前回からのあらすじ
同級生だったイナガキとのランチで言われた「人の顔色を見ている」という言葉に戸惑う友里。幼稚園のお迎えではクラス委員長の上田から話しかけられるが、その内容とは…
「ママだから」に縛られていた。彼の一言に女としての自分を思い出す…
●登場人物●
立花友里:都会で就職し結婚したが、夫・亮の転勤で地元の街に戻ってくる
亮:友里の夫。友里から告白してつきあうように。息子の悠斗を妊娠して以来、夜の生活がない
イナガキ:友里の幼なじみ。小学校~高校まで一緒だった。現在は人気デザイナー。
上田:悠斗と同じ幼稚園に通うママで、うさぎ組のクラス委員長
カオル:悠斗と同じ幼稚園に通うママ友で、友里を配下に置こうと考えてる
■ママ友はスルーできるもの…?
悠斗の幼稚園でクラス委員長を務める上田さん。いつだって平等にみんなと接していて、でも特別仲の良いママ友を作っているようにも見えない。
一匹狼のようで、カッコ良いけど、なぜだか近づきづらかった。そんな彼女が、私のために時間を割き、何かを伝えようとしてくれているというのはわかった。
「だって、立花さん、“困ってる”って顔してる。気がついてた? 朝だってそんな顔してたのよ」
「はい……」
「もし、自分の居心地の良いグループや人間関係であるならいいけれど、そうではないならうまくかわしたほうが振り回されないんじゃない? 他人の言葉って、スルーってこともできるものなのよ」
あまりにストレートな問いかけに、私は答えに窮してしまう。
上田さんは、園の扉を開けながらさらに言った。
「立花さんって、仕事上の命令系統にある上司の言うことより、頼りになると信じてる人や発言力の強い人の言うことを聞いてしまうタイプなのかもしれないわね」
私はハッとしてその場に立ち止まり、息子を引き取る上田さんの背中を見つめた…。
*
じつは、亮くんの転勤が決まったとき、上司から私も一緒に配属にならないか掛け合ってあげると打診された。その話は本当にありがたくて、仲良くしていた女の先輩につい話してしまったのだけど、先輩から返ってきた答えは意外なものだった。
「そんなの、言ってみただけだってわからない? 周りみてごらんよ。うまくいったって人どれだけいると思ってるの?」
先輩の言うとおりだった。
夫婦で一緒に転勤するのはあまり例がなく、たいてい女性のほうが退職してしまうパターンが多かった。仕事では、上司のやり方よりも先輩のやり方のほうが効率がよかったのもあって、仕事の相談は先輩にするほうが多かったし、亮くんとの恋愛相談にも乗ってもらうこともあった。
結局、退職することを決めて先輩に報告したとき、先輩の顔がわずかに歪んだ気がした。
年齢があがってくるにつれて、自分の思いどおりに事を運ばせようと考える人は多くなる気がする。もしかしたら最初は本当に親切だったはずのことも、少しずつ気持ちは変化してしまうものだ。そんな当たり前のことに、私はずっと気がついてなかった…。
■突然、夫が私をソファに押し倒した…
とはいえ、人はそうすぐに変われない。
翌朝もその翌朝も、そのまた翌週もカオルさんの言うことを聞いては落ち込み、グループLINEに一喜一憂する日々が続いた。
だけど、少しずつそこに違和感を覚え、このままではいけないという思いも芽生え始めていた。
そんななか――。
ある日の夜、あまりに気分が沈んでいた私はお風呂上がりにイナガキくんからもらった香水をつけてみようと思いたち、私は箱から香水の瓶を取り出した。
(これで、少しは気分が上がるといいな)
そう思ってつけた瞬間……。
ガラッと洗面所の扉が開いて、そこには、かなりお酒の入った亮くんが立っていた。
「あ、おかえり……どうしたの?」
亮くんの目は据わり気味で、私が手にしている瓶をじっと見ている。
「これなんだよ! どういうこと?」
「これは、友だちにもらったやつで……」
そう言うなり、私は亮くんに瓶を持ってる手首を掴まれる。
「なにいまさら色気づいてんだよ!!」
あ! と思ったときには香水の瓶は床に落ち、濃い香水の香りが立ちのぼった…。
亮くんは私をリビングまで連れていくと、そのままソファに押し倒した。
「ちょ、ちょっと……亮くんってば……やめて、やめてよ……」