
2023年12月20日『湯を沸かすほどの熱い愛』や『楽園』など、役の人生を丸ごと背負うような熱演を見せてきた杉咲花。彼女が、壮絶な宿命を背負った女性を演じた『市子』が、12月8日(金)に劇場公開を迎える。「ただ穏やかに、生きていたい」と願いながら、家庭環境に恵まれずに受難が続く市子(杉咲花)。恋人の長谷川(若葉竜也)にプロポーズされた翌日に姿を消した彼女の足跡をたどる形で、その過去が紐解かれてゆく。作品と出合った誰もが、頭から離れなくなる生きざまを具現化した杉咲さん。彼女はいま、どのような想いで「演じること」に取り組んでいるのか。対話に近い形式で、語っていただいた。「物語に関わることは、社会との接点を持つということ」――以前、杉咲さんに本作のお話を伺った際に「自分の特権性に気づかされた」とおっしゃっていたのが強く印象に残っています。これはまさに、近年の映画を語るうえで重要なトピックのひとつではないでしょうか。私自身も近年に関わる作品であったり、コロナ禍などの様々な社会の動きから、尊厳が守られない環境で生活せざるを得ない方が社会の中に確かにいるという状況を今まで以上に肌で感じるようになりました。そして自分のようにそう感じている方も、まだその事実に触れたことのない方も、きっと世の中にいるはずで。だからこそ物語を通して自身の特権性を知ったり、区切りを付けずに考え続けていくこと、誰かと議論していく動きにつながることが大切だと感じています。――おっしゃる通り、一過性にしないことが大事ですよね。『市子』はまさに、そうした効果を促してくれる作品かと思います。先日の28回釜山国際映画祭でワールドプレミアを迎えられましたが、現地の反応はいかがでしたか?ご覧になった感想はまだ自分のもとに届いていないのですが、戸田監督・若葉竜也さんと一緒にお客さんに交じって観賞し、上映後には何と言えばいいのでしょう――張りつめているわけでも、感動と表せるようなものでもなく、その場にいた皆さんと“言葉に出来ない何か”を共有した感覚を味わいました。そしてなんだか恥ずかしくて、そのまま劇場から去りたくなってしまいました(笑)。ワールドプレミア後にはQ&Aコーナーが設けられたのですが、本当に多くの観客の方々が手を挙げて質問をしてくださいました。自分自身、この作品が海を渡り、日本とは異なる歴史や文化を持った方々にどう受け止めてもらえるのだろうと気になっていたのですが、興味深く観ていただけたのかなと実感できてとても嬉しかったです。――ちなみに、杉咲さんが一観客として「気づかされた」近年の作品はございますか?『エゴイスト』です。ここ数年でクィアな方々を描いた作品に関わらせていただく機会が増えたことをきっかけに、当事者の持つ歴史や、クィア映画/ドラマが日本や世界でどのように作られているのかを学んでいきたい気持ちがより深まっています。性的マイノリティの方が他者に否定をされてしまうような、差別や偏見による被害の側面だけが描かれるのではなく、当たり前にそこに存在している姿が描かれた映画はこれまで国内にはあまりなかったように思います。そういった作品がこれからも増えていってほしい気持ちがとても強いですし、自分にとって本当に学びのある作品でした。――同時に、演じ手においてはより責任感が増す、という側面もありますね。つまりそれって、自分がどういう人間でありたいのかということに繋がる気がしているんです。自分自身、気になっているトピックが色々とあるのですが、まだそこに学びが追いついていない感覚もあるのが正直なところです。そんな自分にとって、物語に関わることは、社会との接点を持つということでもあり、だからこそ、作品に関われることはとても貴重な時間だと感じています。“市子”を演じて起きた想定外の感覚――『市子』では、役作りで減量もされたと伺いました。そのように削いでいく作業をすることで、感覚が研ぎ澄まされるようなところはありましたか?それが直接作用したかどうかは分からないのですが、市子という人物を演じていて、身体的にどうしようもなく反応してしまう瞬間が何度かありました。と同時に、何も感じられない瞬間もあって、カットがかかってから大きな不安に襲われるようなシーンもありました。例えばキキ(中田青渚)ちゃんに「ケーキ屋さんをやろう」と言われたシーンや、ある行為の後で母(中村ゆり)に話しかけるシーンを撮り終えた後に「この表現で大丈夫だったのだろうか」という焦りを感じてしまって。ですが、出来上がった映画を観たときに、「市子自身も自分のことがわからなかったのかもしれない」という気がしてきて。もしかしたら、その感覚自体が市子という人の心境近かったのかもしれないな、といまは思っています。また、プロポーズのシーンでは想像もつかなかったような感情が湧き上がってきました。婚姻届けを渡された際、これ以上ないほどの幸せと苦しさが押し寄せてきたんです。ああいった境地にいく想像は、していませんでした。――役者は先の展開も全て知ったうえで演技を行うと思いますが、杉咲さんご自身の「わからない」という感覚が、市子と重なったのですね。ちなみにそういった、ある種イレギュラーな状態になった際は杉咲さんご自身も動揺されるのでしょうか。めちゃくちゃ動揺します。カットをかけてほしい気持ちになってしまったり、自分から「ごめんなさい」とストップをするべきか、迷ってしまうこともあります。ですが時として、そういう瞬間こそ何か突き抜けていくような表現に繋がる場合もあったりするんですよね。未だにその感覚が掴みきれていないんです。こんなにも不安定でいいのだろうかと、落ち込んだりもするのですが。――でもそれは、ひょっとしたらお芝居の本質なのかもしれませんね。作品を重ねていけば経験自体は増えていきますが、その人を演じるのは多くの場合その1回きりでしょうし。相手役の反応も気になるところですが、たとえばプロポーズのシーンの若葉さんはいかがでしたか?若葉さんは、現場での立ち回りやお芝居での表現に対していっさいの欲を持たずに、ただ、ただ目の前にいるひとのためにそこにいて、素直に何かを感じとって反応をしてくれる方なんです。だからこそ、その瞬間にしか起こりえないものが紡がれていく。視聴者としても一共演者としても、本当に素敵な俳優さんだと思っています。役との向き合い方は「対話」――杉咲さんが『市子』で経験されたアプローチは、ワンアンドオンリーのものなのか、以降の作品にも導入されていくものなのか、どちらでしょう?私はお芝居において本当にルーティンがなく、何をやっても「これよりベストな方法があるのではないか」と探し続けているような感覚もあります。もしかしたらそれは、初対面の他者と向き合うように、役に対しても「はじめまして」という感覚が強いからなのかもしれません。――演じるうえでのある種の怖さや不安に、杉咲さんはこれまでどのように向き合い、乗り越えてきたのでしょう。自分の中では、基本的には乗り越えられていないというか…。恐怖と共に歩むような感覚が強いです。うまくいかなかったときは、後悔しても仕方がないので、それを受け止めて次の日のことを考えていくしかないのかな…と。――演じ手のセルフジャッジ的にOKなものが、演出サイドから見た作品的なOKと必ずしも一致しないぶん、難しいですよね。そうですよね。独りよがりになってしまう恐れを抱きつつも、対話を続けていたい気持ちはあります。――そうしたなかで作品を作る、届ける意識も変化しているのでしょうか。そう思います。いままではいただいたお仕事、受けた演出に対し全力を尽くし、作品が終わったら次の現場に向かっていく感覚がありました。ですが、物語が作られていく過程を人は見ているし、作品が世に放たれることに対しても、今まで以上に緊張感を持つようになってきました。巡り会えた作品と、自分だからこそできるような関わり方をしていきたい気持ちが、いまは強いです。【杉咲花】ヘアメイク:中野明海/スタイリスト:吉田達哉(text:SYO/photo:You Ishii)■関連作品:市子 2023年12月8日よりテアトル新宿、TOHOシネマズシャンテほか全国にて公開©2023 映画「市子」製作委員会
2023年12月04日好きになってはいけない。そう暗示をかければかけるほど、その人に惹かれていってしまうのはどうしてだろう。林遣都は映画『隣人X -疑惑の彼女-』で、そんな惹かれてはならない相手に恋をし、嘘と真実の狭間で揺れる笹憲太郎を手触りが伝わる温度感で表現した。第14回小説現代長編新人賞を受賞したパリュスあや子の「隣人X」を映画化した本作。舞台は、紛争のため故郷を追われた“惑星難民X”を受け入れた日本。Xは人間の姿をコピーして日常に紛れ込み、誰がXなのかはわからない。週刊誌記者の笹(林さん)はスクープのため、正体を隠してX疑惑のある柏木良子(上野樹里)に近付く。しかし一緒に時を過ごすうち良子への恋心が芽生え、笹は自分の想いに正直に突っ走るべきか、記者として貫くべきか、苛まれる。X疑惑をかけられる良子を演じたのは、上野さん。彼女にしか醸せない良心やピュアさ、そして惹かれていく林さんの演技。二人の関係性はときに緊張感をはらみながら、素朴なロマンスを下地にうごめく。上野さんのプロ意識に感銘を受けたと嬉々として語る林さんに、本作にかける想いや初めての経験に加え、過去の出演作まで話を聞いた。現代社会と向き合う、やりがいのある役――劇中で描かれる“惑星難民X”は得体の知れないものが広がっていく点で、コロナや今の世の中に通じるところがあるように思います。林さんは脚本を読んでどのように感じましたか?最初タイトルを聞いたとき「熊澤(尚人)監督がSF要素のある作品を撮るんだ…!」と思ったんです。でも蓋を開けてみると、描かれていることはここ数年の出来事を振り返らせてくれるような内容で。今の日本の姿や、現代社会で目を向けなければいけないこと、自分自身も普段大事にしていかなければいけないと感じていたことが描かれていました。すごくやりがいのある作品・役でしたので、参加したいと思いました。――演じられた笹は、Xの正体を暴く大スクープで記者として認められたい一方、取材対象者である良子に心を奪われてしまいます。彼の葛藤や行動は、どう思われましたか?笹の年齢(30代前半)は自分と近いこともあり、いろいろ共感できるポイントが多かったんです。将来に対して20代とは違った危機感、不安、焦りを感じ出す年齢だよなと。笹は現状もうまくいっていないですし、人に認められたいという思いも強い。それは常に自分にもありますし、笹が抱いている感情として理解できるものでした。良子さんとの出会いも、恋心も大切にしたいはずだけど、いろいろな事情があって…と。誰かのためを思って自分を犠牲にしなければいけないことは、誰しも、あると思うので。結果、たくさんの人に共感してもらえる役だったんじゃないのかなと思います。――笹は良子さんに「いっちゃだめだ」と思いながら惹かれていきましたが、笹にとってどのような存在だったと林さんは考えましたか?良子さんは笹にとって「救い」のような存在だったと思いました。笹にとっても、この世の中においても必要な人間だなと。良子さんは弱みや痛みを知っている人だからこそ、ちゃんと人の本質を見ることができる人。笹自身も、気づかぬうちに良子さんとの出会いに救われていったんじゃないかなと思います。仕事の内容や、人とはちょっと変わっている部分で人を判断しないところ、その人のいいところを探そうとするところこそ、良子さんのすごく素敵なところですよね。上野樹里のプロ意識と責任感に魅了――上野さんとのお芝居はいかがでしたか?お二人にしか生み出せない空気感があふれていました。樹里さんと初めてお会いしたのは、ホン読みとリハーサルの日でした。その夜、監督とプロデューサーさんと食事に行くスケジュールでしたが、リハーサルを納得いくまでやり続けて、当たり前のように食事会が中止になったんです(笑)。僕は「終わんない!」っていう、その樹里さんの姿勢がすごく好きで、その瞬間、自分の中で高揚するものがあったんですよね。樹里さんのプロ意識と作品と役に対しての責任感に、とにかく惹かれました。その1日だけで「この人となら何かいい関係性が築けるんじゃないか」という予感がしたし、撮影が終わるまでずっとそうでした。――いいものをつくろうという意識が共通してあった。そうですね。最初にお互いのスタンスというか、毎作品どういう心掛けで取り組んでいるかというところで、感覚が合うものがあったと思います。最初の段階で確認できてうれしかったです。「人の弱い部分や気持ちを理解できる俳優でありたい」――Xの存在感に揺るがされる映画で、「信じるとは」、「心の目で相手を見るとは」といろいろ感じるところがあります。林さんは本作に携わったことで、何か考えたり感じたことはありましたか?脚本を読んだとき、熊澤監督の想いがすごく込められていると思いました。今はコロナだけじゃなくて、悲しいニュースが日々絶えないですし、…生きるのって本当にしんどいことばかりですし、笹のようにやむを得ず人を傷つけてしまう、人を陥れたりしてしまうことは、誰しもあるかもしれないと思うんです。無自覚に人を傷つけてしまいやすい世の中でもあるからこそ、ひとりひとりが心掛けを少しだけ変えて、自分のことだけじゃなくて誰かの幸せを願って生きていれば、そんなに悪いことは起きないんじゃないかなって。そういう考えになれば、と自分も心がけているところがあったので、「こういう世の中になればいいな」という思いを込めていました。――林さんご自身も思いを込めていたんですね。いつからかは覚えていないですけれど、あるときから「人の弱い部分や気持ちを理解できる人間であり、俳優でありたい。そういった作品や役に関わっていきたい」という気持ちが、この仕事をする上で自分の中で大きく軸となっていきました。ここ数年は特に生きることの大変さ、世の中の怖さを強く感じるようになってきていて。そんな中でこういった僕たちがやっている仕事が何か人の力になれる瞬間がある気がしていて、やっていく意味にもなっていました。そうした役をやったときに、同じような思いや経験をして生きていた人たちに、「その役を見て、自分はこれでいいんだと思えた」や「頑張って生きていこうと思えた」という言葉をいただけたりしました。こんなに素敵なことはないと思いますし、「ああ、やっていていいんだ」とか「やり続けなければ」と思わせてくれるというか。自分自身も救われているところがあると思っています。悩みは「考え事をすると周りが見えなくなる」――林さん自身「人に“変わっているね”とよく言われる、けど直らない」ところはありますか?いろんなことを同時にできないんですよね(苦笑)。こう(真っすぐに)なっちゃうので。例えば、今は舞台(「浅草キッド」)をやっているんですけど、日々役やお芝居のことを考えてしまうんです。同じことを毎日何十回もやっているのに、袖にはけて脱いではいけない場所でズボンを脱いだりしちゃって。スタッフさんに「ここ脱ぐところじゃないですよ!!」と言われたり(笑)。考え事をすると周りが見えなくなるのは、しょっちゅうなんですよね。いつも大体「あれでよかったかな…」と考えることが多いんです。それで結構悩まされますね。――「今日のここ、よかったな」ではないと。そっちじゃないですね。…たぶんこの取材が終わって控室に入った後も、5分ぐらいは「あれでよかったのかな?」と鏡を見つめながら、でも自分の顔は全然見ていない、みたいな時間になると思います(笑)。――ちなみに、本作において林さんのそうした集中力や真っすぐさが発揮されたシーン、「ここ」というところはありましたか?集中力というか、すごく練習したシーンがあります。笹がXなのかもしれないと思っている人間が、笹のアパートに何回も訪れるシーンがありますよね。言ってしまうと、あそこは同じ場所なので1日で衣装だけを変えて、全シーンを撮っていたんです。――予告でも出てくる、アパートで笹がおびえているシーンですよね。そうです。あれを何回もやるのが、精神的にも肉体的にもとにかくしんどかった!監督の1000本ノックみたいな演出で、ひたすら怖がっておびえて叫んで、全部ひとり演技というのは初めての経験でした。言ってしまえばパントマイム的なお芝居なので、かなり練習して臨みましたし、集中してすごく頭を使いました。何回も叫んだり、何回も転がったりして。ああいう動きを極めているのが、舞台でご一緒させていただいた大先輩の浅野和之さんなんです。浅野さんの動きを参考にしながらやってみて、やったことのない表現にチャレンジできました。デビュー作には「なくしてはいけないものを感じさせてもらったり」――林さんご自身が最近観た中で、印象に残っている作品はありますか?ぜひご紹介ください。いま「浅草キッド」をやっていることもあり、(北野)武さんの映画をずっと観ています。なので武さんの作品です。自分がいちお客さんとしても、俳優としても、すごく刺さるものが多いんです。『ソナチネ』とか、特に好きですね。――『ソナチネ』は1993年の映画で、北野監督の初期作品ですよね。林さんも代表作がたくさんありますが、今でも「印象に残っています」とよく言われる出演作はありますか?その時々によりますが、回数で言うと『バッテリー』がいつまでも言っていただける作品です。本当に大きなデビュー作だったんだなと思います。「当時、学生で小説を読んでいて」という話をしていただくことがすごく多くて。あの頃は全く何の実感もなかったんですけど、10何年経って「本当にすごい作品に参加させてもらっていたんだな」としみじみ振り返ります。――とても純度の高い演技言いますか、衝撃のデビュー作ですよね。見返したりもされますか?数年に1回観ます。こういうお話のきっかけがあったときとかに(笑)。観ていると…俳優として、なくしてはいけないものを感じさせてもらったりすることもあります。純粋にもう今では撮れない空気感の映画だなとも思うし、滝田(洋二郎)監督のことも思い出しますし、大事な作品の一つですね。【林遣都】ヘアメイク:竹井 温 (&'s management) /スタイリスト:菊池陽之介(text:赤山恭子/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:隣人X ‐疑惑の彼女‐ 2023年12月1日より新宿ピカデリーほか全国にて公開©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
2023年11月27日【音楽通信】第150回目に登場するのは、数々のヒット作を世に送り出し、12月8日にデビュー25周年イヤーを迎えるシンガーの倉木麻衣さん!マイケル・ジャクソンがきっかけで歌手を目指す【音楽通信】vol.150今年デビュー25周年というアニバーサリーイヤーを迎える、倉木麻衣さん。1999年、16歳の時に「Mai-K」名義にてシングル「Baby I Like」で全米デビューを果たし、続いて「倉木麻衣」としてシングル「Love, Day After Tomorrow」で日本デビューしました。同曲はミリオンセラーを記録し、1stアルバム『delicious way』は400万枚を超えるメガヒット。続く作品も続々と大ヒットを記録するなど、これまでに数々の大ヒット作を世に送り出してきました。さらに近年では、音楽活動のほか、社会貢献活動なども行っているという倉木さん。そんな倉木さんが、2023年10月28日にシングル「Unraveling Love 〜少しの勇気〜」を配信リリースされたということで、音楽的なルーツなども含めて、お話をうかがいました。――あらためまして、子どもの頃の音楽との出会いや、影響を受けたアーティストから教えてください。家族が音楽好きということもあり、4歳の頃から母の勧めでピアノを習っていましたが、歌うことも大好きで。テレビやラジオから流れてくる演歌から歌謡曲、ポップス、アニメソングなどのいろいろなジャンルの歌を口ずさんでいましたね。中学校では、合唱部に入部したり、よくカラオケに行ったりもしていました。当時は、洋楽を聴いている人が少なかったのですが、家族が洋楽好きだったこともあって、マイケル・ジャクソン、マライヤ・キャリーをはじめR&Bなどもよく聴いていて、その歌い方をまねて歌っているような子どもでしたね。初めて買ったアルバムは、ホイットニー・ヒューストンの『そよ風の贈り物』(1985年発売)でした。――とくに洋楽がお好きだった倉木さんが、実際にシンガーになろうと思ったきっかけはなんでしたか?中学生の頃に、マイケル・ジャクソンのミュージック・ビデオ集やムーンウォークを見て衝撃を受け、「音楽で人を感動させる歌手になりたい」と思ったのがきっかけとなり、本格的に歌手を目指そうと思いました。それからカセットテープに自分の歌を録音してデモテープを作りはじめて、音楽事務所に送ったり、オーディションを受けたりしたことで、デビューへとつながりました。――1999年10月「Mai-K」名義にてシングル「Baby I Like」で16歳で全米デビュー、同年12月に「倉木麻衣」としてシングル「Love, Day After Tomorrow」で日本デビューされ、以降の作品も大ヒット作となりましたね。デビュー当時はまだ高校生でしたが、デビューの実感や手応えは感じていましたか。あまり実感はなかったですね(笑)。デビュー前も、学校が終わるとレコーディングスタジオに行って、学校の宿題やテスト勉強をしながら海外デビューアルバムなどのレコーディング制作をしたり、高校生の夏休みに初海外のボストンでレコーディングしたり。デビュー後も、音楽活動と学生生活の両立で無我夢中な日々を送っていました。ただ、デビュー後は、自分よりも先生や友達やクラスのみんなが、デビューしたことに驚いていましたね(笑)。とはいえ、デビュー前と後も生活スタイルは変わらず、学校生活を中心とした日々を送らせていただいていました。デビュー前にお世話になった先生方や友達は、時を経たいまも、ライブに来てくれるなど、ずっと応援してくれています。当時は、テレビやメディアにほとんど出ていなかったので、デビューしてもあまり実感がなく、ラジオでデビュー曲「Love, Day After Tomorrow」が流れてきたり、CDショップでCDが並んでいたりするのを見て、そこでデビューしたことをなんとなく実感するような日々でした。ライブをするようになってから、たくさんの方に楽曲を聴いていただけて愛していただけているんだと、やっと「歌手になったんだ!」という実感が湧いた感じです。――2023年12月8日にデビュー25周年イヤーに入りますが、これまでを振り返って、率直なお気持ちは?諦めないでいてよかった、と思いますね。大好きな音楽を通して、夢や希望、愛と感謝で、みなさんとつながっている25年という奇跡のような月日を過ごさせていただいて、「愛がとうございます(倉木さんの「ありがとうございます」の最大級の言葉)」という気持ちでいっぱいです。またわくわく、どきどきしながら、新しい歌を作って、少しでもみなさんのお役に立ちたいですね。『名探偵コナン』の世界に寄り添い自由に作った新曲――2023年10月28日にはシングル「Unraveling Love ~少しの勇気~」を配信リリースされました。アニメ『名探偵コナン』(読売テレビ・日本テレビ系 毎週土曜 午後6:00)の主題歌でもあり、倉木麻衣さんが作詞を手がけていますが、どのようにイメージされて形作っていかれましたか。今回、『名探偵コナン』の恋愛観に寄り添えるように、イメージを膨らませて制作していきました。どの主人公の恋愛を歌っているかは、聴いていただいたみなさんがそれぞれ自由に感じてくださったらうれしいですね。感情があふれだすようなたたみかけるメロディで、シティポップとプチロックを融合させたちょっと懐かしさも感じられるサウンドに、ドキドキ感を表現する鼓動音も入れて、面白い感じに仕上がっています。タイトルをつけるときに「Unraveling Love」か「少しの勇気」か、どちらのタイトルがいいか、みなさんに質問を投げかけたんです。結果として、両方とも人気があったため「Unraveling Love ~少しの勇気~」とつけました(笑)。――倉木さんと『名探偵コナン』のコラボレーションは26作目となり、2017年には当時記録していた21作品で、同一アーティストが歌唱するアニメシリーズのテーマソング最多数を記録したとして、ギネス世界記録にも認定されましたね。『名探偵コナン』が誕生してからずっと、コナンくんは永遠の憧れであり、家族でもあり、この作品を通してみなさんと長年一緒につながってこられていることは幸せです。大人から子どもまで、世界中のみなさんに愛されている『名探偵コナン』の楽曲を長年にわたり担当させていただき、とても光栄に思っていますし、感謝の気持ちでいっぱいです。そしてまた光栄なことに、ギネス認定をいただきましたが、大好きなアニメ『名探偵コナン』を通してつながっているみなさんとの認定でもあると思っています。これからも新たな歌を届けられることを私自身、楽しみにしていますし、パワーアップしていくアニメの世界観に寄り添って、楽しんで聴いていただけるように作っていきたいと思います。――『名探偵コナン』の2019年放送のSP版『名探偵コナン 紅の修学旅行編』では、ご本人役でアニメに登場されたこともある倉木さんですが、印象深かった放送回やお好きなキャラクターはありますか。印象深い放送回はたくさんあってひとつに絞れませんが、初めて『名探偵コナン』の楽曲を担当した「Secret of my heart」がオンエアされたときや“倉木麻衣”役として声優にチャレンジさせていただいた放送回は、特別な宝物となった思い出深い回となっています。どのキャラクターもそれぞれ愛らしくてかわいくて好きですが……やっぱり、コナンくんが一番好きですね。――主題歌ということで、作者の青山剛昌先生や制作の方から曲について何かリクエストはあったのでしょうか。いつもどのように曲作りをされていますか。リクエストがあるときもありますが、テレビ放送の場合は、『名探偵コナン』の世界観を自分なりにイメージしながら、制作をさせていただいています。今回はリクエストというより、いまの『名探偵コナン』の世界観に寄り添いながら、自由に制作させていただきました。そういった作り方もある一方、自分のアルバムを制作するときは、発信したいテーマを決めてから制作していきますね。歌詞を先に作る詞先で作成する曲もありますが、メロディを何度も聴いて、そのメロディからインスパイアされて言葉選びをして作成することも多いです。――今作は大人っぽいダンスナンバーですが、サウンドの第一印象や、歌唱する際に意識していることはありますか。クールかつ、スリリングで、たたみかけるサビのメロディがクセになる感じで面白くて。日本語以外のほかの言語で歌ってもハマるようなメロディなので、いつかトライしてみたいなという印象です。感情があふれだすようなサビは、メロディのグルーヴ感に気をつけながら歌っていきました。――2023年11月15日にライブ映像作品「Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2022」を発売されますね。そして現在、全国4都市をめぐる「billboard classics Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2023」と題したツアーを開催中ですが、どのようなステージになりますか。今回は、みなさんからリクエストをいただきながら選曲した、会場ごとに違う歌唱曲もあるんです。そのときどきに生み出される、一夜限りのスペシャルサウンドを体感していただけると思います。楽曲によっては一緒に大合唱したり、グッズでご用意しているペンライトを使って会場を照らしたり、みなさんと一体となって生み出す参加型のコンサートになっていて。また、フルオーケストラサウンドでもあるので、美しく温かな音色に癒やされながら、コンサートをぜひお楽しみいただけたらと思っています。新たな試みを通して楽しめる空間をシェアしたい――お話は変わりますが、おやすみのときはどのようにお過ごしですか。自然がある場所や動物が大好きなので、愛犬と散歩したり、音楽を聴いたり、素敵な公園やカフェでゆっくり歌詞を考えたり。ゆったりと過ごしていると、いろいろなインスピレーションが湧いてくるので、一人時間を大切にしています。――デビューから変わらぬ美しさの倉木さんですが、美容法やダイエットなどは意識されますか。10代や20代の頃は思春期だったこともあり、周りと比較したり、周りからも言われたりして、痩せていないといけない、きれいじゃないといけないと気にしていました。そこで無理なダイエットをして我慢を続けていたら、美しさとはかけはなれ、体調も崩してしまい……。自分を愛さずに痛めつけていたことに気づきました。その辛い経験があったからこそ、いまは栄養バランス、睡眠、運動と、ストレスフリーな生活を心がけるようになりましたね。それぞれ思う美しさは違うから「比較するのはやめよう」と気づいたことで、自分を愛するよう心がけることができるようになりました。笑顔でいられないときも、そんな自分を認めてあげて、「心を愛する」という美しさで満たすことから始めてみる大切さに気づいて。いいときも、そうでないときも、そのときどきの自分をまるごと受け入れて愛する。年齢を重ねても、心身ともに「ラブ&ピース」を心がけて、何より自分の気持ちに正直でいられることが、自分にとっての美しさだと。そんな自分と愛してくれる人を大切にして、心の美しさを失わないように生きていけたらいいなと思ってはいますね。最近は、大好きなことに夢中になったりときめいたり、どんなときもユーモアを忘れず思いっきり笑うという、楽観的な生き方をすることでいきいきと美しくいられると、来年90歳になる祖母を見て思うようになりましたね(笑)。――音楽活動と並行して、カンボジアに寺子屋を建設するなどの社会貢献活動や、母校の立命館大学で客員教授として講義もされたそうですが、違うフィールドでの活動をされてみていかがですか。それぞれ違うフィールドですが、すべて愛でつながっている活動でもあるかなと思っています。音楽を通して私にできる社会貢献であったり、立命館大学でも自分の経験を元に学生のみなさんとディスカッションを行うこともあったり。学生のみなさんは一人ひとり、素晴らしいアイデアや意見を持っていて、私が勉強になることもあります。どんな場所でも、誰かのためにお役に立てたらという“アンコンディショナルラブ(無条件の愛)”の精神を持って、みなさんと笑顔でつながっていけるよう引き続き取り組んでいきたいですね。――12月からはデビュー25周年イヤーとなりますが、今後の抱負を教えてください。25周年、ありがとうございます。応援してくださるみなさん、愛がとうございます。私自身、まだ叶えられていない夢を叶えていけるように、新たな試みを通して、みなさんと楽しめる空間をシェアしていきたいですね。これからもライブや新曲を楽しんでいただけるよう、みなさんの健康と幸せをいつも心から願っています。おたがいに、心身ともに元気でいましょう!取材後記いまもなおデビュー時の鮮烈な印象がある、シンガーの倉木麻衣さん。耳にすっと馴染んでいく柔らかくて艶やかな歌声は、時にやさしく、時に力強く響きます。20年ほど前に取材させていただいて以来、今回はananwebにご登場くださいました。12月からは『名探偵コナン』の新エンディングテーマも担当することが発表された倉木さん。我が家でも『名探偵コナン』は家族で大好きなアニメなので、倉木さんの新曲もすっかり定番に。そんな倉木さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。取材、文・かわむらあみり倉木麻衣PROFILE1982年10月28日生まれ。1999年10月「Mai-K」名義でシングル「Baby I Like」で全米デビュー、同年12月「倉木麻衣」としてシングル「Love, Day After Tomorrow」で日本デビュー。以降も精力的に音楽活動を続けるなか、近年は被災地支援やカンボジアの子どもたちに教育の場を提供する寺子屋を設立するなど、社会活動も行っている。2023年10月28日にシングル「Unraveling Love 〜少しの勇気〜」を配信リリース。InformationNew Release「Unraveling Love ~少しの勇気~」2023年10月28日配信リリースNew ReleaseDVD & Blu-ray『Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2022』~1部~【PRELUDE】01. Secret of my heart02. 風のららら~Sea wind03. 儚さ04. Time after time ~花舞う街で~05. 渡月橋 ~君 想ふ~06. Be Proud ~we make new history~07. Reach for the sky08. Smile~2部~【ベートーヴェン:ピアノソナタ第14番「月光」】09. 冷たい海10. Proof of being alive11. Can you feel my heart ~Ballad ver.~12. ひとりじゃない13. 明日へ架ける橋14. Wake me upEC1.always2023年11月15日(DVD)VNBM-7038¥8,800(税込)(Blu-ray)VNXM-7038¥9,900(税込)パッケージ内容:3方背ケース、フォトブックレット、4つ折りミニポスター、ピクチャーレーベル/[CD] ライブ音源 from Mai Kuraki Premium Symphonic Concert 2022 selected by Mai-K : 01.明日へ架ける橋 02.風のららら〜Sea wind 03.ひとりじゃない 04.渡月橋 ~君 想ふ~ 05.Proof of being alive取材、文・かわむらあみり
2023年11月21日取材・文:渡邊玲子撮影:大嶋千尋編集:杉田穂南/マイナビウーマン編集部数々の埼玉ディスを連発するもまさかの大ヒットを遂げた映画『翔んで埼玉』の続編『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』が2023年11月23日(木・祝)に公開されます。全てにおいてスケールもパワーも格段にアップし磨きのかかった“ディス”と“郷土愛”が楽しめるという同作。前回に引き続き埼玉解放戦線のリーダー・麻実 麗を演じるGACKTさんは、20代の頃に思いもよらない埼玉県人との関わりがたくさんあったのだとか。また、今回から新キャストに加わり、滋賀のオスカル・桔梗 魁を演じる杏さんは、ここ数年で故郷を離れて思うことがあると語ります。今回のインタビューでは、そんな二人に“埼玉のイメージ”やそれぞれの“郷土愛”をうかがいました。■思いもよらないところで埼玉県人と触れ合っていた――まずは続編の制作が決まった時のお気持ちからお願いします。GACKTさん(以下、GACKT):やめようよ。もういいでしょう……です。――いやいや、皆さん期待されていたと思います(笑)。GACKT:「ふみちゃん(二階堂ふみ)はなんて言ってるの?」「やめようよ……」って「やっぱり!」と。――主演のお二人が……。杏さん(以下、杏):特に乗り気ではなかったんですね(笑)。GACKT:リスクでしかないです……。――今回のディスり先の舞台が関西になると聞いた時はどう感じられましたか?GACKT:予想の範囲内です……。関西を敵に回すと大変なのになぁって。それが最初の感想です。――杏さんはいかがですか?杏:私は武内英樹監督と月9(ドラマ『デート~恋とはどんなものかしら~』)でご一緒させていただいていて。「いつかもう一度一緒にやりたいな」って思っていたところに、まさかこの作品だとは……とビックリしました。私のバックグラウンドは滋賀と関係ないので、「果たして“滋賀のオスカル”を私がやってしまって大丈夫だろうか……?」という懸念もありました。――とはいえ、杏さんが演じる滋賀のオスカルである桔梗は、滋賀を救うためパリに渡り、革命を学んで帰ってきた、という設定で、「なるほど」と腑に落ちるところもありましたが。杏:元々その設定があったわけではなくて(笑)。撮影が後ろ倒しになって、その途中で私がパリに行ったから、そうなったので。一年経って新しい台本を開いたら、「パリに渡り……」と書いてあったんです。――なるほど(笑)。お二人はもともと埼玉にはどのような印象をお持ちでしたか? GACKTさんは以前「埼玉のダサさの原因は“玉”だ」と語っていたようですが……。GACKT:なんで「たま」なんでしょうね?埼「ぎょく」とかでもいいのに。――読み方が違うだけでも印象がよくなったかもしれない、と。杏:でも県庁所在地は「さいたま市」って、ひらがなになっちゃったし……。GACKT:でもやっぱり「たま」がダメだったんだと。群馬も多分「うま」がダメだったんでしょう。――(笑)。前作では「埼玉県人にはそこらへんの草でも食わせておけ!」といった埼玉への偏見(?)が描かれていますが、ご自身のなかには、埼玉に対する偏見は特になく?GACKT:何もないですよ。ボクは基本的に日本の中でダメだと思う場所は一つもないです。それぞれの県に好きなところがあります。例えば、今回の舞台の滋賀だって、ボクは釣りが好きなので、年に2回はブラックバスを釣りに琵琶湖に行きますし。埼玉も、もともとは池袋に住んでいたというのもあって……。――上京されてからしばらく。GACKT:そう。東京に出てきた当時。20歳から26歳までずっと池袋だったんですけど。遊ぶのはもっぱら西口公園で。――『池袋ウエストゲートパーク』!GACKT:まさにあの時代。「I.W.G.P.」ブームの真っ只中で。ボクは毎日ウエストゲートパークにいて。――じゃあ、GACKTさんも「I.W.G.P.」のキャラクターの1人だったかもしれない。GACKT:いやいや、ボクはもうナンパ専門だったんで。でもナンパしている相手は、実はほとんど埼玉県人だったっていう。当時は池袋に住んでいる人たちより埼玉の人たちの方が圧倒的に多かったので。埼玉県人と触れ合ってる時間は長かったはずなんですよ。「どこから来たの?」って聞くと、みんな埼玉とは言わずに、「大宮」とか「浦和」って言うんですよ。だからこっちも「大宮って、東京のどこ?」みたいな。知らないので。――『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』では、GACKTさん演じる麻実麗が「埼玉に海を作る!」と意気込み関西に乗り込みますが、そこでさまざまな困難にぶち当たるお話です。 GACKTさんも上京された当時、何かしらギャップに戸惑うことはありましたか?GACKT:戸惑いは全くなくて、上京した当時は「もう東京すごいな」って思いました。ボクにとっては池袋が東京の基準だったんですが、当時の池袋は相当治安が悪かったみたいで、港区あたりに遊びに行って、そこで仲良くなった子たちに「池袋に住んでる」って話すと「え!? 大丈夫?」って驚かれたりして。「ここはそんなに治安が悪い場所だったのか……!?」って、後から知る……みたいな感じでしたから。――杏さんは東京出身ですよね。埼玉にはあまりゆかりがないかと思いますが、埼玉にはどんなイメージがありますか?杏:祖父母がそれぞれ東京出身と青森出身ではあるんですけど、住んでいたのが埼玉で。埼玉といえば、おじいちゃんおばあちゃんみたいなイメージでしたね。■笑って「くだらない」って言ってもらえるのが一番の誉め言葉――本作は“ディスる”という形で、日本各地の色んな文化を紹介している作品でもありますよね。 お二人はこの作品に関わられたことで、何か新たに発見したことはありますか?GACKT:そもそもこの映画に出てくる“ディスる”という言葉と、一般的に使われる“ディスる”という言葉は根本的に違うというか。ディスるって聞くと、どうしてもみんなSNS上の誹謗中傷的なものをイメージすると思うんですよ。でもこの映画のディスりは愛ゆえに出てくる言葉で、どちらかというと「イジる」に近いというか。――「イジる」ですか。GACKT:愛が深すぎるがゆえに攻撃的になったり、自虐的になったりすることってあるじゃないですか。同じ埼玉の中でも、大宮と浦和が揉めていたりするのも、地元愛の強さゆえに起きている部分もあると思うので。それにこの映画って、ディスることを目的にしているわけではなくて、ちょっと俯瞰で見てみると、「それってすごくくだらないことなんだよね」って笑い飛ばせるというか。ボクは映画を観た人たちに、笑って「くだらない」って言ってもらえるのが一番の誉め言葉だと思うし。 いま世の中で起きている大半のことを、笑って「くだらない」と言える人たちであれば、これほど衝突が起きたり、傷つけ合ったりしないと思うんですよ。『翔んで埼玉』シリーズは、こんな時代だからこそ、必要な映画なんじゃないかと思います。――杏さんはいかがですか?杏:私は関東の出身なので、今回滋賀のオスカルを演じるにあたってセリフに初めて聞く言葉が多かったんですよ。「ゲジゲジナンバー」とか「滋賀作」とか、「湖西線が風に弱い」とか……。どれも一個一個ネットで調べたり、この言葉が生まれた背景にどんなことがあったんだろうって勉強したりしながら、滋賀のいろんなことが知れたというか。「(関西の方は)こんな風に普段思ってたんだ」っていうのは、全然気がつかないことだったので、それはすごく興味深くやらせていただけたかなって思います。――やはり杏さんには、歴女ゆえの、調べる面白さがあったんですね。実際に地元出身のキャストの方も多く出演されていますが、共演者同士で「地元あるある」ネタで盛り上がる場面を目にすることもありましたか?GACKT:関西の方たちとはそういう話にならないんですけど、なぜか埼玉の人たちは、撮影以外でも「大宮は~」とか「浦和は~」みたいに語り合っていて。熱量がすごかったですね。■ここ最近「東京に帰る」という感覚を味わえるように――作品テーマである「郷土愛」については、お二人はどのような思いをお持ちですか?GACKT:郷土愛って、すべてを肯定することが郷土愛ではなくて、良いところも悪いところも含めて、自分で理解し、その上で愛せるのが郷土愛なんじゃないのかなと。ボクも故郷の沖縄に対してすごく好きな部分もすごく嫌いなところもたくさんあって。「なんでこうなんだろうな」と思う部分もありますし。でもそれも含めての「愛」であって、必ずしも「全部好き」なのが「郷土愛」というわけでもないと。良いところも悪いところもすべて理解した上で、それでも愛しているのが「郷土愛」なんじゃないかと思います。―― 東京出身の方は“故郷”のイメージがないと言う方も多い印象があるのですが、杏さんはいかがですか?杏:例えば、「夏休みにどこどこのお家へ帰る」みたいな経験があまりなかったので、故郷に対する憧れのようなものは確かにありました。最近パリにも住んでみてやっと「東京に帰る」という感覚を味わえるようになって。改めて「久しぶりだな」って噛みしめたり、「やっぱり東京のご飯はおいしいな」と実感したりしています。――「外に出て初めて昔住んでいた場所の魅力に気づく」という側面もあると思うのですが、 実際にお二人が日本を離れてから新たに感じたことはありますか?マレーシアやパリから、日本についてどう感じていらっしゃいますか?杏:日本は便利ですよね。食材も親しみがあるし。何か物を頼んでも、絶対に指定した日に届くどころか、2時間単位で時間指定もできるし。 電車のダイヤもそうですけど、いろんなものが日本は正確なので。予定を立てやすいという利点はありますね。――GACKTさんは?GACKT:住みやすいか住みにくいかで言うと、もし本当に日本が一番住みやすかったら、ボクは海外には住んでいないと。ただ、日本に帰りたい季節もあるんですよ。ボクは一年で秋が一番好きで。仕事がなくても日本に帰ってきて、いろんなところに紅葉を見に行って「これは日本にしかない美しさだな」と実感します。もちろん海外にも紅葉はあるんですが、日本の紅葉の美しさは独特なんですよ。なぜか分からないけど寂しい気持ちになったり、切ない気持ちになったり。理由もなく胸がキュッと苦しくなったりするっていうのが、日本独特の秋の楽しみ方だなって。杏:私の場合は、『知らない世界に住んでみたいな』って、刺激を求めてパリに行った感じなんです。もっといろんなものの見方や考え方に子どもたちと一緒に触れてみたいな、という気持ちもあって。日本を便利だなと感じるのも、自分が生まれて育った国だからかもしれないし。日本にももっと柔軟な考え方があったらいいのにと思う部分もあります。子どもたちには、いずれまた日本に帰ることになってもいいから、ひとまず国籍も文化もみんなバラバラな子たちが大勢いる学校に通うことで、できるだけいろんな世界を見てほしい。まさに今、親子一緒に奮闘している最中なんです。映画『翔んで埼玉 ~琵琶湖より愛をこめて~』その昔、東京都民からひどい迫害を受けていた埼玉県人は自由を求め立ち上がった。麻実麗・壇ノ浦百美をはじめとする埼玉解放戦線の活躍により通行手形制度が撤廃され埼玉は平穏な日常を手に入れた。しかし、それは単なる序章に過ぎなかった…。さらなる自由と平和を求め、埼玉の心をふたたびひとつにするため、埼玉解放戦線は次なる野望へと突き進む。遥か西の地・関西へと飛び火したこの事態は東西の天下を分かち全国をも巻き込む東西対決へと発展していく。史上類を見ない壮絶なディスバトルの火蓋が今、切られようとしていた――。公開日:2023年11月23日キャスト:GACKT二階堂ふみ杏片岡愛之助ほか原作:『このマンガがすごい!comics 翔んで埼玉』魔夜峰央(宝島社)監督:武内英樹(「のだめカンタービレ」シリーズ、「テルマエ・ロマエ」シリーズ、「ルパンの娘」シリーズほか)脚本:徳永友一(「探偵の探偵」「僕たちがやりました」『かぐや様は告らせたい』シリーズ、『ライアー×ライアー』ほか)©2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会<GACKT>ヘアメイク:タナベコウタスタイリスト:Rockey<杏>ヘアメイク:笹本恭平(ilumini)スタイリスト:中井綾子(crêpe)
2023年11月17日【音楽通信】第149回目に登場するのは、新しい時代のディープファンクバンド「在日ファンク」のボーカルでリーダーの、浜野謙太さん!ジェームス・ブラウンのすごさに気づいた浜野謙太。1981年8月5日、神奈川県生まれ。在日ファンクのフロントマンで、俳優としても活躍中。【音楽通信】vol.1492007年に結成された7人組のファンクバンド、在日ファンクのボーカル兼リーダーであり、放送中の大河ドラマ『どうする家康』(NHK総合毎週日曜午後8時)や映画など俳優活動でも知られる、浜野謙太さん。そんな浜野さんが中心となる在日ファンクが、2023年11月1日に6枚目のアルバム『在ライフ』をリリースされるということで、音楽的なルーツや俳優活動についてなど、お話をうかがいました。――浜野さんが音楽に出会ったきっかけから教えてください。小さい頃から、自宅には父のジャズのレコードが置いてあったのでそれを聴いて、僕もジャズのビッグバンドを好きになりました。でも、好きになったのはマイケル・ジャクソンのプロデューサーをしていたクインシー・ジョーンズが、初心者向けに出したビッグバンドのレコード。めちゃくちゃカッコよくてずっと聴いてました。中学校では吹奏楽部に入って管楽器を始めて、高校では「絶対観たほうがいい」と勧められた映画『ブルースブラザーズ』(1981年公開/劇中にブルースの巨匠レイ・チャールズやジェームス・ブラウンらも登場するミュージカルコメディ映画)に出会いました。映画では、白人の主人公ふたりがブラックミュージックを聴いて「神のお告げ」だとなるのですが、すごいんですよね。黒人以外、白人だとしてもブラックミュージックをやっていいんだということが、素敵に表現されています。――最初にされた楽器は、トロンボーンですよね?そうです。大学ではジャズ研究会に入りました。バンドは「SAKEROCK」(2015年に解散したインストゥルメンタルバンド)もやっていましたが、もう少しちゃんとブラックミュージックをやりたい気持ちもあって、ジェームス・ブラウンのコピーバンドもやっていたんです。バンドをやるうちにさらにジェームス・ブラウンのすごさに気づいて、彼が亡くなったときに、日本でもファンクを打ち立てようとバンド「在日ファンク」をやろうと決めました。――音楽活動は20年以上になりますが、振り返ってみていかがですか。また、バンド活動と並行して、2006年の映画『ハチミツとクローバー』で初めて俳優業へと進出されましたね。うかうかしていたら40歳を越えていて、20年なんて、本当にアッという間でした。俳優業は、最初はハマっていなかったんですよね。『ハチミツとクローバー』では櫻井翔くんとはお話しできたので、その出会いだけ唯一よかったです。実際にちゃんとお芝居に向き合えたと思ったのは、2011年の映画『婚前特急』からです。――『婚前特急』では、第33回ヨコハマ映画祭で最優秀新人賞も受賞されましたよね。はい、そのぐらいお芝居することがすごく楽しかったんです。2時間通して、ちゃんとキャラクターを作るからこそ、一瞬の呟きが面白かったりするわけで。音楽でも、1曲の中で緩急があって、ちょっとしたことがとても響いたり。「楽譜と台本は似ているな」と気づいて、それからは、お芝居も全部楽しくなりました。ーー浜野さんが織田信長の息子・織田信雄を演じている大河ドラマ『どうする家康』も話題です。大河ドラマは特殊なんですよね。1話から40話まであるとして、キャラを作ろうにも、自分の出演するところだけしか台本をもらわないんです。ただ、実在するその時代の人物がいるわけで、調べていくとめちゃくちゃ面白い。もともと戦国時代も好きなので、歴史を調べて役とのつながりを見つけたときはうれしいものです。――いまは映画『アナログ』も公開されていますね。僕が『アナログ』でよかったと感じることは、ニノ(二宮和也さん)と桐谷健太くんに挟まれて、お芝居できたことですね。やっぱり手練れの彼らと共演できるのは、すごく楽しいんです。カメラがまわった瞬間に世界が広がるといいますか。ニノは寸前まで全然違う話をしていても、カメラがまわるとパッと役に切り替わるんですよね。そういえば、『婚前特急』の主演だった吉高由里子ちゃんもそんな感じでした。撮影の時期に亡くなったマイケル・ジャクソンのまねを休憩中にずっとやっていたのに、撮影がスタートした後に、スッと役に入っていて。「すごい」と思いましたし、どのような状況にいても関係ないんだなと思いましたね。5年で成長したメンバーとうまく作れた最新作――2023年11月1日にニューアルバム『在ライフ』をリリースされます。前作から5年ぶりとなった新作ですね。この5年の間に、自分なりに濃密な時間を過ごしていました。僕は3年前に椎骨動脈乖離という症状が出て、生まれて初めての入院を経験して。歌うことについて制限もあったので、バンドや音楽はやり方によっては有限なんだ、表現自体が無限じゃないと気づきました。その後はコロナ禍で、リモートで演奏することもありましたし、自分の家族にもちゃんと向き合うことができました。――そういった経験などもすべて、今作につながっていったのですね。すべて地続きです。メンバーもそれぞれ家族と向き合ったり、ギターの仰木亮彦はSTUTS、トランペットの村上基はレキシやsumikaといったほかのミュージシャンのサポートをしたり、それぞれの成長があったと思うんですよね。それで、また会えたのが、よかった。もしかすると全然考え方が違うと解散するバンドもいると思うんですが、僕らはまた一緒にできる糸口を見つけたというぐらい、ソロ活動のような期間を経ての新作です。――ファンのみなさんも待っていたはずです。もしかしたら寝ているかもしれないので、「始めるよ!」と叩き起こさないといけない(笑)。メンバーみんなのライフを経て、ここに来たんですよね。マイライフと共にこのアルバムに集結していて、成長したメンバーとうまく作れた1枚です。……初めて『在ライフ』の説明がきちんとできたかもしれないです(微笑)。――アルバムの4曲目「平和 feat.七尾旅人」、5曲目の「滞ってる feat.高岩遼」はそれぞれゲストボーカルを迎えていますね。「平和」は、曲ができてから、構想は大きいけれど僕らだと言い切れないかもしれないとなって、七尾旅人さんに頼みました。旅人さんとは現場的なつながりはなかったんですが、SNSなどで考え方は拝見していて、「この人とできればこの曲は化けるのでは」とピンときたんです。「滞ってる」は、昨年出演させてもらった舞台『室温~夜の音楽~』の演出・河原雅彦さんからの依頼で、在日ファンクが舞台用に作った曲のうちのひとつですが、今回、もっとブラッシュアップできないかと考えて。そこで、(ヒップホップチームSANABAGUN.ほかで活動する)高岩くんとデュエットというアイデアになりました。――8曲目「クーポン」は浜野さん作詞作曲の斬新でユニークな曲ですね。最初に作った曲なんです。ドラムの永田真毅から、「とりあえず1曲を作れ」と言われて、1曲仕上げよう!と勢いで、パッションのまま作りました。そこで生まれたのは、クーポンに対しての怒りです。この曲、ちょっとふざけているなあって思いますか?――いえ、ファンクにカッコよく怒っているなあと思いました(笑)。ははは(笑)。僕はクーポンって、いまはそんなにお得じゃないものもあって、もうゼロ円に近くなるクーポンはないから、もっと大盤振舞してほしいと思って作ったんですよね。――10曲目「おすし」は、トロンボーンのジェントル久保田さんが作詞、在日ファンクのみなさんでの作曲です。最近、s**t kingzや鈴木雅之さんに曲を提供したんですが、それぞれ歌詞は僕とジェントル久保田の共作でもあって。今回のアルバムでも、ジェントル久保田に1曲歌詞を作ってもらうことにしました。いままでの作品では僕が曲を作っていたんですが、今回は曲によって、メンバー何人かで作っていて、「おすし」はスタジオセッションで30分でできた曲です。――浜野さんご自身は、いつもどのように曲作りをしているのですか。やっぱり、テーマが先にきますね。それこそ「クーポン」を思いついたときには、僕が怒っている事柄に対しての曲を作るなんてどうなのか、と考えてしまったりもしましたが、作り上げていくうちに言いたいことが通底するといいますか。最初に思ったテーマをかっこよく聴かせれば、結果ちゃんと自分の考え方が伝わる曲になるという実感です。MIDI鍵盤で曲を作っています。――11月には、東名阪で「アルバム『在ライフ』リリース記念ワンマンツアー」があります。歌や演奏はもちろん、浜野さんのキレのあるダンスも見どころですが、どのようなステージに?アルバムの曲を中心に、過去曲も披露する予定なので、ライブに来ていただいたらみなさんが楽しめると思いますよ。今回のツアーでは、「いかにメンバーがプレジャーな状態になるか」という流れを意識して、いまいろいろと組み立てている最中です。「来年はたくさんライブをしたいです」――お話は変わりますが、おやすみのときはどんなふうにお過ごしですか。在日ファンクの動画を作ったりしています。――ご自身で動画編集もしているんですね。それはお仕事ではなく、オフに入るという?けっこう楽しいんですよ(笑)。おじさんしか映っていないんで、動画をご覧になる方々にどうやって「かわいい」と思ってもらえるかなと試行錯誤していて。お菓子を食べているところを撮ったり、焼き鳥を食べているところを撮ったり。焼き鳥を食べるときはビールじゃなくて、ノンアルコールビールを飲んでいるからいいかと思ったら、けっこうおじさんの居酒屋感が出ちゃってとか(笑)。そういうことを考えていると、すごく楽しくて。――在日ファンクのYouTubeを観ても、楽しさが伝わります。ありがとうございます。あとは、たまに子どもふたりと一緒にご飯を作ることもありますね、チャーハンとか唐揚げとかぐらいですが。お弁当を持って、代々木公園にピクニックに行くこともあって、子どもたちは公園で自転車を借りることもあります。この間は、レジャーシートをひいてご飯を食べていたら、子どもが「おすし、おすし」と踊り始めて、「その振り付けいいね!」と、完全に公私混同しています(笑)。――浜野さんのインスタグラムにも「おすし」を息子さんと踊っている動画などもアップされていますね。とても楽しそうです。息子は小4なんですが、ダンスを習っていて、踊るのが好きなんです。「おすし」の振り付けをしてもらいました。――いいですね。そういえば、今日はお気に入りのコーデュロイのシャツを着てきていただいたということで、おしゃれです。ピンクのシャツが珍しくて、前から大事に着ています。妻(モデルのAGATHAさん)はファッションが好きなので、昔はコーディネートを見てもらっていました。最近は「好きな服を着たらいいよ」と言われるので、セオリーみたいなものを壊し始めているといいますか、そういう時代なのかなという感じもしています。――いろいろなお話をありがとうございました。最後に、今後の抱負を教えてください。来年はたくさんライブをしたいです。僕はサブカル方面のバンドとして出てきた人間なので、ある意味、ゆるさも特徴だと思っていたんです。でも、そんなに高くなくていいから、近い目標へ向けて誠実にやっていこうかなと。まずは在日ファンクのツーマンイベントを考えているので、楽しみにしていただきたいですね。取材後記ジェイムス・ブラウンからの流れを汲むファンクを日本にいながら、再認識しようというディープファンクバンドの、在日ファンク。今回、ananwebにはボーカルでリーダーの浜野謙太さんが登場してくださいました。マガジンハウスで撮影とインタビューを行うこととなり、取材時間に颯爽とスタジオへ。終始おだやかにご対応くださり、撮影時に披露してくださったステップも素敵でした。そんな浜野さんのいる在日ファンクのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基取材、文・かわむらあみり在日ファンクPROFILE浜野謙太(Vo)、村上啓太(B)、仰木亮彦(G)、永田真毅(Dr)、橋本剛秀(A.Sax)、ジェントル久保田(Trb)、村上基(Trp)の7人からなるディープファンクバンド、在日ファンク。2007年にバンド結成。インディーズで活動後、2014年にメジャーデビュー。2017年にカクバリズムに移籍し、コンスタントに作品を発表し、ライブ活動を展開。2023年11月1日、ニューアルバム『在ライフ』をリリース。「アルバム『在ライフ』リリース記念ワンマンツアー」を11月19日に東京・渋谷 WWW X、11月25日大阪・大阪 十三246 LIVEHOUSE GABU、11月26日愛知・名古屋 新栄Shangri-Laで開催。InformationNew Release『在ライフ』(収録曲)01. 今から本気02. 在来外来03. ハラワラナイト04. 平和 feat.七尾旅人05. 滞ってる feat.高岩遼06. いけしゃあしゃあ07. 身に起こる08. クーポン09. いつもどおり10. おすし2023年11月1日発売(通常盤)DDCK-1078¥3,300(税込)写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり
2023年11月13日飛ぶ鳥を落とす勢いの若手俳優・磯村勇斗は、ここ数年で人気と実力が一致する稀有な俳優へと進化を遂げた。「きのう何食べた?」シリーズで、かわいさと絶妙な小憎たらしさを兼ね備えたジルベールを好演していたかと思えば、公開中の映画『月』では、心やさしいさとくんが一線を超えていってしまう工程を演じた。そのふり幅、作品によって使い分ける顔の違い、実力は推して知るべしと言える。最新出演映画『正欲』では、磯村さんは佐々木佳道を演じた。佳道は、両親の事故死をきっかけに、横浜から中学3年まで暮らしていた広島に戻ってきた男。新垣結衣演じる桐生夏月の中学時代の同級生で、夏月とは誰にも言えない秘密を共有している。なかなか人に理解されない、言えない指向を持ちながらも何とか大多数に混じろうと生きてきた佳道の葛藤、変化していくグラデーションの体現はさすがの一言に尽きる。(c) 2021 朝井リョウ/新潮社(c) 2023「正欲」製作委員会インタビューでは、悩みながらもまっとうした佳道という役についての解説と、自らを「ハングリーマン」と言い切る、お茶目な表現で俳優という職業への入れ込みまで語ってくれた。演じた役は「すごく理解と共感ができた」――『正欲』で演じられた佐々木佳道は、いわゆるマイノリティに属する人間として描かれていました。どう読み解き、演じていったんでしょうか?佳道の性的指向の部分に関しての理解が、やはり一番難しいところでした。岸監督、プロデューサーと「どういう感覚に近いんだろう?」と、ああでもない・こうでもないと話し合いました。結果、佳道が持っている指向に関して「コレ」というものは見つからなかったけれど、人には隠しているマイノリティというところに、僕はすごく理解と共感ができたんです。なので、その感覚を大事にしたほうがいいんじゃないかと、最初に佳道を作っていった…近づけていったような感じでした。――生きづらさを抱えながらも、マジョリティに寄っていこうとしていた佳道ですが、夏月と再会し彼女と対話を重ねることで移り変わっていきますよね。佳道は最初、生きる上でカメレオンのように周りに溶け込んで生活をしなければならないみたいなことを考えたと思うんです。(大多数に)染まらなければいけないというのは、おそらくマジョリティの圧だとは思うんですけれど。世間の目みたいな部分で、彼なりになるべく馴染もうと、頑張ろうとしていたと思うんですね。でもそれはやっぱり自分を苦しめてるだけであり、自分らしさはなくなってしまうので、葛藤はすごくあったと思います。その狭間でかなり闘っているんだろうし、そこで生きている人だな、というのは感じていました。新垣結衣、稲垣吾郎との共演――夏月を演じられた新垣さんと磯村さんの空気感が、すごくぴったりでした。初共演ですよね?はい、そうです。新垣さんは僕がデビューする前からテレビでずっと見てきた方なので、最初はちょっと幻かな?と思いました。僕たちはガッキー世代なので(笑)!そういう方と対面してお芝居する不思議さは、どことなくありましたね。新垣さんご本人は、ものすごく柔らかい空気感をお持ちの方なんです。誰にでも優しいですし、おそらく感受性がとても豊かな方なんだろうなと、お芝居を一緒にやっていてすごく感じました。特に受けのお芝居が魅力的だなと思っていました。(c) 2021 朝井リョウ/新潮社(c) 2023「正欲」製作委員会――主演の稲垣吾郎さんに関しては、少ないシーンでしたがご一緒していました。いかがでしたか?稲垣さんとの撮影は本当に1日だけだったんです。しかも、かなりヘビーなシーンでご一緒したので、挨拶を交わしたくらいでした。そしてお芝居の演出上、(セットの)テーブルを挟んで2人とも無言で座っていて、お互い集中し合っている、みたいな感覚で緊迫していたので「稲垣さんは怖い方なのかもしれない…」という印象だったんです。だけど、撮影が終わって最近取材でご一緒したときに、すごくフランクにお話しさせていただいて「あれ!?全然怖くなかった!」みたいな(笑)。趣味も似ていたのでお話も弾みました、すごく楽しい方という印象に変わりました。また共演できる機会をいただけたら、そのときはもっといろいろお話したいです。「自分は自分でいい」「今の自分自身を認めてあげよう」――夏月と佳道の関係性については、どう解釈していきましたか?佳道にとって、夏月が一番の理解者であり支えてくれる存在なので、やはり逢うべくして出逢ったような運命的な二人だと思いました。再会の仕方も、ちょっと変わった出逢い方をしているじゃないですか。必然性も感じたので、導かれているものを大事にして二人の時間を紡いでいきたいなとやっていました。佳道として演じていて、夏月といる間はやっぱりいい時間が流れていたんですよね。今まで佳道が歩んできた社会の棘のあるような空気とはまったく違って、なんか…まろやかな時間になっているなあと感じました。しかも、恋愛にいくわけでもなく、お互いの指向だけで理解し合えている。その不思議な感じが、居心地が良かったんですよね。そこだけでつながることもできるんだな、という発見もありました。――恋愛ではないが強固な結びつきということですよね。磯村さんご自身も感じるところがあったんでしょうか?そうですね。佳道と夏月の出逢い方は、僕の中でも新しかったんです。その感覚で通じ合えて一緒に過ごすことができるのは、今の時代だからこその形なのかもしれないなあって。ただ、すべては本人次第で他人がああだこうだいうことじゃないな、というのはすごく感じています。ここ数年、作品を通したり、出会った人と話す中で共通して思うのはそこです。すべて本人たちがよければ、それが一番の幸せなんじゃないかと感じています。――磯村さんご自身は『正欲』という映画を、どんな風に受け取りましたか?観終わった感覚で言えば、ものすごく温かい気持ちになったんです。「自分は自分でいいんだな」と思わせてくれたというか、救われるというか。観終わった後にホワーッとする感覚になれる映画でした。人とのつながりの大切さ、今の自分自身を認めてあげようというメッセージを僕は受け取りましね。常にハングリーマンで「貪欲さは大事に」――劇中では、「人生の通知表」という言葉が出てきました。磯村さんが現段階でご自身の人生に通知表をつけるなら、どうなりますか?「5」がマックスだったら、「2」「3」ぐらいじゃないかな?――え!どうしてそんなに低いんですか?だって「5」にしたら面白くないじゃないですか!――なるほど!伸びしろですね。そうです、伸びしろです!やっぱり、「5」にしちゃうと、先がないのでつまらないですよね。登っていくほうが面白いと僕は思うんですよ。なので今は「2」「3」がバーっといろいろある感じかなあと思います。そのほうが自分はまだ挑戦していけますし。…逆に「5」なんて作りたくないって思うんです。それぐらいがちょうど役者は楽しいんじゃないかなあと。ずっとなんかもうひとりの自分を追いかけている、みたいな。その追いかけっこみたいなのが楽しいと思ってます。僕は、ハングリーマンです(笑)。――「5」にならずずっとハングリーでい続けるために、今後の自分に期待したいことは何ですか?例えば、10年後に同じことを聞いていただいたときに「5ですね(きりっ)」とか言わない自分でいたいです。万が一、「5だね」とか言ったら、過去の自分が殴り行きますよ。「お前、そんなことを言うようになったか!!」って(笑)。それぐらいの貪欲さは、何年経ってもずっと取っておきたいというか、大事にしておきたいなとすごく思っています。【磯村勇斗】スタイリング:笠井時夢/メイク:佐藤友勝(text:赤山恭子/photo:You Ishii)■関連作品:正欲 2023年11月10日よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国にて公開ⓒ 2021 朝井リョウ/新潮社ⓒ 2023「正欲」製作委員会
2023年11月13日いままで聞いたことのないような、悲痛な叫びだった。映画の中で、神木隆之介演じる敷島が、得体のしれない理不尽かつ圧倒的な暴力、蹂躙によって、全てを失った際に発する、言葉にならない声のことだ。神木さんは目の前にそびえ立つ“それ”を「目に見える絶望」という言葉で表現した。佐々木蔵之介は、撮影中はまだ見ぬ存在であった“それ”を、完成した映画の中でようやく目にした時「怖くて仕方がなかった」と明かす。2人の口調から『ゴジラ-1.0』のゴジラがどれほど恐るべき存在であるかが伝わってくる。大の大人たちをこれほどまでに恐怖させ、同時に魅了するゴジラとはいったい何なのか――? 『3月のライオン』以来の共演を果たした2人が、記念すべき誕生70周年、シリーズ30作目となる『ゴジラ-1.0』について語り合う。ゴジラ映画70周年、30作品目出演の心境――ゴジラ映画への出演が決まった際の率直な心境はいかがでしたか?神木:僕はプレッシャーが大きかったですね。ゴジラという大きなコンテンツ、70周年で30作品目という重圧――日本が誇る、世界中の人が知っている存在なので、その映画に携わるとなると、責任がすごく大きいんだろうなと想像して、嬉しかった反面、「自分に最後まで背負いきることができるのか?」という不安がありました。ただ、お話を伺ったのが28歳の時だったのかな? 20代の最後の力を振り絞って、30代につなげられるような作品にできたらいいなと思いました。自分がどこまでできるのか? という思いもあってお引き受けしました。――これまで、様々な作品に出演されてきましたがプレッシャーを感じることはよくあるんでしょうか?神木:作品ごとに常に感じますね。ちゃんとお届けできるのか? 自分のキャラクターを通して、作品のメッセージをみなさんに伝えることができるのか? といったことを含めて、プレッシャーも責任もありますし、それは作品ごとに大小や優劣がある話ではないんですけど、ただゴジラというのはやはり特別なものがあって、それは僕にとってもそうだし、みなさんにとってもそうだと思うので、それを意識した瞬間はビビりましたね。佐々木:僕は神木くんとは対照的に何のプレッシャーもなかったです(笑)。「あの怪獣映画に出させていただけるんだ!」と。いままでは観客として「観ていた」映画の中の世界に存在するという不思議な感覚を味わえるのかという思いでした。ゴジラに加えて、山崎貴監督の作品に参加できるという喜びも大きかったですね。ずっと拝見していましたけど初参加なので、ゴジラの世界、山崎組の世界に入れるというのが嬉しかったです。――撮影の中で、ゴジラ映画ならではの感覚を味わった瞬間はありましたか?神木:「大きさ50メートルです!」と言われても、なかなか想像できなかったですね(笑)。ゴジラの目線を示すための棒があって、先端にゴジラの顔が描かれていて、それをスタッフさんが「このあたりです」と振るんですけど、そこに描かれてるゴジラの顔がちょっとイケメンでしたよね(笑)?佐々木:うん(笑)。神木:怖い顔じゃなくて、かわいらしいタッチで。佐々木:「はい、ゴジラ吠えますよ!」とか指示がくるわけですね。「ガァ―」とか。「これがVFXか…?」と(笑)。ああやって、グリーンバックの中で、まだ見ぬゴジラに立ち向かっていくという経験で、みんなを“戦友”と思う感覚が養われましたね。「まだ見ぬ」というか、実際に会うこともないんですけど(笑)。これこそ役者に一番大切な想像力だなと。神木:役者全員、人生を懸けて想像力をフルで働かせましたね(笑)。終戦直後を生きる役、意識した役作りとは?――戦後、神木さん演じる敷島や佐々木さん演じる秋津が木造船に乗り込んで、戦後処理の特殊任務に従事し、ゴジラにも遭遇することになる海でのシーンの撮影はいかがでしたか?神木:いや、それがですね、ウワサによると、我々があんなに頑張った海でのシーンの映像が、他のシーンのCGが凄すぎるせいで「海のシーンも全部CGなんでしょ?」と思われているらしいですよ。実際に我々は海に出たのに!――実際に木造船で沖に出て、結構揺れて大変だったとか?佐々木:結構どころじゃないですよ!神木:転覆寸前ですよ! (撮影に協力してくれた)地元の漁師さんが「そろそろ戻らないとヤバいです」って言うくらい。あれはちゃんとリアルな撮影なんだと言いたいですね、この場で。海に出て、ゴジラと戦いました! こうやって船をわざわざ作って海に出るという、大がかりな撮影もなかなかないですよね。それはゴジラならではだと思います。佐々木:4人(佐々木、神木、山田裕貴、吉岡秀隆)で戦ってたね。空と波の高さ、風の条件が全部そろわないとダメで、ずっと待機しながら「今日はどうかな?」、「天候は良さそうだけど」、「いや、あの風車見てよ。無理っすよ」、「波は?」ってずっと待ってたよね。ようやく船を出して、沖合に着いたら「いまです!」って、テストもリハもなしにすぐ本番でね。「いま撮るんかい!」って(苦笑)。あの経験があったから、みんなで一緒に戦った感がすごくありますね。だから、全部CGだと思われてるって聞いて残念なんですけど(苦笑)。――お2人も船酔いで苦しんだりされたんでしょうか?神木:1日目は酔いました。すごかったです。佐々木:あの船がまた怪しい木造船でね…。神木:一回、通報されましたからね。「怪しい」って(笑)。佐々木:僕は船長なので、2階部分の上に立たなくちゃいけなくて、すごく揺れてました…。何とか酔い止めの薬を飲んで耐えてましたけど、1回、ダメになりましたね。途中で衣装さんがダウンしたことがあって、そのときはみんな自分で衣装の乱れを直して撮影してましたね。神木:ふと横を見ると監督もダウンしてましたからね。佐々木:監督は(一瞬だけモニタを見るそぶりをして)「はいOK」って言って、またすぐよこになってましたからね。本当に見てたのか…(笑)?神木:「OK」の後にトランシーバーから「今日はもう早く帰ろうよ」「まだ撮るの?」って声が聴こえてきましたからね。――役柄についてもお聞きします。時代設定を終戦直後にしているのが、本作の大きな特徴です。敷島は戦争から生きて戻ってきた男で、戦争によって非常に大きな苦しみを背負っています。戦争というものとの距離を含め、どのように役を作っていったのでしょうか?神木:そこは本当に難しかったです。戦争は史実であり、ゴジラという存在はフィクションで、その2つが混ざり合っている世界で、敷島という男は戦争というノンフィクションを前提に生きつつ、フィクションに立ち向かっていかなくてはならないわけです。僕自身、戦争に関わる役柄は初めてでしたが、決してものすごく遠い歴史ではなく、実際に経験された方たちもご存命ですし、そういう方たちは計り知れない傷や思いを背負っているわけで、戦争を経験していない僕がそれを表現しないといけないというのは、すごく難しく、大きなプレッシャーでした。敷島は、戦争で死にきれず“生き残ってしまった”男であり、自分を責め続けている人間であり、そんなものを背負っている人間の顔つきは、絶対に普通とは違うと思うんです。普段の自分、他の作品やプロモーションで見せている顔と少しでも違うものを見せることができればと思いながらやっていました。すごく難しい役でした。――秋津は、戦後処理の特殊任務に当たる男で新生丸の艇長です。過去についてあまり詳しく説明はされませんが、戦後を生きる男を演じる上でどんなことを意識されましたか?佐々木:表立って描かれることはなかったですけど、僕の中で、おそらくは彼も大切な仲間や家族を失っているんだろうと考えて作っていきましたね。だから、やり残したことや果たさなくてはいけないことが山積みになっている…いや、山積みなのか、それとも心の片隅にあるのか――いずれにせよ、彼の心の中の大きな部分を占めているんだろうと。だから、水島(山田)のことを「小僧」と呼びつつ、その成長を嬉しく思うし、近くにいる人間が家族を持って、新しい時代を生き続けてほしいと思っている男だと思います。周りの仲間は“家族”だと思って接しようと思って演じていました。「自分の中の“何か”がゴジラに投影されている」――お2人の共演は「3月のライオン」に続いてとなりますが、前回との違いを感じる部分はありましたか?神木:前回も2人で取材を受けましたけど、その時はまだ「あ、ど、どうも…」みたいな感じで(笑)、どう話していいかわかんないところがありました。「3月のライオン」では一緒のシーンはありましたけど、棋士の役ということでそれぞれに背負っているものがあって、将棋盤を挟んで向き合って、個々に戦うという感じだったんですよね。今回は仲間であり、クルーであり、同じ方向を向かないと乗り越えられない敵がいて、船の中で本当に蔵さんに助けてもらうことも多かったですね。それもあって、今回からこうやって気軽に「蔵さん」と呼ばせていただいてます。佐々木:『20世紀少年』で僕の役の若い頃を演じてくれたんですよね。あとは名前の字面がちょっと似てることもあって(笑)、以前から縁を感じてたんです。神木:わかります。パッと見た時にね。「ん?」ってなりますよね(笑)。佐々木:「3月のライオン」が実質的な初共演だったんですが、師弟関係ではないんですけど、ふとしたところでアドバイスを送ったり、心の支えになるような立場でね。今回の共演を経て、やっぱりあの荒波を乗り越えた戦友としての絆みたいなものが深まった気がします。いろんな役をやってきているからこそ、本当にしなやかに役を演じていくのを見てましたし、今回もお互いに構え過ぎずに、地続きに演じることができた心地よい時間でした。――ゴジラの存在は、ある時は恐ろしい敵であり、時に人間の味方のように感じることもあったり、作品ごとにイメージも違いますが、70年もの間、なぜこんなにも愛され続けてきたのだと思いますか? ゴジラとは何者なんでしょうか?神木:何でしょうね…? ただの脅威ではないのかな、とは思いますね。生まれた理由があって、最初の作品(1954年)でも水爆実験による変異が起きて…ということが描かれたりもしていますけど、人間が作り出してしまった生物であり、人々によって見方は違うけど、ただの怪獣ではなく、それぞれが何かの象徴としてゴジラを見ているところがあると思うんですよね。自分にとって怖いもの、絶望する存在に重ね合わせる人もいるし、そうした恐怖や絶望に毎回、人類が立ち向かおうとする。場合によっては味方のように感じられたり、かわいく見えたりすることもあったり、作品によっても全然違うんですよね。作品ごとにみんな、自分の中の“何か”がゴジラに投影されているようなところもあって、毎回違いを楽しめるのかなと思いますね。佐々木:僕自身、ゴジラが「愛されてる」のか「恐れられている」のかわかんないです。時代ごとにゴジラが現われて、時代や人々がどういう対象としてゴジラを見るのか?やっぱり、いま神木くんが言ったように「人間が作り出したものである」というのが大きいんでしょうね。そこで、ゴジラという存在が全てを背負ってくれているんだと思います。いろんな感情をゴジラが背負ってくれているからこそ「味方だ」とか「脅威だ」とか、周りの人間たちがゴジラに対していろんな感情を持てるんでしょうね。ゴジラはしゃべらないので、“鏡”のようにいろんな思いを投影しやすいんだと思います。僕にとっては今回のゴジラはすごく恐ろしい存在でした。「破壊する」ということが、こんなに恐ろしいことなんだということが一番突き刺さりました。【神木隆之介】ヘアメイク:MIZUHO(VITAMINS)スタイリスト:橋本敦【佐々木蔵之介】ヘアメイク:晋一朗(IKEDAYA TOKYO)スタイリスト:勝見宜人( Koa Hole inc. )(text:Naoki Kurozu/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:ゴジラ-1.0 2023年11月3日より全国東宝系にて公開©2023 TOHO CO.,LTD.
2023年11月03日「窪塚洋介」。その名を発するとき、どこか憧れを込めてしまう。90年代~00年代に圧倒的なカリスマティックを放つ彼の存在を、ブラウン管のテレビ越しに強烈に浴びた人間なら皆同じだろうし、00年以降のグッと大人な色気に少年っぽさも入り混じった彼ののびやかな雰囲気をスクリーンで感じた人間だって、また同じように痺れていることだろう。どの時代を生きていても、誰にも似つかず、気負わず、自分軸で仕事もプライベートも謳歌しているように見える窪塚さん。その姿勢は彼の出演作品選びからもうかがい知れる。主演級の映画出演はもとより、近年ではポイントとなるポジションをむしろ嬉々として演じている。例えば、現在公開中の齊藤工監督作『スイート・マイホーム』では主人公(窪田正孝)の兄の引きこもり、かつキーマンとして驚きの姿をさらしてくれた。11月2日(木)より配信される最新出演作、Amazon Original映画『ナックルガール』でも、窪塚さんは、主人公のボクサー・橘蘭(三吉彩花)の妹を拉致する犯罪組織の役員・白石誠一郎を演じた。もともと韓国で人気の同名コミックを映画化した本作だが、窪塚さんの役は原作にない映画オリジナルの存在。製作勢立っての熱烈な希望で、オファーとなったのだ。窪塚さんへのインタビューでは、本作のエピソードのほか、いつまでも輝きを失わずしなやかに生きるマインド、さらに多忙なスケジュールを乗り切る息抜き方法まで教えてもらった。役選びは「その役、作品をやりたいと本当に自分が思えるか」――『ナックルガール』で演じた白石誠一郎、公開中の『スイート・マイホーム』の清沢聡など、近年、窪塚さんは主演以外でも意外な役で作品に彩りを与えています。役を選ぶスタンスは、20~30代から変わってきたんでしょうか?どうですかね。そんなに意識はしていないというか、もともといろいろな役をやりたい気持ちがあってデビューしたんです。確かに10代後半や20代前半は主演が多かったけど、あのときも脇役で面白いものがあればやりたいスタンスではあったから、「俺はこの役じゃないとやらない」とかは、ないんですよね。やはり一番は台本を読んでその役をやりたい、その作品をやりたいと本当に自分が思えるか。それだけを基準に考えています。なので、主演のものがあればさせてもらうし、脇役で面白いのがあればさせてもらうし、というような。すごくフラットな、ニュートラルな感じなんです。(齊藤)工の作品で言えば、工があの役でとオファーしてくれて。近年なかなかなかったタイプの役だったのもあって、すごく感謝しています。あ…でも『沈黙 -サイレンス-』のキチジローは、ざっくり分けると何となく同じような感じだったかな(笑)?――確かに見た目もそうかもしれません!ご本人的にはポジションにこだわることなく、いろいろな役で楽しみたいという思い自体、変わっていないということなんですね。そうですね。毎日毎日ラーメンを食っていたら、飽きるから。ハンバーグを食べたいとか、生姜焼きも食べたいとなるような感じで。役が違うという意味だけじゃなくて、その役のサイズ感とか、主演だろうが脇役だろうが、どちらもやれるのはすごい大事だし楽しいことだと思うんです。主演しかできないのも、脇しかできないのも「んー」となる感覚があるので。シンプルに役者として、どんな役もやれる自分でいたいんですよね。あと、作品を作って完成したら、それがまた次につながってくるなあと思っています。正直、観ないとわからないときもあって、「ああ、あそこであんなことやっちゃったな!」とか、「あー、これやんなきゃよかった…」と思うこともあるんですよ。そうやって「ああ、やっぱこうだったな」と思うことは次に絶対に生きるから。そういう意味では常に何の作品でもリハーサルでも本番でもなくて、それでどんどん成長していくのかな、と思っています。――楽しみながら挑戦して吸収していくという窪塚さんのスタンスは、ストレスの多い現代社会においてもすごく重要なサバイブ術のようにも思います。窪塚さんのように常にしなやかに生きるための極意…というかヒントはもっとありますか?俺がしなやかなのかは、置いておいて(笑)。思うのは、出来事は絶対全部よくなるために起こっているんじゃないかな、と。それは世の中で起こっていることでも、自分の身に降りかかることでも、直接的にエフェクトを受けることも間接的にエフェクトを受けることもありますよね。どちらの場合であれ、その出来事は絶対によくなるために起こっているはずなんです。今がよりよくなるためのギフト、インビテーションみたいな感じで捉えられるような自分で常にいられれば、どんな瞬間も楽しんで前向きに生きていけるんじゃないのかな。そう思えたら、失敗は成功のもとだし、成功の母だし、という考え方になってくるじゃないですか。いろいろなことにトライできるかもしれないし、失敗してへこんで…へこむことも全然あってよくて。そこにまたやる気が芽生えてきたり、「ちくしょう」とか「くやしい」とか思ってまた頑張れたりするから。そのマインドセットだけはミスらないようにしているので、おっしゃっていただいたような「しなやか」に見えているのかもしれないですね。日韓合作で新たな経験「すごい新鮮」――『ナックルガール』についても教えてください。白石は窪塚さんのためにできた役だったそうですね。なんかね、そう言ってくれていたけれど「ほんまかなあ?」と思って(笑)。でも、だからお引き受けしたということでもなくて。ひとつは、今回は日韓合作のプロジェクトという枠組みが面白そうだったこと。あと、原作の流行っていた韓国の漫画を読んで、脚本を読んだら設定を日本に置き換えていたので、「そういうアプローチがあるんだ!」と思って、そこも面白いなと感じたんですよね。――窪塚さんが演じられたことで、白石という役がより怖くも、チャーミングにも見えました。だといいです。白石は東大卒で、本当は不良じゃないけど悪いヤツなんです。はしばしにそういう立ち居振る舞いが出てしまう、本当のところで根性が入っていない、という感じでやりたいなと思っていました。温室育ちできちゃったから修羅場のときに対応できないのが、修羅場じゃないシーンにもちょっと出るといいな、という感じで。――先ほどお話のあったキチジローもですが、窪塚さんは海外での現場経験も多いですよね。日韓合作ということにおいて、新たな経験はありましたか?そうだな…でもそういう言い方をすると、ひとつとして同じ現場はないんです。たとえ同じ監督でも座組みが違ったり、作品が違ったりすると雰囲気が違うものなので。今回の現場だと、スタッフが韓国と日本の合同だったところがすごい新鮮でしたね。特にすごいなと思ったところは、韓国の監督やスタッフの感覚で撮られているから、日本の見慣れた景色がよく出てくるんだけど、すごく新鮮に感じたんですよね。撮っていく画と、その構成の仕方が違うんだろうな、すごいなあと感心しました。あとね、チャンさん(監督)がとってもチャーミングな方なんですよ。『ナックルガール』はアクションクライムというジャンルだけど、もともと優しい作品も撮っている方だから、推して知るべしではあるけれど。すごい波長が合いました。チャンさんがハグして撮影を始める、みたいな感じだったんです。――ハグされるのは窪塚さんだけですか…!?ほかの人は…わかんない(笑)。俺は「イエーイ」とか言って、ハグしてから撮影が始まる感じでしたね。――なかなか聞かない話ですよね。窪塚さんも毎回監督とハグはされないですよね?誰とでもしているわけじゃないですよ。堤(幸彦)監督にはしないし、豊田(利晃)監督にもしないし(笑)。だけどそうしたくなるような、チャンさんの人柄だったんですよね。現場でチャンさんはすごく柔軟でいてくださって、こちらの提案やアイデアを聞いてくれました。懐が深いなと感じましたし、ご一緒できてよかったです。息抜きは“お酒”「こんなに好きになるとは」――最後に、多忙な窪塚さんの日々の息抜き方法も教えていただきたいです。うん、お酒かな(笑)!20代の頃はそんなに飲まなかったんですよ。飲むときは雰囲気で「みんないるし」とか「打ち上げだし」という感じでパーっと飲んで「ヒャーっ!」となっていたりしていたけど。今は酒自体が好きで、こんなに好きになるとは思わなかったですね。最近、特に日本酒にハマっているんですよね。――味が好きになったということなんですか?味も、そのときの空気も、そのときの自分も含めて。今日もこの取材が終わって家に帰ったら、飲みながら「今日も楽しかったな」とじんわり感じると思うんです。その瞬間こそ、圧倒的なガス抜きなんだなと思っています。ヘアメイク佐藤修司(Botanica make hair)(text:赤山恭子/photo:Maho Korogi)
2023年10月30日【音楽通信】第148回目に登場するのは、菅野美穂さんの主演ドラマに新曲を書き下ろして話題を呼んでいる、シンガーソングライターの矢井田 瞳さん!19歳でのアコースティックギターとの出会いが転機【音楽通信】vol.148大学生のときにメジャーデビューを果たし、2ndシングル「My Sweet Darlin’」が大ヒット。サビで「Darlin’,Darlin’」と歌うフレーズから“ダリダリ旋風”を巻き起こし、1stアルバム『daiya-monde』はアルバムランキング初登場1位を獲得、ミリオンセラーとなった矢井田 瞳さん。以降もコンスタントに楽曲リリースや国内外でのツアーを行い、現在デビュー24年目を迎えた矢井田さんが、2023年10月19日、ニューシングル「アイノロイ」を配信リリースされたということで、音楽的なルーツなどを含めて、お話をうかがいました。――幼少期は、どんなふうに音楽とふれあっていましたか。幼い頃、私自身は主に水泳を習っていて、スポーツばっかりしていました。そんななかでも父が音楽好きだったので、家ではリビングにいると常に音楽が流れていましたね。父がスナックで歌う曲の練習をするために音楽をかけていた、という環境で育ちました。音楽自体は、大学に入ったときに、アコースティックギターに出会ったことが大きな出来事で、その後の人生の道が決まったところがあります。それまではスポーツや勉強ばかりの日々だったのですが、大学に入って解放感を得て、これまでと全然違うことをやりたくなったときに、音楽そして楽器をやってみたいと思ったんですよね。友人が休憩時間にエレキギターを弾いている姿を見ると、いつもよりカッコよく見えて、「これはギターのマジックだ」と(笑)。いろんな魅力がある楽器なんだろうなと感じたんです。さっそくアコースティックギターを買ってきて、コードブックを見て、ゆっくりと簡単なコードを初めて弾いたときに「ビビビッ!」と衝撃がきたんです。「私、これを一生できるかも」と直感で思ったんですよ、まだ何も弾けないのに(笑)。でも、本当にそう思ったことがきっかけで、それまでは歌うことや音楽を聴くことが好きなだけでしたが、本格的に曲を作ってみたい、楽器を弾いてみたいとのめり込んでいきました。――ギターで曲作りもされるようになって、そのまま音楽活動もスタートされて?はい。アコースティックギターを練習しはじめて、ギターコードを3、4個ぐらい弾けるようになったときに、覚えたてのストロークとスリーコードでずっと弾いていたら、聴いたことのないメロディを歌っていることに気づいて。それがとっても楽しくて、どんどん曲作りにハマっていきました。私は学生時代、表向きには「明るくて元気な子」と友達には思われていたようなのですが、実は本当はそうじゃないと思う自分もいて。思春期だったからかもしれないですが、まわりが思う自分像と一致しないことにモヤモヤしていました。そんなとき、ギターを持ち、吐き出せていない感情を新しいメロディにのせて歌うとすごくすっきりして。醜い感情や汚い感情も作品にしてしまえば、落としどころとして気分がよかったところもあったのだと思います。――2000年にインディーズデビュー後、メジャーデビューもされました。10月には2ndシングル「My Sweet Darlin’」が大ヒット。19歳でギターを手にされてから3年後にはデビューして大ブレイクと、順調なスタートを切られましたね。いまから思うと、相当なスーパーラッキーガールでした。デビューしたときは大学4年生で、「My Sweet Darlin’」のサビを覚えてくださった方が私を見かけると、「ダリダリの人だ」と言ってくださってうれしかったです。ただ、ちょうど卒論の時期で毎日図書館に行って引きこもっていたので、あまり外の世界のことがわからないまま、ときどき東京に行ってお仕事をしていた状況だったので、デビューの実感はそんなにありませんでした。矛盾も前向きなパワーに変えられるような新曲――2023年10月19日に、ニューシングル「アイノロイ」を配信リリースされました。同日からスタートした、菅野美穂さん主演ドラマ『ゆりあ先生の赤い糸』(テレビ朝日系 毎週木曜午後9時)の主題歌として書き下ろされたそうですね。ドラマ主題歌が決まるかもしれないという時期と、新しいサウンドでこれからまたチャレンジしていきたいと私たち音楽チームで話していた時期が、偶然一致したんです。オファーをいただき、まずは原作の漫画「ゆりあ先生の赤い糸」(入江喜和)を読むところから入りました。――歌詞の世界にイメージを凝縮していくのは難しそうですが、どんなふうに作っていかれたのでしょうか。主人公となる、ゆりあ先生の繊細さと大胆さ、優しさと強さが共存している感じや、憎しみさえも前向きなパワーに変えるという、いろいろなことの表裏が合体している強さを楽曲で表現できたらいいなと考えて。前向きに生きるという一面だけではなく、後ろ向きな日々もあるなか、その矛盾や心の憂鬱さえも、前向きなパワーに変えられるような曲にしたいと作っていきました。――タイトルからして、相反するような「アイ」と「ノロイ」がくっつくという……。そうなんです。愛情の愛も、呪いも、ぽつんと単体では存在しえないといいますか、つながっているもの。だからそういう意味では、「アイ」と「ノロイ」は背中合わせの言葉なのではないかなと思ったんです。たとえば、すごく愛する人からかけられた呪いだったら、とても苦しくても、ちょっとうれしいかもしれないですし(笑)。背中合わせのこのタイトルにしました。――サウンドプロデューサーにYaffle(ヤッフル)さんを迎えられましたね。Yaffleさんは、爽やかなんだけど芯が太いような、ふたつのことが共存しているサウンドを作る人だなと、ずっと注目していたんです。いつかご一緒できたらと思っていたので、今回、ご一緒できてうれしいです。――「アイノロイ」が主題歌となるドラマにおいて、主演の菅野美穂さんは、「矢井田さんの歌声と、素晴らしい楽曲に胸が震えました」と絶賛のコメントを寄せていますが、以前トーク番組でご一緒されたことがあるそうですね?もう2006年のことで、17年経っていますが、昔『グータンヌーボ』(フジテレビ系)という女性出演者が集まってトークをする番組で、菅野さんとご一緒したことがありました。集合場所のお店に行ったら、本当にマネージャーもスタッフも誰もいなくて。あまりバラエティ番組に出たことがなかったので、どうしようと不安になっていたら、菅野さんはいろいろな現場でご活躍されて慣れていらっしゃったのでリードしてくださって。そのときは、菅野さんと優香さんと私の3人でトークをさせていただきました。――懐かしいですね。ところで、新曲はドラマ主題歌としてお茶の間でも流れていますが、聴き手の方の心にどう響いてほしいでしょうか。たくましく人生を生き抜いてほしいという思いがあったので、くよくよしているというよりかは、「よし、やるぞ!」と決めた人たちを思い浮かべながら書きました。なので、そういう人たちの背中をちょっとでも押せるような曲になってくれたら、うれしいですね。――今回はドラマ主題歌ということでの書き下ろし楽曲ですが、そもそもどのように曲作りをされているのですか。基本的には今回同様、ギターの弾き語りから曲を作っていくことが一番多いです。ギターで曲を何曲か作っている時期が2、3か月続くと、似たような発想が増えてくるので、それを切り替えるためにも、あまり弾けないピアノを触ってみたり、リズムから曲を書いてみたりしています。――あとからメロディの世界観に合わせて歌詞をつけていくのですか?最初に曲だけ作って、あとから歌詞をはめていく作業が苦しすぎるので、なるべくメロディだけ先行にならないように、「この曲で伝えたいテーマは何か」「このメロディが呼んでいる言葉は何か」を同時に考えながら、歌詞も作り上げています。――11月には東京と神戸でプラネタリウムツアー「LIVE in the DARK tour w/矢井田 瞳」を開催されるそうですね。プラネタリウムと合わせたライブはどのようなステージになるのでしょうか。私自身、初めてのライブ体験なんですが、すごいことになりそうです(笑)。プラネタリウムで星空が映る球体に、たとえば曲に合わせた映像を一緒に作り上げて、映し出してくださるようです。普段のライブ会場は少し暗いとはいえ、ステージからは見えてはいるんですが、このプラネタリウムツアーでは、暗闇と音楽というものが大事。暗闇では耳の神経も研ぎ澄まされるので、その感覚も楽しんでいただくようなライブになりそうです。――スペシャルな空間になりそうですね。私もこれまで意識していなかった歌詞の聴こえ方ができそうです。でも、歌詞を間違えないように気をつけようと(笑)。普段と環境が違うので、一番を歌いながら星空を見上げて「うわぁ」と圧倒されて、二番を歌うはずがもう一回一番を歌ってしまったり(笑)。そういうことも含めて、新しいライブ体験になるので、楽しみにしています。これからの音楽人生も少しずつ歩んでいきたい――お話は変わりますが、おやすみの日はどんなふうにお過ごしですか。お仕事をしているとき以外は、ほとんど家族と一緒に過ごしていますね。唯一、平日のお昼だけ自由に動ける時間があるので、お気に入りのお店にひとりでランチを食べに行くこともあります。とはいえ、毎日外でランチなんて贅沢もできないので、週に1回は「あそこのランチを食べに行こう」と、息抜きしていますね。――ご家族ということで、お子様もいらっしゃいますが、普段はお仕事と育児や家事をどのように両立されていますか。母親になってからは、自分の時間はこういうふうに使おうと思った通りに、24時間1秒もいかない(苦笑)。なので、仕事と家庭と趣味をこういうバランスで両立させようみたいなことを決めるのもやめましたし、全部が一緒で、時にぐちゃぐちゃです(笑)。あとは予定をたくさん入れないで、常に6、7割ぐらいにしていて、何かあったときに親としてすぐ動けるように、スケジュールを少しあけておくようになりました。――わかります(笑)。子どもがいると、こちらがいくら予定を立てても、全部ひっくり返ることなんてざらですよね(笑)。どっちでもいいよ、というふうにしておくと安心。なので、「私は今から曲を書くので集中したいです」と、部屋に入って楽曲制作をするということもなく。娘がリビングで遊んでいて、私は横でギターを弾きながら曲を書いていて、すごく集中力が高まってきたときに、「晩ごはん何?」と言ってきたり(笑)。急に友達を連れてきて家がカオスになったり(笑)。とはいえ、気にせず曲を書き続けて、家族の歌もあったりします。――お子さんもアーティストになりたい、というようなことは?いまのところその感じはないですね。でも、私がゼロからものを作っている姿を幼い頃から見ているので、娘も何かを作るということはすごく好きです。工作なり、フィギュアなり、売っているものを買うんじゃなくて、「あ、これ作りたい」と粘土など買ってきて、一から作っていますね。――素敵ですね。では、矢井田さんご自身が美容面で気をつけていることはりますか。気をつけなきゃと思いながらもなかなかできないんですが、一番自分に合っているのは、化粧水を洗面所だけじゃなく、もう1箇所ぐらいに置いておいて、気がついたときにちょっとスキンケアをすることぐらいですね。――いろいろなお話をありがとうございました。では最後に、今後の抱負を教えてください。「アイノロイ」で、これまでにはない、新しい矢井田 瞳の一面をYaffleさんやみなさんに引き出していただけた感じがあります。そんなふうにこれからの音楽人生でも、また新たな側面をお見せできるように、少しずつ歩んでいけたらいいですね。取材後記デビュー24年目を迎えたシンガーソングライターの矢井田 瞳さん。晴れた日の昼下がり、ananwebの取材をさせていただき、心地よいお天気に負けない明るいエネルギーで撮影もインタビューも応えてくださいました。ママになっても変わらずご活躍の矢井田さんのニューシングルをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基取材、文・かわむらあみりヘアメイク・太田瑛絵矢井田 瞳PROFILE1978年、大阪生まれ。シンガー・ソングライター。通称“ヤイコ”。19歳でギターと出会い曲作りを始める。2000年5月、関西限定シングル「Howling」でインディーズデビュー。7月、1stシングル「B’coz I Love You」でメジャーデビュー。2ndシングル「My Sweet Darlin’」が大ヒット。10月にリリースした1stアルバム『daiya-monde』は初登場1位を獲得、ミリオンセラーとなる。その後も数々のヒット曲を世に送りだし、全国ツアーの開催やイベント出演等、精力的なライブ活動を行う。また国内の活動に並行して、UKレーベルからもリリース、UKツアーを成功に収めた。2023年7月から全国8ヶ所でアコースティックツアー『ギターとハーモニカと』を開催、「8月15日=ヤイコの日」に千秋楽を迎える。10月19日、ニューシングル「アイノロイ」を配信リリース。InformationNew Release「アイノロイ」2023年10月19日配信リリース写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり ヘアメイク・太田瑛絵
2023年10月26日『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のギャレス・エドワーズ監督のオリジナル脚本によるアクション超大作『ザ・クリエイター/創造者』が10月20日(金)に公開となった。人類とAIの壮大な戦争を描いた物語の主な舞台となるのが、近未来の日本を含む“ニューアジア”と呼ばれる地域であり、実際に撮影はアジア各国で行なわれ、スクリーンには進化した未来の都市と自然の風景が融合した独特の世界が映し出される。(C) 2023 20th Century Studios『GODZILLA ゴジラ』を手掛け、大の親日家としても知られるギャレス・エドワーズ監督だけあって、本作にも随所に日本のカルチャーを反映した描写が散りばめられており、東南アジア各国に加え渋谷、新宿でも撮影が行なわれた。この東京ロケを取り仕切り、サポートしたのが、田中ハリー久也氏がファウンダー兼CEOを務める「STUDIO MUSO」である。海外の都市と比べて、格段に「難しい」と言われがちな東京での撮影だが今回、どのようにして実現したのか? そして、単なる撮影許可の取得にとどまらない「STUDIO MUSO」のプロダクション・サービスの内容とは――?弁護士資格を持ち、2020年に「STUDIO MUSO」を設立する以前は、ウォルト・ディズニー・ジャパンでディズニー映画配給事業の日本代表も務めてきた田中さんに、たっぷりと話を聞いた。『ザ・クリエイター/創造者』に関わることになった経緯とその業務内容――どのような経緯で『ザ・クリエイター/創造者』の東京ロケに田中さんが関わることになったのでしょうか?まず、弊社の成り立ちをご説明させていただくとわかりやすいかと思います。「STUDIO MUSO」は4人のパートナーで2020年に設立されました。設立の理由のひとつが、外国から日本に撮影に来る方々に向けて、プロダクション・サービスを提供するということで、日本の景色や文化を世界規模の映画やドラマ、CMで撮影していただき、世界に発信していきたいということ。そしてもうひとつが、日本の漫画、小説あるいは、日本オリジナルのストーリーを企画として成立させて、ハリウッドやヨーロッパ、アジアなど世界規模の作品に仕上げて、映像作品として日本の文化を世界に発信していくということ。この二本柱を大きな目的としています。4人のパートナーのひとりに、15年以上前からバンコク在住のニコラス・サイモンという者がいるのですが、先ほど申し上げたプロダクション・サービスに関しては、まさに彼がバンコクをベースに東南アジア各国で10年以上営んできた事業でもあります。彼は以前からこのプロダクション・サービス事業での日本への進出を考えていて、言語や慣習、コストなど様々な問題がある中で、たまたま私と知り合いまして、日本でのサービスを広げるチャンスだということで、彼を「STUDIO MUSO」に迎え入れる形で、この事業を始めました。その最初の大型案件となったのが、この『ザ・クリエイター/創造者』のお話でした。もともと、この作品はギャレス・エドワーズ監督の意向もあって、東南アジアでの大規模な撮影が行なわれることになっていました。ニコラスがタイで経営しているのが「Indochina Productions」という会社で『アベンジャーズ』シリーズやNETFLIXの「タイラー・レイク -命の奪還-」、『MEG ザ・モンスターズ2』や『キングコング:髑髏島の巨神』など、ハリウッドのスタジオが東南アジアで撮影する際のプロダクション・サービスを行なってきた会社なのですが、今回の企画でもニコラスに声がかかったのです。映画を海外で撮影する際、脚本が全て出来上がる前の段階から、ロケーションハンティングという名目で、撮影の候補地となる色々な国にあたります。「こんなシーンを撮りたいけど、この国で撮れますか?」とか「この国ではどんな画が撮れますか?」ということもそうですし、「インセンティブ(※助成金の支給、免税などの優遇処置)はありますか?」など財政面や人的・物的な面も考慮して、候補となる国にあたっていくわけです。ニコラスから東南アジアの数か国に加えて「日本でもどうか?」と提案があり、ご存知の通り監督のギャレスも日本は大好きなので「ぜひやりたい」ということで、メインの撮影は東南アジアですが、最後の撮影地を東京にすることを決めて、企画が進んでいきました。以上のような経緯で我々が日本での撮影のプロダクション・サービスを請け負うことになりました。(C) 2023 20th Century Studios――東京での撮影が行なわれるにあたって、具体的に「STUDIO MUSO」が担った業務を教えてください。東京で何を撮るか? ということは、当初はギャレスの中でハッキリとは決まっておらず、「とりあえず、撮れるものをいろいろ撮ってみよう」という感じでした。撮影の何か月も前から、メールベースで「こんな場所があるのだけどどうか?」、「こういう画を撮りたいんだけど候補地はあるか?」といったやりとりを、ニコラスを挟んでプロデューサーや制作陣と議論を重ねていきました。撮影のスケジュールもなかなか決まらなかったのですが、撮影の1~2か月ほど前になってようやく「そろそろ東南アジアでの撮影も終わりが見えてきたので、東京に向かえそうだ」という連絡がありました。撮影に際しては、作品の中での一貫性を保つために、東南アジアでの撮影に参加していたニコラスの「Indochina Productions」のクルーを日本に連れて行きたいというリクエストもありました。それに伴って、機材も日本に持ち込まないといけないので、関税の手続きもありましたし、持ち込みではなく、東京でどんな機材を調達できるのかということもこちらで調べました。ホテルに関しても、宿泊のための部屋だけでなく、打ち合わせのためプロダクションルーム、機材部屋も確保しなくてはなりませんが、他の宿泊客への配慮もありますし、それが可能なホテルも決して多くはありません。不幸中の幸いだったのが、2020年に開業した都内の某ホテルが、コロナ禍もあって、当時はあまり宿泊客も多くなかったということもあり、こちらの要望を受け入れてくださいました。今だったら、おそらく難しいだろうと思います。2フロアを貸し切りにして、キャストや関係者の出入りのための専用のエレベーターを確保していただくなど、非常に助かりました。加えて、人の手配もあります。ロケーションの候補地を探し出し、そこでの撮影に必要な許認可を取ってくれる専門家のスタッフを引き入れ、プロデューサーのジム・スペンサーやギャレスと打ち合わせを重ね「到着して数日は、ロケハンでこの場所とここに行ってみましょう」といった細かいスケジュールを詰めていきます。もちろん、移動のための手段も手配しなくてはならず、ワゴンは何台必要なのか? 運転手は丸1日の拘束になるのか? クルーの待機場所の確認などといった細かいロジスティックスに関しても事前に確認し、決めていきます。現場でギャレス・エドワーズ監督と会話する田中氏――「都内でのロケ撮影の許可を取る」というのがお仕事の主要な部分かと思っていましたが、それはごく一部に過ぎないんですね。その通りです。少し話がそれますが、ロケーション以外の仕事で言うと、例えばギャレスは「イチゴミルクが好き」ということだったので、事前にイチゴミルクを箱買いしていました。でも、来日してみると「もうイチゴミルクは飽きた」ということで、大量に余ってしまいましたが…(苦笑)。食べ物のアレルギーはもちろん、こうした個々の好みも含めて事前に確認し、パッケージで全てを準備して、制作費の中から費用をいただくというのが我々の仕事です。案件としては、CMの撮影が一番多いです。我々以外にも同じような「プロダクション・サービス」を提供する会社はありますし、海外の制作スタジオから連絡があった場合、bidding(入札)を行ない、「これくらいの予算でこんなことができます」ということを提示し、受注します。どうしたら海外の撮影隊に満足してもらえるか?「変化に対応し、それをしっかりと説明していくこと」――ちなみにロケーションに関しては今回、新宿や渋谷で撮影が行なわれたとのことですが、海外の都市と比べて、東京でロケ撮影するのは難しいという話をよく聞きます。どのように撮影が可能になったのでしょうか?海外の都市と比べて、許認可が下りることが少ないということが「難しい」と言われる理由なのでしょうけど、決してできないわけではないのです。例えば、渋谷のスクランブル交差点ですと、「深夜○時以降、○人までのクルーによる撮影であればOK」などとルールが決まっているので、取ろうと思えば許可を取ることはできます。ただ、朝から晩までの何百人ものクルーが参加しての大規模な撮影となると無理です。また、Tik Tokerがひとりでカメラを持って歩きながら撮影している場合も、実質的に規制されることはないですよね。実際に交通の妨げになるか否かといったことが関わってくるので、公共の場での撮影の可否というのは、グレーゾーンの部分が大きくて、それが「(日本での撮影の許認可は)わかりにくい」と言われる理由のひとつでもあると思います。じっくりと突き詰めていけば、撮りたい場所に近しい場所で、撮りたい画をカメラに収めることは可能ではあるんですけど、「手続きが煩雑で時間がかかる」「書面での契約を結ぶのが難しい」といったこともあり、なかなか日本での撮影が増えないという現実があると思います。こうした部分を踏まえて、「この場所での撮影は可能だけど、きちんとしたバックアップが必要だ」ということや「急に場所を変えたくなっても、替わりの場所をすぐに見つけることは難しい」という条件を事前に制作陣にわかりやすく説明し、彼らの期待値をコントロールするというところが、職人芸といいますか、我々の腕の見せ所でもあります。「あれもダメ」、「これも無理」とばかり言ってたら、彼らも嫌になってしまうので「これは無理だけど、こういうやり方ならできるのでは?」、「ここならどうだろう?」という様に、可能なことを提示して、彼らの気持ちを盛り上げ、気持ちよく撮影を進めてもらえるようにするスキルが実は何よりも大事です。逆に言うと、そこをしっかりとできれば、結果的に撮影場所が1か所しか押さえられなかったとしても、彼らは満足して帰って「日本は素晴らしかった」という声を広げてくれるわけです。日本人はどうしても真面目というか「できること」と「できないこと」をハッキリと言って「以上!」となってしまいがちですが、そうではなく、民間の外交官になったつもりで、どうしたら海外の撮影隊に楽しんでもらえるか? どうしたら満足して撮影してもらえるかを先回りして考えながら随時、変化に対応し、それをしっかりと彼らに説明していくことに尽きるのではないかと思います。(C) 2023 20th Century Studios――現段階のルールやリソースで決して「無理」というわけではないんですね。ルールはありますが、やり方次第で可能です。先ほども言いましたが、日本でもこういうビジネスをされてきた方は多くいらっしゃいます。ただ、個人や小さな規模の会社でやっている方が多いので、どうしても今回のようなハリウッドの大作であったり、大型の案件にすぐには対応できなかったりします。そういう体制や組織づくりの部分がまだまだ日本では足りていないのかなと思います。ロケーションだけのことで言えば、各地にフィルム・コミッションも増えていますが、それは撮影受け入れのごく一部に過ぎないわけで、全てを含めてサービスを提供できる体制を整えていく必要があります。そこは「STUDIO MUSO」でも進めているところです。――都市や自治体の側にとっての撮影を受け入れることによるメリットはどういう部分にあると思いますか?それを「よし」と思うか否かは価値観の問題になるのですが、私がディズニーに在職していた時、マーベルのケヴィン・ファイギ社長に対して、ずっと「『アベンジャーズ』の続編は東京で撮ろう」という提案をし続けていました。例えば、渋谷で『アベンジャーズ』を撮影するとなったら、いろんな人の協力が必要で、警察の認可だけでなく、渋谷区の行政も巻き込んでやっていかないとできないわけです。いま、まさに渋谷ハロウィンが大きな問題となっていて「ハロウィン当日は渋谷に来ないでください」と呼びかけていますけど、これをむしろポジティブな方向に舵を切って、渋谷区や警察の全面的なサポートを取り付けて、十全な根回しをした上で、渋谷での大規模な撮影をするのは決して不可能ではないと考えていました。それができれば、街のブランド価値の向上が見込めるし、海外の人たちが「あの映画で見たあの街に行ってみたい」となる――いわば無料の広告のような機能を果たすことになります。ニューヨークやロンドンはまさにそれを狙って、昼間から街の一部を封鎖して、撮影に協力しているわけです。もちろん、反対する声も一部にはあるでしょうが、街のブランドイメージが良くなれば、そこで様々な形でのビジネスも生まれるし、それが住んでいる人たちにも還元されます。(C) 2023 20th Century Studios――今回の『ザ・クリエイター/創造者』の一連のお仕事の中で、一番大変だったことや苦労されたのはどんなことですか?期待された答えじゃないかもしれませんが、常に全部が大変です(苦笑)。ひとつとして、スケジュール通りに進むということがないんですね。「誰かが来ない」とか「荷物が届かない」とか、何かしらのトラブルが常に発生するし、それはその人だけの問題ではなく、全体のスケジュールに影響し、外部の方々にご迷惑をおかけすることになるので、現場のスタッフはほぼ朝から晩まで何かしらの対応に追われることになります。こうしたトラブルの対処はもちろん大変ではあるのですが、やはり本当の問題は“コミュニケーション”に尽きると思います。日本の側の現実と海外の撮影隊が抱いている期待値に大きなギャップがあるので、その差を埋めるためのコミュニケーションが必要なのです。法律業界からエンタメ業界へ「より自由に、しがらみにとらわれずに」――ここから、田中さんご自身のキャリアについてもお話を伺っていきます。日本、ニューヨーク州での弁護士の資格を持ち、アメリカ、ヨーロッパの法律事務所でもお仕事もされていた田中さんですが、2002年より17年間にわたってウォルト・ディズニー・ジャパンに勤務され、ディズニー映画配給事業の日本代表も務められました。そもそも、なぜエンタメ業界で働こうと思ったのでしょうか?もともと、エンタメは好きでドラマや映画はよく見ていましたが、それもオタクというほどではなく、エンタメ業界で働こうとも思っていませんでした。ひとつのきっかけとなったのが、弁護士という頭も使うし責任も重い仕事をする中で、唯一、自分の中で楽しめたのがエンタメ系の仕事だったということです。エンタメ系の仕事といっても、様々な契約に際して、決まった雛型の書面に著名人の名前を入れる程度のことなので、とてもミーハーなんですけど(笑)、それだけのことにワクワクドキドキしていました。そこで気づいたのが、同じような大変な仕事をするにしても、楽しい時とそうでない時がある。それならば、自分の持っている法律という専門性を用いてエンタメの仕事ができたら面白そうだなと思って、そっちの方向に進むことを決めました。――その後、ディズニーという大手映画会社で数々のヒット作にも携わってきた田中さんが、独立してご自身で新しい事業に挑戦しようと思ったのはなぜですか?ディズニーで働いていた時から「いつかは自分でやらなきゃいけない」という思いは抱いていました。人と関わりながら集団で仕事をして、喜びも悲しみも分かち合うという仕事の仕方は好きですし、だからこそ大きな組織での集団でのキャリアを選んできました。実際、ディズニー時代に色々な人とご一緒して、一生のお付き合いができるような人たちに出会えてよかったと思っています。ただ、大きな会社で17年間もやっていると、会社のために仕事をすることが第一義であることだと分かりつつ、自分独自の経営判断、価値観と会社の経営方針が必ずしも一致しないことも多々出てきます。どちらが正しい、という訳ではないですが、残り50年の人生、大会社の価値観に迷惑をかけずに、自分のやりたい、やるべき事業を手掛けていきたい、という想いが強くなりました。弁護士の仲間の多くが、自分で独立して事務所を構えたり、経営者としてやっていたりということも大きかったですね。『ザ・クリエイター/創造者』では日本でのプロダクションサービスに加え、映画にも出演。写真は撮影現場でのもの。――最初に説明していただいた「STUDIO MUSO」の事業の2つ目の柱となる「日本の漫画などのオリジナルのストーリーを企画として成立させ、世界規模の作品に仕上げて世界に発信していく」というビジネスは、ディズニーでされてきた仕事やプロダクション・サービスとも異なり、完全にクリエイティブの部分を担う仕事になります。「一から企画して作品を作りたい」という思いは以前からお持ちだったんでしょうか?ディズニーで働き始める際、もう一社、オファーをいただいて迷った会社がありまして、それはギャガ(※当時はギャガ・コミュニケーションズ)さんでした。当時は創業者の藤村哲哉さんが社長を務めていて、その時のオファーは法務ではなく、プロデューサーのポジションでした。当時、ナムコの「鉄拳」やカプコンの「鬼武者」といったゲームを実写映画化できないかという企画があり、単に権利を取得するだけでなく、ギャガも共同プロデューサーとしてガッチリ入って作品を作ろうということで、藤村さんが奮闘していました。そこに私のようなdeal-making(取引の成立)の知見があり、現地と話ができる人間が入ることで、企画を進めていこうというお話をいただいたんですね。最終的に、ディズニーに入社することにはなりましたが、いまでも自分にとって、藤村さんはこの業界に入ったきっかけでもあり、メンターとして尊敬している方です。その経験があったので「そうか、自分は法律のキャリアしか積んでこなかったけど、映画のプロデューサーもできるんだ!」という思い――良くも悪くも勘違いがありました(笑)。実際、ディズニーでも法務の人間として入社しながら、勝手に日本の原作の映像化をアメリカの本社の映画部に提案したりしていました。『シュガー・ラッシュ』という映画がありましたが、その元となる企画があって、そのために日本中のゲームメーカーにキャラクターの使用許諾を取りに行ったりしていました。全然、本来の私の仕事ではなかったんですけど(笑)、ゲーム部門のスタッフと一緒にナムコさんやタイトーさんのところに赴き「やりたいです」と交渉していました。――『シュガー・ラッシュ』に別々の会社のゲームキャラクターがあれだけ出ていることはかなりの驚きでしたが、そこに田中さんが関わっていらしたんですね!大変でした(笑)。あとは「Dlife」(※BSディズニーのチャンネル。2012年放送開始、2020年終了)が始まる前、ちょうど日本の映画で『ROOKIES -卒業-』が盛り上がっていた頃には「ディズニーでも邦画を作りましょう」と提案して企画が通って、予算もつけてもらい、脚本開発をしていたこともありました。結局、「Dlife」ができたことで企画がストップし、私は関係各所に「すみません」と謝罪して回るハメになったのですが(苦笑)。ただ、その時の人脈はいまも活きていて、色々な企画を実現させようと進めています。――今後、実現したい企画や夢はありますか?まだ何ひとつ、成し遂げていない状況で、そんなことを聞いていただけるというのがお恥ずかしいのですが、企画自体は進んでいるものがいくつかあるので、まずはしっかりと形にして、世に出したいと思います。いまの日本では、そういう企画を立てる人間はTV局や大手の映画会社のプロデューサーが多いですが、インディペンデントの会社でも、大きな企画を実現できるということを示して、より自由に、しがらみにとらわれずに日本の面白い作品を世界に発信できるような道筋が見えてくるといいなと思っています。――最後に、これから映画業界で働くことを志している人たちに向けてアドバイスやメッセージをお願いします。まずは、映画というフォーマットにこだわるのかどうかをよく考えてほしいなと思います。個人的に映画への憧れ、「映画にこだわりたい」という思いもありますし、私が大変お世話になった東映の故・岡田裕介会長も映画一筋の方でした。ただ、この十数年で、アメリカのプロデューサーや俳優も含めて、映画とTVの垣根というのがかなり取り払われたのも事実です。日本でも同じで、映画というのはひとつの媒体に過ぎないと考えて、いろんなものに興味を持って、まずは「良いものを世に出す」ということを地道に頑張れば、例えばショートムービーであったとしても、いずれ長編を監督できるかもしれないし、実績を積み重ねることで“次”に必ずつながっていくと思います。あまりこだわり過ぎず、まずはいま、何を作っていけるのか? ということを考えてみると、意外とできることはたくさんありますし、楽しい業界だと思います。(C) 2023 20th Century Studios『ザ・クリエイター/創造者』は公開中。(黒豆直樹)■関連作品:ザ・クリエイター/創造者 10月20日(金)全国劇場にて公開© 2023 20th Century Studios
2023年10月20日「Elles Films株式会社」代表取締役・粉川なつみさん。ウクライナで制作された1本のアニメーション映画を劇場公開するため、勤めていた会社を辞め「ほぼ全財産をなげうって」日本での配給権を獲得し、たった一人で「Elles Films」を設立。その後もクラウドファンディングの実施から製作委員会の設立、日本語吹替版の制作、宣伝業務など、映画公開に向けた作業の中心を担ってきた。そんな粉川さんの情熱に突き動かされる形で、多くの賛同者が集まり、アニメーション映画『ストールンプリンセス:キーウの王女とルスラン』が先日より公開中だ。もともと映画が好きで、映画業界で働くことを志し、その念願かなって宣伝会社で働き始めたという粉川さんだが、そんな彼女が20代半ばにして、自ら会社を設立してまで同作を公開しようと思ったのはなぜなのか? 粉川さんにたっぷりと話を伺った。映画宣伝へ入社、配給会社への転職――「Elles Films」を設立する以前から、映画宣伝会社で働いていらしたそうですね。映像業界で働くようになった経緯を教えてください。大学時代、ゼミの先生のツテもあって、映画宣伝会社「ガイエ」でインターンをしていて、そのまま入社することになりました。もともと、映画の美術監督になりたくて、それを学べる大学に進学したんです。ただ、実習で美術スタッフとして映画の現場に行くとものすごい激務で「これはちょっと自分には無理だなぁ…」と挫折しまして…。ただ、大学では現場のことだけでなく、映画のビジネスについても学ぶことができて、その授業がすごく楽しかったんです。当初は映画ができるまでの仕事をしたいと思ってたんですが、徐々に完成した映画をいかにお客さんに届けるか? という部分に興味がわいてきて、ガイエでインターンをさせてもらうことにしたんです。インターン初日に行ったのが、柳沢慎吾さんが『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』の公開アフレコをするという現場だったんですが、イベントを仕切ったり、マスコミ向けのリリースを執筆したり、その様子をSNSで拡散している会社の先輩たちの姿がすごい大人に見えました。インターンからその後、アルバイトになって、新卒のタイミングで入社しました。業務は映画のパブリシティ(※作品について、新聞や雑誌、テレビ、WEB媒体などのメディアで紹介をしてもらうための宣伝業務)、特にWEBを担当していました。公開される新作映画についてのリリースを作成して媒体さんに配布したり、マスコミ向けの試写会の対応、イベントの手伝いやライターさんやWEB媒体の編集者さんに作品をPRなどをしていました。――実際に映画業界で働き始めて、いかがでしたか?どんな業界、お仕事でもそうだと思いますが、中に入って、実際にやってみないとわからないことがたくさんありました。例えば、私はリリース(※作品の公開決定や、キャストの発表、舞台挨拶のレポートなど、マスコミなどに配布するための文書)を書くのがものすごく苦手でして(苦笑)。大学でも卒論を書いたりしていますし、文章を書くこと自体、決して苦手意識を持っていたわけではないんですけど、仕事のリリースが本当に書けなくて…。苦労して書いて、先輩に提出すると真っ赤になって戻ってくることの繰り返しでしたね。パブリシティの業務は1年ほどやらせていただいて、その後、タイアップ営業の部署に異動となりました。結局、ガイエにはアルバイト時代も含めて3年ほど在籍していたんですが、人事、パブリシティ、営業といろんな部署に関わらせていただきました。その後、2021年に映画の企画・制作からアニメ作品やアジア映画の配給・宣伝などを行なっている「チームジョイ」という会社に転職しました。――お話しできる範囲で、転職することになった経緯についても教えてください。コロナ禍で、映画業界もいろんなことがしばらくストップしてしまったんですよね。私がいたタイアップの部署も、全てのタイアップ案件が飛んでしまって…。会社も方向転換を余儀なくされた部分があって、どこまで映画に関わっていけるのか? という思いはありました。その時期、コロナでヒマだったこともあって、私はなぜか「OCTB -組織犯罪課-」という香港ドラマにめちゃくちゃハマってしまったんですね(笑)。別に以前からアジア系のドラマや映画が好きだったというわけでは全くないし、キラキラの恋愛ドラマでもなく、香港警察とマフィアの攻防を描く渋いドラマなんですけど…。そこから、中国語ができるようになりたいなと思って勉強を始めたりして「やっぱり、エンタメって面白いな」という気持ちになったんです。こういう作品に携われるような企業はあるかな? と思って、いろいろ調べて行き着いたのがチームジョイでした。――アジア系の作品の配給・宣伝だけでなく、企画や制作、グッズの販売など幅広く行なっていますね。まさにそこに惹かれました。映画の宣伝って、私がやっていたようなWEBの宣伝やタイアップだけでなく、本当にいろんな業務があるんですよね。それを最初から最後まで見られるのは配給会社だなと思っていました。ちょうどその時期、コロナ禍にもかかわらず、チームジョイの担当していた『羅小黒戦記ぼくが選ぶ未来』も大ヒットしていて、勢いも感じて応募しました。――転職されてみていかがでしたか? チームジョイではどんな業務を担当されたんでしょうか?チームジョイでの日々はめちゃくちゃ濃かったですね。実質、在籍したのは1年半くらいだったんですが、5年くらい働いていたんじゃないかって思うくらい。入社後は『羅小黒戦記』のグッズの輸入・販売に始まり、アニメーション映画『白蛇:縁起』の日本語吹替版制作パッケージ制作、宣伝と本当に何でもやっていましたね。入社して驚いたんですが当時、チームジョイには私のほかに中国系の社長を含めて、4人の社員がいたんですが、社長が中国のテレビ局の日本支社でジャーナリストをしていた経験がある以外、過去に映画業界で仕事をしたことがある人はひとりもいなかったんです。海外の映画を1本買うにしても、普通なら映画祭のマーケットに行ったり、セラーに連絡したりするんでしょうけど、そんなノウハウを誰も持っていない状況でした。そんな中、社長から「今日中にタイの映画で買えそうな作品をリストアップして」みたいなことを言われて…。私は英語もろくにできないし、日本に入ってきてないタイ映画をどうやって調べたらいいんだろう? という感じで(苦笑)。スマホに「HelloTalk」という語学系のアプリをインストールして、タイ語に設定して、タイで日本語を勉強したいという人たちを集めて「最近、おススメの映画を教えて」と聞いたりしたり、現地の大使館に直接、電話してみたり…。めちゃくちゃ非効率なんですけど、何とかやり方を探すという感じで、すごく鍛えられましたし、逆に通常のやり方を知らないからこそ、既存の方法にとらわれずにいろんな新しいことを試すこともできたのかなと思います。ウクライナのアニメ映画を日本で公開「私がやらなきゃ誰がやるんだろう?」」――ウクライナのアニメーション映画である『ストールンプリンセス』に巡り合うことになったのも、そうしたお仕事の中で?まさにそうで、『羅小黒戦記』も『白蛇:縁起』もヒットして、中国以外の作品もやってみようということになって、リサーチする中でウクライナのアニメーション映画の存在を知りました。――その後、会社を辞めて、自分で配給会社を設立して、『ストールンプリンセス』の日本での興行権を購入することになるまでの経緯について、教えてください。チームジョイでの日々は本当に楽しかったんですが、仕事をする中で、「自分だったらこういうこともするのにな」とか「将来、独立してみたいな」という気持ちが少しずつ芽生えてもきていました。先ほどもお話しましたけど、チームジョイは社長も自由で面白過ぎて、それを見ているうちに「私にもできるんじゃないか?」みたいな気持ちがわいてくるんですね。そんな中、ロシアによるウクライナ侵攻が始まったんです。正直、それまで世界情勢にものすごい関心を持っていたわけではなかったんですけど、21世紀にもなって大国が他国に侵攻して戦争が始まったということにものすごい衝撃を受けました。自分に何ができるか? と考えた時、ふとウクライナのアニメの存在を思い出したんです。調べてみたら、これまでウクライナのアニメーション映画が日本で劇場公開されたことはなくて、もしそれができれば映画業界としてウクライナ支援ができるんじゃないかと思ったんです。そこでウクライナの制作会社に「お問い合わせフォーム」から連絡してみました。連絡を取って、それこそ、いまどういう状態なのか? というところの話から始まって、スタッフのみなさんがポーランドやイギリス、フランスに散らばりながらも元気にやっているということで、最初は『MAVKA the forest song』という作品を買い付けたいと思ったんですが、まだ完成もしていない状況で、それとは別に『ストールンプリンセス』という作品もあるよという話になったんです。チームジョイでこの作品を配給できないかと思い、社長に相談したんですが、会社の規模的にひとつの作品の公開に全社員を注入するという感じなので、スケジュール的にいま、買ったとしても公開できるのはかなり先になってしまうので、難しいだろうということだったんですね。それをウクライナのスタジオにお伝えしたんですが、ウクライナって実は日本のアニメの人気が高くて、アニメEXPOみたいなものが開かれるくらいで「もし日本でウクライナの映画が公開されたら、これまでのような一方通行ではなく双方向の交流が生まれることになったので、残念だね。明るいニュースを届けたかったんだけど…」ということをおっしゃられたんですね…。それを聞いた時「これは私がやらなきゃ誰がやるんだろう?」という使命感に駆られてしまいまして…(笑)。そこから、会社で製作委員会を組んで配給できないか? など、いろんな方法を検討したんですけど、なかなか難しくて…「じゃあ、辞めようか」って。――そこで会社を辞めてまでやろうと決断できたのはなぜだったんでしょう?そこは本当にいろんな人に相談しました。だいたいみんなに反対されたんですけど、ガイエの元社長で、「映画.com」の編集長をされている駒井(尚文)さんにも話を聞いてもらったら、駒井さんは賛成してくれたんですよ。駒井さんご自身も30代で起業されたんですけど「もし(いまの粉川さんと同じ)20代半ばに戻れるなら、即起業してるよ」って言われました。配給権を買うのは自分のお金を使うつもりだという話をしていたんですけど「もしダメだったとしても、借金を背負うわけではないし、作品の権利も持ってるわけだから、それを持ってどこか別の配給会社に入社してもいいんだし、何とかなるよ。だからそんな不安に思わず、軽い気持ちでやってみな」と。経験やコネがないことが不安だという相談もさせていただいたんですけど「経験は、やっていくうちについてくるし、会社を作って自分で“社長”を名乗れば、相手方も社長クラスが出てくることが多くなるし、コネも向こうからやってくるよ」とおっしゃっていただいて、背中を押されました(笑)。そこでまず、ウクライナのスタジオに「私が買います」と連絡しました。――それから「Elles Films」を設立されたんですね。「会社を作る」となると、こまごまとした事務的な仕事などもあって大変そうなイメージがありますが、いかがでしたか?私、メッチャ雑なんです(苦笑)。正直、ギリでしたね。これ以上、あれこれ細かいことがあったら、無理だったろうなと思います(笑)。とはいえ、昔と違って起業自体はしやすくなってますし、ネットの情報も増えているので、何とかやれましたね。映画公開を実現させた“人との繋がり”――その後、映画の日本公開に向けて、どのような仕事があり、どうやって進めていったのかを教えてください。『ストールンプリンセス』の配給権は自分で買って、会社も設立したんですけど、日本で公開をするとなるとP&A費(プリント代と広告費用)がかかるんですね。広く日本で観ていただくには、吹替版であることはマストだと思ったので、日本語吹替版の制作費用も必要でした。最初は融資を受けることを考えて、計画書を持って銀行を回ったりもしたんですが、なかなか難しく…。そこでクラウドファンディングをすることを決めました。2022年の9月から11月にかけて、約2か月で目標金額は1,700万円だったんですけど、最初の1か月くらいは40万円くらいしか集まらず「これは終わったな…」と思いました(苦笑)。それでも、あきらめきれず、地方も含めていろんな媒体のお問い合わせフォームにニュースとして取り上げてほしいと連絡を入れて、そこから少しずつ取り上げていただけるようになり、最終的に950万円が集まりました。それでも足りなかったので、製作委員会を組むことにして、朝日新聞さん、KADOKAWAさん、ねこじゃらしさん(※『ドライブ・マイ・カー』の製作などにも参加している映画・映像コンテンツ製作会社)、ユナイテッドシネマさんの協力を得られることになりました。当初、1700万円で小規模での公開を考えていたんですが、5社のご協力によって、予算を増やして、日本全国で公開しようということになりました。――劇場公開の見込みが立ったわけですね。それ以外の日本語吹替版の制作についてはどのように進めていったのでしょうか?今回、ありがたかったのは、製作委員会方式を取ってはいるんですけど、日本語吹替のキャストなどに関して、委員会の意向などが入ってくることが全くなくて、こちらから相談したいことがあれば、アドバイスをいただくという形で、すごく自由にやらせてもらえたんですね。なので、日本語吹替版の制作は基本的に私が中心に進めさせていただきました。日本語版を制作する上で、まずは制作会社に当たって見積もりを取ってみたんですが、これがかなり高くて…(苦笑)。そんな時、クラウドファンディングに参加してくださった方で東北新社にお勤めされている方がいて、ある日、ご連絡をいただいて「東北新社で、できる限り値段を抑えて日本語版を制作できます」と言っていただけたんです。打ち合わせに伺うと「こういうやりかたをすれば、予算を抑えられるんじゃないか?」といろいろご提案をいただきまして、本当にありがたかったです。日本語版の台本に関しても、ウクライナの大使館のイベントのブースにクラウドファンディングのチラシを置かせていただいたんですが、それを見た方で翻訳を仕事にされている方が「もし協力できることがあれば」とご連絡をくださったんです。最初「タダでいいです」とおっしゃってくださったんですが、プロの方に仕事としてお願いするわけですから、ささやかではあるんですが報酬はお支払いしたんです。そうしたら、その額をそのままクラウドファンディングに出資してくださって…。キャスティングに関しては、日本語版の制作にあたっては、声優の方だけでなく、いろんな人に参加してもらって、より多くの人に興味を持ってもらえるような作品にしたいと思い、アイドル、芸人さん、YouTuberやVTuberなど、いろいろリサーチしました。東北新社さんからも「この役はこの方はどうでしょう?」などといったご提案をいただいて、進めていきました。――劇場回りのことや宣伝業務はどのように?劇場公開の規模に関しては、私が希望を出した上で、KADOKAWAさんが全国の劇場に営業をしてくださいまして、ユナイテッドシネマをはじめ、全国の劇場で公開されることになりました。宣伝は「紙・電波」と「WEB」でそれぞれ、フリーランスのパブリシスとの方にひとりずつ入っていただいてます。――予告編はどうやって制作されたんですか?予告編は大学時代の同級生にお願いしました。大学時代の友人たちは、制作の現場で働いている人が圧倒的に多いんですね。なので「映画をつくるなら手伝うよ!」と言ってくれる友人は多いんですが、映画完成後の仕事に関しては、残念ながら、あまり手伝ってもらえる人が少なくて…(笑)。そんな中でも、その友人は、テレビや映画の編集を仕事にしていて、助けてもらいました。――いろいろな人のつながりが…。本当に今回、多くの方に助けていただきました。どうしても少人数なので手が回らない部分も多いんですが、映画のポスターやチラシの配布についても、SNSでサポーターを募集して、ご厚意で配っていただいたり。本当にありがたいです。「軽い気持ちで(映画業界に)入ってきちゃえばいい」――ちなみに今後『ストールンプリンセス』以外の新たな作品の展開なども考えられているんでしょうか?めちゃくちゃ考えてます。既に2作目の配給は決まっていて、決して映画制作が盛んとは言えないシンガポールで、日本のコンテンツにも影響を受けたという監督が11年の歳月をかけてつくった映画がありまして、その配給と宣伝の委託を受けています。他にも韓国のアニメーション映画を交渉中で、今後は映画配給を中心に展開しつつ、他のエンタメ事業も色々考えています。銀行の融資を受けようとしたというお話をしましたが、どうしても映画って水モノで波があるものなんですよね。担当の方からは「低くてもいいから、安定した収入があれば…」みたいなことを言われて、その時はすごく腹が立ったんですよ。「それがあれば苦労しないし、そんなこと言う人がいるから映画という文化が…!」って(笑)。でも、冷静に考えたら、本当にその通りなんですよね。映画は好きなので、映画配給は継続的にやっていきたいけど、そのためにも一定の安定した収入がなくてはいけないなと。――最後に映画業界で働くことを志す人たちにメッセージをお願いします。私は映画にそこまで詳しいわけではなく、例えばゴダールをちゃんと見てるかというと全部見てないし、そんな自分に自信がなかったんですよね。でもここまでやってきて、感じたのは、私が楽しければ、きっとみんなも楽しいし、それでいいんだなということなんですよね(笑)。映画ってたくさん見てないと「映画好き」と名乗ってはいけないし、映画業界で生きてはいけないと思う人もいるかもしれませんが、そんなことは決してありませんし、映画だけでなく「エンタメが好き」という人がどんどんこの世界に入ってきてほしいなと思っています。――中途入社されたチームジョイでの仕事も、単に“映画好き”という視点ではできなかったことが多かったでしょうね。本当にそうで、チームジョイって良い意味で「お金好き」の人が集まった会社なんですよね(笑)。普通、そんなことしないでしょ? ってことをどんどんやってるし、「いままで、やったことのない仕事をどんどんやりなさい」という教えをいただきました。とりあえず、軽い気持ちで(映画業界に)入ってきちゃえばいいと思っています。(黒豆直樹)
2023年10月05日韓国ノワールの金字塔ともいえる映画『新しき世界』で主人公を演じ、Netflixのドラマ「イカゲーム」で世界的に知られることとなったイ・ジョンジェ。『スター・ウォーズ』の前日譚シリーズ「The Acolyte」で、ジェダイ・マスターを演じることも決定している。そんな彼が脚本・監督、そして朋友のチョン・ウソンと共同主演を務めた映画『ハント』が日本でも公開となる。「この映画を実現させるのは難しい」と多くの監督や脚本家に断られてもなお、映画を完成させたいと彼を突き動かしたものはなんだったのだろうか。「イカゲーム2」の撮影の中、自分の声で映画の魅力を伝えたいと来日した彼に話を聞いた。映画完成までの経緯と苦労――この作品は元々原案があって、様々な監督の手を渡った後にイ・ジョンジェさんの元にたどり着き、それから4年に渡ってシナリオを書いて完成させたと聞きました。イ・ジョンジェさんを突き動かしたものは何だったんでしょうか?はじまりは本当にシンプルだったんです。これまで多くの作品に出演してきたんですが、一度もスパイ映画に出たことがなかったんですね。だから、一度、スパイ映画をやりたいなと、本当にそんな感じだったんです。それと、チョン・ウソンさんとは、1998年に『太陽はない』という作品に出て以来、共演がなくて、共演したいと思っていました。その後も、ウソンさんと共演したいと思って努力をしていたんですが、なかなかうまくいきませんでした。この映画のシナリオの初稿を見たときに、スパイ映画をやってみたいなと思う気持ちと、ウソンさんと二人、かっこよく映画に出たいなと思ったことが重なって、初稿の段階の原案を購入したんです。――映画が実現化するまでに苦労はありましたか?版権を買ったとき、これは大幅に変更する必要があるなと思いました。そのため、いい作品に仕上げてくださる監督や脚本家の方を探していたんですが、「これは難しそうだ」ということで皆さんに断られました。作業が止まってしまい、時間だけが流れていくので、自分でなんとかしなくてはと思い、シナリオを読んで「ここはこう変えたほうがいいな」と思ったことをノートに箇条書きで書き留めるようになりました。そのノートをもとに、また監督や脚本家に会って、こんな風に作品を作りたいと思いを伝えたんですが、やっぱり一緒にやってくれる監督と脚本家が見つからず、もうそれなら…と自分でシナリオを書いてみようということになったんです。ただ、僕には映画やドラマの撮影もありますし、書いては中断し、撮影が終わったらまた書き始めて…とそんな風にしていたら4年の月日が経っていました。チョン・ウソン演じるジョンドの役割が変化――イ・ジョンジェさんが演じるパク・ピョンホと、チョン・ウソンさんが演じるキム・ジョンドの関係性は、最初に買い付けたシナリオと、実際に出来上がった映画とでは、違っていると聞きました。どのように変化したのでしょうか?初稿ではジョンドの役は小さな役で、ピョンホがワントップの主人公として描かれていたんです。でも僕はウソンさんと一緒にこの映画をやりたいという大前提があったし、ウソンさんを助演にはしたくなかったんです。だからジョンドの役割を大きくするために、ジョンドがどのような人物なのかというヒストリーを強化し、ジョンドが成し遂げようとしているミッションに意味を与え、そのミッションは必ず成功させないといけないものだという名分を強化したんです。その過程でジョンドとピョンホの関係性も変わっていきました。ですから、二人が強烈にぶつかりあう部分もより強力になりました。ぶつかりあった後、ふたりが手を取り合うシーンがより熱いものになるためにもそうする必要がありました。ジョンドの人物像がより鮮明になったことによって、描かれる状況やエピソードも変わっていきました。――さきほど、「ウソンさんと二人、かっこよく映画に出たい」とおっしゃっていましたが、「かっこよく」撮るとはどのようなことだと思われますか?映画全体の中で、一部分のシーンをかっこよく撮ったからといって、映画がかっこよくなるわけではないと思います。シナリオに説得力があって、内容に厚みがあることによって、人物というものが、より際立つと思うんですね。登場人物が観客にとって素敵な人物に映るには、シナリオの段階から、その人の考え、行動などがしっかり練られていなければなりません。その上で、ポイントとなるシーンをひとつひとつ丁寧に撮っていきました。それはビジュアルをかっこよく撮るということではなく、その人の感情が最大限よく見えるように撮るということで、そのことによって、人物が素敵な人として観客に届くと思うんですね。だから僕は、登場人物の心理状態が観客に完璧に伝わるように撮ることが、上手い撮り方だと思いましたし、俳優を素敵に見せる撮り方だと思いました。絵コンテは689枚「最初から最後までは、僕が初めて」――イ・ジョンジェさんがシナリオを大切にしているということは映画を観ていて伝わりました。そのシナリオを書いている間、誰かに読んでもらって助言をもらうことはありましたか?シナリオを書いている最中、感想を聞くために読んでもらったことがあったんですが、読んでくれた方によって、意見がまったく違いました。なので、その感想から映画に役立てるということはなかったのですが、映画を撮影することが決まった後、スタッフ同士でたくさん話し合いをしまして、それが役に立ちました。映画を撮影する前に、監督はコンテを書きますが、僕はコンテを書く専門の方と一緒に、このカットはこういうアングルで…ということをお伝えして、全689枚の絵コンテを書きました。そのコンテをもとに、撮影監督、照明監督、アクション監督なども交えてスタッフ会議を重ねました。その話し合いをしたとき、「この部分は観客に伝わりにくいかもしれないんじゃないか」といった意見が出てきて、それを元に修正していきました。なので、シナリオの段階で意見を聞くというよりも、スタッフの会議の中で意見を交わしながら作っていきました。――通常、絵コンテというものは、そこまで緻密に準備するものなのでしょうか?僕の場合は、689枚の絵コンテを準備するのに3か月かかりました。全部書き終えてスタッフに見せたら、とても喜んでくれたんです。それでビールでも飲みに行こうと誘われました。撮影監督は、韓国でたくさんの映画を担当している人なんですが、その彼が、「最初のカットから最後のカットまで全部、事前にコンテを描いてきた監督は初めてだよ」と言っていました。通常は、撮影する前に、ある程度の絵コンテを準備して、「これはどうですか?」と確認して、OKが出れば次にいくものなんですけど、最初から最後まで全部書いてきたのは、僕が初めてだということでした。――そのエピソードをお聞きすると、イ・ジョンジェさんはタフであり、また緻密に映画に取り組まれたんだなと思ったのですが、普段からそのような部分があるのでしょうか?僕もここまで自分が緻密にものごとに取り組む人間だとは思っていませんでした。今回は、責任感からそうなったんだと思います。すべてのスタッフが監督の決定を待っている。その決定が遅れてはいけないと思ったんです。そして、その決定が正しいものでないといけないという責任感によって、頑張れたんじゃないかと思います。チョン・ウソンとカンヌへ「最も尊い記憶に」――映画が完成して、カンヌ国際映画祭に行かれたときは、チョン・ウソンさんが隣にいたことが心強かったというようなことを言われていました。映画の撮影でも、やはりウソンさんがいたことで心強かったと思われたことはありましたか?一番親しい友人が傍にいるだけで、それは本当にうれしいことですよね。僕の監督デビュー作で、いい映画を一緒に作ってみようと意気投合できただけでもうれしかったし、僕もベストを尽くしました。その結果、カンヌ国際映画祭に一緒にいけるなんて、本当にうれしかったです。映画にかかわる人間として、カンヌに二人で肩を並べて行くということは、本当に簡単なことではないと知っていますから…。これまで僕が映画の仕事をしてきた中で、最も尊い記憶になったんじゃないかと思います。――監督第一作を見て、次も撮ってほしいと期待してしまうのですが、イ・ジョンジェさんはどうお考えですか?今はまだ実際に撮るという計画はありません。でも、以前から書いてみたいと思っているストーリーがありまして、今、書いているところなんです。シナリオを書いているだけなので、まだどうなるかは未知数なんですけどね。(text:西森路代/photo:You Ishii)
2023年09月29日イギリスの最長寿SFドラマ「ドクター・フー」に出演した国民的スター、ビリー・パイパーと、エミー賞受賞のHBO人気ドラマ「メディア王 ~華麗なる一族~」などを手がけてきたルーシー・プレブルがタッグを組んだドラマ「超サイテーなスージーの日常」のシーズン1&シーズン2<字幕版>が「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて独占配信中。シーズン1では、この2人が肌で感じたエンタメ業界で働く女性のジレンマや経験を盛り込み、シーズン2ではメンタルヘルスの問題にも切り込んだリアルなドラマを構築。女性の本音や欲求、固定観念に対する不満、性差別などを率直に、かつ辛辣なユーモアをまぶしながら描き、“ただのコメディではない深みを感じさせる作品”として、英・Skyや米・HBO Maxで大ヒット。シーズン1が批評サイト「Rotten Tomatoes」で95%フレッシュを記録したことに続き、キャリアも家庭も失った主人公スージー・ピクルスがダンス・リアリティ番組に出演して起死回生を目指したシーズン2は100%フレッシュという高評価を獲得。ビリー・パイパーはシーズン1、2続けて英国アカデミー賞(BAFTA)主演女優賞にノミネートされた。ルーシー・プレブル photo credit: William Kennedyこの度、ビリーとともに本作を手がけた共同クリエイター、ルーシーのインタビューが到着。シーズン2をどんな思いで作りあげたのか語っている。Q:前回のスージー・ピクルスから、状況はどのように変化しましたか?ルーシー・プレブル(以下、R.P):「超サイテーなスージーの日常2」は、前作の終わりから数か月後に始まります。人生を投げ出したスージー・ピクルス(ビリー・パイパー)は、姉の家に身を寄せ、世間の目から逃れようとしていて、離婚を乗り越え、キャリアを立て直す方法を見つけ出そうとしています。スージーの女性としての経験はテレビのタレント・コンテストから始まりました。そしていま、彼女は自分がよく知っていて理解している世界に戻ることを決意します。「ダンス・クレイジー」という国民的人気を誇るダンス番組です。セレブたちがテレビで大衆の愛を競い合います。いまこそ彼女はステージに立ち、本当の自分を世界に示そうとするのです。Q:シーズン1の反響は、今回の脚本に反映されましたか?R.P:(反響の大きさは)かなり奇妙で強烈で、おかしな感じでした。愛と同じくらいヘイトも期待していましたし、自分が特別な存在だと思えば思うほど、人々は自分自身を受け入れるようになるということを学びました。これは驚くべきことです。また、悲しいことに、本当に人々の心を動かし向上させる脚本とは、ページ上に血がにじむような脚本なのです。自分自身の向き合いたくもない、隠しておきたいような部分をさらけ出し、解剖するようなもの。それは非常に疲弊する作業ですが、それこそが真実です。そして、これほど多くの番組があるいま、あえて一般的ではない番組を作ることを楽しんでいました。その意図は、見慣れた番組を作るのではなく、TVというメディアを使って、人生とは本当はどんなものかを思い出させ、お決まりの展開の裏に隠されたものを探らせることでした。Q:今回はどのようにストーリーを進めたのですか?R.P:3話にわたって、スージーがダンス・コンペティションに出場し、彼女の私生活がどのようにダンス大会と絡み合い、影響を与えていくのかが描かれます。クリスマスに3夜にわたって放送されるBBCの時代物ような、大きなコンセプチュアルなアイデアなんです。あなたが歴史劇を観たくないときに観る番組ですね。親と一緒に見る番組ではありません。前シリーズは、エピソードごとに異なる感情を持つというコンセプトでした。でも今回は序盤、中盤、そして終盤の3幕構成になっています。Q:クリスマスを舞台にすることで、何が生まれるのでしょうか?R.P:クリスマスは、喜びと同じくらい苦痛と騒乱に満ちた魅力的な時期です。特に女性は、この時期に多くのプレッシャーと混乱を感じると思います。 感情的に高まる時期です。このシリーズは両極端で、相反するものをテーマにしています。ステージ上のきらびやかさと舞台裏のたたずまい。1年で最も素晴らしい時期であり、人々が離婚を決意しやすい時期でもあります。多くの芸術作品には、クリスマスは魔法のように、甘くて、気取ったものとして見せなければならないというプレッシャーがあるようですが、それが悪夢になることもあります。この作品は、クリスマスの華やかさと激情を描いた楽しい作品であり、1年で最も素晴らしい時期に、ある種の“仮面”を保ち続けなければならないと感じているすべての人にとって、かなりのカタルシスを感じられると思います。Q:ビリーの演技はどのように進化したのでしょうか?R.P:ビリーは国宝級の並外れた俳優だと思います。もちろん、あのダンスをすべて自分でこなすというすごいことを含めて。トレーニング、パフォーマンス、演技、そして振付師として、また編集者として、そして彼女はエグゼクティブ・プロデューサーとして、すべてのことに携わっています。印象的だったのは、このキャラクターが関心を集めたいわけではなく、どれほど一生懸命なのかということです。初めてラッシュ(編集前の映像)を観たとき、この作品が持つ怒りに驚きました。Q:今シーズンのスージーの軌跡は、実話に触発されたのでしょうか?R.P:もちろんそうです。ブリトニー・スピアーズやアンバー・ハードがビリーに近いとみんな言いますが、ビリーはこうしたことを理解できる素晴らしい役者です。出発点はもっと政治的で文化的なものです。Q:テレビ界の内輪ネタになりすぎないように気をつけなければいけませんでしたか?視聴者は舞台裏を見るのが好きだと思いますか?R.P:そういうことはあまり考えていませんでした。「メディア王 ~華麗なる一族~」の脚本と製作総指揮から学んだことですが、この業界の裏側について忠実であればあるほど、より多くのリサーチを行えば行うほど、視聴者はそれを感じ取り、信頼し、傾倒していく。一般的で分かりやすい視点から書こうとすればすぐに、見下されていると感じ取るのです。これらの番組を見ている人たちは、仕事を持っていて、これらの世界が本当はどんなものかを知っています。それが正直に描かれているのを見ると、ホッとすると思います。※以下、シーズン2の内容に触れている表現があります。Q:スージーが妊娠中絶をするシーンは、動揺を感じさせると同時に、現実のように感じられます。女性の権利に対する現在進行形の攻撃に照らして、このシーンを見せることはどれほど重要だったのでしょうか?R.P:中絶をスクリーンで一度も見たことがないなんて、どうかしています。もちろん、様々な形で中絶が取り上げられてはいますが、多くの場合、東欧の圧政や、ヴィクトリア朝時代の路地裏の体験など、悲惨な視点から取り上げられることが多いものでした。まるでそれが、いまではまったく起こってないかのように。実際にはほとんどの中絶には正当な理由があって、女性たちが見届けるなかで現実的で管理的な方法で行われています。女性たちは、子宮外妊娠という医学的理由から、妊娠を継続することが受け入れられないという理由まで、中絶が必要になる事情がたくさんあることを知っています。妊娠を継続できるかどうかは、生殖に関する一般的な文化的理解とはまるで異なる毎月の“現実”があります。毎月の出血にはむらがあるんです。ときには、それが受精卵であることさえわからない場合もあるのです。妊娠、流産や中絶を理解するための会話は、特にアメリカ合衆国では、不愉快なほどに狭視野で家父長的で、女性蔑視の無知で恐ろしい恥ずべきものとなっています。(本作のスージーのような)中絶の経験の真実味のある思慮深い表現は貴重なのです。Q:エンディングは、多くの人にとってショックかもしれないですね。特に、クリスマス・スペシャルであることを期待すると、この結末は、多くの人にとって衝撃的かもしれません。R.P:この結末は、ビリーと私の話し合いから生まれました。ここ数年、女性に関する衝撃的で受け入れがたい現実がありました。私たちは、それを正直に表現しないまま番組を終わらせたくはなかったのです。体裁よく整えられた結末が正しいとは思えません。私は自分の悲劇にうんざりしています。女性にまつわる悲劇が、男性にまつわる悲劇よりも低く評価されることにうんざりしています。私が書いたものは怒りに満ちたものなのに、面倒くさいものと言われることにもうんざりしているんです。もうこれ以上、笑顔を振りまいてなんていられないんです。Q:シーズン2の見どころは?R.P:カオスでした。カオスです。カオスを見てほしいです!<海外ドラマ「超サイテーなスージーの日常 シーズン1」(全8話)><海外ドラマ「超サイテーなスージーの日常 シーズン2」(全3話)>【配信】スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-<字幕版>独占配信中<吹替版>シーズン1:全話配信中、シーズン2:10月2日(月)より全話配信開始【放送】BS10スターチャンネル【STAR1字幕版】10月10日(火)より放送開始 毎週火曜23時ほか【STAR3吹替版】10月12日(木)より毎週木曜22時ほか▼シーズン1(全8話)再放送【STAR1字幕版】9月26日(火)&10月3日(火)23時より4話ずつ放送 ※第1話は無料放送【STAR3吹替版】10月5日(木)22時より全話一挙放送(シネマカフェ編集部)
2023年09月28日2000年代にワインブームを日本で再燃させた伝説的漫画「神の雫」が、国際連続ドラマのHuluオリジナル「神の雫/Drops of God」として、9月15日(金)よりHuluで独占配信される。原作の主人公・神咲雫をフランス人女性カミーユに置き換えるという大胆なアレンジがなされた本ドラマでは、もうひとりの主人公・一流ワイン評論家の遠峰一青との、カミーユの父の遺産をかけたワインバトルが華やかに展開される。フランス、日本、イタリアと国を横断して描かれる国際ドラマならではのスケール感が、独特な世界観に没入させてくれる。そして、要となる遠峰一青を演じるのが山下智久だ。これまでいくつもの国内外の作品に携わった山下さんだが、海外ドラマでは初主演を飾ることになった。2021年8月にフランスでクランクインし、その後、各国へ渡りながら約10か月に及ぶ撮影を実施した山下さんは、充実の表情でインタビューに応えてくれた。人気の高い原作の実写映像化へ臨むための高い意識からはじまり、役を深めるための手段、さらにガストロノミー(美食学)の世界を描いた本作にかけ、山下さんの最近の「美食」事情まで、多面的にいまの山下さんを見つめる。国際色豊かな現場「本当にいいチーム」――国内外で人気の高い「神の雫」を国際連続ドラマ化し、山下さんは海外ドラマ初主演となりました。オファーがきたときは、どのような気持ちになりましたか?うれしかった部分もありますし、実写化するときは原作のファンの方がたくさんいらっしゃるので、そういう意味ではプレッシャーと緊張感もすごくありました。ただ、ドラマの脚本を読んだとき「これは漫画『神の雫』のDNAを持った別の作品だ」と理解したんです。そこからは原作へのリスペクトは忘れないようにしつつも、脚本の世界観に忠実に掘り下げていこう、と意識が向くようになりました。――国際色豊かな現場は、多言語が飛び交うような感じでしたか?現場はすごく和気あいあいとしていましたね。監督はイスラエルの方ですけど英語はほぼネイティブに近い感じなので、基本は英語でやりとりしていました。監督からは、演技についてがっつり指導をされる感じではなく、「今、一青はこういう状況でこういう感じだと思うんだけど、それでやってみてもらっていいかな?」という感じで進めていっていました。脚本家の方も何人かいらっしゃって、本当に皆さん、毎日練りに練って考えに考えて真剣に取り組んでいる熱があるんです。それがどんどんこっちにも伝わってきて。だからこそ、ぎりぎりまでセリフが変わる現場でもありました。一青が生きていた感じがすごくありましたし、新鮮な環境だったので、僕もとにかく楽しもうと思ってやっていましたね。監督もすべての時間をここに費やしてくださっていたし、本当にいいチームでした。――ワインがもうひとりの主人公とも言えるストーリーですが、山下さんは本作きっかけでお好きになったとか?そうなんです。作品がきっかけで勉強して好きになりました。いろいろなワインをピンからキリまでちゃんと飲んでおかないと、と思ったので、もう…いくら使ったんだろう、って感じです(笑)。――コストのかかる役作りでもあったんですね(笑)。飲んでみて発見はありましたか?ありがたいことに、ものすごく高いワインも飲ませてもらったりしたんです。もともとは「高い=おいしくて当たり前」という気持ちがあったんですけど、作り手さんの気持ちや思いを感じながら飲むと、より深みが出るものだとわかりました。一方で、安くてもめちゃくちゃおいしいワインもいっぱいあるんですよね。自分の好みは、飲んでいくうちにわかっていったので、その感覚はちょっとアートに近いかなと思いました。アートも見ていくうちに自分の好みが見えてくるじゃないですか。その背景も含めてロマンや哲学があったりするので、大人の趣味にはいいかもしれない、という発見もありましたね。アクティングコーチは「自分ひとりで考えるよりも幅が広がる」――ワインの知識を深めていくこと以外で、役作りでされたことはありましたか?一青のライバルとなるカミーユは、人並み外れた味覚や嗅覚があるという特殊な能力を持っているんです。なので、監督と「一青は味覚、嗅覚を最大限研ぎ澄ますことをするべきだよ」という話になりました。痩せると飢餓状態になるから、味や香りにすごい敏感になるんですよね。だから、カロリーをほぼ摂らないようにして、めちゃくちゃ痩せました。何事もやるとなったらいろいろなものが見えなくなって、やりすぎてしまうタイプなので死にそうになりましたけど(笑)。命がけでした。あとは今回、役を深めるために、アメリカ人のアクティングコーチの方に指導をお願いしました。――アクティングコーチとは、どのような役割なんですか?簡単に説明すると、役者に演技指導を行う専門家です。台本を送って、そのシーンをコーチに解析してもらう、という形なんです。コーチの視点で「この部分はこういった心情だから、ちょっとこんな雰囲気でやってみて」と提案をしてもらえるです。例えば、「“愛している”という言葉を“殺したい”という気持ちで言ってみて」とか。自分の演技の幅をすごく広げてくれる存在なんです。チューニングしていく過程は、やっていてすごく面白かったですね。――アクティングコーチをつけるのは、今回が初めてで?同じくHuluオリジナル「THE HEAD」をやったときに、現場にアクティングコーチが来てくれていました。それが初めての経験でした。自分ひとりで考えるよりも幅が広がるから、大事なことだなと思います。――日本だと、まだあまり浸透していない文化でもありますよね。そうかもしれません。日本にもおそらくアクティングコーチはいらっしゃるとは思うんですけど、まだあまり定着していない感じですよね。僕がまだ出会えていないだけかもしれないけど…。演技の広がり、深みが出てくると思うので、すごくいい文化だと思っています。ライバルに年齢は関係なし「勝手に闘志を燃やしています」――カミーユと遠峰はライバルに当たりますが、山下さんにとって“ライバル”に当たる存在はいますか?ライバルは、その都度、その都度やっぱりいっぱいいます。ライバル的な存在がいると、自分がより強くなるとは思います。「負けないぞ」という気持ちはすごい大事だと思うんです。ライバルがいてくれるのは、ある意味すごく幸せなことだなと思いますね。――どんなときに「ライバルかも」と相手を意識するんですか?昔は年代が近い、同年代の人をライバルというふうに思うことが多かったかな。けど、今は年齢は関係ないです。自分がなりたいと思っている存在に近いようなことをしている人に対しては、まだまだ全然追いつけていないという気持ちで、勝手に闘志を燃やしています。――ライバルに奮起することもそうですし、ほかにも山下さんがご自身でステップアップを実感するために意識していることは何でしょう?自分を高めていくこと、自分の感覚をグローバルスタンダードに持っていくのは、すごく大事だと思っています。自分の知識や経験が増えたりすると、波長が合う人が変わってくるじゃないですか。そうやってどんどん高め合っていく作業が、たぶん一番近道なのかなと思います。日本の方でも、海外の方でも、一流の人たちの話を見たり、聞いたり、読んだりして、自分の感覚値を上げていく作業をしています。やっぱり内を広げていかないといけないな、とすごく感じているんですよね。これまで外に外に意識が向いていたんだけど、今はどちらかと言うと自分の内の質量を、どんどん大きくしていきたいなと思っています。――最後に、最近の山下さんについてもいくつか教えてください。カミーユは父との「ふたりだけの場所」を持っていましたが、山下さんにとっての特別な場所、落ち着けるような場所はどこになりますか?僕は海が好きですね。海は定期的に見に行きたくなるんです。国内でも海外でも、どこというわけじゃないんですけど。やっぱり広がりとあの音を聴いたり感じたりすると、すごい心が楽になるから。ヒーリング効果があるのかなあと思いますね。直近だと、近いのでお台場近辺の海を見ました。――ありがとうございます。本作の世界観・ガストロノミー(美食学)にかけて、最近、山下さんが感じた「美食」エピソードを知りたいです。ええー、何だろうな?この間、コンサートで名古屋に行って、ひつまぶしを食べたらすごくおいしかった(笑)。――食はツアーの楽しみでもありますよね。ちなみに、自作の美食レシピもありますか?美食というほどでもないし、最近全然やっていないですけど好きなレシピはあります!鶏ひき肉と玉ねぎを塩コショウで炒めて、それをご飯の上にのっけて、卵かけごはんにするというやつ。玉ねぎと一緒に炒めるとくさりにくいですし、冷蔵庫に入れておくと食べたいときに食べられるのでいいですよ。たんぱく質もしっかり摂れるし、安いし、簡単だし、お気に入りのレシピです。(text:赤山恭子/photo:You Ishii)
2023年09月12日【音楽通信】第145回目に登場するのは、ダンサー史上初めて日本武道館単独ダンスライブ公演を即日完売させた、結成15周年の世界的ダンスパフォーマンスグループ、s**t kingz(シットキングス)!ダンスに出会った4人が「s**t kingz」になる写真左から、NOPPO、shoji、kazuki、Oguri。【音楽通信】vol.145アメリカ最大のダンスコンテスト「BODY ROCK」で、2010年と2011年に連続優勝した、世界が注目するダンスパフォーマンスグループ、通称「シッキン」ことs**t kingzのみなさん。世界各国からオファーが殺到し、これまで20か国以上を訪問したほか、三浦大知さん、BLACKPINK、BE:FIRSTなど国内外のアーティストの振付楽曲はなんと400曲以上という引っ張りだこのコレオグラファーとしても知られるなど、国内外から絶大な支持を得ています。日本ダンス界のパイオニアとして、常に表現者として挑み続けるs**t kingzが、2023年9月8日に“見るダンス映像アルバム”の2作目となる『踊救急箱(オドキュウキュウバコ)』をリリースされるということで、みなさんにお話をうかがいました。――まずおひとりずつ、ダンスを始めたきっかけとともに自己紹介からお願いします。OguriOguriです。小学校の頃、安室奈美恵さんやSPEED、DA PUMPといった歌って踊るアーティストの人気が高く、僕も好きになって振り付けのまねをしていました。ただ、そこからダンスに踏み出すには、身近にダンスをやっている人もいない時代だったこともあり、そのままになっていたんです。高校1年生の時に、小学校のときにはなかったインターネットが出てきて、そこでダンスを習いたくて検索してみたら、近くにスタジオがあることがわかり、行ったらどハマり。ダンスには、出会うべくして出会いました。影響を受けたダンサーはいっぱいいますが、しいて言うならs**t kingz結成のきっかけにもなったショーン・エバリストというアメリカのダンサーのダンスは当時、ものすごく新鮮で「こういうダンスしたい」という目標でしたね。shoji僕は大学からダンスを始めて、誰かに憧れるというよりは、踊れることそのものに憧れていました。さまざまなクラブなどにダンサーを見に行ったり、少しずつネットでいろいろなダンサーを検索したり、発見するとワクワクして。当初はとにかく僕も「踊れるようになりたいな」という気持ちだけで、ダンスを始めました。shoji/s**t kingzのリーダー。類まれなる発想力と実行力はダンス界だけでなく、多くの業界関係者に影響大。俳優「持田将史」として2020年にTBS日曜劇場『半沢直樹』、NHK連続テレビ小説『エール』に出演。――なぜそんなに踊れるようになりたいと思われたのでしょうか。shojiそもそも音楽が好きなんですが、当時はまわりもそんなにダンスをやってきたことがない世代で、みんなで手探りで練習すること自体が、すごく楽しかったんですよね。お互いに刺激しあって、練習して、みんなで頑張ってできるようになろうという環境そのものがすごくワクワクしたんです。NOPPOダンスも、入りやすいヒップホップやジャズでもなく、レゲエから始めたんでしょう?振り切り方がすごい(笑)。shojiそうだね(笑)。当時少しずつレゲエがクラブでもかかり始めていて、レゲエだけのイベントも開かれるようになって、その盛り上がり始める流れに入って開拓している感じも楽しかったというか。日本の中でまだ完成しきっていない世界に入っていく感じがあったかもしれないね。kazuki僕は兄もダンサーなんですが、兄が小学生の頃にダンスをやりたいと言い出したことが、ダンスをするようになったきっかけです。地元が神奈川県にある湘南の田舎町で、近くにダンススタジオがなく、両親が隣町ぐらいまで踊れる人を探して、公民館でダンスのクラスのようなものを兄のために開いたんですよね。みんな踊れないんですが、最低5人はいないとクラスを開けないので、親と兄と兄の友達といった具合に人を集めて、身内だけでレッスンしているのを見ていました。僕も踊りたかったんですが、年齢制限があったので入れなくて。その間、ダンスしたい気持ちがどんどん大きくなって、その後参加できるようになってからは、兄のまねをしてダンスを始めました。みんなで踊ることが楽しくて、毎週レッスンの日は楽しかったです。kazuki/幼少の時期から才能を発揮、ジャンルの垣根を超えたダンススタイルに定評あり。群を抜く振付力・演出力でK-POPアーティストや木村拓哉、Nissyなどの大規模ライブの演出を数々担当。――お兄さん以外にkazukiさんが影響を受けたダンサーの方はいるのでしょうか。kazuki小中学生の頃はまだYouTubeもなかった時代なので、テレビで芸能人が踊っている姿ぐらいしか見る機会はなくて、東京のダンス状況も知りませんでしたね。ただ、ダンスをするようになってNOPPOと出会った頃ぐらいからは、ダンサーっていっぱいいるんだなとわかったときがあって。僕は湘南の中でも田舎町に住んでいるというお話をしましたが、NOPPOは湘南の中でも都会のほうに住んでいて(笑)。その都会のダンススタジオ主催のコンテストに僕は仲間と出て、NOPPOはそのスタジオのレッスン生としてコンテストにも出ていて、いろんな世界があるんだなと子どもながらに思って、それからはNOPPOと同じスタジオに通うようになりました。NOPPO僕は妹が先に家の近くのダンススクールでダンスを始めて、僕もやってみようかなと、小学校からダンスを始めました。当時はスタジオというものがなく、公民館を借りてレッスンをしていたんですが、習うというよりも遊ぶ感覚でしたね。ダンス以外の時間も友達と一緒にいると楽しくて、ずっと続けていました。その公民館で教えてくれていたダンスの先生はパワフルかつ社交的で、どんどんそのスクールは大きくなっていって、先ほどお話していたようにあとからkazukiが入ってきたり、いろいろなジャンルの先生に出会えたり、ダンスの大会でアメリカへ行ったりとさまざまな経験をさせてもらいました。その先生はいまもダンスをやっていて、湘南では有名なダンススタジオの設立者になって、BE:FIRSTのSOTAもそのダンススタジオ出身です。その設立者の先生のパワーのおかげで、僕も何も考えることなくダンスに夢中になれましたね。NOPPO/恵まれた長身、静と動を兼ね備えた緩急のあるダンススタイルで国内外のファンも多い。俳優「増田昇太」として、Eテレ『天才てれびくん Hello,』に得意のパントマイムで敵役として出演。――みなさんそれぞれの志のもと、kazukiさんがショーン・エバリストのような作品を作るユニットをやろうと2007年に「s**t kingz」を結成されて、今年結成15周年を迎えられました。この15年でとくに印象に残っている出来事はありますか。shojiなんだろうな、いっぱいあるよね?kazukiそうだね、難しいね。Oguriやっぱり海外での活動は、一番印象的ですね。まさか自分たちが海外でも活動するようになるとは結成当初は思っていなかったんですが、アメリカや憧れていたダンススタジオでワークショップをしたり、しかも憧れていた先生がそれを受けに来たり。シッキンのみんなで見ていたYouTube動画のダンスレッスンを受けに行ったら、そこでショーに誘われて一緒にショーに出演したこともあって、これまで信じられないことばかりの海外活動でした。shoji本当、海外は行ってみないとわからないことだらけだったね。Oguri/ロック、ジャズ、バレエ、タップなど幅広いジャンルをカバー。スキルだけでなく、見るものを惹きつけるグルーヴが魅力のダンサー。表現力を活かした演劇の舞台でも俳優「小栗基裕」として活躍中。Oguriあとは10年前に自分たちの舞台を初めて公演したことが、すごくシッキンとしての在り方を大きく変えた、印象に残った出来事です。ダンサーがダンスイベントにただ出演するだけではなく、自分たちで公演を企画して、舞台で自分たちだけの作品をやるということが、すごく大きな活動となりました。――では、15周年を迎えた率直なお気持ちは?shoji実は15年経ったという感覚はまったくないんです。気づいたら15年経っていて、いろいろなことを毎日やっていると、たとえば最初の5周年なんていっさい気づいていなくて(笑)。かろうじて10周年は写真を撮ってイベントもやったんですが、そのぐらいの感じです。ただ、節目があると、あらためて自分たちの活動を振り返ることができるのはうれしいこと。今年は15周年の終わりに武道館公演も決まって、きっと思い出に残るものになって、あとでこの公演があったからこそとまた思える日が来るんだろうなと思うと、いまからもう楽しみです。アニバーサリーだからさらに応援したいと思ってくださる方もいらっしゃるので、そういう意味でもすごく15周年はうれしいですね。ただ、メンバーで「もう15年やってるよね」という話をすることは一度もないです(笑)。NOPPOそう、今度の休みはいつかな? ぐらいしか話していないかも(笑)。ライブがもっと華やかになるための最新作――2023年9月8日にリリースされる『踊救急箱』を作ろうと思った理由はなんでしょうか。kazuki昨年は舞台をやっていたんですが、舞台で披露するための新曲をたくさん用意して挑んでいて。その都度、ライブではやりたいパフォーマンスが変わってくるので、ライブがもっと華やかになるように多彩なパフォーマスができる曲たちを作ろうという話から“見るダンス映像アルバム”の2作目を作ろうということになりました。shojiライブに向けての作品ですね。――収録曲の「No End feat.三浦大知」は、10月に開催されるs**t kingz 日本武道館単独ライブ「THE s**t」のテーマ曲で、3年ぶりの三浦大知さんとのコラボ曲ですね。Oguri大知とはずっと一緒に曲を作りたいと思っていたんです。大知とシッキンの付き合いは10年以上で、まわりの方は「盟友」と言ってくださるんですが、一緒に走り抜けてきて、年齢も近くて。今回、シッキンにとって特別なタイミングでコラボできたのは、僕たちにとっても非常に大きなことです。「これからまだまだ行くぞ!」というようにさらに先を見た攻めた楽曲ができて、それもシッキンや三浦大知らしい。どこでも満足できない、「もっと」と刺激を求める姿勢がそのまま曲に表れているので、すごく好きな曲。毎回、パフォーマンスをするときも気合が入ります。――映像では、闘志が燃えているようなマグマの間から、シッキンのみなさんが降臨するカッコいい作品ですね。Oguriこれまでの世界をぶち壊して、さらに新しい世界を作ってやる、という壊す力と生み出す力が共存した世界を表現しています。少し退廃的ながらエネルギーにあふれている熱量をダンスに、映像に落とし込みました。――アルバムに収録された新曲は、メンバー4人それぞれがプロデュースされている楽曲です。まずOguriさんがプロデュースされた「Bright feat.渡辺大知」は、バラードで、おひとりずつ衣装も設定も違って踊るというよりもお芝居されているような印象の新鮮な映像ですね。Oguriそうなんです。いままでやっていないような楽曲を映像にしたいと思って作りました。小さい頃からバンドサウンドやフォーキーなサウンドにグッとくることがあって、たとえばウルフルズのような世界観も好きで、ボーカルは強いよりはいい意味で弱さや情けなさや愛らしさがあるボーカルがいいなと思ったときに、渡辺大知さんがすごくいいなと。以前、渡辺さんが出演された舞台を拝見したとき、歌声に聴き惚れて、自分の楽曲を作る機会があれば歌ってほしいと声をかけさせていただきました。負けをテーマにしている楽曲なんですが、負けている人はすごく魅力的。負けたことを全面で受け止められる人がすごくかっこいいから、そういうキャラクターのある映像にしたいと考えて、曲や映像のテーマを渡辺さんとたくさん話し合って、完成しました。――kazukさんがプロデュースされた「KID feat. LEO(ALI)」はどのようなことを意識して作りましたか。kazukiこの曲は「ライブで一番輝く曲にしたい」と思って作りました。そもそもライブで映えるためには、どうしても僕らを照明で照らさなくてはいけないですよね。暗がりの中で歌っていても響くけれど、ダンスは視覚的なものなので、暗がりの中で踊っても見えなかったら意味がないシーンが多いから、どうしても照明のパターンが似たり寄ったりになることが腑に落ちない部分も。そのバリエーションの少なさを払拭するためにも、そしてお客さんとダンス以外でシンプルに盛り上がれる楽しい曲を作りたいと“タオルをまわす楽曲”として、作っていって。LEOさんとは面識がなかったんですが、魂で歌っているような歌声やパフォーマンスがかっこいいとSNSで知っていて、今回オファーをするとすぐOKの返事をいただきました。1度目に仕上げてくれた楽曲があったのですが、説明が足りなくてもう1度となって、僕の抽象的な説明にもすごく理解をしてくれて、この楽曲ができました。それからさらにブラッシュアップして、最終的にはイメージしていた通りの楽曲になっています。大事なサビのパフォーマンスでは、いっさい踊らずにタオルをまわしているだけで、それ以外のパートもタオルを使ってうまくダンスできないかと思って作ったので、ライブで披露することが楽しみですね。――shojiさんがプロデュースされた「Get on the floor feat.MaL, ACHARU & Dread MC」はどのような点を意識して作られましたか。shoji今回、ライブを見据えて作ったアルバムでありながら、一番ライブを見据えていない楽曲を作ったのが僕なんですけど(笑)。昔、クラブでシッキンが踊るときは、出番が5分といった短い時間だったので、その5分で体力を使い切るような作品をずっと踊っていた時期がありました。でも、最近そこまで激しい曲はなかったかもとふと思い、あらためて「5分で体力を使い切るような踊りを作ろう」と思って作ったのが「Get on the floor」なので、みんながライブで踊りたくないと言っています(笑)。Oguri・kazuki・noppo笑。shoji約2時間あるライブのどこにこの曲を入れれば、みんなが最後までステージに立っていられるんだろうと心配になるぐらい、激しい曲ができました。もともとアフリカの音楽が好きなので、大好きなリズムに乗って、こうして体力を使い切る曲ができて、僕は大満足です(笑)。――ではライブでどこにこの曲が入るのか楽しみにしています(笑)。shojiはい、最後まで全員が立っていられたら奇跡だと思って、みなさん見届けていただけたらうれしいです。――NOPPOさんがプロデュースされた「Live like you’re dancing feat.ZIN」はいかがでしょうか。NOPPOこれもライブを見据えて作った楽曲で、この曲を聴いてきてくださるみなさんもカラダが揺れてしまうような楽曲にしました。当初、実はZINくんともうひとりボーカルを依頼する方を悩んでいて、最終的にOguriにも相談して「ZINくんのほうが低音とファルセットの高音の感じがすごく色気があって、高低差も素敵でいいのでは」と言ってくれたことが決め手になりました。ZINくんにお願いさせていただくと、こころよく受けていただいて。ZINくんはシッキンのことも知ってくれていて、この曲のミーティングをしたその3時間後には、もう歌入りの曲を仮ですぐ出してくれました。――はやいですね!NOPPOそう(笑)、そのスピード感もかっこよくて、ほぼ仮と変わらないぐらいの楽曲が完成しました。ZINくんは天才肌で、思いを音楽に作り上げる精度の高さを感じています。映像は、ソロで全部プロデュースできる曲であれば、普段は僕らができないようなチャレンジをひとつ入れたくて、鏡を使うような手のかかるものを入れてみたり。もともと物を使いながら踊るのも好きだったので、パントマイムみたいなものも入れてみたりと、チャレンジした楽曲でもあります。ダンスの新しい楽しさを発見し続けたい――9月8日からは、全国7都市をまわる『s**t kingz Dance Live Tour 2023「踊ピポ」」ツアーを行い、10月25日には『s**t kingz Dance Live in 日本武道館「THE s**t」』公演が開催されます。Oguri「踊ピポ」は“とにかく楽しい”を掲げてやり通したいです。日本武道館公演では、15年間僕らが積み上げたものを一度、全部吐き出す場所。未来はいろいろなことが待ち受けているけれど、次に進むためにもこの武道館という特別な場所で、s**t kingzと僕らを応援してくれているみんなと全部を出し切って、次に進めたらいいなと思っています。shoji最近s**t kingzを知ってくださった方も多いなか、まだ僕らのライブへ来たことがない方もたくさんいらっしゃるんですよ。この間『音楽の日』というイベントのテレビ出演をさせていただいたことをきっかけに、s**t kingzを知って「踊ピポ」のライブチケットを買ったという方とかもいらっしゃるようで、すごくうれしくて。そういう初めてライブに来る方々にとっても最高の入り口になる、ダンスのいろんな楽しみ方が味わえる場所が「踊ピポ」なので、気楽に遊びに来てほしいですね。日本武道館は“祭り”。最高の“打ち上げ花火”をぶちかましていきたいです!kazuki「踊ピポ」は久しぶりの生バンドを引き連れての全国ツアーで、アルバム『踊救急箱』が出るタイミングなので、この曲たちを中心にいろいろな演出を広げていきたいなと。そして多くの方が知っているような曲はやるつもりですし、期待を裏切らない内容なので、楽しみに来てほしいですね。武道館公演は……(しばらく悩んでから)打ち上げ花火です(笑)!Oguri・shoji・noppo笑。NOPPO「踊ピポ」は3人と同じ気持ちですし(笑)、僕らのダンスをみんなに知ってもらえるツアーになりますし、みんなでカラダを動かして踊って楽しむライブになります。武道館は……打ち上げ花火(笑)!――では最後に、リーダーのshojiさんから「s**t kingz」の今後の抱負を教えてください。shojiきっと今度は20周年を迎えたときには、まったく違うことをしていたら楽しいだろうなと思っていて。もちろんダンスを軸に活動をすることは変わりませんが、いままでも舞台をやったり、10周年で初めて生バンドを引き連れてビルボードでライブをやったり、15周年は日本武道館の単独公演だったり。節目ごとにいろいろな挑戦をしてきましたが、次に20周年となったときには「s**t kingzはこんなこともやってるんだな」と感じてもらえるように、常に形を変えながら、ダンスの新しい楽しさを発見し続けていけるグループでいたいと思っています。取材後記日本のダンス界を牽引してきた、世界が注目するダンスパフォーマンスグループのs**t kingzのみなさん。撮影する際、少し動きのある写真も撮りたいんですと相談すると、「いいですよ!」と快く引き受けてくださり、いろいろなポーズをとってくださったカットも。笑顔でインタビューに応えてくださるときは穏やかに、ひとたびポーズをとればビシッとカッコよくキメてくださる瞬発力と大人の魅力に脱帽です。そんなs**t kingzのニューアルバムをみなさんも、ぜひチェックしてみてくださいね。写真・園山友基 取材、文・かわむらあみりs**t kingzPROFILEshoji、kazuki、NOPPO、Oguriの4人からなる、世界が注目するダンスパフォーマンスグループ、s**t kingz。オリジナルの舞台公演は毎回大好評で、2018年秋の第4作目となる「The Library」では、全国7都市、全30公演を実施。2020年6月には初のオンラインライブを成功させ、世界12の国と地域からの視聴で話題となる。2021年1月には、ダンサー発としては異例の全曲オリジナル楽曲で作り上げる「見るダンス映像アルバム」となる『FLYING FIRST PENGUIN』(Blu-ray)を発売、歌唱しないダンスアーティストとしてテレビ朝日「MUSIC STATION」に出演した。2023年9月8日に“見るダンス映像アルバム”の2作目となる『踊救急箱』をリリース。9月8日から全国7都市をまわる『s**t kingz Dance Live Tour 2023「踊ピポ」」ツアー、10月25日は『s**t kingz Dance Live in 日本武道館「THE s**t」』公演を開催。InformationNew Release『踊救急箱』(収録曲)1.「えがお! feat.PES」2.「TRASH TALK feat.Novel Core」3.「衝動DO feat.在日ファンク」4.「Get on the floor feat. MaL,ACHARU & DREAD MC」shojiプロデュース5.「KID feat.LEO(ALI)」kazukiプロデュース6.「Bright feat.渡辺大知」Oguriプロデュース7.「Live like you’re dancing feat.ZIN」NOPPOプロデュース8.「心躍らせて feat.上野大樹」9.「No End feat.三浦大知」2023年9月8日発売(通常盤)GTCG-0787(Blu-ray)¥6,050(税込)発売・販売元:アミューズ【内容】Blu-ray収録曲(本編9曲+特典映像)、歌詞カード【特典映像】120分を超える豪華内容を収録1/1.5年分のシッキン密着映像2/ディレクターズカット版ダンス映像(完全数量限定盤)GTCG-0786(Blu-ray)¥16,500(税込)発売・販売元:アミューズ*豪華BOX仕様。【内容】1.Blu-ray(本編9曲+特典映像)※通常盤と同じ2.歌詞カード3.フォトブック(36P)4.オリジナルカセットプレイヤー5.カセットテープ(A面:踊救急箱メガリミックス/B面:シッキンベストメガリミックス)6.オリジナルアイマスク7.ポストカード(5枚)8.オリジナルカレンダー(2024年1月〜12月)9.オリジナルBOX【特典映像】120分を超える豪華内容を収録1/1.5年分のシッキン密着映像2/ディレクターズカット版ダンス映像写真・園山友基 取材、文・かわむらあみり
2023年09月02日「映画、芸術、メディアを通して女性を勇気づける」をスローガンに掲げる非営利映画製作会社「We Do It Together(WDIT)」が企画制作したアンソロジー映画『私たちの声』。多様化が叫ばれながらも、今もジェンダーギャップに苦しみ、社会の中で孤立してしまいがちな女性たちを支え、応援するストーリーが、世界各国の女性監督、女性俳優たちによって7つの短編映画として集結した。日本からは「国際映画祭で評価されている女性監督」「主演は日本で5本の指に入る女優」として、呉美保監督と杏の二人に白羽の矢が。日本版ストーリー『私の一週間』では、2人の子供を抱え、育児に家事に、お弁当屋の経営にと超多忙なシングルマザーの一週間が淡々と描かれている。そこにこそ、日本の女性たちが抱える大きな問題があり、なかなか社会に届かない「声」があると考え、リアリティ溢れるごく普通の日常を通して丁寧に現代をあぶり出した呉監督と主演の杏さん。日本代表として本作を世界に届けた二人に、本作の魅力について聞いた。淡々と描かれているからこそドラマチック――監督、今回「私たちの声」に参加されようと思った理由を教えてください。呉監督:最初にお話をいただいた当時、下の子が0歳だったんです。そんなときに映画なんて作れるのかなと思いました。でも、ジェンダーギャップというテーマを聞いた時に、「今、映画なんて撮れるのか」と思っていること自体が、まさにジェンダーギャップなんだと気づいて。上の子は5歳(現在8歳)で、つまり5年間も長編映画を撮っていなかったんです。今頑張って作らなくて、私はいつ頑張るんだと思いましたね。――杏さんへ。一週間の日々が繰り返される中で、頑張りつつも、日を追うごとに徐々に疲弊して行く母親の様子が、強く心に訴えてきました。杏:あれは、子を育てる者が毎日行っている作業であり、どれだけ疲れていてもどれだけ調子が悪くても、仕事が忙しくても必ずやらなければいけない最低限の行為。もっと手厚くやっている方もいっぱいいると思います。そんな様子を淡々と作業として映像で積み上げていくと、現実を描けるのかなと思いました。――確かに力強いリアリティがありました。杏さん演じるシングルマザーと子供たちの日々が積み上げられていくなかで、助けがない親たちが直面している苦労、言葉にならない戦いのようなものが凄く感じられました。杏:今回、問題提起とか、「大変なんだよね」「どうにかしてよ」とか、そういうことは強調しないようにしようと、最初に監督と話をしました。それを言ってもねっていうところもあるし、淡々と描かれているからこそ私はこの作品をドラマチックに感じました。ですから、この物語の受け取り方はきっと見た人それぞれ、引っ掛かるところが違うのではないかとも思います。そういう余白がある作品。短編の中で1週間を描ききったということも本当に素晴らしいと感じます。――監督も、杏さんも、母親ですが、主人公にはどんな言葉をかけてあげたいですか。杏:お疲れ、ですね。頑張れは言えないですし、休んでと言ってもしょうがない。休むのも難しいですしね。呉監督:本当にそう、お疲れ、ですね。ほんのささやかな言葉をもらうだけでいい。子供に「ママいつもありがとうね」とたまに言われるんです。別にそんなに深く考えて言っていないと思いますが、それだけでも報われる感じありますね」コロナ禍を経て再び他者を認め合う時代へ――このアンソロジー映画では、ジェンダーギャップをテーマにしていますが、全7作品とも共通して、理解者とか手を差し伸べる存在の重要性も描いていますね。呉監督:いろいろな国で、女性たちが今置かれている状況、抱えている問題を知ることができるので、すごく大事な、そして必要な映画だと感じました。それこそジェンダー問題だけじゃない。多様性という意味で、もっともっと世の中が開けていくといいなと思っています。新型コロナウィルスの蔓延をテーマにした作品もありましたが、世界各国がコロナで閉鎖的になったこともありました。そこでもう一度、自分を見つめ直せたからこそ、みんなが再び他者を認め合おうとしている。この映画からはそれを強く感じました。杏:各作品それぞれ、女性キャラクターをはじめ、登場人物の多くがどこかしら閉塞感を抱えています。そこに風穴が開いて、差し込んできた光が心地いいなとか、ちょっと救われるという展開が、どの国の作品にも含まれていますよね。それぞれの国には、異なる事情や違った背景があるとは思う。それでも、同じ光のようなものを感じられた気がしました。――「WDIT」の主旨についてはどう思われますか?杏:寄り添うことの大切さや難しさが、今、注目されていますよね。 核家族化していたり、ネットワークの発達によりコミュニケーションの形が変わってきたり。SNSのように以前は無かったツールが生まれて、これまでとは違ったコミュニケーションの感覚も生まれている。そんな時代だからこそできることはあると思います。「We Do It Together」のように。変わるチャンス、変えられるチャンスがやってきていると感じます。こういった意義のあるメッセージ性を持つ作品に参加できたのはとても嬉しいです。呉監督:少し前に、#MeToo運動がありましたよね。声を上げる、共鳴することのひとつの代名詞になっています。「WDIT」も、一緒に頑張ろうというひとつの大きな共通認識。声を上げるのはとても勇気がいることで、特に日本人、ましてや著名人が「私もです」と言うのは難しい。周囲に忖度してしまう瞬間もあると思うんです。でも、個人の権利や、日本を始め世界に対してどういう社会になって欲しいかという希望、どういう人が増えてほしいかという未来を考えて、ちゃんと声を上げるのはすごく大事。そこを素直に言える社会にどんどんなって欲しい。本作もそのきっかけになると嬉しいですね。――#MeToo運動は、告発や告白を主としたものでしたが、WDITはここから一緒に新たな世界を創り出そう、前に進んでいこうという次の段階。前向きなムーブメントですね。杏:最近、母親としてインタビューを受けることもあるのですが、そういう立場で話をするときには、「がんばらない」とは声高に言いますね。それこそ家事と育児と仕事なんて、WDIT。つまり、もう皆でやっていかなくては本来成り立たないものだったのだと思います。今は何とかやっていても、それが本来のあるべき姿や自然なことではないかもしれない。もちろん、いろいろな形があるし、人によって理想も価値観も違いますが。だからこそ、「私、大変なの」と言う人に、「もっと大変な人もいるよ」と言うのではなく、その声をちゃんと受け止めることも大切だと思うんです。私は、取材だとつい取り繕う部分もある。でも、家庭について語るときは、肩肘を張りすぎず、「実は…」というところは積極的に、素直に出していきたい。それも、WDITに繋がるのではないかと思っています。――最後にお2人が目指したい共生社会、それを目指すにあたりどうあったらいいなという希望はありますか?呉監督:私は子供を産まなければ気づかなかったことが多く、この映画にもそういったことをいっぱい描きました。子育てについて言えば、保育士さんや学校の先生たちにすごく助けられて来ましたが、同時に、日本の子供教育に関わる人に対する待遇や評価の低さを強く感じています。良い先生なのに辞めていく人も多いんです。もっと高待遇だったら、続けてくれていたかもしれないのに。今、気になることと言えば、そういった社会の未来に大きく関わる教育問題ですね。杏:日本では、他者の介在がとても難しい気がしています。困っている人に他人が手を差し伸べにくいというか。二つの国で暮らしをしていると、違う国の違うやり方を知ることができます。ならば、二つのいいとこ取りをしていきたいと思っています。情報が発達したこの世界では、同じ事柄に対して極論も見えやすくなるし、良いアイディアもあまり良くない考えも見えてきたりする。だからこそ、古今東西の違う文化や昔のいいところ、これから起こる未来のいいところを選べる状況にもなってきている。それなら、いろいろな国の良い部分を取って行くという考えもありだと思うんです。習慣や文化にとらわれすぎず、少しでもみんなが意識して自分の手で自分のやり方を選びやすい社会になったらいいと思います。(text:June Makiguchi/photo:Jumpei Yamada)■関連作品:私たちの声 2023年秋、新宿ピカデリーほか 全国ロードショー©2022 ILBE SpA. All Rights Reserved.
2023年09月01日