【連載小説】この恋は幸せになれない?好きになってしまったのは、奥さんのいる人。
あんたを育てるのに私がどれだけ苦労したか」
「またその話?」
昔っから、何かというと自分の苦労話。そんなに大変だったなら、施設の前に捨ててくれれば良かったのに。
「育ててもらった恩を忘れて口答えするんじゃないよ」
「いい加減にしてよ! 恩を売るために、私を産んで育てたの!?」
「その通りだよ、悪い?じゃなきゃ子供なんて邪魔なだけだよ!」
売り言葉に買い言葉。母の本心でないことは分かっていても傷つく。いや、もはや本心なのかもしれない。こんな人でも親は親だと耐えてきたけど、もう限界かも……。
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この人に癒されたい
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「すみません、遅くなりました」
カフェバーで待ち合わせをしていた伊野さんは、私の顔を見るなり頭を下げた。
「大丈夫ですよ」
「相談のお願いをした側が遅れるなんて、申し訳ない」
律儀な人だなぁ。
尚も申し訳なさそうにする伊野さんに座るよう促し、メニューを渡す。彼は私が飲んでいるものを聞いた後、「同じものを」と、注文した。ほどなくして、ブラッディー・マリーが運ばれてくる。
「先日は助かりました。