2018年11月22日 16:00
藤城清治さん 放射線の防護服に身を包んで描く「命の影絵」
影絵作家の藤城清治さん(94)といえば、瞳の大きな“こびと”や愛らしい動物たちが登場する影絵でおなじみ。誰もが『暮しの手帖』の連載やカレンダーなどで目にしたことのある国民的アーチストである。画業80年を超える今も、毎年のように展覧会を行い、東日本大震災には自ら被災地にも足を運んで作品を発表するなど、創作の第一線での活動が続いている。
放射線の線量計が鳴り続けるなか、防護服に身を固めながらデッサンを続ける藤城さん。鬼気迫る姿は、国民的に親しまれた、メルヘンチックな作風とは遠いように映るだろう。体験しているからこそ、戦争などをモチーフにするのはつらかったというが、年を重ねた今は違う。
「どの時代も生きてきたこと自体を素晴らしいと思う。50~80代と経たからこそ戦争や災害もテーマにできる」
藤城さんが、サイン会のために広島を訪れたのは80歳の夏。
朝目覚めてホテルの窓を開けると、眼前に原爆ドームがあった。
「心震える思いがして、すぐにデッサンに出ました。周囲を回るうちに雨が降りだして、消しゴムも使えない状況でしたが、どんどん引き込まれていったんです。それまで、僕の画風では原爆ドームを描いても自分らしさは出せないと思ったし、戦争の遺産を前にしても、かつて海軍を志願した自分自身の体験もあるから、つらさのほうが大きかった。