そう思った瞬間、スマホが振動した。大和かと思いきや、相手は母。
「お母さん悪いけど、後にしてくれる?」
『汐里、実はね…』
「これから出張なの。向こうに着いたら電話するから。じゃぁね」
お母さんの話は基本的に長いから、外で聞いてたら充電が無くなってしまう。
電話を切って、ふぅと息を吐くと、ルームミラー越しに運転手さんと目が合った。
「もうすぐ、イルミネーションの季節ですね」
「そうですね」
「楽しみだなぁ。毎年、娘と一緒に見に行くんです」
運転手さんが微笑む。
その嬉しそうな顔を見て、先日、大和と話したことを思い出した。
『今年のイルミネーション、一緒に見に行こう』
『イルミネーションかぁ、混雑するから嫌』
『そんなこと言わずに、行こうよ』
『気が向いたらね』
どうしてあの時、素直に行くって言わなかったのだろう?どうしてもっとちゃんと約束しなかったの?このまま、大和に会えなくなったらどうしよう?もう大和が笑いかけてくれなくなったら、どうしよう?
――大和がいない人生なんて、想像しただけで耐えられない。そのことに今、気が付いた。
東京駅に着いて新幹線の改札口に向かう途中で、新実さんを見つけた。