くらし情報『【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)』

【連載小説】理想じゃない恋のはじめ方。(第5話)

「会議の資料は、まだですよね?こっちの方が先に頼んだんですけど」

いつの間にか私のデスクの傍に、雪村さんが立っていた。

顔は笑っているけど、目から放たれる敵意がひしひしと伝わる。

「あれはまだ日にちに余裕があるから、急ぎの方を優先したの」

「そういうのは聞いてないですけど。勝手に優先順位を決めないでください」

「……分かった。今日中にするから」

そう答えた私に雪村さんは、小さく舌打ちをして。

「目障りな女」と、呟いた。

『それで残業? 別に急ぎの仕事でもないんでしょ?』

「でも、言ったからにはやらないと。私の気が済まない」

『しおちゃんらしいなぁ』

電話の向こうで、大和の笑い声が聞こえる。


今朝、実家から送られてきた果物のおすそ分けをするとメールしたところ、今になって折り返しの電話がきたのだ。

『それにしても、その雪村さんって人。しおちゃんに相当な対抗心を燃やしてるね』

「本当……意味分かんない」

『ま、相手にしないことだね』

「分かってるけど、ストレスたまる」

こっちはなるべく気にしないようにしているのに。

思わず、「はぁ」と溜息が漏れた瞬間、大和が『そうだ!』と声を張った。

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