「会議の資料は、まだですよね?こっちの方が先に頼んだんですけど」
いつの間にか私のデスクの傍に、雪村さんが立っていた。
顔は笑っているけど、目から放たれる敵意がひしひしと伝わる。
「あれはまだ日にちに余裕があるから、急ぎの方を優先したの」
「そういうのは聞いてないですけど。勝手に優先順位を決めないでください」
「……分かった。今日中にするから」
そう答えた私に雪村さんは、小さく舌打ちをして。
「目障りな女」と、呟いた。
『それで残業? 別に急ぎの仕事でもないんでしょ?』
「でも、言ったからにはやらないと。私の気が済まない」
『しおちゃんらしいなぁ』
電話の向こうで、大和の笑い声が聞こえる。
今朝、実家から送られてきた果物のおすそ分けをするとメールしたところ、今になって折り返しの電話がきたのだ。
『それにしても、その雪村さんって人。しおちゃんに相当な対抗心を燃やしてるね』
「本当……意味分かんない」
『ま、相手にしないことだね』
「分かってるけど、ストレスたまる」
こっちはなるべく気にしないようにしているのに。
思わず、「はぁ」と溜息が漏れた瞬間、大和が『そうだ!』と声を張った。