【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
お陰で綾香の両親に会わずに済みました」
「良かったです」
綾香の親は、とても過保護なんだと彼女から聞いたことがある。だから綾香を心配して、旦那を注意しに来たのだろう。いい年をして親にチクる綾香もどうかと思うけど、親も親だ。だけど、いつだって味方になってくれる親がいて羨ましい。私の母なんて……。
「何かありましたか?」
突然、伊野さんがそう尋ねた。
「え?」
「今日はとても浮かない顔をしていますよ」
「いえ、特には……」
「話してください。いつも僕の話を聞いてもらっているんだから聞きますよ」
「伊野さんの話を聞くために会ってるんだから、私のことはいいんです」
「よくありません」
真剣な瞳に見つめられて、心がざわつく。
誰かに愚痴りたい、聞いて欲しい、そんな心の声を読まれたような気がした。
「僕の相談は今度にして、今日は藤川さんの話をしてください」
「でも、」
「じゃぁ、こうしましょう」
伊野さんはそう言って、店員さんを呼んだ。
「今日はとことん飲みませんか? そうすれば話しやすいし、僕も聞きやすい。そして何より……」
「何より?」
「明日になったら2人とも覚えていない」