【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
フッと、思わず吹き出してしまった。伊野さんってやっぱり面白い人だなぁ。お酒の力もあり、私は母とのことを伊野さんに話した。お金の無心をされることや、この前、喧嘩した時に言われたこと。それから話は子供時代のことまで遡る。
「母はシングルマザーだったんですけど、いわゆる恋多き女性で常に彼氏がいました」
「そうですか」
伊野さんは優しく相槌を打ってくれる。
「でも長続きしないんです。いつも最後は男に裏切られて捨てられて、その度に泣いてヒステリーを起こして」
「親のそんな姿を見るのは辛いですね」
「はい……。
だから、私は本気で人を好きになったりしない、恋人は作らないと決めました。母のようにはなりたくないので」
「お母さんと同じようになるとは限りませんよ」
そうかもしれない。だけど……、
「本当は怖いんです。きっと私は恋愛に向いていない」
「ずっと傷ついたままなんですね」
「傷……?」
「藤川さんは傷つけられたんですよ、お母さんを通して、お母さんを捨てた男たちに」
「そんな自覚は全然……」
「自覚がないから傷を癒すことなく大人になってしまったんでしょう」
ふと、伊野さんの手が私の手に触れた。