■恐怖のママ友お茶会は順番制!?
幼稚園に着くと、カオルさんたちが待ち構えていた。場所は一番初めにお茶会をやったママさんのところになったらしい。
「ペンキ塗り、終わったからまたみんなをお招きできます」
彼女は引きつり笑いでそう言った。
道すがら、カオルさんが何か思い出したような顔をしながら、私とマキちゃんに向かって言い出した。
「ねえ、1回もあんたたちの家に行ったことないんだけど、いつなら行かせてくれるの?」
私とマキちゃんは顔を見合わせる。
「うち、実は官舎に住んでるんです。ちょっと古い建物で、とてもじゃないけど人をお招きできるようなところじゃなくて……」
「へー。官舎ってことは旦那さん公務員なんだー。
佐々木さん、しっかりしてそうだもんね。で、あんたは?」
話を振られて私はしどろもどろになりながら社宅であることを伝えた。
「そっかー。なかなか厳しいんだね、悪かったよ」
私とマキちゃんは、顔を見合わせた――。
その日のお茶会はお昼で解散になり、マキちゃんがそっと私に耳打ちした。
「これから、私の家に来ない?」
■前に進み始めるママ友。私の手放した糸の先は…
招きに応じてマキちゃんの家に行くと、マキちゃんは私に手作りクッキーとオーガニックの紅茶を出して、それぞれの味の感想を求めた。
「このクッキー美味しい! もしかして、野菜スイーツ?」
「その通り。
じつは、野菜スイーツを作り出したのには理由があるのね」
マキちゃんの告白はとても衝撃的だった。
ひまりちゃんの偏食にずいぶん悩まされてきて、時に手を上げたくなるほどつらかったこと。もともと料理は好きだったけど、ひまりちゃんに食べてもらいたくて一から勉強しなおしたこと。その過程で本当に子どもにとってふさわしいご飯やおやつを作りたくなったこと。管理栄養士になろうと思ったけれど、国家試験に通ってもなかなか就労が厳しい現実を知ったので、それならいっそ自分で店を開いてみたいと思うようになったこと。
「だからね、今年の夏休みは間借りカフェに挑戦しようと思うんだ。じつはもう、借りる店も決まってるの」
そう言うマキちゃんの笑顔は晴れやかで、どこか一本、芯が通っている感じがした。
(はぁ……私、最近なにやってるんだろう)
夜、窓の外を見ながらなんとも言えないやるせない感覚に見舞われる。
服作りを諦めて一般企業に就職を決めたときから、私は現実だけを見て生きていこうと決めた。あのころ、夢なんて見なくてもいいと平静を装っていたけれど、いまのイナガキ君やマキちゃんを見ていると、夢や目標がどれだけ人にとって必要なものなのか思い知らされる。
イナガキ君がデザインした商品を目の前にするたびに甘酸っぱい気持ちとともに、もうひとつ隠し続けている想いが心の奥底でうごめくような気がするのだ…。
手放した糸の先には確かに大きな夢がついていた。
そして…またLINEの通知音が鳴る。
ため息をつきながら見ると、イナガキ君からだった。
『急だけど、明日ちょっと付き合ってくれない? 11時30分に○△ホテルでどうかな?』
……え? いきなりどうしたんだろう? そしてホテル?
イラスト・
ぺぷり
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